機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 24 「レドニル・キサカの森」

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  「ディアッカが残念な事になったが、

  あんな時間が持てたことに感慨がある。

  でも、歌はダメだ。 それはやっぱりダメだろう」

 

 

 

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 「何度言われても我々は、地球軍に参加するつもりは無い」

 「――だが、亡命は認めろと?」

 「……」

 

 暖炉が燃える民家で、浅黒い肌をした男と――地球連合の軍服を着た男が話している。

 

 「明後日また来る……よく考えてくれたまえ、何も諸君らに我らの代わりに戦えと言っているのではない、君らにとっても有益な話だ……では、な」

 

 軍帽を被りなおし、家を後にしようとする。

 

 「……村長か?」

 厚手のコートを羽織り、ホバートラックに載ろうとする軍人を、この村の村長が止める。

 

 「彼らをそっとしておいてくれんのかね?」

 「コーディネイターだぞ?」

 「電気が通らなくなって、学校も病院も無い。 こんな処に残れた者は極僅かだ。 ――だが、彼らはここでの生活を望んでいる。 ここの住人になりたいというものもおる」

 「何を、そもそも、そうしたのは誰だ? コーディネイター達だろう?」

 「……旧暦の頃から我が物顔で土地を歩く、我がユーラシア連邦も変わらんと思うがね? 忘れたとは言わせないよ。ドームポリス計画の為に、住む土地を先祖がえりさせられたのをねぇ?」

 「……ナンとでも言ってくれ、また来させてもらうぞ」

 

 

 ホバートラックは近くの駐屯地まで走る。

 

 基地が近くになるにつれて、徐々に電波が通じるようになり、基地と通信が出来るようになった。

 

 『――少佐自らの勧誘如何でしたか?』

 「流石に話は聞いてくれたよ。 まあ、奴らとて、追われる身だ。 時間の問題だ――我らと同じく、手段は選べまい」

 

 

 マルコ・モラシム。

 元アルテミスの司令官――現在は基地陥落の責任を取らされ、降格。 

 ここシベリアで一部隊の指揮と――敵からの逃亡兵の勧誘に当たっていた。

 

 

 

 

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 「モビルスーツを持ち出そうとするときに限って客かよ」

 「だが、アレ、紫電(ライトニング)だぜ?」

 スティングとアウルが、モビルスーツ格納庫の、コンテナの陰に身を隠している。

 

 先日シャムス・コーザから聞いた作戦を行うために、機体を持ち出す準備をしにきたのだ。

 丁度そこに、ロアノーク隊の面々と、彼らのモビルスーツが搬入されてきた。

 「――あれか、連合のGって奴は?」

 「ハッ、スペックは凄いって聞いたけど、ナチュラルが作ったものでしょ?」

 「だな、でアッチは……あの紫電(ライトニング)の機体か?」

 

 搬入されたモビルスーツは三体。 サイとミリアリアの機体になっているデュエルと、バスター。

 そして、もう一体。

 スティング達が視線を移した先には、大型のブースタを装備されたジンがあった。

 しかし、それは本来宇宙戦用に強化されたジン・ハイマニューバであった。

 なぜそれが、こんな地上の基地にあるのか――。

 「アレって空間戦闘用の高機動タイプのジンじゃ?」

 「よく見ろアウル、大気圏内用にカスタムされてる」

 そこにあったものは機体各部に地上戦用のジンの装備が取り付けられており、外観も通常の機体と差異があった。

 カラーリングは本来グリーンだが、その機体は全身が白く塗られている。 

 またアンテナの集合体である鶏冠は真赤にペイントされている。 

 そして、何より一番の違いは、機体の目に当たるメインカメラが、ジンで使用されているモノアイではなく、連合の奪取した機体で使われているデュアル・アイ・カメラであることだろう。

 ――特徴的なカラーリング等から、スティング達は恐らくそれが元々テスト機であったことを察した。

 

 

 「先日までやっていたZGMF-Xシリーズのテストで使っていた試作機の一つだ」

 ネオは整備されている白いジンに目を向けて言った。

 「モビルスーツ同士の格闘戦に耐えうる分厚い装甲を持たせて、重くなった分は大型ブースタで無理やり飛ばす……無茶な機体だな」

 「悔しいけど、今のザフトに、イージスに対抗できる機体、まだ無いもの」

 サイとミリアリアも、ネオに倣ってその機体を見上げながら言った。

 

 「――?」

 「どうかしました? 隊長」

 突然後ろを振り返ったネオに、ミリアリアが言った。

 「いや、何、見られている気がしたんでね? 俺のファンかなぁ?」

 「ハァ?」

 

 この上官は突飛な事を言い出すことが多い。

 以前副長をしていたナタル・バジルールがよく首を傾げていたのを、ミリアリアは思い出していた。

 

 

 

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 「ン?」

 基地の中を歩いている途中、ネオは不穏な空気を察して、その方向へ足を向けた。

 

 そこは独房だった。

 「吐けよ! オラ!」

 ――中では、シャムス・コーザやスティング、アウル・ニーダが、連合軍の捕虜に手ひどい拷問を行っていた。

 「――何をしているか、貴様らッ!」

 独房の中に押し入り、シャムスの腕をとるネオ。

 「なんだ? ……ネオ・ロアノーク隊長殿か」

 「捕虜への拷問は月面条約で禁止されているだろうが!」

 「”敵国の人間”へはな、コイツラは人間じゃない猿だ」

 シャムスが嘲るように言った。

 「猿だと? ……何を言っている!」

 「バカで役立たずなナチュラルなんて、古い種類でしょう!」

 「違う! 人間だ!」

 スティングのあまりの言い振りに、ネオは叫んだ。

 

 「――越権行為も甚だしいな。 俺はイメリア隊長からここを任されている! なんと言われようと俺は徹底的にやらせてもらう」

 ネオの手を振り払って、出て行けとシャムスは言った。

 

 「そうやってナチュラルを見下し続けるから……分かり合えないんだろうが!」

 「ハッ、こいつらと何を分かり合って? 人類の未来はコーディネイターが導くんだ! コイツらもう不要だろ」

 アウルが嘲るように言った。

 「貴様らッ!!」

 

 ネオは少年たちを尚も睨んだ。

 その剣幕に、少年たちも少し怯んだのか、捕虜を殴る手を止めた。

 

 「チッ……興がそれましたな。 この事はイメリア隊長に報告させていただく!」

 

 ――シャムスは汗でずれた伊達眼鏡の位置を直すと、アウルやスティングを連れて独房から出て行った。

 

 「――おい、あんた大丈夫か?」

 ネオは連合軍の捕虜に駆け寄った。

 (以前から差別的な所はあったが……イメリアの奴があんな振る舞いを許しているのというのか? コーディネイターは理性的な筈じゃ)

 

 戦争という狂気が、コーディネイターをも変えていってしまっているのか? 

 (コーディネイターが導くのではない――共に調整して未来を創る――だから俺は――)

 

 ネオは、言いようの無い嫌悪感を胸に抱いて、マスクに隠された顔をゆがめた。

 

 

 

 

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 翌日。

 

 「上手くモビルスーツを持ち出せたな」

 「――ハハッ、イメリア隊長が留守で助かったぜ」

 「だけどさー、始末書じゃすまないぜ?これ、しくじったら」

 

 シャムスとスティングとアウル、三名の赤服のモビルスーツが、

 大型トレーラーに積み込まれる。

 

 一団は基地から離れた件の集落へと向かう。

 

 「――捕虜が吐いた。 地球連合は脱走兵たちを懐柔しようとしているようだ。 佐官クラスの人間が、あの集落に毎日のように通っているらしい。

  もし、脱走兵達が、その話に乗ろうものなら……」

 シャムスがハンドルを握って、脱走兵たちの居る集落へと車を出す。

 「いいね! 村ごとドン! だ!」

 シャムスの思惑に、アウルは無邪気に笑った。

 自分達の行う事の意味を、文字でしか理解していないのだ。

 

 

 

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 アーク・エンジェルは、バイカル資源基地への攻撃に向けて、ポリツェフを発ち、現在は針葉樹林の中で、ユーラシア連邦軍の増援との合流を待っていた。

 

 その間、敵からの攻撃を警戒し、クルーゼとアスランに偵察任務が下されることになった。

 

 

 「最近、この辺りで未確認機の報告があったらしい、何か異常があれば直ぐに連絡してくれ」

 バルトフェルドが、無線でコクピットの中に居るアスランたちに連絡した。

 

 『了解した。 スカイ・ディフェンサー出るぞ』

 『アスラン・ザラ、了解しました。 イージス、A型装備スタンバイします!』

 

 アークエンジェルのカタパルトから、クルーゼのスカイ・ディフェンサーが発進され、アスランの乗る――大型の飛行機のようなものが発射口にスタンバイした。

 

 それはイージスのモビル・アーマー形態であったが、一部形状が変わっていた。

 まず、翼の様な大型のウイング・スラスターがつけられている。

 さらには、空気抵抗を軽減するため、シールドが、ジェット機の機首のように、装着されていた。

 イージスが大気圏内でもモビル・アーマー形態に変形できるように考案された”イージス・プラス計画”のA型装備であった。

 

 また、今回は偵察任務の為、レーダーの強化が行えるC型装備のパーツも付加されていた。

 

 そのため、流石のアスランも操作が追いつかず――

 「へぇー、イージスの中って、改めてみると凄いですね?」

 と、シートに座るアスランに話しかけて来た者があった。

 シートの後部にセットされた、非常用副座に座っていたニコルだった。

 「苦しかったら言ってくれニコル」

 「大丈夫です、ある程度のGなら耐えられます」

 現在、ニコルは、アークエンジェルのコ・パイロットを勤めている。

 と、いうのも彼はヘリオポリスのカレッジで、プライベート・エア・プレーンと、スペース・クルザー級のライセンスを取得していた。

 そのため、ニコルは、今回アスランの補助の為にイージスに同乗する事になったのだ。

 

 慣れない航空機仕様のモビル・アーマーの操縦であるのと、偵察任務であるため、各種計器のチェックに目を光らせなければならなかった。

 と、なれば、流石のアスランにも困難な任務となる。 もう一人、乗員を増やすのが単純かつ有効な手段であった。

 

 

 『アスラン、今回は調整が間に合わない上に、C型装備も付いているからモビルスーツ形態には戻れん! 敵に見つかったらムリせず帰って来いよ?』 

 「……ああ、わかった」

 

 

 今回はテストも兼ねて、イージスの飛行を試すのだ。

 カタパルトにイージスが進む。

 

 「イージス、発進、OK!」

 ディアッカが言った。

 

 「了解! イージス・A型! 出る!」

 

 ビュゥウウ!

 

 「うっ……!!」

 

 凄まじいGにニコルが少し呻いた。

 が、何とか耐えた。その様子を見たアスランは安心し、空にイージスを昇らせた。

 

 

 「うわぁっ……」

 ニコルが思わず声を上げた。

 

 広大なシベリアの大地と、雪を降らす山脈の様な雲が、眼前には広がっていた。

 

 

 

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 「――おい、短距離レーダーに反応がある」

 モビルスーツ用のトラックの中、スティングが仲間に告げた。

 「連合の戦闘車両か?」

 「いや、民間の大型トレーラーだな、早いぞ」

 「怪しいな……もしや地球連合の偽装車両かもしれん」

  シャムスは、その方向にトレーラーを進めた。 

 

 

 

 「なんだ? ――北から救難信号だって?」

 シベリアの空を飛ぶ、アスランのイージスに、信号が届いた、とニコルが言った。

 「ええ……民間の物のようですが」

 「識別――わかるか?」

 「NPO団体のもののようですね?」

 「NPO……」

 と、聞いて真っ先に思い浮かんだのが、先日出会ったミーアという少女の顔だ。

 「まさか、ポリツェフで出会ったあの子たち……」

 「どうします? ――ザフトがいるかもしれませんよ? 見つかるかも」

 「出来れば、様子が気になる、行ってもいいか」

 「僕も……もし、ジュリさん達だったら……」

 

 

 アスランのイージスは上空を旋回すると、信号の発信源に向かって飛んだ

 

 

 

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 「だから、なんだって! こんなところにあんたらみたいな女の子がいるんだっての!」

 シャムスが、少女の襟元を掴んでいった。

 少女はアサギだった。 先日ポリツェフを出て、大型トラックで移動している最中、ザフトに停められて尋問されているのだ。

 

 無論、ここは戦闘地域ではない。 公用車道となっていた。

 

 「ちょ! 止めてよ!」

 「乱暴しないでください、私たちは――」

 

 アサギとジュリが、シャムスに抗議する。

 

 「いいから積荷を見せろ!」

 「だーからー! なんでザフトに見せなくちゃならないのよ!」

 「こちらは戦時中だ! 当然の行為だろうが!」

 

 「無礼な……」

 「あ! ――ミーア!」

 トラックの後部座席から、――忍ぶのに使うミーアという名で呼ばれて――ラクスが出て来た。

 

 「中立国の民間車両は不当に攻撃してはならない、ましてやここは戦闘地域ではありません。 あなた方の行っている行為は――」

 「う、うるさい! オーブはヘリオポリスでモビルスーツを作っていたのだろう! 信用ならん! 荷物を見せろ!」

 「……」

 ラクスが、顔を険しいものにした、その表情には、普段の愛らしさは微塵も残っておらず、どこか人を凍りつかせる、ゾクリ、とした冷淡さが感じられた。

 「――ッ」

 シャムスが面喰らうが、スティングがラクスに銃を突きつける。

 「調子に乗るなよ。 ナチュラルの女が」

 

 と、

 「シャムス先輩! そいつら、救難信号だしてやがる!」

 モビルスーツを積んだトラックの運転席から、アウルが声を掛けてきた。

 「こっちに向かってなんか飛んでくる! ……地球軍の戦闘機だ! どうする! やっちゃう!?」

 「――チッ、いや、シッポを掴むのが先だ!」

 

 シャムスは、ラクスたちを一瞥すると、雪原に唾を吐いて、トラックに乗り込み、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 「――アスラン、トラックが複数台居ます! ザフトのもの――あっ!? Nジャマー反応増大!」

 イージスのコクピットの中、ニコルが声を上げた。

 「敵!?」

 「い、いえ……レーダーがダメになる瞬間、離れていくのが見えました」

 それを聞くと、アスランは胸を撫で下ろした。

 

 

 

 その後、救難信号を察知した場所にようやく降り立つと、アスランは民間車両の近くにイージスを降ろした。

 「……やはり」

 そこには、ミーアの姿があった。

 

 

 

 

「ラクス様!」

 「あの機体って!」

 「ヘリオポリスで作られていたものですわ……来てくださったのですね、アスラン・ザラが……」

 

 

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 「貴方は……!」

 コクピットから降り立ち、ノーマル・スーツのバイザーを開けたアスランの姿に、ラクス――ミーアは大げさに驚いて見せた。

 

 「……ご無事、ですか?」

 「――ええ、でも、どうして? アスラン様がそんな物に――」

 「……話せば、長くなります」

 

 

 「えっ! ニコル君!?」

 「ジュリさんにアサギさん、マユラさん……どうも」

 「――地球軍だったの? ミーアの話じゃ、オーブの子って」

 「オーブの子供ですよ、僕。 今は外人部隊ですけど……」

 VTOL戦闘機となっているイージスから降り立ったニコルも、三人娘に詰め寄られていた。

 

 

 「――お話はまた、後で……救難信号を出されていたようだったので」

 「ええ。 ザフトの方が、突然私たちに嫌疑をかけて参りまして」

 「なるほど。 戦闘区域外と言えど……こういう事もあった以上、ここは危険です、ポリツェフに戻られては」

 「いえ、私たちも危険は承知で参りました。 この先に積荷をお届けするまでは……私たちもオーブの支援者たちの代表で来てもおります」

 「ですが」

 それで貴女たちが命を落としては――とアスランが言おうとした。

 「オーブは、あのヘリオポリス崩壊事件以降、その理念が揺らいでいるのです。 だから、私たち民間がこういうこともせねばと思いまして」

 ミーアは透き通る微笑をたたえていった。

 しかし、その視線は強い。

 

 「――わかりました。それでは、俺たちが目的の場所まで送りましょう」

 「まあ……でも助かりますわ。 ザフトの方たち、お話を聞いてくださらなかったので」

 「ザフトが?」

 

 ――アスランは驚いた。

 理知的で、志が高く、ただ宇宙の平和の為に戦う義勇軍――。

 そこに背を向けたアスランですらも、嘗て少年兵として、僅かながら在籍していた期間は、それを感じていたのだ。

 

 その軍隊が、そんなことを――?

 父が、戦いの中、変わっていったように、ザフトもまた変わっていってるのだろうかと、アスランは思った。  

 

 

 「これで、三度目ですわね」

 「え?」

 ふと、ミーアがにっこり微笑んだのをアスランが見た。

 「三度も、私を助けてくださいました」

 ミーアがアスランの瞳を覗き込む。

 「いや、その……」

 アスランは思わず赤面した。

 

 自分が、この少女に好意を抱いているのを、アスランは認めざるをえなかった。

 

 

 

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 「キサカ、オーブから荷が届いたようだ」

 この土地の人間と近い、東洋系の顔立ちの男が言った。

 「ありがとう、バリー」

 それに、浅黒い肌をした男が返す。

 「だが、妙な客も一緒だ」

 「妙な客……?」

 「戦闘機に擬装されているようだが――例の機体のようだ」

 「……?」

 色黒の男――レドニル・キサカは小屋から外に出た。

 雪原の中、大型トレーラーと、灰色のVTOL戦闘機のような物が止まっていた。

 

 

 

 

 

 「お久しぶりですな、”ミーア”さん」

 「ええ、キサカさんもお変わりなく」

 キサカと、ミーアが握手をする。

 

 キサカは小屋の中に、賓客をもてなすかのように、ミーアを迎え入れた。

 

 

 アスランたちはといえば……。

 「君たちは……?」

 屈強な男たちに、周りを囲まれていた。

 (この人たち……?)

 立ち振る舞いや、身構え方から、訓練を受けた人間だ、とアスランはなんとなく察する事が出来た。

 

 「先ほどの方々を成り行き上、こちらまでお連れした。 ザフトが有無を言わさず、彼女らを尋問しようとしたらしく」

 「――そんな、バカな、ザフトがそんなことを?」

 ピクリ、とアスランのその発言に、男たちの眉が動いた。

 「その機体――連合軍の”戦闘機”か?」

 「ン? ああ――……」

 モビル・スーツとは思われて無いらしい、と知ったアスランは好都合だと考え、うなずいた。

 モビルスーツであれば、あらぬ疑いをかけられてしまうだろう。

 どうにも、ただの地元の人間に見えない、目の前の男たちに……。

 

 

 「その方は、私の恩人ですわ」

 「――貴方の?」

 キサカが、ミーアの声に振り返る。

 「そうか、それは失礼した。 君たちも入りたまえ」

 キサカが、アスランとニコルも手招きした。

 

 

 

 

 

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 小屋の中で、アスラン達があたたかいスープをご馳走になっている間、屋外では男たちによる太陽電池の組み立てが行われていた。

  ミーアのトラックに積まれていたものだった。

 

 アスランとニコルはパイロットスーツを着ていたが、ソレを半ば脱いだ状態になっていた。

 鹿肉のスープは、体の肉がほぐれるような温かさだったからだ。

 

 

 先ほどから、窓から覗くその様子を眺めていたニコルとアスランであったが、男たちの手際の良さに驚いていた。

 

 「あんなに複雑なものを……」

 ニコルはその第一人者である、カトウ教授の下で学んでいたので、その作業が如何なる意味を持つか理解していた。

 「この土地の人たちって、機械に詳しいんでしょうか?」

 「いや……」

 (あの人たちは……)

 アスランは、もしや、と思った。

 

 

 

 すると、

 「今、別の来客中でな、帰ってもらえないか」

 「随分挨拶だな、私より大事な客が来ているのか?」

 

 小屋の入口に、誰か来ていた。

 キサカが入室を拒んでいる。

 

 ――と、その人物とアスランは目があった。

 

 「ぬあっ!」

 「ああっ……!」

 ニコルもその人物の顔を見て叫んだ。

 「アルテミスの司令……!」

 

 「こ、コーディネイターの小僧!?」

 小屋の入口にいたのは、元アルテミスの司令――アスランにとっては忌まわしき、マルコ・モラシムその人だった。

 

 「コーディネイター……?」

 と、キサカがその言葉に反応した。

 

 

 

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 「や、疫病神の子鬼どもに、こんな所で会うとはな」

 「こっちのセリフですよ」

 ニコルがモラシムを睨んでいる。

 「こんな所で何を……」

 アスランが訝しげに、軍服姿のモラシムを眺めた。

 「フン――こいつらはな、ザフトの脱走兵なのだ、君相手には失敗したがな、私は諦めんぞ! スカウトに来たのだよ!」

 「スカウト? 脱走兵……?」

 「その話なら何度来ようと断らせていただく、帰ってくれ」

 「ま、待て! 話を聞け! じょ、条件を書類にして持ってきた。 受け取るだけ受け取れ! な!」

 モラシムはキサカに、ファイルを渡した。

 「わかった、見ておく。 それではな」

 ファイルを受け取ると、キサカは外にモラシムを追い出した。

 

 

 「――君も、コーディネイターなのか?」

 「え?」

 「何故地球軍に入った?」

 キサカが、アスランの目を見据えていった。

 「俺は……成り行きです、ヘリオポリスにザフトが攻めてきて、そこにいた軍艦に乗るハメになって、友達を守る為に」

 「……成り行きで同胞と戦う側にまわったのか」

 「――ッ」

 アスランの胸に言葉が刺さった。

 モラシムにも、以前アルテミスで同じようなことを言われた。

 

 そこへ、

 「キサカ様――アスランはそのような方ではございませんわ」

 ミーアが、凛とした声で言った。

 「ミーアさん?」

 「私を何度も助けてくださいました。 ポリツェフでは迫害を受けるコーディネイターの方を助けようともなさいました。 ――この方は、コーディネイターやナチュラルに拘る方ではありません。 自分の為さるべき事を為さろうとする方です」

 「あっ……」

 その言葉に、アスランは痛みをあっという間に忘れた。

 「そ、そうです! アスランは僕たちの為に、自分と同じコーディネイターと戦ってくれたんです! だから、裏切るとか、そういうのじゃないんですよ!」

 ニコルも、アスランを擁護した。

 

 「そうか……すまない。 さっき聞いたと思うが、私たちも人のことは言えないような立場でね」 

 キサカはアスランに詫びた。

 「いえ……」

 「そうか、仲間の為か……それなら納得も出来るというものだな」

 

 キサカはそうして微笑した。

 

 「俺たちは、皆、どうしてこんな所に来てしまったのか、理解はしているつもりだが、納得は出来ていない」

 キサカは、窓の外で懸命に働く仲間たちを見て言った。

 彼らは、皮製のフードを着て、白い息を吐きながら、太陽電池を組み立てていた。

 

 

 「ザフトを脱走……どうして」

 アスランはキサカに尋ねた。

 「――うまくは言えんな、ただ、夜になれば君らも理解できるかも知れんな」

 「夜?」

 アスランはきょとんとして言った。

 

 

 

 

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 「アスランは、ヘリオポリスを出た後、ではずっとそうして?」

 「ええ……」

 青空が広がってはいるものの、外の空気は刺すような冷気だ。

 アスランは、ミーアから渡されたコーヒーを飲みながら、頷いた。 

 「それは辛い事もあったでしょうね――」

 「……」

 アスランは、顔を伏せた。

 

 辛い事か……。

 

 「アスラン,脳波レベル低下」

 と、ニコルの持っていたハロがコロコロと転がりだして、アスランに擦り寄った。

 「あ、ハロ、邪魔しちゃダメだよ」

 「ニコル……?」

 「あ……僕、キサカさんとジュリさんたち手伝ってきます!」

 ニコルは、ノーマル・スーツを着なおすと、外へと向かっていった。

 「お、おい、ニコル……!」

 ミーアと二人きりで残されたアスランは狼狽する。

 しかし、当のミーアは、気にする様子もなく転がってきたハロにかまっている。

 「まぁ、ハロ、お元気? 私はミーアですわ」

 「ミーア! ハロォ! ゲンキ!」

 「まぁ、私のお名前を!?」

 「……簡単な単語なら、覚えるようにしています」

 「ハロ! アソボ!」

 「アスランがお作りになったのですね、素敵ですわ」

 「素敵……ですか?」

 「コーディネイターって素敵ですのね、こんなに可愛いらしいものが作れるのですもの」

 「……あの、そんなものでよろしければ、いつかお作りしますが」

 アスランの口から、自然と言葉出た。顔が上気して、熱くなる。

 「まあ! 本当!」

 その言葉を聞いたミーアはぱあっと、明るい笑顔を咲かせた。

 「あ、その、いつになるかはわからないのですが……」

 アスランは、言葉に詰まりながらも言った。

 「楽しみにお待ちしておりますわね、アスラン?」

 ミーアは嬉しそうにアスランの手を取った。

 「……俺も、外の作業、手伝ってきます」

 顔を真っ赤にして、アスランは外へ向かった。

 「あらら?」

 

 

 一人残されたミーア――……ラクスは首をかしげた。 そして、少しだけ微笑んだ。


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