オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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2-1 オリ主と主人公と夜戦馬鹿

 街灯と月明かりに少しだけ照らされた、深夜の演習場で、同じ動きを繰り返す一人の艦娘がいた。

 その艦娘は演習場の的が置いてある場所に背を向け、後ろを振り返ると同時に主砲を構え、的のあった場所に砲撃を撃つ、というのをひたすらに繰り返す。

 

 もう何度も砲撃を撃っているのだろう。本来なら棒の先に付いているはずの的は既に無く、的のあった場所を撃った砲撃が通りすぎる。

 その一連の動作は早く、機械が動いているかの様に正確だった。

 少女は砲撃が通り過ぎるのを横目で確認すると、再び背を向け同じ動きを繰り返す、何度も何度も。

 

 そんな少女だけの演習場にまた一人、艦娘が訪れる。

 後からきた艦娘は、しばらくその少女の様子を眺めていた・・・が、すぐに飽きがきたようで船着場の先端まで歩き、少女の近くに進む。

 少女もこちらに近づく艦娘に気づき、繰り返していた動きを止め、船着場まで移動した。

 

「やぁ響、やってるね~。少しは上手くなった?」

 

「いや、これ以上は多分上手くならないかと。それより川内さん、のぞき見とは良い趣味じゃありませんね」

 

「あははは、いいじゃん!別に減るもんじゃないし」

 

「減るよ?やる気とガッツがガッツり減ります」

 

「響、それじゃあ意味おんなじ。でもさー、よく毎日同じ事が出来るよね」

 

「まさか、俺は週4ですよ。毎日じゃ心折れますって。その点、赤城さんは凄いですよ。毎日朝昼晩、矢を射ちっぱなし。多分あの人、寝る食べるお茶する以外全部、矢を射ってるんじゃないです?」

 

「あの人は超人だから。それより特訓はおしまい?もしかして邪魔しちゃった?」

 

「そーですね、邪魔しちゃいましたね。川内さんのせいでやる気ゲージがデットゾーンですよ。・・・冗談ですけど。きりがいいので戻ろっかな、なんて」

 

「へー、じゃあ響は暇だ。それならさ!今からなんかしないっ!?」

 

 川内がそう言った瞬間、響の表情が『はぁ?何言ってんの、今何時だと思っているの!?』に変わる。

 その表情はあらかさまな拒絶だった。そして表情を崩さずに陸に揚がり、川内に近づく響・・・・・・。

 

「タッチ」

 

 響は川内に素早く触り、猛スピードで距離をとった。

 

「何かした、響?」

 

「何かするんですよね、だから『鬼ごっこ』今、川内さんが鬼ですよ」

 

 響はそう言うと、こちらの様子を見ながらゆっくりと距離を空ける。

 この時、川内は響がとった表情の意味に気づいた。

 

 響の嫌な表情はフェイクだった!内心ノリノリだったに違いない。

 だが、笑いながらや無表情で近づくと何か企んでいるのではと疑われ近づけない。そこであの表情だ。

 何かやる事に対し、否定的な表情を作ることによって川内は響は何もやらないと勘違いしてしまった・・・・・・!

 

(そして響の接近を許してしまった私は響の手によって『鬼ごっこの鬼』にされてしまった!!)

 

 遠くでは響が「川内さーん、カモンカモン!鬼さんこちら~」と川内を煽っている。

 ここまでくると川内に残された選択肢は一つしかなかった!それは――――

 

「待ってな、おてんば駆逐艦!この川内様がとっ捕まえてやるわ!!」

 

 川内は響に向かって全力で駆け出すっ!

 汚い手を使って私を鬼にした事を後悔させてやるっ、と意気込んで。

 

 だが、響がそれを見ているだけの訳が無かった!

 

「おぉ!やべぇ、これは全力で逃げねば・・・・・・あばよ~、とっつぁ~ん!」

 

「誰がとっつぁんだーっ!まてぇい、響ーっ!!」

 

 逃げる寸前に川内を煽る響、とっつぁんを否定する割にモノマネをする川内、なんと言うか・・・・・・この二人ノリノリである。

 その後、捕まったり捕まえたりで気がつけば日の出まであと少しになった頃・・・・・・。

 

「ぜー・・・ぜー・・・、川内さん・・・もう、解散しますか・・・・・・」

 

「はーっ・・・はーっ・・・そうだね、そろそろ朝だし・・・・・・」

 

「じゃ、俺は戻って少し寝ます・・・・・・」

 

「私も寝よ。お休み響」

 

「・・・・・・良い夢見ろよ」

 

 さり際に響はビシッ、とポーズをとって部屋の方に消えていった・・・・・・。

 私も少し寝ないと今日が辛くなるな、と川内がそう思っていると第三水雷戦隊 駆逐艦部屋の扉が開く。

 扉から出てきたのは吹雪だった。

 

「あれ川内さん、早起きですね!」

 

「え、まさか、これから寝るところ。何、トレーニング?」

 

「はい!少しでも皆に追いついて迷惑かけないようにしなきゃいけませんから」

 

 吹雪はそう言うと「ホッ、ホッ、ホッ」とリズムよく階段を下りていった。

 

「元気だねー、駆逐艦は・・・ふぁー・・・・・・寝よ」

 

 

 

 

 

 

 今日の俺は、とことん付いていなかった。

 朝早くに部屋に戻ると、暁達に怒られる。

 朝食の納豆に、醤油と間違えソースを掛ける。

 徹夜で眠かったので授業が始まるまで寝ていると、ぜかましに絡まれる。お返しにパンツの紐を引っぱってゴムパッチンしてやった。

 

 宿題を忘れた夕立が怒られているのを笑っていると、自分は勉強道具一式忘れたことに気づく。

 夕立と一緒に『合コンに失敗した機嫌の悪い足柄さん』に20,3cm連装砲でポイされかける。

 演習場に行く途中、電が転ぶ。その際に俺のスカートを掴んでいたらしく、スカートと一緒にパンツもずれる。

 

 昼食、俺のスープの中にハエが飛び込んだ。2匹も。

 授業が終わり部屋に戻ると、タンスの角に足の小指を盛大にぶつける。上から辞典も落ちてきた。

 皆で勉強している時、消しゴムを使ったら消しゴムがバックリと裂ける。新品なのに・・・・・・。

 自分のベットで昼寝をしていたら、いつの間にか隣で寝ていた電に脇腹を蹴られた。

 

 夕食、塩で味付けを変えていると蓋が外れ、焼き魚の上に塩の山が出来た。

 風呂場で滑って転けて尻餅付いた。

 着替えを忘れた。

 着替えようとタンスに向かう。下に落ちてた辞典に同じ足の小指をモロックソぶつける。何故だ・・・俺はちゃんと上に戻したハズなのにっ!

 

 そして就寝時間になったが、昼寝したせいで眠れねぇっ!!

 これは何とも当然の結果でもある。

 このまま起きていると明日に支障が出てしまう。

 どうにかして眠らないと、と思っていると昨日の事を思い出した。

 

 そういえば昨日は特訓を途中でやめたっけ、と。

 今から少し動いて来るか、動けば疲れて眠くなるかもしれん。

 そう考えた俺は、皆を起こさないようにそっと、部屋を抜け出そうと――――

 

「今日も特訓するの?」

 

「どぉっ!!・・・ビックリしたぁ。何、暁起きてたの」

 

「うん。それより響、今日は早く帰ってきてよね。お姉さん心配してるんだからね!」

 

「あいあいさー。まっ、今日は軽く走ってくるだけだから時間はかからないよ。だから暁も早く寝なよ、じゃないと大きくなれないぜ?」

 

「むかっ!響にだけは言われたくないわ!いつもいつも夜遅くに出歩いて――――」

 

「おちけつ暁!起きる、雷電が起きるって!」

 

「むぅ、帰ってきたら覚えてなさい?」

 

「ハハハ・・・勘弁してよ、せめて明日でお願いします。――じゃ、行ってくるわ」

 

 そう言って、今度こそ部屋を出る。

 さり際に聞こえた「いってらっしゃい。・・・それにしても響はホントに困っちゃうわ」という愚痴には笑わざるおえない。暁は本当に良いお姉さんだと思う、絶対に言ったりしないが。

 

 今日は心配かけさせない様に早く戻ろう、そんな事を思いながら寮を出ると、遠くから声が聞こえてきた。

 声のする方に行くと、寮の近くにあるグラウンドで川内さんと吹雪を見つけた。

 

「そうそう、バランスは腰と膝で取るようにして――――」

 

「・・・お、・・・とととっ」

 

「お、いい感じ」

 

「・・・ととととぉっ・・・・・・きゃあ!」

 

 ズダーン、と仰向けに転げる吹雪。

 どうやら二人は特訓中の様だ。普段なら眺めていてもいいのだが、今日は早く帰ると言ってしまったので見るのも程々に行くとしますか。

 寮の周りを軽く走ればいいな、なんて思いながら後ろに戻ろうとした時、吹雪と目が合ってしまう。

 

「響ちゃん?」

 

 気づかれてしまってはしょうが無い。このまま無視して行くのも良くないだろうし。

 俺は軽く手を上げて、ゆっくりと二人に近づく。

 

「やっほー、ブッキー。特訓?」

 

「うん。私って駄目だから、皆に少しでも追いつかなきゃって思ってて。響ちゃんはどうしたの?」

 

「俺は寝れなくてね。少し走ろうかなって出てきたら声が聞こえたんで来てみました」

 

「えっ!?響ちゃん、今日はあんなに眠そうだったのに寝れないの!?」

 

「ははは、昼寝をしたら寝れなくなった。困った」

 

「あっ、響も!?実はさー、私も寝れなくて――――」

 

「あー、それでブッキーを巻き込んで特訓・・・・・・川内さん鬼っすね」

 

「人聞き悪いよっ響!・・・確かに寝れないのもあるけど、それでも一人で吹雪が特訓するより、誰かが教えてあげながらの方が上達するじゃん!!」

 

 だよねっ!と吹雪の方に目線を向ける川内さん。

 だけどブッキー、超苦笑いしてるんだ。

 きっとブッキーは、川内さんは寝れないから私も巻き込んだんだろうな。って思ってるよ。

 

「それじゃ、俺そろそろ行きますわ。グッドナイト!」

 

 そして俺は逃げるっ!流石に2日連続オールナイトはキツイ!!

 これ以上巻き込まれない様に逃げるんやっ!

 

「待って響!もしよかったら響も吹雪に教えてあげてよ。駆逐艦同士・・・響なら何処をどうすればいいか解るんじゃないかな」

 

 駆逐艦 響 は にげだした!

 しかし まわり こまれて しまった!

 

 正直な所、勘弁して欲しかった。

 今日起こった不幸の内、半分位は寝不足が原因だからだ。

 それに二日連続で足柄さんを怒らせたら何が有るか分からない。・・・最悪、再び紐なしバンジーをする事に・・・・・・。

 

「・・・川内さん、明日が休みならOK出したんですが、流石に平日・・・それも2連チャンは・・・・・・」

 

「響!そこをなんとかっ!ちょっとでいいから何かアドバイスでもあげてくんない?・・・・・・それに響の時は私が教えてあげたじゃん!ねっ?ちょっと、ちょっとだけでいいから!」

 

 ごはっ!!そこでそれを出してくるかっ!

 それ言われたら受けざるおえないじゃん!!

 

「・・・・・・マジでちょっとですよ?遅くなると暁のご機嫌がやばいんで。で、ブッキーは何を練習してたん?」

 

「えっとね、川内さんが『駆逐艦はバランスが大事』だ!って言って、今バランスを上手く取る練習をしてるの」

 

「なるほどね。それで下に玉が二つ置いてあるのね。じゃあ取り敢えず玉乗ってみて」

 

 そう言うと吹雪は「うん」と言って玉に乗る・・・そして数秒もしない内にズデン、と背中から転げる。

 

「いたた・・・・・・さっきはもう少し長く乗れたのに。響ちゃん、もう一回やっていい?」

 

「あぁ、いいよ」

 

 それから吹雪は玉に乗ってはすぐ転ぶを何度も何度も繰り返す。

 時間は全然経ってないが、もう何回転んだか分からかった。

 そんな吹雪を横目に俺は、川内さんにだけ聞こえる位の声で言った。

 

「・・・ブッキー来てから半月位経ってるんで知ってましたが、改めてヤバイですね・・・・・・」

 

「・・・そうなんだよ。ここだけの話、近々出撃があるかもしれないって長門秘書艦が言っててさ。あのままだと出撃させれないって理由で三水戦から外すって」

 

 俺が返事を返さない事によって会話が切れ、未だに乗っては転ぶを繰り返す吹雪をただじっと見ることになった俺達。

 吹雪はひたすらに玉に乗っては転んでを繰り返す。そこに弱音や不満なんかは一切無い。

 ただひたすら真っ直ぐに他の人が見たら意味の分からない事を繰り返す。

 

 そんな吹雪を見ていると自分の心の奥底から、ムズ痒い感情が湧き上がってくるのを感じる。

 この感情は苛立ちだ。だけど俺は吹雪に苛立ちを感じている訳じゃなかった。

 俺だ・・・。俺は、俺に苛立っているんだ・・・・・・。

 川内さんが、吹雪が三水戦から外されると言った瞬間から俺は吹雪が自分に見えて仕方がなかった。

 

 と言っても来たばかりの頃の俺は、吹雪なんかと比べ物にならない位のグズっぷり。

 そんな俺に言われた言葉が『結果が出なかったら解体』だった。

 似ていた。今の吹雪は、来たばかりの俺にそっくりの様な・・・・・・いや、言われた言葉は違えど同じなのかもしれない。

 吹雪を見ているとあの時の後悔が押し寄せる。

 なんで自分は特別だと思ったのだろう。なんで周りを気遣えなかったのだろう。なんで皆が気遣ってくれてた事に気づかなかったのだろう。

 

「・・・・・ぇ」

 

「響?」

 

 あの頃の俺は、結局最後まで誰かに助けられてしまった。そして今でも恩を返せていない。

 けど吹雪は違う。吹雪なら・・・今なら自分の力で、鎮守府の皆に認めて貰える事ができるんじゃないか?

 

「・・・違ぇ」

 

「いたた・・・どうしたの響ちゃん?」

 

 俺は、今の吹雪が前の俺に見えて仕方がなかった。

 実際は吹雪は吹雪だし、俺は俺だ。そんな事は分かってる・・・けど――――

 

「違ぇ、全然駄目。あれだ、固ぇよ体が。あとバランスが崩れた時、重心を戻すのはいいがブッキーやり過ぎ。落ち着け、落ち着いて少しづつバランスを戻せばいい。欲張るとさっきみたいにすぐ転ける」

 

「響ちゃん?」

 

「なによ?質問は受け付けんぞ。ほらブッキー、最初はバランスの取り方を覚えるぞ。肩貸してやるから・・・・・・川内さんも逆に立って!」

 

「あ・・・うん。どうしたの響、急にやる気になって」

 

「うるさーい!!俺は何時だってやる気満々ですー。それよりブッキー、はよ肩掴まって玉乗れ」

 

「えっ・・・うん、ありがとう響ちゃん・・・・・・?」

 

「なんで疑問形なんだよ、普通に感謝しろよ」

 

「うん。ありがとう響ちゃん、川内さん。それじゃ肩借りるね?――――よっと」

 

「うーし、じゃあ軽く、ほんの少し膝曲げて・・・痛い痛い!ブッキー食い込んでる!爪がっ!!」

 

「ごめんね!?響ちゃぁぁああ!!」

 

 吹雪が俺に謝った瞬間、吹雪のバランスが大きく崩れ、俺もろとも地面に思いっきり倒れ込んだ。

 

「はははははっ!!やっぱり響は面白いなぁ」

 

「ってー・・・次は、川内さんのターンですよ?」

 

「ははは・・・やっぱり?」「本当にごめんね?響ちゃん」

 

 俺と吹雪は違う。そんなのは百も承知だ。

 だけど今の吹雪は前の俺にそっくりだ。

 

 だから、だから吹雪には俺ができなかった『自分だけの力で皆に認めてもらう』って事を俺の代わりにやって欲しいと思った。

 そのためには吹雪が上達しなければいけないんだけど・・・・・・時間掛かりそうだな。

 ・・・まぁ、夜は長い。明日が少し嫌になるけどブッキーの練習に付き合いますかっ!


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