オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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4-2 決別の時

 俺はここ最近、いつもの様に海の見える高台に来ている。

 ・・・・・・恥ずかしい話だけど、俺は嫌な事や落ち込んだり、何かある度にここに来る。

 この場所は海が一望できて・・・そこに艦載機が一糸乱れぬ様に飛び交う光景が格好良くて好きだった。

 と言っても、そんな物は見ていればすぐに飽きるし、それ以外特に何かある訳でもなく、俺以外の誰かがよく来るわけでもない。

 ずっと居るには退屈な場所で・・・・・・だからこそ自分自身と向き合うには丁度いい場所だった。

 

 ここに来て最近考えることは、これからの事だった。

 吹雪が倒れこむのを見て、俺は自分の信じてたものが曖昧な物だと知った。

 不安も出てきた。というのも、庇った吹雪が倒れる姿は自分と重なって見えたから。

 そして何より思ってしまった。

 

 次は俺の番だな、と。

 

 随分と巫山戯た事を思った。

 番ってなんだ?

 傷つくのは順番待ちか?

 俺は・・・俺達は傷つく為に――沈む為に戦ってるのか!?

 ・・・でも、浮かんだ疑問には『順番待ち』って言葉が妙にしっくりきた。

 

 俺が来る前からやっていたらしい、深海棲艦との海戦は一向に終わる素振りを見せない。

 俺が鎮守府に来てから、もう何回か深海棲艦の本拠地を潰すのを聞いたし、見てきた。

 それでも減らない。

 潰した次の日には、潰した勢力とは違う・・・新しい、別の勢力がその海にやって来る。

 もう、何回も勝った。負ける気はしなかったし、どんなに来てもまた勝てばいいと・・・思ってたんだけどな・・・・・・。

 俺は、倒れる吹雪に自分を重ね、アニメでもゲームでもない現実を改めて突きつけられて、あまり問題にしていなかった事に向き合う事になった。

 

『後何回勝てば、戦いが終わるんだろう?』 

 

 結局、それが全てだった。

 勝っても一向に終わらない戦い。

 時が経つにつれ、強くなっていく深海棲艦。

 戦う度に疲弊する仲間。

 

 ・・・・・・闘技場だ。イタリアに昔あった、死ぬまで戦い続ける闘技場。

 鎮守府は檻で、海は闘技場。

 深海棲艦は対戦相手で・・・艦娘はさしづめ剣闘士と言ったところか。

 そして言うのだ・・・「死にたくなければ戦って勝て!!」と「そうすれば死が延長されるぞ」と。

 勝った先にあるのは違う戦場だ・・・そこでまた戦う。永遠と繰り返す。その艦娘が沈むまで。

 

 それでも、海に出なければ沈むことは無いだろう。

 ・・・代わりに、他の艦娘が海に出て・・・代わりに沈む。

 

 突きつけられていた現実に、もはや選択肢なんて初めからなかった。

 俺は誰かが・・・それも順々に沈むなんで考えたくもない!

 他の艦娘が沈むのが嫌なら俺が戦い続けるしかない!

 この身が朽ち果て、血の一滴すら出なくなる・・・その時まで。

 じゃないと、次に犠牲になるのが暁達じゃない、そんな保証なんて何処にも無いんだから。

 

 いつもの様にそんな事を考えていると、風が髪を掻き分けた。

 今日はなんか寒いな。後ちょっとで夏なのに・・・・・・。

 冷たい風に、身震いひとつして気持ちを切り替える。

 

 ・・・・・・もう・・・落ち込むのはやめよう。もう随分と落ち込んだ。考え込んでも答えは変わらなかった。

 長門に、前線に出たいと言ったんだ。このままだと皆に迷惑をかけてしまう。

 暁と喧嘩をした事は悲しいが、こうなってしまったらしょうが無い。

 どうせ・・・戦っていれば何時か沈む。護衛艦なら尚更・・・・・・。

 そうだよ・・・そうなった時、仲が良かったら悲しませるだけだし。

 昨日、さらに喧嘩してしまったのは案外良かったかもしれない。

 

 予感がする。

 そう遠くない内に別れの時が来る。そんな予感が。

 だから俺は――――

 

 

 

 

 ――――暁と仲直りするのを諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ午後の5時になるかなって頃、俺はこそこそと部屋に戻って来ていた。

 自分の物を取りに来たのだ。

 部屋にこのまま居続けるのは気まずく、それならまた工房に寝泊りすればいいと思った。

 そこから授業に出ればいい訳だし、何も問題なかった。

 問題があるとすれば・・・・・・今だった。

 

 もう、何分扉の前に立ってるだろう。

 ・・・とっとと入って、物持って出ればいいのは分かってる。

 けど顔を合わせるのは気まず過ぎる。

 俺は未練タラタラだった。

 

 ああもう!パッと入って、シュッと物持って、ダーって出りゃいいんだよ!

 ああでもお帰りとか言われたらどうしよう。

 暁は言わないかもだけど、雷と電は言ってくれるだろうし、そうなったらすぐ出て行くのは気が引けるな・・・・・・。

 

 俺はここでも同じ事を延々と考えていた。

 無限地獄だ。あっちもこっちも無限地獄。

 あぁ・・・なんで考えたり感情があったりするんだろ・・・・・・。

 なければ、うだうだ考えずにすむのに。

 ・・・・・・でも、ある物はしょうがないか。

 

 一度、深呼吸をして顔を無表情に変える。

 ドアノブを普段の様に回して扉を開ける。

 中には誰もいなかった。

 

「・・・・・・はっ、誰もいないのかよ」

 

 拍子抜けし、思った事が口から漏れる。

 その声色は、誰か居たら面倒だな、なんて思ってた割には落ち込みが入っている声だった。

 ・・・俺は・・・突き放すと決めたのに未練タラタラだった・・・・・・。

 

 それでも、居ないのは都合がいいのは確かな訳で。

 自分の物をぶっきらぼうに、前に下着を買ったときに店で貰った紙袋に放り込む。

 セーラー服のセットが3つ、買った服や下着の上下も3つづつ。

 授業で使う教科書とかは手提げ鞄に入っていたのでそのまま持っていく。

 そして・・・パンパンに膨れ上がった、金の入った封筒。

 

 初めて貰った時は嬉しかったんだけどなぁ。

 結局金は、最初に服を買う以外で使い道は皆と駄菓子を買うくらいしかなく、使わない金を片っ端から封筒に突っ込んでたら溜まっていた。

 ・・・今見るとその金は、ただ薄ら寒いだけだ。

 

「まあ、いいや」

 

 それでも金は金。

 封筒を鷲掴み、無造作にポケットに捩じ込む。

 それで全部。

 俺の物は片手で足りるくらいには少ない。

 と言っても、鎮守府で必要な物はその都度揃うし、女の子してる物は持ってないからな。

 

「・・・ん」

 

 部屋を黙って出る事に若干の引け目を感じつつ、紙袋を掴む。

 紙袋は服しか入っていないのに重く感じた。

 

 これでいい。

 これが一番後腐れない方法。

 後は・・・その時が来るまで戦い続ける・・・・・・。

 

 部屋を出た先の廊下はいつもより長く感じ、足取りも思いの他、重い。

 無理もないか。

 俺の覚悟・・・それは自分でもトチ狂ってるとしか思えない・・・・・・自殺願望にも似た覚悟。

 そんな事は分かってるんだ・・・それでも・・・・・・ここでいろんな人にお世話になってる。

 その事をずっと前から考えていた。

 そして、俺も何かお返しができたら・・・なんて思ってた。

 

 けど俺には何かを返す事が出来ない。

 出来るのは皆の代わりに海に出て戦うくらいしか・・・・・・。

 

 ・・・きっと、一番の選択肢は憑依に気づいた時だと思う。

 あの時、鎮守府から飛び出していればトチ狂った事を考えたりせず、自由気ままに海を廻っていただろう。

 鎮守府にいるから俺は今、沈むまで戦い続けないといけないなんて今更気づいて、その事で悩んでいるんだ・・・・・・。

 でも・・・それで良かった。

 ここにいるから皆に逢えて、今までに無いくらい楽しい思いができたんだから。

 もし過去に戻れるなら、俺は此処にまた居て・・・今度は皆に迷惑をかけない様にして、いつもの様に楽しく暮らす。

 

 感傷に浸りながら何分か歩くと工房が見えた。

 その前には工房の常連さんが、今から帰るとこなのかな?普段着ているオレンジの作業着じゃなく普通のへその出る服を着た艦娘がこちらに歩いてくる。

 

「ちわっす、メロンさん。いま帰るとこですか?」

 

「やっほー。まー、そんなとこなんだけど、響は開発?・・・じゃないみたいだね・・・どしたのその服」

 

「ははは・・・暁と喧嘩しまして・・・ここで寝泊りしようかと」

 

「・・・居づらいんだ」

 

「・・・・・・うん」

 

「そっか・・・でも、早く仲直りするんだよ?ここ、空気あんま良くないし」

 

「善処します」

 

「善処って、政治家じゃないんだから・・・・・・それじゃまたね!!・・・あっそうだ!!今度、響が開発した装備を見せてね!!後よければ試さしてね!!」

 

 そう言ってメロンさんこと夕張は、寮のある方へ歩いて行った。

 俺はその後ろ姿を少し見た後、工房の中に入った。

 

 工房の一角。そこにはいくつかの扉がある。

 その扉の内の一つ、鉄で出来たドアプレートには、唯一文字『響』の文字があった。

 この部屋は半年より前に、アニメの原作をぶち壊す為に、長門から許可を貰って手に入れた部屋だ。

 そして・・・如月を助ける為に、一時的に寝泊りしてた部屋でもある。

 部屋は6畳程に小窓がひとつ、そこにパイプで出来た簡易ベット、戸棚、机がある為かなり狭い。

 

「・・・へっ」

 

 部屋を改めて見渡すと、変な笑いが出た。

 ・・・そうさ!今日から俺は一人部屋だぜ!・・・・・・普段、皆と居たから虚しい。

 それよりも、昨日は寝付けなかったせいか足元がフラフラしてきた。

 なので、これは寝ないと不味いと思い、取り敢えず持ってる紙袋を机の上に置いて、ベットの上に横たわる。

 

 ベットに寝転がると不思議と眠気が収まり、いろんな事を考えて、全身がムズ痒くなって、目頭が熱くなって、言葉にならない何かを叫びたくって、それでも俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[翌日、教室にて]

 

 

「――――では、出席を取る・・・と言いたいところだが、響はどうした?」

 

「あっ・・・あの、響お姉ちゃんは・・・・・・」

 

「どうした電?何かあったのか?」

 

「実は・・・・・・昨日から部屋に帰ってないのです」

 

「・・・はぁ・・・・・・響の奴、無断欠席か。最近たるんできてるな。で、誰か何処に居るかは分かるか?」

 

「えっと・・・それなら多分、工房か高台だと思うのっ!今の時間じゃ赤城さんのとこは行けないと思うし」


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