機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 4 「大天使の飛翔」

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『連合のモビルスーツの性能とやらを、

 この目で見てしまう羽目になった。

 その事が、これから始まる全ての発端となってしまうのだ』

 

 

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……気を失っていた士官が目を覚ました。

 

 「あ、気がついたんですね?」

 『オハヨウゴザイマス! オハヨウゴザイマス!』

 

 目の前にいる子供が介抱してくれたようだ。

 

 士官は自分が、公園のような場所のベンチに寝かされているのに気がついた。

 

 枕元では丸っこいロボットのようなモノがグルグル転がっている。

 

 

 (……さっきの少年の知り合いか)

 先程のイージスの中での事を思い出す。

 

 すこし体は痛んだが、幸い、なんとも無いようだ。

 

 

 士官は身を起こすと、ニコルに礼を言った。

 「ありがとう、レディ」

 「……男です」

 「おっと、そりゃ失礼」

 ニコルは顔を引きつらせながらも士官に笑顔で返してくれた。

 『エレガント~レディ』

 ハロが言った。

 「うるさい」

 ニコルはハロの口を閉じた。

 『アワワワ……』

 

 「大丈夫ですか?」

 「……ああ」

 

 アスラン・ザラが士官の前に立つ。

 

 「さっきは助かったよ? ……だが、君は、何者なんだ?」

 「アスラン・ザラ……ここの工学部の学生です」

 「学生?」

 

 学生があのようなモビルスーツの操縦をやったというのか?

 

 士官は面食らったような顔をした。

 ――しかし、自分の中で一つの仮説を立てて、それを納得させた。

 

 「自己紹介が遅れてすまないね、ボクは、アンドリュー・バルトフェルド。 地球連合軍大尉だ」

 「連合……」

 

 士官……バルトフェルドは辺りを見回した。

 

 イージスは――あった。

 それに付いて一先ずバルトフェルドは安堵する。

 

 そこから更に、辺りの様子を伺う。

 

 目の前にいる少年たち以外は、皆避難してしまったのか、

 周囲に人気は全く無かった。

 

 

 バルトフェルドが現在の状況を整理していると、少年たちの一人が話しかけてきた。 

 「アンドリュー・バルトフェルド……大尉殿?」

 「君は?」

 「イザーク・ジュールと申します。 エザリア・ジュール、大西洋連合国防理事会のジュールの息子です!」

 

 「君が、なるほど……」

 バルフェルドには聞いたことのある名前だった。

 

 

 「イザークのお袋さん、軍の関係者だったのかよ?」

 とディアッカがアスランに耳打ちした。

 アスランもその事実は初めて知った。

 

 

 「ヘリオポリスに連合軍が補給の為に寄航するという話は聞いておりました。

 しかし、この状況を見るに、事態はもっと切迫したものになっている、ということでしょうか?」

 「……まあ君らの想像通りと思うがね」

 「母が、いえ、連合が、中立国を巻き込む形で……!?」

 「オーブといえど、地球の国家ということさ。 前から、そういう話になっていたんだよ、ジュール君?」

 

 イザークが、顔を曇らせる。

 詳しい話は彼も聞かされていないようだと、バルトフェルドは思った。

 

 バルトフェルドは、しばらく考え込むようにして、呼吸を整えると

 「ちょっといいかね、君たち……今の状況はわかるかな?」

 

 と、胸元を探り出した。

 そして、あるものを取り出し、アスラン達に突きつけた。

 

 拳銃だった。

 

 

 「何をするんです!? 俺たちは……!」

 アスランは手を上げながらも、バルトフェルドを睨んだ。 

 「勿論、感謝しているさ」

 

 

 そしてバルトフェルドは、

 バァン!と、空に向けて一発、威嚇射撃をした。

 そして、一列に並べ、という風にアスラン達に目配せした。

 仕方なくアスランたちも応じた。

 

 「悪いが、しばらく私と一緒に行動してもらうことになる」

 バルトフェルドが言った。

 「え!?」

 「軍の機密を見たんだ。 このままハイサヨナラ、ってワケにはいかないだろ?」

 「だって軍の機密って……こんなのしょうがないじゃないですか」 

 

 ニコルが言った。彼らは、軍の施設に潜り込んだわけでも、スパイ活動をしたわけでもないのだ。

 むしろバルトフェルドを助けたのに、何故このような仕打ちを受けなければならないのか?

 

 それは、アスランたち全員が思うところであった。

 

 「なんでかって言えば……まあ、こっちの都合だけどさ。 あとは、条約で決まっているから、かね?」

 バルトフェルドは軽い口調で言った。

 「条約って……」

 「例の10月会談で決められた、いわゆるザフトと地球の『月面条約』だよ、それくらい知ってるだろ?」

 

 「……オーブは、地球連合加入国じゃない」

 

 アスランが噛み付く。

 と、イザークのことを思い出し、ちらりと、彼の方を見た。

 イザークは圧し黙っている。 

 

 「オーブだって調印しているよ? だから、軍の機密を知ったものについては、第三国の国民であろうと……」

 「そんなん知るわけねえだろ!?」

 今度はディアッカが怒鳴った。

 

 「知らないじゃ済まされないんだよ? 今、戦争中なんだ……コロニーの外ではね。 それも知らないって、言う気かい?」

 バルトフェルドは銃口を向けたまま、少しだけ顔を緩めた。

 

 

 「ま……悪いね、とりあえず手伝って貰えないか? 仲間と連絡を取りたいんだ。イージスの無線を、使ってもらえるかな?」

 

 少年たちは何も言えなかった。

 

 

 大尉は本当に悪いと思っているようだった。

 それでも、銃口は反らさない。彼は大人なのだ。

 

 

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 ヘリオポリスの坑道の中。

 

 まだ、息が出来る。

 と、いうことは生きているのだ――あたり前の事に、マーチン・ダコスタは気がつく。

 ――死んだと思ったのだ。本当に。

 

 

 先の、アークエンジェル爆破のとき、ダコスタは咄嗟にコンテナの中に隠れたのであったが、

 幸いにも弾薬輸送用のシェルコートがされたものであったため、熱風や爆炎を浴びずに済んだのだ。

 

 コンテナのドアは……開いた。

 熱で変形してあかないのではないか、と不安になったが、問題なかったようだ。

 妙な匂いがする。有毒なガスが出ているかもしれない。

 ダコスタは出来るだけ息をしないように口元を隠しながら外へ出た。

 

 あたりは地獄絵図だった。

 

 黒い塊になってしまった嘗ての仲間たちが当たりに浮かんでいる。

 こういったときに動じない訓練は受けていたし、死体を見るのは初めてではない。

 が、流石に気が狂いそうな心持がした。

 

 

 誰か、誰かいないのか?

 

 「ダコスタ曹長!」

 

 ――と、向こうから自分を呼ぶ声がした。

 

 「アイマン軍曹か!」

 ダコスタは壁を蹴ってその方向に跳んだ。

 坑道の中はコロニーの円筒の中心部にあるため、重力が発生していない。

 

 「生きてたんですね、良かった」

 整備兵である、ミゲル・アイマン軍曹であった。

 若いながら、優秀なメカニック・スタッフであった。

 

 「生き残りは?」

 「それが殆ど……俺たち整備班はエイブスのおやっさん含めて、殆ど無事なんですがね……艦長以下、メインクルーは全員……」

 「この爆発では、やはり……か……船は?」

 「アイシャ中尉が、一人で準備を進められてます」

 「中尉が? ということはアークジェンルは無事?」

 「埋められちまってますよ 瓦礫で完璧に、手間取ってます」

 ――と、言うことであれば、こちらへの爆破は陽動・足止めであり、ザフトの狙いはモビルスーツであったということだ。

 

 「中尉が生き残りを探してます。 X-303から信号が来たらしいんです。救援に行く為に船をうごかさにゃ、人が足りないんです。曹長も自分と一緒に来て下さい」

 「303、イージス……バルトフェルド大尉、無事なのか……」

 ダコスタはとりあえずミゲルに従い、艦へ向かうことにした。

 

 まだ、敵は近くにいるのだろう。

 急がねばならなかった。

 

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 コロニーの外では、依然、激しい戦闘が続けられていた。

 

 「オロールとマシューは散開しろ、敵の的になるだけだ!」

 その中には、ラウ・ル・クルーゼの駆る、純白のメビウス・ゼロの姿もあった。

 

 ジンのバズーカが友軍の輸送艦を捉えた。

 

 「チッ!」

 

 クルーゼはメビウス・ゼロを反転させて、救援に向かう――が、間に合わなかった。

 輸送艦はエンジン部を破壊され、航行不可となり、そのままヘリオポリスの外壁に衝突して爆発した。

 「ええい、どうにもならんか――しかし!」

 

 

 「――ッ!」

 敵軍の機体をロックし、命中をイメージする。

 

 メビウス・ゼロには四つの火砲がついたモジュールがついている。

 それは、パイロットの特殊な脳波を感知し――その柔軟な動作で、敵を3次元的に包囲し、文字通り、四方からの砲撃を加えることが出来た。

 ――ガンバレル、と呼ばれている兵器だった。

 

 クルーゼは、メビウス・ゼロの有線式ガンバレルを射出すると、ジンを包囲するように操作し、一斉に砲撃した。

 「な!? どこから――」

 ジンのパイロットは、上下左右からの砲撃になすすべも無く、機体と共に――消えた。

 

 被弾したジンが爆散したのだ。

 

 

 「ハマナ機、ロスト!」

 ヴェサリウスのオペレーターが叫んだ。

 「ロスト!? こんな戦闘でやられたというのか?」

 

 ナタル・バジルールが驚きの声を上げた。

 連合軍のモビルアーマーと、ザフトのモビルスーツの性能には、歴然とした差があるのだ。

 通常ならば、このように圧倒的優位な状況で遅れを取るはずがないのだ。

 

 

 「ちょっと、邪魔な奴がいるみたいだな……ナタル、俺のシグーを出せ」

 「隊長自らでありますか!?」

 「カズイ・バスカークの機体からも通信が途絶えた。 と、なると最後の一機も見逃しては置けん」

 「しかし……」

 「それにぃ、こうして俺に挑んでくる相手を無下にはできんだろ?」

 ニヤリ、とネオが笑った。

 「ハッ……?」

 「撤退信号を出すと同時に俺のシグーが出る! その間にコロニーから出て来た連中を回収してくれ」

 

 

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 ――クルーゼのメビウス・ゼロは、一機を撃墜。

 一機を大破させる戦果を上げていた。

 が、母艦は撃沈。 仲間のモビルアーマーも全滅していた。

 

 と、敵艦から信号弾が発射された。

 「……撤退? いや……まだ何か」

 

 ――!

 

 ラウ・ル・クルーゼの脳裏に、明確なイメージが浮かぶ。

 「フ、貴様が出てきたか、会いたかったよ……ネオ」

 

 

 

 

 ジンが港から引き上げる中、ヴェサリウスのハッチからは紫の機体……ザフトの指揮官用モビルスーツ『ZGMF-515シグー』が発進されていた。

 この機体は次期主力機として開発されたものであり、現在は指揮官、エースパイロット用に配備されている。

 ジンに比べて、機動性が大幅に向上されている機体である。

 

 また、ネオ・ロアノークの機体は、通常の機体よりも更に上乗せして推力を追加させたカスタムタイプであった。

 カラーリングも、通常のホワイトグレーの塗装とは異なる、紫のパーソナルカラーにペイントされている。

 

 ――その機体が、宇宙空間を旋回するたびに、装甲が反射した紫の光が、敵には見えた。

 それは、さながら紫電が一瞬、宇宙空間に煌くように見える。

 

 ――その一瞬の稲光こそ、地球軍を恐怖に陥れたエース、ネオ・ロアノークの紫電(ライトニング)の二つ名の由来であった。

 

 

 

 

 その紫の機体を、同じく『エンデュミオンの白い鷹』と称えられる、ラウ・ル・クルーゼが迎え撃つ。

 

 彼らは共に、月面のグリマルディ戦線で、その二つ名を与えられていた。

 

 

 「私がお前を感じるように、お前も私を感じるのだな! 不幸な宿縁だな……ネオ……いや……」

 そう、言いかけてクルーゼは口をつぐんだ。

 このような状況にも関わらず、クルーゼの声には一種の高揚が混じっていた。

 口元に僅かな笑みがこぼれている。

 

 

 二人には、見えない何かの因縁があった――そして、確かにその感覚を、共有していた。

 

 「今日こそ落とさせてもらうぞ! ラウ・ル・クルーゼッ!」

 「フ、来たまえ、ネオ・ロアノーク!」

 

 白と紫、二人のエースの機体が、宇宙に交わる。

 

 

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 『こちらX-303イージス。地球軍、応答願います。地球軍、応答願います』

 

 「ア、アー、コチラ、アークエンジェル、X303、聞こえマスカ?」

 アークエンジェルのメーンブリッジで、一人通信を続ける女性士官(ウェーブ)がいた。

 

 

 地球連合軍中尉、アイシャ・コウダンテであった。

 型ぶった軍服の上からでもわかる、盛り上がった女性的なラインをした女性である。

 屈強な男たちの中に混じれば、その服装に関わらず、ひどく場違いな印象を周りに与えるだろう。

 

 

 「コウダンテ中尉!ご無事で何よりです! マーチン・ダコスタ曹長であります!」 

 ダコスタはブリッジに入るなり敬礼した。

 

 「……マーチンクン、アイシャって呼んデネ?」

 「ア……アイシャ中尉!」

 ダコスタは言い直した。

 そうであった。

 この士官は、少しでも略式が通じる場所では、酷くファミリーネームで呼ばれるのを嫌がるのだ。

 

 「アイマン軍曹から話は聞いております、 イージスから、通信があったと聞いておりますが……」

 「エエ、大尉も無事ヨ、タダ、ザフト艦からNジャマーによる通信妨害がマダ続いているワ……今だ戦闘行為続行チュウ……艦を至急発進させないトネ」

 

 アイシャ中尉は酷く訛った公用語を話す。

 聞き取れないレベルではないし、会話も成り立つのだが、カタコト、と言っても差し支えないほどだった。

 

 「は、発進でありますか!?」

 「ええ、アナタが来てくれたお陰で最低限の人員が揃ったワ」

 「自分が……!?」

 

 一体、どういうことなのだろうか、とダコスタは目を見開いた。

 

 自分は副操舵士(コ・パイロット)の一人に過ぎないのだが……。

 

 「アナタが、メーン・パイロットをしてチョウダイ」

 「えっ!?」

 そんなバカな、とダコスタは思った。

 

 

 操舵は確かに行えるが、自分はあくまでメーンではなく、サブとなる訓練しか受けていないのだ。

 「そ、そんな艦を発進させるなど! 無理です!」

 「いえ、アナタならデキルワ。アンディ……大尉の選んダ兵ですもの

 それにモルゲンレーテは、まだ戦闘中ノ可能性モ在るワ、大尉、見殺しにスル気?」

 

 アイシャ中尉はまっすぐに見詰めてきた。

 

 (大尉……)

 

 バルトフェルド大尉は開戦時から、いくつもの戦闘を共に乗り越えてきた上官だった。

 見殺しになど出来ない。

 

 「わ、わかりました……でも外には、まだザフト艦が居ます。戦闘などできませんよ?」

 「シェイシェイ……では、残ったメンバーをブリッジに集めて。 タダチに最低限の人員で艦起動、同時に特装砲発射準備スルワ」

 

 

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 港の入口で、激しい戦闘を繰り広げていた ネオとクルーゼであったが、

 ふいに、クルーゼのメビウス・ゼロが姿を消した。

 

 しかし、それを追うネオには、その動きが察知できていた。

 「コロニーの中に逃げ込んだか……ちょうどいい!」

 

 ネオはシグーをヘリオポリスの中へと向けた。

 

 ――いた!

 

 感覚で、わかる。

 追い詰める、と、クルーゼのゼロを発見すると同時に、ネオはシグーにライフルの引き金を引かせた。

 

 ズバババ!

 と、弾丸が発射され、メビウス・ゼロの装甲を掠める。

 

 「フッ」

 「クルーゼ! 逃げ込んだつもりだろうが、こんな狭い所ではその妙な武器も使えまい! 袋のネズミだッ!」

 

 先ほどまでクルーゼが使用していた兵器――ガンバレルは宇宙空間で敵機を包囲をして使う武器である。

 コロニー構内のような狭い場所では使用が出来ない。

 

 ネオのシグーは、ライフルで牽制すると、剣を引き抜き、クルーゼの機体に接近する。

 「機体をズタズタにしてくれるっ!」

 

 しかし、

 「ガンバレルが使えないという判断かね? 甘いな――ネオ?」

 クルーゼは、ガンバレルを展開させた。

 「バカな! こんなところでは撃てはせんぞ!」

 「……もしや撃つ、と思っているのかね?」

 「――なッ!?」

 

 ズガアァ! と音がして、ネオのシグーが揺れた。

 

 スラスターに、肩の装甲に、4基中、2基のクルーゼのガンバレルが突き刺さっている。

 

 「糸電話のポッドで、モビルアーマーで格闘戦だとぉ!?」

 ネオは大きくバランスを崩しながらも、突き刺さったガンバレルを抜き、ライフルを乱射した。

 

 「まだだ!」

 ライフルの弾丸が、残ったガンバレルを全て破壊させた。

 

 「ほう……仕留めたつもりだったが、すんでで避けたか。 腕を上げたな、ネオ。 これでは相打ちか」

 クルーゼは軽く舌打ちすると、さらにヘリオポリスの内奥へと向かった。

 

 ネオはスラスターに異常が出ているのを見つけながらも、まだ戦闘が可能な範囲だと判断し、そのままクルーゼを追った。

 

 「やってくれる――だが、こうなっては、尚更最後の一機、この眼で見てからでないと帰れんな……」

 

 クルーゼを撃退する以外にも、ネオにはもう一つ目的があった。

 奪い損ねたらしい、連合の最後のモビルスーツである。

 

 

 

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 アイシャはブリッジのあちこちの席に移動しては、オートの起動設定を施していく。

 艦の動作の殆どをコンピューターにやらせる気なのだ。

 

 「発進シークエンス。非常事態のタメ、プロセスC-30からL-21マデ省略。フロー正常。生命維持装置異常なし。

  CICオンライン。武器システム、オンライン。FCS、コンタクト。磁場チェンバー及びペレットディスペンサー、アイドリング、正常。

  外装衝撃ダンパー、最大出力でホールド。主動力、コンタクト。エンジン、異常なし。

  アークエンジェル全システム、オンライン。発進準備完了!」

 

 アイシャは、ほぼ一人で、発進の準備を行ってしまった。

 

 「もう一度、X-303宛てに打電、カークウッド伍長。メイラム伍長、準備はイイ?」

 「ハッ!」

 「大丈夫です!」

 「ダコスタ曹長、頼むわネ」

 「やってみます!」

 

 「気密隔壁閉鎖。総員、衝撃及び突発的な艦体の破壊に備エ、前進微速!」

 

 アイシャは席に座ると、特装砲――艦砲としてはこの時代最強の威力を誇るであろう、陽電子砲ローエングリンの照準をあわせた。

 

 「アークエンジェル……発進!」

 と、告げると同時にアイシャがトリガーをチェックした。

 陽電子がチャージされ、砲撃が放たれる――!

 

 

 

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 クルーゼとネオの機体は、コロニーの港からエアロックを潜り抜け、

 人工の大地が見えるところまで出た。

 

 宇宙港からそのまま、コロニーの芯へ抜け出た形になるため、

 一旦は遠心力のように発生しているのコロニーの重力を受けず、空中を飛ぶ形になる。

 

 

 「ン……アレか!?」

 

 ネオのシグーは眼下に機影を3つ、直ぐに発見した。

 開けたスペースに屈んでいる、灰色の見慣れぬモビルスーツ、

 先程まで追いかけていたクルーゼの白い機体

 そして……

 

 「連合の新型……逃げ込んだクルーゼのゼロ、それに……カズイ・バスカークの足か!?」

 

 市街地に、ジンの残骸があった。

 

 

 一方のクルーゼもアスランのイージスの姿を認めていた。

 「ほう……奪取されたと聞いていたが、一番価値のあるX-303が残っていたか……」

 

 しかし、その姿を見つけながらも、クルーゼのメビウス・ゼロに戦う力は残っておらず、コロニーの中に不時着していく。

 

 

 「連合のモビルスーツめ……部下の仇は取らせてもらう!」

 ネオは、一旦クルーゼの追撃をやめ、ライフルを構え、イージスの方に銃口を向けさせる。

 

 

 

 

 「――またモビルスーツが!?」

 

 イージスの中で戦艦宛に通信を送っていたアスランが、モビルスーツの熱源反応に気づく。

 急いで機体を動かそうとした。

  しかし、通信作業の為同乗していたバルトフェルドがそれを制した。

 

 「アスラン! 待て、動くな! 電文が来ている」

 「え?」

 「アークエンジェルだ! 3、2、1……」

 

 

 

 

 

 

 グオオオオオン!! 

 

 

 

 

 「うわぁ!?」

 アスランが声を上げた。

 ヘリオポリスの大地を引き裂き、白い400M台の巨大な物体が現れた。

 

 

 「あれが、俺たちの母艦、アークエンジェルだ――」

 バルトフェルドが言った。

 

 それは大天使、というよりも、巨大な天馬を思い浮かべさせるデザインであった。

 

 が、その白い巨体が大地を割って宙に浮かぶ様は、その名前に違わぬ荘厳といえる様相であった。

 

 

 

 「チィ! ……足のついた軍艦だと!?」

 思わずネオは機体を後退させた。

 


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