機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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陣営入れ替えガンダムSEEDです。


PHASE 38 「呪われしもの」

 『何かが突然変わったと感じるときがある。でも本当は突然じゃない。 それまであったものが積み重なってそして次へと移って行くということだ』

 

 

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 ホンコンのメインストリートを避けるようにして、ミーアとアスランは走った。

 そして二人を追う、帽子を目深に被った少年とフードをすっぽりと覆った少年。

 その四つの陰が、ジグザグと路地を縫うように、駆け抜けていく。

 

 

 (――あいつらは一体!?)

 アスランは時折振り返り、後ろの陰を確認する。

 

 (それに――ミーア、君は?)

 そういえば最初に出会ったときもそうだった。

 自分と同等――コーディネイターである上に、軍人としての訓練や、イージスに乗るためのトレーニングを日々積んでいる自分と同じ、もしくはそれ以上の走力を持っているように見える。

 

 (一体、どうして?)

 今日は束の間のデートの筈だったのに。

 なぜこんなことになてしまったのか、わけもわからずアスランはミーアに追従した。

 

 

 二人はやがて、ホンコンのメインストリートを離れて、郊外へと逃れてきていた。

 ホンコンがいかに中立都市として繁栄しているとはいえ、地球と宇宙という未曾有の大戦の戦火に、無傷であろう筈は無い。

 一度メインストリートを抜ければ、廃墟に近い、スラムのような街並みもみえてくるようになった。

 (この先には……オーブの協力者がいる……そこまで逃げれば安全、でも……)

 一方、ミーアは何かに気が付いていた。

 (追い込まれている……?)

 知識を頼りに安全な方向へと逃れているつもりであったが、どこかへ追い込まれているような気がするのだ。

 (よもや……?)

 と、ミーアが強い予感のようなモノを感じた時である。

 

 「……あっ!?」

 

 道路が、大きく陥没していた。

 数日前、整備が滞っていた為に、陥没事故が発生したのだ。

 郊外で起きた事である、流石のミーアも情報が入らないことは把握していなかった。

 恐らく自分たちを追っているものたちは、この事故の情報と――さらに言えば、”自分の逃げる方角の情報”を知って、ここに誘導してきたのだ。

 

 つまり、ミーアが何者か――ラクスだと知っているという事である。

 

 

 (なぜ……いえ、今は乗らざるを得ませんわね)

 ミーア――ラクスは賭ける事にした。

 

 敵の狙いに敢えて乗ることで、活路を得る。

 それは彼女が常々、政治の舞台でやっていることでもあった。

 

 ラクスとアスランは追い込まれるままに、唯一の逃げ場らしい、古く、廃棄されたビルに逃げ込んだ。

 

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 (どうして彼女が)

 キラは懸命にその後姿を追った。

 

 (それに――)

 何故、友まで此処にいるか。 

 

 キラも懸命に走った。

 

 「……アスラン!」

 

 そのまま追えば、どうなるのだろう。

 彼と生身で対面したとき、自分は何を言うのか。

 どうしてしまうつもりなのだろうか。

 

 それは彼自身にもわかることではなかった。

 

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 「ソキウス・ナイン、任務完了」

 「了解、テン継続して追い込む。 ――フィーニス応答を」

 ――ラクスとアスランを追い込んだ二人の少年が”自分たち”にしか聞こえない声で、もう一人の仲間――フィーニスに連絡した。

 しかし、それに答える”声”がこない。

 

 

 すこし遅れて、”声”が届いた。

 「あー? うるっせえな、聞こえてるよ」

 フィーニスが鬱陶しそうに答えた。

 ――ナイン、テン、そしてフィーニスの三人は、まったく同じ顔、同じ声をしていた。

 そして、フィーニスと呼ばれた少年だけが、全く違う口調、性格をしていた。

 

 

 フィーニスは一人、ラクスとアスランが追い込まれた廃屋の中に待機していた。

 廃屋の中は真っ暗闇になっており、ホンコンのメインストリートや港から来る遠い光が僅かながらに窓から入っている状態だった。

 

 

 

 そんなところに、長時間待機させられて、フィーニスと呼ばれる少年は酷く苛立っていた。

 

 (人形どもが……ムシズが走るんだよ! クソがっ!)

 苛立ちは、そんなことを彼に思わせた。

 

 だが、

 「我々は、目的の為に存在」

 「ゆえに、その表現はナチュラルの基準から言えば妥当」

 と、ナインとテンから、その”思念”に対して返答があった。

 

 

 何となく、”声”と同じように解るのだ。

 「あっ……! チィイ! ムカツク! 筒抜けかよ!」

 その返答に余計にイラだつフィーニス。

 「……?」

 思ったことが――そのまま近くにいる3人の共有感覚となっていた。

 感情に乏しい、ナインとテンの思念はフィーニスにはよく伝わらないものの、フィーニスの強い感情はナインとテンに伝わっていた。

 

 ”声”は”機械”による補助がついているものの、いわゆる、それはテレパシーと呼ばれるものに近い感覚といえた。

 

 

 「――ああ、もう! フン……だが暇つぶしにはなったか。 そろそろだな……!」

 

 追い込まれてきた獲物を感じて、フィーニス・ソキウスは思った。

 こんな何も無いところで待たされたかいがあったものだ、と。

 

 

 「誰かいる!?」

 「あなたは……!」

 

 獲物――の二人が、フィーニスの待つ部屋に誘導されて入ってきた。

 この建物の中を通り抜ければ、獲物――ラクス・クラインが頼る協力者の施設に通り抜けられる様になっていた。

 

 

 だから、この建物に至る道を細工し、また、この部屋を通らねばならないように、出口を幾つか壊していた。

 

 

 

 全ては、この獲物を確実に狩る為に、だ。 

 

 

 

 窓からさしこむ、ぼうっとした光に照らされたフィーニスの姿は、獲物にとってはまるで怪異の様に浮かび上がっていることだろう。

 そう考えると、二人の強張る表情にフィーニスの興奮も増してきた。

 

 「会いたかったぜ……ラクス・クラインちゃん? ぎゃははは?」

 

 上から、何度も聞かされた、”最高”のハーフコーディネイターを”壊していい”といわれているのだ。

 抑え切れない興奮に、嗜虐的な笑みを浮かべて、フィーニスはラクスに近づく――。

 

 

 

 

 

 「っ……? 今なんて? ラクス・クライン……?」

 一方、ラクス――ミーアの後ろに付く形で、フィーニスが口にした名前を聞いたアスランは、その名前の心当たりがあるのに気付く。

 (オーブの代表だった、シーゲル・クラインの娘……なんで、ミーアが……!?)

 「――それから、イージスのパイロットか! まあ、コーディネイターらしいから、そこそこ楽しませてくれるよな」

 (……!)

 自分のことも知っている!

 ――と、言う事は目の前の少年は……何か政治的、軍事的な理由から差し向けられた、刺客。

 

 

 

 アスランがその事実を把握したそのとき。

 ガッ!

 

 「ぐぁわっ!?」

 アスランの腕に痛みが走った。

 

 先ほど自分たちを追いかけてきた二人の少年のウチの一人、フードを目深に被った少年が、後ろからアスランの腕を拉いで、床に組み伏せようとしてきたのだ。

 

 「――グッ!」

 だが、アスランも今や、前線の兵士である。

 ――それも、イージスを難なく操る、スペシャルなのだ。

 

 「!?」

 後ろから手を固められたアスランはそのまま地面を蹴って、腕をとられたまま背面蹴りを放った。

 フードの少年――ナインがアスランの思わぬ反撃に手を離す。

 

 「!」

 すると、もう一方、帽子を深く被った――テンが、アスランに飛び掛る。

 「ヘアァッー!」

 しかし、アスランも、”イージス”でも良く使う、鮮やかなハイキックで、テンの顔面を打った。

 

 「!?」

 だが、テンもまた、すんでのところでそれを回避する。

 しかし、蹴りが僅かに掠めて、テンの被っていた帽子が吹き飛んだ。

 (避けた!?)

 アスランはそのあまりの身のこなしの素早さに驚く――コイツらは何者なんだ。 コーディネイター!?  ザフトなのか!?

 ぐるぐると状況を理解する為にアスランは思考をめぐらせたが、それは益々アスランを混乱させるだけであった。

 

 と――アスランはある事に気付く。

 窓から差し込んだ光が、帽子の下に今まで隠されていた少年、テンの顔を浮かび上がらせていた。

 

 「……!?」

 

 間近でその顔を見た、アスランは、また一段と酷く混乱した。

 (……この顔、どこかで……あっ……ああ……!?)

 

 ――封じていたアスランの記憶が、フラッシュバックした。

 

 

 

 

 (なあヴェイア――どうして機体を赤く塗るんだ?)

 (ボクはね、アレックス――自分の血が赤いってことを証明したいんだ――)

  

 「グゥド……ヴェイア? どうして!?」

 

 浮かび上がったその顔は、アスランの古い戦友の顔だった。

 でも、そんな筈はない、彼は死んだ。

 なぜなら――

 (アレックス! 何故戦わん!? ヤツはナチュラルのスパイだったのだ! 殺せ! あそこにいるナチュラルごと――)

 (……ギャアアアァアアア!!)

 アスランはヴェイアを……。

 

 

 

 「アスラン!?」

 と、ミーア――ラクスが叫んだ。

 「しまった!?」

 アスランが混乱している、一瞬を狙って、フードのナインが、アスランを押さえ込んだ。

 「ッ!?」

 そして、その状況はさらにアスランを混乱させた。

 組み伏せられて、間近に見たナインの顔もまた――ヴェイアの顔だったのだ。

 

 

 

 「グゥド・ヴェイアだと……なんでオリジナルを知ってやがる?」

 「オリジナル……?」

 「コイツ、ただの留学生じゃなさそうだ。素性を隠したザフトの脱走兵かもしれないな、DNAチェッカーを予定通り使えナイン、フッ、楽しみだな……そして」

 

 アスランの一瞬の格闘の最中、冷静に状況を探っていたラクスを、フィーニスはじろり、と眺めた。

 ラクスは身構える。

 

 「フン、あんたが相当の使い手だとはしっているが、俺たち三人に適うかな?」

 「ミーア! グワアアッ!?」

 「――アスラン!?」 

 

 アスランはスタンガンのようなものをナインとテンに押し付けられていた。

 体の自由を奪われるアスラン。

 

 「クッ……!」 

 息を飲むラクス。

 と、

 スタンガンのようなものの先端には、針が取り付けられていた。 血液を採取する注射針である。

 それが、アスランの血液を採取した。

 「チェッカー作動、データベース、リンク。 ザフト、ヴェイア在籍時メンバーで確認――該当」

 「ん? 早いな。 アルゴリズム選定の上位層ってことは、相当若く見えるが、それなりのパイロットかなんかだってことか……?」

 

 

 「――該当名。 アレックス・ディノ、登録では既に死亡済み、補足要綱――ザフト発足時のメンバーにして最高評議会議員、パトリック・ディノの一子」

 

 

 「……!?」

 「アスラン……!?」

 淡々と読み上げたナインのセリフに、こめかみをピクリ、と動かす、フィーニスとラクス。

 

 「――おいおいおい、どうやら、思った以上の獲物のようだな……通りでオリジナルを知ってるわけだ」

 「フィーニス、この標的は抹殺対象に相当」

 「いいや、そいつはつれて帰るぞ。 ククッ、スポンサーにこれ以上無い土産だぜ……”ナチュラル”の為にもなるんだ」

 「……了解」

 「了解」   

 

 (アスランが……)

 一方、ラクスは、今まで自身が感じていた、違和感、そして予感、そうしたものの正体を少しずつ理解していた。

 

 

  

 「クククッ、ヒャハハハハ! それじゃああ行くぜェ! ラクス・クライン。 ぶち壊して、陵辱して! 破壊してやるぜぇ!」

 

 ――フィーニスは、大型のダガーナイフを懐から取り出した。

 ナインとテンも、スタンガンや、ナックルガードを手に取り付ける。

 こちらの動きを一瞬で奪うタイプの武器だ。

 

  

 

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 「えっ……!? この状況は!?」

 

 ――アスランの背を追いかけてきた、キラは眼前の光景に面食らった。

 (アスラン……と、ラクスが、どうしてここに!?) 

 

 キラは、アスラン以外にも、見知った顔が――ラクスがいる事に驚いた。

 そして、さらに、そのラクスが三人の少年に今まさに襲われようとしている事も。

 

 ――気になることもあったが、とりあえず今、やらねばならない事を咄嗟に理解した。

 

 「ラクスッ!」

 「えっ……キラ様!?」

 バッ!

 

 キラの体が跳ねた。

 「ッ!?」

 キラはそのまま飛び蹴りをソキウスナインに見舞った。

 突然の奇襲に、ソキウスナインは、体を崩した。

 

 「だれだっ!? なぜこんなところに……!?」

 フィーニスが叫ぶ。

 

 「今っ!」

 すると、ラクスも跳ねた。

 「しまった!?」

 ラクスは、あっというまにフィーニスとの間合いをつめて、懐に入り込んだ。 

 (光輝唸掌……!)

 そしてラクスは、目にも留まらぬはやさで、フィーニスの下腹部に拳を打ち込んだ。

 その拳は、掌底打ちに近い形になっていた――フィーニスの様な刺客が、防御服を着ていることを予想した一撃だった。

 (グゥウウ!?)

 掌底打ちの為か、内臓に響くような震動を受け、フィーニスを猛烈な苦痛が襲った。

 「ぐぇえええ」

 胃液を吐き出し、フィーニスが崩れた。

 

 「!」

 フィーニスを助けるため。ソキスウ・テンがラクスを狙うが、それに気付いたキラが着ていたジャケットを脱ぎ捨て、テンの頭に投げつけた。

 「!?」

 ジャケットが瞬間の目くらましになったすきに、キラはテンを脚払いした。

 そして、テンは転倒する。

 そのまま、キラは、仰向けに転倒したテンの鳩尾近くにエルボーを放った。

 「がはああっ!?」

 相手の肋骨を粉砕する可能性もある危険な技で、相応に効果はあった。

 

 そんなキラに、先ほど蹴りを受けて怯んでいたナインが再び立ち上がって飛び掛ろうとした。

 しかし、それに対応する様に、フィーニスを今しがた倒したラクスが、床に置ちたジャケット――キラがテンに投げつけたモノを手に取り、ナインに向かう。

 

 「ハッ!」

 ラクスが、ジャケットを――まるでムチか――布槍のように鋭くしならせて、ナインを打った。

 ナインが手に持っていたスタンガンのようなものが吹き飛ばされる。

 

 「!?」

 予想外の攻撃に、ナインは虚を突かれる。

 「はああ!」

 そのままラクスはナインへ近づき、手を取り、ナインを投げ飛ばした。

 

 「ぐあああ……!」

 思い切り体を打ちつけ、ナインは動きを止めた。

 

 

 「くそっ……ヤツは……キラ・ヤマト!? こんなところにどうして……!?」

 フィーニスが忌々しげに言った。

 「……あなた方は、何者です?」

 「クッ!?」

 ラクスの拳を受けて、うずくまるフィーニスを見下ろすようにラクスが言ってきた。

 

 

 「……ラクス! アスラン、どうして……これは何が……」

 倒れるアスランにキラは近づく、気を失っているようだった。

 (こんな……)

 アスランを抱きかかえるキラ。

 

 「キラ様……まさか、こんなところでお会いするとは思いませんでしたが、助かりました」

 ラクスがキラに言った。

 そして今度は、フィーニスを見下す形で、

 「もしかして、コレも――キラ様が来るのも、あなた方が仕組んだことなのですか……? いえ、その様子では違うようですわね」

 と言った。

 

 「ぐぐぐ……!」

 見下ろされる屈辱に、歯噛みするフィーニス。

 「じっくりと聞かせていただきましょう、このわたくしを狙った者の名前を……それが解ればヘリオポリスから続く一連の出来事の意味もよくわかりますわ」

 「ラクス……?」

 ラクスからは聞いたこのない、冷たい声に、キラは驚いた。

 「ふざけんじゃねえぞ、まだ、なんだよ!」

 すると……あまりの屈辱に、フィーニスは、叫んだ。

 

 そして禁じ手を使う事にした。

 

 

 

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 楽器屋で出会いからしばらく、ニコルとシャニとは共に連れ立って話していた。

 音楽の話をニコルが行い、シャニが面白そうにそれを聞いていた。 

 そしてその姿をうっとりとした表情でジュリがみていた。

 

 「ヘッドフォンが無くても大丈夫だ」

 「えっ……?」

 「前にもいたんだ。 そういうヤツ……すぐ死んじゃうけど」

 「戦争で……?」

 意味は解らなかったが、なんとなく、シャニの口にする言葉はニコルに染み込んでくるようだった。

 「やさしい感じ……俺は……」

 オッドアイが、ニコルを見詰めた。

 (……?)

 その虚ろな瞳は、どことなく宇宙を思わせた。

 

 しかし、ニコルが吸い込まれそうになった瞳に、突然歪な光が宿った。

 そしてシャニが頭を抱えだした。

 「う、うぐぐぐ。 うがあ……」

 「シャニ!? どうしたの!?」

 「……薬、じゃない! 俺以外のだれか……使う……ッ!」

 

 

 (……!?)

 突然、ニコルの脳裏にもキーンという、耳鳴りの様な不快感が襲った。

 

 

 

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 「なあ、なんだよアレ、避難中のプラント要人の娘を預かったって言ってたけど」

 「へぇー結構可愛い子じゃん、愛人かな?」

 「ネオはそんな趣味はなさそうだけど?」

 

 ボズゴロフに帰ってきたネオは、見知らぬ少女を連れていた。

 「よう、スティング、アウル、丁度いいところに居たな、この子を部屋まで案内してくれないか? ステラっていうんだ」

 「ええーっ?」

 アウルが急な申し出に声をあげる。

 「うう……」

 近づくアウルとスティングの姿にビクリ、と体を震わせ、不安げに、ネオの背中に隠れるステラ。

 「……なんだ? PTSDか?」

 スティングがステラを訝しげにみえる。

 「人見知りなだけさ?」

 「……ヒトミシリ?」 

 子供の情緒の発達も早いプラントでは、あまり使われない言葉だった。

 ――背丈から、年齢は自分たちとそう変わらないおもわれたが、随分と幼く見えた。 

 「――いじめるなよ」

 「……そんなことしないよ……」

 シベリアでの捕虜への暴行のことを言っているのだろう。

 「それじゃ後は……ン――!?」

 アウルとスティングにステラを渡した瞬間、

 「どうした?」

 「いや……妙な感じ――すまん、ちょっとブリッジに行ってくる、ステラを頼むぞ?」 

 そういうと、ネオは駆け出していった。

 

 

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 ホンコンの港に止まっている、民家船に偽装した船が突然揺れた。

 「なんだ!? 感応波が出ているぞ?」

 「バカな!? だれが!?」

 「――ゲ、ゲルフィニートが、動きます!」

 

 ――と船体を突き破って、モビルスーツが中から現れた。

 モビルスーツは、そのままブースターノズルを使ってジャンプした。

 

 それを、港の一角に船から避難した、連合の将校がじっと見詰めていた。

 「緊急停止コードを入力します……!」

 同じく避難していた研究員が、将校に告げる、が

 「いや、先ずはホンコン自治政府に連絡を……それから、ゲルフィニートを可能な限りモニターするんだ」

 「モニターですか!? しかし」

 「――脳波コントロールシステムを動かすほどとなると、恐らくはフィーニスだな。 それも動揺しているということだ、何があったか、事態を把握せねばなるまい、それにアレはまだ何処の軍にも存在していない機体だ」

 「ハッ……!?」

 「どうとでもなる、貴重なケースだ。 データの回収を漏らすなよ」

 

 

 

 

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 「――?」

 「どうかしたかね?」

 「なんだこの感じは――?」

 サイオーボで密談を続けるクルーゼは、妙な気配に気付いた。

 (アスラン……? いや、もっと違うものだ)

 デュランダルも何か思うところがあるらしく、食事の手を止めた。

 「確かに不快な気配があるな、少し待っていてくれないか? 状況を見てくるよ」

 デュランダルは席を立つと、個室の外へ出て行った。

 

 

 

 「ウォン様、丁度お電話が……Sコールです」

 「ほう?」

 部屋から出たデュランダルが、店のものから電話を受け取る。

 一般回線では無い、密談用の電話回線だった。

 「――君かね? なんと……そんな事が? ふむ……」

 デュランダルは、声の主から、ある情報を受けた。

 「いや、正体はわからんが……テロかもしれんな……いざというときはザフトとホンコン自治政府に掛け合っておこう。 存分にやりたまえ、ネオ」

 デュランダルはそういうと、電話を切った。

 

 「ウォンさま、正体不明の機体が、郊外で……避難を」

 「うむ」

 デュランダルはボーイに電話機を返すと、クルーゼの待つ部屋に情報を伝えに向かう。

 カンのいい彼のことだ。

 いくらかは気が付いていることだろう。

 

 

 

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 「ゲルフィニート……来たか!」

 フィーニスが笑みを浮かべた。

 「モビルスーツ!? 何処の軍の!?」

 キラが、叫んだ。

 キラ達がいる、廃ビルの前に、モビルスーツが降り立った。

 ソレは見たことない機種で、ザフトのものにも連合のものにも見えなかった。

 

 「ククク……ひねり潰す! 破壊しつくしてやる!」

 フィーニスは、ラクスの掌底を受けた腹部を抱えながら駆けた。

 モビルスーツに圧倒されていたラクスとキラは、ソレを見逃す。

 フィーニスは、廃ビルの屋上に駆け上っていった。

 

 そして、屋上から飛び降りた。

 

 モビルスーツは、それを意思があるかのように自然な動作でキャッチしていた。

 そして、コクピットハッチが開かれた。

 中は無人だった。

 

 「さすがに……しんどいな……ここまで運ばせるのは……だが……これで……」

 

 フィーニスは、ゲルフィニートのコクピットに収まると操縦桿を握った。

 

 

 

 

 「ラクス!」

 「キラ様!」

 ラクスとキラは、モビルスーツから発せられる、殺気の様なものを感じていた。

 あの大きすぎる力は、自分たちに向けられている。

 自分たちを殺すためだけに、動いているのだ。

 

 「――!」

 キラは、気絶しているアスランを見た。

 そして、彼を思わず抱えた。

 抱えてから気付いた。

 

 (僕は……なんで……!?)

 自分の行動が矛盾していると一瞬考えたが、事態はそれどころではなかった

 

 キラはラクスに目配せすると、廃ビルから抜け出した――。

 

 

 すると、ズゥウウン!

 と轟音が鳴り響いた。

 

 

 「!」

 キラは咄嗟に跳ねた。

 ラクスも続く。

 

 危ないところだった。

 先ほどまでいた建物は倒壊していた。

 そして、自分たちを簡単に肉片に変えるほどの大きさのコンクリートのが、ほんの数メートル横に落ちてきていたのだ。

 

 

 そして――その後ろには。

 

 ゴゴゴゴ……と駆動音を鳴らす異形のモビルスーツ。

 紫にペイントされたボディに、ガンダムタイプを思わせるが、複眼の付いた異形のマスク。

 そして肩の辺りから、左右に三本ずつ――腕にも見えたが、スタビライザーの様なものが生えていた。

 

 「チッ……武器はまだついてないか……だが……こいつらをひねり潰す事位は出来る……!」

 

 FCSを確認したフィーニスは舌打ちしていった。

 NMS-X07PO――特殊戦用試作モビルスーツ、ゲルフィニート。

 正規のコンティペンションにも出されていない、異形の機体だった。

 

 試作機ゆえ、本来予定されていた武装も、一般的な兵装もついてはいない。

 

 だが……この機体に搭載されていた”自分の意思”で動かせるシステム――は好都合だった。

 ここまで機体を運ぶ事が出来たからだ。

 

 「まさか使うハメになるとは思わなかったが‥…これで……踏み潰してやる!」

 フィーニス・ソキウスは笑った。

 そして、ゆっくりとモビルスーツの歩を進める。

 

 

 

 

 

 「!?」

 キラとラクス――そして抱えられたアスランの三人はそれから逃げる。

 モビルスーツの一歩は、地面から見ると、思いのほか大きく、早かった。

 そして齎される震動と轟音も、恐怖を掻き立てるものだった。

 

 

 廃屋の多い、郊外であることを利用し、建物の隙間を縫って逃げようとする。

 だが――フィーニスには通じないようだった。

 

 「ク……クク……この機体に乗ってるとわかるんだよ……お前らのいる場所がさ……」

 ビルを無理やり打ち壊して、ゲルフィニートは進んだ。

 

 

 「うわああっ!?」

 ゲルフィニートが建物を壊したことで出来た瓦礫が、もう少しでキラを潰すところだった。

 抱えているアスランを捨て置けば――まだ逃げられるかもしれない。

 

 だが、なぜかそれがキラには出来なかった。

 モビルスーツの上で、あれほど殺しあったというのに。

 

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 「ロアノーク隊長! 正体不明機です!」

 

 ボズゴロフのブリッジにネオが到着するなり、サイ・アーガイルが報告してきた。

 「連合のか!?」

 「それが、良くわからないんです、廃棄された市街地を破壊していて……」

 (……これは、ゲルフィニート! コイツが出てきているということは、遺産絡みの何かということか?)

 遠距離からモニターされた映像を見たネオには、思い当たる事があった。

 

 「見捨て置けんな――」

 ネオが、呟いた。

 それを聞いて際が驚く。

 「た、隊長!? しかし此処は香港で、例えアレが連合の何かの作戦だとしても、ザフトが介入するわけには」

 「正体不明機によるテロ行為! これは人道的観点からも、寧ろザフトが協力すべき事案である」

 「そ、そんな無茶……」

 「大丈夫、俺は不可能を可能にする男だ」

 「国際問題ですよぉ!」

 サイが叫ぶ。

 「いざとなったら俺が責任を取る為に、単機で出る――あとは任せるぞ、サイ!」

 「た、隊長!」

制止するサイの声を聞かず、ネオはブリッジを飛び出していた。

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 「いけませんわ……」

 ラクスは逃げながら、あることに気が付いていた。

 徐々に海の方向に、追い込まれていっている。

 

 

 ――逃げ場がなくなるということだった。

 

 

 

 「死ねよ……シネシネシネシネ!!」

 

 

 そして――キラ達は窮した。

 大戦の煽りで倒壊し、捨て置かれた港湾地区――海の目前までキラ達は追い込まれてしまった。

 

 

 「――ははは! じゃあ、そろそろゲームオーバーだな……踏み潰させてもらうぜ!!」

 

 

 

 

 ゲルフィニートが、足を上げた。

 

 

 

 しかし――。

 

 

 

 

 

 「待ちなさいよぉおお!!」 

 

 

 ズバアアアア!!

 「――!?」

 キラとラクス――そして気を失っているアスランに、頭上から水が降り注いだ。

 海水だった。

 

 何かが――大きなモノが水しぶきを上げて海から飛び出したのだ。

 

 「モビルスーツ!?」

 「あれは!?」 

 「クーックックック、見つけたぜ子猫ちゃん……!」

 キラ達の眼前に現れた、黄色とオレンジに塗られた、これもまた異形のモビルスーツ。

 ――UMF/SSO-3。 ネオのアッシュだった。

 

 

 

 「あれは、ロアノーク隊長の、新しい機体!」

 キラが叫んだ。

 

 

 「正体不明機に告ぐ、ここは非武装地域! 直ちに破壊行動を止めなければ、強制的に武装解除を行う!」

 「ザフトの機体……だと!? ふざけやがってえぇええええ!」

 フィーニスが、ゲルフィニートを走らせた。

 「――そんな機体! もしかしたら強化人間かもしりゃせんが!」

 だが、アッシュは腰を屈めて、背中のブースターを点火した。

 

 ブォオウ!!

 

 アッシュは高速で、地表スレスレを”跳んだ。”

 

 「――!? 敵の動きが見えない!?」

 フィーニスは驚嘆した。

 自分には、並みのコーディネイター以上の能力がある。

 ――だが、この敵は。

 「よっしゃあああ!」

 一気にゲルフィニートに近づいたアッシュ。

 手に装着されたクローが、ゲルフィニートの肩と頭部をあっという間に切り裂いた。

 

 「ぐぁああ!?」

 ゲルフィニートはそのままアッシュに押し倒され、組み敷かれた。

 何てことだ。 これではまるで、先ほどのラクス・クラインとの戦いの二の舞ではないか――。

 

 「……聞こえるか? パイロット、お前の正体、じっくり調べさせてもらうぜ――」

 と、フィーニスの元に、敵のパイロット――ネオの声が接触回線を通して聞こえてきた。

 「地球連合の強化人間――図書館(ライブラリアン)も噛んでいるのだろう?」

 「!?」

 フィーニスは眼を見開いた。

 

 ――なんだ、コイツは、どこまでしっているヤツなのか?

 トップシークレットの言葉を、まさか敵の、”ザフト”のパイロットから聞く羽目になるとは。

 だが……自分が、ソレを漏らすわけにはいかなかった。

 

 「ハッハハッ……また違う俺が生まれるのか……俺の何度目の終り(フィーニス)だ? ……チクショウ……ちっくしょう……チックショオオオオ!!」

 フィーニスは、シートの脇にあったコンソールパネルにパスコードを入力した。

 

 

 ――自爆コードだった。

 

 

 

 

 「!?」

 ネオは、ただならぬ雰囲気に気付き、咄嗟に機体を離した。

 

 「――自爆!?」

 ネオのアッシュが引いたのを見たキラもまた、状況を判断した。

 「ラクス――!!」

 キラはラクスの手を引き、アスランを抱えて海に飛び込む――。

 

 

 

 

 

 

 

 ズォオオオオオオオン!

 

 

 

 

 僅差で爆炎が、周囲を包んだ。 

 

 

  

 

 

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 少しばかりの時間が流れた後、キラとラクスとアスランは、近くの岸辺にあがった。

 二人とも海水でぐちゃぐちゃになっていた。

 アスランを、横に寝かせると、ラクスとキラは顔をあわせた。

 

 

 なんという状況なのだろうか。

 

 水に濡れたラクスの髪がべったりと、彼女の顔に張り付いていた。

「……」

 キラはそれに気付くと、そっとそれを掻き分けてあげた。

 髪の奥から彼女の瞳が見えた。

 

 

 そのまま二人は見詰め合った。

 

 

 

 

 そして、ラクスから、キラに口付けた。

 

 生命の危機から、解放された安堵がそうさせたのかもしれなかった。

 

 キラは思わず息を止めた。

 邪魔するものは居なかった。

 

 

 

 唇は、多くのことをラクスに語っていた。

 二人の事情を知っても知らなくとも、この感触が彼女に必要なものを教えてくれた。

 どちらが必要であるか、ということである。

 

 

 

 だが、確かに、好意というものが、二人に共有されていたのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、長い時間が、そのまま過ぎた。

 

 

 


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