オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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4-3 病気はつらたん

 工房での目覚めの朝。

 俺はいつもと違う・・・何とも目覚めの悪い朝を迎えた。

 

 最初に思ったのは何時だろう?という事。

 体感的にいつも起きる時間よりも長く寝ていた気がする。

 時計を見て時間を確認しないと・・・・・・。

 そう分かっていても体が思うように動かない。

 

 なので、しばらくそのままベットで横になっていると、意識がハッキリしていくと同時に、なんとも嫌な感触・・・着ていた服が汗でじっとりと湿っている事に気づく。

 その頃には、さすがにそろそろ起きなきゃ不味いと思っていたし、変に湿った服を着ていたくなく、ベットから起きる為に目を開けた時。

 視界に映り込む天井がグワングワンとうねり、それを見ていると壮絶な吐き気、頭が割れる様な程の痛み、そして自身の異常を理解したと同時に襲いかかる季節はずれの強烈な寒気。

 

 ・・・・・・今思えば、昨日から普段とは違う感覚を感じていた。

 その感覚には気のせいだと思い、それに対してなんの対処もしていなかった。

 ・・・何時もそうだ。いつもと違う・・・そう感じはするのにそれを放って置く、そして気づけば何時だって手の施しようのない所で後悔するんだ・・・・・・。

 

 そう・・・・・・俺は・・・・・・。

 

「うぅ、気持ち悪い・・・・・・」

 

 病気になりました。

 

 今思えば、昨日から寒気とか足元がふらついたりしてたんだよなぁ。

 その上、工房のベットに倒れ込んでそのまま寝たのも・・・・・・。

 ・・・・・・そんなこと言ってる場合じゃない。

 水だ。本能が水を求めている。

 服が湿るほど汗をかいたんだ、ほっとくと脱水症状に成りかねない。もうなってるかもしれないけど。

 

 各故、俺は水を求め水道を目指し部屋を出た。

 部屋を出ると、鉄の焼けた匂いが脳を揺らす。

 調子が悪い時にこの匂いはきつい・・・。

 更に、視界が絶えずグワングワンと揺れ動く様は、まるで異次元の迷宮に迷い込んだ様。

 もう、どっちが上だか下だか分からない中、壁を頼りに水道の場所を定め、進む。

 

「はぁ・・・はぁ・・・あぁ、くそっ・・・」

 

 前にもこんな事あったな・・・・・・。

 本当に・・・子供ってのは体力が無くて困る。

 病気ひとつでまともに歩けなくなるんだから。

 ・・・こんな時、誰かが傍に居てくれれば・・・なんて思ってしまう。

 ・・・・・・馬鹿らしい、自分から出ていったくせに。

 

 それでも、弱っている時に、誰かに傍に居てほしいって思うのは誰にでもあるよな?

 何もしてくれなくていい。

 そこに居てくれるだけでいい。

 ただそれだけで・・・・・・。

 

「うぅ・・・おぇ・・・・・・畜生・・・あと少し・・・」

 

 歩く度に脂汗が噴き出て、どんどんと強くなる症状を堪え、それでもなんとか水道に着いた。

 その安堵感からガクンと力が抜け、洗面台にもたれ掛ってしまう。

 

 ・・・あぶねえ・・・後少しで顎を強打するとこだった。

 それにしても、子供って本当に不便。大人だったから良く分かる。・・・精神面は変わんないけども。

 少し息を整えてから、水を飲もうと顔を上げると、洗面台の鏡の中にげっそりとした顔面蒼白の女の子が映っている。

 

「さだこ・・・・・・?」

 

 ・・・・・・俺だった。

 その顔は普段の時よりも白く、物凄くやつれ、いつもよりも癖毛の効いた長い髪が顔にしな垂れかかっている。

 軽くホラーだった。

 自分だと認識するのに、少し間が空いた。

 

 畜生・・・少し自分にビビった。

 にしてもだ。男の子ってのは、女の子にたいして最低限の身だしなみは整えてほしいものなんだ。

 それはその子が病気でも、だ。

 そんな事を思いながら水を飲むよりも先に、手を使って髪型を整える。

 男の子は何時だって女の子に幻想を懐いてる。

 男の儚き希望・・・・・・その牙城は何人来たって崩させはしない・・・・・・。

 ・・・それに今は俺も女の子。身だしなみは気を付けないと。

 

 髪は、いつも手入れしてるだけあって簡単に整った。

 体調は、悪化した。

 

「・・・ふふふ、こうなるって分かっていたら、やらなきゃよかったと反省していますよ・・・・・・」そこから鏡の前で大きく胸を張って「だがっ後悔は無いッ!!・・・・・・うぅ」

 

 そんな事を言ったら、当たり前の様にもっと悪くなった。

 ほんと、最後のに関しては本当にやらない方がよかった。強がりなんてするもんじゃない。

 ・・・・・・うん、そろそろ水飲もうぜ、俺。

 

 水を飲むために蛇口を捻ると水が程よく出てきた。

 その水で出来た柱に顔を横にし、口をつけて、喉を鳴らして水を飲む。

 ごくんと音が鳴るたびに、冷たい水が喉を通って胃に落ちる。

 熱があるせいか、水が通ったところ・・・・・・喉や胃が冷えていくのがよく分かった。

 しばらく、ゆっくりと水を飲み、満足したところで口をはなす。

 そしてふぅ、と一息つくと、さっきまでに無いくらいの寒気が全身を襲い、思わず身震いする。

 

 ただ、さっきまで酷かった頭痛や眩暈はだいぶ収まったようで、やっぱ水って大事だよねって改めて思った。

 そして水も飲んだということで帰りも壁を伝い、部屋に戻る。

 帰りは行きよりも楽だった。

 

 部屋に入るなり俺はベットに横になって、少し気になっていた時間を見るため、時計に目を移す。

 

  【10:27】

 

「うぅわぁぁ・・・・・・」

 

 やっちまった・・・・・・。

 もう日が高いから分かっていたけどもっ!!

 これ・・・怒られるよ・・・・・・。

 

 そんなネガティブにつられてか、さっきまで多少は良くなっていた症状がぶり返してきた。

 再び頭の割れるような頭痛、起きた時よりも酷い吐き気。

 その吐き気で嗚咽を漏らすと、胃の底から何かがせり上がってきて、それが口元を濡らした。

 最悪だった。

 口の中が臭くて堪らない。

 この時、俺は今の状態をどうにかしたくて堪らなかったけど、口をゆすぐのに水道のとこまで行くのは億劫だった。

 とは言え、この状態に耐えれる訳もなく、もう一度水道まで行くことにした。

 

 行きは、どうやってたどり着いたか覚えていない。

 気が付くと、両手が洗面台を掴んでいて、目の前で物凄い勢いで出ている水があった。

 水は洗面台の底に叩き付けられ、飛沫をあげ、激しく音を立てている。

 そこから伝わる振動が妙に心地よく、しばらくそのままで居たんだけど、口が気になって蛇口を少し締めた。

 勢いの弱くなった水に両手を差出し、水をすくって、口の中や周りを洗う。

 

 ・・・随分とさっぱりした。が、問題は帰りだ。

 正直、また鉄の焼けた匂いを嗅ぎながら戻りたくない。

 今の俺にとって、その匂いは拷問でしかなく、考えただけでも涙が出そうだ。

 まぁ、歯を食いしばって戻ったけどね・・・・・・。

 

 部屋に入り、再びベットに近づき、今度はうつ伏せになって倒れこむ。

 ボスリと大きな音を立てたのち、部屋には自身の荒い息づかいが満ちる。

 完全に疲れ切った。

 今日は授業はいいや。

 偶にはいいよね・・・偶には・・・・・・。

 そんな考えだからか、意識が遠のき始め、視界が狭くなる。

 マズイ・・・このまま寝たら症状が悪化する。

 俺は意識が飛びかける寸前に布団の中に潜り込むことに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 ・・・もう、いくつ時間がたっただろう?

 俺を起こしたのは部屋の外から聞こえる音。

 それもタ・・・タ・・・と、一歩一歩をゆっくりと歩む・・・そんな感じの足音だ。

 ・・・・・・鎮守府の工房は使う艦娘は限られている。

 それはさぼりに来る艦娘・・・あとは夕張と俺がここで何かを作るくらい。

 つまり、普段からここを使っている艦娘なら・・・・・・こんな歩き方はしない。

 それなのに来る理由・・・・・・普通に考えたら俺か。

 

 そんな風に俺が思考を巡らせている間にも、その足音はゆっくりと確かに近づいてきて・・・・・・部屋の前で止まった。

 足音が止み、辺りに静けさと緊張感が漂う。

 俺は、ゆっくりと体を起こし、扉を睨みつける・・・・・・。

 

 調子は未だに悪い。

 頭痛は辛いし吐き気もする・・・体には力が入んないし眩暈だってある、――――けど。

 そこまで考えて、俺はベットに仰向けに倒れこんだ。

 ハァ・・・馬鹿らし・・・ここが海の上な訳でもあるまいし。

 向こうも案の定というか、ノックをしてきた。

 まったく・・・熱のせいで頭が茹ってるのかいらない事を考えた。

 ・・・・・・それに扉の外から「響さんいますかー?」って聞こえる。赤城さんじゃん。

 本当に・・・・・・いらないことを考えたな・・・・・・。

 

 とにかく!待たせるのはマズイ!!

 そう思い、勢いよく起き上がって扉を開ける。

 

「えっと・・・こんにちはです」

 

「こんにちは響さん」

 

「赤城さん今日はどうしたんです?工房に来るなんて珍しいですね」

 

「・・・・・・」

 

 俺がそう言うと、赤城は黙って、徐々に険しい顔になっていく。

 何かやってしまったのか・・・・・・?

 

「・・・あの?赤城さん?どうしたん――――ぁぅ」

 

 そして言葉を言い終わるより早く、赤城は俺のデコに手を当てる。

 アカン・・・赤城の手が冷たくて気持ちいい・・・・・・。

 

「・・・・・・熱い・・・響さん、すごい熱じゃないですか・・・・・・」

 

「はは・・・やっぱり?朝から調子がよくなかったんですよー」

 

「やっぱり?じゃなくて、こんな所に居たらよくなりませんよ?ちゃんと部屋でゆっくり休まないと」

 

「いやー、それがですね?実は暁とケンカしてまして・・・部屋に居づらいと言うか何というか・・・・・・」

 

「・・・・・・響さんは暁ちゃんと仲直りしないんですか?」

 

「まぁ・・・そのうち・・・」

 

「約束ですよ?それにしてもどうしましょうか・・・響さん、ここに居ても良くなりませんよ?」

 

「んー、気合いと根性と自己愛精神で治せると・・・いいなぁ」

 

「治らないですよ。・・・そうだ!響さん、私の部屋に来ましょう」

 

「えぇ!?なぜに・・・ですか?」

 

「一人にできないからです。息が荒いですし、顔が真っ青ですし、目の焦点が合ってませんし」

 

「・・・・・・道理で視界がうねり狂う訳だ」

 

「それじゃあいきましょう・・・・・・響さん?」

 

「・・・あの、一人で大丈夫って言ったらどうしま・・・・・・」

 

「・・・・・・」にこり

 

「・・・うっす」

 

 俺は無言の圧力に屈した。

 赤城の笑み・・・それは誰が見ても息をのむ位、綺麗なものだった。

 だが、近くで見ていた俺は分かってしまった――――目が笑ってないことに。

 その瞳は「お前に人権などあるはずが無い!!」と語っていた。

 まるでヤクザ・・・・・・ヤクザの瞳だ・・・・・・。

 思えば一航戦は、常に最前線で戦っている戦いのエキスパート・・・・・・その気になれば俺に意見など、許される訳がなかった!!

 残された選択肢は言われるがままに工房を出る用意をするだけだった。

 

 ・・・・・・でも、こうやって心配されるのは凄く嬉しかったりする。

 

「あのー赤城さん?用意できたんですけど・・・その・・・やっぱ迷惑じゃないです?」

 

「そんな事ないですよ。それに響さんはいつも一人で何とかしようとするじゃないですか。たまには誰かに頼ってもいいと思いますよ」

 

「・・・それじゃあ頼っていいですか?調子の悪い時に一人で居るとどうにも不安で――――」

 

「はい、いいですよ。それにしても、今日の響さんは素直ですね」

 

「俺は何時だって素直ですよ・・・・・・ただ・・・意地だってある。言いたくない事だって・・・・・・」

 

「意地ですか・・・響さんらしいですね。それじゃあ、行きましょう?一人で歩けますか?」

 

 結構なセリフを言ったつもりが、らしい、の一言で済んでしまうとは・・・・・・。

 まぁ、そんな事より歩けるかなぁ・・・・・・なんて思いつつ立ち上がる。

 視界は相変わらず、足は痙攣したように震えるがこれなら――――。

 

「赤城さん・・・壁・・・壁を伝いながらなら・・・・・・数メートルは行けそうです」

 

「響さん意地の張り所が違う」

 

 その後、歩こうとすると1メートルも行かず眩暈と吐き気で床の上に座り込んでしまい、久しぶりに床とこんにちはしたり、赤城におんぶされたりした。

 調子は悪かったけど、赤城はいい匂いがした。


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