オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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0-17 一人にしてはいけないあの人

 それはいつもの様に朝食を取るため、食堂に着いた時の事だった。まず見えてきた食堂の入口には艦娘達が集まっており、普段とは違う騒がしさが耳から聞こえてくる。

 なぜ食堂の入口に艦娘が集まっているのか気になった私は入口に居る艦娘に聞いてみることにした。

 

「・・・そうね。アレに聞くのがちょうどいいわ。――――ねえ貴方、この騒ぎは一体何かしら」

 

「あぁ、これは中で例の艦娘と雷巡大井が言い争ってるのよ・・・って、げぇ!一航戦!!なんで此処に居るのよ!」

 

「随分なご挨拶ね、五航戦。食堂に来た理由は朝食を取るために決まっているじゃない」

 

「ムカッ!なんでアンタはいつもそう言う言い方しか出来ないのかしら!大体アンタはいつもいつも――――」

 

「分かったからソコを退いてくれないかしら。私は朝食を取りたいのだけど」

 

 そう言って騒がしい五航戦を無視して中に入ろうとすると、騒ぎの中心から最近聞いた声が聞こえてきた。

 その声の主は最近まで病室で寝込んでいたはずで赤城さんと何度か見舞いに行った程だ。声に釣られ中を見ると皆が見ている中心で、けして穏やかではない言い争いをしている姿が目に入った。そして――――

 

「――――きっと姉妹揃って馬鹿なんでしょ!?」 「テメェ!!」

 

 体格差を無視して響が大井の胸ぐらを掴み上げる。大井もそれに負けじと響の髪を引きちぎる様に引っ張る。

 

「訂正しろッ!!俺だけじゃなくて、俺以外の事も言いやがってッ!!」

 

「ああもう、アンタを見てるとイライラするのよッ!!死にぞこないの駆逐艦がッ!!」

 

 呆れた。心配より怒りより、そっちの感情の方が強かった。

 あの子はあの放送といい、何かしら問題事を起こさないと気がすまないのかしら?とにかく喧嘩は止めなくてはいけないでしょうね・・・・・・。

 

 私は喧嘩を止めるために二人の前に立って言った。「やめなさい」と。私に気づいた二人の動きは止まり、大井は手を離し、うっとおしそうな顔でこちらを見た。

 全く、何をやっているのかしら。そう思い目を下げた瞬間だった。

 

「油断かよ、俺は止める気は無いね」

 

 声に気づき響の方を見ると、『喧嘩は終わりになったと思っていたであろう』大井は響に無抵抗で投げ飛ばされ、綺麗に床を転がった。

 そして響が吠える――――

 

「絶対、やめねぇ!!コイツが謝るまで、泣いて後悔するまで俺は(パンッ)――――ッ」

 

 響が何かを言い終わる前に渇いた音が食堂に響く。その音は私が響の頬を叩いた音だった。

 

「・・・・・・、いってぇな。何すんだよ」

 

「何すんだ、じゃないでしょ!いい?どんな事情が有るか知らないけど、先に手を出した貴方が一番悪いわ。・・・さあ、謝ってきなさい」

 

「嫌だ。絶対泣かす!どんな事をしてでも絶対に後悔させてやる!!」

 

 言っても聞かないどころか、今にも飛びかかりそうな響を抑え付けるのに精一杯だった。これはもう二人を引き離して熱が冷めるのを待つしかないだろう。

 私は素早く響の服の首廻りを掴み、暴れる響を無視して食堂を出ることにした。

 

 引きずる途中、急に響が大人しくなったのでやっと諦めたかと思った時だ。後ろからカコンと、音が鳴ったのに気づき後ろを振り返ると、北上に介抱されている大井に飲み物が入っているコップがぶつかる瞬間だった。

 当然よけられる訳もなく、大井は全身にとまではいかないが中身の牛乳を被る事になった。

 一瞬訳が分からなかったが響が捨て台詞を言っているのとテーブルに零れていた牛乳を見たとき何があったか理解した。

 

 響は諦めていなかった様で、どうにかして大井にもう一撃と考えたのだろう。ただ、私に引きずられてまともに追撃はできない。そんな時にテーブルにあったコップを見て思いついたのだろう、コップを蹴り飛ばしてやろうと・・・・・・。

 普通はすぐにそんな事を思いつくはずがないが、響は良い意味でも悪い意味でも普通じゃなかった。付き合いこそは短いがそれが良く分かった。発想が違うのだ、あの放送にしても、褒められた行動では無いにしろ鎮守府で誰かを探すならあの様にした方か遥かに効率よく、素早く、確実に事を進めることができる。

 発想だけじゃない。装備にしても、解体寸前の艦娘が最新鋭の兵装を持ち、射撃演習にしても最初は的にカスリもしなかったのに、たった数回で全弾命中させるなんて普通なら有り得ない事だ。

 

 この子は一体何者なのだろう。初めてあった時に感じた疑問はこの時確かに、確実に大きくなって帰って来た。

 

___________________________________

 

 

 

「――――で、貴方はどうして喧嘩なんかしてたのかしら」

 

「・・・・・・別に、なんでもないですよ」

 

「あれだけ暴れてなんでもない訳ないでしょう。何があったの?」

 

「喧嘩がしたいから喧嘩しただけです。・・・だから加賀さん、これ以上聞かないでください」

 

「・・・確かに、これ以上聞いても話してくれなさそうね。全く、貴方のせいで朝食を食べ損なったわ」

 

 今、俺は加賀さんに連れられ弓道場に向かっている所だった。というのも俺を一人にすると大井の所へ飛びかかりに行きそうだとか何とか。

 正直、行く気など無い。だって俺は奴が嫌いなのだ。なのに何故、わざわざ奴に会いに行かなければならないのかサッパリ分からない。・・・ただ、道端でばったり会ったらその時は・・・やっぱり飛びかかるかもしれない。

 そんな事を考えつつ加賀さんと弓道場を目指して歩くのだが、お互いに話題が無いのか会話などがそれ以降一切なし。ただ、俺がついて来ているか気になるようで数十歩歩く事に後ろを振り返る事を繰り返していた。

 

 全く、そんなに俺は信用ないのか。気持ちが沈み、ガックリと視線を下げると、てんとう虫が地面を歩いているのを見つけた。

 もう暖かいから出てきたんだろうな、と思いてんとう虫に指を差し出す。が、てんとう虫は指を避け地面を歩く。やはり指だと大きすぎて登りづらいのか。そう思った時、ふと視界に自分の長い髪が映る。

 これなら登りやすいのでは、そう思い髪をてんとう虫に差し出そうとした時、グイっと、手を誰かに掴まれた。

 

「・・・貴方はそこで何をしているの?」

 

「あぁ、加賀さん。そこにてんとう虫が歩いてるんですよ。髪ならくっつくかなーって思って」

 

 そう言うと加賀さんはため息をつき、そのまま歩き出した。

 

「あのー、加賀さん、手がですねぇ「駄目。貴方は目を離すと何処に行くか分からないから」Oh・・・」

 

 そして、とうとう俺の扱いが迷子になる前提になった。そう思ってるのが顔に出たのだろう、加賀さんはまたため息をし、「そんなに手を繋ぐのが嫌ならもっとしっかりして欲しいわ」と言ってきた。

 違うんですよ。嫌じゃなくて恥ずかしいだけなんですよ。だって中の人、男ですよ?美人に手を握られたらね、嬉しいんですがね?理由が理由なだけにねぇ。

 まあ、約得なので納得することにする。それにしても何故女の子の手という奴はこんなにも柔らかいのだろう。やましい気持ちなど一切なく加賀さんの手をにぎにぎすると加賀さんがこちらを見てきた。が、何も言わなかったので嫌ではないんだなーと自己完結、再びにぎにぎする。これがなかなか癖になる物で弓道場に着くまでずっとにぎにぎしていた。

 

 弓道場に着くと加賀さんは朝食を食べてくるからとどこかに行ってしまった・・・。

 まさかの放置である。こういう時は辺りを探索してイベントを進めるのはRPGの定番。俺もそれに習って弓道場を探索することにするか!!

 辺りを見回しながら頭に思い浮かぶのは憑依した後の事ばかりだ。なにせ見るもの感じるものが新しく新鮮で1ヶ月も経っていないのに、その何倍もここに居た様なそんな感じだった。・・・まぁ、入院したのを除くと俺の活動期間は2週間もないのだが。

 そして後1週間。暁達もそうだが赤城達にも解体の事を言わないとマズイ。なにせ初めて合ったばかりの馬鹿野郎で自分勝手な俺にあそこまで心配をかけてくれたのだから。

 

「けど、超言いづれぇ・・・。だって、これ裏切りじゃん。あそこまで言ってくれたのに馬鹿やって解体される事になりましたー、なんて・・・・・・」

 

 そんな時だ、ひゅおんと、風切り音が聞こえたのは。しばらく耳を澄ますとまた、ひゅおんと音が鳴る。

 音の出処に足を運ぶとやはりというか、そこには赤城が矢を射っていた。

 赤城はこちらに気づいていない様で同じ様に弓を構えて矢を射つというのを繰り返す。それも2度3度じゃない、何度も何度も繰り返すのだ。それを見ていると努力ってのは地味でコツコツ積み上げるものだと改めて思い、そして・・・・・・見飽きた。もう10回は軽く見続けた。それでも赤城は矢を射つのをやめない。どうしてあんなにも地味で、きっと手応えを感じないであろう努力を続けられるのだろうか・・・。

 

「入らないの?」

 

 後ろから声がかかる。

 

「・・・えっと、入ったら邪魔になるかなー、と思いまして」

 

「貴方はそんな事気にするような質じゃないでしょう?ほら」

 

 そう言われ加賀さんに手を取られ部屋に入って行く。流石に赤城も気づいた様で、矢を射るのをやめ、こちらにニコリと笑いかけてきた。

 

「一人にしたら問題を起こしそうなので連れてきました」

 

「そうなんですか。・・・響さん、大丈夫そうで何よりです。鎮守府に戻ってきた時、意識不明と聞いた時は心配したんですよ」

 

「みたいですね。起きたら2週間近く経ってるなんて思いませんでしたよ」

 

 あはは、と愛想笑いを返す。そして話題が無くなったのか場に沈黙が訪れる・・・。違う、話題は有るのだ。ただどう切り出していけばいいかわかんないのだ。

 すると赤城が手をポンと叩きニコニコとこちらに話かけてくる。

 

「そうだ!!響さん知ってますか!?実は響さんの解体の話がなくなったんですよ、良かったですね!」

 

 それだった。もちろん知っている。一昨日に長門に解体が無くなった話を聞き、昨日に解体通達を受けたのだ。

 つまり、赤城の知っている情報は古いものであり実際は『響って解体されなくなったと思ったら、やっぱり解体される運命だったのよね~』が正しい。

 

「・・・いやぁ、あのですね?実はですね?――――」

 

「なんか、反応が薄いわね。貴方もう知ってたの?」

 

 加賀さんがそう言うと赤城も「そうだったんですか、少し言うのが遅かったですね」と言ってきた。

 違うんです、そうじゃないんです。実は解体の件が不死鳥のごとく蘇ったのです!!

 俺は何度も深呼吸し、最後に大きく息を吸い込み言った――――

 

「実はっ、ワタクシ事響はっ、昨日なんやかんや有りましてっ、結局解体されることになりましたーっ!」

 

 

 

「はぁ~~」

 

「・・・・・・・・・へ?」

 

「あははは、あはははは、・・・・・・スイマセン。本当にスイマセン」


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