オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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4-1 響ちゃんは今日もボッチ

[吹雪視点]

 

 

「皆、おはよー!」

 

「おはよう吹雪ちゃん」

 

 私が教室に入っておはようと言うと先に来ていた如月ちゃんが挨拶を返してくれる。

 

「おはよう!如月ちゃん!」

 

「おはよう睦月ちゃん」

 

 挨拶をしていると、後ろから睦月ちゃんが私の前に出てきて、如月ちゃんに挨拶をした。手を取り合って。

 

「・・・・・・なんか・・・いつも通り、仲がいいっぽいー」

 

「そうだね、なんか羨ましいな・・・」

 

 反攻作戦から一週間くらい経った。

 作戦では私が大破してしまったけど結果的に成功で終わった。

 けど・・・あの時・・・・・・艦載機に囲まれた状況から助けてくれたのが響ちゃんだと聞いた時は驚いた。

 というのも、私は睦月ちゃんを庇った後のことはよく覚えてなくて、気づいたら鎮守府に着いていたから。

 

「それに比べて向こうは今日も駄目っぽい」

 

「ははは・・・」

 

 そう言って夕立ちゃんと視線を向けた先には暁ちゃん達がいた。

 その中では暁ちゃん、雷ちゃん、電ちゃんが仲良く話している中、響ちゃんだけ机に顔を伏せて微動だにしていない。

 響ちゃんの席は一番後ろの窓際。だからかな?

 ・・・・・・あそこ一帯がとてつもなく重苦しい空気に包まれているような・・・・・・というか・・・。

 

「なんか、昨日より悪くなってるっぽい?」

 

「やっぱりそうだよね・・・何かあったのかな?」

 

「・・・ねぇ?睦月ちゃん、吹雪ちゃん、夕立ちゃん」

 

 私達が話していると如月ちゃんがコソコソとしながらこっちに来て、と手招いていた。

 

「実は・・・・・・朝来た時に少し雷ちゃんと話をしたのだけれど・・・・・・響さん昨日、暁ちゃんと喧嘩したみたいなの」

 

「ええ~っ!!またっぽい!?」「あっ!夕立ちゃん!!声が大きいよ!」

 

「・・・睦月ちゃんも大きいよ・・・・・・それで、どうしてまた喧嘩なんかしちゃったの?」

 

「響さん、最近は毎日暁ちゃんに何度も謝っていたらしいんだけど・・・昨日暁ちゃんが『何に対して響は謝っているの?』って言ったらしくて・・・・・・」

 

「「「うんうん」」」

 

「そしたら響さん『何日も戻ってこなくてごめんね』って言ったら暁ちゃん『私はそのことで怒ってるんじゃない!!』って・・・・・・」

 

「それで暁ちゃんさらに怒っちゃったんだ・・・・・・」

 

「ぽい~」

 

「それでも・・・流石に響ちゃんかわいそすぎるね・・・・・・」

 

 睦月ちゃんの言葉を最後にもう一度響ちゃんに目を向ける。

 響ちゃんは相変わらず机に伏せたままだった・・・・・・。

 

「・・・・・・もしかして・・・響ちゃん、これからずっとあのままっぽい?」

 

 私が目を向けているその時だった。

 夕立ちゃんがぼそりと言った言葉の後、響ちゃんの体がビクッと動いたように見えたような・・・・・・?

 

「・・・・・・ねえ夕立ちゃん?・・・もしかして聞こえてるんじゃない?」

 

「えー。それはないっぽい。だってここから響ちゃんの席は離れてるっぽいし、私達だけじゃなくて暁ちゃん達もしゃべって・・・・・・ないっぽい」

 

 そこで初めて気づいた・・・・・・。

 教室は異様に静かだった。

 さっきまで話していた暁ちゃん達は会話をやめて、こちらを気にしてる様子だった。

 そこで私達は話す直前にひとつ大きなミスを犯していたことに気づいてしまった。

 

「もしかして・・・私達が大きな声を出した時に何話してるかバレちゃった・・・・・・とか」

 

 それを言葉にしてぼそりとつぶやくのを最後に、教室は誰ひとりとして喋らない異様な空間へと変貌した・・・・・・。

 話を変えようと睦月ちゃん達に目を向けても、3人共これ以上何も言わないと決めたかのように口を閉ざしていた。

 

 きっと、これ以上ボロを出したくないんだろうな・・・・・・。

 皆も、他の誰かが話題を変えてくれるのを待っているんだ・・・・・・。

 けど・・・私には勇気がなかった・・・・・・。

 無理だよ・・・・・・この沈黙の中唐突に話題を上げるのは・・・・・・。

 

 今、此処に居る私達の気持ちは、ひとつだと思った。

 同じ空間に居て、同じ時間を共有して、同じ立場にいる。

 独りじゃないことだけが唯一の救いだった・・・・・・でもそれだけじゃダメだよ・・・・・・。

 私達はこの場から切り抜けて、初めて進んでいけるんだから!!

 

 だから――――

 

((((誰かっ!!この教室の空気を変えてぇっ!!))))

 

 不意に、遠くから音が近づいてきた。

 ドタドタと近づいてくるそれはとても騒がしく、今の雰囲気からすれば考えられないことだった。

 ・・・・・・私はこの音の正体を知ってる。

 誰もが口を開かない中、音の主の影が教室を横切り、扉の前で立ち止まる。

 一瞬の硬直。

 その後、扉がレールの上を勢いよく滑る音と、扉がぶつかる音が教室に響き渡る。

 

「みんなーっ!おっはよー!!」

 

 声の主は島風ちゃんだった。

 よかった・・・・・・島風ちゃんならこの空気を変えてくれる、そう思った。

 そして期待通り、島風ちゃんは教室の空気を変えてくれた・・・・・・悪い方向に・・・・・・。

 

「あっれー?響ちゃんどうしたの?いつもより元気無いよー!」

 

「・・・」

 

「ねー、むしー!?・・・響ちゃん、おっはよー!!」

 

 響ちゃんは伏せったまま動かなかった。

 それに対して何か勘違いをしたのか、島風ちゃんはそんな響ちゃんの周りを飛び跳ね始めた・・・・・・。

 

「おっおっおっおっ」

 

「・・・」

 

「ひっびきっちゃんっ!おっはっよぉ!!」

 

 もうやめてあげて!!

 響ちゃん、今朝来た時からそんなだから!!

 

 きっとそう思ってるのは私だけじゃないはず。

 でも、そんなの関係ねぇ、とばかりに島風ちゃんは響ちゃんの周りを「おっおっ」と言いながらピョンピョン跳ね回る。連装砲ちゃんも跳ね回る。

 なんかもう・・・怪しい儀式をしているようにしか見えない。

 

「・・・ねぇ、吹雪ちゃん」

 

「・・・なぁに、夕立ちゃん」

 

「あれすると響ちゃん復活するっぽい?」

 

「しないと思うよ・・・」

 

「・・・もしかして生贄が必要なのかしら?」

 

「ダメだよっ!如月ちゃん、そんなこと言ったら!」

 

「・・・いけにえ・・・・・・」

 

「なんでこっちを見るの夕立ちゃん!嫌だからね!?絶対嫌だからね!?」

 

「・・・・・・朝から騒がしいな・・・席に着け島風。授業を始めるぞ」

 

 そんな事を話していると後ろの方から声がし、振り返ると那智さんがいた。

 時計を見ると、授業の始まる時間になっていた。

 

 そして授業が始まるんだけど、私は響ちゃんがどうしても気になって、何度も何度もそちらの方を見てしまう。

 響ちゃんはというと、顔こそ上げはしたけど相変わらず机の上に項垂れて窓の外を見ているようだった。

 目の下には隈ができていて昨日はきっと眠れなかったんだろうな・・・・・・。

 

「・・・響ちゃん大丈夫かな・・・・・・?」

 

「吹雪、何が大丈夫なんだ?」

 

「うぇ!?那智さん!?これはその・・・えーと」

 

「全く、授業中によそ見とは感心しないな・・・よそ見といえば向こうもだが・・・・・・」

 

 そう言う那智さんの目線の先には響ちゃんがいた。

 相変わらず外をボーッと見続ける響ちゃんに、那智さんはさらに言葉を続ける。

 

「・・・駆逐艦 響、貴様は授業を受ける気はあるのか?」

 

 響ちゃんは答えない・・・というよりも那智さんの質問に気づいていないんじゃないかな?

 そういった方が正しいくらいに那智さんに無関心だった。

 

「・・・無視か。なら・・・これならどうだ・・・・・・?」

 

 那智さんはそう言うと黒板の方から一本のチョークを取り出した。

 もしかして投げるのかな・・・?

 そう思ったときには那智さんは既にチョークを投げていて・・・投げたチョークは那智さんの胸元に白い点を作り、コトリと教卓の上に転がった。

 一瞬、どうしてそうなったか分からなかった・・・・・・一部始終を見ていたのにも関わらず・・・。

 

 まず、チョークは間違いなく響ちゃんの方へと真っ直ぐ飛んでいった。

 ・・・その響ちゃんの方はというと、響ちゃんは相変わらず机の上に伏せった状態で外を見ていた。

 ただ、先ほどと違って机の上に組んでいたはずの右手が中指と人差し指を下に突き出し、不自然に宙に浮いている。

 

 ・・・そうだ・・・・・・チョークが響ちゃんに当たるって思った瞬間、響ちゃんが外を見たまま右手の指でチョークを挟んで、手首のスナップだけで投げ返したんだ・・・・・・。

 その時見た一連の動作は、あまりに自然で・・・常識では考えられないほど不自然で・・・・・・私はそれを本当に凄いと思ってしまった。

 あれが無意識にできるから艦載機に囲まれた状況を一人で打開出来て、一航戦の・・・・・・赤城さんの護衛艦なんだ・・・・・・。

 

 私がそう思ってる中、響ちゃんは普通に那智さんに怒鳴られた。

 その後の授業も響ちゃんは上の空でボーッと外を見てたり、下をずっと見てたりでその日の授業が終わってしまった。

 

 そしてその帰り際・・・・・・。

 いつもの様に、我先にと駆け足で帰っていく島風ちゃん、睦月ちゃんと一言二言話して帰っていく如月ちゃん。

 誰もがいつも通りの日常の中、暁ちゃんは帰る支度を手早く済ませると電ちゃんと雷ちゃんを連れてすぐに帰ってしまった・・・・・・響ちゃんを置いて・・・・・・。

 置いていかれた響ちゃんは、それに気づいているのかいないのか、暁ちゃん達に見向きもしないでゆっくりとカバンに教科書を入れていた。

 その姿は見ていてとても痛々しい。

 

「あのさ睦月ちゃん、夕立ちゃん?もしよかったらなんだけど・・・響ちゃんと一緒に帰らない?」

 

「うん!睦月は賛成っ!夕立ちゃんは?」

 

「夕立も大丈夫っぽい。なんか・・・捨てられた猫みたいで可哀想っぽいし」

 

「はは・・・それじゃあ響ちゃん誘ってくるね」

 

 私の席と響ちゃんの席はそう遠くない。

 ただ、響ちゃんの落ち込み具合が凄く、どうにも近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、近いはずの距離が遠くに感じる。

 ・・・・・・よく島風ちゃんは響ちゃんの周りを飛び跳ねれたなぁ・・・・・・。

 

「っ・・・あのさっ響ちゃん!!」

 

「・・・・・・?・・・あぁ、ブッキーか。どうした?」

 

「えっとね・・・今日、これから一緒に帰らない・・・・・・?」

 

 私がそう言うと響ちゃんは嬉しそうに笑った後、小さく首を横に振った。

 

「いや・・・やめとくよ。行きたい場所があるんだ」

 

「そっか・・・じゃあまた明日ね!!」

 

「おう、また明日」

 

 よかった・・・響ちゃん思ったより元気そうだ。

 ここ最近の響ちゃんは今日程じゃないけど落ち込んでいて話しかける勇気が沸かなかった。

 ・・・前に響ちゃんと話したのは何時だっけ・・・・・・?

 今まさに教室から出ようとする響ちゃんを見ながら思い出していると、とても大切な事を思い出した。

 

「そうだっ!!待って響ちゃん!!」

 

「どったの・・・ブッキー、そんな大きい声出して・・・・・・」

 

「私、響ちゃんが助けてくれたのにお礼を言ってなかったの。・・・・・・ありがとう!響ちゃん!!」

 

 実は響ちゃんが助けてくれたのを知ったとき、私は真っ先にお礼を言いに行こう!・・・と思ってたんだけど、その時には響ちゃんは暁ちゃん達とあまり話していなくて話しかけづらかったんだ・・・・・・。

 その後も言おう言おうと思ってたんだけど忘れちゃってたんだよね・・・・・・思い出せてよかった!

 

 けど、私がお礼を言っても響ちゃんはなんの反応も返さなかった。

 これってあれかな?

 響ちゃんの事だから「感謝の言葉が足りない!!」とか言うのかな?

 ・・・よし!もう一度お礼を言ってみよう!

 

「あの時、響ちゃんが助けに「もういいッ!!」・・・え」

 

「・・・もういい、分かったから、聞こえてるから・・・・・・それじゃ」

 

 響ちゃんはそう言うと早足で教室から出て行った。

 

「・・・何あれ・・・響ちゃん感じ悪いっぽい」

 

「なんか・・・いつもの響ちゃんらしくないね・・・・・・」

 

 そうだよね・・・・・・あんなに仲良かった暁ちゃんとケンカしてるんだもんね・・・・・・。

 元気なわけ無いよ、無理してるに決まってる。

 私だって睦月ちゃん達とケンカしたら落ち込むもん・・・・・・。

 

 響ちゃんは友達だ。特訓の時に色々アドバイスも貰った。

 だから、こんな時くらい少しでも力になれたら良かったんだけど・・・・・・。

 

「・・・うー」

 

「どうしたの吹雪ちゃん?」

 

「あのね睦月ちゃん?どうしたら暁ちゃんと響ちゃんが仲直りするかなぁって」

 

「吹雪ちゃん、この事は夕立達が口出ししない方がいいと思うっぽい」

 

「確かに、私もそう思うんだけど・・・・・・クールだね、夕立ちゃん」

 

「だって本当の事っぽい。下手に口出しして、余計仲が悪くなったら目も当てられないっぽい」

 

「もうっ!夕立ちゃんったら、またそんな言い方して!・・・でも早く仲直りしてくれるといいね」

 

「うん」

 

 睦月ちゃんにそう言ってもらって、ふと、初めて特訓に付き合ってくれた日を思い出した。

 響ちゃん、早く仲直りして、また笑ってくれるといいな。


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