※今話はグロ注意です。できるだけ抑えてはいますが、それでもやばいかもです。
暁と響は電を心配しながら通路を走っていた。
そして独房の扉が開いているのを目撃し、慌てて中に駆け込んでいく。
その目に映るモノとは……
二人の艦娘が通路を走る。
夜の時間に大きな足音が響くのもためらわず、全速力で駆けていく。
本来ならば規律によって叱られてしまう行動であるが、暁と響の心境はそれどころではなく、無我夢中で走り続けていた。
「電……っ」
響はトイレに行くと言って居なくなった電の名前を呼び、その声を聞いた暁が唇を噛む。
電が雷の元に行っていなければ問題は無い。そうであったならば、どれほど嬉しいことか。
その思いが二人の頭に駆け巡り、どうしてもっと早く行動しなかったのかと後悔する。
だけど、今は悔んでいる暇は無い。
一刻も早く雷が居る独房へ行き、電の姿が無いことを確認しなければならないのだ。
それを行うには、提督の命に逆らってしまうことになるけれど、電の無事を確かめる為にはこの方法しかない。
この行動によって怒られてしまったとしても、電が無事であるのなら二人は喜んで罰を受けるだろう。
焦りと苦悩、そして決意を込めた目を浮かべた暁と響が、いくつもの部屋の扉を通り越して通路の角を曲がってから、地下室へ続く階段を駆け降りた。
「お願い……。電が……電がここにさえきていなければ、何の心配も……」
額に汗を浮かばせた暁が最後の段を踏み抜くと、視界に薄暗い地下室の通路が入ってくる。
天井に据えつけてある蛍光灯の明かりがチカチカと点滅し、ホラー映画のような雰囲気を醸し出していた。
こんな時間に想像力が勝手に働いてしまう雰囲気の中、更には変貌してしまった雷が居る独房へと向かう。
罰ゲーム以外のなにものでもない状況であるにもかかわらず、二人は電の身を案じて前へと進む。
そして通路の先にある角を曲がった二人は、決して信じたくは無かった現実を目の当たりにする。
「「え……っ!?」」
二人は大きく目を見開いて立ち尽くす。
鉄格子がはまった窓がある独房の扉が、半開きの状態になっている。
その扉の鍵を中から開けることはかなり難しい。
つまりそれは、外部から鍵を開けたということになり、
それを行ったのは、まず間違いなく――電であると、二人は即座に思い浮かんだ。
「……っ!」
理解した響はすぐに扉へと駆けだし、一歩遅れて暁も後を追う。
響は後先考えずに全力で走り、
「電ーーーっ!」
通路中に響き渡る大きな声を上げながら、響は半開きの扉に体当たりをして独房の中に入った。
独房の中は通路よりもさらに薄暗く、二人の目は少しの間、殆ど見えなかった。
「電……どこに、どこにいるんだ……っ!?」
響の叫ぶ声は独房内に響き渡るが返事は無く、代わりに湿ったような音が聞こえてきた。
ぴちゃり……
「……?」
暁は辺りを見回しながら音の出所を確かめようとするが、目はまだ慣れずにままならない。
ぴちゃ……ぴちゃり……
水滴が滴るような音。
そして、鼻につく生臭さ。
なぜかそれらが、とてつもなく二人の心を不安にさせ、思わず拳をギュッと握る。
「電……それに、雷……」
響は二人の名を呼びながら、ぐるりと部屋の中を見渡した。
そして、暗順応によってうっすらと見えてきた内部の様子に気づいた二人は、大きく息を呑んだ。
「な……な……っ」
「な、なんなの……これ……っ」
壁一面に広がる大きなシミ。
床に広がる大きな池。
暗くて色合いは分からないけれど、明らかに異様であることは間違いない。
ぴちゃり……ぐちゃ……っ……
「「……っ!?」」
そして、急に聞こえてきた今までと異なる音に、二人はそちらへと振り返る。
ぬちゃ……ぶち……っ……
床に蠢く小さな塊が、棒のようなナニかを持っている。
ぐちゃ……ぶちゅ……
「あ……う……ぁ……」
その棒に塊が齧りつき、滴る水滴で床に広がる池が更に広がっていく。
ぐちゅ……ぶちぶち……っ……
「う……そ……」
闇に慣れた二人の目が、ソレがなんであるかを理解し、
声に気づいた塊の顔が、ゆっくりと二人へと向き、
暗闇の中に光る、真っ赤な二つの瞳を見た瞬間――
「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」」
二人は喉が張り裂けてしまう程の大きな声を上げた。
「どウしたの……? ソんナニ、大きナ声なんカ出しテ……」
棒のようなモノを持った塊が、ゆっくりと立ち上がる。
衣服どころではなく、身体中のあらゆる部分にシミをつけたソレは、二人に向けた赤い目を鈍く光らせながらニタリ……と、笑みを浮かべた。
「せっカくノ食事ナのに……邪魔をシなイでよ……」
「「……っ!」」
言葉とは裏腹に見える喜びに満ちた笑顔が、暁と響の身体を大きく震わせた。
なぜ、そんなことができるのか。
なぜ、そんな顔で笑うことができるのか。
どうして雷は――電を身体を貪っているのか。
「はう……っ」
あまりにも信じられず、あまりにもあり得ない出来事に、暁の身体が揺らぎながら床に崩れ落ちる。
「あ、暁っ!?」
慌てた響が暁を見ると、その顔は真っ青になっていて、どうやら気絶しているようだった。
「あラ……どうカしたノ……?」
「くっ……」
近づいてくる雷の足が床に溜まった赤い池を渡り、ピシャリ……ピシャリと鳴っている。
ゆらゆらと、今にも倒れそうな動きで近づいてくる雷に向かって、響は叫ぶように声を上げた。
「どうして……どうしてこんなことをっ!?」
「ドうして……って、電が私ヲ助けテくれルと言ッテくれタからジャなイ……」
「だ、だからって……こんなことが許されるとは……っ!」
「ナんで? ドうしテ? ナゼなのカしら?」」
「あ、当たり前じゃないかっ! こんな……こんなこと……」
「ナニを驚いテいるノよ。私ハたダ、食事をシたダケなんだケド?」
「……っ!」
雷が言った『食事』という言葉に、響は愕然とした。
あれほど仲が良かった電を、
あれほど仲が良かった姉妹である電を、
『食事』の対象にしてしまうなんてことは、響の頭では到底考えられるモノではない。
それは姉妹とかそういう区切りではなく、普通の思考をしていたのならば、決して踏み入ることの無い領域。
雷は、踏み出してはいけない一歩を――いや、境界線を――
完全に通り抜けていた。
「フう……。そロそロお腹モ一杯ニナったし、司令官ノとこロに行かナくちゃ……ネ」
手に持っていた棒――ではなく、いたるところを破損し、真っ赤に染まった電の腕を無造作に放り投げた雷は、独房の出入り口である扉に視線を向けた。
「……っ、ま、待つんだ雷っ!」
「ドうしテ? ドうしテ響ノ言うことヲ聞かなケレばイけないノ?」
「こんなことをしでかした雷を……司令官のところに行かせる訳にはいかないっ!」
「アらソウ。デも、私は気にセず向かッチゃウんだカラ」
不敵な笑みを浮かべた雷は響にそう言った途端、赤い池に這いつくばって姿勢を低くし、四足歩行の獣のような体勢を取った。
「な、何を……」
予測でき得なかった行動に気を取られた響の一瞬の隙をついて、雷はそのまま両手と両足で床を力強く蹴りながら、独房の外へと駆けていく。
「……し、しまったっ!」
急いで雷の後を追う響だったが、その動きは尋常ではない速度であり、独房を出た時には既に姿は無く、通路に続く赤い手足の跡だけが残されていた。
気絶したままの暁や、横たわったままピクリとも動かない電の変わり果てた姿をそのままにもしておけず、響はどうするべきかと迷う。
しかし、このまま雷を放っておけば更なる惨事が起こってしまう可能性を危惧した響は、涙で滲んだ目を強く閉じて袖で拭ってから、手足の跡を追いかけた。
次回予告
暴走した雷が独房から逃げ出し、響は後を追った。
その頃、執務室で四十崎部長を待っていた提督に大きな音が鳴り響く。
はたして、提督の運命は……
深海感染 -ZERO- 第四章 その7
全ては一つの線で……繋がっている。
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