『今思えば、あんな事を何故言い出したのか分からないし、何故出来たのかもわからない。
でも、あの後、イザークと一緒にメシが食えて、彼女とも、お茶が飲めた。
生きているってことだった』
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「バスターを行動不能にしたか! よし! アークエンジェル、前進するぞ!」
ブリッジのバルトフェルドがクルー全員に指示する。
「艦長! 俺も出撃させてください!」
と、そこにイザークも発言してきた。
「イザーク……」
「今は、少しでも火力の必要な状況である筈です!」
アスランの身を挺した行動を目の当たりにし、彼もまた黙っていられなくなったのだろう。
「わかった。 カナード・パルス特尉やラスティ・マッケンジー伍長の後部に追従! 援護を頼む!」
――さらに、そこへ。
「艦長! 友軍の連絡機が接近! ゼルマン司令より伝言、我、秘策整エリ! ”ハンニバル級陸上戦艦バグラチオン”ト同級艦ニテ、北方ヨリ攻撃を開始スル!」
「……そうか、秘密兵器というわけだ。 ――反撃開始だな!」
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数十の戦車や航空機から砲撃が開始された。
「キラ! サイ! この数では、雪原にいたら囲まれる! 俺が引き付けるから、その間に撤退しろ!」
「撤退ですか!?」
「そんな! こんな敵に!?」
ジンと、デュエルで応戦の構えをしていた二人は、ネオの命令に戸惑う。
「アレが見えんのか! コイツら全部、アレが連れてきたんだ」
ネオが、データをキラとサイの機体に送る。
――と。
「なんだアレ! レセップス級より大きい!?」
「地球軍の陸上戦艦なのか!?」
戦車の大軍の後ろには、初めて見る巨大な陸上戦艦の姿があった。
「――恐らくだが、鉱山内のシベ鉄にでも隠してんだろう。 奴ら、アレを見つけ出されないために、イメリア相手に、こそこそ追いかけっこしてたってわけだ!」
追い討ちをかけるように、その後方より、更にもう一つ大型戦艦の姿があった。 これもハンニバル級陸上戦艦”ボナパルト”であった。
「ぬおおおおお!!」
ネオのジンは上空へと飛んだ。
敵の火線を自身へと引きつけて、キラたちを逃がすためである。
数発、敵のリニアガン・タンクの砲撃を被弾した。
しかし、彼は雨のように放たれる敵の弾丸を回避した。
「くそ! 足場さえ――!」
一方、サイのデュエルも、何とか援護をしようとしたが、雪原に足を取られてしまっていた。
デュエルは防衛任務と聞いて、砲戦迎撃に有利なアサルトシュラウドを装備しており、それが更に、足かせとなっていた。
宇宙では、ブースターの増加から、機動力を向上させる事になるが、地上ではその超重量のため、極めて動作が鈍重になってしまう。
雪に足をとられて、思うように動く事すらままならなかった。
「退くんだ! お前らを無駄死にさせるわけにはいかん!!」
「サイ! 退こう! 体勢を立て直さなくちゃ」
「チィッ!」
北部の戦場、ロアノーク隊は退却を開始する。
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「ネオ・ロアノークが退いただとお!? チッ、所詮口だけの男だ!」
ザウートに乗ったシャムス・コーザが言った。
レナ・イメリアも共に居た。
レナは通常のザウートではなく、ザウートの強化・発展型のバド・ザウートに乗り込んでいた。
この機体にはある特殊な機能も追加されている。
「――落ち着きなさい。 コーザ。 敵の接近に備えるのよ。 しかし、ナチュラルがあんなものを用意していたなんてね」
新型の大型陸上戦艦の準備――それが奴らの目的だったのだ。
あと少し、今しばらくの時間があれば、それを察知することは出来ただろう。
アークエンジェルさえ、降りてこなければ。
モーガンが死ぬ事もなく、アークエンジェルの対応に気を取られて付け入る隙を与える事もなかったろうに。
レナは決断した。
戦いはここだけで終わるのではない、と。
「――総員! 基地は放棄します! 総員、退避なさい!」
イメリアが基地の放棄を告げた。
中にいたザフト兵たちが、続々とホバートラックや、輸送機に乗って撤退を始める。
その中には、アウルやスティングの姿もある。
「姐さん! 無事か」
ネオたちが、基地周辺まで押し戻され、帰還する。
道中、部下を助けようとしたのか、ネオの機体には無数の傷が出来てしまっていた。
「ここは俺が引き受ける! 姐さんたちは!」
ネオが、イメリアと、シャムスらザウート隊に告げる。
「いえ――それには及ばないわ」
「おい?」
「私が、止めてみせる」
「……わかった、だがそこまで気負うなよ? 北方の敵にはいい方法を知っている」
「……任せるわ」
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「ラクス様! 危険ですよ!」
外の様子が伺えるブリッジにラクスは来ていた。
アスランは、遥か遠方の為、イージスの戦う様子は見えない。
だが――。
「アスランが勝ちますわ」
ラクスは自信気に言った。
「わたくしがついておりますもの」
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「イザーク! ……私」
フレイが、通信で、ジン・タンクの中に居る、イザークに話しかけた。
CICを離れ、ジン・タンクの予備パイロットとなったイザークの代わりに、決まった仕事のなかったフレイがその補充要因として入る事になったのだ。
「心配するな。 お前を守ってみせる。 誰も死なせん!」
「守るから、私の想いが!」
「行って来る! ……イザーク・ジュール、ジン・タンク、出るぞ!!」
イザークのジン・タンクも、アークエンジェルから発進される。
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「サイ! 良いか! 俺に合わせろよ!」
「ハイ!隊長!」
バイカル湖の上に張られた氷の上に、ネオのジンと、サイのデュエルが残っている。
向こうからは、戦車の大部隊と大型陸上戦艦が、氷上を駆けて来る。
「キラ! オーバーガンを持って来い!」
「ハイっ!」
キラのジンが、基地から運ばれた装備の中から、ネオのジン・ハイマニューバ用に用意された大型ビームライフルを持ってきた。
オーバーガンと呼ばれる、カードリッジ式のメガ・ビームライフルであった。
試作段階ではあるが、弾数が三発までと限られる代わりに、極めて高い出力のビームが放てる代物であった。
ブッピガン!
金属音を立てて、ネオはオーバーガンを装備した。
「おい、――あれネオの機体じゃ」
独房から出され、避難を始めたアウルが、ネオたちの様子に気づく。
「あの数を引き受けるのか!」
無謀な――とスティングは思った。
「狙うことはない。1、2、3……」
「――今だッ! サイ!」
「シュートォオオオオオ!!」
サイのデュエルのビームライフルと、ネオのオーバーガンが同時に放たれる。
バッシュウウ!
「っ! まさか!」
スティングが叫ぶ。
そういうことか、と。
「えっ? ――なるほど!」
先の集落での戦い、スティングは脱走兵のキサカに――氷の下にあった湖に落とされたのだ。
つまり、ネオのやろうとしていることは……。
バババババ!!
ビームは敵陣ではなく、バイカル湖の氷に放たれた。
水深、2kmに及ぼうとする世界最深度の湖に――。
「リニアガンタンク部隊! 後退せよ!」
戦艦”バグラチオン”にて指揮を執るゼルマンは、戦車隊をすぐさま止めた。
一部ではあるが、バイカル湖の氷が大きく砕けて、大穴が空いた。
コレで、敵は迂回をせざるを得ない。
地上戦力が主である、敵部隊を暫くの間足止めすることは可能だろう。
「やっぱ俺って不可能を可能にする男かな。 ――パクりだけど?」
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大勢は決した。 敵軍の迎撃部隊は徐々に後退をはじめ、アークエンジェルも前進を始める。
こうなってしまっては、超火力を誇る、アークエンジェルの艦砲の独壇場であった。
アークエンジェルから、ゴッドフリート、バリアントが放たれる。
アークエンジェルを迎撃に来たディンや、地上のトーチカ、迎撃火器を次々に撃破していく。
「艦長! ピートリー級、2!」
メイラムが、眼前に迫る敵の陸上戦艦――レセップス級よりは小さい、ピートリー級戦艦の接近を告げた。
「ジン・タンク! 援護する! いけるか!」
バルトフェルドは、敵陸上戦艦を迎え撃つため、ジン・タンクの面々に攻撃を命じた。
「あいよ! こっちに任せてね!」
ラスティが軽快に応える。
「い、いけます!」
イザークは初陣の緊張と恐怖に襲われながらも、はっきりとした声で答えた。
「……」
カナードは無言でうなずいた
と、アークエンジェルから放たれるビームにあわせて、カナードのタンクがマズ突出した。
背面のレールガンを掃射し、敵ピートリー級の砲門をピンポイントに狙い打っていく。
神業である。
「――さっすが特殊部隊」
「すごい……」
ラスティは感嘆の声を漏らし、イザークは絶句した。
カナードは敵の攻撃が恐ろしく無いのか、ホバーを使って高速でグングン敵陣へと入って行った。
「よし、俺らも行くよ! 付いてきてね、イザリン!!」
と、ラスティもまた機体を加速させた。
イザークもそれに負けじと、機体を必死に前に出す。
「わ、わああああ!!」
恐怖を晴らすため、イザークは絶叫した。
----------------------
バスターを撃破したアスランは、その後もモビルアーマー形態で空を飛び、敵基地に接近しては退避する、ヒットアンドアウェイの要領で、攻撃を仕掛けていた。
そこで待ち構えていたのは、基地防衛の最後の要――。
アークエンジェル隊を待ち構えるべく編成された、レナ・イメリア直属のザウート隊であった。
9隊のザウート――ザフトではモビルスーツを三体ずつの小隊を組んで戦うことが多い、3小隊の編成なのだろう。
よく統率されたザウートの砲撃は、アスランにとっても脅威となった。
「――ここは……俺の距離だ! あの時の戦闘機! 待ってたぜ!」
近づいてくるイージスに向けて、シャムスのザウートが砲撃を放つ。
「クッ!?」
その、一機だけ飛びぬけて射線が恐ろしいザウートにアスランは気が付くと。
「――!」
先ほど、バスター相手に取った戦法をもう一度、試す事にした。
――空中で、人型に変形!
「なにッ!?」
イージスの姿が変わった事に、シャムスが一瞬驚く。
空中で変形し、急激に速度を変えたため射線がズレ、ザウートに大きな隙が出来る。
「うぉおお!」
それを狙って、イージスがビームライフルを構える。
「シャムス・コーザ、迂闊!」
「イメリア隊長!?」
レナの声に、我にかえったシャムスは、急ぎ回避行動を取った。
「うわっ!?」
ビームはザウートをそれて、地面に当たる。
爆風がザウートを煽った。
「すいません! 隊長!」
「しっかりなさい――行くわよ! イージス! ”乱れ桜”と呼ばれた戦い方! 見せてあげるわ!」
----------------------
――乱れ桜。
レナ・イメリアに付けられた異名である。
しかし、これは、敵から彼女に与えられた名前ではなく、友軍が彼女を評して付いた名前であった。
戦場に舞い散る、花。
シベリアをザウートで縦横砲撃した際に飛び散る、氷と炎の舞。
それが、舞い散るサクラのように見えたのである。
そして、肉親をナチュラルに殺された彼女の深い憎悪が生む、自身の命を問わない、肉を散らすような凄まじい気迫と戦い。
もう一つの花は、彼女の機体自身から飛び散る残骸であった。
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「ちょこまかと! ナチュラル風情が!」
モビルスーツ形態のまま着地したイージスに、シャムスのザウートが、大型マシンガンを発射する。
「――!」
しかしアスランは追加された、A型装備の強化スラスターで空中へ舞い上がると、後退しながら、ビームライフルを放つ。
(やはりだ、近づいてしまえば、それほど恐ろしい敵じゃない)
アスランは思った。
ザウートは、ザフトが初期に開発した火力支援用の機体であった。
ジンと比較して汎用性に欠けるものの、安定した火力で、地上においては圧倒的な機動力を持つ、バクゥが現れるまで有効な戦力として使用されていた。
しかし、それは地上の戦力が、戦車に限定した場合である。
いつかは予想された、モビルスーツ同士の戦闘。
ザウートの弱点と、バクゥが開発された理由は、そこであった。
アスランは、シールドに取り付けられたビーム・ブーメランを投げる。
「うわっ!?」
ザウートの一体が、それに切り裂かれて爆散する。
そして、そのまま弧を描いて別の一体へも――。
「チィ!」
しかし、その機体は、すんでのところでブーメランを回避する。
が、
「あっ!?」
既に空中を進み、死角に入り込まれていたイージスから、ブーメランに気を取られていたところに、ビームライフルを放たれ、結局は撃破された。
「く! くそぉおおおおお! よくも同胞を!!」
シャムスは叫んだ。
「破壊する……ただ破壊する……こんな行いをする貴様達を! この俺が駆逐する!」
シャムスがイージスに飛び込んだ。
「!」
しかし、アスランは冷静に空中へと退避する。
「ブースター!」
しかし、シャムスは緊急移動用のブースターを点火させる――。
「ザウートが空中戦!? ――しまった!」
上空まで一気にジャンプしてきたザウートの予想外の行動に、アスランは羽交い絞めにされる。
「うおおおおお!!」
重量のあるザウートにそのまま押さえつけられ、アスランは地上へと落下する。
「今です! 隊長!」
シャムスが、イージスから離れる瞬間。
「各機! てぇええ!!」
「あっ!?」
ドドドドドドォオオオ!
「うわあああ!?」
ザウート達が、一斉に火砲を放った。
猛烈な爆発がイージスを襲った。
「ハハハハハハ!! やったぞ! あのイージスを!! これが隊長の”桜”なんだよ!」
シャムスは高笑いした。 しかし。
「シャムス・コーザ! まだよ!」
「――えっ!?」
爆煙を割って、イージスが、飛び出てくる。
「退きなさい! シャムス!!」
レナが叫んだ。
ズバアアアア!!
「のがっ!!」
完全に油断していた。
シャムス・コーザのザウートは、なすすべなく、イージスのビーム・サーベルに肩の部分を裂かれていた。
「バ、バカな! フェ、フェイズシフト装甲とはいえ……」
アレだけの砲撃で急所に当たらず逃げ延びれるというのか。
「く、ナチュラルなんぞに! 何という失態だ! 俺は! 万死に値する!」
「反省は後! アレだけの攻撃を受ければ、流石に無傷という事は無いはず!!」
レナの言うとおりであった。
アスランの技量で、イージスは致命傷は避けたものの、フェイズ・シフト装甲にパワーの多くを吸われてしまっていた。
バッテリー残量が既に、危険域である。
(ザウートは残り7つ。 ――退くか?)
大勢は決した。 一旦補給へと戻るべきか――。
しかし、眼前に居るのはただの部隊ではない、そうやすやすと逃がしてくれるだろうか?
と、アスランが思案していると、そこへ。
「アスラン!」
「イザーク!?」
後方から聞きなれた声の通信が入る。
イザーク・ジュールの乗るジン・タンクであった。
------------------------------
北方の部隊は、ネオの奇策によって、後は僅かながらに追撃してくる戦闘機を迎撃するのみとなっていた。
「隊長、できればミリアリアの援護を――!」
サイが、徐々に後退しつつ、ネオに言った。
撃破された仲間が心配でならないのだろう。
「ああ、そうしたいが――何か、この感じ――ラウ・ル・クルーゼか!」
「えっ!?」
ネオが突然、敵のパイロットの名前を叫んだ。
上空からは、クルーゼのスカイ・ディフェンサーが、ロアノーク隊に接近していた。
「随分とくたびれているなネオ? 退却中か――それからデュエル、それに、あの、もう一つの妙な感じ、アスランのご友人も居るという事かね。 ――さて、どうするかな」
「嫌な時に嫌な所にいる、クルーゼ!」
もはや、ネオのジンも、サイとキラも、弾薬を撃ちつくしていた。
「フ、まあ、万が一もある――今はまだ、やらせるわけには行かんからな!」
クルーゼは、残るロアノーク隊に足止めを仕掛ける事にした。
-----------------------------
「増援か……」
イメリアは、駆けつけたジン・タンクのほうを眺めた。
増援に駆けつけたのは三台。
敵がイージス含め4。自分達のザウートが7。
数の上ではまだ勝るものの、敵の増援が来た。 それはつまり後方から敵の支援が到着しつつあるという事である。
「アークエンジェルが追いついてきたか! ここまでのようね!」
レナは、引き際を察した。 しかし。
「――嫌です!」
「シャムス・コーザ!?」
部下のシャムスが突然、それに異を唱えだした。
「数多の失態! これで償わせていただく――」
シャムスのザウートが、前に出る。
「戦闘機やジンモドキなんかに! イージスだけは俺が仕留める!」
先日に引き続き、今日の戦いでもまた、彼は失態を続けてしまった。
なんとしても挽回したいという気持ちが、彼を前に進めてしまっていた。
「イメリア隊長は撤退を! 自分たちもシャムスさんと彼奴ら迎撃します!」
他の隊員たちも、それに感化され、前に出始める。
「アナタたち! 退きなさい! 命令を!!」
しかし、部下たちは自分を逃がそうと、前進を続ける。
(……半年のアカデミーでは、理性と理想の余る彼らを兵隊に出来ないというの!)
レナはコクピットの中を叩いた。
「――ザコが!!」
援軍に来た内、カナードのジン・タンクが、先ずザウートたちの火線に飛び込んだ。
ジン・タンクの放つ、リニアガンが、ザウートたちに次々に命中していく。
「さっすがあ! 俺もマユラちゃんにいいトコ見せないとね! な?イザーク?」
そして、ラスティがその討ち漏らしに、マシンガンを浴びせていく。
「言うなぁああああ!」
イザークは、アークエンジェルの指示に忠実に、それを援護した。
「……皆!」
アスランも、機体を後退させながらも、格闘用のクローを展開し、エネルギーを温存しながら、隙を見てザウートに攻撃を仕掛けた。
「舐めんなよ! ナチュラルのおもちゃが!」
と、カナードのジン・タンクの元へ、シャムスのザウートが向かう。
ザウートの背から、大砲が発射される。
「あ?」
が、カナードのジンはいとも容易くその攻撃を回避した。
「チッ」
そして、面倒くさげに、カナードはマシンガンを放った。
ズドオオオンン!
「ぬあ!?」
シャムスの機体が激しく揺れた。
(な、なんだ!? たった数発のマシンガンで!? なにが!?)
――カナードは狙い撃ったのだ。
ザウートが背負う大砲の”砲口”を。
そのため背中の弾薬が炸裂し、シャムスのザウートは誘爆から身を守る為に、オートの緊急動作に入った。
体中の弾薬をパージするのである。
一気に全身の武器を奪われて、シャムスはパニックに陥る。
(な、なんだと! これでは戦えん!? ナチュラルなんかに! こんなこと)
一気に、恐怖がシャムスを襲った。
「ひ、ヒィイイイ!」
「ハハ、消えろよ!」
カナードがジン・タンクに積まれていたバズーカを取り出し、構える。
装甲の厚いザウートでも、十分に吹き飛ばせるジン用のM68キャットゥス 500mm無反動砲である。
「コーザッ!!」
しかし、レナのバド・ザウートが、カナードとシャムスの間に割ってはいる。
「隊長!?」
ズオオオオン!!
爆風が、レナのバド・ザウートを包んだ。
「隊長機? 部下を守ったのか」
バド・ザウートが、激しく爆発する――。
「!?」
しかし、カナードは、違和感に気が付いた。
「ハァアアアアアアア!!」
爆風の中から、細身のモビルスーツが現れる。
その痩身からは、花弁のように、身に纏っていた装甲を散らしながら。
「なんだと!?」
カナードがジン・タンクを退かせようとしたが遅かった。
ズバアアア!!
その細身のモビルスーツが持っていた一対の双剣で、カナードのジン・タンクが切り裂かれる。
「チョバムアーマーか何かか! ザウートの中に、別のモビルスーツを!」
カナードのジン・タンクはそれ以上の戦闘は出来そうもなかった。
やむを得ず彼は機体を引かせた。
---------------------------
――
元々は、ザウートに変わる汎用火力支援機を作ろうとして開発されたものであった。
装備だけでなく、身にまとう各パーツを、鎧のように着せ替えることで、多種多様な戦況に対応できる様にする、というものであった。
しかし結局は、ジンでその役割が十分に行われることがわかると、その開発は中止された。
しかし、レナ・メイリアがこの機体の持つもう一つの特性に目を向けて、自身の専用機に試作機を幾つかもらいうけたのだ。
バド・ザウートの素体は、ジンやシグーをベースに、重量のある装備を抱えて動けるように、トルクや運動性を強化されていた。
追加パーツを脱ぎ捨てた状態では、かなりの身軽さを誇るのである。
一つの機体で(一方通行ではあるが)その機体特性を大きく切り替える事が出来る。
また、脱出の際、機体を軽く出来る事はサバイビリティも向上させられる。
指揮官でありながら、逼迫したザフトにおいては、常に前線で戦わなければならない――そんな彼女にとっては最良の機体であった。
そのザウートが、身にまとう装備を脱ぎ捨てる時、レナ・イメリアは、蕾が花開く瞬間を想像した。
そのため彼女は、この機体に、自身の異名を載せて、バド・ザウートと名づけたのだ。
-----------------------------
「カナード特尉がやられた!? イザーク下がれ!」
ただの敵じゃない――ラスティが叫ぶが遅かった。
「ハァアアア!!」
レナのバド・ザウートの”素体”が――ラスティとイザークに向かう。
「うわああ!」
ラスティの機体が切り裂かれ、イザークのジンも頭が跳ね飛ばされ、2体は、その動きを止める。
そして、再度、バド・ザウートが、イザークの機体へトドメを刺さんと接近する――。
「うわあああああ!!」
イザークが恐怖に叫ぶ。
「――イザーク!!」
前進してきたザウートを、あらかた退けたアスランが、それに気付いて、イザークの元へと飛ぶ。
アスランは、バド・ザウートの前に立ちふさがると、敵の装備を見て、間合いを取った。
敵は、剣しか持ってない。
そして――。
ピーーーと、パワーダウンのシグナルが、イージスのコクピットに鳴り響いた。
途端、イージスのフェイズ・シフト装甲がその鮮やかな赤を失い、灰色に染まっていく。
「――フ、アナタの花は散ったようね」
ということは、バド・ザウートの持った重斬刀――本来は、急所意外、イージスに通用しない剣でも――刃が通る、という事になる。
辺りには、動く機体は最早無かった。
ザウート隊は、無念にもほぼ全滅。
が、敵のジン・タンクたちも全て行動不能状態。
アークエンジェルも、こちらに向かってはいるが、まだピートリ級の一つが粘っていて、此方を狙い撃てるだけの距離には入っていない。
(――一騎打ちかしら? イージス)
「た、隊長!」
動けないシャムスが、通信でレナに声を掛けてきた。
「シャムス・コーザ……あなた、弟に似てたわ。 負けん気で、でも誰よりも宇宙に出たがっていた――」
その未来を、ナチュラルが閉ざしてしまった。
ユニウス・セブンに撃ち込んだ核ミサイルで――。
(だから、やられるわけには、いかないのよ――これ以上、ナチュラルなんかに――)
数秒、時間がたった。 その緊張感。 まるで、それはサムライ同士の、居合いの戦いである。
(侮りはしない。 ナチュラルといえど。 モビルスーツの戦いなのだから――悪いけれど、勝機はこちらにある)
勝機とは、間合いである。
イージスの装備は、最早手に取り付けてある格闘用クローのみ。
それに引き換え、バド・ザウートは長剣を二刀流にして装備していた。
隙を、見逃さなければ、先ず、負ける事はない。
--------------------
「――アスラン!」
ジン・タンクの中で、イザークは呻いた。
「くそ! 何も出来んのか? 折角出てきても、俺は――」
何のためにここに来たのか?
「くそ! ダメだ動かない。 マズいぞ! イージス、もうパワーが!」
ラスティもまた、ジン・タンクの中で叫ぶ。 それが無線を通してイザークにも伝わってくる。
(何か――あっ!?)
と、イザークはコクピットの中にあるものを見つけた。
歩兵用の
---------------------
(どうする……?)
アスランはジリジリと間合いを詰めていた。
(イザークとラスティを……守らなくては)
体が、熱くなっていく。 あのモーガン・シュバリエを倒した時と同様に、凄まじい集中力がアスランの中に生まれてくる。
アスランの中で、何かが、弾けた。
(――!)
アスランの、イージスが動いた。
レナ・イメリアは、それを見逃さなかった。
カァアアアアン!!
イージスのクローを、レナが受け止める。
(な!?)
凄まじい速度であった。 レナのバド・ザウートはムリな体勢で、攻撃を受けたために、バランスを崩す――。
「ヘアアアッーー!!」
アスランもまた、その隙を見逃さなかった。
「甘い!」
が、レナは、ニ刀あるうちの一つの剣を地面に刺して杖のようにし、転倒を防ぎ――もう一方で再度振りかかったイージスのクローを退ける。
カァアアアン!!
「ッア!?」
思わぬ反撃に今度はアスランのイージスが面食らってよろける。
「――強かったわよ、あなた!」
レナは、敬意を表した。 ナチュラルといえど、今まで戦ってきた敵の中で最強の相手であった。
レナは、双剣を構えなおした。
そして、その刃は、アスランのイージスに向かう――。
しかし。
「イケェエエええ!!」
――ドォバアアアア!
「あ!?」
爆発がした。
剣を持った腕を撃たれて、バド・ザウートの動きが止まる。
(バカなッ!? 動ける敵は――いない筈――!?)
レナはあたりを索敵した――と。
(敵の歩兵――子供!?)
ジンタンクのコクピットハッチを開けて、此方にスティンガーを構える、イザークの姿を、レナは確かに見た。
(――私はまだ侮って――ナチュラルと――敵はモビルスーツと思いこんで――!?)
「トゥオオオオオオ!!」
ズガァアアア!!
「!?」
アスランは、レナのバド・ザウートの胸に、クローを突き立てていた。
「きゃああああああ!!」
スパークが、コクピットを襲った。
バッテリーと燃料が――それに引火する。
グォオオオオンと、爆発を起こし、レナ・メイリアの機体は――散った。
-----------------------
「イメリア!?」
クルーゼに応戦している、ネオは、イメリアの死を感じた。
そして、それは機体のシグナル・ロスト、という形で、正式に告げられる事になった。
「きょ、教官……きょうかあん!」
トールのディンに助けられたミリアリアは、バスターのコクピットの中、うめき声を上げた。
トールは今すぐにでも、ミリアリアを抱きしめてやりたかった。
「イザークやるじゃん!」
「あ、ああ……やれたのか」
爆発するバド・ザウートを見ながら、イザークはへたり込んだ。
ラスティが彼を褒め称える。
『助かった……イザーク』
イージスからも、アスランの声が届いた。
「フ……フン」
イザークはそれに応えられず、ただ鼻で笑うのみだった。
ただ、彼は口元を嬉しそうに曲げていた。
「くっそおおおお! なんという失態だ! こんな戦いでイメリア隊長を死なせてしまった! ……私は……俺は……僕は!!」
戦場から離脱しながら、シャムス・コーザは号泣した。
自分を見出し、育ててくれた師匠とも呼べた上官を、失ってしまったのだ。
コズミック・イラ71年 3月2日。 多くのザフト兵を育てた、”乱れ桜”。
レナ・イメリア、戦死。
バイカル資源基地は、アークエンジェル隊とユーラシア連邦軍に突破され、
いよいよシベリア戦線は、ザフトシベリア方面司令部があるミール・ヌイとリマン・メガロポリス基地を残すのみとなった。