静かな、静かな海。来る前はカモメが飛び交っていたんだけと昼過ぎだからか一羽もいない・・・。あまりに静かで良くない事が起こるような気がしてたまらない・・・・・・。
「・・・そういえば那珂ちゃん、しばらく索敵してないけど大丈夫?」
「響ちゃんは心配症だな~。大丈夫、大丈夫!だってこの制海権は鎮守府が取ってるんだよ!長門秘書艦も言ってたじゃん、最近深海棲艦の動きはないって!!」
他の誰かが言うならともかく那珂ちゃんが言うと果てしなく不安だ、電探で索敵しとこ・・・。
「でもどうして響の兵装は私達と違うのかしら?」
「あぁ、それはねロシアだからだよ。ロシアは寒いからシベリアンハスキーなんだよ」
「・・・いや、響それじゃ「待った!!」なによっ!まだ私が喋ってるじゃない!!」
「那珂ちゃん、この先に何かヒットしたんですけど」
「わかった!!きっと鎮守府の皆が那珂ちゃん達の帰りを待ってるんだよ~!」
「いや、そういうのいいですから索敵機飛ばしてくれません?」
そう言うと那珂ちゃんは渋々索敵機を飛ばしてくれた。そしてしばらくすると那珂ちゃんの顔つきが変わる。
「皆、敵艦発見!!数は駆逐級三隻と雷巡級二隻!このまま戦闘に入るよっ!準備はいい?」
那珂ちゃんが言うと暁達はうろたえだした。無理もない、俺達は実戦なんて初めてなんだから。だからこそ!この状況は艦娘だからじゃない、俺が男だからしっかりするんだよな・・・・・・。
「・・・っ!那珂ちゃん、電探に反応!奴ら気づいてるみたいだ、こっちに来てる!!」
「よ~し!皆、単縦陣だよ!那珂ちゃんセンター、一番の見せ場です!」
「(すぅ、はー)・・・しゃあ!!MVPは貰った!響、突撃するッ!!」
「うぅ・・・ああもう!!私だってお姉さんなんだから響には負けないわ!」
「響達はこの雷様に敵うとでも思ってるのかしら。ねぇ、電?」
「電だって・・・・・・電だってやればできるのです!電の本気を見るのです!!」
深海棲艦との戦闘、最初は演習道理にやれば何とかなると思ってたが一目見た瞬間考えが変わった。雰囲気がまるで違う・・・・・・。あれは生き物ではない、人の様な異型はただ気持ち悪かった。・・・そして相手もこちらを確認できたのか、おぞましい雰囲気がさらに変わる。何処に居ても目立つような黄色のオーラを身にまとって・・・、それはこの海に自分より優れた物は無いと主張している様。
「みんなッ!あのチ級、2体とも『flagship』だ!!絶対に雷撃には当たるなッ!!」
深海棲艦 チ級、それもflagshipになるとゲームでは雷装値が凄いことになる。その威力は大和型が一発大破するほど・・・。轟沈システムが無いこの世界では駆逐艦や軽巡である俺達は何があっても雷撃に当たるわけにはいかない。
・・・お互いが相手に向かって移動してきたのでこれは反航戦だろう。・・・落ち着け、すれ違う時は一瞬・・・俺の砲撃をあの異型の顔面に叩きつけてやる・・・。だがなんだろう?今ではない気がする・・・。まるでこの後、決定な場面に出くわすような・・・それも直ぐにだ・・・。
「みんな、砲雷撃戦よーい・・・・・・どっかぁーん!」
「てーっ!」「なのです!」「攻撃するからね!」
敵味方が撃った攻撃は那珂ちゃんの攻撃以外当たらなかった、その当たった那珂ちゃんの攻撃ですらチ級には効いていない様子。・・・俺はまだある感覚を信じて攻撃しなかった・・・。攻撃すれば良かったか?そう思いながらすれ違う敵を見ていると違和感の正体に気づく。そして俺はこの隙を逃さぬよう隊列から抜け出す――――
「後ろががら空きなんだよ!間抜けッ!!」
「響ちゃん、陣形を乱さないでー!」
ドウッ!とひとつ大きな音を上げた俺の攻撃がチ級の背中に当たると小規模の爆発が起こり、周りに居たイ級を巻き込み吹っ飛んだ。・・・まだだ!相手がこちらを向く前に有りったけ砲弾ぶち込んでやるッ!!
「みんな!!今が好機だっ!ここで勝負をつけるぞ!!」
「響ちゃんばかり活躍させないのです!電の本気も見るのです!!」
「ここでMVPを取って頼りになる所を見せるんだからっ!」
「この艦隊の旗艦は那珂ちゃんなのに~!絶対センターの座は渡さないんだから!!」
「待って響!敵がこっち向き始めてるっ!!」
「それがいいんじゃないか、暁・・・!向き始めてるって事は、まだ向いてないって事だ!!」
続けざまに全員で放つ弾幕は圧倒的でまだ体制を立て直していないチ級とイ級に直撃する。チ級は全身からどす黒い煙を吹き出し、イ級は体が割れて海に沈んでいった。
「まず一艦!このまま残りも沈めてやる!!」
「逃げて響ちゃん!魚雷が来てるっ!!」
「嘘だろ!?いつ撃ったんだよ、クソッ!!」
水面を見ると黒い影が俺を目掛けて近づいていた・・・。魚雷を避けるのは簡単だったが大きく動いたせいで皆と離れてしまう。そして一人になった俺を待っていたかの様にこちらに向かってくるもう一艦のイ級とロ級、チ級は二艦だが、内一艦は轟沈寸前で海につっ立ったままだ、ここは俺が二艦とも引き連れたほうが無難だな・・・・・・。
「ゴメン那珂ちゃん!こいつら連れて時間稼ぐからそっちはヨロシク!!」
返事は聞かない、あいつらは口を大きく開けてこちらを狙っているから・・・。けど後ろを向いた瞬間「那珂ちゃんにお任せー!キラリンッ!!」って言ってたので頼りにしよう。
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「しつこい!さっきから何発魚雷撃ってきやがる!!こっちは十発しかないってのに!!」
もう何分逃げているだろう?遠くに見える那珂ちゃん達は思いのほか苦戦している様だ。こちらはさっきと逆の事が起こっている、俺が背を向け相手がそれを狙う・・・。後ろを向いて反撃しようと何度か試したがさっきから迫り来る魚雷が邪魔で反撃は愚か相手の砲撃を避けることすら危うい。いくら移動に自信があったとしてもこのままだと近い内に被弾する・・・。
こうなったらイチかバチか反転して反撃にうつってみようか?だが無理に反転してバランスを崩したらどうなる、きっとこの異型達に狙い撃ちされる。
「畜生!調子に乗りやがって・・・せめて魚雷が無ければ何とかなるかもしれないのにっ!」
その時、電探に新しい反応があった。近くと遠くで二つ、どちらともこちらに向かって来ている・・・。しかも遠くに反応しているやつは恐ろしく速い。
「・・・四、一、か・・・・・・。こうなったら同士討ちでも狙ってみるか・・・?」
無理だよなぁ・・・。そんな事を考えてる内に近くに反応していた奴が見えた、あれは『軽巡 ホ級』。深海棲艦であり敵だ。・・・・・・そして遠くに反応していた奴も来たようだ・・・。
・・・・・・遠くにいた奴はホ級を追い抜かすと反転、そして俺がやりたかった異型の顔面に砲撃をぶち込むという行為をあっさりやってみせた・・・・・・。
「あなたって遅いのね」
・・・・・・その姿、行動はまさに主人公そのもの。仲間のピンチに駆けつけるポジションだなんて羨ましい!!そして状況が一変する・・・。二対二、それも島風が援軍に来やがった!!
「悪い、ぜかまし!魚雷が邪魔で後ろを向けねぇ!援護してくれ!!」
島風は「ぜかましじゃない!」と言いながら左右に迫る魚雷を打ち抜いてくれた。これで邪魔な物はなくなったな・・・・・・。さぁ、反撃開始だ!!
急旋回をして相手の横に付き、砲身を向ける。そしてためらいなく射つ。ズガーン!!と大きな音をたてた俺の砲撃はイ級の腹に穴を開け一撃で沈める事に成功。だが、それでも関係ないとばかりにもう片方のロ級は口を大きく開け中ある砲身を俺に向ける――――
「いいよ、てめぇにも砲弾を食わせてやるよ」
――――そして爆音。俺の目の前に圧倒的な光量が降り注ぎ反射的に目を瞑ってしまう。数秒して目を開けると体が真っ二つに裂かれたロ級が海に沈んでいる途中だった。
「・・・ねぇ、響ちゃんならあいつら簡単に倒せたんじゃないの?」
「そうだった!まだ向こうで那珂ちゃん達が戦ってる!!」
俺は島風に状況を説明して那珂ちゃん達の所に急ぐ。・・・・・・・・・見えた、中破してるじゃないかッ!!さらにチ級は今にも那珂ちゃん狙いを定め撃とうとしてる様子。
「島風、先行ってくれ!!俺に合わせてたら間に合わなくなるかもしれない!!」
島風はウンと頷くとさらに速度を上げて那珂ちゃんの方へ向かっていった・・・。
俺も今度タービン装備するかな・・・。無い物ねだりはしょうがないが今の、仲間のもとに駆けつける島風を見ていると羨ましくてしょうがないんだ・・・・・・。
戦況は二転三転する。さっきまでこちらが劣勢だったが島風が那珂ちゃん達と合流した事でチ級相手にかなり有利に戦闘を進めている。
「暁、雷、電!!大丈夫?状況は?」
「響、そっちは大丈夫そうねっ!こっちは・・・・・・足でまといになってる私達を那珂ちゃんが、かばって――――」
「そっか。・・・あっちの元気な奴は任せろ。
そう言って轟沈寸前のチ級に目を向ける。・・・・・・なぜ、動かないんだ?航行すらできない状態なのか、逃げる行動を深海棲艦は取らないのかは分からない。・・・・・・分からないが、ただそこに居るだけのチ級は不気味で――――
「響は私達を馬鹿にしてるの!?あれくらいおちゃにょこ・・・・・・お茶の子さいさいよっ!!」
「ブッ!!・・・くふふ・・・・・・そんなことないよ、いつだって頼りにしてるさ。でも暁、こんな状況だから油断はしないようにな」
なんか拍子抜けしたな・・・。俺も早く島風の援護に行かなければ!!
「響ちゃんおっそぉい!!」
「そこまで遅くねえよ!!ということで那珂ちゃん、ぶっちゃけ足でまといなんで暁達の所に行ってくれませんか?」
「・・・響ちゃん、ホントにぶっちゃけたね。・・・しょうがない!今回だけは二人にセンターを譲ってあげよう!!それじゃあ後でねっ!」
そう言って那珂ちゃんは暁達の所に向かっていった・・・。那珂ちゃんよ、別にセンターはいらねッス。
「よーし!響ちゃん、行くよ?」
「まぁ、私とぜかましなら余裕だろ」
というのも、この数日で体の動かし方が分かってきたからか、演習に限っては小細工無しで島風とタメ張れるくらいには強くなった。
移動に関してはスピードなら島風、小回りなら俺、兵装は対艦装備では あまり差は無いがこのままいけば・・・・・・
「・・・俺が駆逐艦最強・・・・・・なんてハラショーな響き・・・・・・っあ!今うまいこと言った!!」
「むっ!・・・どっちが強いかアレで決めない?」
どうやら俺の独り言が聞こえてたらしいな・・・・・・いいだろう!!って早っ!!もういねぇ・・・前を見ると既にチ級と交戦してる島風の姿が・・・・・・。
俺もこれ以上遅れないようにチ級に向かう。チ級は魚雷と砲撃を織り交ぜ攻撃をしてくるのでなかなか近づけなく決定力が足りない・・・・・・。まぁ、方法はあるのだけど島風にまた協力してもらわなければならないってのが辛い所だな。
「ぜかましぃ?簡単にアレ倒す方法があるんだけどさぁ」
「だからぁ、ぜかましちっがぁう!でなに響ちゃん・・・?」
「まぁまぁ、その方法が協力しないと出来ない事なんだよね。そこで出てくるのがさっきの勝負なんだけど、もし簡単に倒せたら、この勝負は俺の勝ちでいいかな?倒せなかったら負けでいいから」
「・・・ホントに簡単に倒せるの?」
「多分、物凄い事になるよ!!」
凄い事に興味を持ったのか島風は提案に乗ってくれた。作戦は『コレ』をここから『こうする』だけ、簡単でしょ?
「響ちゃん、これじゃあ当たらないと思うよ・・・」
「なに、当たらなくていいのさ。当たらなくても当てるからね・・・・・・よし、それじゃあ始めますか!!」
俺と島風は左右対象にチ級の斜め前に移動し――――
「五連装酸素魚雷!いっちゃってぇー!」
「取って置きだ!沈めッ!!」
同じタイミングで魚雷を広い範囲に放つ。うん、自分で放ったからか魚雷の軌道が良くわかる。・・・そして高角砲で狙いをつけて――――
「島風ッ!!伏せろぉぉおお!!」
俺の砲撃は一発で魚雷に命中し魚雷が爆発する。そして爆発の衝撃で近くの魚雷も誘爆しチ級の居た所は爆発で埋め尽くされ、さらに人一倍大きい爆音が鳴り、俺と島風は吹き飛ばされた。まさか艦これの世界に来てこのセリフをいう事になるとは・・・・・・。
「へっ!きたねぇ花火だ」
「ちょっと響ちゃん!あんな事になるなんて聞いてないよっ!!」
「多分、チ級の雷装も誘爆したね。私もこんな事になるとは思ってなかったよ。」
さて、あっちはと目を向けるとチ級相手に砲撃する暁達が見えた。といっても立ったままのチ級は不気味で暁達も上手く砲撃を当てられない様だ。
「・・・・・・ねぇ響ちゃん、あの深海棲艦はなんでずっとあそこに立ってるのかな・・・?」
「ぜかまし、そんなの何もできないからに・・・・・・?・・・なんでずっと立ってるんだ?」
嫌な予感かする。嫌な悪寒が全身を駆け回る。そうだよっ!何もできなくても逃げようとはするだろ普通なら!!一度気づくとおかしな事だらけだ、なんであの状態で立ってる?なんで一点だけに目を向ける?・・・なんで笑ってるんだ・・・・・・?
「クソがッ!!」
「響ちゃん?どうしたの――――」
俺は島風を置いてチ級の下に全力で移動する。さっきから悪寒がひどくなっていく・・・、俺の感はここぞという時は外れたことが無い。それだけで今まで努力もせずに生きてこれたのだから・・・・・・。そして見えてしまった――――
「やったぁ!電がっ!電がやっつけたのです!!」
「おぉ!!大勝利だねっ!!那珂ちゃんカンゲキ~!!」
「せっかく私が頼りになる所を見せたかったのに!!」
「もう!皆はしゃいじゃって子供なんだから」(そわそわ)
皆が最後のチ級に止めを指して喜ぶ姿を――――
――――では無い。電が止めの砲撃を当てた時、チ級の魚雷発射管から魚雷が打ち出されたのを!!
・・・ずっと狙ってやがったんだ!!立ってたのも、一点を見てたのも、笑ってたのも全部、ぜんぶ、ゼンブ――――
「――――みんな!!にげろぉぉおお!!」
逃げない。当たり前だ、何が起きてるか分かって無いのだから。こうなってしまったら俺が魚雷を打ち抜くしかない・・・。
さっきの爆発を見るにあの距離で打ち抜いたら一番近くに居る電は無事では済まないはずだが、それでも直撃よりはマシなはず!!幸いこの位置は波に隠れたりしているが魚雷の影は見える・・・・・・。
そして砲身を魚雷に合わせて射つ・・・・・・はずが、高角砲はウンともスンとも言わない・・・・・・。頭の一角が急速に冷える、そういえば砲撃を打ちまくったな、と。・・・・・・『弾切れ』もう砲撃は打てない・・・。
あれはもう助からないと感じた、そう感じてしまった。俺は無邪気に笑う電を見ながら助ける事を諦めた。俺はこの数日を思い出して助けたいとは思った。ゴメン、もう何もできないよ。・・・・・・電は俺の視界から消えた。そして、もうなんの音かも分からない爆音が鳴り響く。
・・・・・・電は無事だろうか?・・・・・・するとどこからか声が聞こえてきた。さっきの音で耳をやられたらしく聞き取ることはできないが・・・。今度は誰かに抱きしめられてる様だ・・・。顔にぽたぽたと水滴が垂れるのが分かる。今、俺を抱きしめている人は泣いていて、叫んでるようだった。だけどそんな感覚が少しずつ失われていく、奪われていく・・・・・・。これでは俺が死にかけているようだ。
・・・あぁ、そうか・・・そういえば、電が見えなくなる直前に何か突き飛ばした様な気がする・・・・・・。・・・よかった、俺は諦めていなかった様だ・・・・・・。・・・よかった、俺はここまで変わったと実感できた・・・・・・。・・・皆には言いたい事があったけど、言えそうに無いから諦めよう。
・・・・・・俺は主人公の様に助けたかったけど、悔しいがこれが限界みたいだ・・・。皆、俺はこの数日で仲間になれましたか?もし仲間だと思ってくれてたら嬉しいです。