機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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陣営入れ替えガンダムSEEDです


PHASE 3 「その名はイージス」

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『何かの間違いであれば、と思うことほど、

 いつも、それが逃げられない現実だと思い知る。

 母の事も、キラの事もそうだった。

 だが、生きている限り、そうした物事が続いていくということ。

 そんな当たり前の事実を、その時の俺は、認識すら出来ないでいた』

 

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 放り込まれたコクピットの中で、アスランは先ほどの兵士の顔を反芻していた。

 ――顔は見えなかったが、瞳はなんとなく伺い知ることができた。

 そして、自分の名を呼ぶ声。

 「アスラン」と。

 

 それだけでも、先ほどの兵士が嘗ての親友キラ・ヤマトに間違いないとアスランに確信させていた。

 (――あの、虫も殺せないような奴が? 死なせるのが怖くて、生き物も飼えなかったようなキラが――ザフトで兵士をやっている?)

 

 だから、トリィみたいなものを作ったのだ、アスランは。

 

 それが、ザフトだというのか? 

 アスランは信じられなかった。

 ……だが、否定しようとすればするほど、事実が圧し掛かってくるのだった。

  

 先ほどから、許容できないことばかり起きている。

 しかし事態は、アスランにそんな事を整理する余裕すら与えてくれなかった。

 

 「おい、君大丈夫か? ……シートの後ろに隠れてるんだ!」

 アスランをコクピットに押しこんだ士官が言った。

 

 我に返ったアスランは、言われるがまま、

 パイロット・シートの後ろにあるスペースに身を隠した。

 

 

 

 士官が、モビルスーツを起動させる。

 

 電源が入り、各種計器とモニターが動き始める。

 と、モニターの左手に、もう一体のモビルスーツが表示された。

 

 先ほどのザフトの兵――キラが乗ったモビルスーツだ。

 

(このモビルスーツは一体……)

 

 

 そもそも、こんな事になったのは何故なのか?

 このモビルスーツが原因なのか?

 アスランは直感的にそう考えて、コクピットの中を見回した。

 

 基本は、ザフト製のジンと似た部分が多かったが、

 計器類が大幅に簡略・整理されているような気がした。

 ジンのそれより洗練されている部分がある。

 技術的には進んでいるようだ。

 

 

「まさか、俺が動かす羽目になるとは……だが、このイージスだけでも!」

 

 

 士官が、機体を動かそうと、

 メイン・コンソールを操作し始めた。

 アスランも、その方向に目を向ける。

 

 マスター・キーを起動させると、

 モビルスーツを動作させるためのオペレーション・システムが起動された。

 表示されたのは、地球連合軍のエンブレム。

 (地球軍が、やっぱり此処でコレを作っていたということなのか?) 

 アスランはその紋章に目を引かれて、覗き込むようにしてその画面を見た。

 

 

 モビルスーツの損害状況や、弾薬、推進剤が簡単にチェックができる画面が表示されて、

 その後メインの起動画面が映った。

 

 

 

 

 

 

 General

 Unilateral

 Neuro-Link

 Dispersive

 Autonomic

 Maneuver

     Synthesis System

 

 GAT-X303 AEGIS

 

「ガン……ダム……? イージス?」

ディスプレイに表示されたOSの頭文字(アクロニム)を追って、アスランが呟いた。

 

 ジェネラル・ユニラテラル・ニューロリンク・ディスパーシブ・オートノミック・マニューバー・シンセシス・システム。

 

 「単方向分散型神経接続自律機動汎用統合性機構」と言った。

 いわゆる、ナチュラルが、ザフトの作り出すコーディネイター専用マシンに対抗する為に作り出したシステムであった。

 

 機体制御の複雑さを緩和させるため、フレームとパーツとそれらをつなぐ回路を、人体の神経に見立てて制御するといった物だった。

 

 OSが起動すると、士官はゆっくりと、モビルスーツ、イージスを立ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

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 「凄いもんだな」

 サイ・アーガイルは乗り込んだモビルスーツの中で感嘆の声を上げていた。

 

 自分たちの脅威になると聞かされてはいたものの、

 ナチュラル主導で作り上げた兵器など、如何ほどのものかと正直思っていたのである。

 

 しかし、これらの兵器の完成度は予想以上であった。

 

 (ムーバブル・フレーム……ザフトの作る機体がマシンを人の形にしたものであるのに対して、

  コイツは人体のように骨格をあらかじめ規定して、人の形にマシンを乗っけている……)

 

 この機体の運動性能が如何ほどのものであるか、サイは純粋に興味が沸いてしまっていた。 

 

  

 従来のモビルスーツは外骨格(モノコック構造)で設計されており、

 装甲そのものが骨格として、全体の重量のバランスを取って機体を支える構造をとっていた。

 その点では既存兵器の延長線上にあると言ってよい。

 

 しかし、それら構造は、言わば「鎧に合わせて体を作る」という行為であり

 関節の可動範囲は人体のそれに比べて、大幅に制限される事になり、

 また装甲が破損した際の安定性の低下、全体の強度に制約が生まれる。

 

 しかし、連合の機体は、機体の支持を装甲ではなく駆動フレームで行うため、 

 抜群の安定性能と、人体さながらの稼動範囲・運動性を実現していた。

 

 

 

 そしてさらに、この機体はその骨格を十分に活かす為に、

 未完成であるものの、人間の神経をモチーフにしたOSを導入していた。

 つまりは、人体の持つ適応性や柔軟性をそのまま機体に持たせているのである。

 

 ――これならば、あるいはナチュラルでもジンに十二分に対抗できるであろう、とサイは感じた。

 

 「サイ、こっちは大丈夫だ、すごいぜコレ」

 「ホント! 冗談じゃない!こんなの量産されたら……」

 トールとミリアリアからも、無線で感嘆の声が上がった。

 「さすがロアノーク隊長だ、作戦決行の判断、イエスだね」

  

 やはり、早期に連合軍は潰しておかなければ、この戦争は長期化してしまうであろう。

 ――自分たちが敗北することは思いつかないまでも、サイは地球連合軍の脅威を素直に認めているのだった。

 

 

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『ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が発令されました……

 住民は速やかに最寄りの退避シェルターに避難して下さい……』

 

 コロニーの中は逃げ惑う人々で溢れていた。

 その中には、アスランと別れたイザーク達の姿もあった。

 

 レベル8。 

 コロニー崩壊・強制避難勧告が出るのがレベル10なのである。

 崩壊寸前の危機、緊急事態であるということだ。

 

 

 当然であった。

 目の前に、攻撃をしてくるモビルスーツがいるのだから。

 

  「また揺れた!」

 ニコルが悲鳴をあげた。

 コロニー全体がまた大きく揺れたようであった。

 

 すると、イザーク達の居たキャンパスの後方、モルゲンレーテ工場区のあるほうから、

 ゴウ!と音を立てて――炎に巻かれたモビルスーツが現れた。

 

 「モビルスーツ!? ザフトの援軍か!?」

 イザークが叫んだ。

 「エングン! エングン!」

 ニコルが抱えていたハロも真似て叫ぶ。

 

 

 

 ――イザークが知る由もなかったが先ほど、キラ・ヤマトが奪取したモビルスーツであった。

 

 

 そして、イザーク達の前方に迫っていたザフトのジンが、それを迎えるように、進行方向にある、こちらに向かって歩いてきた。

 

 「こっちに来る!」

 

 イザーク達を挟む格好になった。

 

 イザーク達は、前後の路を断たれ、窮した――。

 

 

 

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 ――しかし、そんなイザーク達の狼狽を他所に、彼らの恐怖の対象となっているモビルスーツ――ジンのパイロットは、先程からコクピットの中で震えが止まらずにいた。

 

 「ええい! ナチュラルめ、何してんだよ! 早く逃げてよ!」

 緑のノーマルスーツを着たパイロット。

 カズイ・バスカークがうずくまるイザーク達を見て言った。

 

 震える手を必死に抑えながら操縦桿を握っている。

 

 コクピットに積まれているウォーターパックの水は飲みつくしていた。

 それでも咽の渇きが止まらない。

 

 元来、戦いには向かない気質であるのだ。

 ――それでも、彼がザフトに志願したのは、彼をそうさせるだけの動機があったのだが。

 そして、そういった気質を持ちながらも、彼はパイロットをやるだけの実力を示していた。

 

 「くそっ、当たっても知らないよ!」

 

 ジンのマシンガンを、コロニーの守備隊に向けて放つ。

 それから陽動の為――無差別攻撃に一旦は見せるため、

 なるべく民間の施設や、コロニーの基部に当てないように弾丸をばら撒いた。

 

 

 そんな、カズイの元に、先ほどやっと、通信が入った。

 「カズイ!」

 

 ――友人であり、同じ部隊の仲間であるキラだ。

 

 「キラ、やったんだ!?」

 

 

 キラが、無事に敵軍の機体を奪取したのだと理解した。

 これでようやくこの作戦も一段落着く――とカズイは、胸を撫で下ろした。

 しかし――

 「アフメドがやられた! ……もう一機は連合の士官が乗ってる」

 「え!?」

 

 と、キラの乗った機体が飛び出してきた近くから、もう一機のモビルスーツが現れた。

 アフメドが奪取するはずだった機体だ。

 

 着地が上手くいかず、よろよろと傾きながらも、その機体はこちらを睨んでみせたようだった。

 

 

 

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 「――!」

 思ったようにバランスをとれず、連合の士官は顔をしかめた。

 

 アスランもシートの後ろで大きく体を揺さぶられ、肩をコクピットの壁にぶつけていた。

 (なんだよ! まともに動かせないのか?)

 アスランはシートの後方からコクピット画面を覗き込む。

 

 「ジン!?」

 

 すると、コクピットのメイン・カメラには、正面にジンの姿が表示されていた。

 それから――先ほどのキラが乗ったモビルスーツも。

 

 

 

 そして――

 「避難中の民間人もいるか!」

 士官がモビルスーツの足元のカメラを見て言った。

 

 「イザーク!ディアッカ!ニコル!」

 アスランは叫んだ。

 

 「知り合いか?」

 

 ――アスランは、友人たちが自分たちが乗っているモビルスーツの足元にいるのに気づいた。

 

 

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 一方、それに対峙するジンのコクピット。

 

 カズイは、注意深く、連合のモビルスーツを観察した。 

 

 (なんだ……歩くこともできないのか?)

 

 よたよたと、歩行を覚えたばかりの子供のような動きをする敵のモビルスーツ。

 (ナチュラル……だからか?)

 

 カズイの胸に少しだけ、安堵と落ち着きが戻ってくる。

 

 「キラは、動けるの?」

 「基本動作だけならなんとか――兎に角、一機は失敗だ! カズイも脱出を!」

 

 キラに、脱出を促されるカズイ。

 

 仲間がやられ、敵軍のモビルスーツが起動しているのだ。

 

 それに、自分たちは今、中立国のコロニーに強襲をしかけている。

 作戦が長引くのは、それだけで不利であった。

 

 

 だが、逃げる、と考えた先で、カズイはふと止まった。

(アイツ――俺でもやれるんじゃないか)

 まともに動けない、敵のモビルスーツ。

 

 それは、自分にとって機会である気がした。

 アレを、持って帰る。

 そうすれば――自分もキラ達の様に、赤いスーツに。

 ――アカデミーの優秀者、もしくは優秀な兵士――栄誉あるものにその衣服は与えられた。

 

 カズイは、離脱をやめた。

 

 「キラ、それを持って逃げて、俺、アイツを……捕まえる」

 「カズイ?」

 「アフメドがやられたんだろ? キラは予定通り、武装パックの回収班と早く離脱して!」

 

 カズイは、ジンの操縦レバーを大きく倒した。

 バックパックのバーニアが噴出し、機体が加速される。

 

 「カズイ!」

 「わあーっ!」

 

 カズイのジンが、大きく剣を振り上げた。

 

 

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 「ジンが……来るッ!」

 アスランが叫んだ。

 

 ザフトの――カズイのジンが、この機体めがけてサーベルを振り上げてきた。

 

 「チィ!」

 連合の士官が身構える。

 と、何かのスイッチを押した。

 

 

 

 「色が!?」

 変化するイージスの様子を見て、カズイが叫んだ。

 先ほどまで灰褐色をしていた、敵の機体が、鮮やかな紅色に彩られていく――。

 

 「!」

 

 一瞬、気を取られたものの、カズイは構わずに斬りかかった。

 

 ――だが、

 

 キィィイイン!!

 

 と、振動する金属の高音が鳴り響いて――

 「えっ!?」

 ――ジンのサーベルが弾かれた。

 

 

 「いまだ!!」

 

 

 と、連合の士官はジンが動揺したのを見逃さず、

 モビルスーツの手で思い切りジンを殴り飛ばした。

 

 

 「ぐっう!」

 

 体勢を崩して、近くのビルに倒れこむカズイのジン。

 舌を噛みそうになって、カズイはうめき声を上げた。

 

 「ちくしょう! 何が起こったんだ?」

 

 カズイはジンの状況を慌てて確認した。

 「カズイ! この機体は、フェイズシフトの装甲を持つんだ。 展開されたら、ジンのサーベルじゃびくともしない!」

 離脱中のキラから通信が入る。

 「フェ、フェイズシフト? あ、赤くなったのがそうなのか……」

 「カズイ……?」

 

 キラからの無線で、敵の正体を知ったカズイは、落ち着いて機体のコンソール画面を見た。

 殴られた箇所の装甲が変形しているようではあったが、何処も故障してはいないようだ。

 

 そうだ、殴られたくらいで、ジンが壊れるものか。

 それに――やはり、相手はナチュラルのモビルスーツだ。

 

 殴った後の自分の姿勢すら保てていないではないか。

 

 

 

 殴り飛ばした側であるイージスは、その一連の挙動すら制御できないらしく、殴ったあとそのままバランスを崩して、大きな轟音と土煙を上げ、ヒザをついて倒れた。

 

 どうやら、相手の機体と、そのパイロットは、基本的な動作すら覚束ないらしい。

 

(ナチュラルなんかにモビルスーツが使えるもんか……!)

 

 カズイはその様子を見て、確信した。

 

 「いいから! キラは脱出を!」

 カズイはもう一度キラに、先に脱出するように告げた。

 この敵は自分が捕まえるのだ。

 

 いけるはずだ。

 そう自分にも言い聞かせるように。

 

 

 

 

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 一方、倒れたイージスのコクピットでは。

 

 「わっ!?」

 

 コクピットが揺さぶられた事によって、アスランの体がシートの後ろから大きく投げ出された。

 しかし、

 

 「少年!」

 

 ガッ!

 

 連合の士官が、アスランを掴み、ひしっと、自身の厚い胸板で受け止めた。

 

(なんだろう……)

 

 ――『厚い胸板』 なぜかアスランは不公平を感じた。

 何に、対してかはわからなかった。

 だが、とにかく、何かと比較して酷く不公平な気がした。

 

 

 「怪我は無いな……任せろ、なんとかする!」

 

 

 士官はアスランを再度シートの後方にやると、

 再度機体を立て直そうとした。

 何とか立ち上がり、もう一度、姿勢を保とうとするイージス。

 

 しかし、目の前には、再びジンが……。

 

 

 

 

 

 「……装甲が良くたって、コクピットを狙えば!」

 カズイのジンは、今度は剣を突き刺すような格好にして、イージスを狙ってきた。

 

 

 どれだけ装甲が優れていて、 斬撃をいなすことは出来ても、

 弱点を刺突するような攻撃を、そこまで完全に防御できるとは思えない。

 それは妥当な攻撃であるとは言えた。

 

 

 「くそ!」

 イージスのコクピットに座る士官にも、その様子が見えた。

 

 自分が乗っている機体――イージスのフェイズシフトは無敵に近い防御力を持っている。

 

 とはいえ、さすがに、衝撃やダメージを完全に無効化できるとは思えない。

 破壊されないまでも、このままでは敵に捕獲されてしまうだろう。

 

 

 

 ――しかし、自分が操作するイージスはといえば、

 やっと立ち上がって、倒れないようにバランスを取るので精一杯だった。

 

 

 

 

 そうして、焦せる士官を他所に、アスランは先程見かけた影を追った。

 ――皆は!?

 

 アスランは、イージスのモニターの隅に、地面にうずくまる友人たちの姿を見つけた。

 イージスがバランスを崩して、倒れた事により、周囲の建物が倒壊しそうになったのであろう。

 皆、必死で恐怖に耐えているようだった。

 

 

 

 (こんなの……!)

 

 

 ここで、これ以上モビルスーツなんかが暴れたら……!

 

 アスランは、抑え切れなかった。

 「まだ……人がいるんだぞ! こんなものに乗っているなら、なんとかできないのか!」

 

 アスランは、士官の前をさえぎるようにして、

 シートの後ろから体を乗り出した。

 

 「何をっ!?」

 そして、士官の手から無理やりレバーを奪い、イージスを操作する。

 そして、

 

 

 「させるかぁーっ!」

 アスランは機体を操作した――。

 

 

 アスランの操作どおり、イージスは、動いた。

 立ち上がったままの体勢から腰を落とし、一気に足を伸ばして――ジンの下半身にタックルする。

 

 

 「うわぁあっ!?」

 そのまま、タックルを受けたカズイのジンが吹き飛ばされる。

 

 と、アスランは間髪いれず操作を入れる。

 

 「武器は! 何かないか!?」 

 

 手早くコンソールを動かし、先程のOSのメイン画面を参照する。

 機体の情報が表示されると、アスランはさっと目を通した。

 

 「未完成なのか!? よくもこんな状態で!」

 

 アスランは機体のオペレーション・システムが殆ど手付かずなのに気がついた。

 火器管制どころか、動く事すらままならないのだ。

 

 「どいてくれ!」

 連合の士官の体が邪魔で、アスランは思わず叫んだ。

 「何をする!」

 「代わってくれ! 俺が動かす!」

 「モビルスーツをか!?」

 

 アスランはコクピットの後方から、シートに身を乗り出す。 

 士官はアスランの手馴れた手つきを見て、そのまま機体を預けた。 今度は自分がシートの後ろのスペースに移動する。

 

 アスランはといえば、表示されている情報から、何が出来て何が出来ないのか、冷静に状況を判断する。

 

 (OSを書き換えて全部、動かせるように――こんな戦闘中には到底ムリだ……なら!)

 

 最低限の挙動を行えるように設定を施し、火器のチェックをして、使える武器を調べる。

 (使える武器は牽制用のバルカンと……クロー・バイス・ビームサーベル? これか!)

 

 

 

 

 そうしているうちに、タックルを受けたジンがよろよろと立ち上がった。

 「ば、馬鹿にしてぇ! 赤いモビルスーツなんて! ナチュラルが俺への宛て付けかよぉっ!」

 吹き飛ばされたカズイは激昂した。

 

 

 

 

 

 

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 ――カズイ・バスカークは、キラと共にザフトに志願した少年であった。

 

 昨年の2月14日。

 連合の核攻撃で散った「血のバレンタイン」の犠牲者……。

 宇宙に消えて行った、多くの友人たちの弔いの為、共に志願したのだ。

 

 カズイは、コーディネイターであったが……いかなる社会、組織、集団であろうとも、

 それに属する個人の優劣というものは、いつもその明確な線引きを要求する。

 カズイは、落ちこぼれまでとはいかないまでも、「平凡なコーディネイター」であった。

 

 そんな自分からしてみれば、ナチュラルに無残に命を奪われるという

 友人たちの受けた仕打ちは余りにむごいのだ。

 

 コーディネイターは、生まれながらにして、宇宙に飛び立つという崇高な使命を持っているというのが、プラントの社会の通念であった。

 だから、自分のようなものこそが、ナチュラルたちに示さなければならないのだ。

 

 選ばれたもの、コーディネイターの在り様というものを、そしてその怒りを。

 

 

 だが、同時にカズイの中には無意識、無自覚ではあるものの、ある黒い思いが芽生えていた。

 

 

 ――自分が、この戦いを通じて、主役になること。

 

 それは、コーディネイターといえど、戦いの熱に浮かされた少年にとっては当然のことと言えた。

 

 

 しかし、そんなカズイの思いすら、

 あっけなく現実に打ち砕かれることになる。

 入隊前の試験と訓練の結果――キラたちは赤い特殊部隊のスーツを与えられ、

 自分はその部隊に配属はされたものの、緑のスーツの一兵卒――。

 

 

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 その思いが、”赤い”モビルスーツに攻撃された為、一気に煮沸したのだ。

 

 ――なんとしても、この赤いモビルスーツだけは自分が仕留めなければならない。

 そんな思いに動かされて、カズイはもう一度レバーを握り締めた。

 

 「ええーーい!」

 

 ジンが、再び剣を突き刺そうと、イージスに迫る。

 

 

 

 

 

 「また、ジンが来るぞ!」

 連合の士官が叫ぶ。

 

 だが、アスランは、それに構わず淡々とキーボードを操作する。

 (腕一本! 腕一本でいい……)

 

 敵は、間違いなく油断している。

 アスランはそう判断した。

 先ほどまでの此方の動きを見て、

 真正面から白兵戦を仕掛けて来ているのだ。

 そうに違いなかった。

 

 アスランは、敵が十分に接近してくるのを見はからってから――イージスの姿勢を傾けた。

 

 

 そして、

 

 カァーーン!!

 

 アスランの操るイージスが、振り下ろされたカズイの剣をなぎ払った。

 「!?」

 イージスの腕には、格闘用のクローが展開されている。

 

 「こ、こいつ、こんなに動けたのか!?」

 イージスの予想外の動作に、カズイのジンの動きが一瞬止まる。

 

 と、アスランは、敵の動揺を悟って、そのままクローを振り上げた。

 

 ――が、

 「ちぃっ!」

 カズイも流石に兵士であった。

 

 イージスのクローを、咄嗟にジンの剣で受け止める。

 「そんなものっ!」

 と、イージスを力で押し返そうとするカズイ。

 

 だが――

 

 「いけぇーッ!」

 

 

 ――ジンが、イージスのクローを受け止めたのを見て、アスランはビームサーベルのパワー・スイッチを押した。

 

 

 ブゥウウン!!

 駆動音がして、クローが発光を始める。

 

 

 「え……!?」

 

 

 イージスのクローに取りついている装置から、まばゆい光が発せられるのを、カズイは眼前に見た。

 

 「ヘアァッー!!」

 アスランが叫んだ。

 

 

 黄色い閃光が、クローを包み、それが刃のようになっていく。

 

 

 (え……剣の方が……?)

 『斬られた』と、カズイ思った瞬間、

 カズイのジンは、それを受け止めていた剣ごとイージスのビームサーベルによって、真っ二つに両断されていた。

 

 

 ドゥウン!!

 

 

 と、軽い爆発が、真っ二つに割られたジンの上半身で起こった。

 

 

 

 「ぐわぁッ……!」

 

 また、イージスが大きくゆれた。

 今度は、士官の体が投げ出され、コクピットの壁に体を強く打ちつけた。

 爆発に身構えながら恐らく、ジンのバッテリーの燃料や、推進剤に着火したのだろうとアスランは思った。

 

 爆発を終えたジンは、下半身だけが残っているような状態になって、そのままその場に崩れ落ちた。

 

 

 ――パイロットはどうなったか、とアスランも思ったが――コクピットは跡形も無かった。

 が、それ以上気にしている余裕は無かった。

 

 

 久しぶりのモビルスーツ。

 訓練で操縦は何度も行ったが、アスランにとって、実戦は三回目でしかない。

 

 (うっ……)

 

 アスランは吐きそうになるのを必死に堪えて、イージスを座らせた。

 

 今頃になって体に受けた振動と ――今まで起きた事の連続に対する疲れが、一気に出て来たのだ。

 

 

 アスランは、士官が気を失っているに気がつくと、ハッチを空ける。

 外の煙がコクピットの中に入ってきたが、それでも外気を吸えるのがありがたかった。

 

 眼下を見やると、建物の陰から、不安そうに此方を見つめる仲間達の姿が見えた。

 

 『アスラン!』

 ハロが叫んで、飛び出してきた。

 

 「……アスラン……なの?」

 

 ニコルもハロを追って出てくる。

 

 仲間達は、イージスのコクピットに座るアスランを見上げ、不安げに表情を曇らせていた――。


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