その次の日。俺が居るクラスでは、朝早くからお祭り騒ぎが起こっていた。
「皆!この娘が昨日鎮守府に来た吹雪ちゃんだよ!」
「はじめまして!吹雪です!皆、よろしくねっ!」
「吹雪ちゃんは特型駆逐艦の一番艦っぽいー」
その理由は新しく入った駆逐艦の仲間。
皆子供だからな、新しく入った吹雪に興味津々のご様子。
ちなみに俺は、自分の席でそのご様子を伺っているご様子。
流石に大人になると子供がはしゃいでる輪の中に入るのはキツイ物がある。
「貴方が特一型駆逐艦の一番艦なのね。私は暁、特三型駆逐艦の一番艦よ。同じ特型駆逐艦の一番艦同士、仲良くしましょうね」
「でもって私が雷、隣に居るのが「電なのです!」、最後にあそこの席に座ってるのが響」
席でご様子を伺っていたら雷が俺の方に指をさしてきた。
きっと俺のことも紹介してくれたのだろう。挨拶がわりに向こうに軽く手をヒラヒラと振る。
「・・・あれが赤城先輩の」
「吹雪はまだ鎮守府に来たばかりで分からない事があると思うけど、そんな時はいつでも私に頼ってくれていいのよ?」
「あっ!雷ちゃんだよね、ありがとう!何かあったらお願いするね!」
「任せて!例えどんなに大変な事だろうと、私がきっと助けてあげるんだからっ!!」
しかしまぁ、なんていうか凄く微笑ましいなこの光景は。
ロリっ娘達が目の前でキャッキャと戯れるこの光景・・・きっと此処が理想郷なのだ・・・・・・。
俺は見たことも信じたことも無い、都合の良い神様に感謝することにした。
ありがとう神様。これで俺は今日も元気いっぱいです。
(ああ、素晴らしきかな、アヴァロン。・・・・・・ぐふふふふ)
「あ、あのー。・・・貴方が響ちゃん・・・だよね?」
俺がロリっ娘と戯れている妄想をしていると、地味目な女の子が話しかけてきた。
「誰だ貴様ッ!!・・・・・・なんだ、主人公か」
「へっ?主人公?(なんか、睦月ちゃんが言ってた様にこの娘は変わってるのかもしれない)・・・あの、昨日から鎮守府に配属された吹雪です。今日からこのクラスで一緒に勉強する事になったの。よろしくね!」
「うっす」
「・・・」
「・・・」
「・・・あれ?それだけ・・・」
「?」
「ちょっと響!響も自己紹介くらいしなさいよっ!」
なんかブッキーの自己紹介聞いてたら、いつの間にか席に着いていた暁に怒られた。
そしてなんでブッキーがこっちを見続けるかも分かった。
俺の自己紹介待ってたのね、俺もブッキーもお互いの名前知ってるから気付かんかった。
「俺が誰だって顔してるから教えてやるが・・・俺はお節介妬きのスピードワゴッ――」
「嘘つくのやめいっ!!」
バシン、と暁に叩かれる。
痛いじゃない!叩かなくってもいいじゃない!そんな気持ちを込めて暁に目を向ける。
すると、もう一発いく?と言わんばかりに再び手を振り上げる暁。
俺が暴力に屈した瞬間だった。
「響ッ!響っす!よろしくねっブッキーちゃん!だから手を下ろしてください暁さん!」
もう自己紹介はした!だから叩かれる必要はないはずだっ!!
そう思っていると暁はゆっくりと手を下ろしてくれた。・・・なんか、叩かれないなら叩かれないで悲しいものがある。
そうだよ、叩かれても言うだけで全然痛くないんだ。
むしろ叩かれれば良かったのかも・・・絵的にも面白いし。
「ねぇ、暁。別に叩いてもいいんだよ?」
「なんでよっ!?響は叩かれたいの!?」
「うん。どっちかっていうと叩かれないといけない気がする、義務っていうか」
「あはは・・・ごめんね暁ちゃん、響ちゃん。そろそろチャイムがなりそうだし私、席に着くね?
(変だ!予想よりも変だった!)」
そんな事を言ってると本当にチャイムが鳴り、足柄さんが中に入って来た。
あーあ、早く終わんねぇかなー。・・・・・・始まったばかりだけど。
「貴方達駆逐艦は、他の艦に比べて火力が低いけど、他の艦に負けない長所もあるわね――」
只今、授業真っ只中です。
ええ、とても退屈ですが何か?
俺の頭の中は帰りたいでいっぱいだった。
なので授業なんてろくに聞いちゃいない。
「――その長所を誰かに答えてもらいたいんだけど――――じゃあ響。駆逐艦の長所を言ってご覧なさい?」
(うーわー。なんで俺かなー、そこは来たばっかのブッキーだろ常識的に考えて)
「響・・・?もしかして授業、聞いてなかったのかしらぁ」
やべえ!空気が重くなった!
俺はガタン、と席から思い切り立ち上がる。
「ええええ?き、聞いていましたが何か?」
「ふーん、そう。・・・まあいいわ。響、聞いていたなら答えられるわよね?言ってご覧なさい」
ああ!聞いてたとも!聞いていたともっ!!駆逐艦の長所だろ!?楽勝さっ!!
「それは(速力が)早い!(運用コストが)安い!(遠征で資材が)旨い!この三点です!」
「・・・・・・響」
「はい!」
「廊下」
「なんでですかっ!?」
「駆逐艦は定食屋じゃないのよ!わかったら廊下に立ってなさい!」
「・・・・・・はらしょー」
なんか答えたら足柄さんが怒った・・・・・・。
一体何が悪かったのだろう・・・言い方か。
このご様子ではしばらく言い訳しない方がいいな。
俺は廊下にトボトボと向かう・・・・・・今の気持ちは、なんだろう。そう思っているとこれだ!と思うのを見つけた。
ぼそ「どなどなどなどなどーなー子牛をのーせーてー」「・・・ぶふっ」
「・・・・・・如月も廊下に立ってなさい」
「待ってください!今のは響さんがっ――――」
「 ろ う か 」
「うぅ・・・・・・はい」
わーい、仲間が増えたよ!これなら寂しくないねっ!
一緒に廊下に出ると如月がこちらをジト目で睨んでいた。
「ドンマイ」(小声)
「・・・響さんのせいですわよ。あそこで歌わなければ私まで廊下に立たなくて済んだのに」
(小声)
「まだまだ精進が足りんな、もっと根性だせいっ!!」(小声)
「無理ですわ!というかあの流れでドナドナを歌われたら誰だって笑うに決まってますわ!」
(小声)
「じゃあアレだ、自分の席が入口近くにあった事を呪うがよい」(小声)
「そもそも響さんが早い、安い、旨い、なんて言わなければっ――――」
「なに喋ってるのかしら?」
「へっ?何も喋ってませんが?・・・如月喋った?」
「いえ・・・私も響さんも喋った覚えは無いですけど・・・」
「そう。喋ってたら二人共今日の課題、特盛だからねー」そしてニコニコ顔からひと睨みで戦艦すら沈める顔つきに変わり「分かった・・・?」
((コクコクッ))
俺達の反応に満足したのか、足柄さんは中に戻って授業を開始した。
怒られなかったのは良かったが、このままだと退屈で死んでしまう。
その時、俺にあるアイディアが浮かぶ。
俺は足柄さんを確認し、こちらを向いてないのを確認して再び如月に話しかける。
「ねえ如月、鏡持ってない?」
「?鏡ならありますけど・・・」
「貸してくれない?」
「ええ、いいですけど・・・響さん、何に使うの?」
「んー、こう使うのさ」
俺はもう一度振り返り、大丈夫なのを確認してから手前の窓に手鏡を置いた。
これでよし。
「・・・?響さん、鏡を置いてどうしたんです?」
「これで中の様子が分かる。毎回後ろを見て確認するのはリスクが大きいからな。これなら振り返らずに足柄さんの行動が分かる、今こっちを見てるかどうかってな」
「考えましたわね、響さん」
「だろう?」
その後は二人で足柄さんの動きを鏡を使って見つつ、お喋りしながら時間を潰した。
如月が「今こっちを見ましたわ」と教えてきたり、俺が「向くか?向くか?向・・・かないっ!」と実況したりするのは凄く面白かった。
そんな感じで何回か授業と休み時間が繰り返し、昼休みに入った頃――――
「あのねっ響ちゃん!響ちゃんはどうやって赤城先輩の護衛艦になったのだろうか!?」バンッ!
唐突だった。
俺はブッキーと朝以来、何も話していない。というのにこの娘は急に俺の机に台バンやって身を乗り出して迫ってきたのだ。正直怖い。
「・・・え~、何用?」
「響ちゃんはどうやって赤城先輩の護衛艦になったのだろうか!?」バァンッ!
「ええい!机を叩くな!ドラマーのつもりか貴様!というか話の流れが分からん!通訳!そこの『にゃしぃ』『ぽいぽい』はよこっち来い!」
「あはは・・・、どうしたの響ちゃん?」
「同したもこうしたもない!この娘止めて!さっきからスゲェ顔近ぇ」
そう言うと、そこでやっと吹雪は身を乗り出すのをやめてくれた。
「・・・で、マジで何用?話が唐突で意味不明なんだが」
「じゃあもう一度言うね?響ちゃんって赤城先輩の護衛艦なんだよね?どうやって護衛艦になったのか知りたくて」
「にゃしぃ、補足説明」
「あのね、実は昨日の出撃で吹雪ちゃん、赤城先輩の事を尊敬したみたいで――――」
「響ちゃんから赤城先輩の護衛艦を変わってほしいっぽいー」
なんとなく察しはついてたが、やっぱりアニメと変わらないのか。
ブッキーを見ると「なんで言っちゃうの夕立ちゃん~」なんてやってるが、チラチラと期待をこもった目でこちらを見てくる。なんて分かりやすい。
けどなー、俺が護衛艦になった理由って言ったら――――
「お情け」
「「「え?」」」
「だから、お情けだ。前に馬鹿やって解体決定した時に、赤城さんが護衛艦にしてくれた事で俺の解体を無かった事にしてくれたんだ」
「・・・あの、響ちゃん・・・実力とかじゃないの?」
「全然。赤城さんも言ってたしね、同情だって。・・・・・・だから、頑張れば吹雪も護衛艦になれるかもしれないぜ?まぁ、護衛艦の立場気に入ってるし譲る気は無いけどな」
そして「じゃ」と言って、席を立ち、後ろ向きに手を上げ、その場から去る俺。次の授業が演習だからな。
そして思う、今の俺カッコよくね?と。
演習場に向かっていると、後ろから島風が「響ちゃん、演習場まで競争だよ!」と言って走ってきたのですれ違いざまにカチューシャをかっさらってやった。
「今からっ!防空射撃演習を始めーるっ!今日は一航戦の先輩達が演習を手伝ってくれるから、しっかりと励むのだぞ!」
午後の授業は防空射撃。これが終われば今日の授業は終わりだ。
つまり俺は囚われの身から晴れて自由の身になれる!
「響ちゃん!授業始まっちゃったから早く私のカチューシャ返してぇ!」
隣では、ぜかましがさっきからカチューシャカチューシャと騒いでいた。
流石の俺も授業中に騒がれては周りの目線が気になるところ。
「ぜかまし・・・しょうがないな、ホラ」
ぜかましをからかうのが面白かったのだが、こうなっては渡してあげる他なかった。
・・・・・・俺の帽子を。
「響ちゃん!これちっがう!後、ぜかましじゃない、し ま か ぜーっ!!」
「ほら、お合いこお合いこ。俺の帽子、ぜかましのカチューシャ、チェンジ!!」
「チェンジしないから!早く返してぇ!」
「しょうがな「コラー!響ー!そこで無駄話をしてるんじゃなーいっ!」あっ、すいませーん」
「もうよい。それより響、前に出てくるのじゃ!」
「はーい」
呼ばれてしまっては仕方ない。俺はその場から立ち上がり、皆の前に進む。
・・・・・・島風のカチューシャをつけて。
「うそっ!ちょっと待ってよ響ちゃん!せめてカチューシャは返してよ!」
知らん。俺、決めたんだ、今日の演習、コレで行くわ、と。
そしてみんなの前に立つ俺、俺は皆の注目を浴びていた。・・・正確には俺の頭部。
「・・・お主、どうして島風のカチューシャをつけておるのじゃ・・・」
「帽子と交換しました」
「してないからっ!」
「・・・響、返してくるのじゃ」
「はーい」
こうなっては返す他なかった。
さよなら、うさ耳っぽいカチューシャ。お帰り、俺の帽子。
「利根さん、もうオッケーです」
「はぁー疲れる」ぼそりと言った後、再び顔を引き締め「それでは、今度こそ、防空射撃演習を始める!最初に響が手本として演習を始めるのでしかと見ておくように!」
手本ね・・・正直、俺の防空射撃は特殊だから何の為にもならないと思う。だが、主人公に護衛艦ってやつを見せつける良い機会かもしれない。
俺は静かに海の上に佇む、・・・・・・よし。
「利根さん、いけます」
「う、うむ。それでは赤城さん、加賀さん、お願いします!」
利根さんから合図が出ると、船着場の方から十数機の艦載機が飛んでくるのが見えた。
(落ち着け、演習でも実戦でも、俺のやる事は変わらない)
静かに主砲を上に向け、じっと艦載機が射程に入るのを待つ。
こうしていると不思議と何処で、どのタイミングで、どこを狙えばいいか分かるのだ。
(見てな、主人公・・・これが護衛艦の・・・いや、オリ主の実力ってヤツをッ!!)
そして射程に入って来た艦載機を片っ端から打ち落とす!
反撃する機会すら与えず、一機残らず、わずかの時間で打ち落とす!
放った砲撃は艦載機の羽根や胴体に当たり、ある物は抉れ、ある物は爆発を起こして海に消えていった。
「・・・ハラショー」
時間は十秒程しか掛かってないと思う。
見たか主人公!これが俺の・・・オリ主の10cm高角砲+高射装置と対空電探による対空カットイン!!
このオリ主、まだまだ主人公には負けん!