オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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5-5 俺にできる事できない事

「響ちゃんッ!!!」

 

 吹っ飛ばされている途中、吹雪の悲痛な叫び声が聞こえて、今にも意識を失いそうな俺は、何とか気を保つことができた。

 体は未だに戦場から遠ざかっていて、完全に止まったのは3回ほど水の上を跳ねて、もみくちゃに水面を転がった後だった。

 

「気持ち悪ぃ…」

 

 激しく転がったせいか、三半規管を激しく揺さぶられた様でまともに立つ事が出来ない。

 それでも、俺は前に戻ろうと震える足腰に力を入れて立ち上がった。

 すると吹雪が血相を掻いて俺の方へやって来た。

 

「響ちゃん、大丈夫!?」

「…ん、まだ動ける。そんな事より吹雪、俺はいいから早く戻れ!まだ終わってねえ!」

「良くないよっ!響ちゃんボロボロなんだよ!?どうしてそんなこと言うの!?」

 

 吹雪の表情は今にも泣きそうだった。

 吹雪だけじゃない。前にいる金剛も加賀さんも瑞鶴も、そして大井までもこちらを目を丸くして見ている。

 俺は確かにボロボロだった。

 艤装からは煙が噴き出ているし、片足は沈む。けど、それが何だってんだ。

 俺はまだ動けるし沈んでいない、それだけで戦場に戻るのには十分なはずだ。

 なのに、なんで俺は可哀想な目で見られる?

 俺が弱いからか?砲撃食らって吹っ飛んだから?艤装のほとんどが使えなくなったからか?

 

「……ふざけんなよ」

 

 気づけば声が出ていた。

 俺のぼつりと吐いた言葉に、近くに居た吹雪が目を見開いてブルリと震える。

 けど俺は吹雪の事なんか気にも留めないで次の瞬間には大きく叫んでいた。

 

「ふざけるな!!俺は見世物じゃねぇッ!!俺に目ぇ向ける暇があるなら敵に目を向けやがれッ!!大体なんでこんな時まで自分勝手したり喧嘩したりするんだよ!?お前らいったい何のために戦ってんだよ!?」

 

 俺は横で支えようとする吹雪の手を拒絶して進む。

 

「俺達よ、いつか来る平和の為に戦ってるんじゃないのか!!なのに、どうしてお前らは仲間の上に立つ事しか考えてねえんだよ!?」

 

 その速度はとても遅く、更にはバランスが取り難くフラフラする。

 それでも俺は進む。

 

「分かってんのか?お前らがグダグダやってる内に、もしかしたらその相手が居なくなるかも知れねえんだぞ!?そうしたら上に立つどころか喧嘩することもできなくなるんだぞ!?」

 

 俺は一度失いかけた。

 分かった事は、グダグダしてると本当に大事な物が簡単に無くなってしまうという事だ。

 

「戦えッ!!俺じゃあ戦艦を倒せないんだよッ!!俺は囮にしかなれねえんだよッ!!お前らは戦艦なんて倒せるのになんで何もしねえんだよッ!!なんで、誰かの為にできる事があるのにお前らはそんなに自分勝手なんだよッ!!俺はもうっ…目の前で誰かが倒れるのを見たくないんだッ……!!だから――――」

 

 俺は駆逐艦の中では最も強い。

 それは俺の自慢だったし、強かったからこそ護衛艦を続けられたと思ってる。

 とはいえ駆逐艦だ。

 どんなに強くてもたかが知れてる。

 逆立ちしたって戦艦には勝てないし、今この時だって俺は特に役に立っていない。

 けどそれが何だってんだ。

 戦艦に勝てる奴は俺以外にいる。なら俺はそれを少しでも手助けできれば良いと、そう思った。だからこそ――――

 

「分かったら、俺に力を貸せェェッ!!!」

 

 俺にできるのは他力本願だった。

 もうずいぶん前に、俺は戦艦や空母を倒す事を諦めた。

 結局、駆逐艦が敵艦を倒すというのは割に合っていないのだ。

 俺が砲撃を一隻に2発3発と当てている間に、赤城は2隻3隻と沈めていく。

 そこには艦種の差というのがはっきり出ていて、当時の俺は主人公の様になんて思ってた事もあり、そんな当たり前の現実に投げやりになってしまったりした。

 そんな時、赤城が俺に言ったのだ。「響さんのお蔭で安心して戦える」と。

 その時分かった事は、俺は他の艦より劣っていても決して無力ではないと理解した事か。

 

 だから俺は自分の弱さをさらけ出して、当たり前の様に叫んだ。

 俺は弱いから、誰か俺の代わりに倒してくれと。

 ただ、俺は全部任せる気は無かった。俺にだってまだやれる事はある。

 そう思って前に進もうとすると、俺の肩を吹雪が後ろから掴む。

 

「離せ吹雪、まだ終わってない。敵艦は倒せないかもしれないけど、俺はまだ戦える」

「…嫌だ」

 

 吹雪の返事を聞いた俺は、掴んでいる手を振りほどこうと腕を払うと、バランスを崩し片膝を水面につけてしまった。

 どうやら、あの一撃で体力が根こそぎ持ってかれたらしい。

 そんな俺を見て、吹雪は俺を立たしてくれた後に消えそうな声で言った。

 

「響ちゃん、そんな状態で前に出ても皆の足を引っ張るだけだよ」

 

 吹雪の一言に俺はイラッとした。

 けど何も言えなかった。

 たった一動作、それだけでへたり込んでしまうくらいには俺は疲れていた。

 足を引っ張る…か。その一言が悔しくてたまらない。

 今さっき、あれだけの啖呵を切ったのに、その本人が何もしないなんて情けないにも程がある。

 

「響ちゃん――――」

 

 けど、そんな俺に吹雪は――――

 

「私にだってできる事があるよ。私が囮になる。私が――私が響ちゃんの代わりになる。だから響ちゃんはそこで少し休んでて!!」

「……あっ、おい!!」

 

 さっきまでオロオロとしていた吹雪がそんな事を言うとは思わなくて、俺は一瞬、吹雪が何を言ったのか分からなかった。

 そして吹雪はそれだけ言うと俺の返事を聞かずに飛び出して行ってしまう。

 ふとル級を見れば、ル級は騒がしさに誘われる様に、瑞鶴から俺、そして吹雪へと標準を変えていたようだった。

 

「吹雪ッ!!くるぞッ!!」

「…え?」

 

 このままだと当たる。そう感じた俺は、それを吹雪に教える為に声を張り上げた。

 そこで吹雪はル級が狙っている事に気づいたらしく、急いで右に旋回を始める。

 一呼吸置いてル級の砲撃が発砲され、さっきまで吹雪が居た水面に砲弾が着水した。

 

「きゃあっ!!」

 

 その衝撃に、吹雪は驚いて転んでしまう。

 そして、転んだ吹雪に止めを刺す様に主砲を向けるル級。

 

「あ」

 

 その声は俺の声だったか吹雪の声だったか定かではないが、先の悲惨な未来を予想したにしては随分と感情のこもっていない声だった。

 この時俺は忘れていたが、その未来は吹雪と俺しかいないのに対し、この場には俺達以外にも艦娘が居る。

 

「――ふふんっAll Set(準備完了)!!Burning(バーニング)――――Love(ラブ)!!」

 

 ル級が吹雪に砲身を向けるよりも先に、金剛がル級に向けていた砲身が激しい轟音と共に火を噴いた。

 いや、それだけじゃない。

 気づけば無数の艦載機が空を舞って、主力の居なくなった敵艦隊に追い打ちをかける様に爆撃を仕掛けている。

 加賀さん達の方を見れば、二人は言い合っている様に見えたが、その手には今まさに放とうとしている矢が握られていた。

 戦艦と正規空母の波状攻撃。その光景は爆撃の雨でも降らせているかの様に強烈だった。

 それでも全滅とまでいかなかった様で、燃え盛る炎と水面の狭間から唯一生き残ったであろう駆逐ハ級が、まるでかたき討ちだと言わんばかりに加賀さん達の方へと飛び出した。

 だがそんなハ級も、加賀さん達に近づく間もなく突如として巻き起こる、空母にも戦艦の攻撃にも劣らない爆発に揉まれて姿を消した。

 その後、隠す気もない不満げな表情で大井が、加賀さんと消えていったハ級の間に割って入った。

 

「チッ…なんで私がゴミ掃除なんか……ちょっと空母の先輩方、まだ残りが居たんですけど」

「それは私じゃないわ。五航戦の子なんかと一緒にしないで」

「何よそれっ!?私の艦載機が一航戦の艦載機に負けるはず無いじゃない!!」

 

 敵を倒し終わった後に変わらぬように言い合う艦隊のメンバーを見て俺は何を思えばいいのだろう……。

 ……瞬殺だ。俺が敵にやられてからすぐに戦いが終わった。

 俺は吹っ飛ばされて、見ているだけで全部終わってしまった。

 これじゃあ情けない、なんてものじゃない…不要だ。

 そんな事を思っていると、皆が俺を見ている事に気が付いた。

 

「それでは皆サーン!鎮守府に戻りまショウ!!」

 

 すると金剛が撤退の指示を出した。

 声色こそ、いつもの様に明るかったが、その目線は俺を心配しているのがありのままに見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 鎮守府に戻った俺は、特に誰かと話すことなく入渠することにした。

 入渠に掛かる時間は8時間オーバーで後少しで9時間に届くかという所だった。

 その為、入渠が終わって外に出ると空は太陽の代わりに月が上っていて、帰って来た時の青い空は黒く染まっていた。

 時刻は後少しで0時になるところだった。

 この時間になると暁達はとっくに寝ている時間で、他の艦娘も普通なら外に出てないで部屋に戻ってる時間だ。

 だけど俺は部屋に戻る気分ではなかった。

 あれだけの啖呵を切ったにも関わらず、何もできなかったのだ。どう思われても不思議じゃない。

 きっと俺は嫌われただろう。

 その事を思うとため息が出た。

 俺は何時だってそうだ…。その時の気分で好き勝手言って、後になって後悔する。今思うとあの時も、もっと違う言い方があったはずだ。

 結局俺は部屋に戻る勇気は沸かなくて、高台で海を眺める事にした。

 海を見ると、黒い海面を月明かりが照らして、俺と月の間に淡い光の道ができていた。

 それを見ていると、あの日、一人で夜の海に飛び出した事を思い出した。

 …まだあれから一ヶ月も経ってないんだよな……。

 ……………。

 ……………戻ろう。此処に居ても変わらない。嫌われるのはもうしょうがない。流石に眠いしな。

 

 俺は最後に海をもう一度見てから目線を外し、立ち上がって海に背中を向けた。

 そして高台を降りる途中、下の方から誰かが歩いて来て、俺は目を見開いた。

 

「やっぱり此処に居たわね。もう遅いんだから部屋に戻りましょう」

 

 歩いてきたのは加賀さんだった。

 俺はどう声を反したらいいか迷って、まず謝るのが先だと結論を出した。

 

「加賀さんっ、昼の時は」

「さっきはごめんなさい」

 

 謝ろうとしたら加賀さんが先に謝った。

 俺は加賀さんが謝る理由が分からなくて呆気にとられた。

 それを加賀さんは気にせずに、さらに言葉を続ける。

 

「本来なら響や金剛が前に出るよりも先に、私たち空母が敵艦の把握や先制攻撃をするべきだったわ」

 

 そこで俺は我に返って、加賀さんの言葉を遮る様に言った。

 

「俺もあの時何もできないのに生意気言いました…ごめんなさい」

 

 俺と加賀さんはそれから少し動かなかった。

 その周りを穏やかな波の音が包み込む。

 それから更に少し経ってから先に動いたのは加賀さんだった。

 加賀さんは俺に手をスッと差し出す。

 

「戻りましょうか。暖かくなってきたとはいえ、まだ少し冷えるわ」

 

 その手はなんて事は無い。いつも通りの普段のやり取りで――――俺は目頭が熱くなった。

 その事を悟られまいと俺もいつも通りに差し出された手を掴む。

 

「加賀さん」

「どうしたの」

「いや、入渠って大変ですねー。ここまで長いと腹減りましたよ」

「あなたの入渠の時間がおかしいのよ。普通の駆逐艦なら長くても2時間3時間でしょうに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 その次の日の朝。

 俺達、第五遊撃遊撃部隊は再び同じ部屋に集まっていた。

 

「集まったのはいいですけど、結局旗艦はどうするんです?旗艦代えてまた出撃ですか?」

 

 集まった理由は旗艦の事だと思う。

 あの後、俺が原因で出撃できなくなったからだ。

 そんな俺の疑問に答えたのは瑞鶴だった。

 

「ああ、旗艦は無しよ」

「…ん?どういう事です?」

「響が入渠してる間に皆で話し合ったのよ」

 

 うん。まったく良く分からない。

 

「ブッキー説明を求む!!」

「ええー……えっとね、旗艦を決めるとその人だけが指示を出すでしょ?それより皆で意見を出し合って、戦っていった方が良いって事になって」

「あー、そゆこと」

 

 吹雪の話を聞いた後、周りを見ると、この事に誰も何も言わないのを見ると本当にこれで決まったんだな、と理解した。

 けどだ。一つ問題がある。

 

「えー、それは分かったんですが、この紙どうするんです?」

 

 俺はそう言ってちゃぶ台に置いてある紙を手に取ってピラピラと皆に見せた。

 この紙は艦隊で決まった事をまとめて、提督に渡さなければいけない。

 そして紙には旗艦の名前を書く欄がある。

 つまり旗艦を決めないにしても誰かの名前はここに書かなければいけないという事だ。

 

「ふっふーん。もちろんっ、そこに書く名前はMe()ですネー!」

 

 その事を皆で確認するとまず最初に金剛が名乗りを上げた。

 

「ちょおっと待て。それって実際は旗艦じゃないにしろ周りにはそう見られるって事よね?それに帰国子女である金剛さんの名前を書くのは不安だわ。それなら私が」

「五航戦の子にはもっと無理」

 

 それに瑞鶴が反対し、逆に自分はどうか?と言おうとしたところで加賀さんにバッサリと切られた。

 そこに更に大井が乱入していく。

 

「そうよ。そこに名前を書くって事はこの艦隊の代表でしょ?それが未発達もとい甲板胸だなんて不満だわ」

「ムッキィィイイ!!昨日に続き今日も言ったわね!?」

 

 ワーギャーと騒ぐその様子は、昨日と比べると刺々しい雰囲気が消えていて、俺は昨日のあれは何だったんだと思った。

 ふと横を見ると吹雪がまた乾いた笑い声を出している。

 

「ブッキー」

「はは…はっ!な、なに響ちゃん……?」

 

 俺が吹雪に話しかけると吹雪はハッとして俺の方を向いた。

 吹雪の顔はどうすればいいか分からないといった表情だった。

 けど大丈夫さ。俺には考えがある。

 俺は騒いでいる奴らの方に親指をクイッと向けて吹雪に一声言った。

 

「GO」

「ええ!?無理だよ無理無理!!」

「いけるって。だって紙に名前書くだけなんだから」

「それなら響ちゃんが行けばいいじゃん!」

「それは嫌だ」

「なんで!?名前書くだけなんでしょ?」

「そうじゃない。ただ――――」

「ただ?」

「見てる方が楽しい。分かったら行けい!!」

 

 吹雪はその後ももじもじとしていたので俺はその背中を思いっ切り押して騒ぎの中心に追いやった。

 ちなみに紙に書く名前を決める方法はくじ引きになったのだが…この時、不正に次ぐ不正で何度もやり直しになった挙句、ジャンケンになったのは言うまでもない。


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