地上を駆ける艦娘、金剛。
彼女はバイクにまたがり、市内の中心部へと向かう。
無線機に入った通信を辿り、彼女が目にしたモノとは……。
サービスエリアを抜けた金剛は暫く高速道路を走っていた。
その間、敵は一人も現れず、優雅なツーリングだったらどれほど楽しいだろうと、金剛は小さくため息を吐く。
そして市内へと向かう高速道路が終わりに近づいたとき、金剛の電探が微かな反応を察知した。
「ンッ、この反応は……ッ!?」
急いでバイクを停止させてからのタコメーター付近にある小さなツマミを回し、無線機の音量を最大にするとノイズだらけの音が聞こえてきた。
「ガガ……ッ……、ガリガリッ……」
バイクに取りつけてあるスピーカーからはノイズしか聞こえない。
しかし金剛の電探は確かに小さな反応を感じ、それが気のせいではなかったことは過去の経験上、誰よりも分かっている。
暫く無線機の周波数を探りながらツマミを回していると、ノイズ混じりの音の中に微かな声が聞こえたのを発見し、金剛は精神を研ぎ澄ませながら微妙な調整をする。
「こち……は、洛……方自警……です……」
「……ッ! 発見したデース!」
周波数を合わせることに成功すると、スピーカーからハッキリとした女性の声が聞こえてきた。
「現在、敵の襲撃によって第二防壁まで突破され後がありませんっ!
誰かこの無線を聞いている人が居たら、至急助けに来て下さいっ!」
スピーカーから流れてきた女性の声は泣き叫んでいるのと変わらないくらい必死で、後がないことがすぐに読みとれる。
「この反応からシテ……、あっちの方デスネ……ッ!」
金剛はすぐにエンジンを始動させてアクセルを吹かし、急いで電探の反応がある方へと向かう。
高速道路の終点を抜けて一般道路に下りた金剛は地図の記憶を思い出しながら交差点を曲がり、集合団地が立ち並ぶエリアに入った。
バイクを操縦しながら電探への意識を集中し、合わせて周りの音をできる限り拾うようにと耳を澄ませる。
「前方の反応は一つしかありませんカラ、おそらくはぐれた敵……。
襲撃を受けているのなら……これデスネッ!」
電探に感じる反応を区別した金剛は大きな声をあげながら曲がり角をドリフトで抜け、いくつもの集合住宅を通り過ぎると、遠くの方から銃声音が聞こえてきた。
「HIT!」
自身の勘が的中したことに喜びの表情を浮かべた金剛だが、次のカーブを切った直後に見えた瞬間に険しいモノへと変わっていく。
「……ッ!」
道路上に落ちていた人のモノらしき肉片が血の池に沈み、傍にはそれらを食らう元艦娘の姿が見えた。
「こん……のぉぉォッ!」
金剛は目一杯アクセルを捻ってバイクの速度を加速させた。声と爆音に気づいた元艦娘が金剛の方を見るも時既に遅く、タイヤが目前に迫っていた。
「ギィ……ッ!?」
「遅い……デースッ!」
立ち上がろうとする元艦娘の顔面にタイヤを直撃させて吹っ飛ばした金剛は、全体重を後ろにかけて前輪を浮かび上がらせた。
「グ……ギャ……ァッ!」
地面に叩きつけられた元艦娘が悲鳴をあげながらも動こうとするのを確認し、そのままの状態でアクセルを思いっきり捻る。
「己の罪を……悔いるがいいデースッ!」
ウィリー走行で這いつくばっている元艦娘に迫った金剛は、頭の位置にタイミングを合わせて前輪を叩きつけるように落とす。
「ギィ……ッ!」
グシャリとスイカ割りをしたような音が響き、元艦娘の身体が大きく震える。
「ギ……ギャ……ァッ!」
しかしそれでも動き続けようとする元艦娘は、タイヤに手をかけて持ち上げようとする。
そんな姿を見た金剛は小さくため息を吐きながら少し寂しげな表情を浮かべ、少しだけ眼を閉じてからアクセルを捻った。
「ギィィィッ!?」
元艦娘の身体に乗り上げた金剛はそのまま通り過ぎる寸前でブレーキをかけ、後輪の中心がちょうど頭の位置になるように止める。その瞬間、元艦娘の眼が大きく見開かれたような気がしたが、金剛は躊躇いを見せずに再度アクセルを捻る。
ギャギャギャギャギャギャッ!
バイクのエンジンが唸りをあげ、タイヤが高速回転をして元艦娘の顔面を削り落とすように抉っていく。蓄積されたダメージと重みによって抗うことができない元艦娘は為す術もなく、頭部が粉々になるのを待たずに活動を止めた。
金剛は未だビクビクと痙攣する元艦娘の身体を見下ろしながらアクセルにかけていた力を緩めると、大きく息を吐いてから片足を着いた。
後輪から伸びる血によってできた線は数メートル続き、付近に肉片が飛び散っている。
「自業自得……デスネ……」
そう呟いた金剛は再びアクセルを吹かし、電探の反応があった方へとバイクを向かわせる。
たった一人の元艦娘の為に時間をかけてしまったせいで、状況が悪化したかもしれない。
歯ぎしりをしながら自分の犯してしまった罪を悔い、金剛は顔をしかめた。
己の言葉を悔いながら。
己の行動を悔いながら。
そして、過去の記憶がフラッシュバックのように目の前に現れてしまうのを悔いながら。
だが今はそれどころではない……と、金剛はバイクを走らせて、集合住宅が立ち並ぶ中にぽつんとあった集会場のような建物の前でブレーキをかけた。
「ここ……デスネ」
付近には土嚢袋が積まれ、いくつもの死体が転がっている。
建物の中から響いてきた銃声音を聞いた金剛は息を呑み、バイクに跨ったままサングラスの淵に指をかけて呟いた。
「熱感知モードON。
そして……、艤装を陸上用骨格に切り替えマース!」
金剛の顔が真剣なモノへと変わり、大きな音を立て始めたバイクがまるでロボットの変形シーンのようにバラバラに分離すると、金剛の身体を包み込むように形を変える。
金剛の手足にしっかりと密着した艤装が小さな機械音を鳴らし、小さな穴から蒸気を吹き出した。
バイクの形からロボットのような姿に変えるまでの時間はわずか数秒であり、誰かが見ていたのならば空いた口が塞がらなかっただろう。
余りにも大それた格好になった金剛だが、深海棲艦化してしまった元艦娘の攻撃を直接受けてしまえば終わりであると考えれば、これくらいのことは当たり前なのだ。
実際に今の金剛は素肌を一切晒すことなく、物々しい艤装に包まれて立っている。
視界を必要とする顔の部分だけは、サングラスのレンズと同じ遮光性の高い色の強化プラスチックで守られており、内側に艤装に関するデータがリアルタイムで表示されていた。
よほどの攻撃……、さしずめ大和クラスの46センチ砲を至近距離で喰らえば耐えらないかもしれないが、深海棲艦化した艦娘は艤装を使わないことからして防御に関してはかなり高いと言えるだろう。
もちろん金剛の身体を覆う艤装は防御だけの物ではなく、左腕には大砲のような筒がいくつかあり、右手にはバイク型の時に元艦娘を切り刻んだ大型のナイフが取りつけられている。
「両手、両足の出力に問題ナシ……。
武装の準備も大丈夫デスネー!」
顔を覆う強化プラスチックの内側に表示された艤装のデータを確認した金剛は、強い意思を顔に出して建物の入口を見る。
「それでは……行きマス……ッ!」
そう言った瞬間、艤装から蒸気が吹き出すと共に金剛の身体が宙を舞った。艤装が外見に似つかわしくない敏捷性を発揮し、金剛の身体を思うがままにサポートする。
ふわりと浮いた金剛がコンクリートの地面に着地すると、足元が衝撃でひび割れて大きな音を立てた。しかし金剛は全く気にすることなく足を前に出し、建物の中へと入って行く。
玄関にはいくつもの薬莢が散乱し、壁や床に赤い液体が付着していた。
建物の中は銃弾を発射した後に出る硫黄の匂いと鉄錆のような生臭さが充満しており、金剛は思わず顔をしかめそうになりながら通路を進む。
「……ッ」
床には道しるべのように点々と転がっている人や元艦娘の死体があり、金剛は念のためにと艤装の電探でチェックをする。しかしそのどれもが元の姿を留めておらず、至る所が欠損してそこら中に散らばっていた。
人の身体は元艦娘の口で。
元艦娘の身体は人が放った銃弾で。
金剛の足が奥へと進むほど現場の状況は酷くなり、目を覆いたくなってしまう。
しかし、そうはさせないという風に電探が何かを察知する表示が映し出されると、通路の曲がり角から壁に手をかけて今にも倒れそうな元艦娘の姿が現れ、金剛を発見して両手を前に突き出しながら近寄ってくる。
「ア……アア”ア”……ッ」
元艦娘の口からはボタボタと唾液と血液が混じり合ったモノが床に落ち、金剛を喰らおうと更に大きく開けようとする。
だが、元艦娘の身体には多くの銃弾がめり込んだ跡があり、逃げようとすれば簡単なくらい動きが鈍かった。
金剛はゆっくりと元艦娘の姿を見つめながら、悟ったような表情で左腕を振り上げた。
左腕の大砲の下部から小さな赤い光が照射され、近づいてくる元艦娘の眉間に照準を合わせる。
「ンァ……ッ!?」
自身の頭部に向けられる違和感に元艦娘が疑問のような声をあげた瞬間、金剛は小さく口を開く。
「……ファイア……ッ!」
ズドムッ……! と、籠ったような破裂音と共に金剛の艤装から発射された砲弾が元艦娘の眉間に穴を開け、頭が大きく後ろに揺さぶられた。
しかし元艦娘は何ごともなかったかのように頭を元の位置に戻し、金剛を喰らう為に両腕を上げなおす。
「ア”……?」
だが、頭部にめり込んだ砲弾の影響により元艦娘の両目がぐるりと動き、白目をむいてゆっくりとその場に崩れ落ちた。
「………………」
照準を合わせていた左腕を下ろした金剛は、元艦娘がピクリとも動かなくなったのを確認してから小さくため息を吐く。
すると数回の乾いた銃声と大きな悲鳴が通路の奥からあがり、金剛は表情を険しくして前を見る。
「止まっている場合じゃなさそうデスネ……ッ!」
右足に力を込めるように膝を落とした金剛は、それほど広くない通路の床に多数のひび割れを作りながら駆け出した。
艤装に身を包んだ金剛はなりふり構わずに通路を駆け、いくつかの角を壁に体当たりするように曲がって先へと進んだ。
床には力尽きた人や、銃弾によって活動することができなくなって床に倒れている元艦娘も見えた。
金剛はそれらを上手く避けながら進むと、通路の先に開いた扉が見えたところでいくつもの熱源反応があることを艤装が知らせてきた。
しかし金剛の耳には何発もの銃弾を発射する乾いた音が聞こえ、一刻の猶予も残されていないと判断してそのまま部屋に飛び込んで行こうと速度を上げた。
半開きになっていた扉に体当たりで吹き飛ばしたのと同時に、元艦娘に腹部を噛み付かれて大量の出血をしながら床に倒れ込む人の姿が金剛の目に映った。
「Shit!」
一歩遅かったか……と思った瞬間、大きな音に気づいた一人の元艦娘が金剛の方へと振り向こうとする。
しかしそうはさせないと金剛は踏み込んだ足を軸にして回転し、素早い動きで背後に回り込んだ。
「テリャアアアァァァァァッ!」
叫び声を上げた金剛は右手で元艦娘の背中に正拳突きをお見舞いする。
「ガ……ッ!?」
ドゴォッ! と、大きな衝撃を受けた元艦娘は息を詰まらせたが、続けて金剛は大きな声をあげる。
「近接戦闘用高周波ブレード……ON!」
その瞬間、鈍い音と共に元艦娘の腹部から大振りの刃物が生え、周りから大量の出血が吹き上がる。
小刻みに揺れ動く高周波ブレードの刃によって更に出血は増え、元艦娘の顔が苦痛に歪んだ。
「ギ……ギィ……ッ!」
「甘いデースッ!」
金剛は身体をよじって逃げようとする元艦娘を勢いよく担ぎ上げると同時に高周波ブレードを空中で抜き、左手の艤装から数発の砲弾を発射した。
ドンドンドンッ!
「ギッ……ガァッ、ギュフ……ッ!」
元艦娘の腰と、左胸と、頭部が欠損し、銃弾はそのまま天井にも穴を空ける。更に金剛は抜き去った高周波ブレードを居合い抜きのような格好で構えてから、大きくなぎ払った。
「ァア“……ッ!?」
空中で腹部を真っ二つにされた元艦娘は素っ頓狂な声をあげ、大量の血液とはらわたをこぼしながらクルクルと回転し、床にドサリと倒れ込んでピクリとも動かなくなる。
「ヒ……ッ!?」
部屋の奥で生き残っていた人がその様子を見た瞬間に声にならない悲鳴をあげるが、金剛は気にせず別の元艦娘に向かって素早く駆け寄り、高周波ブレードでその身体を両断した。
三体目を切り捨てたところで異変に気づいた元艦娘が人を襲うのを止めて金剛へと向かおうとするが、陸上骨格型艤装という完全武装の前に敵う訳もなく、高周波ブレードに斬られるか銃弾に撃たれることで、次々と床に倒れていった。
まさに金剛の独壇場と化した部屋では大きな叫び声と血飛沫が上がる元艦娘の惨殺地帯となり、ほんの数分で見るも無残な場所となってしまった。
◆ ◆ ◆
「ハァ……ハァ……」
金剛は肩で息をしながら辺りを見回し、立っている元艦娘の姿がないことを確認してから両腕を下ろす。
床には多くの薬莢と金剛によって切り刻まれた元艦娘たちの身体のパーツや、血や臓物が飛び散っていた。
その中には傷を負って床にうずくまっている人の姿もあったが、金剛は熱感知と視覚の両方でしっかりと敵味方を把握しながら斬撃や射撃を行い、それらを一切巻き込まなかった。
しかし被害を受けずに部屋の隅で震えていた人たちは金剛を恐れるように見つめ、助けようともしない。
「何をしているんデスカッ!
早く治療をしないと、死んでしまうデース!」
金剛の一声で我を取り戻したかのように驚いた人達は、広がる血の海の上を恐る恐る進みながら倒れている人を抱きかかえ、元居た部屋の隅へと引きずって行く。
その間も何人かの武装した人は銃に手をやりながら金剛を警戒するように見つめ、視線が合った瞬間に眼を逸らす。
明らかに怯えている眼。
明らかに警戒している眼。
幾度となく向けられてきたソレを感じた金剛は、周りに居る人に聞こえないように溜息を吐いた。
人間に対して脅威である元艦娘を、いとも簡単に打ち倒した金剛が怖いのか。
物々しい艤装で全身を包み、敵か味方かも分からない金剛だから怖いのか。
人は未知なるモノを眼にした瞬間に恐怖するのは分かっていたが、それでもやりきれない気持ちが金剛の心の中に広がってしまう。
しかしこの場で艤装を外す訳にもいかず、金剛はどうするべきかを考える。
素顔をさらせば金剛が艦娘であることがばれてしまう可能性が高く、新たな混乱を呼びかねない。
この人たちを襲っていた元艦娘を全て倒したとしても、艦娘というだけで人は恐怖してしまうのだから。
金剛には助けようという気持ちがあっても、深海棲艦化してしまった元艦娘たちに長い間襲われていた人にとっては感染していない正常な艦娘だろうと、恐怖の対象としかなりえない。
それは金剛にとってあまりにも無残であり、無慈悲である。
しかしそれでも人を見捨てることができないのは、過去の経験と己の罪が大きく影響しているのをハッキリと分かっている。
だからこそ金剛は部屋の隅で固まりながら恐怖する人たちに背を向け、何も言わずにこの場から立ち去ろうとする。
そんな金剛の姿を見た人たちは安堵の表情を浮かべながら息を吐いた。
分かってはいたけれど、やるせない気持ちが金剛の胸を鷲掴む。
分かってはいたけれど、胸の奥にモヤモヤとした何かが沸き上がる。
金剛はそんな気持ちを周りに知られぬように静かな歯ぎしりで耐えながら、体当たりで粉砕した扉を踏み締めて部屋を出ようとしたところで、今にも消えさりそうなくらいに擦れた声が聞こえてきた。
「……ありがとう」
「……ッ!?」
金剛の足がピタリと止まる。
ゆっくりと声がした後方へと振り向くと、部屋の隅で固まっていた人たちも驚いた表情を浮かべて一点に集中していた。
そこには大量の出血をしながらもなんとか息を保っている男性の手をギュッと握りしめる小さな女の子が座り込みながら、金剛の方をジッと見つめている。
女の子の眼からは大粒の涙が零れ落ち、悲しげな表情を必死に笑い顔に変えてもう一度口を開いた。
「お父さんを助けてくれて、ありがとう……」
その瞬間、金剛は大きく目を見開いていた。
今までにも助けた人から感謝されることはあった。けれども、それは表向きの言葉ばかりであり、眼を見れば嘘をついているのがすぐに分かるモノばかりだった。
しかし前に見える女の子は自分の父親が危ない状況になっていても、金剛に向かって笑顔を浮かべながら感謝の言葉を発したのだ。
その眼には大粒の涙と嘘偽りのない光にあふれているように見え、金剛の胸にあった靄が一瞬で晴れていった。
同じくして女の子の周りに居る人たちの表情もまた、恐れの色が消え去っていた。
「ありがとう」
「助けてくれて、感謝する」
口々に感謝の言葉があふれ、金剛に向かって笑顔を見せる。
未だ危険な状態の人ですら感謝を述べる姿に、いつしか金剛の眼にも一筋の涙が零れ落ちていた。
その感覚があまりにも温かく、あまりにも懐かしく、自然と金剛の顔にも笑みが浮かんでいる。
そして金剛は感謝を述べる人たちに向かってコクリと頷いた後、「すぐに救助の要請をしますカラ、それまで何とか耐えきってクダサーイ」と言って踵を返し、部屋から出ようとする。
「きゅ、救助が来るのか……っ!?」
「ほ、本当に……っ!?」
「だ、誰が……、誰が来てくれるんだっ!?」
背中に向けられる歓喜の言葉に金剛は右手を上げ、振り返らずにこう言った。
「私たちの仲間……、舞鶴鎮守府の生き残りネー」
立ち去る金剛を見つめる人たちが驚きの表情を浮かべ、ピタリと声が止んだ。
「う、噂で聞いた、あの……舞鎮が……っ!?」
一人の男性がそう発した途端に先程よりも大きな歓声があがり、金剛は静かに眼を閉じながら微笑んだ。
最初からその名を出せば恐れられることはなかったかもしれない。
だけど、そうしなかったことで金剛はそれ以上のモノを女の子から貰えたのだ。
もう二度と迷うことはしない。
例えどんな眼で見られようとも、どんな言葉をかけられようとも、金剛は人を助けることを止めないだろう。
それが己の罪に立ち向かう唯一の方法だから。
それが己の属する全ての願いなのだから。
建物から出た金剛は艤装を陸上用骨格からバイクへと変え、無線機の電源を入れて仲間に連絡を取る。
「座標は34°58’11……。十数人が武装してマスガ、あまり状況はよくないデース」
「了解……。救護チームの手が空き次第向かわせるわ」
無線機から聞こえてきた仲間の声を聞いて少しだけ安心した金剛は、カチリと電源を切ってから大きく息を吐く。
窮地に陥っていた人たちを助けることができたことに嬉しさを覚えるものの、感染していない仲間を見つけることはできなかった。
「私たちには仲間が全く足りてませんネ……」
手が空き次第と言われた以上、今すぐこちらに向かうことはできないのだろう。
だからこそ同じ意思を持つ艦娘が、今の金剛たちには喉から手が出るくらい欲しているのだ。
「さて、それじゃあ付近の掃討を始めますかネー」
それでもこうしていれば、いつかは見つけられるだろう。
金剛は薄らと笑みを浮かべながらバイクのエンジンを始動させ、アクセルを吹かして走り出す。
救護チームが到着ここに到着するまでの間、周囲に居る元艦娘の脅威を取り払う為に金剛は人知れず戦いの場へと向かうのであった。
第一章 完
第一章『KONGO』編はこれにて終了です。
色々な作品を執筆していますので、続きはいつになるかは分かりませんが……また書ければなあと思います。
それでは、第二章の機会があればまた……。