オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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2-4 いろんな未来に思いを馳せて

 流石に二日連続朝帰りはまずかった。

 そんな俺に暁は朝食の時も、授業が始まる前もお昼でも、俺にレディレディ言ってきた。

 そして授業が終わっても・・・・・・。

 余りにもしつこくレディレディ言ってくるので俺は――――

 

「いい?そんなだから響は何時まで経ってもレディになれないのよ!」

 

「・・・」

 

「・・・?響、ちゃんと聴いてるの?響は私の妹なんだからレディらしくしてよね!プンスカ!」

 

「・・・・・・れでぃ・・・」

 

「そう!レディ!!響はレディに「Gooooooooo!!」・・・・・・へ?」

 

 LadyGo(逃走)した。

 全身の筋肉が俺の逃走を成功させる為に爆発的な瞬発力を生み出す。

 そして廊下を出て数メートルでトップスピードに到達した俺はすぐに曲がり角に直面した。

 

 だが俺は曲がり角程度でスピードを落とす真似はしない。

 下手をすると暁に掴まってしまうかもしれないから。

 それにスピードを落とさずとも曲がり角位曲がる方法はあるのだ。

 

 それは身近にある物理の法則。

 物体っていうのは真っ直ぐ動いている状態から違う方向に曲がろうとすると『右なら左』『左なら右』つまり曲がる方向と逆方向に引っ張られる、という法則が存在する。

 これを遠心力という。

 そして遠心力は物体の進む早さが早ければ早いほど強くなる。

 

 つまり、その方法とはトップスピードで曲がる事によって生まれる遠心力を利用して、壁に足を掛けて走り曲がる。という至ってシンプルな方法だった。

 

 落ち着け、曲がり始めなければ遠心力は生まれない。

 つまり曲がろうとした時ではなく、曲がった時に壁に足を掛けなければいけない。

 タイミングを間違えれば俺は壁に激突する。

 いや・・・失敗を考えるな!成功だけ思い浮かべてればいいんだ!!

 

 運命の時来たる。

 俺は曲がり角に差し掛かり、その角を曲がり始めたとき、確かに俺は体が逆に引っ張られる感覚を感じた。

 

 今だッ!!

 

 俺はその感覚を感じた瞬間に壁に足を掛ける。

 足は確実に壁を捉え、次の一歩を出すために捉えた壁を蹴り上げた。

 

 

 

 そして俺は「あごしッ!?」・・・目の前に出現したもうひとつの壁に激突した。

 壁は・・・二枚あった。

 そう、ぶつかった後に思ったのだが、この建物の作りって曲がり角は直角だったわ・・・・・・。

 そうなるとそのまま走っても、隣にある壁を走れても、目の前にある壁にぶつかるのは必然な訳で。

 

「――あぁっ!響お姉ちゃんが壁に激突したのです!」

 

「えっ!?ちょっと響、大丈夫?立てる?ほら、私に掴まって?」

 

「大丈夫だ、問題ない。・・・それより遠くへ・・・・・・レディが、レディがくるぅ」

 

「響?フラフラしてるんだけど本当に大丈夫?一緒に医務室行きましょ?」

 

「そんな暇はないぃ、レディと壁が襲ってくるよう。にげるよ・・・ひびきはゆっくりにげるよ」

 

 全身が痛いけど暁にレディに改造されるより、この痛みに耐えながらも未来に生きたほうがマシだッ!

 俺の未来はっ・・・・・・俺だけの物だッ!!

 そして電には電の、雷には雷の未来がある・・・・・・。

 俺の中にあるなんかそんな感じのフワッフワッな思いを込めて電と雷にサムズアップを送る。

 

「グットラック」

 

「・・・うん(訳がわからない・・・)」「グットラックなのですっ!」

 

 俺には俺の、二人には二人の輝かしい未来が待っている。

 

 さあ!歩きだそう!

 輝かしい未来へ!沢山の希望や無限の夢が僕を待ってる!!

 

 ・・・・・・待ってるんだ!!

 だから・・・だから・・・・・・

 

「暁俺の肩から手をどけてくれぇぇ」

 

「駄目。逃げようとした分もきっちりお説教だから」

 

 忘れてはいけない。

 未来が希望に満ちているものでも、今いるこの場所はそんな物とは無縁の位置に――絶望にあるという事を。

 俺が明るい未来を掴むには、まずこの修羅場を乗り越えなければいけない。

 

「待って落ち着け理由が、これには理由があるんだ、なあ?吹雪ぃ!」

 

 俺がブッキーの名前を出した事により、誰もが遠巻きに眺めているギャラリーの一人に目を向ける。

 言わずもがな、その一人とはブッキーである。

 

「へ?私!?」

 

「・・・吹雪、それってホント・・・・・・?」

 

「本当だよなぁ!そうだよなぁ!吹雪ちゃん今日はこの響さんに大層お世話になったじゃないかぁ!!」

 

「響少し静かにして「はい」・・・で、どうなの?」

 

「・・・・・・あーと、えーっと・・・」

 

 駄目だ!言いよどんでるって事はかばう気が無いって事だ!

 くそっ!思い出せブッキー!俺は一晩ブッキーの特訓に付き合ったじゃないか!

 ほら、借りを返せ!!・・・・・・早くしろ!間に合わなくなっても知らんぞぉ!! 

 

 ブッキーはというと、少し下を向いていたが「・・・あ」という声と共に笑顔をこちらに向けた。

 おいおい・・・勘弁してくれ。今日の事だぜ?もう忘れちまったのか、ブッキーてば駄目駄目だなぁ。

 

「そういえば響ちゃんが――――」

 

 そしてニコニコとブッキーは俺をかばう為に喋りだした。

 けどおかしいな?顔を上げた時の目は・・・ていうか今の表情もどこか薄ら寒い様な気がする。

 

 吹雪の目・・・・・・それは養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ、残酷な目だ・・・『かわいそうだけど明日の朝には、お肉屋さんの店先にならぶ運命なのね』って感じの。

 

「――――昨日から一晩中下ネタ言ってお腹抱えて笑ってた」

 

「バカヤロウ!!言ってねえよ!違うよ!今はボケとかいいんだよっ!」

 

「・・・へぇ。ひびき・・・ひびきはレディとして一から教育する必要があるみたいね」

 

「ふざけんな!適当言いやがって・・・俺が下ネタに走ったのは朝方だろうがッ!!」

 

「ひびき・・・・・・いったのね・・・・・・?」

 

 あっ・・・・・・墓穴掘った。

 ヤバイヤバイヤバイッ!!このままでは2~3時間正座状態でレディ洗脳講座(意味不)に強制参加する羽目にッ!!

 

「クソッ・・・!!粉バナナ!!これはブッキーが俺をおとしいれる為に仕組んだバナナ!!」

 

「そうなの。後は部屋で詳しく聞いてあげるから戻るわよ」

 

「HA☆NA☆SE!!吹雪見てないでさっきのは嘘だと言えぇぇ!!」

 

「・・・・・・響ちゃん、今朝の事、これで許してあげるね?」

 

「畜生ッ覚えてろぉぉ!この俺がやられても、第2、第3のオリ主が必ずや――――」

 

 暁は俺が喋っているにも関わらず、襟首を掴んでズルズルと俺を引きずって行く。

 少しずつ吹雪や電、雷達が遠く離れていく。

 

「ねぇ電、二人共部屋に戻っちゃったけどこれからどうする?」

 

「取り敢えず、部屋にはしばらく入れないのです」

 

 曲がり角で皆が見えなくなった時に、最後に聞こえてきた声は・・・俺を見捨てる事を選んだ非情な姉妹の声だった。

 

 

 

 

 あれから部屋に戻って数時間、電と雷が戻ってきて夕飯とってまた数時間、暁お姉さまは俺にありがたいレディの心構え、レディらしい行動を懇切丁寧に喋って・・・お教えくださっっている。

 そして長い時間正座をしていたせいで体に状態異常が現れる。

 

「あの・・・暁・・・ホント反省しました・・・もう下品な振る舞いはしません。朝帰りもしないようにします。だからもう許してマジで」

 

「駄目」

 

 さっきから本気で謝り続けているが、今回、暁は許してくれない。

 どうやら今までのツケがここで効いている様だ。

 ああ、なんでこうなった・・・・・・。過去に戻れるならその時の俺を殴りてえ。

 

「暁もう勘弁して・・・いろいろあって、もう泣きそう」

 

「泣けばいいじゃない」

 

 暁は許してくれそうにない。

 もう本当に泣きそうだった。・・・・・・上も下も。

 

「ねぇ暁、トイレいかせて?漏れそうなんだ・・・本当に」

 

「とか言って逃げるんでしょう?何回も同じ手は効かないわ」

 

「嘘じゃない!マジ!マジだって!トイレ行ったらまた正座するから!」

 

「響はそう言って何回嘘付いた事がある?」

 

「今回は本当だって!暁は夕飯前に行ったけど、俺はその間も電達に見張られて8時間近く行って無いんだって!!」

 

「へえ、そう」

 

 ああ、もう駄目だ。俺はこの年になって小便を漏らす事になるのか。

 それも座ったまま、幼女3人に見られながら。

 ・・・あれ?視界が滲んで暁が見えないや。

 

「あのね響、レディはトイレに行く時はお花を積みに行くって言わなきゃいけないの・・・・・・あれ?響本当に泣いてるの?」

 

「ふふ・・・見ててね暁・・・・・・。もうすぐマジで漏れるから。・・・華々しく正座しながら醜態晒してやるっ畜生ッ!!」

 

「きゃあああ!!行って!行っていいから!!早く行って来て!!」

 

「本当かい?それじゃあちょっと行ってぇ!?」

 

「・・・・・・どうしたの?行かないの?」

 

「はっはっはっ、もう駄目だ。雷電、雑巾とバケツ持ってきて。足がしびれて動けない」

 

「ああもう!雷そっち持って!響をトイレに連れてくわよ!」「ええ!任せて!!」

 

 そして流れる様に二人に両脇を抱えられ、えっちらおっちらとトイレに連れてきてもらった。

 この時、男なら自前のホースを力いっぱい摘めば一時的になんとかなるんだが・・・・・・女の子って不便だなぁ。

 その内生理なんかも来るんだろうか、来るんだろうなぁ、嫌だなぁ。

 

「はい、着いたから早く行ってきてよね!」

 

「おぉありがとう。ついでにトイレに座らせてくれるとありがたい」

 

「分かったわ!響は一人でパンツ脱げる?もしよかったら手伝ってあげる」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 雷さんや、パンツは足がしびれても自分で脱げますよ?

 にしても、やっとここまで来れたか。

 まさにギリギリセーフってやつだな。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「・・・・・・」

 

「・・・響はおしっこしないの?」

 

「・・・・・・でもよかったわ!響がトイレに間に合って!」

 

「本当ありがとう!・・・でも二人に見られながらするのは流石の俺も恥ずかしいかなーって」

 

 そう言うと二人は顔を真っ赤にして雲の子を散らす様に出て行った。

 まぁそうだよな、好き好んで俺が小便するのを見ようとする奴もおるまい。

 見たいなんて言う奴は変態だ。とびっきりの。

 ちなみに俺は見慣れた。毎日、何回も見るもの。もうドキドキもしない。

 

 そんな事より小便だ・・・。もう膀胱がはちきれそう。

 パンツを下ろし少し力を緩めると我慢してたおしっこが勢いよく出てくる。

 それはもう、シャァァァなんて豪快な音を立てながら。

 

 ・・・・・・そういえば、水を高圧で噴出するとダイヤモンドも切れるんだっけか・・・・・・となると俺の小便でも石位切れるのかしら?

 ・・・嫌だな、そんな小便・・・便器真っ二つじゃねえか。

 そんなくだらない事を考えている内におしっこは出終わる。

 

 あぁ、拭くのも毎回思うがめんどいな・・・・・・。

 男なら数回振っておしまいなのに。何をって?勿論ナニをです。

 ・・・やめやめ。考えるだけ無駄。ナニを近代化改装する訳でもあるまいし。

 もうスッキリしたし、足のしびれも取れた!もう何も怖くない!!

 

 そしてトイレから出ようとした時に思った。

 出たらまた強制レディ講座か・・・・・・?と。

 ・・・うん、大丈夫だよ。あの流れでこれ以上のお説教は無いよ。

 

 トイレから出ると二人は近くで待っていたらしく、雷が「もういいの?」なんて聞いてきた。

 なので「はらしょー」とだけ返し、畳の上でゴロゴロしようと心に決めた。

 ・・・お説教が終われば。

 

「・・・所で響、本っ当に反省した?」

 

「うん。今回はマジで。まさかトイレにいけなくなるなんて思わなかったし」

 

「響が嘘を言わなければトイレくらい行かせてあげるわよ。それより!反省したって事はレディとしてちゃんと振舞うって事でいいのよね?」

 

「申し訳ございません。レディは荷が重いです、普通にしてるんで勘弁してください」

 

「全く・・・そんな事言ってるから何時まで経ってもレディに近づけないのよ」

 

 俺はそんな暁の言葉に適当に相槌を打って畳に寝転がった。

 ・・・・・・いや、寝転がろうとした。

 

「・・・ぁ」

 

「どうしたの響」

 

「・・・いや、別に」

 

 さっきまでのフワフワした気分は吹き飛び、体に嫌な冷たさだけがじっとりと残る。

 俺の行動を邪魔したのは暁でも雷でも電でもない。

 それは俺が寝転がろうとした時にふっ、と窓から見えたひとつの光景。

 

「・・・あっ、こんな時間に何やってるのかしら?」

 

「暁、何が見えるの!?・・・あれって三水戦の皆じゃない」

 

「電も!電も見るのです!!」

 

 窓から見えた光景は、三水戦の皆が輪になって掛け声を揚げている光景だった。

 ・・・・・・そうだよな、吹雪が来たしこうなるよな。

 

 ・・・知っていても・・・覚悟をしていても実際にその時にならないと分からない事がある。

 いや・・・俺は知ってた上でそんな事はある訳ない、と目をそらしていたのかもしれない。

 けどそれは、俺が見ようと見まいと確かに近づいてきている。

 

 それはひとつの未来。

 大切な友達が居なくなる、そんな未来。

 そんな未来がもう・・・すぐ其処まで迫ってる。

 

「・・・響?もしかして眠いの?」

 

「そうなんだよ、寝てないしね。だからそろそろ寝ることにするよ。・・・じゃ、お休み」

 

 

 ・・・・・・忘れるな。

 今が希望に溢れていても――――

 今までがどんなに楽しかったとしても――――

 

 

 

 

 ふ、と隣を見るとこの場所は・・・・・・これ以上無いくらい救いの無い世界なんだから。


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