機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 32 「ミール・ヌイの激戦」

 『俺が苦しいと思ったことも、全てこの大きな戦争の中に消えていく気がした。

 だが、そうであるならば、父上のやろうとしていることも、また……』

 

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 「情報どおりですね」

 『うむ……ラディ……中将、流石の……ですな』

 ボナパルトの豪奢な艦長室、一人の女性将校が帽子を脱いで、通信モニターに向かっている。

 Nジャマーの干渉が酷く、相手の音声が時折乱れる。

 「ジブラルタルや黒海の部隊が動けば、我々は一溜りもなかったものを」

 『後ろを……ことはありますまい。 これだけの戦力があれば、後はユーラシア伝統の縦深攻撃で……でしょう』

 「兵達の被害がいくらでるかわかりませんけどね……」

 

 

 と、轟音が艦長室にも響いた。

 ――ボナパルトの主砲が発射されたのである。

 「予定通りですね。 ――では」

 『この戦いを……後世史家は何と……でしょうな』

 「……そうですね。 差し詰め、宇宙紀元(コズミック・イラ)におけるカンナエ……いえ……旅順攻略戦――でしょうか」

 『フフ……皮肉……ですな』

 

 モニターの電源が消え、部屋の明かりが落ちる。

 「グラディス中将、お時間です。そろそろブリッジへ」

 「いやな男……」

 「ええっ」

 「違うわ……こちらの話よ」

 

 女性将校は帽子を被りなおして、部屋を後にした。

 

 

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 「セーフティーシャッターが下りたお陰で、コクピットへの感電は防げていたみたいだけど……」

  医務室から出てきたアスランを、フレイとミゲルが支えていた。

 「――心的ショックが心配ですが、今のところ体に問題はなさそうです」 

 軍医のアビーが、ミゲルに耳打ちした。

 「大丈夫かよ、アスラン?」

 コクピットから、彼を引っ張り出したミゲルは、それを聞いて、心配そうにアスランを覗き込んだ。

 

 「問題ありませんよ……」

 アスランは、二人に借りていた肩を外すと、自分の足で歩き出した。

 「少し休めよ、アスラン」

 「――敵は、大丈夫なのか?」

 「イザークも出てるわ。 アスラン、酷い顔してるわよ……」

 「……ああ」

 

 アスランは、二人に促されるまま、パイロットの控え室に入った。

 そのままアスランは、ベンチに横になった。

 

 (……生きてる)

 アスランは、いつの間にか閉じ込めていた記憶を、先刻の戦いの最中思い出していた。

 (……父上)

 アスランは、自覚していた。

 自分が戦ってきた理由を。

 「――本当は、俺は父を……」

 ぽつり、とアスランが呟くと、それに返る言葉があった。

 「……アスラン?」 

 えっ? とアスランは体を起こして声のした方向を見た。

 「ミーア……」

 どうしてここに、と言う間もなく、ミーアはアスランに目線を合わせた。

 

 「ハロハロ」

 ピンクのハロが、ラクスの掌か差し出された。

 「ハロが、貴方の居るところを教えてくださるのです」

 そんなはずは無かった。

 作った本人がそんな機能が無いのを知っている。

 「また、辛そうなお顔」

 「……気付いてしまったんですよ」

 ラクスが、きょとん、とした顔になった。

 「俺は、本当は戦いたかったんです。 辛くて、苦しくて、逃げ出したのに。  それでも本当は、ある人にわかってもらいたくて、戦いたかったんです」

 「……アスラン」

 「ごめんなさい、こんな話……」

 アスランはハロを、手に取った。

 ハロはコロコロと手の中を踊った。

 

 「戦う事は恐ろしい事ですわ。 でも、それでも貴方がそれを望むのであれば、きっと何か意味があるはず……アスランの行方が、健やかでありますよう、私は祈っておりますわ」

 

 そして、ラクスはアスランに頬を寄せた。

 

 父を止めたい。

 アスランはそう思っていた。

 

 それが、このまま、地球軍の一パイロットとして戦う事なのか。

 それとも”アレックス・ディノ”として、プラントに戻るべきなのか。

 

 この時のアスランには、決めようも無かった。

 

 ただ、アスランは、もう逃げようとは思わなかった。

 このまま戦い続け、行き続けて、父と同じ世界を生きようと思った。

 

だが、それを選ぶという事は、彼が、自身の最大の障害と対決する事を意味していた。

 

 嘗ての親友、キラ・ヤマトとの……。

 

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 「南西を主として、ユーラシア軍、八方面からミール・ヌイ要塞に接・近! それから……これはパターン解析、間違いありません! アークエンジェルです!」

 クロトが司令室でマリューに告げた。

 「ええい! なんでジブラルタルは動かないのよ!」

 管制担当のチャンドラが机を叩いた。

 「依然、リマン方面との通信は行えず! 状況不明!」

 「ハレルソン隊からの通信も途絶えました……恐らくは……」

 「ユーラシア軍、最終防衛ライン到達! このまま最終防衛ラインが突破されれば、要塞機甲防壁への射程圏内に入ります!」

 「グッ……」

 

 マリュー・ラミアス唇を噛み締めた。

 だが……。

 

 「状況は不利か……でも、まだ全てが終わったわけではないわ」

 マリューの瞳は、未だ輝きを失っては居なかった。

 

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 「バグラチオン、ボナパルトの主砲を全門開放! 撃てぇーっ!!」

 二つの大型陸上戦艦から巨砲が放たれる。

 

 一列に並んだ、廃ビルを利用した塹壕ごと、ジンが吹き飛ばされる。

 ジンの防衛網が崩れるや否や、戦車たちは食物に群がる鼠のように、敵陣に押し寄せた。

 

 

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 「フォーメーション! いや……いい! とにかく撃て! うてぇ!」

 「死守しろ! 死守! 守れえ!!」

  ありとあらゆる戦術を記憶していたはずの、ザフト側の指揮官も、最終的には単純な号令を叫ぶだけになっていた。

 

 拠点に陣取ったジンが、バズーカを放てば、それで数台の戦車が吹き飛んだ。

 いつもの戦いなら、それで終わりである。

 だが今回は、その吹き飛んだ戦車の後ろから、それを上回る数の戦車が表れた。

 

 「いやだ! ……もう嫌だよぉ!!」

 ジンのパイロットが恐慌する。

 自分の周りには、十数機の戦車の残骸があった。

 そのうちのいくつかからは、蒸し焼きになった兵士達が、半分死体になりながらも操縦席から這い出てきて……それがザフトの兵士を結果的に追い詰める事になっていた。

 撃って撃って、撃ちまくる。

 銃撃と、機体の駆動から来る振動で、体の感覚がもうおかしくなっている。

 「ウゲェッ!」

 思わず吐いた。

 吐瀉物が、ヘルメットのバイザーを汚してしまった。

 「ウ……ウ……」

 更なる嫌悪感に襲われて、慌ててバイザーをあけた。

 ずるり、とヘルメットの中に溜まった途社物が、バイザーを開けた顔面からコクピットの中に落ちた。

 と、

 「あ……?」

 バイザーが開ききったその途端、ヘルメットの中に、炎が流れ込んできた。

 

 「息が出来ない」

 それが、そのパイロットが死の直前に思った最後の思考であった。

 

 

 コクピットを大砲で燃やされたジンは、そのまま崩れ落ちた。

 1:10に及ぶ比率の犠牲ではあるが、各地に点在するザフト側の拠点とモビルスーツは、徐々に瓦解を始めていた。

 

 

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 「いけえぇっ! いけえぇっ!! 下がるな! 第二機甲隊、前へ!!」

 頭上を掠める機関砲、大砲。

 

 地球軍の戦車乗りたちは、自分達が本当に戦車に乗っているのかわからなくなってくる。

 これではまるで歩兵の戦闘である。

  

 近づいて、撃つ、ただ、撃つだけ、そして――撃たれる。

 

 

 

 鉄がはじけて、中に詰まった肉が飛び散った。

 油は地面に湖を作り、血は池を作った。

 

 それでも、シベリアの凍土はまだ赤く染まらない。

 

 

 

 「第三防壁突破!」

 「ザフト防衛軍、後退していきます!!」

 「――罠だ! 奴ら、モビルスーツを自爆させる気だ!」

 轟音が、氷の大地を破裂させ、欠片を天上空高く打ち上げた。

 

 花火は戦車を巻き添えに大輪の華を咲かせ、

 振ってくる氷は歩兵達の頭の上に落ちて、彼らをおとなしくさせていた。

 

 

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 「ライフルがありません!」

 「なんだと!?」

 「弾がないんです!」

 「踏み潰せ! ジンで戦車や歩兵を踏み潰すんだよ!」

 「そんな酷い事できません! 人間のやるべきことじゃない!」

 「ナチュラルは人間じゃない! サルと思え!!」

 

 泣き叫ぶ十代の少年兵――ザフトでは成人とされた――に対して、こちらも、それでもまだ二十代の上官が、必死で叱咤していた。

 しかし、十代の少年兵は、動けず立ち止まったままだった。

 

 そこに――。

 「人……!?」

 最初は、虫が飛んでいるのかと思った。

 地球に来てからというもの、自分を散々悩ませる、プラントには居ない鬱陶しい蚊やハエ――。

 だが、そうではなかった。なぜなら今自分はジンに乗っている。

 なら目前を飛行するコレは――。

 

 それは、ロケットベルトをつけた、ノーマルスーツの地球軍工作兵であった。

 彼らは少年の乗るジンのカメラとコクピットに大型の設置爆弾を取り付け、そして――。   

 

 「わ、わああああああああ!!」

 少年は爆炎に包まれた――。

 

 

 

 「言わんこっちゃ無い! ……このサルどもが!」

 少年の上官は激昂した。

 そして、迫り来る地球軍の戦車部隊を片っ端から踏み潰した。

 「クッ、ハハハハッ!! ペシャンコだ! そうだ、地べたが似合いのサルが! ハハハハッ!!」

 が……。

 

 「うわああっ!?」

 ジンの足が、突然吹き飛んだ。

 「じ、地雷は如何なる場合でも条約違反だ……ナチュラルめ……! 報告しなくては……!」

 だが、それは地雷では無かった。

 意図的に爆薬を詰め込んだ戦車で作った対モビルスーツ用のIED(即席爆発装置)であった。

 

 すぐさま、ジンは歩兵達にコクピットを抑えられる。

 「そんな、嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だああ!」

 ジンのパイロットは、パニックになって、コクピットのハッチを押さえるしか出来なかった。

 

 

 しかし、ハッチは無理やりこじ開けられた。

 ――そして、銃声が響いた。

 

 

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 「最終防衛ライン! とうとう突破されました!」

 「要塞外周部に二個大隊接近!」

 「敵大型戦艦、射程距離に入るものと思われます!!」

 「――おいでなすったわね!」

 マリューは、チャンドラに目配せした。

 無言でうなずく、チャンドラ。

 

 

 

 

 「60サンチ障害物破壊用臼砲用意、目標! 敵要塞防壁」

 バグラチオンのゼルマンが、要塞の外周にある防壁に向けて、一斉射撃を命じた。

 すでに、ミール・ヌイ要塞に殆どの部隊は到達し、包囲射撃が開始されようとしていた。

 

 

 「撃てぇええええッ――!!」

 そして、乾坤の一撃を放つべく、ゼルマンが叫んだ。

 

 ドドド、ドン!

 

 ドドドドド!!

 

 ドドオオオオオオン!!!

 

 日の極端に短い、夏前のシベリアのことである。

 既に、当たりは暗がりに包まれていた。

 故にその景観は、見るものを圧巻させた。

 

 城壁を中心に、周囲から、光の線が飛ぶ。

 まるで、花火の逆だ。

 花弁の中心に向かって光の菊花が咲いているようであった――。

 

 

 ドドドドドドド!!

 百発。

 

 ドドドドドドド!!

 千発――。

 

 

 ズババッバババッババッバア!!

 轟音、轟音、轟音!!

 

 

 完膚無きまでに――という言葉そのものだった。

 無傷の箇所など、一つも残さぬように、苛烈な砲撃が放たれる。

 

 

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 「――全軍、突撃」

 

 砲撃が、一旦止まるのを待ってから、命令が下った。

 

 

 

 

 ”要塞”から、モビルスーツが現れる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリュー・ラミアスが、反撃を命じたのである。

 

 

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 「無傷ッ!?」

 ゼルマンが、その報告を聞いて思わず叫喚した。

 

 「は、はい! 敵防壁に、損傷確認できず!!」

 「バカな! アレだけの攻撃だ! 防壁はおろか、要塞の砲台も破壊できる算段であろう!」

 「で、ですが――ああ! ご覧ください!!」

 

 着弾の硝煙が時間と共に晴れて――そこには、砲撃前と変わらぬ外壁が現れた――。

 

 「ば、バカな……」

 そして……敵のモビルスーツの大軍が、現れた。

 

 

 「ゼルマン大佐!」

 先ほどまで余裕を見せていた部下達が、血相を変えてゼルマンに縋った。

 「ッ……各自迎撃! ……フェイズシフト装甲かッ……奪った技術を既に実現させていたのか、兎め!!」

 

 

 

 それは半分正解で、半分誤りだった。

 ザフト側も、フェイズ・シフト装甲の技術は実現手前まで来ていたのだ。

 後は、実用化に伴う情報のみであった。

 ――最もザフトは、当初はそこまで利用せずとも勝てる、としていたのであるが。

 

 ともあれ、それが、GATシリーズの奪取によって、手に入った。

 と、なれば、フェイズ・シフト装甲の実戦投入は造作も無いことであった。

 

 

 「大佐! 敵のモビルスーツが出てきています、既に被害甚大! 第四大隊――全滅ッ!」

 40機以上の戦車が、既にこの僅かな間に全滅している事になる。

 

 

 「ウウッ――だが、いかに彼奴らザフトと言えど、そこまでの防壁は用意できてはおるまい。 アレの製造には大量のレアメタルも必要だ……あの薄皮一枚、突破できれば!!」

 

 「し、試作型ビ、ビーム砲をスタンバイさせます!」

 「突撃隊を編成しろ! しくじるなよ!」

 

 

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 「隊長!」

 「マリューさんの作戦が上手く言ったようだねえ」

 ネオ・ロアノークの部隊は、基地の南部に陣を張っていた。

 「――敵軍がまんま策に掛かった、此方に誘い込まれて、深追いしたところをガブリ、ってね。 だがフェイズ・シフト装甲にも欠点はある」

 

 ビーム砲だ。 たとえばアークエンジェルみたいな船についている……とネオは言った。

 

 

 「俺はここで、基地の防衛と後詰のどちらにも入れるようにしておく――キラ、サイ、トールの三人は乗機とドダイを使って、バルテルミと連携、イージスと足つきを攻撃しろ!」

 

 「ハッ!」

 三人の少年は、ネオに敬礼した。

 

 

 (アスラン――)

 (ミリィ、イメリア隊長の敵は討つぜ――)

 (イージス、カズィと傷の礼はさせてもらう――)

 

 三人の少年達は、それぞれの”ガンダム”に乗り込んだ。

 

 

 

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 「何!? フェイズ・シフト装甲!?」

 「ええ、それに足止めされたユーラシア軍が、逆に反転、包囲挟撃にあっているとのこと!」

 「ザフトめ……そんなものを……!」

 アークエンジェルのブリッジに、早速ゼルマンたちの情報も届いていた。

 必死に思考をめぐらせるバルトフェルド。

 すると、

 「艦長! ユーラシアの偵察隊より報告! 此方に向かって飛行する物体3! デュエル、ブリッツ、ストライクです!」

 「ッ!?」

 

 弱り目に祟り目、といったところであろうか。

 「――厄介な、当然、まだ近くにさっきのバルテルミもいるだろうしな。 どうしたものか」

 『フ、またピンチか』

 頭を抱えるバルトフェルドに、ドックのクルーゼから連絡が入る。

 『こちらラウ・ル・クルーゼ。 間もなく補給が完了する――迎撃するなら何時でも出られるが、どうする?』

 「……三体の、G相手か……」

 『こちらが奴らをひきつけている間に、味方が要塞を落としてくれるならソレもいいがね、まぁ、それが見込めないなら、この隙に撤退して東に抜けるか?』

 「おいおい……」

 

 ここまで共に戦ってきたユーラシア軍を見捨てる、と、いうのも考えなければならない状況ではあった。

 当然、それが出来るバルトフェルドでもなかったが。

 

 (フェイズ・シフト装甲を破壊するにはビーム兵器が必要だ。 アークエンジェルか、イージスが持つ……イージスか!?)

 

 すると、あることをバルトフェルドは思い立った。

 

 (今のイージスなら、飛べる。 最大戦速でイージスだけでも――だが、まて――)

  バルトフェルドはこの作戦の本来の姿を思い出していた。

 (敵要塞には無数の砲台とモビルスーツ部隊がある――それをそもそも圧倒的な戦車部隊で包囲、攻撃する手筈だったはずだ――)

 

 その後航空部隊による攻撃である。

 二つの攻撃で、敵の砲台を徹底的に無力化した上で、最後の一押しをこの艦とイージスでお行う予定であったである。

 

 (それに、イージスだけで敵を振り切れるか――)

 バルテルミや、ロアノーク隊も、当然待ち構えているだろう。

 そういった部隊の対空砲火も、振り切らねばならなかった。

 

 

 (それに、イージス一機では、火力も足らん――待てよ、イージス、一機!?)

 

 「……クルーゼ、話がある」

 『ン……?』

 クルーゼはカメラ越しに、サングラスに隠れた視線を、バルトフェルドに向けた。

 「イージス・プラス計画に、確かスカイ・ディフェンサーによる強化案もあったな?」

 

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ドックでは、ミゲルを元とする、メカニックスタッフたちが急な作業に追われていた。

 

 「――本当に大気圏内で使うんですかい!」

 「半分ロケットみたいなもんですよ!」

 「かまわんさ! 操縦は私がやる!」

 クルーゼが、怒鳴りながら、メカニックたちに指示している。

 

 

 アスランは、呆然とその姿を眺めていた。

 「――来たか、アスラン、”イージス側”に早く乗りたまえ」

 「クルーゼ大尉、これは……!?」

 と、声を掛けてきたクルーゼに、アスランが返した。

 「おや、カタログスペックについては説明はされていただろう?」

 「ですが、この形態は確か、宇宙戦用の――」

 アスランは、イージスを眺めた。

 イージスには、積められるだけの、”イージス・プラス”の拡張ユニットが、搭載されている。

 「その通りだ。 だが、一つ手があるのだよ」

 「手……?」

 「アスラン――スカイ・グラスパー・ディフェンサーは、何故”ディフェンサー”というか、教えてやろう」

 

 

 

 

 

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「いいか、アスラン、コントロールは私がやる! 君は火器管制を頼む」

 クルーゼ、無線でアスランに告げた。

 「了解しました!」

 アスランは、クルーゼに返答した。

 

 

 「マジかよ……イージスとスカイ・ディフェンサーが合体しやがった」

 ディアッカが、管制パネルに送られた機体情報を見て呟いた。

 

 「スカイ・ディフェンサーの推力と装甲を付加した、重攻撃突撃艇形態……」

 アスランは、FCSなど、コントロールパネルから見ることが出来る情報を再度確認した。

 

 「アスラン、君の命、私に預けてもらうぞ」

 「――お願いします」

 「フッ……」

 

 

 そのフォルムは、普段のイージスの如くの、モビルスーツでも無く、宇宙で度々見せたモビルアーマーとも少し異なり、イージス・プラスとなって可能となった戦闘機形態とも違った。

 

 機首に、スカイ・ディフェンサー。 後部にソレをくわえ込むような形でモビルアーマー状のイージスがくっついている。  

 それは、飛行機やモビルアーマーというより、小型の巡洋艦(クルーザー)を連想させた。

 

 

 発進カタパルトへ、その合体した機体が進む。

 

 「カタパルトクリア、進路オールグリーン!! ABCイージス、発進よろし!」

 ディアッカが、クルーゼとアスランに発進可能を告げた。

 

 「了解! イージス・プラス (アサルト)(バスター)(クルーザー) !! 出るっ!」

 

 

 途端、クルーゼがブースターを吹かせた。

 「ぐぉおおっ!!」

 凄まじいGが、パイロットである二人を襲った。

 

 バッシュウウウッ!!

 

 爆発するようなスラスターが、イージスを大空の彼方へ推し進めた。

 暗くなった天に、それは赤い、彗星の様な光を放った。

 

 

 

 

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 「何か……くるっ!?」

 「前方から――高熱源体接近!?」

 「――戦闘機!? いや、隕石――?」

 

 グゥルに乗る三体のガンダムの下へ、妙な情報が入ってくる。

 

 それは先ほど、アークエンジェルから発進された、アスランとクルーゼの乗るイージスであった。

 

 「接近――!?」

 

 ビュウウウウオウ!!

 

 凄まじいソニック・ブームとオーバ・フォースを発生させて、その機体はキラ達の脇をすり抜けていった。

 

 「なにぃっ!?」

 「今のは、イージス!?」

 「――でもあの速度は!」

 

 慌てて反転し、ビームを放つが、もう間に合わない。

 「まずい……アレが、イージスだとしたら、狙いはフェイズシフト防壁か!?」

 

 キラたちは、グゥルのバーニアを最大戦速で吹かして、その赤い光を追いかけた。

 

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 Nジャマーの影響下、高速で移動するイージスはキラたちの三機のGを捉える間も無かった。

 

 グウォオオオオオオ!!!

 大気の中を凄まじいスピードで、イージスが貫いていく。

 

 「――スカイ・ディフェンサーは、重力からイージスを守る為に設計されている」

 「重力から?」 

 「アークエンジェルで使用されている、ミラージュコロイド・レビテイターの応用だ。(グラビティ)・ディフェンサー計画――(グラビティ)・アーマー計画とも言ったかな?」

 「全領域でモビルスーツを運用できるか……」

 実現すれば、近いうちに、連合側でもザフトのような飛行型モビルスーツが――それも何倍も強力な機体が作れるだろうとのことだった。

 だが、アスランにしてみれば、その技術で超高速旅客機でも作るべきだと思った。

 

 

 「――来るぞ、アスラン。 迎撃を頼む」

 と、クルーゼが告げた。

 眼前には敵の防衛部隊の火線があった。

 

 

 

 ズバババババ!

 地上から、激しい砲火が放たれた。

 要塞からも長距離砲、ミサイルなどが発射されている。

 

 異常を察知したザフトの部隊が、ディンも発進させていた。

 間もなく、アスランたちに接近しようとしている。

 

 

  

 「あたらんさ」

 クルーゼは、地上や敵要塞から攻撃がされたのを察知すると、レバーを縦横無尽に振った。

 

 

 シュバッ!

 

 数百の光の線を掻い潜って、ABC(アサルトバスタークルーザー)は飛行を続けた。

 

 「――ッ!」

 

 ――アスランは、進路をふさごうとする、ディンの部隊に照準を合わせた。

 「あわせるぞッ」

 「ハイッ!」

 クルーゼが叫び、それをアスランが理解する。

 

 今だ、と二人の意思が重なる。

 

 ズビュウウウウウ!!

 

 ABCに装着された(Blaster)型装備の一つ、ビームスマートガンが火を噴いた。

 

 ビャアアアアアア!!

 一列に編隊を組んだディンたちを一閃で薙ぎ払った。

 

 「見事だな」

 (……(Commander)型でセンサーや照準も強化されている!)

 

 運用面の問題があるものの、二人の乗るイージスは無敵だった。

 

 そして、高速のイージスは、ミール・ヌイ要塞に届いた。

 上空高くに飛んで、敵の攻撃を回避する。

 スカイ・ディフェンサーと合体しているから出来る事だ。

 

 要塞は、周囲をぐるりと囲む防壁の中に元々あった空港や、市街地を残していた――そして、それをそのまま塹壕とし――地上に堅牢な城砦を作っていた。

 そして何より、奇妙な大穴――旧歴の鉱山跡を幾つも残していて、その大穴の中にこそ、マリューラミアスは要塞本部を作っていた様だった。

  

 「地上と地下の二面要塞だったのか……!」

 「――では、アスラン。 フェイズ・シフト装甲に任せて突っ込む。 が、流石に早々何度も接近は出来んぞ」

 「はい!」

 「衝撃までは消せんからな、この速度で敵弾に直撃すれば、下手をすれば地平の果てまで転がり飛んでいくからな?」

 「クルーゼ大尉に、お命預けます」

 

 「……よし、では行くぞッ!」  

 

 

 二人のイージスは、要塞に急降下した。

 

 

 

 「上です! 直上から接近する物体有り!」

 「何!?」 

 ミール・ヌイ司令部に謎の機影ありとの報告が入った。

 「これは――機首不明、ですがパターン判別。 イージスと推測!!」

 「あっ……!?」

 「なんだ、このスピードで落ちてくるのか!? まるで……彗星だぜ……」

 チャンドラが呟いた。

 

 

 凄まじい火線をギリギリで回避しながら、イージスは進む。

 恐怖がアスランを襲うが、クルーゼはモノともしない。

 それが妙にアスランを落ち着かせていた、が。

 (この人も――死ぬのが怖くないのか?)

 アスランにそんな思いも、一瞬抱かせていた。

 

 

 「撃てぇッ!! アスラン」

 「グッ!!」

 アスランは照準を合わせた。

 目標は、敵、防壁である。

 

 

 ズビュウウウウウウウ!!

 ビームスマートガンで、撃てるだけのビームを放った。

 

 フェイズ・シフト防壁は、ビームの前に貫通、瓦解していった。

 

 

 

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 「ゼルマン大佐! イージスがやってくれたようです!」

 先程から敵の多数のモビルスーツに囲まれ、数発被弾していたバグラチオンだったが、その報告にすぐさま動く。

 

 「さすが、クルーゼ大尉の部隊よな! バグラチオン、前進! 再度60サンチ障害物破壊用臼砲用意、目標! 敵要塞防壁、破損した箇所を狙え!」

 

 バグラチオンの艦砲が、ビームを受けて破損したフェイズシフト防壁に命中する。 

 ビームを受けて、通電の解かれたフェイズシフト装甲は最早防壁の意味を成さなかった。

 

 

 大砲を受けて、防壁は爆発。

 木っ端微塵に粉砕され、大穴が空いた。

 そこを中心に生き残っていた戦車部隊が次々に砲撃を放った。

 

 「今だ、スピアヘッド隊、敵陣を爆撃だ! ――資源基地は出来るだけ残せ! だが、敵要塞の破壊が最優先、多少の被害は構わん!」

 ゼルマンが号令をだした。

 

 と、準備していた戦闘機部隊が発進。

 敵の要塞目掛けて発進する。

 

 そして、防壁を失い、混乱している要塞に照準を合せると雨霰のようにミサイルと爆弾を降らせた。

 

 

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ドドドドドド!!

 「ッ!!」

 司令室が揺れた。

 「クソッ! 奴ら加減てモンを知らないのかよ!」

 クロトが思わず叫んだ。

 「うろたえるな! ――要塞上部は?」

 「被害甚大です! が、まあ引っかかってはくれましたね」

 ロメロが言った。

 「……ですが、この大穴が本体だということを、あのイージスに見られたかもしれません」

 しかし、ジャッキーがそう言って懸念を表した。

 「要塞の、本部がこちらだということがバレた――か、なら打っててるでしかないか」

 マリューは決断の時を強いられていた。

 

 と、そのときクロトが声を上げた。

 「隊長! リマン・メガロポリス方面から通信が届きました!」

 「本当!状況はどうなの!?」

 助け舟――とマリューは思った。

 だが。

 

 「ええっ……わ、我、前線基地の5割を失い後退……とのこと」

 「……そんなバカな! ナタルがッ!?」

 

 

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 「――バカを言うな、これだけの戦力相手に何をやっている!」

 「で、ですが、敵の正体がわからないのです!」

 「突然、敵の部隊が現れて、味方を――」

 「なんということだ……追撃どころかシベリアの退路を断たれているのか!?」

 

 (ッ……突然敵の攻撃が始まって、モビルスーツが発見されたと思えば、あっという間に各方面の基地が撃破されている……何らかの特殊部隊による破壊工作(サボタージュ)か)

 

 ナタル・バジルールが、司令室の机を叩いた。

 

 「止むをえん! 前線基地は破棄――一度部隊を後退させて、敵の本陣の動きのみを防ぐ!」

 「ですが、それではシベリアの部隊の退路が……」

 「大丈夫だ……万が一の退路は、あの人――マリュー・ラミアス司令と共に用意してある。 それに、ミール・ヌイは落ちん! 我々は何としても敵の進軍を抑えるのだ!」

 

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 『よくやってくれた、シャニ・アンドラス少尉……』

 「うん……」

 NダガーNのコクピットの中、生気の無い瞳で、シャニはうなずいた。

 まるで人形である。

 『――フ、優秀が故に読みやすいか。 ナタル・バジルール。 味方にそれを補うものが居ればといったところか。 あの方の目利きどおりだな』

 

 通信機の向こうにいる、将校の言っている意味は、シャニには良くわからなかった。

 ただ、コレで休める、とシャニは思った。

 

 「おわっ……スッゲー……」

 と、シャニはふと、自分の足元を見た。

 戦っている最中は興奮でわからなかったが、足元には、炎に包まれた無数のザフト兵の遺体があった。

 

 「キレイだな……人間が燃えるのって……」

 シャニは、モビルスーツのカメラ越しに、そんな事を思った。

 

 

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 イージスは、そのまま基地攻撃に加わっていた。

 すると、突然。

 「――ッ!? 来るか!」

 クルーゼが呟いた。

 

 そして、イージスの高性能レーダーにも、反応があった。

 

 

 「ラウ・ル・クルーゼェエエエ!!」

 

 

 現れたのは、異形のジン。

 白いボディに赤い鶏冠、さらにモノアイではなく、ストライクによく似た、青いデュアル・アイのゴーグルと口元。

 背中には一際目立つ、黒い大型ブースターを背負った――ネオ・ロアノークの、陸戦用のジン・ハイマニューバであった。

 

 「あれは!? キサカさんの村で見た――」

 「フ、ネオ・ロアノークか! だが、モビルスーツでこの機体に――」

 

 追いつけるか、とクルーゼは言おうとした――が、速い。

 「なに! 着いて来ているのか!?」

 「ジンを、振り切れない!?」

 「ぬぐぉおおおおおおお!!」

 

 ABC(アサルトバスタークルーザー)となったイージスに、追いつかんばかりの加速を、ネオのジンは見せていた。

 

 「あんな機体でか――無茶をする男だ」

 ネオの機体は、イージスとは違い、Gへの負荷対策など恐らくなされていないはずだ。

 と、なれば体がバラバラになりそうな衝撃に、ネオは耐えている事になる。

 

 

 「……あの試作機ほどでは無いがッ、こいつも殺人的な加速だッ!!」

 

 今、ザフトで開発が進められている”ミーティア”という特殊兵装ユニット――それに使われるエンジンを、ネオの機体は搭載していた。

 が、その爆発的推進力は本来、無重力で広大な宇宙で使われるものである。

 ネオのように、地上に転用して、同様の性能を引き出そうとすれば、パイロットが持たない筈であった。 

 

 「立つ瀬無いでしょ――! 仲間があれだけやられて、お前を見過ごしてちゃ!」

 だが、それでもネオは行かざるを得なかった。

 散っていった戦友たちの為に。

 

 そして、彼は見事にそれを乗りこなしていた。

 

 なぜならば――。

 

 「こんな、加速如き! 俺は、不可能を可能にする男なんだよッ!」

 

 ガンッ!!

 高速のデッドヒートを繰り広げながら、ネオのジンは、ライフルを構えた。

 「オーバーガン!!」

 「――いかん! アスランッ! 分離する!!」

 

 イージスと、パーツを分け合うような格好で、アスランの乗るイージスと、クルーゼのスカイ・ディフェンサーが分離した。

 

 「ッ!?」

 ネオが、照準が分かれたことを察知して減速した。

 

 「――当てられていたな、あのままでは」

 クルーゼが、珍しく、冷や汗をかいて動揺していた。

 

 

 「ネオ……というと、紫電(ライトニング)なのか!」

 「イージスッ!!」

  

 ジンが――ソード・ストライクが使っているのによく似たビームソードを振った。

 ストライクの対艦刀よりは小ぶりになっている。

 「ビームサーベル!?」

 イージスは、クロー・バイス・ビームサーベルでそれを受けた。

 

 二体のモビルスーツは、空中から地上に降りながら、激しい格闘戦を繰り広げた。

 

 「――更にやる様になったな! イージス! が、負けん!!」

 ネオのジンが、蹴りを繰り出した。

 「うおおおお!」

 アスランのジンも、蹴りで応戦する。

 

 ガアアン! モビルスーツ同士の殴り合いである。

 だが、

 「ッ!?」

 アスランが、一つ、押された。

 

 「落ちろ! イージス!」

 「あっ……!?」

 イージスがバランスを崩す、それをネオのジンがオーバーガンで狙った。

 

 「やるではないか! ネオッ!!」

 と、クルーゼのスカイ・ディフェンサーが機銃を放って、ネオを狙った。

 「ッ!?」

 

 ババババババ!! 

 マシンキャノンが、ジンに向かって幾つも放たれる。

 咄嗟に、ネオはオーバーガンを盾にして防いだ。

 

 「チィッ!? ええい、一度退くか!」

 

 ドオオオン!

 

 爆発が、ジンを包んだ。

 

 「やった!?」

 「まだだ! 仕留めては居ない!」

 

 爆発したのは、オーバーガンだけだった。

 ――ネオのジン・ハイマニューバは、そのまま後退した。

 

 アスランは胸を一先ず撫で下ろし、敵影の無い、地上へと落下していく。

 

 しかし――。

 

 「……ンッ!? 別の感じ? アスラン気をつけろ! ――ヌフゥッ!?」

 ネオのジンを退いた、その一瞬の虚を突かれた。

 

 

 ――クルーゼが被弾して、地上へと落下していく。

 

 「クルーゼ大尉!? ハッ!?」

 

 イージスのレーダーに反応があった。

 そこに表示されたのは、X-105 ストライク――。

 

 

 「アスラアアアアン!!」 

 「ストライク!? ――キラかッ!?」

 

 

 グゥルに乗ったキラのストライクが、アスランに追いついたのだ。

 大気圏に落ちて以来、無事だったのか――

 

 とアスランは脳裏に瞬間的に思った。

 

 しかし、その状況がアスランを現実に戻した。

 キラのストライクが追い付いた、と、なれば当然、それだけではない。

 

 「――ブリッツに!? デュエルも!」

 

 イージスのレーダーにはストライクの他に二機の――”ガンダム”の反応が表示されていた。

 

 

 


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