機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 16 「宇宙に降る星(後編)」

 「アスランが出た!?」

 クルーゼの元に、バルトフェルドから、アスランがイージスで出撃したという連絡が入る。

 「イージスが援護に向かう! 2機で持たせろ!」

 「……了解した」

 (情に絆されたか? いや――自分に嘘がつけんか。 ……お坊ちゃんだな、アスラン)

 クルーゼは、メビウス・ゼロを駆りながらも、アスランの志願に幾許かの戸惑いを感じた。

 

 

 「アデス艦長! 敵モビルスーツ接近!」

 「迎撃!」

 と、アデスが指揮する艦、ネルソン級ベルグラーノにジンが数機接近していた。

 「ベルグラーノ――アデスか! ……こちらクルーゼ、援護する!」

 クルーゼは、そのジンに向けてガンバレルを掃射する。

 「あ!?」

 不意を突かれたジンが被弾する。

 「今だ!コリントス ……てええぃ!」

 アデスがその隙を見逃さず、ベルグラーノからミサイルが発射され、ジンを撃破した。

 「クルーゼ大尉! 助かりました! さすがです!」

 「フッ……――ッ!?」

 アデスを支援し、一息ついた途端、悪寒が、クルーゼを襲う。

 

 

 「……アスラン、聞こえるか! あのシグーが来る! 食い止めろ!」

 

 「甘い甘い……ボクを数で押そうなんて……ナンセンスですよ!」

 アズラエルはシグーを加速させると、艦隊とモビルアーマー隊を潜り抜ける様にした。

 

 アズラエルのシグー・ムトクイフはそのずば抜けた加速力で地球軍を振り切ると、アークエンジェルが確認できる距離まで近づいた。

 シグーのカメラ越しではあるが、アズラエルの眼にも、 巨大な地球をバックにしたアークエンジェルが見えた。

 

 アズラエルにとっては久々の地球だった。 先程から機体越しにもずっと地球の重力を感じることができていた。

 木星のそれよりも、ずっとやさしい感覚がする。

 「アークエンジェル……悪いが使わせてもらうよ!」

 アズラエルがアークエンジェルへ攻撃を仕掛けようとした矢先、レーダーに反応があった。

 「……ン?」

 GAT-X303 イージスだった。 

 

 

 アスランも同様に、アズラエルの機体をレーダーに認めていた。

 「アレは……あのときの黒いシグー!?」

 その機体が、カガリを帰した時、黒いナスカ級から出てきたシグーということを思い出していた。

 

 「やっと、その機体、間近で見せてもらえるね?」

 アズラエルはシグーをイージスへと向けた。

 「――本当にシグーなのか!? ライトニングの紫のより速い!」

 イージスとほぼ同等ではないかと思えるくらいだ。

 「フ!」

 アズラエルのシグーが、ビームサーベルをイージスへと振りかざす。

 「ビームサーベル!? シグーが!?」

 イージスはそれをシールドで受けた。

 「フフ……"ご自慢の坊や"ですか!」

 「ク! ……この!!」

 アスランのイージスは、力技でシグーを押し返した。

 「出力はそっちが上! 面白い」

 アズラエルは戦闘中にもかかわらず、子供のよう笑みを浮かべた。

 

 イージスは間合いを取るため、隙を狙ってモビルアーマー形態に変形した。

 地球の重力に機体が引かれて、動作が重くなっている為、推力のあるモビルアーマーのほうが有利だとも考えたからだ。

 「……それが変形!」

 すると、アズラエルのシグーも、バックパックに背負っていたパーツを頭部からかぶさる様に装着し――変形した。

 「フ……でも僕のシグー・ムトクイフだって捨てたもんじゃない!」

 

 アズラエルのシグーは、バックパックが稼動する事によって、スラスターの位置が変化する。

 ――地上飛行用モビルスーツ、ディンにもこのシステムが採用されている。

 「シグーが変形した!?」

 アズラエルのシグーは木星の超重力圏での使用を想定しているため、推力は大きかった。

 モビルアーマー形態のイージスにも追いつかんばかりの勢いである。

 「速い!? ……イージス以上なのか?」

 

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 「クセルクセス、撃沈!」

 「アークエンジェルはどうだ!?」

 「まもなく降下シークエンスフェイズ2に移行します! まだ降下限界点まで至りません」

 「間に合うかどうかの瀬戸際か……」 

 「艦隊、これ以上の隊列、維持できません!」

 「クッ……!」

 レイ・ユウキが歯噛みする。

 「ベルグラーノ、アデス大佐より報告、既にモビルアーマー、護衛巡洋艦、一隻も無し!」

 オペレーターが、また一つ苦境を伝えた。

 「モビルスーツによる火力一点突破……そして強襲か」

 敵の指揮官はモビルスーツを良く理解しているとユウキは痛感していた。

 そして、いかに自軍のトップはそれを無視していたのかを……。

 「このまま防戦したところで、どうなるか!」

 ユウキは、決意した。

 「残った艦に打電しろ……そろそろジンに補給が入る。 攻撃がやんだ瞬間、一斉攻撃に出るぞ!」

 「しかし! それではアークエンジェルが、降下中に無防備になります!」

 「――大丈夫だ策はある」 

 そういうと、レイ・ユウキはメネラオスの通信機を動かし、艦隊の全艦に通信を繋いだ。 

 

 「メネラオスより、各艦コントロール。レイ・ユウキだ! 

  アークエンジェルは、間もなく降下シークエンス・フェイズ2に移行する! 

  厳しい戦闘であるとは思うが、彼の艦は、明日の戦局の為に決して失ってならぬ艦である。

  各艦は本艦の出す合図と共に、前進攻撃を開始せよ! 

  敵軍のモビルスーツは脅威だが、わが軍のモビルアーマーも火力と推力では勝っている!

  一斉攻撃ならば、敵の再度の追撃を防げるはずだ! 地球軍の底力を見せてやれ!!」

  

 レイ・ユウキは声を張り上げた。

 

 

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 ナタルはアルベルトのブリッジで、報告を聞いた。

 「なに! 敵艦隊が動くのか!?」

 「はい! 我々に一太刀浴びせるつもりでしょうか?」

 「刺し違えてでも足つきを守る気か チィ! モビルスーツを戻させろ!メビウスを叩かせる!」

 「艦長!各機体の消耗の度合いが違います……コレでは!」

 「作戦が敵に突かれたか! アズラエルめ、だから言ったのだ!」

 ナタル口から思わず愚痴が出た。

 「状況は?」

 「ジンは4機が補給、3機が撃墜、5機は依然戦闘中…ですが間も無くパワーが!」

 「見事な頃合だな…ナチュラルとて学習しないわけがないか……ジンの補給作業急がせろ!」

 

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 「状況は良くはないんだろ!行かせてくれ!」

 「何言ってるんですか!まだダメですよ!」

 サイは医師を跳ね飛ばしてモビルスーツ・デッキへ向かった。

 「無理をするな! サイ・アーガイル!」

 ナタルが通信機で言う。

 「大丈夫です……行けます!」

 サイはかまわず、デュエルを動かした。

 「アサルトシュラウド…対艦戦ならちょうど良い!

  サイ・アーガイル、デュエル…いきます!」

 ガモフからサイのデュエルが出撃した。

 

 「評議員の息子も出たか――! く、敵艦艦隊が来るぞ! アズラエルが見ているのだ! なんとしても足つきを落とすぞ!」

 それに勢いづいたガモフの艦長も、更なる攻撃を指示する。

 

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 敵陣を掻い潜り、キラはアークエンジェルへと直進していた。

 「アスラン……アスランはどこだ……」

 

 キラの感覚は益々鋭くなっていった、周りのモノすべての動きがわかる。

 目だけでなく全身で周りを見ているを感じだと、キラは思った。

 

 「……!」

 何か来る、キラはとっさにそう感じて身構えた。

 「あれは……見たことある、足つきの白いモビル・アーマー……!」

 キラが感じた気配の正体、それはラウ・ル・クルーゼのメビウス・ゼロであった。

 「開戦から数分で五隻の戦艦を落とし、ここまで来たか、凄まじいな!」

 「――来るッ!」

 ストライクを迂回するようにして、クルーゼが間合いを取る。

 

 刹那、ストライクとゼロがすれ違う。

 「え……!?」

 「む……!?」

 それは、奇妙な感覚だった。

 「僕は……この人を……知ってる?」

 「なんだ……この感触は……?」

 ストライクとゼロの動きが一瞬と止まる、がキラはその感触を振り払うようにして、

 クルーゼのメビウスにビーム砲を向けた。

 

 「なんだ……この敵!」

 ランチャーストライクのアグニが火を吹く。

 宇宙戦艦の装甲を一撃で貫通するビーム砲である、メビウス・ゼロの装甲などひとたまりもない。

 「当たらなければどうということはない!」

 クルーゼはゼロの推進力を生かし、アグニを回避する。

 「妙な敵だが……連戦で消耗しているはず……ならば!」

 メビウス・ゼロのガンバレルがストライクを取り囲むようにして展開する。

 「あの武器!?」

 「フ……!」

 ガンバレルのリニア砲がストライクに向けて放たれる。

 アグニに命中し、アグニが爆発する。

 「ク……!」

 ストライクがひるんだところに、クルーゼは容赦なく砲を叩きこんだ。

 しかし、キラが素早く反応したため、急所には命中しなかった。

 また、フェイズシフト装甲の為、ダメージは事実上、ほとんどない。

 しかし、

 「……パワーが?」

 先ほどまでにパワーを使いすぎたせいか、装甲に衝撃が走っただけでも、残り少ないバッテリーを削る。

 フェイズ装甲はビーム以外のどんな攻撃も無効化する代償に、どんな攻撃にもバッテリーを消費してしまう。

 「これじゃ、なぶり殺しにされる!」

 キラは何とかガンバレルから逃れようとする。

 

 「キラ・ヤマト!聞こえるか……!」

 アルベルトから通信が入る。

 「そんな場合じゃ……!」

 キラには返事をする余裕はない、ガンバレルの包囲から抜け出すので精一杯だった。

 しかし――

 「アズラエル隊長が、イージスと交戦中だ、援護できるか!」

 ――その一言で、キラの様子が変わる。

 

 「イージスが……アスランが!?」

 

 イージス、アスラン、そのイメージが頭を駆け巡る。

 カズイの顔、傷ついたサイ、アフメド……

 キラの中の、何かが弾けた。

 

 

 「――!」

 先ほどよりも、さら感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 

 ――右! ……左! ……後ろ回って右上!

 

 ――真下!

 

 「なに!?」

 キラのストライクが、まるで、踊っているかのようにクルーゼは感じた。

 動作に全くの無駄はなく、確実にガンバレルの射線を避けていく。

 

 「……!」

 キラはランチャーストライカーパックをパージすると、ストライクを母艦であるアルベルトへと向かわせた。

 

 「あのパイロット……!」

 クルーゼは、ストライクの動きに戦慄すら感じていたのだった。

 

 キラはアルベルトに帰艦しようとしたが、連合艦隊の一斉攻撃が始まっているため、戻ることが出来なかった。

 もう、ほとんどバッテリーが残っていない。  なんとか補給を受けなければ……。

 そう思ったキラは、あることを思いつき、アルベルトに打電した。

 オペレーターが、キラの電文をナタルに報告する。

 「艦長!ストライクのキラ・ヤマトからです! ……エールストライクをカタパルトで打ち出してくれと」

 「何!?」 

 無茶なことを……撃ち落とされたら終わりではないか。

 ナタルはそう思ったが、キラが出来るというのならば、やってみるしかない。

 ストライクの力は依然、必要であり、どのみち、このままではキラも撃墜されてしまうだろう。

 「わかった! エールストライク準備!……リニアカタパルトへ!」

 

 

 キラにナタルから通信が入る

 「キラ・ヤマト!エールストライク射出するぞ、いいか!」

 「はい!!」

 「よしレーザー通信オンライン……相対速度はそちらであわせてくれ!」

 アルベルトのカタパルトが開き、エールストライクが射出された。

 キラはストライクのキーボードを取り出し、マニュアルでドッキング操作を行う。

 「相対速度、モーメント制御をエールストライクのCPに送信、軸線あわせ……」

 キラとストライクは軸と速度をあわせる。

 

 「5、4、3……ドッキング完了!」

 

 キラのストライクはそのまま宇宙空間で換装を終えた。

 

 「成功したか……大したパイロットだ…。」

 

 キラはエールストライクを全速力で、再度アークエンジェルへと向かわせた。

 

 

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 もともとはスマートなデザインのデュエルであったが、

 アサルトシュラウドを装備したその姿は、あまりに無骨だった。

 しかし、そんな外見とは裏腹に動きは素早い。

 各所に取り付けられたスラスターが宇宙空間での機動性を大幅に上げているのだ。

 「……もらった!」

 サイは、新たに追加されたミサイルポッドとレールガンを一斉射した。

 ズガガガガガ!

 ミサイルが砲門を無力化し、レールガンが装甲を粉砕する。

 数回の攻撃で地球軍の戦艦は沈黙し爆発した。

 

 

 レイ・ユウキの指揮の前に、反転攻勢を仕掛けられ、やや苦戦を強いられていたガモフであったが、

 サイのデュエルの活躍によって、態勢を整えはじめていた。

 

 開戦からのブリッツとバスター、それにストライクの働きもあって、敵陣に大きな穴があき始める。

 

 これを好機と見たのであろうか、ガモフが先行しはじめた。

 「何をやっているガモフ、出過ぎだぞ!」

 アルベルトのナタルが叫ぶ、しかしガモフの艦長、ホフマンは警告を聞こうとはしなかった。

 「アズラエルの目の無さで、囲まれそうに成ったのだ! ならば、この機を逃して成るものか!」

 デュエルが敵陣に開けた穴を、ガモフは進んでいく。

 

 「トール! ガモフが突っ込んでるわ!」

 「え、何やってんだよ、あのちょび髭!」

 

 トールとミリアリアは、互いを支えながら戦っていた。

 

 「だが……足つきをとめられるかもしれない!」

 その二人に通信が入る――聞き慣れた声だった。

 「……サイかよ!? 大丈夫なのか!?」

 「言ったろ? これくらい大した事ない」

 サイのデュエルが、ブリッツとバスターの元に現れた。

 「二人とも……先行したガモフを追うぞ!」

 

 

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 イージスとアズラエルのシグー。

 二機は大気圏上で激しい追撃を繰り広げていた。

 イージスはモビルアーマー形態に、シグーはバックパックを変形させて高機動形態となっている。

 「……フフ」

 「……クソ!」

 機体の機動性ではほぼ互角であろう。

 だが、アスランが動きの一つ一つに重力による干渉を受けているのに対して、アズラエルの動きは実に軽やかだった。

 「木星の重力に引かれたんですよ? ボクは……!」

 「ああ……!」

 それは、経験の差であった。

 シグーのライフルが、イージスに命中する。

 「うわ……あ!」

 イージスのコントロールが一瞬取れなくなった。

 「地球の優しい重力も知らない君が、僕に勝てるわけがない」

 アズラエルはアスランを振りきり、アークエンジェルへと向かった。

 「アークエンジェル……やらせるかッ!」

 アスランはイージスを強引に持ち直すとシグーを追った。

 

 

 「敵機、シグータイプ、本艦に急速接近!」

 「何……!」

 大気圏降下中の無防備なアークエンジェルに、アズラエルは容赦なく狙った。

 

 しかし――。

 

 「ええ? 大型反応――メネラオス!? レイ・ユウキこの高度まで降りて?」

 シグーの、アークエンジェルへの進行をさえぎるように、メネラオスの艦砲が撃たれた。

 

 

 「閣下! 我が艦ももう、これ以上降下したら戻れなく――!」

 メネラオスには大気圏を突入できる能力が無いのだ。

 これ以上、降下しながらアークエンジェルを守ろうとすれば、艦は耐え切れず燃え尽きてしまう――。

 そんなメネラオスに、通信が入る。

 「ローラシア級が突貫しています!」

 隊列に出来た穴は、戦艦の突撃を許すほどであったのだ。

 「……デュエル、バスター、ブリッツ、ストライクが開けた穴か……これほどとはな!」

 三機のGが、さらに連合の船、モビルアーマーを次々と落としていく。

 そして、今、アークエンジェルは無防備な状態である。

 モビルスーツならばイージスとメビウス・ゼロがなんとか、迎撃するだろうが、戦艦となれば……。

 「モビルアーマー隊はあの三機を集中攻撃しろ! チ……そろそろ腹を括る時か?」

 

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 ――ガモフは戦場を突き進んでいた。

 しかし、トール達は地球軍のモビルアーマーの必死の反撃に、遅れをとっていた。

 

 「おいおい、ガモフに追いつけねえだろうが……どけよ!」

 ブリッツのビームライフルが火を吹き、メビウスに命中する。

 「……まだだ青き正常なる……!!」

 だが、メビウスは火達磨になりながらも、そのままブリッツに突撃する。

 「カ、カミカゼッー!?」

 メビウスは特攻、自爆し、ブリッツが爆発に包まれた。

 「う、うわああああ!?」

 「トール!?」

 防いだトリケロスと右腕が吹き飛んだものの、ブリッツ本体は無事だった。

 

 「大丈夫なの!? トール!!」

 「へ……へへへ……ああ、ちょ、ちょっとビビったけど」

 バスターがブリッツを支えた。

 「どうしたの……動けないの!?」

 「間接と駆動系全滅……くっそパワーダウンだ!!」

 ブリッツが色彩を無くしていく。

 「トール……コレじゃ!」

 「仕方ない、二人は後続のツィーグラーに行くんだ! ミリィもそろそろパワーがマズイだろ?」

 「サイは……!?」

 「ガモフに追いついて……何とかする!」

 

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 「……提督が!?」

 アデスは驚きの声を上げる。

 「指揮権をアデス艦長に移すと!」

 アデスは黙り込む……が、直ぐに軍人の顔に戻り、指揮を取る。

 「提督……了解しました……目標敵艦!ナスカ級! 艦の間隔合わせ、一斉発射!」

 

 「反転攻撃したお陰で、後続のナスカ級とローラシア級、そしてジンは防げる。

 あとはあの機体と、先行しているローラシア級だけ……それならば、当艦が盾になれれば良い。

 砲の一つでも動かせればなんとかなるだろう――総員退艦せよ。 私だけ残る」

 

 「な、なんですと!? き、旗艦を捨てると…?」

 「盾になれるのはこの艦だけだ。 旗艦の死は艦隊の死……だが、後の兵と戦果は死なない」

 レイ・ユウキは、そう指示し、一人、メネラオスのブリッジに残った。

 

 

 ――地球軍の陣営を強引に突き進んでいたガモフが、ようやくアークエンジェルを捕らえた。

 「とうとう見えたぞ、足つき……アズラエル一人に手柄を渡せるか!」

 ホフマンが、攻撃命令を出そうとしたとき……。

 

 「か、艦長!敵艦が!」

 「……なっ!? こんな高さまで、メネラオスが護衛してきているのか! 撃ち落とせぇー!」

 

 「このメネラオスはそう簡単には沈まんさ…!」

 砲火を全体に受け、爆発しながらも、メネラオスは反撃を自動照準で返す。

 

 

 「やれやれ……ユウキくん――”やめてよね” コーディネイターの君が!!」

 

 しかし、アズラエルのシグーがメネラオスを迎え討った。

 「シグータイプ!? のわっ!!」

 

 エンジンにアズラエルのシグーによる砲火を受けた。

 「まだまだああ!!」

 レイ・ユウキはパネルを操作した。

 エンジンの出力を上げ、メネラオスをガモフへと向かわせた。

 

 ――メネラオスが、ガモフに特攻をかける。

 

 「き、旗艦が特攻だと……馬鹿かナチュラルは……撃ち落とせえい!」

 

 しかし、メネラオスは、ビーム撹乱膜の影響を受けないところまで、ガモフに接近すると、メインビーム砲を一気に放った。

 「ば、バカな!! ……アズラエルが見ているのだぞ! アズラエルが!」

 ビームがガモフを貫通した。

 

 

 

 「――ガモフが!?」

 敵に囲まれながらも進行していたサイも、ガモフの爆発に気づいた。

 「間に合わなかった……!」

 

 後退していた、ミリアリアたちにも、その光景が見えた。

 「トール! ガモフが!」

 「ま、まじかよ……ホフマン艦長……!」

 

 ガモフは、大気圏の中で、その形を崩していき、やがて大爆発を起した。

 

 

 「メネラオスがっ!?」

 「ユウキ提督!?」

 アークエンジェルもその様子をモニターしており、バルトフェルドが声を上げた。

 

 「あの人が……!?」

 アズラエルを追撃していたアスランも、思わず反応した。

 

 だが……。

 『大丈夫だ!』

 「提督……!?」

 

 メネラオス爆発に紛れて、地球軍の新型脱出艇に乗り込んだレイ・ユウキから通信が入った。 

 

 「これは大気圏も突入できる代物でな、丁度テストしたいと思っていた所だ――第八艦隊に出来るのはここまでだ! 後は頼むぞ!」

 「提督! 全く、アンタって人は!」

 「アンドリュー、部下は上官に倣いたまえ――」

 

 

 

 

 しかし、そこへ、

 「やってくれるじゃないか! でも――」

 アズラエルのシグーが現れる。

 「――この敵は!?」

 「許さないよ。君が地球に降りるなんて――レイ・ユウキ!!」

 

 シグーのライフルが、脱出艇を狙った。

 「やらせるか――それにはっ!」 

 しかし、ようやくイージスが、アズラエルに追いついた。

 「俺と同じ、同じ人が乗っているんだ!!」

 

 「イージス! アスランという少年か!」

 脱出艇からもイージスの姿が見えて、レイ・ユウキが思わず叫んだ。

 

 

 ズビュゥウン!

 

 「チッ!」

 イージスのビームライフルを受けて、アズラエルは脱出艇から離れざるを得なかった。

 「まあ、いっか……レイ・ユウキ――まだ、最後の仕上げが残っている」

 

 

 アズラエルは脱出艇を無視し、アークエンジェルへと向かった。

 「敵が――!! アスラン・ザラ! アークエンジェルを守ってくれ!」

 「あっ!」

 「同じ、意思を持って戦うコーディネイターとして――頼む!」

 「はい――!」

 

 脱出艇からの無線の声に、アスランはこたえた。

 

 やれる力がある。

 いや、やって見せる――!

 

 

 

 

 シュヴァアアアン!!

 

 ――だが、閃光がアスランの行く手を阻んだ。

 

 グリーンに輝くビームがイージスをかすめたのだ。

 

 「あっ!?」

 

 

 「アスラァアアアアアアン!」

 「……上!?」

 

 イージスめがけて、MSが突進してきた。

 キラのストライクだった。

 

 「アスラン! ……ストライクが行った!」

 「クルーゼ大尉!」

 キラのストライクを取り逃した後、周囲の敵の駆逐に当たっていた、クルーゼのメビウス・ゼロが戻ってきた。

 

 「大尉! 俺がストライクを止めます!……大尉はアークエンジェルを!」

 「……わかった、降下前には戻れ!」

 クルーゼのメビウス・ゼロはアークエンジェルを攻撃するシグーへ向かう。

 

 ビームサーベルによる斬りあい、格闘の末、イージスとストライクが組み合う。

 「アスラァン!!」

 「キラ……!」

 接触によって、お互い、相手の声が震動となって直接聞えた。

 

 「言ったよね? 僕は……君を撃つって!」

 「!!」

 キラが、幾度もイージスにビームサーベルで斬りかかる。

 その動きは、尋常ではなかった。

 それは単純に、的確でそして恐ろしく速い動きであった。

 サーベルがイージスをかすめる。アスランは防御に追われて反撃が出来ない。

 精一杯である。

 「どけ、キラ! ……今、お前とは!」

 

 アスランはイージスをモビルアーマーに変形させて、なんとか間合いをとろうとした。

 しかし、

 「アスラン……君はあ!」

 ストライクがビームサーベルを投げる。

 「チ!」

 変形をキャンセルし、シールドで防いだ、シールドにサーベルが突き刺さる。

 

 

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 「さて、最後の仕上げ――この高度と速度なら――ここか!」

 

 「シグー接近!」

 「なんだと!?」

 

 

 シグーのライフルからグレネ―ドと弾薬が乱射される。

 ドガガガガ!

 

 大気圏突入中は無防備なのだ、なんの迎撃も出来ない。

 そのため、攻撃は直撃 アークエンジェルが大きく揺れる。

 「被弾……降下シークエンスに異常!オートバランサー起動します!」

 「降下位置、測定開始…修正…だめです、誤差発生!」

 ダコスタが叫んだ。

 降下地点にズレ――目的地に真っ直ぐ降りられなくなる事を示していた。

 

 「ええい…これ以上はやらせんよ!」

 必死で追撃するも、メビウス・ゼロでは、アズラエルのシグーに追いつける筈も無く、攻撃を許す事になってしまった。

 「またあのモビルアーマー……!」

 「――この重圧感……もしや!」

 「不愉快だな……でも今は止めておきましょう!」

 アズラエルは2、3度クルーゼと弾丸を撃ち合うと、身を翻して撤退してしまった。

 「あとは……上手くやってくれるようにね……フフ」

 「チッ!」 

 ――クルーゼの脇を、アズラエルの機体がすり抜けていった。

 「クルーゼ! そろそろ限界だ! 戻れ!」

 「ええい――了解だ!」

 クルーゼはやむを得ず、メビウス・ゼロをアークエンジェルに帰還させた。

 

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 キラはアスランが憎かった。

 

 何より、ナチュラルといることが、である。

 彼にとって、周りの人間は彼の生きがいであった。

 そのためなら彼はその人間の為に自分を犠牲にしてもかまわないとさえ思った。

 だが、アスランはそこから外れ、敵となった。

 それは、キラにとって裏切りに他ならなかった。

 

 それでもキラは信じていた――しかし。

 

  「僕の仲間を…僕を!」

 

  アスランは、自分の友を傷つけたのだ。

 

 キラの猛攻は凄まじかった。 

 ストライクが圧倒的優勢で、イージスはずっと、防戦一辺倒となっていた。

 

 ――しかし、本来大気圏での戦闘においては、イージスのほうが有利であった。

 ストライクと比較して、腰部のスラスター、そして大出力の背面ブースターが機体を支えるからだ。

 重力下の操縦になれたアズラエルには後れを取り、

 尋常でない気迫のキラに苦戦を強いられているものの、まだ、アスランにも勝機はあった。

 

 アスランはじっとチャンスを待って何とか耐えていた。

 

 ――ストライクがビームサーベルを振り回して、アスランの剣をなぎ払う。

 「クッ!」 

 「アスラァアアン!!」

 イージスの胸ががら空きとなる、――が、それを狙おうとするストライクにも隙が出る。

 「――今だッ!」

 イージスのサ―べルは手だけではない、つま先のビームサーベルを展開し、

 ハイキックの容量でキラのビームサーベルををなぎ払った。

 グワァアァアン! 

 「……!?」

 ビームサーベルを吹き飛ばされ、ストライクもバランスを崩される。   

 だがキラは落ち着いていた……。

 

 ――キラはイージスの動きを観察しているうちに、あることに気がついていた。

 

 (イージスが変形したり、高速で移動するとき……スラスターが動く……アレだけの稼動が実現しているなら……腰のスラスター接続部は……やはりフレームが剥き出しだ!)

 

 

 イージスの腰の可動式スラスターは、変形システムの副産物である。

 結果的にモビルスーツ状態でも、これは高い機動力を生んだ。

 ――だが、この構造は、変形を優先した結果出来たモノである為に、 一部フレームがむき出しであるという弱点も生んでしまっていた。

 

 「そこだっ!」

 

 キラはアーマーシュナイダーを取り出すとイージスの腰のフレームに突き立てた。

 

 ガッ!

 フェイズシフト装甲に包まれていない、剥き出しフレームにナイフが突き刺さる。

 

 「左推進システムに異常発生!? 接続部がやられたのか!?」

 大気圏の重力に引かれて落ちているのである。

 スラスターに異常をきたしたイージスは、たちまちバランスを崩した。

 「うわあああ!」

 イージスはストライクから離れ、大気圏を落ちていった。

 「……!」

 

 ――今のキラに友を殺すことへの躊躇はなかった。

 ライフルの先をイージスに向ける

 

 

 「やられっ――キラに!?」

 

 

 アスランは瞬間、死を感じた。

 

 ――だが、

 

 「あと一息でアークエンジェルは生きのびるというのに……こんな所でむざむざとイージスを落としてなるものか!」

 「脱出艇が!?」

 ――レイ・ユウキの乗る、メネラオスの脱出艇が二人の間を遮った……。

 

 「――邪魔をッ!」

 

 いつものキラは、戦いを嫌う温厚な少年であった。

 そんな少年のキラが、離脱用のシャトルを撃つようなことはない筈である。

 だがそのときのキラには、アスランへの純粋な殺意しかなかった。

 ――キラは冷静であった、が、正気ではなかった。

 

 「キラ、やめろ! それには!!」

 

 トリガーを、キラは引いた。

 

 「はあ……っ!?」

 

 ビームが脱出艇を貫き、アスランの目の前で、脱出艇は爆発した。

 

 「ああああああぁぁぁ!!」

 アスランは絶叫した。

 

 

 

 爆発の次、アスランの目に移ったのは、ライフルを構えるストライクの姿だった。

 「キラ……キラあああ!」

 

  ――アスランの中の、何かが弾けた。

 

 「……次は……イージスに当てる!」

 再びキラは、イージスに照準を合わせる。

 「……キラ!」

 アスランはイージスをMA形態に変形させた。

 スラスターが多少不調でも、これならそれなりの機動力は確保できる。

 

 「無駄!」

 「クッ!」

 しかし、それはあくまで推力である。

 イージスの回避能力は格段に低下していた。

 「そこだ!」

 キラの狙いは正確だった。今の状態で避けきれるはずが無い。

 「……!!」

 アスランは、何を思ったか、イージスのアームを思いきり開き、振り乱した。

 その動きは、蜘蛛か、昆虫か、甲殻類を連想させた。 足をむちゃくちゃに動かし、バタつかせる。

 だが……。

 

 「……!」

 アスランのイージスが、大きく奇抜な動きをはじめた。

 

 ブウン、ブウン!

 と振り下ろされ、上げられる足に合わせて、イージスが動く。

 

 そして、ストライクのライフルを、ギリギリで回避していった。

 「イージスのあの動き、AMBAC(アンバック)とでも言うのか……!?」

 

 

 ――Active Mass Balance Auto Control 能動的質量移動による自動姿勢制御

 

 元々は推進剤を使わない、質量を用いた動作を使った、宇宙での姿勢制御をさす言葉である。

 モビルスーツが、宇宙空間で戦艦に対して圧倒的優位を誇ったのは、この機能によるその機動性であった。

 モビルアーマーよりもずっと少ない推進剤と時間で、縦横無尽に宇宙を動き回れる。

 

 ――アスランのイージスもまた、この原理を利用し、重力に弾かれながらも強引に動きを変えていた。

 

 

 「……うぉおおお!」

 

 アスランはイージスの破損していない右スラスターを最大出力でふかした。

 ストライクに間合いを詰める。

 「……!」

 キラはライフルを連射するが、アスランは例のAMBACを多用し、回避して行く。

 「――甘い!」

 

 間合いを一気に詰めてアスランはイージスをモビルスーツ形態に戻し、ビームサーベルを四刀流にして繰り出した。

 

 「チィッ!」

 二本をシールドで弾く。 もう二本は装甲を掠めるも寸でのところで回避する。

 

 ――そしてキラは、イージスのシールドに、先ほど投げつけた、ストライクのビームサーベルがまだ埋まっている事を見つける。

 「ッ!?」

 アスランのイージスは、シールドを切り離した。

 キラがビームサーベルを手に取り、シールドを切断した。

 「盾がっ!?」

 「コレで――決める」

 

 ストライクと、イージスは、互いに間合いを取り合う。

 そして――。

 

 

 

 「……キラァァァアア!」

 「……アスラァァアン!」

 

 

 二機が激しくビームの刃で攻めぎ合う。

 

 しかし、何度か斬り合ううちに、キラのストライクのほうが優性となる。

 やはり、イージスのダメージは大きかったのだ。動きが鈍く、反応が遅い。

 その上、イージスはシールドまで失っている。

 キラの剣が、イージスの左手首を切断した。

 「グアァッ……!?」

 「――もらった、アスラァアアアン!」

 

 

 キラはビームサーベルをアスランに振り下ろした。

 

 

 ――しかし、刃がイージスに触れる直前、キラは突然の嘔吐感に襲われた。

 「うぐ……う……ああ……!」

 それだけではない、全身が、唐突に痺れだし、痛みを帯びてきた。

 キラがコクピットでもがく。

 

 そして――

 「なんだ? ……ストライクの動きが止まった!?」

 「う……ああ…!」

 「……今ッ!」

 アスランはイージスで、ストライクに斬りかかった。

 キラは、力を振り絞ってストライクを操作する。

 なんとか、イージスのサーベルを一度は受け止める。

 「あのシャトルには……俺と同じ……!」

 アスランの声が、キラに届く。

 「そんなの……僕だって……仲間が……君が……!」

 アスランにも、同様にキラの声が聞こえた。

 「クッ!」

 しかし、アスランはその声を振り払うかのように、もう一度、イージスのサーベルを大きく振り上げた。

 「シねえええ!キラ!!」

 「アスラン!!」 

 ストライクの肩を、イージスのビームサーベルが切り裂いた。

 「!」 

 キラが、ギリギリの所で急所への攻撃を回避したのだ。

 「う……うわあ!」

 このままでは勝ち目がない。

 そう思ったキラは、いちかばちか思いきりレバーを倒した。

 

 ドォウウ!

 

 ――ストライクは加速しながら大気圏に落ちていった……。

 

 

 

 「……キラ!?」

 剣を振り下ろしてしまうと、アスランは、体の中の妙な力が消えてゆくの感じた。

 感覚が元に戻っていく……。

 キラのストライクが、小さな爆発を起して、地球へと落ちていった。

 

 (俺が、俺は――本気でキラを殺そうと……? なんだ……体中が痛い)

 

 

 

 「アスラン!」

 アークエンジェルから通信が入る。

 「……ディアッカ!」

 「アスラン・ザラ!聞えるか!?」

 「艦長!」

 「いいか、アスラン! もうアークエンジェルへは戻れん! しかし、イージスは自力で大気圏を突入する能力を有している……機体は大丈夫か!?」

 

 アスランは機体の各部をチェックした、スラスターとアーム一本の損傷があるが……。

 「これか…大気圏突入モード……MA形態に変形……異常はありません!」

 「そうか……Gはスペック上、単体での突入も可能だが、イージスは特にそれが優れている……アークエンジェルの誘導に合わせれば大丈夫だ」

 「……ハイ」

 

 Gは大丈夫……ならキラのストライクも……。

 

 自分で攻撃しておきながら、どうか生きていてくれ、とアスランは思った。

 「敵の攻撃で突入地点がずれた、データを送るからアークエンジェルに合わせろ!」

 「了解しました!」

 イージスにデータを入力し、突入モードをスタンバイする。

 「冷却エアシステム起動……ポイントよし、突入角度合わせ……完了」

 

 

 と、アークエンジェル内のメビウス・ゼロから通信が入った。

 「無事だったか、アスラン」

 「……大尉もご無事で」

 「アスラン……なぜ降りなかった?」

 「俺がやらねば、ならない気がしたからです」 

 「……君は何者だ?アスラン・ザラ」

 「――!?」

 「友を思う責任感、それだけかね? 私には君が――」

 

 しかし、クルーゼはそれきり黙った。

 

 「キラ……」

 

------------------------

 

 

 「うわあああああ!」

 熱い……体が……!

 重力に引かれていく……。

 「アスラアアアン!」

 

 キラのストライクは大気圏に揉まれて、地球へと降りていった。

 

 

 「……追加しても……強襲用か!」

 アークエンジェルが大気圏を降下して行く。

 サイのデュエルはアサルトシュラウドの推進剤と武装を使い果たしていた。

 結局、追いつけなかったのだ。

 「……キラ!」

 サイは、地球に降りていくアークエンジェルと、ストライクを黙ってみる事しか出来なかった。

 

 

 「アークエンジェルの限界点突破を確認! 残存勢力はこのまま月本部へ撤退する!」

 ベルグラーノのアデスは、残った艦隊の戦力に打電すると、残存勢力をまとめて、離脱を開始した。

 そして、地球の見えるパネルを見詰めると、レイ・ユウキを元とした犠牲者達に敬礼をした。

 

 

 「くっ、結局逃がしたか――あの男め! 我々も離脱する! ツィーグラーに打電! サイ・アーガイルたちも呼び戻せ!」

 「ストライク! 大気圏突入の報あり! ――消息不明!」

 「何ッ!? ええい!」

 ナタルは、全軍に撤退命令を出した。

 これ以上の戦闘は無意味である。

 

 

 

 「結局、彼は死んじゃったか――まあ、でもこれで面白くなるかな?」

  アズラエルは、アルベルトにシグーを戻らせながら、一人微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------

 

 星が見える、テラスに、少女が独り佇んでいた。

 

 その、少女は多少不機嫌であった。

 

 父が、約束を破ったことなどはさほど気にしてはいないと思っていた。

 だが、……多少は気にしてはいるのだろう、と思いなおした。

 あの男は、やはり私の父親なのだから、と。

 

 もう一週間近く先伸ばしにされた自身のささやかな誕生パーティーの約束を、今日も破られたのだ。

 

 公のパーティーは二度もやった。

 が、そんなものは意味は無い。

 

 「年頃の娘なら、普通に拗ねてしまうところですわね」

 

 テラスに涼やかな風が流れた。

 心地よかったが、長い髪にはすこし煩わしい。

 

 ……夜空を見上げた少女の目に、赤い光が移る。

 

 「……あれは」

 流星……?

 いや……違う……。

 

 

 なにか胸騒ぎを感じた少女は、外へと駆け出していた。

 

 

 

----------------

 

 「これは……ヘリオポリスで製作されていた…」

 「姫様…ご存知なのですか…?」

  エリカ・シモンズが、驚く。

 「ええ…この目で見ましたから…」

 「そうですか…」

 

 大気圏を突入し、一部が焼きただれたストライクがそこにはあった。

 

 「それでこちらが……パイロットなのですが……」

 運び込まれ、テントで眠っている少年を見た。

 

 ザフトのパイロットらしいが、まだ自分とそう変わらない少年だ。

 そのドッグタグには名前が刻まれていた…。

 

 「う……」

 「パイロットの意識が戻った?」

 「……」

 パイロットの目が開く。

 「……僕は……生きてるの……?」

 パイロットがポツリと呟く。

 「……ええ……貴方は生きてますわ……もう心配はありません」

 少女は、彼の手を優しく握った。

 焦点の定まらない瞳で、彼は少女を見つめた。

 「……君は……誰?」

 

 「私は、ラクス・クラインですわ……キラ・ヤマト……」

 少女は、愛らしい笑みを浮かべてそういった。


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