艦娘ってやつは休みの日には宿題が出されたりする。
俺が部屋に戻ると暁達三人が、ちゃぶ台に集まって必死になって勉強をしていた。
「ただいまー。・・・やってるねぇ、どこまで進んだ?」
「お帰り、響。今、半分位終わったとこ。響は何処行ってたの?」
「ん。ちょっと野暮用」
「また私達に内緒なの!?いつもいつも響はそうやって誤魔化して、ホント困っちゃうわ!」
始まった・・・暁の小言。
俺が何処行ったっていいじゃない。それなのにどこか行くたびに「響はレディらしくない」だの「もうちょっと女の子らしくできないの!?」だの、ネチネチネチネチ言ってくるのだ。オカンか!全く・・・。
とにかく、今の暁を相手にすると、とてもめんどくさい。なので適当にあしらいつつベットへエスケープすることにしよう。
暁の小言に「はーい」「そっすね」など返事をしつつ、ベットに俺はダイヴした。
ぼすん。あぁ、これぞベットの醍醐味。二段ベットの上では決して出来ない至福の一瞬。
ベットに着地した時の衝撃は、普段の生活の中に在るちょっとした冒険なのだ。
「あっ!ダメよ響!勉強もお風呂もまだじゃない!ほら、一緒に勉強しよ?」
・・・・・・今度は雷の小言が始まった。
暁の小言と違い、雷の小言は所々励ましてきたり褒めてきたりするのでとてもあしらいづらい。
「もういいんだ!!俺は自由なんだ!大丈夫、きっと分かってくれるさ!」
「そんな事言っちゃ駄目。一人だと勉強が嫌でも、皆でやればきっと楽しいから、ね?」
「楽しくないよぅ、苦痛だよぅ。なんで勉強なんて物がこの世にあるのか意味不明だよぅ」
「そんなんじゃ駄目よ!それに響はやれば出来るじゃない!ほら、早く一緒に勉強しよ?」
雷は俺がどんなにごねても見逃してくれそうにない・・・・・・。
このままだと押し切られる・・・こうなったら雷を説得するしかない。
「でもさ?俺が来るまで皆はずっと勉強してたんでしょ?それなら一回くらい休憩したらどう?勉強ばかりしてもスピードが落ちて勉強する時間が長くなるだけだよ、ねぇ雷」
「でも・・・明日の最初の授業って足柄さん「さーて、楽しい勉強をしようじゃないか!!」・・・響、わかりやすい・・・・・・」
うるさい!雷は怒られたことが無いからそう言えるんだ!!
オコッタ アシガラサン コワイ、これ宇宙の真理ね。
てな感じで渋々、渋々勉強をすることになった俺。まぁ、本当に後でやるつもりだったので良いっちゃあ良いんだが。
「あー、そういえば勉強って何出てたっけ?」
「響忘れちゃったの?しょうがないわね響は、出てたのは・・・漢字の書き取りと算数のドリルと日記!」
「うぃーす」
それなら30分くらいで終わるな。そんなわけでカバンをガサゴソ。
指定された
へへへ、待たしたらアイツ等、トチ狂って何仕出かすか分かんねぇからな・・・ヤバイ取引は早めに終わらせるに限るぜ・・・・・・!
「・・・ふふ」
「?どうしたの、響」
「なんでもないでゴザル」
「?・・・変な響」
ちゃぶ台に到着、着陸!!フィィィィン・・・カシュ。・・・あぁ、勉強めんどくせぇ。
俺は勉強せずとも計算もできるし漢字だって書けるのだ。
あーあ、金土日で国算両方3ページか。とはいえ、かかるのは時間だけ。そのへんはパパッ、と終わらせる。
問題は日記なのだっ・・・・・・!
日記、コイツは曲者。ただあった事を書くだけじゃつまらない。
そこから如何にバレない嘘を付け足し、面白くするかがポイントになるのだ。
・・・前に一度、嘘八千番で日記を書いたら、なっちーに拳骨されそうになったっけなー。あの時は体を横に逸らさなければ確実に貰っていた。耳元でゴウッ、て鳴ったもんね・・・もう二度とバレる嘘は書かねぇ。
「んー、久しぶりに出撃したからその事でも書こうかなー。皆はもう書いたの?」
「勿論!私も今日、出撃した事を書いたわ」
「電も今日の事を書いたのです!」
「私はまだなんだけど・・・私も出撃の事を書こうかしらっ!」
「なんだ、皆同じか・・・。しょうがない、俺は赤城さんがお茶吹いた事を書くか」
「また響は赤城さんの所に行ってたの!?ずっるーい!」
「あぁっ!そういえば響!今日の特訓サボったわね!なんで響はすぐどっか行っちゃうの!?今日の朝、あれほど一緒に特訓しようって――――」
小言が始まった暁の前に、俺は手を突き出し静止させる。
「暁・・・・・・今日は」間を開ける。そしてニヤリと笑い「――――日曜日だぜ」
「知ってるわよッ!そんな事ッ!!いつもいつも適当な事ばっか言って「ちょっとトイレ行ってきまーす」あぁっ、待ちなさい響!そっちはトイレじゃなくて廊下でしょっ!今日という今日は響にレディと言うものを教えてあげるわっ!!」
「・・・レディ無理っす」そのままドアを開け「あじゃじゃしたー」
ばたん、とドアが閉まる。
「ムキーーッ!!どうしてドアを開けたのよッ!!」
「どうどう、どうどうどう。落ち着け暁、夕飯のデザートあげるから」
「もうっ!そうやって私をまた買収しようとしてっ――――」
「いらない?なら雷電のどちらかにあげるけど」
「雷電じゃないのです!」「雷電って言うなぁ!響の、響のせいで・・・金剛さんまで私達の事を雷電って言うようになっちゃったじゃない!」
「その度は誠にご愁傷様です。・・・で、欲しい人いる?」
バッ、と三人の手があがる。
「では多人数の為、公平なルールの元、ジャンケンでデザートを勝った方に差し上げたいと思います。いいですか?最初はグーですよ。では行きます、第16回!デザート獲得ジャンケン大会スタート!!」
「「「「さいっ!、しょはっ!グー!!」ジャンケン、ポイッ!!」」」
(暁・パー)(雷・グー)(電・グー)
「第16回、デザート獲得ジャンケン大会勝者ぁぁ・・・・・・あかとぅきぃぃいい!!」
そして俺は暁の手を取り上にあげる。
「ふふん、当然よっ!なんたってお姉さんなんだからねっ!」
「うぅ、グーかパーで迷ったのです」
「次こそはこの雷様が勝ってやるんだからっ!!」
なんていうか、子供ってチョロい。
「で、どうする?いい感じに夕飯時っていうか、これ以上遅くなると食えなくなるかも、風呂もまだだし。見た感じ皆あと少しだから、寝る前にさーっとやればいいと思うんだが」
「・・・もうっ、響のせいで勉強する時間が無くなったんだからねっ。反省してよねっ」
「・・・・・・」暁の肩に片手を付け、項垂れる「・・・反省」
「「「???」」」
「えっ!?知らないの?猿回し・・・・・・」
「お猿を・・・回すのです?」
なんということだ・・・猿回しを知らないとは・・・・・・。
とりあえず簡単に猿が芸をすることだよ、と教えてあげる。今日の日記はこの事を書こ。
その後夕飯を取り、着替えを取りに戻って、浴場に着いた俺達。
「わーい!一番乗りー!!」
「雷ちゃん待ってなのですー!」
「・・・元気だねぇ」
「ホントよっ。もっと三人ともレディらしく出来ないのかしら?」「暁ちゃん、響お姉ちゃん!貸切なのですー!!」
「ホントっ!!待ってて、すぐ行く!!」
「・・・ハッハッハッ」
急ぎ足で駆けてく暁を見て、電みたいに転ぶぞなんて思わなくもない。
それにしても貸切ね・・・それなら湯船で浮いても迷惑かからないな。
今日は出撃があったせいで潮風を受け、髪のギシギシ感が半端じゃない。早く髪を洗いたいところだ。
とっとと入ってしまおう、そう思い服を脱ごうとした時、視界に暁達が脱いだ衣服が目に入った。
フフフ・・・全くしょうがないなぁ・・・暁達は・・・・・・。
俺は暁のパンツにそっと手を伸ばし――――綺麗に畳んだ。
そして服もスカートも綺麗に畳む、ニーソックスも綺麗に揃え最後に下着を服の下にそっと隠す。
雷の衣服も電の衣服も同様に綺麗に畳む。
なんというか、駄目なんだ。男ってのは女の子に何時だって幻想を抱いている者なんだ。
それはこうであってほしい、ああであってほしい、なんて自分勝手な幻想。
俺は此処に来てからそんな幻想を何度も殺されてきた。
ちなみに俺の理想は美人、可愛い、気配りができる、お喋りじゃない、一緒に居て楽しい、少しドジ、黒髪か白髪のロング、そして色気がある、だ。・・・うん、完全に赤城さん当てはまりますね。
けど残念な事に俺の性別は女なのだ、いいなって思うが反応する物が無い。
なのでどんなに頑張ってもいいな止まりで、それから先が出てこない。
もう、俺にある楽しみは鎮守府の艦娘を眺めてニヤニヤするだけ。
相棒が無くなった時、心の相棒も薄れていってしまう様・・・・・・。何時か俺も――――
「ああああああああ!!!アカーン!!俺は女が好き俺は女が好き俺は女が好き俺は女が好きぃぃぃいいい!!
俺はホモじゃない俺はホモじゃない俺はホモじゃない俺はホモじゃない俺はホモじゃないぃぃぃいい!!
ハァハァハァ・・・・・・大丈夫、落ち着け俺。性的欲求が減っただけだ、無くした訳じゃない。俺はまだ暁達にエッチなイタズラをしたいと思っているし、赤城や加賀さんのおっぱいだって触りたいむしろ顔を埋めたい。大丈夫あぁ大丈夫、男相手はマジで嫌だとハッキリ言える。なら大丈夫、心のおにんにんは健在だし、これからも有り続ける、俺のおにんにんはフォーエバー!!」
すると浴場の方から「響、最近お風呂入るときに変な事言わなくなったと思ってたら、また何か言ってるの?まだ寒いんだから早く入らないと風邪引いちゃうわよ?」と雷の声が聞こえた。
OK、冷静になれた。無意味だった、俺が叫んでいた事は。
俺がホモなんて有り得ない。とっとと風呂入って寝よ。
服を脱ぎ、やっぱり綺麗に畳んで浴場に向かう俺。
やっぱり女の子は身だしなみだけはしっかりとしておかないと、と思う。
俺は俺だが響でもあるからね、これくらいは当然なんだ、俺の幻想を守るためにっ!!
[おまけ・嘘八千番日記を見せた時のなっちーの反応]
「さて、今から宿題を集める。まずは日記を持ってこい」
週明けの月曜日、俺はこの時が来るのをドキドキしながら待っていた。というのも俺が書いてきたこの日記、普段書いている事と世界観が180°変わる内容が書かれている。
正直、日記なんてものは毎日書いていれば内容なんて似たりよったり・・・・・・。
そこで俺の日記だ。
毎日同じ様な日記を読むのは飽きるであろう重巡洋艦娘の方達に、新鮮な内容の日記を読んでもらい気持ちをリフレッシュして貰おう!という俺のナイスな心意気だ。
そしてこれは第一号目である。きっとなっちーも俺の日記に新風を感じ、日記を読むのが楽しみになることだろう。
俺は自分の日記が手前に来るように、皆が出し終わるタイミングを見計らい、静かに日記を一番上に置いた。
後は席に戻るだけだ。
「待て、響。ちょっとこっちに来い」
一瞬ビクン、と体が跳ねる。まさかしょっぱなに来るとはっ!!
きっと面白い日記だと言ってくれるに違いない・・・・・・。
なんて言われるかと、少しのドキドキと不安を抱え那智の前に行く。
「響、なんだこれは」
あれ?なんか期待してたのと違う・・・・・・。
「日記です」
「ほう、貴様はこのふざけた内容を日記と言うんだな?」
「えーと、もしかして怒ってらっしゃいます・・・?」
「当たり前だ!この大馬鹿物が!なんだ、この内容は!『休みに異世界に行って、悪いドラゴンと死闘を演じ、王国の危機を救って戻って来ました』だと!いいか響、日記というのは読んで字のごとく、日を記すと書くんだ。つまり、その日にあった事を書かないと日記とは呼べないんだ。わかったな」
「はい・・・・・・けど、なんだかんだ言って読んでるんですね。っ!!」
刹那に襲う危機感。俺はその感に従い、右足を半歩下げ体を少し逸らす。
するとさっき頭のあった位置にゴウッ、と何かが通り過ぎた。
「凄っ・・・響さん、那智さんの拳骨を顔色一つ変えずにギリギリで避けましたわ・・・!」
「伊達に赤城さんの護衛艦をやってる訳じゃないっぽい」
「ちっ・・・避けたか。いいか響、これっきりだ・・・次にまたふざけた日記を持ってきたらタダじゃ済まんぞ」
「はい。(あっぶねぇ!!髪にカスった!セーフ!紙一重!髪だけに!)」