真剣で私に恋しなさい ACC (アドベントチルドレンコンプリート)   作:ヘルム

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人外大戦3

川神 上空

 

鉄心「フゥ…なんとかなったの…」

 

その言葉は敵を撃破できたことに対するものでもあり、また、一つの懸念が解消されたことに対する安堵のため息でもあった。

何に安心したのかというと、お気づきの方がいるかもしれないが、あの隕石攻撃は先に言った通り、地面に癒えぬ傷を与えかねない攻撃であった。さて、そんな攻撃を市街地に向けるような形になってしまえば、住民が避難しているとはいえ、大惨事になってしまう。そんな訳で彼はその場所探しをあの激しい戦闘中に行う必要があった。

本来、彼は自然を傷つけることもよしとしないこともあり、それは想像以上の難題になる…

 

かと思われた。

 

なんと、あったのである。生物がいなさそうでなおかつ最早荒地となっている土地が…

 

鉄心「しかし…」

 

彼は思う。あんなところに荒地などあっただろうか?彼は長く川神に在住していたこともあり、この辺りの地形にはかなり詳しいはずだった。

だからこそ、不可解だった。あんな何かの爆発の影響(・・・・・)で出来上がったような変な荒地が一体あっただろうか?と…

 

鉄心「まあ、ここは川神じゃしの。多少、変なことが起きてもおかしくないの。」

 

そんな無茶苦茶なようで納得もできてしまう理由を自分の中に言い聞かせてそのまま彼は川神院に帰っていくのであった。

 

ところ変わって、ここは釈迦堂とイフリートの戦闘によって出来上がってしまった荒地(・・)である。

 

釈迦堂「ふー…」

 

激闘を制した釈迦堂爆発その場に寝そべり空を見上げている真っ最中であった。そんな時、まだ空は青いのになぜだかキランと何かが光ったのである。

 

釈迦堂「…?なんだ?ありゃ?」

 

奇妙に思い、その赤く光っている何かを見つめ続ける釈迦堂。だが、それが段々と近づくにつれて大きくなっていく様を見て、さーと対照的に釈迦堂の顔は青くなる。

 

その赤い何かとは何か?

 

釈迦堂「えっ?マジで…?」

 

そう。隕石である。しかも一つや二つではない。

その無数の破壊の塊は焔の尾を引いて一筋の矢となり、釈迦堂が今いる荒地へと真っ直ぐに真っ直ぐに突き進んできているのである。

 

釈迦堂「っ!?やべ!!」

 

気づいた時には走り、その破壊の矢を避けようとしていた。

 

だが、遅かった。それらは容赦なく彼の上へと降り注ぐ。

 

釈迦堂「ぬぐっ…おおおおお!!」

 

 

 

 

しばらくして、破壊の雨が終わった時煙が上がり、最早平地など無くなっていた大地はそれらの脅威をありありと示していた。

 

そんな中、釈迦堂は…

 

釈迦堂「ぶはっ!?」

 

なんとか生きていた。いや本当に自分でもなんで生きているのか不思議なくらいである。

 

辺りを見回した。どうやら、本当にただ、偶然助かっただけのようである。安堵のため息を放つとともに、彼は同時に疲労の色を隠そうともせずに今度こそ限界がきたようで、その場に倒れこんでしまった。

 

釈迦堂「ちっ!あの師匠(ジジイ)…」

 

わざとということではないだろうが、こんな技ができるのは世界であの妖怪ジジイだけだろう。

帰ったら飯を奢ってもらうか、何かしてもらおうと心の中で誓いながら、彼はイビキをかきながら眠りについた。

 

九鬼財閥 工場エリア

 

屋根上

 

オーディン【ぬん!!】

ヒューム「ふん!!」

 

カッターのような鋭い蹴りと、文字通りの鋭い大剣が衝突しあい屋根上であろうと工場内の装置や、器具がミシミシと鈍い音を立てたり、大地へと落ちていたりする。

 

バチバチと火花を散らした後、彼らはそのまま弾かれるようにズザザザザザと後ずさった。

 

ヒューム「…ほう。俺も昔は獣と戦い己を鍛えていた時期があったが、これほどの手応えある獲物は久しぶりだ。」

オーディン【私を獣と同列に置くな。人間。我ら召喚獣は[獣]と読むことができても、その存在は人間などよりも高次な存在だと自負している。】

ヒューム「ふん。その腕は認めてやらないでもないが、人の手によって作られておきながら、人よりも上などとよくも思い上がれたものだ。」

オーディン【それはこちらのセリフだ。人間など単に貴様が特別強いというだけで、他は弱い個体が大半だ。特に今の世の中はあまりにも脆弱なもの達が世の中を回そうとしているというではないか。】

ヒューム「いや、全くその通りで今の若者は嘆かわしいにもほどがあるが…だが、それは敗者である俺が口にしても無駄だろうよ。

こうして負けて、認めてしまっている以上、俺もこれからの社会を守っていく必要がある。」

 

話があっているのか、あっていないのかよく分からない傲岸不遜なもの同士の言葉の応酬を、そこで「だから」と切り上げてヒュームはオーディンを睨みつける。

 

ヒューム「そのためには貴様を排除する必要がある。

 

というわけで、遊びはここまでだ。お互い(・・・)本気で潰し合おうか?オーディン?」

オーディン【……】

 

オーディンはわずかに面食らったように、目を開いたが、すぐに気を取り直して目を尖らせながら、ヒュームを見る。

 

ヒュームはわずかに腰を落とした後、左足を力の起点とすることでそこからジェット噴射するかのように、オーディンの方へと飛んで行った。そして、えぐりこむような掌底を兜で覆い隠された顔へと突き込む。それを大剣で防御した瞬間、今までの衝撃音など比べ物にならないほどの爆音が鳴り響いた。

 

オーディン(こ、これは!?)

 

オーディンはいきなりの敵の膂力上昇に驚きながらも、その掌底を大剣の横面で滑らせるようにしていなした。

そして、馬を軽く足で蹴って命令を下し、距離を取らせた。

 

オーディン【驚いたな。まさか、貴公も本気を出さずに来ていたということか。】

ヒューム「人間相手ならまだしも、お前は一体どういう生物なのかわからない以上、観察する必要があったからな。そのために少し時間を取らせてもらった。お前も似たようなものだろう?」

オーディン【ふっ、いいだろう!我が剣戟の極地を貴様に見せてやる!】

 

言った後、場は急に静まり返った。周りに一般人がいれば押しつぶされそうなほどの圧倒的な気迫による静寂。それは誰1人として侵すことはできない神域の技と言えるだろう。

これで何度目かになるにらみ合いをした後、どちらからともなく衝突した。

 

オーディン、ヒューム『おおおおおおおお!!!』

 

互いの慟哭は木霊し、先ほどまで下にあったはずの屋根は嵐にでも巻き込まれたかのように渦巻き吹き飛ばされていった。

その次にあったのは、異常な剣戟と拳の連打の応酬である。時に攻め、時に守り、一進一退の攻防は両者の鋼の肉体を裂き、傷つけていく。

 

オーディン【フン!!】

 

オーディンが上段から剣を振り抜く。ヒュームはそれを手の甲で受け流しながら、真っ直ぐにその拳をオーディンの顔面へと突き進ませる。

首をひねることでその攻撃を躱し、今度はヒュームの横にある大剣を構え直し薙ぎ払うように横へと振る。

ヒュームはその攻撃を敢えて腕を受ける。このままでは流れが変わらないと考えた彼は流れを変えるためにわざと、腕で受けたのである。

 

ヒュームの体のすぐ横にあった大剣を無理矢理振ったオーディンは、ヒュームの一見無茶苦茶な対処方法を見て、自分の手が悪手だったと気付かされる。

 

前述した通り、彼は反撃のために真横にある(・・・・・)大剣を無理矢理振るった。だが、そんなためも何もない攻撃が果たして、ヒュームを両断するに足る一撃になるだろうか?答えは断じて否である。たとえ、傷が骨まで到達したとして、絶対に両断されることはない。

 

そのことをヒュームも直感で理解したのだろう。大剣は深々と突き刺さるように刃を肉にめり込ませるが、それでもヒュームの前進を止めるには至らなかった。

 

まずい、と思った時には何もかもが遅かった。ヒュームの容赦ない拳が鎧を貫きオーディンの体をくの字に折れ曲がらせた。

 

オーディン【ぐふっ!?】

 

悶絶し、馬から強制的に弾き落とされる。馬も事態を瞬時に理解したのだろう。すぐにオーディンの元へと駆け寄った。

 

オーディン(やって…くれるな!)

 

賞賛混じりの悪態を心の中で吐きながら、彼は馬に飛び乗り、またヒュームの方へと向きなおる。一方のヒュームも無傷とはいかなかった。

 

オーディンの剣は防御を鎧に任せていた分、剣にその圧倒的な気を収縮することができた。だから、彼の一撃は文字通り乾坤一擲の一撃とかしていたのである。無理矢理の一撃であろうとそれを腕で受けたのだ。

当然、浅い傷ではない。

 

ヒューム「ふー…」

 

嫌な脂汗が頬を伝う。

ヒュームは理解した。次の一撃が最後になるであろうことを。

そして、それを理解しているのは多分相手もだろう。だから、全身の気を今度はこちらも脚の方へと乾坤一擲とするために、気を溜めていく。

 

オーディンも剣の方へと気を溜める。

両者が立っている部分はもはや、荒野と化したかのように工場の備品などが木っ端微塵となって、散乱している。だからなのだろうか。

ヒューと風が異様に通り抜けて行く感覚がありありと両者には感じられた。その感覚は両者に僅かながらの安らぎを与え、そして

 

二人は風が吹き終わると同時に激突した。

 

ヒューム「ジェノサイドチェーンソー!!」

オーディン【斬鉄剣!!】

 

あまりにも強烈な力のぶつかり合い、火花となり、嵐となった。

その嵐が幾分か過ぎた頃に、収まった後、両者は全く反対の立ち位置で立ち尽くしていた。

 

ぶしゅっと、何かが破裂したような音がすると共に、胴と脚から血を噴き出しヒュームは膝をつきそうになる。だが、直前で思い留まる。

ここで倒れるわけにはいかない。なぜなら自分は…

 

キンと、何か金属片のような物が落ちた音がして、そちらを振り向く。

それはある男の剣だったものだった。

その金属片から視線を上に上げる。

戦神の名を冠する男は馬に乗りながら振り向きもせずに、折れた剣を握りしめていた。

 

オーディン【負けた…か…】

 

やがて、数分が経ち、彼はようやく口を開いた。自分が負けてしまったことが信じられなかったのかそれとも、相手の技の重さに驚いたのか、あるいはその両方か。どれともとれぬような口調でつぶやく。

だが、少なくともどこか満ち足りているような、そんな口調だった。

 

オーディン【どうやら…私は貴公には及ばなかったらしいな。だが、貴公という強敵と闘えたこと…感謝する…】

 

そう言って、彼は鎧を身につけた馬と共に体を星屑と化して消えていった。その姿をしばらく止まりながら見つめたヒュームは…

 

ヒューム「ああ。俺も感謝しよう。オーディンよ…」

 

と呟いた。

 




ふー、終わった…いや、まあ、まだまだ続くんだけど、人外と人の戦いって予想以上に難しいですね。正直、根を上げそうになりました。

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