真剣で私に恋しなさい ACC (アドベントチルドレンコンプリート)   作:ヘルム

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長らくお待たせして本っ当に申し訳ありません。
これから、以前のような長期の間はおかずに連載していこうと思っております。では、どうぞ。


九鬼従者部隊vsタークス 1

「オラよっと!」

「ぬっ!」

 

レノの曲芸じみた警棒による攻撃を糸の結界で防御するクラウディオ。

防戦一方というほどではないにしろ、徐々に押され始めていることはクラウディオ自身理解できていた。理由は至極単純でクラウディオの現在の肉体で動ける範囲というのが段々と狭まってきているのが理由だ。

こればっかりはどうしようもない。やはり人間である以上老いとは避けて通れないものだ。

 

(さて、どうしたものでしょうか…)

 

クラウディオは攻撃を受けながら現状の打破を目指し、思考する。

どう考えても、このままでは負けるのはクラウディオだ。それは間違いない。ならば、最早、短期決戦しかない。しかし…

 

(私の糸は、罠を掛けたり、小技を仕掛けたりするのは得意ですが、いざ大技に移行しようとすれば、おそらくわずかなタイムラグが発生する…ならば!)

 

クラウディオはもう一方で激しい拳と蹴りの応酬をしているゾズマへと視線を向ける。ゾズマもその視線に気づいたようだ。首肯はせず、何気ない雰囲気を装いながら、徐々にクラウディオの方へと近づき、彼らは背中合わせに自分の相手を見るような形で構える。

 

「何か用か?クラウディオ。」

「やれやれ、歳は取りたくないものですね。先ほどから息が切れて仕方ありません。」

「…そんなことを聞かせるためにわざわざ、私を呼んだのか?」

「ご安心を。ほんの冗談でございます。」

 

まったく分からない冗談にゾズマは嘆息しながら、その言葉に冗談は含まれていないことを正確に理解する。これでも付き合いは長い方なのだ。それくらいはすぐに理解できる。

 

「…で、本題は?」

「…単刀直入に申しますと短期決戦を仕掛けたいのですがよろしいですか?」

「だろうな。私もそれが一番の打開策だろうと踏んでいる。」

 

ゾズマの方はクラウディオと比べるとそこまで息が切れているというわけではない。だが、滅多なことでは流さないはずの汗をゾズマは流していた。

 

「で、具体的にはどうするのかな?」

「はい。策についてですが…」

 

クラウディオは小声で目の前にいる相手に聞こえない程度の声で作戦を説明し始める。そして、その作戦を聞いたゾズマは…

 

「…正気かね?クラウディオ?」

 

作戦としてはあまりにド派手すぎる。確かにそれならば、相手の意識を他にそらし、なおかつ、上手くすれば、相手も捉えることができるだろう。だが、正直な話、こんな(・・・)作戦行う者は中々に倫理が破綻していると言って過言ではない。

少なくとも九鬼従者部隊の中で良心を司っているクラウディオが考える作戦では絶対にない。

 

「…クラウディオ。何をそんなに怒っている?」

 

だから、ゾズマのこの質問はある意味当たり前のものだった。

怒っている。表情にこそ出さないがこの完璧執事はこの上ない激情に晒されている。くる間には絶対にそんな感情はなかったはずだ。なら、この戦闘をしている間にこの激情は起こったことになる。

 

「怒っている…ですか…そうですね。何故なのかは正直分かりません。ただ、彼らを見ていると無性に腹が立ってきまして…」

 

本当にその理由が分からないというわけではない。ただ、この不快感は隠しようがない。原因だけは分かっている。主の命令にただただ従っている(・・・・・)。そんな従者としては当たり前の様子が何故か従者である彼には堪らなく不快だった。

 

「…まあいい。ただ、その作戦ここでやるのは危険すぎる。揚羽様にすら危険が及ぶ確率がある。そうだな…隣の寮を兼任しているマンションにすべきだろう。」

 

ゾズマはわずかに目を動かし、そこに行くようにクラウディオに指示する。クラウディオもその意見に同意したようで首をわずかに下に下げる形で首肯する。

 

ーーーーーーー

 

「お、あっちに動きがあったようだぞっと。」

『ああ、そのようだな。この方角は神羅の社員寮を兼任しているマンションだな。』

 

レノとルードは離れていながらも、小型の通信機で連絡を取り合う。

 

「どう思うよ?ルード。」

『そうだな。地の利は依然としてこちらにある。正直な話、彼らの思い通りに動かれるのは釈だが…』

「そいつは仕方ねえ。年季の違いってヤツだろう。身体能力であちらを上回っていたとしても、戦術ではあっちが上ってことだろうよっと…」

 

あちらよりも歳が若いおかげかレノとルードはわずかに身体能力でこちらが上回っていることを確認できた。だから、彼らには余裕ができている。

だから、その余裕を示す意味合いを含めて、

 

「そんじゃ、どんな作戦があるのか知らねえが…潰しに行きますかね!」

『そうだな。了解した。』

 

そうして、彼らはゾズマたちの後を追う形で、マンションへ向かっていく。

 

ーーーーーーー

 

神羅ビル 会議室

 

「オラオラオラー!!」

「はあ!!」

 

李とステイシーが赤毛の女性シスネに向かって、鏢とマシンガンを叩き込む。シスネは手持ちのクナイでそれらを弾き躱していく。まるで曲芸染みた早業で彼らを翻弄するその姿にステイシーと李はそれぞれ息を呑む。

 

「…おいおい、少なくとも人間にゃ躱せねえくらいの隙間しか与えなかったぞ。」

「単純に…彼女が人間離れしているということでしょう。」

「簡単に言ってくれるな。李。あたしらの任務はアレを止めることだってのに…」

 

李の相変わらずな冷静さに嘆息した表情を浮かべて目の前の敵を睨め付ける。李とステイシーのコンビネーションは九鬼従者部隊の中でも随一である。これを止められるのは壁越えの戦士しかまずいないだろうというほどである。彼女たちのコンビネーションがあれば、忍足あずみすら凌ぐ。それぐらいの自負は当然のようにある。だが、そのコンビネーションをシスネはまるで当然のように躱していく。

まるで、水面を舞う白鳥のように…つまり、これは1つの事実を表すことになる。

 

「どうしたのかしら?お二人とも攻撃してこないのなら…」

 

会議室の横長でなおかつ丸型を象ったテーブルに足を揃えて立ちながら、ステイシーと李の方を眺める。

 

「こちらから行かせてもらうけど?」

 

言い終えた瞬間、シスネはいつの間にかステイシーと李の二人の間にいた。

 

「「なっ!?」」

 

百戦錬磨の戦士である彼女たちが全く反応できなかったところから予感は確信へと変わった。

 

そう。つまり、彼女は番付で言えばかなり下の方なのだろうが、

 

壁を超えている。

 

ーーーーーーー

 

ところ変わって会議室を出てすぐの廊下にて、そこでは無数のクナイが飛び交い、弾き合っていた。

そうして、数々の打ち合いの末に一区切りついたところで、衝突し、あずみとイリーナの二人が持っている刀とクナイが火花を散らす。

 

「ちっ!」

「ふっ!」

 

火花が散った瞬間、すぐに二人は距離を取り、構えをとった。

 

(この女、やりやがる。おそらく、さっきステイシーたちが相手取った奴よりは隠しただろうが、それでも私と互角を張れるほどの戦闘力。…ちっ、年下のくせしやがって…)

 

年のことにやたらと敏感なあずみは、舌打ちをする部分だけはそれこそ本当に忌々しげにした。

どうやら、この金髪の女は自分と同じく忍術の使い手のようだ。

実力的には自分と互角。となると、この戦闘を制するのはどれほど自分たちの戦略の戸棚があるかということになる。

 

「さて、となると、この障害物がねえ廊下じゃやりづらいな。」

 

イリーナの目を見ながらジリジリと下がっていくあずみ。だが、その足を突如飛来してきたクナイが止める。

 

「おっと。」

「行かせないわ。あなたと私じゃ経験が足りないでしょう。そこはどうしても埋めようがないもの…なら、あなたはそこを遠慮なくついてくるはず…それを黙って見ているほど私はお人好しじゃないのよ。」

 

あずみは自分の考えを読まれたことに対して、またも舌打ちをし、イリーナを睨め付ける。

 

「はっ!自覚してるわけか。なら、てめえに教えてやる。その戦略の差ってのがこの廊下でも活かされるってことをな。」

 

 

獰猛な笑みを浮かべながら、彼女は二刀を逆手に構える。そして、イリーナはそれを睥睨しながらクナイをスーツからサッと出し、同じように逆手で構える。

 

そして、今度はクナイを持ったイリーナが待ち構えていたあずみへと向かい突進する。クナイを投げずに敢えて接近戦を選んだのはあずみの搦手を恐れたためである。彼女の先ほどの言から察するに何が何でも自分の戦略へとイリーナを巻き込もうとするだろう。なら、彼女に何もさせないくらいの怒涛の攻撃を浴びせて彼女に何かをする余裕などなくして仕舞えばいい。単純だが、理に適っている戦術と言える。

 

あずみもその戦法しかないだろうと思いながらも同時に感心していた。戦闘時において、まさに一瞬とは勝負の瀬戸際を表すものであり、故に作戦を思考する時間とは限りなく短い。それこそ一瞬で現在の状態を頭に叩き込み、すぐに作戦を試してみるだけの度量と回転の速さが必要なのだ。

だが…とあずみは思いながら、逆手持ちの刀を上から振り下ろした。

それをイリーナは落ち着いた調子でクナイで弾く。だがそんなイリーナの表情はすぐに驚愕に満たされることになる。

なんとあずみは刀の持ち手を刀から離したのだ。

そして、そこから流れるような肘打ちがイリーナの腹部にまっすぐ向かう。

 

「ぐっ!」

 

それにもんどりを打つように後退したイリーナに向かって言葉を吐き捨てる。

 

「思考が速すぎるせいで、頭がガチガチに固められてやがる。それじゃぁ、実戦じゃ勝てねえ…ぜ…?」

 

だがあずみの最後のこの言葉は途切れるようにして、続いてしまう。急激にあずみの身体から力が抜けていくのだ。原因は何だと探るあずみ。すると、彼女の腹部にパチンコ玉くらいの大きさの穴が空いていた。

そして、あずみは前を見る。そこにはポケットに入れられるほどの小さな拳銃を構えているイリーナがいた。

 

「ちっ…銃…かよ。」

 

ドサッと倒れていくあずみ。あずみが倒れたことを確認し、イリーナはその頭の元まで歩いていく。足取りは重い。どうやら先ほどの肘打ちが予想以上に効いていたようだ。

 

「勝負あったわね。私がいつ、銃は使わないなんて言ったのかしら?これはルール無用の殺し合い。頭が固かったのはそちらの様ね」

 

侮蔑するように言葉を吐き捨てながら、イリーナは銃口をあずみの後頭部に向ける。俯せに倒れていたあずみに不敵な笑みを浮かべられてるなど知りもせず…

 

「あぁ、全く、馬鹿なことしやがる。なんでてめえ、近寄ったんだ(・・・・・・・・・・・・・)?そうしなけりゃ、あたいの負けだったのかもしれないのによ。」

「…?」

 

言っている言葉の意味が分からないが、構わず引き金を引こうとする。そして、引き金を引こうとした次の瞬間!

ぐいっと足が引っ張られる感覚を感じるイリーナ。

 

「何…?」

 

そう呟いた後では遅かった。彼女の足は何かに絡め取られ、片足を天井に向けてような格好で吊り下がってしまった。その光景を見た後、あずみはゆっくりと穴の空いた腹を抱えながら立ち上がる。

 

「なっ!?」

「だから言ったろ?頭が固すぎるってよ。あんたも忍びの技を齧ってるんなら、既にここが罠で張り詰め尽くされれてる可能性だって考えておくべきだぜ。少女(ガール)。」

「っ!?」

 

慌てた調子で上を見るイリーナ。するとそこにはクナイの穴から目視が難しいほどの細く、だがイリーナの体重を支えられるほどの頑強さを誇っている糸が他のクナイからも無数に張り巡らされている。

 

「九鬼特別製だ。蜘蛛の糸をベースにした新型の糸。本来はクラウディオさんの十八番だが…あたいも別に使えないってわけじゃない。なにせ、この小道具たちを扱いこなしてこその忍びなわけだしな。」

「…っくそ!」

 

イリーナが悪態をついた次の瞬間、あずみは既にイリーナの背後にいた。

 

「殺しはしねえ。極力殺人避けるのが今回作戦の方針でな。そうしないと後々面倒なことになるらしい。」

 

そう言ってあずみは手元に小さな針を出し、イリーナの首元へとブスッと突き刺す。

うっ、と声を上げたイリーナだが、やがて針の中の毒が効いてきたのか身体がビクビクっとしびれたような反応をした後、ゆっくりと瞼を閉じる。

 

「任務完了。ふー、きつかった。噂には聞いてたがタークス…これほどとは…」

 

おそらく、自分が相手した物はタークスの中でも一番格下だ。そのことはあずみ自身戦っている中でなんとなく分かっていた。だが、その格下でこれなのだ。他のタークスがどんれほどなのかなど考えたくもない。

 

「いつつつ、っと、まずはこの身体の穴をどうにかしないとな。悪いけど、他の奴らは頼んだぜ。」

 

そう言ってあずみはへたり込みながら息を整えるのだった。


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