オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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3-3 自分を捨て去る覚悟

 ――――俺は待っていた。

 吹雪達のピンチは金剛達が救ってくれると知っていたから。

 

 ――――その時が来るのをずっと待ってた。

 仲間が今まさに沈んでしまうかもしれないのを、遠目でずっと見続けて。

 

 ――――俺は最後の艦載機を打ち落とすだけでいい。

 だから睦月が敵艦載機の標的にされたのを平然と見ていた。

 

 ――――あと少しで鎮守府に戻れるかな。

 吹雪が睦月の前に割って入り、艦載機を打ち落とす。

 

 ここから金剛達が来て吹雪達を助ける。

 後は、俺が残りの艦載機を撃てばいいだけだ。

 

 待った。

 長い数秒をずっと。

 

 そして吹雪が魚雷で軽空母ヌ級を沈める。

 が、残ったもう一体のヌ級が再び吹雪達を蹂躙し始める。

 金剛達は来ない。

 右を見ても、左を見ても、後ろを見ても、何もない。

 

 そして敵機の空爆がとうとう吹雪に当たってしまう。

 金剛は、来ない。

 

 

 俺はこの時初めて、本気で思い知った。

 人生に絶対はないと。

 それは悪い事だけじゃなく良い事にだって言えることだ。

 アニメでは如月が沈んだが、俺が居るこの状況でも沈むなんて無いだろう。

 それと一緒だった。

 アニメで金剛が吹雪達を助けたが、今この時・・・金剛がいないこの場所で金剛が吹雪達を助けるのか?

 

 人生はくそったれだ。

 良い物も悪い物も与えてくれる。

 俺はそれを重々知っていたはずだったのに。

 人生ってのは甘いだけじゃないって知っていたはずだったのに。

 

 あぁ、畜生。

 俺は甘かった。

 今までの誓いとか覚悟とか約束とか夢とか全部。

 アニメにそっくりな世界だからといってアニメを丸呑みにしてしまう自分。

 そして都合の悪い事だけを変えようとして都合の良い事は必ず起こると信じて疑わない自分。

 

 世界に絶対はない。

 もし、自分が望む物が欲しいのなら、その時に一生懸命でなければならない。

 ・・・・・・いや、それだけじゃ駄目だ。運も必要だ。

 まだ間に合うだろうか。

 まだ俺に運が少しでも残ってるならあるいは。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「しかしまぁ、拍子抜けだな。・・・・・・間抜けすぎるだろ深海棲艦(あいつら)

 

 日が大分登った頃。

 俺は茂みの木陰であぐらを書き、海を何時間も眺めていた。

 

 遠目には深海棲艦がちらほらと見える。

 アイツ等はさっきから島の方を一切見ないで海の――鎮守府側を見ているようだ。

 おそらく知っているんだろう・・・今日、反攻作戦が行われることを。

 だからこそ島に視線を送らない・・・注視しても無駄だと思っているのだろう。

 

 これは長門に報告しないとな。

 なにせ作戦がダダ漏れなのは確定的なんだから。

 にしても――――

 

「暇だ・・・・・・やる事がねえ・・・・・・帰りてえ風呂入りてえ」

 

 反攻作戦が始まるまでやる事がなかった。

 始まったとしても、俺のやる事は作戦終了時に撃ち漏らした敵艦載機の後始末・・・きっと数十秒もしないで終わってしまう簡単なこと。

 その数十秒の為に、このなんの代わり映えもしない深海棲艦漂う海をもうしばらく見続けなければならない。

 それはいくら人命が架けられているとはいえ、とても退屈な時間。

 

 沖では駆逐級から軽巡級の深海棲艦がさっきから同じ動きを繰り返している。

 まるで機械の様に全く同じに動く。

 

 ・・・・・・そういえば、初めて見た時はあれが生き物だとは全く思えなかったな。

 そのおかげで人型だろうと躊躇なく砲撃を撃ち込めるのだけど。

 

「――――ハァ」

 

 ため息がひとつ。

 心の中に、沖に見える深海棲艦を駆逐してやろうか?なんて考えが浮かぶ。

 それこそ俺なら、eritでもなんでもない駆逐級から軽巡級までなら、弾薬と燃料が尽きない限り何十隻に囲まれても攻撃に当たることなく戦える自信がある。

 ただ、それをしないのは二つの理由があるからだ。

 

 それは長門に目立つ真似はするな、と言われてるのもあるが一番の理由は原作知識って奴だ。

 これから先に起こる事が分かる。

 それは他の艦娘にはない、俺だけのアドバンテージ。

 これはできる限り温存し続けなければならない俺だけの切り札。

 そしてその切り札は場が整ってないと一切効果のないクズ切れに変わる。

 切り札の使える場・・・それはアニメの原作に沿った物語が進んでいく展開。

 

 その為には俺は出来うる限り限界まで動いちゃ駄目なんだ。

 原作を最低限壊さないように・・・・・・最後にそっと、動けばいい。

 

 それからしばらくすると沖にいる深海棲艦の動きに変化が起きる。

 島の傍で漂っていた深海棲艦が揃って沖に出ていく。

 これを見たとき、俺は反攻作戦が始まったと、内心ワクワクした。

 

 だってそうだろ!?

 仲間のピンチを助ける事ができる活躍の場が訪れたんだから!

 

 正直な所、艦娘になってあと少しで一年が経つが、俺は他の艦娘と変わらない生活をしていた。

 俺は主人公の様には成れない・・・そんな事は重々承知だったが、今!この場所なら!俺は主人公になれなくても主人公の真似事はできるんじゃないか!?

 俺が主人公になりたいのは賞賛されるためじゃない、自分だけの価値が欲しかっただけ。

 こんな俺でも誰かを助ける事が出来る・・・・・・そんな価値が。

 

 沖に向かっていく深海棲艦を見つめ、俺は普段使っている艤装を付け海に乗り出し、辺りに在る岩場に身を隠しながら少しずつ、バレない様に深海棲艦の後を追う。

 運のいいことに、深海棲艦が向かう先には身を隠せそうな岩場が辺りにずっと点々として後を追うのに困ることはなかった。

 そして岩数も少なくなってきた頃、深海棲艦が急に速度を上げる。

 もしやと思い、海の先を目を凝らして見るとオレンジ色の服を着た艦娘の姿が小さく見えた。

 

 岩場は少ない。ここから先は見つからないよう慎重に行かなければ。

 見つからないように。

 そうすると必然と素早く動けなくなる。

 さっきまですぐそこに見えていた深海棲艦が離れていく。

 それでも、まだ焦る時ではない。

 俺がするべき事は最後に残った艦載機を撃ち落とすこと。

 それまでの経過は・・・・・・主人公に任せればいい。

 

 深海棲艦が遠くにいったおかげで移動に余裕ができる。

 俺はこの先で起こるであろう海戦を隠れながら眺めることのできる場所を探すことにした。

 探す途中、俺はこの先に起こる事を改めて思い出す。

 たしか三水戦の皆が追い詰められているとこを遠征から帰る途中の金剛達が助ける。

 そして帰還しようとした時に撃ち漏らした艦載機によって如月が沈む。

 

 岩を探していると遠くでチカチカと何かが光っている場所を見つけた。小さく爆音も。

 そしてその先の途中、最後の場所だと言わんばかりに大きい岩がポツンとあった。

 俺はそこで先で起こっている海戦を眺めることに決めた。

 岩に近づくと、遠目ながら先の様子がよく見えた。

 

 三水戦の皆は二隻の軽空母ヌ級に苦戦していた。

 数多くの艦載機が取り囲むように散開しながら四方から爆撃をしている。

 負けじと砲撃を艦載機に向かって撃っている様だが効果は薄い様にみえる。

 

 俺はまだ動く時じゃない。

 そう言い聞かせて先の戦いを見つめる。

 ・・・・・・この時、心のどこかで見落としがあるように感じたが無視をした。

 全部が俺の思った通りに事が進んでいるから。

 感じた所から湧き上がる焦燥は俺の、如月を助けられるかという不安から来るものだと疑わなかった。

 

 深海棲艦は少しずつ、確実に三水戦の皆を追い詰める。

 艦載機の爆撃の間隔が短く、早くなっていく。

 金剛は何をやっているのだろうか?

 早く来い、とっとと来い。

 

 そんな事を思っていると一機の艦載機が睦月に向かって一直線に向かって居るのが見えた。

 あれは不味いっ・・・・・・!

 そう感じた時、睦月の前に吹雪が立ちふさがって、その艦載機を撃ち落とす。

 

 ・・・・・・そうだよ、あったなそんな事。

 この後に金剛が来てサックリ作戦終了だよ。

 ならその後に俺が艦載機を撃てばいい。

 

 俺の目先ではその勢いのまま一隻のヌ級に魚雷を撃ち込む吹雪の姿が見えた。

 その魚雷に当たったヌ級はあっという間に海に沈んでいく。

 

 早く来い金剛。

 早く、早く。

 

 そんな気持ちとは裏腹に残ったヌ級と艦載機が再び三水戦を囲って爆撃を始める。

 ここに来て初めて焦燥感が俺のどの感情よりも上回る。

 遅い。おそい。オソイ。

 右を見ても、左を見ても、戦っている先を見ても、電探で辺りを調べても何も近づいていない。

 なんで?

 この後すぐに来るんじゃないのか?

 アニメではそうだったが実際では時間差があるのか?

 

 けど、そんな勘違いはすぐに間違いだと思い知らされる。

 

「・・・は?」

 

 勘違いだと分かったのは眼前に見えた光景だ。

 

 

 艦載機の空爆に当たって、ぐったりと崩れ落ちる吹雪の姿。

 そんな吹雪を睦月が支え、その周りを川内さん達が庇うように囲む姿だ。

 こんな事はアニメではなかった・・・それはハッキリと言える。

 じゃあなんでこんな事になってるんだ?

 

 ・・・・・・もう、気づいていたのかもしれない。

 この世界はアニメに似ているだけであってアニメの世界じゃないんだ、と。

 焦燥感はそんな心の奥底からの警告だったのかもしれない。

 

「畜生ッ・・・・・・!!間に合えッ・・・間に合えッ・・・・・・!!」

 

 岩場の影から勢いよく飛び出し、吹雪達の方へ向かう。

 見える距離だが、この距離がとても長く感じた。

 向かう途中、自分の情けなさに目頭が熱くなる。

 だってそうだろ?俺はこの時まで仲間のピンチをヘラヘラと眺めていたんだから。

 

 近づくにつれ声が聞こえてくる。

 それは川内さんが空に向かって吠える声。

 それは夕立が泣き言をいいながらも懸命に艦載機を撃ち落とそうとする声。

 そして――――睦月が泣きながら吹雪を心配する声。

 全部俺が眺めていないですぐに狩り出ていれば起こらなかった事だ。

 

 全部俺のせいだった。

 

「クソッタレ!!羽虫全部叩き落としてやるッ!!」

 

「嘘でしょ!?なんで響がここに居るのっ!?」

 

 誰かが言った疑問を無視して艦載機が渦巻く中心にがむしゃらに飛び込む。

 中心に飛び込む際には艦載機の飛ぶ音が耳にひたすらこびり付いた。

 

 俺はこの日に備えて、この嫌な思いをしない為にやってきたはずだ・・・・・・。

 なのに結局苦汁を舐める羽目になったのは、もしかしたらというあらゆる可能性から目を逸らした結果だった。

 甘かった・・・・・・何かを変えたかったら、他人任せにするんじゃなく自分が真っ先に行動しなければならない。

 護衛艦なら、なおさらだ。

 護衛艦は敵の攻撃に備えて誰よりも敵前に出なければいけなかった。

 

 俺の甘さ、それは俺を含めた皆で仲良くハッピーエンドを迎えるといった覚悟だ。

 けど今、ハッキリと分かった。

 護衛艦に・・・俺に必要な覚悟とは、『誰よりも先に沈む覚悟』だった。

 

 中心にたどり着き、俺は高角砲を今にも爆撃をしてきそうな艦載機に向けて砲撃を可能な限り連射する。

 手前の艦載機を撃ち落とすと同時に、次々と他の艦載機が動けない吹雪達を狙う様に飛んでくる。

 そして近づいてきた艦載機を近い順に撃ち落とす。

 

 艦載機は見た目より多くなかった。

 少し撃ち続けただけで空にある黒い点は数を減らし、片手の指で足りる程に減ってしまった。

 その黒い点も砲身が火を吹く度に、煙を上げ、海面へと叩きつけられ消えていく。

 もう、この近くにある異物は艦載機を載せていないヌ級だけだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

 ヌ級は何も出来なくなった為か向きを変え、海の向こうへ帰ろうとする。

 ・・・・・・この状況で逃げれる訳ないだろうが。

 

 後ろを向き、この場から離れていくヌ級に狙いを良く定め、砲撃を当てる。

 砲撃が当たるとヌ級は轟々と黒い煙を吹き出し、海面にかろうじて浮いた状態になった。

 やはりというか、駆逐艦の火力では軽空母を一撃で沈めるのは難しいらしい。

 

「・・・・・・うん、色々と考えを改めたよ」

 

 とどめの砲撃を撃とうとした時、ヌ級と目があったような気がした。

 勿論、情なんて沸く筈もなく渇いた破裂音と共にその姿は海に消えていった。

 

「・・・あの、響ちゃん助けてくれてありがとうございます。おかげで助かりました」

 

 ヌ級が消えていく様を見ていると後ろからそんな声が聞こえ、反射的に振り返る。

 後ろには神通がいた。何処かに怪我を負っている三水戦の皆がいた。

 皆は口々にありがとう、とお礼を言ってきた。

 さっきまですぐそばで見ていた俺にだ。

 なんて返せばいいか分からなかった。

 

 ふと吹雪の様子が気になって、吹雪に目を向けると吹雪はうっすらと目を開けていて俺と目があった。

 すると吹雪の口が、あ り が と う と動いたように見えた。

 

 途端に怖くなった。

 何も知らないで俺にお礼を言ってる皆がこの事を知ったらどう態度を変えるだろう、と。

 そう考えるとその場に居るのが怖くなった。

 だから、そこから逃げた。

 

 遠くで誰かが静止する声を無視して鎮守府に戻る途中、空が気になって一度振り返った。

 空は水色と白でいっぱいだった。艦載機なんて何処にも見当たらなかった。

 

 

 

 

 鎮守府に戻ると一番に船着場で腕を組みながら立っている長門の姿が目に入った。

 長門も気づいたのか、こちらをじっと見てきた。

 俺は今日だけはできるだけ関わりたくなかったが、ここから引き返して違う所から上がる訳にも今更行かず・・・・・・ゆっくりと陸に上がる。

 陸に上がっても長門は近づいて来る訳でもなく、ただそこに立っているだけ。

 ・・・・・・これは、俺から行かなきゃいけないのか・・・・・・。

 

 先程の傍観の事といい、これから言われるであろう作戦乱入の件といい、考えるだけで重たくなった足を動かすのは嫌になるがそれでも俺は長門の方へ向かっていった。

 距離が歩く度に近くなる。

 今回の事で怒られるのは承知の上だ。

 ・・・それに、俺のせいで怪我をおった皆に感謝されたまま一日を終えたくなかった。

 

 どんどんと距離が近づき、もう会話がいつ始まってもおかしくない距離になった。

 それでも長門は話さない。

 それどころか長門は俺ではなく海を見ている様だった。

 そのせいで一瞬だけ困惑し、少し立ち止まって自分から話に行くべきか悩んでしまった。

 長門はそんな俺の様子を気にも止めないで海を見ている。

 

 ・・・・・・いこう。ほっとかれるならその方が楽だ。

 ずっと同じ場所で佇んでいる長門を避けるため、横に一歩動いて傍を通りすぎようとすると長門が不意に話しだした。

 

「・・・・・・今さっき神通から連絡が入った。作戦途中、響に助けられた・・・と」

 

「助けて・・・ないですよ。俺のせいで吹雪が轟沈寸前まで行きましたから」

 

「・・・・・・今回の作戦は、深海棲艦に作戦内容の漏洩が懸念されていた為、どの艦娘にも言っていない保険があった」

 

「・・・・・・」

 

「保険というのは、作戦決行時間に遠征帰還中の名目の元、金剛型戦艦4隻が通りかかり作戦に加わるという物だ。結果は偶然か必然か、帰還途中に深海棲艦と遭遇戦になって到着に数分遅れたよ」

 

「・・・・・・」

 

「響はどこまで知っていた?神通の話だと響は島のある方角から現れたと言っていた。もし島から出てきたとしたら、響は作戦開始よりも前に島に居た事になる。だとすると響はどうして海戦が始まった時にすぐに現れなかった?・・・仮に響が金剛達の事を知っていた、と考えるとその先で何があった?」

 

「・・・」

 

「私は作戦がアクシデントこそあったが無事に終わった時、違和感を感じた。・・・・・・響、響なら、この違和感の正体を知っているんじゃないか?」

 

「・・・・・・もし、違和感を感じてたとしたら、長門さんが心の何処かでこの作戦は犠牲が出ると思ってたんでしょう」

 

「・・・そうか。だとしたら私は秘書艦失格だな。犠牲を承知の上で作戦を立てるなんて狂気の沙汰だ」

 

 その後、長門は話すことが無くなったのか黙ってしまう。

 結局、俺は責められも褒められもしなかった。

 俺がどうしてあの場にいたかも聞かれなかった。

 それにしても犠牲か・・・・・・。

 

「・・・長門秘書艦、お願いがあります」

 

「なんだ」

 

「俺を・・・前線に出してください。これからの戦い、犠牲を出さない様・・・とは言えませんが、俺が戦いに出れる間は犠牲が少なくなる様に努めます。誰よりも敵を惹きつけて見せます。・・・・・・どうか、お願いします」

 

「・・・・・・今日にも提督に掛け合ってみるよ。だが響、無茶はするなよ」

 

 そう言ってくれた長門に一礼をしてその場を去る。

 これでいい。

 俺は本当に死ぬ気で行かないと何も変えることができないって分かったから。


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