機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 25 「AURORA」

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 『彼女との出会いはいつも驚きをくれる。

  特別、だったりするのだろうか?

  ――そんな文法、飛躍の限りである』

 

 

 

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 太陽電池の組み立てを、アスランは手伝っていた。

 効率太陽電池は、地球で今急スピードで普及が進んでいる発電設備であった。

 アークエンジェルにも同様の設備が搭載されている。

 

 元々は、スペースコロニー用に開発されたもので、スペースコロニーの運営に必要な大半の電力を賄っていた。

 無論、大気圏内では宇宙空間ほどの発電量は期待できないものの、ニュートロンジャマーで失われた発電施設の代替物として、十二分に期待できる物であった。

 エイプリルフール・クライシス以後の地球は、この太陽電池によってライフラインの甦生が目指されていた。

 地球環境に負荷を与えず、かつ十分な電力を供給できる効率太陽電池が今まで普及していなかった理由は、

 偏に、原子力発電の方がコストが少なく、旧来の利権によって稼いでいる人間があまりに多かったからだ。

 

 オーブ等は数年以上前からこの設備の実用化に成功し、現在は計画が中断しているものの、軌道エレーベーター”アメノミハシラ”建造計画などで、オーブ本国の電力供給を賄う目算まで立てていた。

 

 エイプリル・フールクライシスによって大規模なシェアが発生している現在、地球では”太陽電池長者”や”太陽電池成金”なる言葉も生まれていた。

 

 

 「オーブのNPOが安値で技術提供しているとは知っていたが……」

 「あのお嬢さんたちには助かっているよ」

 「――こんなシベリアの戦闘区域近くまで彼女たちだけで来たのか……」

 「……設置は我々で行うと郵便で返事をしておいたからな。 技術者がいらないから、最低限の人数で来たんだろう」

 

 どこか、引っかかる話ではあった。 こんなポリツェフから離れた集落に、あんな軍隊で使うようなトラックで少女たちだけで……。

 

 「アスランと言ったな、凄いもんじゃないか」

 キサカは、アスランの手際の良さと、知識の深さに感心した。

 「僕なんて荷物運びしか手伝えないのに」

 ニコルも同年代のアスランとの差に、複雑な心境のようである。

 「コーディネイターといえども、その歳でよく知ってる、我々以上だ。 そんな君が何故、軍隊など」

 「軍隊に入るつもりはありませんでしたよ。 それに、子供の頃から、こんな事ばかりしていましたから……」

 「さっき、成り行きで戦うことになったと言ったな」

 「――ええ」

 「そうか……私もだよ、ただ、祖国を守る為に戦いだした。 ”戦争が始まったから””求められたから”戦いだした」

 「えっ……?」

 「戦う理由が無ければ、戦ってはいけんのかもしれんな」 

 

 

 どこか、虚しげな目で、キサカは言った。

 

 

 ――アスランはその目を、どこかで見た気がした。

 

 

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 「モビルスーツ輸送用のトラックが一つも無いのか? ウチの部隊のモビルスーツが運べんでしょうが」

 補給部品の帳簿をつけながら、ネオが言った。

 「シャムス・コーザが3台使ってパトロールに行くと言っていましたが」

 年若い、まだ少年といえる兵士がそれに応える。

 「3台も使ってパトロールなんてありえんだろ?」

 「し、しかし……イメリア隊長が居ない今、シャムスさんがここを仕切ってますし」

 「ああもう、ザフトってのは!」

 

 ネオは頭を抱えた。 皆、個人レベルで優秀で組織としては厳格に機能しているが、変なところで学生然としている。

 ザフトを構成する人間の若さと、個人主義から生まれる風潮であった。

 

 (しかし、敵の作戦を警戒して、この基地の残存部隊は待機を命じられているはずだ……3台もモビルスーツを使って何をする気だ……?

  あんな、ナチュラルに横暴するような連中が……? よもや……)

 ネオは、なんとなく、嫌な予感がした。

 

 「見捨ておけんな、俺の持ってきた機体と――グゥルを一つ借りるぞ。 奴ら、どこへ行った?」

「北西の、集落に……」

 「――チッ、マリューの言ってた脱走兵の居るところか……!」

 予感が的中したのを感じると、ネオは急いで出発の準備を始めた。 

 

 

 

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 集落の近く、Nジャマーによる電波妨害を最大値にして、スティング達が潜伏していた。

 双眼鏡を覗いたアウルが、集落の様子を見て言った。

 「見ろよ! スティング! 連合の左官クラスだ! ソレから――」

 「太陽電池か、それに見た事ないタイプの戦闘機――なんだ、アレは、ビーム砲を積んでいるのか?」

  スティングも、その様子を見て言った。

 「それは見過ごせんな、確定だ! 裏切り者を抹殺してあの新型戦闘機を捕獲する!」

 シャムスが笑った。

 無論、そんな単純な話ではないだろうことは、シャムスも理解していた。

 だが、脱走兵については、コーディネイターのアイデンティティというデリケートな問題を孕んでいたからか、彼らがずっと放置されてきたことを、

 遺伝子至上主義者であるシャムスは非常に不満に思っていた。

 それを撃つ口実ができただけで、充分であったのだ。

 

 トレーラーからジン三機が立ち上がる。

 いずれも、それぞれのパーソナル・カラーにペイントされていて、調整された専用機であった。

 手にライフルやバズーカを構えて、集落に向かって歩き出す。

 まるで要塞を攻め落とさんばかりの重装備だ。

 

 「ハッハッー! 全部焼き尽くしてやろうぜ!」

 アウルが声を上げて笑った。

 

 「脱走兵たちは軍の備品も色々持ち出しているらしいからな――だが、これなら思う存分目標を破砕できる!」

 シャムスが口元をゆがめた。 まるでゲーム感覚なのだ。 

 

 

 

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 「キサカ! ジンだ!」

 作業を行っていたキサカらの下に、バリーが来て叫んだ。

 「何!? ……何故今頃か」

 「派手に彩色されている上に、使った感じが無い……アレは恐らく、アカデミー出の新兵だろう」

 「……イメリアを抑えておきながら、ラミアスに新兵が抑えられんとはな」

 キサカは、急いでジンの向かってくる方向へ走った。

 

 

 

 「ザフトが!?」

 アスランとニコルもまた、イージスの方へ向かおうとする。

 だが――

 「待て、君たちのあの戦闘機があるから、ザフトが来たのかもしれん」

 「えっ?」

 「機体は絶対に動かすな、先ずは――村長が行ってくれる」

 

 

 

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 集落から数キロは離れたところに、彼らはいた。

 

 20m程のもある巨体を前にする恐怖は如何ほどのものであろうか。

 

 だが、村長は動じなかった。

 この極寒の地を転々としていた民族の末裔である。

 

 ――生きるに辛い土地である上に、西と南に強大な大国があり、祖先たちもそれなりに苦労しただろう。

 その想いがあるがゆえであった。

 

 バリーが傍らに立ち、村長がジンを見上げながら言う。

 「――私があの村の村長だ。 突然のモビルスーツで来られては恫喝に思える。ここはポリツェフ同様戦闘区域外と――」

 

 ジンの集音指向マイクが拾っている筈だ。

 老人は物言わぬ巨人に対して語り続ける、だが――

 

 

 「!?」

 

 バシュウウッ!!

 一体のジンが放ったバズーカの弾丸が村長の後方へ飛んでいった。

 

 「何!?」

 ズドオオオン!!

 

 集落の一部が爆音を上げて吹き飛んだ。

 シャムス・コーザが撃ったのだ。

 「ちょっとぉ、先輩! そりゃいくらなんでも」

 「構うものか! こんなゴミどもに! ――話す事なんて無い! 行くぜ!」

 「フッ、違いない」

 ジン、三機が飛んだ。

 

 ブォオウウ!

 「ひ、ひゃああ!」

 ジンのバーニアが巻き起こす凄まじい熱風に、村長の体が木の葉のように舞った。

 バリーが、急いでその体を抱えた。

 

 

 

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 村はパニックに包まれていた。

 「――ラクス様! こちらへ!」

 ミーア――ラクスの側近の少女たちが咄嗟に彼女を守った。

 (――積荷は無事ですの?)

 (はい、既に安全な場所へ! ラクス様も避難を!)

 

 

 

 「アスラン! 撃ってきましたよ!?」

 「チッ!」

 コクピットに乗り込んでいたアスラン達は、イージスを発進させた。

 「待て、少年! ――ええい、仕方あるまいか!」

 

 キサカは、村のハズレにある大きな倉庫の様な建物へと向かった。

 

 「なにぃ!? ジンだと? ……ま、また私は巻き込まれたのか……やっぱりあいつ等は疫病神だ!!」

 途中、慌てふためくモラシムをキサカが見つけた。

 「――この先の倉庫の離れに、地下室がある、そこ隠れていろ……この村の中で一番安全だろう。出来るだけ仲間を連れて避難してくれ」

 「な、何!?」

 「ユーラシアへの協力も考えるから、早く!」

 「あ! わ、分かった!」

 

 

 

 

 「スティング、戦闘機が飛んだぞ!」

 「――行けるな? アウル、そっちは任せた――こっちは太陽電池を破壊する!」

 

 スティングはブースタを吹かすのを止めると、集落へ降り立った。

 

 ドォオオオン!! 

 数十トンはある巨体が降り立っただけで、集落を凄まじい振動が襲った。

 古い建物などはそれだけで倒壊した。

 

 カン!! カン!!

 

 

 「――ああん?」

 コクピットに伝わってくる僅かな振動を感じて、スティングは地面へとジンのカメラを向けた。

 

 ザフトの緑のノーマル・スーツを着たものが数名いた。

 手に小銃や拳銃を持って、ジンの頭部を狙って狙撃をしている。 

 恐らく、基地を脱走するときに持ち出した装備を自衛に使っているのだろう。

 「チッ、軍を抜け出して、武装して……無様な」

 スティングはその様子を忌々しげに舌打ちすると、ライフルをその方向に向けた。

 

 ――が。

 「――クソッ、モビルスーツなら撃てるんだがな」

 生身の人間をジンのライフルで撃っては寝覚めが悪い。

 スティングはジンの足を振り上げ、思い切り、

 ドォン! 

 と地面に足をついた。

 

 

 「うわぁああ!」

 無様に、転び、地に伏せる元ザフトの隊員たち。

 「フン、コーディネイターの誇りを無くした、貴様らには地べたがお似合いだ」

 

 

 

 

 

 「――アスラン! ジンが!」

 「分かった!」

 

 アスランは高度を取ると、旋回して、機首に備え付けられたビーム・ライフルを放った。

 「うわっ!?」

 アウルがソレを回避する。

 「地上でもあんな精度のビームが撃てるのかよ! 聞いてない!」

 その上、ジンの滞空性能など、たかが、知れている。

 「こうなったら……」

 アウルもまた、スティングと同じく、集落へと降り立った。

 

 「あいつ等! 村を盾にして!」

 「卑怯だぞ!」

 アスランとニコルが叫んだ。

 「はは! なんだ? 撃ってこないの? ――そうだよねぇ! ごめんねぇー! 賢くってさあー!」

 アウルのジンは、地上に降り立ち、アスランを狙い撃った。

 

 

 

 ――と。

 

 ガキィイイン!!

 「な、なにぃ!?」

 アウルのジンが、突如吹っ飛ばされた。

 

 「ジン……だと!?」

 太陽電池の破壊を行っていたスティングも、そちらに反応した。

 

 そこにいたのは、ジンだった。

 

 しかし、新品同様のアウルたちの機体とは違い、あちこちの装甲が被弾して、はがれていた。

 肩のショルダー・アーマーも左側が破損している。

 ジンの大きな特徴でもある、頭部の大きな鶏冠――アンテナユニットも無くなっていている。

 背中のウイング・スラスターも壊れてしまったのだろうか、腰のジャンプノズルを除いて全て外されてしまっていた。

 そして、武器らしい武器もまるで持っていない。

 

 「なんだよこの半分壊れたようなジンは!」

 「フン、こいつも脱走兵たちの装備だろう!」

 あまりにも粗末なジンの登場に、アウルたちは寧ろ戸惑った。

 あんなもので、エリート兵である自分たちに立ち向かうのか――と。

 

 

 すると

 『何故こんなことをする――ザフトの司令部の意向か?』

 全周波の通信が流された。

 「あのジンに乗っているのは……キサカさん?」

 集落の上空を旋回するアスランとニコルにもその通信は届いた。

 『ハッ! ボクたちはあんたらみたいなナチュラルレベルまで堕ちたゴミムシどもを処刑に来たんだよ!』

 『粛清というヤツだ』

 それに、アウルとスティングも放送で返す。

 「そんなのって――酷い」

 ニコルが絶句している。

 『――アウル! スティング、そんなポンコツさっさと始末しろ! 俺はあの戦闘機をやる!』   

 シャムスは鼻で笑って言うと、バズーカとライフルを抱えてジンをジャンプさせた。

 

 

 

 

 「声が若い――やはり新兵か――戦争に浮かされているだけか――話を聞かないというのなら!」

 キサカは、ジンを走らせた。

 

 「来る!?」

 「武器もなしに!」

 アウルが、ライフルを構える。

 「小僧ども! モビルスーツの格闘戦を教えてやる!」

 キサカのジンは腰を落とし、少ないバーニアを一気に加速させた。

 

 「うわっ!?」

 思ったよりも、速い――とアウルは思った。

 武器も、滑空用の大型スラスターも、身に纏う装甲すらも減っているキサカのジンは、単純な運動なら、アウルたちのジンよりも早かった。

 なぜなら、”軽い”からだ。

 

 対してアウルたちのジンはもてるだけの火力や装備を積んでしまっており、小回りに関しては寧ろ悪くなってしまっていた。

 

 「わ、わあっー!!」

 アウルのジンは、タックルを受けて、村の外れに吹き飛ばされた。

 「アウルっ!?」

 スティングが予想外の展開に面食らう、と、キサカのジンはボクシングのような構えを取った。

 そして、スティングのジンの顔面にパンチを放った。

 

 ガン! ガガガン! ガッ!

 ワン・ツーのリズムで、タイミングよくパンチが命中する。

 

 「ちっ! そんなもんで ――っ!? カメラが潰れた?」

 と、突然、スティングのコクピットのモニター表示の大部分が消えた。

 頭部とモノアイに装着されたメインカメラが、殴られた事により壊れたのだ。

 

 「ええい!」

 スティングはバーニアを噴かせて、機体をジャンプさせ、一旦ジンを引かせた。

 

 

 

 ――!

 キサカは間隙を与えず、今度は吹き飛ばされて、倒れているアウルのジンに馬乗りになってマウントポジションを取った。

 

 

 ガン!ガン! ガン!ガン!

 

 

 何度も、何度も、アウルのジンの顔面にキサカのジンのパンチが命中する。

 

 「くそ! なんだよ! これは! くそっー! こんなのってないだろう!」

 やがて、アウルのジンはレーダーとカメラとコンピューターを潰され、動きを止める。

 

 

 「これで一機良し! ――アスラン! 大丈夫か!?」

 「キサカさん!? 村があるので、撃てなくて!」  

 「――もう一つ、後方に引いたジンがいる!」

 「……少しは村から離れてますけど、あんな重装備! ビームが命中したら村ごと吹き飛びますよ!」

 「大丈夫だ――あの辺りは夏には大きな湖になっている」

 「え――?」

 「ヤツの周囲を何箇所かビームで撃ってくれ!」

 

 

 

 「くそ……まさかカメラがやられるなんてな――だがサブカメラもレーダーも生きてる、こっちにはまだ武装だってある――」

 ……卑怯だが、集落を巻き込まないために、この装備の自分を撃たないであろうという確信が、スティング側にもあった。

 

 ――スティングが、呼吸を置いて態勢を整えようとした矢先。

 

 「機体反応!? あのポンコツか!?」

 スティングの目の前に、キサカのジンが現れる、そして――背中から羽交い絞めにされる。

 「借りるぞ――」

 と、キサカのジンは、スティングのジンの腰に備え付けられた、重斬刀を手に取った。

 そして――

 

 ズバアア!!

 

 「な!? 何をした!」

 自分のジンが、斬られた――と思った次の瞬間。

 

 「撃て! アスラン!」

 

 ズビュウウ!!

  

 アスランのイージスが、スティングのジンの周囲にビームを放った。

 

 バァアアアアアアアア!!

 

 凄まじい爆発のような蒸気が発生した。

 

 キサカのジンは、スティングの機体を離すと、すぐさまそこから退避した。

 「な!? なんだ!!」

 スティングは何が起こったかわからず、狼狽していると。

 「ぐわぁッ!?」

 突然――ジンが”落ちた”。

 

 

 

 

 「水――!? 凍っていたのか!?」

 スティングのジンが居た地面は、”割れて”、その下から黒く深い、水源が現れた。

 ――シベリアの凄まじい冷気は、数分で水を凍らせる。

 そしてその冷気は、湖自体を凍らせてしまう――数十トンの重みをものともしない氷に――。

 

 だが、ビーム兵器ならば、それを溶かしてしまうこともできるのであった。

 

 「クソッ! メインブースターがイカれてやがる! 沈んでいく――浸水だと……バカなっ!?」

 スティングのジンは損傷によって湖の中に徐々に沈んでいく――。 

 『改暦時の国家再構築戦争で出来た大穴だ――深さ30メートルはあるぞ』

 「……クソォッ!」

 スティングのいるコクピットの中にアラートが響く。

 スティングは止むをえず、脱出レバーを引いた。

 ジンが完全に沈んでしまう直前、コクピットブロックが射出された。

 

 

 

 

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 「これで――残り一体か」

 3機の内、2機のジンまで撃破したキサカであったが、

 『そこまでだ!』

 「……?」

 キサカがジンのカメラを向けると、そこにはバズーカとライフルを構えるジンが――シャムスの機体であった。

 

 

 『調子に乗るなよ! 同胞を裏切った上にこのような所業!  プラントとザフトに対する明確な叛逆行為だ!』

 「……よせ、こんなことをしてナンになる」

 『なんになるだと!? 地球軍が、バカな古いナチュラルがプラントに核を撃ったんだぞ! 未来を創る我々を――なのに何故お前らはコーディネイターの誇りを捨てて!』

 「……誇りとはなんだ?」

 『なにィ? 話にならんな? 思考力までナチュラルレベルに落ちたか? ――コクピットから出ろ、さもなければ、この集落を皆殺しにする』

 (そのつもりだろう……もとより――どうする?)

 『早くしろォ!』

 『ダメだ! キサカさん!』

 

 キサカは、シャムスのジンを見る。 今にもバズーカを放とうとしている。

 (ク……)

 キサカは、ハッチを開けた……。

 

 『いい心がけだ。 ザフトの誇りが少しは残っていたかな? ――じゃあ死ね!』

 (――!)

 キサカのジンに向けて、シャムスがバズーカを向ける。

 

 

 

 

 

 ――そこへ、

 

 

 「やめろぉおおおお!」

 上空を旋回していたアスランのイージスが急降下キサカとシャムスのやり取りにたまらず、急降下した。

 「あ、アスラン!」

 ニコルが恐怖とGに悲鳴を上げる。

 「ニコル! フェイズシフトならッ耐えられる! 舌を噛まない様に歯を食いしばれ!」

 アスランはギリギリまで高度を下げて、キサカとシャムスの間に躍り出た。

 「ぬ!! ぬあああ!」

 突然降りてきた戦闘機にシャムスは発砲した。

 ドオォオオオン!!

 

 イージスが、キサカの盾になった。

 その機体名の如く、である。

 「ぐぅうううう!」

 「うわあああああ」

 砲弾が命中し、イージスは、そのまま地表に不時着した。

 

 

 「少年――無茶を! だがっ!」

 キサカのジンは、この隙に、シャムスのジンに迫った。

 しかし、

 「このやろおぉお!!」

 「さっきのジンの内一機! まだ動けたか!?」

 アウルのジンが、立ち上がり、キサカのジンを羽交い絞めにした。

 

 「……ハ、ハハッ! よくやったアウル! 今度こそ終わりだな!」

 シャムスが、ジンにサーベルを握らせた。

 「ゆっくり処刑してやる」

 

 

 「ぐぅ……!」

 動けないキサカのジンに、シャムスが迫る。

 「抑えてろ、アウル! ちょっとコクピットだけ潰すだけだ! 直ぐ終わるぜ!」

 

 (今度こそ――打つ手なしか……)

 絶体絶命……キサカの脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

 

 

 

 

だが――。

 

 

 ピー!

 

 突然、コクピットのレーダーが、接近する物体の反応を告げた。

 「!?」

 ソレは、アウルと、シャムスの機体にもあった。

 

 「――モビルスーツの反応!? 友軍機!?」

 「で、でもこんなスピードで……」

 「識別信号確認……ジ、ジン・ハイマニューバ! 地上でか!?」

 「お、おい――それって――」

 

 

 シャムスが反応があった方向を見た。

 ――その方向には遠方でグゥルが浮かんでいるだけだった。

 その背には何の機体も乗せず。

 

 いや、そんな筈は無い、乗っていた機体はどこへ行ったのか――。

 シャムスはそう考えた。

 

 

 

 ――上だった。

 

 

 

 「!?」

 「ぬおおおおおおおお!!」

 

 ネオ・ロアノークの白いジン・ハイマニューバがサーベルを片手に降りてきた。

 

 ブゥウウン! 

 

 着地する瞬間に、サーベルが振り下ろされる。

 

 ガァアアン!

 と金属同士のぶつかる音がして、シャムスのサーベルが地面に叩き落された。

 

 

 

 『やめろ! 貴様らはザフト兵なのだろうが!!』

 白いジンから、声が響く。

 「この声、ネオ・ロアノークか!?」

 「シャ、シャムス先輩!」

 アウルがうろたえる。

 「クッ……な、何故邪魔をする! こいつらはザフトの脱走兵なのだぞ! 誇りを捨ててナチュラルになろうとしているんだぞ!!」

 が、シャムスは引かず、ネオの通信にそう返した。

 

 『コレはただの暴虐だ! 貴様らこそ、ザフトの誇りを知らんのか! 恥を知れ!!』

 「は、恥を知れだとぉおおお……!!」 

 シャムスは激昂した。

 「だとしても! ネオ・ロアノォオオク!! アンタは格好よすぎるんだよぉお!!」

 今度はジンにライフルを握らせ、ネオに照準を合わせる――。

 

 「こんの……バカチンがぁああああああああ!!!」

 ネオが吠えて、彼のジンが”飛んだ”。

 「速ッ!?」

 凄まじい速度で、真上へジャンプする――そして、高度を取ると上空で、今度は下方にバーニアを噴かし、加速する!! 

 

 

 ズアガアアアアァアッ!

 

 

 「のわあああぁ!」

 ――ネオのジンの飛び蹴りが、シャムスの機体の頭部を捉えていた。

 

 あまりの衝撃に頭部が吹っ飛び、シャムスの機体はそのまま倒れた。 

  

 

 

 「せ、先輩!! ネ、ネオ!! や、やったな!!」

 『やめろ! アウル!! ……自分が何をやったか見てみろ!』

 キサカのジンを捕まえていたアウルの元に、ネオの声が響く。

 

 「え……?」

 アウルはその声に、ふと冷静になり、生きているモニターから辺りを伺った。

 ――殆どのモニターが潰れているので、良く様子がわからない。

 『ハッチを開けて、自分の目で良く見てみるんだ』

 「あっ……!?」

 今度は別の声――その声が、自分が押さえつけているジンのパイロットのものだとアウルは気づいた。

 接触回線でキサカの声が聞こえてきたのだ。

 

 アウルは、言われるままにハッチを開けた。

 

 

 

 

 

 「ああっ……!?」

 

 

 

 

 

 そこには、モビルスーツによって、滅茶苦茶にされた――『生活』が、ただ広がっていた。

 

 壊れた家、かまど、庭。

 車――そして――

 

 「!?」

 

 そして――自分の機体の足元にあるものに、アウルは気が付いた。

 「人……?」

 モビルスーツに踏み潰されて、ぐちゃぐちゃになった人の肉だった。

 

 「ぼ、ぼくがっ……?」

 ――アウルの体から力が抜けていった。

 

 

 

 

 

 「……うぅ」

 ヘルメットのバイザーを開けたスティングを襲ったのは猛烈な吐き気だった。

 嫌なものが、焼ける匂い……。

 生身の戦場を知らなかったスティングは、その日穢れを知った。

 自分の身に染み付いた、猛烈な穢れを。

 

 「貴様――!!」

 嘔吐したスティングの目前に男がいた。

 キサカの同胞である、バリーだった。

 バリーは力任せに、スティングの腹を殴った。

 「ぐぁあッ……」

 

 そして更に……とバリーは思ったが、すんでのところで堪えた。

 殺してやりたかった。

 だが……この少年たちも、結局は以前の自分たちと同じなのだと、バリーは知っていた。

 

 「くそぉおお!!」

 バリーは絶叫した。

 それ以上スティングを殴らなかった。

 

 

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 「――あの白い機体、ザフトのモビルスーツなんでしょうか」

 「ジン・ハイマニューバか?」

 不時着で一時行動不能になっていたアスランたちのイージスだったが、ようやく再起動を終えていた。

 

 『すまない――こいつらは基地につれて帰って処分させる――あんたらの処遇は聞いてない。 殺してやりたいだろうが――身柄を貰っていいか?』

 と無線から、相手のパイロットの声が聞こえた。

 『頼む……早くしてくれ、今にも、殺ってしまいたい』

 キサカのジンがそれに応答した。

 

  

 ネオのジンは、三人の少年を回収すると、村から離れていった。

 

 「ラクス様……アレは」

 「志のある兵のようですわね」

 グゥルに乗り、空に消えていく兵士を見た。

 「でも、太陽電池は滅茶苦茶ね」

 「――もう一つの積荷は?」

 「それは……どうやら無事のようです」

 「予想外の出来事でしたが、貴女たちも、荷物も無事なら、良しといたしましょう」 

 ラクスはそういって微笑んだ。

 

 

 

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 「死んだのは2名だけだが、村はめちゃくちゃだな……どうする? またザフトは来るかもしれんぞ?」

 モラシムが、遺体の処置を行うキサカに言った。

 「――我々は戦争に参加しない」

 「まだ、そんな事を……ユーラシアは君たちに手出しをしない。 その意味を考えるんだな?」

 モラシムは、ホバートラックに乗り込んだ。

 「疫病神め……シベリアに降りて来たのは知っていたが……やれやれ」

 

 こちらを先ほどからずっと睨んでいる、バリーやアスランを一瞥すると、モラシムはトラックを出した。

 

 

 

 

 

 『――ラン! アスラン! 無事か! ずっと連絡が無かったぞ!?』

 イージスの無線機に、クルーゼからの連絡が届いた。

 Nジャマーの影響下で無線が届くということは近くまで探しに来ているということである

 「申し訳ありません。 クルーゼ大尉、ニコルも機体も無事です。 それが、色々ありまして――」

 『ン……? 妙な気配を感じた気がしてな――直ぐ戻れるか?』

 「いえ、あとで報告いたしますので――今しばらく、よろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 日は既に落ち、辺りは、すっかり夜を迎えていた。

 

 集落から、西へ進んだところに、不思議な地形がある。

 ”シベリアの蝶”と呼ばれる、奇妙な野原があるのだ。

 

 「この場所――旧暦の頃、謎の大爆発があったそうですよ……月夜の晩、蝶が瞬いたとか」

  ニコルが、アスランに言った。

 

 旧歴の時代、ここで謎の大爆発が起きて――隕石の落下とされているが――それ以来、ここには幻想的な蝶の形をした開いた土地が残った。

 

 蝶の土地は、本格的な宇宙開発が始まって以来、神聖な場所とされていた。

 天から来たものが天に帰る――神秘的な魂の回帰を示す伝承は世界中にいくらでもあった。

 その伝承を想起させる何かが、この土地にあったからである。

 

 

 プラントに生まれた脱走兵たちを弔うのに、これ以上の場所は無かった。

 アスランたちもまた、彼らの見送りに参加していた。

 

 

 

 「――キサカ」

 「いつかはあるかも知れないと思っていたことだ」

 「業、かな?」

 バリーとキサカは、埋められた仲間達に祈りを捧げた。

 宗教の無いプラントにおいて、葬儀は”魂が星に帰る”と文句を捧げた後、黙祷を捧げる。

 

 だが――。

 「地球の土になった仲間達に――」

 キサカはそう言って、黙祷を捧げた。

 地面の中、彼らは、このシベリアの土と一体化していくのだ。

 夜になれば、星が覗けるこの地で――。

 

 

 

 

 

 「ああっ……!」

 ニコルが天を仰いだ。

 

 緑の光が、天にカーテンを引いていた。

 オーロラだった。

 

 

 「すごい……! ねえ、アスラン……地球っていいところなんですね」

 「ああ……!」

 アスランも声を震わせた。

 ニコルも、生まれは地球だが、ずっとコロニーで育っていた。

 地球という星の息吹を、今改めて感じたのだろう。

 

 

 

 

 

 「大義を信じていた――今でも、ザフトが間違っているとは思わない」

 キサカが、夜空を見上げるアスランに言った。

 「……?」

 「それで私は、このシベリアの地を、さっきの少年兵達のように蹂躙し、Nジャマーを打ち込んだ」

 「えっ……」

 「それが何を生むか考えてしまった――そして知った。何も、考えてなど居なかった自分を」

 「でも、貴方は――」

 「変わらんさ。 そして、今もジンを捨てていない。 あの村も、私たちの居場所ではないということだ」

 

 キサカも、アスランと共に、オーロラを見上げた。

 星は何も教えてくれなかった。

 

 アスランはふと、その目が誰に似ているのか、やっと理解していた。

 

 ――レイ・ユウキ提督だった。

 

 

 そして――何故か父にも似ていると感じていた。

 

 

 

 

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 「……キサカか、久しぶりだな」

 「アスハ議長……」 

 アスランたちが去った後、キサカはラクスたちの”本命”の荷物を受け取っていた。

 

 ――高性能の通信機である。

 オーブの軌道エレーベーターや、プラントの衛星を経由して、プラント側と連絡を取る事が出来るものだった。

 

 

 「ジェネシス衛星をハックしている都合上、時間はあまりとれん――用件は――」 

 

 ウズミ・ナラ・アスハはキサカに話し始めた。

 


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