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『地球での鬱々とした気分は、晴れていくのだろうか。
思うに、宇宙しか知らない俺は、のしかかる大気に慣れていないのかもしれない』
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ユーラシア連邦の秘密基地には、士官を中心とした数名のクルーだけが招かれた。
アークエンジェルはそこから十数キロ離れた平原に停泊する事になった。
いささか、あの巨体では目立ちすぎるというものだろう。
「アスラン・ザラと――俺もつれて行くんですか?」
ミゲルが驚きの声を上げて、バルトフェルドに言った。
「あちらさんが、イージスの修理に使う部品を提供してくれると言うんだ。変わりに情報もよこせと言ってきたがね?」
「ええ……」
「ま、今更機密も無いさ」
傍らでは、チーフ・メカニックのマッド・エイブスが頭を抱えていた。
「まあ、俺たちはイージスを使いすぎたよ。 提案に従うしかない、行って部品を調達してきてくれ」
先刻の戦いで、イージスは間接のモジュールに深刻なダメージを負った。
第八艦隊からの補給部品で修理は可能だとは思われたが、アークエンジェル内部の設備や物資だけでは、
敵の来襲に修理が間に合わない恐れがあった。
故障の直接的な原因は、先刻のアスラン・ザラの無理な戦い方にあったものの、
普段からのオーバーワークも大きかった。
と、なれば、できるだけ部品の予備は調達しておきたいところだった。
「に、しても、ジン・タンクか……」
バルトフェルドは、イージスと共に現れた珍妙な客に目をやった。
イージスを詰め込んだトレーラーを牽引する、異形のモビル・タンク。
ユーラシア連邦軍が鹵獲したジンと自軍のリニアガン・タンクを合体させた独自の兵器であった。
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「ラスティ!? 貴様こんなところで何をしている」
「よう……イザーク 意外と元気そうだな」
アークエンジェルに通された、ラスティを見るなり、開口一番イザークが言った。
「知り合いなのか?」
「……地球にいた頃のな。 コイツは――」
「ジェレミー・マクスウェルの息子です。 苗字は違いますがね? ――ユーラシア連邦、シベリア方面軍機械化混成大隊所属、ラスティ・マッケンジー伍長です」
「ジェレミー……”艦長”の?」
え? とアスランはバルトフェルドに顔を向けた。
「ヘリオポリス襲撃の際に――」
「存じておりますよ。 アルテミスの生き残りが、報告してくれましたから」
後でアスランは知った事だが、ラスティの父親はキラ達の襲撃で戦死した、アークエンジェルの正規艦長であるということだった。
イザークとは互いの両親を通じて面識があったそうだ。
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シベリアの雪原を東に向かって進み、ガン・ガラン・ドームポリス跡地にまでやってきた。
(電気も無いのに、まだ人が生活しているのか?)
ユーラシアの用意した車の窓から、アスランは荒廃した街の様子を眺めた。
隣にはクルーゼも座っており、サングラス越しに彼もまた街を眺めているようだった。
――ドームポリスは、シベリアなどの居住がしにくい地域に、
月面や火星に建造されるドーム型コロニーを作って、多くの人が居住できるようにすると言う計画であった。
人口増加に伴い、人の住める土地が必要であると言う事、
そして、宇宙に採掘基地が移行したコズミック・イラにおいて、
地球上で未だ資源を採掘できることは、国際的に大きなアドバンテージであること。
それが、ユーラシア連邦がこの計画を推し進めた理由であった。
宇宙に人が住める土地が作れるならば、シベリアの凍土など、造作も無いこと――とユーラシア連邦の政治家達は考えた。
何せ、空気と水がいくらでもあるのだ。 月にドームコロニーを作る事に比べれば何するものか――と。
その傲慢をあざ笑うかのように、ドームのミラーは割れ、人口の楽園は外の雪原以上に雪と氷に閉ざされていた。
ナチュラルに生まれた人々が自然を嘲笑した結果、調整されて生まれてきた人々が、自然に変わってその傲慢を淘汰したのである。
皮肉と言うほか、あるまい。
その皮肉の残骸を、アスランやクルーゼ達の乗る車は進んでいた。
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ドームポリスの最奥、資源採掘基地に偽装されて、ユーラシアの基地はあった。
「ジン!……シグーやザウートの部品まである」
アスランは基地入口の格納庫で目を見張った。
そこにはおびただしい数の、ザフト製モビルスーツの残骸があったのである。
「こんなに……」
車を降りて、ラスティの案内に従う。
「――スゴイでしょ? ま、俺らもそれなりに頑張ってるつーか。 それでも、負けちゃってるけどね」
「さっきのタンクも鹵獲したパーツで?」
「そそ。 ここにあるパーツで研究もしてね――あれは本部からきた技師と共同で組み立てた記念すべき第一号!」
「何機もあるのか?」
「今のところ三機かな――おっと、これは機密事項か」
ラスティは笑った。
「"わかる"部品だけ戦車につなげたって感じかな――コーディネイター様はうらやましいね、なんでもわかっちゃうんだろ」
ラスティはアスランの方を見る。
「……そんなことは無い」
侮蔑とは違えど、偏見の視線を向けられたアスランはむっとした。
「ふぅん?」
何かを探るようにラスティはアスランを見た。
「でも、そうだな。 使える部品だけピックアップして、つなげ合わせて――それで十分戦力にはなるんだ」
「でしょ? なにもスーパーマシン並べるだけが戦力じゃないって」
「ああ……面白い機体だと思うよ」
「そう? ――それじゃ、此処にある部品は言ってもらえれば渡せるからさ。必要なものだけリストしておいてくれ――代価はさっき言ったとおり」
「――あとで俺が、あのジン・タンクを見ればいいんだな?」
「そそ、楽しみにしてるよん?」
ラスティは笑顔で言った。
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「ゼルマン――少佐殿か!」
「お久しぶりですな、クルーゼ大尉! グリマルディ前線以来です」
司令部についたアスランたちを出迎えたのは、ユーラシア連邦シベリア方面軍司令官、ゼルマンだった。
月面のグリマルディ前線で、クルーゼと共に戦った男だった。
「あの時も劣勢から混合軍を作る事になったのでしたな――なんとも縁があって、喜ぶべきか」
「フ、今も劣勢……ですかな?」
「まあ、先ずはお互いこれからの事を話すべきですな――時間もありません、手短に」
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地球軍のビクトリア基地が崩壊したのは3日前だった。
と、ゼルマンは開口一番に言った。
バルトフェルドは面食らった。
ビクトリア基地といえば地球軍の持つ、宇宙進出の要所であるマスドライバーのある基地の一つである。
重要拠点という事だった。
「我々が大気圏突入をしている裏で、ですかな」
バルトフェルドが言った。
「左様、それからのザフトの勢いは凄まじく、南アフリカ統一機構は、ほぼザフトの手に落ちたと言っても過言ではない」
「やれやれ……」
「そのため、此処シベリアにも兵と物資の出入りが激しい」
「シベリア包囲網が強化されている、と?」
「恐らくは、兼ねてから噂されているザフトのパナマ侵攻作戦に掛けての布石……」
前々からザフトが、地球軍に対して決定的な打撃を与える大規模作戦を行う事は噂されていた。
「と、なれば何としてもその前にアラスカには到着したいものですな」
「――あの船、飛行できるとは大したものだが、大気圏内ではいかがかな?」
「あまり高度は取れませんな?」
アークエンジェルに搭載された飛行装置、『ミラージュ・コロイド・レビテーター』は、現行浮かせるだけで精一杯の代物だった。
高高度を自由に飛んで、一気に目的地へ――というわけにはいかなかった。
「と、なれば貴君らが任務を果たすためには、此処から東に抜けるしかない。ここから南は山脈だらけですからな」
ゼルマンは地図を出した。
現在地であるガン・ガランを指差す。
そして其処から東へ向かうと――。
「……シベリア包囲網の第一陣を切り抜けろと?」
シベリアの東には旧サハ共和国の都市と、いくつもの鉱山基地があった。
ザフトがそこ一帯を占拠して資源基地を作っている。
「ここを突っ切る以外に道は無いかと 西回りで行くならユーロは激戦区。集中砲火にあいますぞ?」
「それなら、そのままベーリング海を抜けて、ユーコン・デルタのJOSH-Aにつけますかな?」
バルトフェルドは笑っていった。
「それは無理でしょう。 サハ周辺の基地を抜けて、北極艦隊まで相手にするのは」
シベリアの東端を抜ければ、アラスカは目前であった。
しかし、シベリア基地を抜けた先には今度は北極海に陣取るザフトの艦隊があった。
基地を突破した戦力で、この大部隊に立ち向かうのは無謀、というよりは、無理であった。
「――セント・ローレスもザフトの潜水艦だらけでな。 ユピックの人々やアザラシが迷惑しているとか」
「ふぅむ――とすれば」
「しかし、カムチャッカ半島の北のエリアまで突破すれば、
「ニェーボ……ヘブンズ・ベース計画の一環で作られた基地?」
「その通り。 まだあそこには相応の戦力が立ち往生している――そこまで行けばカムチャッカを南に抜けてオホーツクからニホンを一気に抜ける――」
「なるほど、そこから東アジア共和国の勢力圏に入り――ホンコンを経由して――そうだな、オーブ領海スレスレを行ければ――」
アークエンジェルの今後の針路が出来上がった。
このシベリア包囲網を突破すれば、比較的安全な東アジア圏内を抜けて、その後は中立地域であるホンコン、オーブを上手く利用して太平洋を抜ける。
そうすれば大西洋連邦の勢力圏に到着できる、という目算だった。
「補給無しで行ける距離では勿論無いが、ホンコンのような街なら補給も可能かと」
「で、しょうな」
クルーゼの言葉にゼルマンが返した。
――ホンコンはCE開史後、様々な事情から、あらゆる”グレーゾーン”が混在する中立都市となっていた。
「大洋州連合は完全にザフトの勢力圏――ですが赤道連合はまだ中立なら十分に考えられる進路です」
「まぁ、その通りだが気が早いですかな? バルトフェルド――少佐殿?」
先の大気圏での戦闘の前、第八艦隊との合流時。
バルトフェルドは正式に艦長として任命された為、大尉から少佐に昇進していた。
「此処には、あの"月の兎”をはじめとしたザフトのエースが多くおりますぞ?」
「ハハッ――それを先ずは、あなた方と一緒に倒さねばならない?」
「左様。 我々もこのままではユーロ戦線とシベリアの両端から挟撃されてしまうことになる」
「その前に、せめてシベリア基地を叩いて大西洋連合とコンタクトを取れるようにしておきたいと――ザフトの大規模作戦に対抗する為に」
「その通り。 我々もそのために一大作戦の決行を立案した――シベリアからの
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「キラの足取りがつかめたのか?」
「ええ、オーブの近海に落ちていた模様です。 オーブ政府からストライクの返還の連絡がありました。しかしパイロットは依然……」
「チッ――機体が無事なのに、肝心のパイロットがわからんとは」
部下の報告に、ネオ・ロアノークはやきもきした。
「キラ・ヤマト、でしたか? 大気圏での戦闘記録は私も見ましたが、凄まじいパイロットです。 ここで失うには惜しいですな」
「ま、それもあるけどね。 なんか、ほっとけないんだよ?」
あの少年は真っ直ぐなのだ。
無事で居てくれるといいと、ネオも思った。
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「ねー主任、ラクス様は?」
ショートカットの少女が、作業中のエリカ・シモンズに聞いた。
「忙しいのよ? それに、お姫様がモビルスーツに毎日乗るのもおかしいでしょう?」
「でも、もうシミュレーターじゃ練習にならないですよ」
別のブロンド少女が、エリカに言った。
「せっかく、アタシとマユラが02と03のデータを手に入れたのに・・・」
もう一人、眼鏡をかけた少女が言った。
三人の少女は、エリカを囲んで、宇宙から落ちてきたストライクのデータを眺めていた。
「ストライクの構造だって、ラクス様なら……」
「まあ、ね」
エリカは、作業を終え、使用していたパネルの電源を落とした。
「また、あの子につきっきりなの?ラクス様」
「趣味悪いなぁ……顔はいいけどなんか優柔不断そうで」
「ジュリは、あのロウとかいう傭兵の人が好みなんでしょ、わたしだったら……」
「マユラはあのゲーマーの子とどうなったのょ!」
女三人で姦しいとは、オーブの宗主国の古いことわざ。
よく言ったものね、とエリカは思った。
「ザフトのエース、キラ・ヤマト……」
どうするつもりなの、ラクス様。
エリカはそう思った。
オーブの風は、ねっとりとまとわり付くようだった。
湿気を多分に含んだ海風は、キラにとって未知のものだった。
両親と共に数度ニホンに観光した事はあったが、ニホンの風はもっと涼しい感じがしたからだ。
海が見えるラクス・クラインの邸宅の庭で、療養中のキラはなす事もなく、海を眺めていた。
太陽が煌いて、海面が翻るたびに光を乱反射する。
きれいだな、とキラは思った。
ふと、海鳥がキラの頭上を飛んで言った。
――鳥か、平和になったら、アスランと地球に――。
しかし、自分はそう想いあっていた友と、地球と宇宙の狭間で殺しあったのだ。
お互い、敵意をむき出しにして。
アスランはカズイを殺した。
そして、サイを傷つけた。
そして、彼と幾度も戦う内、
『アスラアアアアアアアアン!!』
『シねえええ!キラ!!』
彼は自分を、自分は彼を――。
「何を見てらっしゃいますの?」
と、後ろから声が聞こえた。
ラクス・クラインだった。
「――キラさまの目は、悲しそうですわね」
出会ったときから、不思議な少女だった。
「悲しいよ」
キラはポツリと呟いた。
「沢山の人が死んで――それが嫌で戦おうと思った――なのに――ボクは――」
友達と戦う事になった。
と。
ラクス・クラインは、キラの瞳をじっと見詰めて、それから、そっと頭を撫でた。
「――大丈夫です、ここは、平和です」
「ラクス・クライン……」
「ここにいてもいいのですよ――」
「ボクは……」
今のキラに、それを応える気力は無かった。
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連合が、プラントを効率的に支配するために行った、食料自給自足の禁止。
しかし、地球政府への反感が募るにつれて、それを破り、プラントは独自に食料を生産し始めた。
農耕プラント、ユニウスセブンはその生産地点の一つだった。
このプラントには、食料の生産以外にもう一つ重要な役割があった。
宇宙空間において、人類が生活できる環境を作ること。
テラフォーミングやコロニー……そういった技術を研究することだった。
プラントの学生は大抵、アストロノーツを目指すか、宇宙環境学を専攻しようとする。
血のバレンタインで犠牲になった者に、キラやサイ達の友人が多く居たのは、そういった学生達が多数ユニウスセブンに所在していたからだった。
「サイ……その傷」
「結構酷いみたいね……消えるの?」
ミリアリアとトールが、包帯を外したサイの傷を心配した。
「ああ、傷は消えるよ、でも、戦争が終るまで消さない」
「え?」
戒めという意味もある。
だが、この傷が、あのアイウェアのように自分を守ってくれる。
サイには、そんな気がしたからだ。
しかし、その傷を常に曝しておくのは、人の気を引くようだと思い、サイは、新しいアイウェアを取り出して掛けた。
ザフトで開発された、視覚補正デバイス付きのものだった。
――彼らは、アプリリウスにある、血のバレンタインの合同慰霊碑の前に立っていた。
この間の追悼慰霊集会で送られたのか、慰霊碑の前は、幾千の花で溢れていた。
「カズイは死んだ、キラも生きてるかどうかわからない」
サイは、トールとミリアリアに言った。
「でも、俺達は、みんなの為に……最後まで生きて戦わなきゃと思う」
「……そうだな!」
「ええ!」
サイの言葉に、二人もうなずいた。
すると、
「サイ、あれ……」
互いの気持ちを再確認した後、トールが不意に口を開いた。
「……カガリ・ユラ・アスハ?」
カジュアルドレスに身を包んだ、カガリが、慰霊碑に向かって歩いてきた。
「あなた方は、確かキラと同じ部隊の?」
「はい、カガリさん」
「あなた方のことも、キラからよく聞いておりました」
カガリ嬢は笑みで返したが、その瞳は憂いを帯びていた。
サイは、場の雰囲気が詰まったのを感じて、口を開いた。
「……キラのことは、本当に」
「いえ、大丈夫です」
カガリは、サイの言葉を遮った。
「キラは……生きてる、きっと。 私には分かります」
カガリは、三人に会釈すると、慰霊碑の前まで向かい、 手に持っていた花を慰霊碑に添えた。
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「キラ・ヤマト……」
「ラクス様、楽しそう?」
三人の少女たちに囲まれながらラクスはお茶を飲んでいた。
そして、茶を飲みながら、ラクスはキラのドック・タグを眺めた。
「――まさか、あのストライクに乗ってた子が、現最高評議会議長の息子とも言える人だなんてね」
「利用価値、アリってこと?」
「マユラは野暮ね、ラクス様、ゾッコンなのよ」
「えー、なんかあの子暗そう。ラクス様はもっとマジメな人がいいって言うか――」
「アサギ、あんたもしかして……」
「ち、ちがうわよ!」
騒がしい少女たちに優しげな目を向けながら、ラクスは微笑んだ。
そして、もう一度ドック・タグに目を向けるとラクスは微かに口元を曲げた。
(あの瞳……そしてストライクから得られた驚異的な戦闘データ……キラ・ヤマトなら、わたくしと共に歩めるだろうか)
「……なら、そろそろ、わたくしも時間を進めましょうか」
ラクスは、茶を静かに飲み干した。
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ジン・タンクのコクピットの中、アスランはタブレットPCを操作していた。
アスラン・ザラが日常的にイージスの整備を担当していると聞いた為、ラスティやユーラシアの技術者が、鹵獲したモビルスーツのパーツと引き換えに、情報提供を要求したのだ。
「モノアイと索敵システムをそのまま流用したのか?」
「そーそー。 凄いよねザフトの一つ目は。 これ、ちゃんとピント合わせてくれるし、狙いやすいし」
「――まあ、地上じゃ水平射線で十分だから、これならナチュラルでも操作しやすいかも」
「でしょー? ジンのわっけわかんない、あの計器やらボタンやらさー、アレ、なんなの?」
「主に姿勢制御関連の物だな」
「あんなもん、オートに出来ないワケ?」
「できないことは無いが、自分で動かしたほうが早いし、応用が利くから……」
「……」
ラスティは呆れた目でアスランを見た。
「なんだ?」
「いや、コーディネイターも、意外と頭が固いんだなって」
「……悪かったな。 それは多分、ザフトの上層部が固いんだと思う」
「――ハイスペックなモビルスーツに、ハイスペックなパイロットを乗せ、その汎用性で多分類・多勢の敵に対処するって感じ?」
「まあ、な」
「資源の少ないザフトがそういう作戦を取るってのは納得できるけど。それにしてもソートーな自信家だね、ザフトのトップは」
ザフトのトップ――と、アスランは父を思い出した。
頭が固い――自分と似ているかもしれない、と。
「……どったの?」
「いや――」
アスランは、物思いに止めていた手を再び動かした。
機械いじりに手を動かしている間は楽しかった。
戦争に手を貸しているに変わりはなかったが、見たこと無い機械を解析し、分析し、データを作るという作業は悪いものではなかった。
「おい! ラスティ! ……こいつは俺でも動かせそうか?」
と、その傍らで、ジン・タンクを眺めていたイザークがラスティに聞いた。
この機体を見たイザークは、バルトフェルドやアスランに無理を言ってついてきたのだ。
「ん? 多分できると思うけど……」
理由は勿論、ナチュラルが動かせて、モビルスーツに対抗しうる兵器があるならば――自分がそれに乗れないかと、思ったからだった。
「なんとか、アークエンジェルに、コイツを一機をもらえないものだろうか」
「まさか。 でも、イージスと交換なら?」
「アスラン、どう思う?」
「――どう思うって」
アスランは絶句した。
「いや、それはいくらなんでも無理な話か――」
イザークは自嘲するように鼻で笑った。
「あー、そういえば、イザーク。 あのフレイって子? アルスター家の子だっけ?」
と、突然ラスティが、フレイの話をイザークに始めた。
「ああ……それがどうした」
「シホちゃんはどうするのよ?」
「シホ……?」
アスランはイザークの方を見た。
「ま、まだ正式な話ではなかったのだ。俺は……」
「シホちゃん、かわいそー。 まだ待ってるぜ、彼女」
「だが、しかし!」
「――ま、彼女も、俺のオヤジが死んでホントーに、一人ぼっちだからさ。 落ち着いたら会いに行ってやるとか、してあげなよ」
「……ああ」
なんの話だ? イザークにフレイ・アルスター以外の婚約者か何かが――。
と、アスランが思っていると、
「――アスランはカノジョとか居ないの?」
「え?」
突然ラスティに話を振られたアスランは、面食らった。
「なんか、お前、暗いんだよ? ――そうだ、コーディネイターのその手の話って興味あるな、今度キャラオケでも行くか?」
「キャラオケだと!?」
下で作業していたミゲルが声を上げた。
「それはいい! 俺、軍に入る前はバンドやってたんだ! お前ら、キャラオケ行くならアニキが奢ってやるぞ!」
「決まりだな! ガン・ガランには無いが、南の非武装地帯にあるんだよ。 多分この後、あんたらも俺たちと行くんだろ?」
「いや俺、歌うのだけはダメなんだ……」
「歌は嫌いなのか?」
「いや、歌はいいけど」
「ま、親睦を深めるためと思ってさ。 これから、合同作戦なんだし、な」
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「オルガ、近日中に、ユーラシア連邦に向かいますわ」
「畏まりました」
「ジュリ、父に連絡を。それから、モスクワのカナーバ様と、レヴェリー家の方にも」
「はい」
「行くのはジュリとマユラとアサギ――それからオルガも別経由で合流しましょう。 ホンコンの方にもお話を通して置くように」
ラクスは僅かな側近たちに話を告げた。
聞いていたはアサギ、ジュリ、マユラと呼ばれた三人の少女たちと――オールバックのオルガという青年だった。
「しかし、ラクス様自らがご出立にならなくても……」
オルガが、ラクスに言う。
「――父も今ばかりは賛成してくださいますわ。 キラ・ヤマト。 彼が降りてきてくださったから」
「手に入れたカードを直接、ラクス様が差し出す事に意味があると?」
「ええ……あの方は、私の綺羅星の王子様です。 オーブの理念が、この戦争の先を生き残る事が出来るかもしれない……」
ラクス・クラインは微笑んだ。