機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 5 「コロニーの中で」

 『その戦艦はアークエンジェルといった。

  平和を運ぶ"天使の箱舟"なのか、

  それともコーディネイターを滅ぼすための"大天使"なのか

  その名前はどうにも好きになれなかった』

 

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 地を割って現れる大天使――その名前と真逆の行為をしながら、

 『強襲機動特装艦 アークエンジェルは』大地に産声を上げた。

 

 

 

 

 「アイシャ中尉! X-303イージス健在! ……で、ですが戦闘中です! 敵機も補足しました! ZGMF-515シグー――こ、これは紫電(ライトニング)の!?」

 アークエンジェルの、ブリッジのオペレーターがアイシャに告げた。

 

 「援護射撃――ミサイル、モウ撃てル?」

 「す、直ぐにはムリです!」

 アイシャが敵機への攻撃を指示した――しかし、艦の動作は、ほぼオートで制御しており、各部の整備も完了していないのだ。

 すぐにできる筈は無かった。

 「準備、急がせテ、照準は私がやりマス! マズは艦を浮上させテ、状況を確認する!」

 

 コロニーの中央部――アークエンジェル側からすると空中にいる、ネオのシグーは、船を見下ろす格好となった。

 「チ、やれたとは思ってなかったがね、まさか無傷とは思わなんだ」

 コクピットの中のネオは、忌々しそうに舌打ちした。

 

 ネオはシグーを大きく旋回させて、アークエンジェルを一望する。

 

 「――とりあえず動いただけか? 報告が確かなら、補給前だ……ならば」

 

 とネオは、浮上するアークエンジェルに向けて、機体を一気に加速させて、ギリギリまでシグーを近づけた。

 

 「て、敵機、シグー接近!!」

 「ミサイルハ、マダ?」

 ブリッジが慌てふためる。

 「機銃をオートで展開しましょう!」

 「ダメ。 コロニーの中で機銃の乱射はデキナイ!」

 アイシャ、ただ一人が冷静であった。

 

 

 ネオが近づいても、アークエンジェルは迎撃してくる気配がない。

 「――反応が無し、と。 まあコチラも対艦装備がなければ迂闊に手は出せんが……」

 

 

 それならばと、思い立ち、ネオはそのまま、アークエンジェルに直進した。

 

 「キャッ!?」

 アークエンジェルが軽く揺れた。

 

 

 ネオのシグーがアークエンジェルの船体の横部を蹴り飛ばしたのだ。

 コロニー芯部は無重力地帯であるため、その反動で、ネオのシグーは加速した。

 

 「この隙に乗じて、モビルスーツの方をやらせてもらう!」

 今度は一気にイージスの方へ距離を詰めていく。スラスターの不調を、キックによる反動で埋めたのだ。

 

 

 イージスのコクピットの中で、アスランもその動きを見ていた。

 「チッ!」

 アスランはフェイズシフトのスイッチを押した。

 装甲に電圧がかかり、色が灰色から赤に変化していく。

 

 「色が? そいつがフェイズシフト装甲か――コレならどうだ!」

 

 ネオのシグーは、装備しているライフルの弾丸を入れ替えた。

 そして、そのまま空中から地上にいるイージスへと銃口を向け、引き金を引く。

 

 装填した弾丸は、強化APSV――超高速徹甲弾。

 凄まじい貫通力を持つ弾丸である。

 

 それは地球連合軍の兵器の殆どを、数発で沈黙させる威力を持つ――筈であったが、

 「――ッ!」

 アスランは、身を屈めて防御の体勢をとった。

 頭部カメラやコクピットは隠せるようにする為だ。

 

 ズガガッ!

 

 凄まじい金属音が、着弾した箇所から鳴り響いた。

 

 

 ネオはモニターの表示を望遠モードにしてイージスの様子を伺う。

 ――イージスにダメージは無いようであった。

 

 「おいおい、なんてこった、あそこまでの強度とは!」

 ネオはその、あまりの防御力に驚嘆した。

 

 ネオが見た限りでは、着弾箇所の塗装が、一瞬、赤から灰に変わったような気もしたが、

 現在のイージスの装甲には、傷一つ確認できないのであった。

 

 「あの反応、PS装甲はリアクティブアーマーのようなものか……? ――ッ!?」

 

 と、シグーのセンサーに熱源反応があった。

 アークエンジェルから、ミサイルが発射されたのだ。

 

 「レーザー誘導で狙い撃つ気か!?」

 

 3発、シグーに向けてミサイルが接近してきた。

 しかし、

 「チッ!」

 ――見える!

 ネオは、ライフルを構えて、ミサイルに銃口を向けた。

 ライフルのモードをフルオートにして、弾丸をばら撒く。

 

 「撃ち落とシタ!?」

 アークエンジェルの中、アイシャがその様子を見て驚愕した。

 ネオのシグーは、接近してきたミサイルを、回避するでなく、ライフルの弾丸で狙撃するという、離れ業を披露したのだ。

 

 「ヤッパリ、あの紫のシグーハ……!」

 「おお……」

 アークエンジェルのブリッジがどよめいた。

 

 これが、紫電(ライトニング)の異名を持つパイロットの動きなのか。

 アイシャ以下のアークエンジェル・クルーも舌を巻いた。

 

 

 と、その時、ネオの打ち落としたミサイルの内の一発が、コロニーの機関部を巻き込み、爆発した。

 

 「あっ!?」

 アイシャが叫ぶ。

 

 被弾したパーツは、コロニーのバランスを支える、支柱のような部品であった。

 その為、見た目には少々のダメージでも、被害が出れば重大な影響がコロニーに及んでしまうことになるのだ――。

 

 

「うわあ――っ!」

 ニコルが地上で叫んだ。

 

 コロニーの機関部が破損した事で、またも大きな振動が、イザークたちを襲った。

 コロニー全体の形が歪み始めているのだ。

 

 これは、コロニーが円筒の形をしており、その本体が回転する事で遠心力――中の住人たちにしてみれば重力を発生させている事に由来していた。

 コロニーは、繊細なバランスで成り立っているのである。

 

 イザークらも、咄嗟に物陰に隠れ、身を伏せる。

 しかし、落下物と振動が容赦なく彼らを襲った。

 

 「コロニーの中で撃ち合って……!」

 それを見ていた地表のアスランは、イージスを操作した。

 「おい、また!」

 バルトフェルドが勝手に操作を始めたアスランに言った。

 「大尉は降りてくれ、イージスでシグーを迎撃する!」

  アスランはバルトフェルドを無理やり下ろし、

  イージスをジャンプさせ、空中にいるシグーへと機体を向けた。

 

  

 「来るのか! 最後の一機」

  ミサイルの爆発からの回避運動を取っていたネオは、それに気づいた。

  シグーのレーダーに、”敵機”の識別信号を持つ機体が接近していると、反応があったからである。

 

 ネオは、距離をとってから、ライフルをイージスに向けた。

 

 「――それなら、その性能、とことん試させてもらうぜ、子猫ちゃん!」

 

 ズバババッ!  シグーの銃口から弾丸が発射された。

 ガガッ!と数発がイージスの装甲を掠めた。

 

 ピー! とエラー音がコクピットに鳴り響く。

(被弾によってアンテナのセンサーが故障? 流石に完全に無効化とはいかないか?)

 如何に、イージスの装甲が無敵の硬度を誇っていたとしても、モビルスーツ自体は精密機器の集合体なのである。

 被弾すれば、何かしらの損害が機体に出ることは明白であった。

 

 

 ネオのシグーは、できる限りのデータを取るため、あるだけの弾丸を放とうとしていた。

 

 「チッ!」

 何発もあたるわけには行かない。

 アスランはイージスのスラスターを噴かし、機体を加速させ、空中に舞うようにして、攻撃を回避した。

 

 「速い! シグー以上なのか!」

 ネオがその機動性に驚嘆する。

 見たところ、ザフトの主力であるジンはおろか、

 新鋭機のシグーをも超えるスピードを有しているようだったからだ。

 

 (このイージスという機体、速い……!)

 弾丸を軽く回避できた事に、アスランは勢いづいた。

 しかし、

 「!?――しまった!」

 自分が回避した弾丸が向かう方向を悟って、アスランが叫ぶ。

 

 

 イージスがよけた弾丸は、仲間の居る地表に、そのまま直撃することになった。

 

 

 

 

 ズババババ!

 土煙を上げて、雨のように地表に降り注ぐ弾丸。

 

 「うわぁー!」

 地上ではニコルたちが、再度、悲鳴を上げていた。

 

 「――冗談じゃない!」

 

 これ以上、コロニーの中で戦闘をするわけにはいかない。

 何か手は無いのか――と、アスランは先程発見した武器を試す事にした。

 

 (高出力のビーム兵器――複列位相砲スキュラ!)

 

 イージスには、アスランも俄かには信じられないような機能が搭載されていた。

 変形機構――機体の構成を組み替え、モビルアーマーにその形を変えてしまうというものである。

 ザフトにもこのような機能を持つモビルスーツは存在しないはずである。

 

 (変形機構を試す!)

 

 アスランが操作すると、機体は大きく足を広げる形で回転し、スラスターが一箇所に集中、イージスは飛行機――というよりは前時代のロケットのようなシルエットになった。

 

 ――イージスは、モビル・アーマー形態に、その形を変えた。

 

 

 「モビルアーマーに変わっただとッ!?」

 

 

 それを見て、ネオが咄嗟に機体を引かせた。

 もう一度、イージスから距離をとる。

 正体不明の機能に、ネオは警戒した。

 

 

 しかし、

 

 ズバァアア!

 

 「先程よりもさらに速い!? 逃げられんか?」

 

 変形したイージスの加速力は凄まじいものがあった。

 モビルアーマーとなったイージスに、あっという間に追いつかれそうになる。

 

 イージスは変形すると、スラスターのほとんどを機体後部にまわし、

 それによって爆発的な推力を得ることが出来るのだ。

 ――しかもそれだけではなく、変形によってエネルギー供給回路を組替え、モビルスーツが今まで使用出来なかったような、高出力の火砲、『スキュラ』を単体で使用出来るようになる。

 

 

 「当たれば一発で仕留められる――いけぇ!」

 

 アスランが、ネオのシグーをロックオンし、イージスは、スキュラを発射した。

 

 

 

 

 

 

 「――待て、それは!」

 地上に降りて、その戦闘の様子を見ていたバルトフェルドが、アスランに叫んだ。

 

 

 その武器は威力が強すぎる――と続いた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、モビルスーツに乗るアスランに、当然、届くはずもない。

 

 

 

 

     ズビュゥウウウウゥウウウン!

 

 

 

 轟音と、凄まじい閃光がコロニーに走った。

 

 

 

 「――ああっ!?」

  対照的に、アスランは絶句した。

 

 ――自分が撃ったその砲撃は、大型戦艦の主砲並みの火力であったからだ。

 

 

 

 

 「な――ッ!」

 ネオはギリギリの所で回避運動を取った。

 

 

 

 ズガガガガガッ!!

 

 

 凄まじい威力の砲撃は、シグーが腕に装備していた盾ごと、その腕をもぎ取っていった。

 

 

 それどころか、そのビームは、シグーの腕だけで止まらず、減衰しつつもそのまま直進し――なんと、コロニーの外壁をも貫通した。

 

 ズドォオオオン!!

 

 音を立てて外壁が崩壊し、コロニーに穴が開く。

 

 「一撃!? 一撃でシグーのABC(アンチビームコーティング)シールドを貫通した上にコロニーの壁に穴を!?――チッ! これ以上はこちらも戦えんか!?」

 

 

 シグーのシールドは、ビーム兵器にも対抗できるように対ビーム加工が施されていた筈である。

 それが全く効果を示さずに破壊された――PS装甲も含め、今の自分には、あのモビルスーツに対抗する手立ては無い。

 

 

 ネオは機体を、敵の攻撃によって開いた大穴へと向けた。

 

 クルーゼへの迎撃、仲間の回収、敵の最後のモビルスーツに対するコロニー内への強行偵察。

 出撃した成果としては十分であろう。

 

 「メインのスラスターが無事なら当たりはしないものを、クルーゼめ、後になって効くってか?」

 

 ネオは、イージスの凄まじい性能を目の当たりにし、撤退しつつも、コロニーの地表に残る部下の機体の残骸に目をやった。

 「……すまんな、カズイ」

 そう一言呟くと、ネオは、穴から外へと出て行った。

 

 

-----------------------------

 

 

 

 コロニーの地表に降り立ったアークエンジェルに、イージスも身を寄せた。

 アスランのイージスは仲間達を手に抱え、開いたカタパルトデッキに降り立った。

 

 「バルトフェルド大尉!」

 ダコスタが、イージスから降りたバルトフェルドに駆け寄った。

 「ダコスタ! それにお前ら、よく無事で!」

 

 

 アイシャも、バルトフェルドに駆け寄った。

 

 が、声を掛けるようなことはなく、敬礼をして、視線を向けるだけであった。

 アイシャと目のあったバルトフェルドは、

 

 『悪い、心配かけたな』

 と視線を送った。

 

 アイシャは微笑んで

 

 『いつものことダカラ、心配してないワ』

 と視線で返してきた。

 

 「アイシャ中尉、君たちのお陰で助かった、よくアークエンジェルを」

 「いえ、ご無事でなによりデスワ、大尉」

 それ以後は、事務的な会話で二人は接する。

 

 「ところで…彼らは…?」

 ダコスタがバルトフェルドに聞いた。

 

 

 ――ヘリオポリスの学生たちのことだ。

 

 すると、イージスのハッチが開き、アスランが出てきた。

 

 「なんだ、子供じゃないか!?」

 「あの少年がコレに乗ってたってのか…?」

 下からそれを見上げていたクルーたちがざわめく。

 

 

 「大尉……これは一体?」

 「先ほど、ジンに襲撃された際、彼がこれを操縦してジンを撃退してくれた」

 「……彼が?」

 

 一斉に、疑惑の目がアスランに向けられる。

 

 

 「ほう…これは驚いたな」

 すると、艦の後方から声が聞こえ、一人の男が現れた。

 連合の士官服を着ていて、顔には黒の深いサングラスをかけている。

 クルーゼだ。

 

 「……先ほどこの艦に機体を回収していただいた、第七機動艦隊所属、ラウ・ル・クルーゼ大尉だ、よろしく頼む」

 とクルーゼが言った。

 「第五特務師団所属、アンドリュー・バルトフェルド大尉だ、こちらこそ」

 と、バルトフェルドも返す。

 

 (ラウ・ル・クルーゼ……聞いたことがある、確かエンデュミオンの鷹の二つ名を持つエース)

 

 バルトフェルドは、目の前の男からある種の緊張感を感じた。

 と、同時に

 (それにしてもこの男、初対面の人間にグラサン取らないなんて、いい度胸じゃないか)

 不快感もあわせて。

 

 だが、

 「……申し訳ないが、私は目に事情があってね、サングラスを外したくないんだが、よろしいかな?」

 とのクルーゼの返答に、バルトフェルドは、ドキリとした。

 (全く、この男は心でも読めるのか……) 

 やはり不快だ。この男とはなんとなく合わない。バルトフェルドは直感で感じた。

 

 「ところで、乗艦許可をいただきたいのだが? 私の船も落とされてしまってね。 この艦の責任者は?」

 「……この艦の艦長は先ほど戦死されました」

 ダコスタが言った。

 「マクスウェル艦長が……?」

 バルトフェルドにとっては初耳だった。

 「無事だったのは艦にいた下士官と、十数名のみです。 私は坑道におりましたがコンテナに隠れて運良く難を」

 あれだけの爆発だ。 クルーに何かあるのではとおもっていたが、あの艦長が……。

 「よって、現在は、バルトフェルド大尉にその任があると思われます」

 とダコスタは言った。

 「俺が、かい?」

  寝耳に水である。バルトフェルドはダコスタに思わず聞き返した。

 「事態は深刻だな……が、ともかく許可が欲しいなバルトフェルド大尉」

 「やれやれだな。 わかった、乗艦を許可する」

 バルトフェルドは、頭を掻いた。

 

 

 「――それで、彼は?」

 クルーゼは、今度はアスランの方へ目を向けた。

 「見たままの、民間人の少年だ。 襲撃を受けた時、何故か工場区に居てな……Gに乗ってもらったんだが……アスラン・ザラという」

 「ふむ……」

 「しかし、あの少年のおかげで、先にもジン1機を撃退しイージスだけは守ることが出来た」

 「ジンを撃退した!?」

 ダコスタが思わず、驚きの声を上げた。

 あの子供が、そんなバカなと、周りの下士官や、クルーからも声があがる。

 

 「アレの正規のパイロット達は?」

 クルーゼは護衛してきたパイロットたちの所在をダコスタに聞いた。

 「ちょうど指令ブースで艦長へ着任の挨拶をしている時に爆破されましたので……共に……」

 「フム……」

 が、結果はそのようになっていた。

 

 クルーゼはアスランに近づいた。

 そして、アスランを凝視する。

 サングラスで、目はどのようになっているかわからないものの、

 威圧されるような、見透かされるような鋭いものを、アスランは感じた。

 

 と、

 「君は、コーディネイターだな?」とクルーゼは一言言った。

 

 「……はい」

 唐突に言われ、どうするべきかアスランも迷ったが、アスランはそのまま真実を応えた

 この状況では仕方ないと感じた。隠そうとしても、いずれわかってしまうことだ。

 なにより、この視線に、嘘をついても仕方がない気がしたのだ。

 

 すると、先程以上に辺りがざわついた。

 コーディネイター。

 無理もないのだ。 地球軍はコーディネイターと戦争しているのだから。

 思わず、下士官の一人が、銃を構えた。

 すると、辺りの兵士たちも、銃をアスランに構えだす。

 

 「クッ……!」

 流石にアスランも息を呑んだ。

 

 

 ――しかし、

 「――やめろ!」

 アスランの前に、庇うようにして陰が――イザークだった。

 「コイツは敵じゃない、先の戦いを見ていなかったのか!」

 「イザーク……」

 「はーぁ、バカみてぇ……そんなんだから、やられてんじゃねえの、地球軍?」

 ディアッカも、アスランを庇うように前へ出た。

 「そ、そうですよ! アスランは僕らの為に……」

 ニコルも同じように、地球軍を前にして睨んだ。

 「ニコル……ディアッカ……」

 

 少年たちの気迫に、感じるものがあったのか、兵たちが戸惑いながら銃を降ろした。

 

 「ミゲルもカークウッドも銃を下げろ」

 バルトフェルドも言った。

 「此処は、中立国のコロニーだ、だから、コーディネイターがいてもおかしくないんじゃないかな。

  コーディネイターが皆ザフトって、ワケでもないだろうからな? そうだろ、アスラン・ザラ?」

 「……ええ、俺も元々はプラントにいましたが、戦争に参加するつもりはありませんでした。

  だから、縁も合ってヘリオポリスに留学したんです」

 「モビルスーツの操縦経験は?」

 クルーゼが聞いてきた。

 「……プラントでは作業用モビルスーツの操作技術は必修ですから」

 

 アスランは半分、嘘を言った。

 自分は父親に命ぜられるままに、ジンのテストパイロットをさせられたことがある。

 

 「アスランと言ったかな……? すまなかった、私はただ知りたかっただけでね。

  テストパイロット達は、基本的な動作の習得にもかなりの時間がかかっていた。

  それを、訓練なしに瞬時に動かせた……ということだからな。 騒ぎにしてすまない」

 

 クルーゼ大尉はそう言って、一言アスランにわびた。

 

 それからクルーゼは

 「そうだ……早く、ここを脱出したほうが懸命だ、外にいるのはロアノーク隊だ」

 と言った。

 

 「紫の機体をしていたが……例の、エースパイロットか」

 「あの男は些か厄介でね。ここでのんびりしてるわけにはいくまい、とりあえず私は次の攻撃に備えさせてもらおう、艦の説明を頼みたい」

 と、言ってクルーゼは艦の奥へと進んでいった。

 

 

 「すまなかったな、少年」

 「いえ……」

 バルトフェルドがアスランに話しかけた。

 「とりあえず、艦の中に入りたまえ、今からではシェルターもあるまい。しかるべき場所で処置が確認できたら、船を下ろそう」

 

 「……軍艦の中に、ですか」

 仕方が無かった。

 今のアスラン達に、それ以外の選択肢は無いのだから。

 

 

-----------------------------

 

 アイシャ中尉に案内され、船室に向かうアスランたち。

 

 「すまない」

 アスランは、友人たちに言った。

 

 「バカじゃねーの?」

 ディアッカが言った。

 「え?」

 「逃げおくれたのさ、イザークが飛び出したんだよ、アスランが外にいるって、お前を追って」

 「あ……」

 アスランは、前を歩くイザークを見た。

 「ま、俺らもさ、そうだったから」

 「……ディアッカ」

 「ん?」

 「ありがとう……」

 「やめろっての、そういうの」

 ディアッカは笑った。

 

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――ヴェサリウスの船室。

無線機の前でキラが壁を叩いた。

 

 「カズイが!? そんな!……嘘だっ!!」

 サイから通信を受けて、キラは愕然とした。

 「事実だ、カズイの機体ロストしたって……」

 

 (そんな、みんなで生き残るって……戦争が終わるまでって約束したのに……!?)

 

 連合のあの新型がカズイのジンを倒したのだろうか?

 ナチュラルの士官が? いくら機体の性能が良くとも……。

 

 しかし、キラは連合のモビルスーツの前で見た、あの顔を思い出す。

 「アスラン……」

 

 まさか、しかし、もし彼が連合側についていたとしたら?

 

 そんなはずがない。アスランは戦争が嫌だといっていた。

 と、キラは思い直した。

 アレは自分の見間違いに違いないと……。

 

 だが、

 

 「ロアノーク隊長機帰還。

  被弾による損傷あり。消火班、救護班はBデッキへ」

 艦内に隊長機が被弾して戻ったとのアナウンスが鳴り響く。

 「あのロアノーク隊長が被弾……?」

 

 事実は、キラにとって良くない方向へと向かっているようだった。

 

 

 キラは胸騒ぎを感じずには居られなかった。


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