機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 27 「暴風、ミリアリア!」

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 「彼女と暫く同行する事になってしまった。

  余計に戦いに負けられなくなるということだが

  もう戦ってしまう、ということだった」

 

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 敵軍からビーム砲による長距離狙撃を受けたアークエンジェルは、一先ず高度を下げ、恐らくは敵の狙撃手から死角になるであろう山陰に身を寄せた。

 

 『ハッチ展開の瞬間を狙っていたようだな』

 「危ないところだった。 エンジンを掠めただけで済んだものの、もうちょっとで一巻の終わりだったよ」

 ブリッジのバルトフェルドはスカイ・ディフェンサーのコクピットに居るクルーゼと電話で話している。 

 会話しながらも、バルトフェルドは残った輸送艦からの報告と、爆散した輸送艦に対する状況確認、索敵を平行して行い、事態の把握を急いでいた。

 

 『こちら特務部隊X。 カナード・パルス。 狙撃前に出ていたので無事だ』

 「了解した。 そのまま後方にて待機、周囲への警戒を怠らないでくれ」

 ――輸送艦に積まれていたジン・タンクは直前に出撃していたため無事であった。

 『了解した』

 

 ――それにしても、母艦が撃ち落とされたのに平然としている。

 少し気になったが、事態はそれ所ではない。

 

 

 「ダメージ・コントロール、どうか?」

 「装甲を大破する程度には至っておりません。 艦の機動にも問題ありませんが、左のレビテーターにかなりのダメージです。 狙われたらマズイですね」

 「むう……」

 バルトフェルドはアゴを抑えて考えをめぐらせた。

 

 時間はなかった。

 今回の作戦は敵基地に対するニ方向からの攻撃――特に自分たちは敵の気をひきつける陽動も兼ねているのだ。

 このまま動けないで居れば、北方から進軍する予定のゼルマン達のみで基地へ向かう事になる。

 そうなれば――敗北はどのみち必至である。

 

 「しかし、狙撃とはな。 しかも典型的な足止め狙撃だ。してやられたよ」 

 『フン、Nジャマーによるレーダーの阻害……科学戦も詰まる所まで来てしまえば、大昔の有視界戦闘に逆戻りというわけだ』

 クルーゼが言った。 

 お互いレーダーやセンサーが使えなくなり、長距離弾道弾の使用を封じられた接近戦を余儀なくされた戦場。

 

 そこで活躍するのは巨大化した歩兵たち、モビルスーツだった。

 

 それゆえに、歩兵を狙撃手を以って迎撃するというシンプルな作戦が再び有効となった、ということであろう。 

 

 「恐らくコレだけの長距離を狙撃できるとなれば、敵軍に奪取されたバスターの可能性が高い。 考えるべきだったよ」

 『今更それを言ってどうするつもりだ?』

 「ッ……わかってるさ。 問題は、例えバスターといえども、本来は先ほどのような精密な射撃は困難ということだ」

 『……周囲に観測手がいる、ということか』

 「モビルスーツか、戦闘車両か……どんな類かは分からないけど、間違いは無いだろうね」

 『フム……』

 クルーゼは押し黙る。

 (レールガン……バリアントなら、撃とうと思えば理論上は100km射程の攻撃が可能だ。 敵が待ち伏せているポイントごと吹き飛ばすか……)

 対抗狙撃には、敵が隠れている場所を砲撃で根こそぎ爆破してしまう策も非常に有効であった。

 だが……。

 

 (いや、あの基地周辺には、放棄されたとはいえ都市がそのまま残っている。 基地もできるだけ無傷で返してもらいたい。

  それに、あのバイカル湖……砲撃などして汚染してしまうわけにもいかないか……)

 

 「矢張り、頼みの綱はイージスか……C型装備で索敵し……B型のスナイパーライフルで、こちらから撃つか――」

 『それなら――』

 「……?」 

 バルトフェルドの発案を聞いて思いついた事があるのか、イージスのコクピットにいるであろうアスランが口を開いた。

 『……やれるのかね?』

 クルーゼが無線で今度はアスランに語りかけた。

 アスランは暫く無言であったが、

 『俺に考えがあります』

 と言った。 

 

 

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 ――数時間前。

 ザフト基地での作戦開始前のミーティング。

 

 「敵軍の動きを察知したわ。 北北西の方向から例の”足つき”が接近中。 また北方には不穏な動きをするユーラシアの軍勢を確認。 恐らくは基地の後ろから北東にかけて広がる、この凍ったバイカル湖を降りてくるはず。 ――状況は確認中だけど、恐らくそれなりの勢力だと推測されるわ」

 

 レナ・イメリアがロアノーク隊も交えて、基地の面々に今回の迎撃作戦を説明していた。

 

 「しかし……気になるのはあの船が、恐らく我々に監視されている事を知って、この基地に近づいているということ」

 「陽動……と?」

 ネオがレナに言った。

 「可能性はあるわね――そこで、ロアノーク隊のメンバーの一人に、本作戦の中核を担ってもらう必要がある」

 と、レナは一人のパイロットを指した。

 

 「……ハッ!」

 彼女――ミリアリアは、立ち上がって敬礼した。

 (……私?)

 と彼女は内心思った。

 「敵軍の兵器を利用するというのが悔しいが、ミリアリア・ハウが操縦する”バスター”には非常に高い狙撃力と火力を持つ。

 コレであの船を狙撃する事で”足を止めさせる”、ということよ」

 「で、ですが! それなら自分が!」

 溜まらず、同じミーティングルームにいた、シャムス・コーザが名乗りを上げた。

 内心、ネオに受けた制裁について、まだ腹に据えかねているのだろう。

 敵愾心を露にして、ロアノーク隊であるミリアリアを睨んだ。

 しかし、

 「いえ、ミリアリアが適任。 彼女は私が教鞭をとった中で最高のスナイパーよ」

 「えっ……」

 必至で声に出さないように、ミリアリアは気持ちをなんとか抑えた。

 

 憧れていた教官に、自分が認められていたと知ったのだ。

 

 

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 「教官、私なんかが本当に……」 

 「私の言った事、信用してないの?」

 「そ、そんなはず……」

 

 ミーティングを終えて、出撃するまでの僅かな間、ミリアリアはイメリアに尋ねていた。

 本当に自分がそのような重要な役割を任されてよいのかと。

 

 「古来から、女性のスナイパーは珍しいわけではないわ。 アカデミーで私が教えた事を思い出しなさい」

 「でも、教官、その頃は私を……」

 「ずっと……男を見ていたからよ? 今も変わってないみたいだけど」

 「えっ……?」

 ミリアリアは顔を赤くした。

 「……でもね、ネオや貴女を見ていると思うのよ。 ただの軍人としてではなく、ザフトであるならば、それも――」

 いえ、と言いかけて、レナはそれ以上の言葉を止め、ザフト式の敬礼をミリアリアに向けて行った。

 「……ハイ」

 ミリアリアもそれに返礼する。

 

 

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 時刻は15時を迎えようとする頃。既に、空が陰って来た。

 (……さあ、イージス、どう来るの?)

 「足つき、着弾後から動き無し」

 観測手であるトールから、目標の報告が行われる。

 

 

 狙撃。 目標を長距離から狙い打つ事。 

 特に、軍事作戦においては、敵軍に察知されない箇所からそれを行い、

 敵軍の指揮系統の中枢となる司令官や通信兵――重要な戦力を狙い撃ち、削ぎ落とし、敵軍に対して最も有効な打撃を与えることが目的となる。

 どこから撃たれているかわからない――その心理的な動揺も狙撃における重要な効果の一つである。

 

 狙撃手(スナイパー)には通常、観測手(ポインター)と呼ばれる、目標の細かい情報や、敵への命中有無の確認、索敵等を担当する相棒がつく事になる。

 今回はトールと他1名がそれに該当した任務についている。

 

 両名とも、ミール・ヌイ基地に用意されていた偵察用のディン――ザフトの飛行型モビルスーツを使っている。

 (今のイージスには、高性能のセンサーがついていると聞いている――トール達がやられなければいいけど)

 あの月下の狂犬の母艦、バルテルミを狙撃したと聞いている。

 (可能性としては、こちらに対して接近しつつ長距離狙撃――かしら?)

 相手がナチュラルと言えど、自分たちが狙われていると知って、迂闊に近づいてくるワケは無いだろうとミリアリアは思った。

 

 事実そうだ、いまだ動きは見えない。

 だが、それでも気を、抜いてはいけない。

 相手は、サイを傷つけ、あのキラをも退けた相手なのだ。

 

 (少なくともディンは飛べるから――発見されても逃げられるわよね……)

 それに、あのディンはブリッツのデータを流用し、改造したカスタム・タイプとなっているのだ。

 静止している状態限定だが、周囲にミラージュコロイドを散布し――姿を消す事までは出来ないが、ステルス性を高めることが出来るようになっている。

 

 

 ミリアリアは、こちらからは死角となる山陰に隠れたアークエンジェルの方向をじっと見た。

 まだ、動かない。 

 ――外すわけには行かない。 不用意な射撃はこちらの位置を知らせる事になる。

 それに、今はいいのだ。

 こうして時間を稼ぐだけで、十分である。

 敵軍は恐らく、基地を包囲する陣形で来るだろうことは予想された――と、いうよりは、他方向から包括的に攻撃を行わない限り、基地を陥せるわけがないのだ。

 (なら、足つきを足止めさえすれば)

 サイやキラ、それにネオが向かった北方側の陣営が、そこから侵攻してきた敵部隊を排除できるだろう。

 地の利は今や完全にこちらにあるのだから。

 

 

 「ミリィ」

 と、アークエンジェルを監視しているトールから報告が入った。

 すぐさま、ミリアリアは狙撃ゴーグルを覗き込んで、その方向を見た。

 「――アークエンジェルが動くぞ!」

 

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 『反対だがねぇ、僕は』

 『しかし、結局のところ、コレしか方法は無いさ』

 『だが……無茶が過ぎる、イージスとアスランをむざむざ見殺しに出来んだろ?』

 

 イージスのコクピットの中、バルトフェルドとクルーゼが言い合う声が聞こえる。

 「いえ、やらせてください! この装備ならいけるはずです」

 アスランは、カタパルトにイージスを進めた。

 

 (――俺が守る)

 

 

 アスランは、”彼女”の事を思い出していた。

 

 

  ――ミーアが、この船に乗って間もなく、彼はプレゼントを渡した。

 

 「まあ、かわいい!」

 「いえ、コレくらいしか、ここでは暇がなかったもので――」

 それは、ピンク色をしたボール型ロボット――ハロであった。

 

 アスランの言った事は半分本当で、半分嘘だった。

 

 以前、ガン・ガランのユーラシア軍基地によった際、彼は余分なパーツも引き受けていた。

 気の滅入っていた彼は趣味の機械工作でもやって気を紛らわせようとしていたのだ。

 それには、ニコルの入れ知恵もあった。

 

 結局のところ、そのような気分にもなれず、時間のとれず――結局作れず仕舞いだったのだ。

 ミーアに会うまでは。

 

 

 彼女にコレをプレゼントすると決めた途端、アスランはハロ作りに没頭していた。

 ――久しぶりに、何もかも忘れて、手を動かす事に熱中できた時間だった。

 

 「ありがとう、アスラン――あなたはいつも、素敵なものをくれますのね」 

 

 

 

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「彼女も……守ってみせる」

 

 アスランは、ノーマルスーツの酸素を確認した。 

 そして、コクピットの耐G強度を確認する。

 

 「アスラン! こっちも準備できたぜ――あのバスターってやつ、その”ガンダム”って機体の中じゃ、多分一番厄介だな、気をつけろよ!」

 ディアッカが発進準備完了を告げると同時に言った。

 「え……ブリッツの方がずっと強くないですか? 消えるんですよ?」

 ニコルがそれに思わず反応する。

 「フン……ああいうのは、一番基本性能が高いものが厄介なんだ。 デュエルも居るかもしれん、俺もいざとなればタンクで出る――気をつけろよ」

 CICに座るイザークもアスランに言った。

 「フッ……」

 アスランから自然と笑みがこぼれた。

 そうだ、彼らも守ってみせる。

 

 

 『アスラン、言うは安いが、実行するには困難が伴う。 いけるな?』

 最後に、クルーゼが念を押してくる。 

 アスランが言い出した作戦は、無茶なものであった。

 「いえ、やれます。――やらせてください」

 『フッ……ではやってくれるかね?』

 『……クルーゼ、あまりアスランを焚きつけるな』

 最後までアスランとイージスの事を案じていたバルトフェルドが口を挟む。

 『艦長、生憎、私はアスランの心情とやらに配慮して、無理と思える作戦でもやらせてやろうと思うほど愚かではない』 

 それに対してクルーゼが返す。

 『無理だと思えば始めからやらせぬさ。 だが、今のアスランなら出来ると思える。だからこの作戦を採った』

 『……わかったよ』

 最後には、バルトフェルドも折れた。

 

 「ありがとうございます、艦長、大尉」

 アスランは、機体の最終チェックを終えた。

 

 「APU機動、イージスはA型装備でスタンバイ! イージス、発進よろし!」

 ディアッカが告げた。 

 

 「――アスラン・ザラ。 イージス、Aプラス! 出るっ!!」

 

 アスランは声を張り上げた。

 

 天に、イージスが舞った。

 

 

 「――良し! イージス発進と同時に ECM最大強度! スモークディスチャージャー投射! 両舷、煙幕放出!」

 そして同時に、バルトフェルドも指示を出した。

 

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 「煙幕!?」

 トールが叫んだ。

 

 アークエンジェルは浮上のそぶりを見せると同時に、その巨体を覆い隠すように、煙幕を濛々と吐き出し始めた。

 

 そして――。

 「ミリィ! イージスが発進した――なにっ!?」

 トールのディンがイージスの発進を目視で確認した――と、予想外のモノを見た。

 「どうしたの!? トール!?」

 「変形だ! イージスがモビルアーマー……いや! 戦闘機に変形した!!」

 

 

 イージスは煙幕の煙を輪って、空に舞い上がった――と、すぐさまシールドを機首にして、Aパーツを利用したモビルアーマー形態へと変形した。

 それは不恰好なロケットといった、本来の姿とは異なり、洗練された航空機のようなシルエットに変わっていた。

 その映像は、オンラインを通じて、ミリアリアの元へと届けられた。

 

 (これって、あの脱走兵襲撃した子達のデータにあった不明機――それなら!? まさか!?)

 

 

 

 ミリアリアの予感は、的中した。

 

 

 

 ゴォオゥッ!! 

 

 イージスは空高く舞い上がると、一瞬、爆発したかのような光を放って、加速した。

 ――アフターバーナーの類であることは、用意に想像がついた。

 

 

 変形したイージスは、ソニックブームを発しながら、トール達の”目”を振り切った。

 

 

 (――ッ!?)

 「ミリィ! イージスがっ!?」

 予想外の事態ではあった。 まさかイージスが、大気圏内で変形できるとは。

 

 (単機でこちらに向けて突貫!? ――どうするつもり?)

 ミリアリアは、急ぎ、イージスの方向へライフルを向ける。 数秒で、こちらのカメラにも把握できる距離に到着する模様だ。

 (バルテルミを撃破した火力があるなら、単機で基地を仕留められるというの!?)

 

 敵の狙いは、あのイージスの装備を使った電撃戦闘――こちらの想定する範囲外の新装備を以って、こちらの裏をかこうということであった。

 それならば……

 

 ――絶対いかせない!

 

 

 

 ガンッ!!

 

 ミリアリアのバスターは、近くの廃墟となった手ごろなビルの上に、ライフルの砲身部を乗せた。

 そのほうが射撃が安定する。

 

 「ミリィ! すまん! 観測した速度から、凡その接触時刻を算出する!」

 「OK! トール、頂戴!」

 

 トールのディンから、手に入っただけの情報を転送してもらう。

 

 

 ――ギリギリ間に合う範囲で、計算が終わる。

 

 ――既に何秒たったろうか。 後はカンと経験で補うしかない。

 ミリアリアはカウントを開始する。

 

 

 

  5――ミリアリアは、唇を舐めた。喉がカラカラに乾いている。

 

 

  4――ライフルの先、まだイージスの姿は見えない。

 

  3――角度はこれで良いのか、というイメージが一瞬脳裏をよぎるが、”コレで良い”というシナプスがそれを上書きする。

 

  2――トリガーに指をかける。

 

  1――無心。

 

 

  0! ――見えた!

 

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 ズビュウウウウウウ!!

 

 

 

 バスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルから、一直線に光が放たれる。

 

 それは限りない高速を以って、アスランのイージスに向かう。

 

 

 「チィイィ!?」

 

 ミリアリアには、イージスが光ったように見えた。

 (――やった!?)

 

 一瞬、仕留めたというイメージが脳を支配した、が。

  (木の葉……?)

 

 目に映ったのは、空をひらひらと舞い落ちる木の葉――ではなかった。

 それはイージスの機影。

 

 バスターの超高度収束ビームの余波に舞い上げられた、イージスの姿であった。

 イージスには、ビームは直撃しなかった。

 

 あまりに強いビームは、周囲の大気を灼熱のイオンに変える。

 それが、上空を舞うイージスを煽ったのであろう。

 

 イージスはその衝撃を消すため、あえてそのショックを機体全体で受け止めたのだ。

  

 (外した!?)

 

 ミリアリアの胸にガラスのトゲで突き刺したような痛みと、全身に冷たいものが走る。

 

 だが、彼女はその感触に耐えた。

 自然に操縦レバーが動いていた。

 

 

 

 バスターは連結したライフルを分解すると、直ぐに少し離れた物陰に隠れた。

 

 

 「!」

 

 息が苦しいと、ミリアリアは感じていた。

 呼吸が詰まりそうなほどの緊張。

 

 

 ――イージスは、バスターのライフルで受けた衝撃を和らげ、大きく上空を旋回した。

 

 (イージス!)

 

 

 ミリアリアはその挙動で、イージスが、自分の位置を察知したわけではないと感じた。

 (イメリア隊長のところへは――行かせない)

 

 もう、外さない。

 先ほどの狙撃で、ミリアリアは掴んでいた。

 イージスの”リズム”を。

 

 

 イージスは、大きくこちらを警戒して、旋回する。

 アークエンジェルのところへ戻るのか。

いや、まだこちらを探っている。

 (私を……探している?)

 と、ミリアリアは判断した。

 

 それならば……。

 

 ミリアリアとバスターは、再度銃口をイージスに合わせ始めた。

 

 

 

 (バスターちゃん……いくよ)

 

 

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 「――くっ! なんてパワーだ!」

 アスランは光線をギリギリで回避した、凄まじい緊張に、尿を少し漏らしていた。 

 無論、気にする余裕など無い。

 

 『アスラン! 無事か!』

 クルーゼの声が聞こえる。

 「はっ……い!」

 凄まじいGに意識を飛ばしそうになりながら、出来る限りの速度でアスランはイージスを旋回をさせる。

 

 『頼む! アスラン!』  

 

 クルーゼの必死の声が聞こえる。

 その声には、珍しく、熱がこもっている気がした。

 

 「――うぉおおおお!!」

 イージスは、再度、高度を落とし、敵基地方向へ加速する。

 

 

 

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 5。

 

 4。 

 

 3。

 

 2。

 

 1。 

 

 

 ――(撃つ)

 

 

 

 

 

 ズビュウウゥウウウウ!!

 

 バスターのライフルから、高出力のビームが真っ直ぐ発射され、イージスの予測コースへと――

 そう、最高速で、空に舞う、イージスをぴったり捉えるコースへ。

 

 

 

 「今だッ!」

 が、イージスは――。

 

 

 

 

 (え!?)

 ミリアリアには一瞬、何が起きたか分からなかった。

 

 ビームの予測コースに、イージスは居なかった。

 

 

 ただ、その少し手前で、先ほどと同じように――空中でバランスを崩して回転する――”人型”のイージスが。

 

 

 (人型!?)

 

 

 ミリアリアは察した。

 

 「変形したッ!?」

 

 変形したのだ。 こちらに撃たせやすい方向に飛んで。

 加速した状態からの強引な変形で、無理やり速度を変えて回避したのだ。

 

 

 ――と、いう事は。

 ミリアリアを、絶望が侵食する。

 

 

 「ミリィ!!」

 トールの声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 ズビュウウウ!! 

 ――廃墟を貫いて、ビーム砲が飛んできた。

 

 

 「ああっ!?」

 バスターの片腕に命中し、腕が吹き飛んだ。

 ビームが次々と自分に向かって放たれており、バックパックにも被弾した。

 

 しかし、こちらを狙っていたイージスは未だ眼前遥か遠く空を散っている。

 

 

 

 (――どこから! 支援戦闘機!?)

 

 自分を撃ったのは……戦闘機だった。

 アークエンジェルに搭載されていると報告のあった、スカイ・ディフェンサーであった。

 

 

 

 「堕ちろ!」

 クルーゼのスカイ・ディフェンサーは、小口径ビーム砲を乱射した。

 イージスを狙って放たれたビームの射角から、こちらの位置を把握したのだ。

 

 

 (煙幕は……イージス発進を援護するためではなく、あの戦闘機の発進を隠し、別方向から私の位置を探る為に……最初から、イージスは囮!?)

 

 バスターは、バランスを崩し、尻を付いて、仰向けに市街地に倒れた。

 

 スカイ・ディフェンサーはその市街地に向けて、ビームを乱射した。

 瓦礫が、バスターを覆い尽くしていく。

 

 「ハイドロ消失……! 駆動パルス低下! なんでぇ!? イメリア教官!!」

 

 バスターは、その動作を停止した。

 

 

 

 

 「ミリアリアァア!!」

 トールのディンが、雪原から姿を現し、空に舞う。

 雪の中に隠れるように息を潜めていたのだ。

 

 「逃すか!」

 それを発見した、カナード・パルスのジン・タンクが背面に背負ったレールガンを発射した。

 「!?」

 ディンの脚部が吹き飛んだ。

 「チッ! こんなおもちゃじゃな」

 レールガンの精度の悪さに、カナードは舌打ちした。

 

 トールのディンは、足を失っても構わず、ミリアリアの元へと飛んだ。

 

 

 

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 バイカル資源基地周辺、イメリア部隊。

 「ミリアリアが、やられた!?」

 バスターの大破が報告され、イメリアが思わず声を上げた。

 「チィ! だからあのような女などに! 迎撃準備かかれ!」

 シャムス・コーザが部下たちに指示をだす。

 

 イメリアの部隊はザウートを中心とした、砲戦主体の部隊になっていた。

 基地に接近する敵勢力を砲撃で打ち落とす、最後の手段であった。

 

 「ご心配なく! イメリア隊長! 俺がロアノークへの借りと、見逃していただいた分はお返しする!」

 「コーザ……”俺”はやめなさい」

 「アッ……”私”が、やってみせます!」

 「来るわよ」

 

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 「ミリアリアのバスターから戦闘不能のシグナル!?」

 北方の防衛ラインでも、キラ達の下に、バスター大破の報が届く。

 「ちっ、ミリィ……無事だと良いが、なんだか雲行きが怪しいな――ン?」

 

 ネオの、ジン・ハイマニューバの元へ、妙な反応があった。

 

 「おいおいおいおい! なんだこの数は! レーダー壊れてんじゃねえのか?」

 

 と、ネオの目には信じられないものが映った。

 ネオの近距離レーダーに、大型の熱反応が2つ。 そして、周囲に数十の”敵機”の反応が現れたのである。


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