機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 16 「宇宙に降る星(前編)」

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 『その決断を、きっと幾度と無く後悔する事になるだろう

 でも、俺には後悔する事しか、その時残されては

 居なかったんじゃないだろうか。そんな気も、するのだ』

 

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 「この疫病神(アークエンジェル)とも漸くおさらばか」

 「どうやらネ?」

 メネラオスへのランチに、モラシムが乗り込む。

 アイシャとメイラムが入り口まで随伴する。

 「地球に降りる事になるとは――ユーロに帰ったら、我々も動くぞ」

 「デ、ショウネ」

 「――例え味方でも、もう君らとは、出来れば会いたくないものだな」

 「そう、ネガッてオリマスワ?」

 「フン……」

 

 鼻を鳴らして、モラシムはランチへ消えていった。

 

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 メネラオスのシャトルへ向かうランチは、続々と出発を始めていた。

 アスランは、先程からそのランチへ向かう列に中々並べずに居た。

 

 「居たか! アスラン・ザラ!」

 と、そこへ、バルトフェルドがやってきた。

 「艦長……?」

 「間に合ってよかった……少しいいか?」

 

 バルトフェルドは、手招きした。

 

 

 避難民の姿が見えないところまで来ると、バルトフェルドが切り出した。

 

 「君には世話になったからな、一言、礼を言わせてくれ」

 「あ……」

 「ここまでありがとう。 軍人として、男として感謝する」

 バルトフェルドが、深々と頭を下げた。

 「俺は――」

 「君の友人達の事は聞いたか……?」

 と、バルトフェルドはアスランの顔をうかがう。

 アスランは顔を下げた。 どうやら事情を聞いたらしい。

 「そうか……だが、君だけは降りた方がいいと俺は思う」

 「え……?」

 「友達の思いを無駄にしないことだ――そして、君はこの戦争の根っこに関わりすぎている」

 

 アスランには、バルトフェルドの言わんとしていることが、なんとなく分かった。

 

 自分のように、出来る人間が居る――それが出来るから、やらされる。

 出来るから、やらねばならない――コーディネイターとナチュラルの軋轢はそうして生まれてきたのだ。

 

 アスランが戦うという事は、アークエンジェルという狭い戦争の中で、それが再現されたという事だ。

 

 「ユウキ提督も、そう望まれている」

 「あの人も……? 艦長、あの人は……!」

 「君にだけは言っておいてもいいだろう……軍の上層部にも秘密だがね――君と、同じだよ」

 「……!」

 

 アスランは息を呑んだ。

 

 だから、自分はこうも簡単に船を降りる事が出来るのだろう。

 地球軍の兵器をあそこまで使っておきながら。

 軍の上の人間に――コーディネイターがいたから。

 

 「俺は――」

 

 

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 ガモフのモビルスーツデッキに、補給用のパーツが続々と搬入された。

 アズラエルのアルベルトから運ばれたものである。

 その中には、複製されたブリッツ、バスター用の弾薬や、デュエル用に製造された新兵器もあった。

 「……突撃用の屍布( アサルトシュラウド)ですか?」

 「元々、破損したモビルスーツを補う為のパーツでしたからね」

 アズラエルが、ガモフのメカニックにそのパーツを説明をしていた。

 アサルトシュラウド。

 元々は、ジンやシグーの装甲を補い、火力を強化する補助火器を追加する装備であった。

 アズラエルは、それを破損したデュエルを改修するためのパーツに転用したのであった。

 「後は、パイロット次第かな」

 

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 トールが医務室に見舞いに訪れたときには、サイは既に半身をベッドから起こしていた。

 

 「サイ……大丈夫なのかよ?」

 「大丈夫だって、傷はたいしたこと無いよ」

 その顔には包帯が巻かれていたが、表情は明るかった。

 「――彼女がくれたお守りが、守ってくれたよ」

 ベッドの傍らには、粉々になった、オレンジのアイウェアがあった。

 「ああ……」

 アイウェアのお陰で、サイは眼球への致命傷を避けることができたのである。

 片目のまぶたを少し掠めただけで、視力に影響は無い、とのことだった。

 

 (私の想いが、貴方を守るから――)

 

 サイは、婚約者の顔を思い浮かべた。

 

 「――イージス、想像以上だ……足つき、絶対に地球には下ろさない」

 「おい――大丈夫だって、俺やキラに任せておけよ」 

 そういうと、トールは医務室を出た。

 

 

 

 「キラか――」

 

 サイは、嘗ての日々を思い出していた。 

 良く、婚約者と、キラと三人で遊んだっけか。 

 その日々は、まだ無くしては居ない。

 まだ、取り戻す事が出来るのだ。

 

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 ガモフの艦長室では、アズラエルがホフマンに作戦の説明をしていた。

 「ガモフに先陣を切れと仰るのか?」

 「ええ、あの足つきを沈めるのなら、そうするべきです」

 「うむ……」

 

 アズラエルの作戦は理にかなってはいた。

 

 地球軍の第八艦隊は、その火力こそ恐ろしいものの、モビルスーツ数機による強襲攻撃には無力に等しい。

 地球軍から奪取したモビルスーツと、複数のジンによる波状攻撃、そしてガモフによる突貫攻撃があれば、

 その包囲を崩し、艦隊を根こそぎ倒すことも可能である、というものである。

 

 しかし――大気圏での戦闘となるのだ。

 だからこそ、この作戦の意味はあるのだが、それは艦を自ら危険にさらす、ということでもあった。

 「――その意志がないと言うのなら、 ボクのアルベルトで全て行います」

 「そうは言っていない。 しかし、それでも足つきが落とせるか――」

 言葉を濁す、ホフマン。

 「では、ここで、あの船が地球に降りるのを見ていると?」

 アズラエルは流し目でホフマンを見た。

 「……わかりました。 それでは、ディノ国防委員長と、ロアノーク隊長には私から連絡をさせていただく」

 艦とクルーの命を預かる責任から、即決は出来なかったが――こうも言われては、流石にホフマンも堪え切れなかった。

 「どうも? ボクはあのモビルスーツの整備を監督しています」

 「助かります」

 「――ただし、30分以内に収めてください?」

 しかし、アズラエルはそんなホフマンに余裕すら与えなかった。

 はい、とホフマンが返答を返すと、アズラエルは艦長室から出て行った。

 

 

 「クソッ! なんであんな木星帰りの男を委員長は……!」

 ホフマンは机を叩いた。

 なんとしても、あの男の鼻を明かしてやらねばならない、とホフマンは思った。

 

 

 

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 アズラエルは、過去の日を思い出していた。

 もう、自分にとってはとるにたらない出来事ではあったが、自分のその後の行く末を決める出来事ではあった。

 

 夕暮れ、学校からの帰りだった。

 

 一人の少年を、大勢で待ち伏せて――痛めつける筈が返り討ちに会った。

 

 (やめてよ――勝てるわけ無いでしょ――)

 

 少年の一言を思い出して、一気にアズラエルの時間は現在まで戻る。

 「――時間です!」

 

 アズラエルはシグーのコクピットから、アルベルトのブリッジに居るナタルに告げた。

 そして、ナタルが改めて全軍に、指示をだす。

 

 「モビルスーツ隊、発進準備! ストライクは、ランチャーストライカーを装備! ガモフの砲撃と同時に、全機出撃せよ!」

 

 

 地球に降り始めたアークエンジェルを狙って、アズラエルの部隊が攻撃を開始する。

 

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 「アークエンジェルは降下体勢に――何ッ?」

 

 レイ・ユウキが指示を出そうとした刹那、レーダーに反応ありの声が聞こえた。

 

 「ナスカ級1、ローラシア級2、グリーン18、距離500。射程距離まで予測、15分後です!!」

 「このタイミングで攻撃だと!?」

 「提督! いかがなさいますか!!」

 「舐められたものだな……第八艦隊も。 バルトフェルドに回線繋げ!」

 

 ユウキはアークエンジェルのバルトフェルドに向かって通信を繋いだ。

 

 「アンドリュー、どうやらザフトがやる気のようだ」

 『の、ようですな――いかがなさいますか』

 「無論、降下だ。 アークエンジェルとイージス、アラスカに降ろして、一刻も早く量産せねばならん。限界点まではきっちり送ってやる! ジン1機も通さんぞ!」

 『――了解しました!』

 

 「避難民のシャトル、離脱準備急げよ! コレより本艦はアークエンジェル援護防衛戦に入る!」

 

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ガモフが主砲を発射すると同時に、各艦からモビルスーツが次々と出撃した。

 第八艦隊は船を並列させる密集体型を取っていた。

 正面からの攻撃なら、ビームの一斉射で如何なる敵をも殲滅できるだろう。

 そう、正面からの攻撃なら。

 

 「――モビルスーツ隊は右舷に回りこめ。 アルベルトは正面の艦隊を牽制する! 大型ミサイル! 撃てェッー!!」

 アルベルトから、対艦用の大型ミサイルが放たれる。

 無論、当てようと撃ったものでなく、敵軍への牽制の為のものである。

 

 ミサイルは全てが撃墜、回避された。

 しかし、その瞬間、敵の陣列に僅かな揺れが生じる。

 

 モビルスーツ隊が入り込むのはその瞬間だった。

 「フ……遅いですね」

 先陣を切るのは、アズラエルのダークカラーのシグーだった。

 アズラエルは、地球軍の弾幕を物ともせず、敵の陣営奥深く切り込んでいく。

 そして、その周辺の艦を指揮していると思われる250メートルクラスのネルソン級に、突貫した。

 「――悪く思わないでください?」

 アズラエルはバズーカを構えると、艦橋、エンジン部、推進剤をピンポイントに撃ち抜いていった。

 

 ドォオゥ!!

 

 ネルソン級は被弾箇所に激しい爆発を起こし、動きを止める。

 

 「セレウコス、被弾、戦闘不能!」

 「何ッ! 戦闘開始3分だぞ! なんだ、あのシグーは!?」

 「カスタムタイプの模様ですが、詳細不明! それから後続――Gタイプです!」

 「クッ!」

 メネラオスのユウキの元にその様子が届き、早くも苦戦の予感が、地球軍を包んだ。

 

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 「どこ――」

 

 キラは、じっとその気配を探っていた。

 

 分かる気がするのだ、今の自分なら。

 

 「どこ――アスラン!!」 

 ストライクのコクピットの中、キラは、アスランのイージスの姿を一心不乱に探していた。

 

 

 ハァ……ハァ……。

 

 

 キラは、自分の吐息が、段々大きくなるのを感じていた。

 感覚が、鋭くなっていく。

 そして、痛みが広がっていく――全身の感覚が開いていくように――。

 (……地球軍、ナチュラル……アスラン……)

 

 眼前に、地球軍の艦隊の姿が見える。

  

 (……敵!)

 

 ブォオウ!! 

 

 キラはストライクのバーニアを噴かし、一気に彼我の距離を詰めた。

 「か、艦長!…上です!」

 「何い!?」

 キラのストライクは、連合の艦を回り込む様にロールする。

 

 「敵軍に奪取されたストライクかッ……ガァ!?」 

 

 ズドゥオウ!

 キラのストライクが、連合艦に向けて直上から、インパルス砲アグニを放った。

 

 「ぬぁあああああああ!!」

 

 アンチビーム爆雷も効かない至近距離である。

 ビームは連合艦のブリッジ、そしてエンジンをも貫通した。

 

 「……一つ!」

 連合艦が爆発する。  

 

 「あの白い奴……ストライクとか言ったか?」

 「敵に回るとは……やっかいな!」

 その様子を見ていた、連合のモビルアーマーパイロットが驚嘆した。

 「――おい! 一気に仕掛けるぞ、こいつは並みの敵ではない!」

 

 今度はモビルアーマー・メビウス三機がストライクに攻撃を仕掛ける

 

 「モビルアーマー……三機か!」

 キラはその方向に向けて、態勢を整える。

 「……貰った!」

 メビウスは猛スピードでストライクに接近すると、すれ違いざまにミサイルを放った。

 「……!」

 しかし、ストライクの頭部のバルカン砲、イーゲルシュテルンはすぐさまそれに反応し、迎撃した。

 「……な!?」

 いとも簡単に、自分の攻撃を防いだストライクに、連合のパイロットは驚くも、距離をとって再度攻撃の態勢を整えようとした。

 

 キラのストライクも、すれ違ったメビウスを追撃する。

 しかし、単純な推力はモビルアーマーの方が上である。

 その上、今のストライクは機動性のやや劣る、ランチャーストライカーを装備していることもあり、追いつけなかった。

 

 メビウスの編隊はストライク一度を引きはなすと、フォーメーションを組んで攻撃を仕掛けてきた。

 

 今度は、各機が連続して、砲撃を時間差で放った。

 「……グッ!」

 さすがのストライクも回避しきれず、肩に敵のレールガンをかすめた。

 「着弾! 命中だぜッ!」

 「モビルアーマー乗りを舐めるな!」

 

 連合のパイロットが、ストライクに攻撃を当てたことで、勢いづいた。

 だが……

 「無傷!?」

 「あれが……噂の装甲かよ!?」

 着弾箇所に破損が見られないことに、メビウスのパイロットが驚く。

 「頭を狙え! 直撃すればメインカメラくらいはやれる!」

 メビウス編隊の隊長が部下に言った。

 今度こそは、ともう一度攻撃を仕掛けるため、メビウス三機は旋回。

 再々度、ストライクへと向かった。

 

 しかし、今度のキラには、その動きが手に取るように分かっていた。

 「……モビルアーマーなんかに!」

 キラのストライクは、腰に付けられたアサルトナイフ、アーマーシュナイダーを装備した。

 「やめてよね……邪魔しないで!」

 イメージだけでなく、感触として感じていた。

 

 高速で、メビウスが接近――もう一度、すれ違いざまに時間差で砲撃――

 

 ……ズバアアア!!!

 

 「――え?」

 しかし、メビウスがまた再び、ストライクとすれ違った瞬間――なぜか、メビウス編隊の内の一機が真っ二つになった。

 ストライクが、手に持っていたナイフで、メビウスを切り裂いていたのだ。

 

 「バカ……な」

 僚機のメビウスパイロットは目を疑った。

 

 いくら敵のパイロットがコーディネイターであろうと、高速で移動する自分達を、ナイフで斬れるものか――。

 しかし、それは紛れも無く事実であった。

 キラのストライクは、ナイフで、モビルアーマーを切り裂いていた。

 

 

 「……!」

 キラは、熱くなっていた。 同時に恐ろしいほどに冷静になっていた。周りの事全てが、情報としてしみこんでくるようだ、とキラは感じていた。

 「そこ!」

 「……あ!?」

 またもう一機、メビウスが爆発した。

 メビウスのパイロットは、乗機が被弾した瞬間も、爆発する瞬間も、気がつかないまま絶命した。

 キラがロックオン無しで肩のミサイル……ガンランチャーを射出、命中させたからだ。

 

 

 「なんだ――アイツは、化け物か!?」

 「まるで悪魔だ――白い悪魔だ」 

 

 戦闘をモニターしていた、地球軍のほかのパイロット達にも動揺が走る。

 

 「う、うわああ!! こちら敵軍に奪取されたストライクと交戦中! 応援求む!」

 

 周囲のモビルアーマー群が、一斉にストライクへ攻撃をかける。

 

 「……うわあああああああ!」

 ソレに、キラは吼えた。

 

 ズガガガガガガ!!

 キラは向かってくるモビルアーマーの攻撃を巧みに避けながら、ガトリング銃の雨を降らせた。  

 ランチャーストライカーの肩に装備された120mmの大口径対艦バルカンだ。

 装甲が引き剥がされ、十数機のメビウスが次々に爆発していく。

 

 「次!」

 キラは続けざまに艦へと突貫した。

 「二つ!」

 アグニで豪快に連合軍艦を貫く。

 「三つ!」

 ガンランチャーをブリッジに叩きこむ。

 「四つ!」

 イーゲルシュテルンで弾薬を誘爆させた。

 「五つ……!」

 弾薬が少なくなっている、そこでキラは無駄弾を撃つのをやめ、

 艦に突っ込んだ。フェィズシフト装甲で敵の機銃をはじき、艦に取り付く。

 「……うわああああああ!」

 アーマーシュナイダーをブリッジにつきたて、そのまま艦橋を引き裂いた。

 艦が爆発する。

 

 まさに、鬼神の如き戦いぶりであった。

 

 「……キラ? 凄い……!」

 ミリアリアは驚愕していた。

 戦闘開始六分にしてキラは五隻の戦艦……そして実に千人以上の生命を宇宙に散らせていた。

 

 

 

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 連合艦の前に、突如としてブリッツが現われる。

 ミラージュコロイドを解除したのだ。

 「へ……死ぬぜ……俺の姿を見たら死んじまうぞ!」

 トールのブリッツは、グレイプニールで連合軍艦の艦橋を握りつぶした。

 

 「トール!一人で出すぎないで! ブリッツは乱戦に向いてはいないのよ!」

 「心配すんなって……キラやアズラエル隊長においてかれちまう!」

 「もう……無茶はしないでね!」

 

 ブリッツとバスターは第八艦隊の隊列を、次々に突破していく。

 

 「このおお!」

 バスターは砲を合体させ、超高インパルス超射程狙撃ライフルを放った。

 連合艦がビームに貫かれ、爆発する。

 「どけどけ! 雷神さまのお通りだぜ!!」

 ブリッツはその高い運動性を生かし、母艦をなくしたモビルアーマー達をなぎ払う様に次々と落としていった。

 

 遠距離と近距離、バスターとブリッツ、二つの機体のコンビネーションは見事な物だった。

 

 そして、大型のネルソン級へと、二機は向かう。

 「ミリイ!援護たのむ!」

 「オッケー!!」

 バスターの両肩のミサイルをミリアリアが放った。

 「回避しろ!」

 対峙する連合の艦長が叫ぶ。

 「だめです! 間に合いません!」

 そのまま回避しきれず、いくつものミサイルが艦に命中し、艦は沈黙した。

 「バスター……まさに暴風、破壊か……ああ!?」

 目の前の光景に連合艦長は恐怖した。

 なぜなら、ブリッツが宇宙の闇から亡霊のごとく浮かび上がったからだ。

「"アルテミスの亡霊"か!?」

「俺はザフトの黒い雷神、トール・ケーニだぜ!」

 ランサーダートが艦に突き刺さり、装甲内部で爆発した。

 

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 「カサンドロス、沈黙!」

 「アンティゴノス、プトレマイオス、撃沈!」

 「敵ローラシア級接近!」

 「セレウコス、カサンドロスに突撃照準!」

 「……ぬぅ!?」

 

 悲鳴のような報告が次々メネラオスにブリッジで上がった。

 Gタイプの戦闘力は想像以上だった。

 レイ・ユウキの脳裏にも、最悪の事態が浮かぶ。

 

 

 

 「……本当に降りられるのかね? この状況で!?」

 「お、俺に言われたって……?」

 モビルスーツ・デッキで待機していたクルーゼが、堪らず声を上げた。

 ミゲルが困り果てたように、それに返す。

 クルーゼはデッキに設置されている無線機でブリッジへ繋いだ。

 「……艦長! 私を出せ! 予想以上だ! あの機体らが相手では艦隊が持たんぞ!」

 「クルーゼ大尉……本艦への出撃指示はまだ無い。待つんだ」

 「何を悠長な……イージスも出られんのだぞ」

 クルーゼはイージスを見上げた。

 

 パイロットが居ないのだ。

 

 「だがしかし、――出来るのかね?」

 「やってみるさ……」

 クルーゼは微かに笑みを浮かべた。

 「さすが、エンデュミオンの鷹……分かった! 降下シークエンスのフェイズ3までには戻ってこいよ」

 「近づく敵を牽制するだけだ、問題ない。 そちらこそ……戻ってくるまで落ちるなよ!」

 

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 アークエンジェルのパイロットルーム。

 イザークがパイロットスーツに身を包んでいる。

 「――よせよ」

 

 「……アスラン!?」

 

 アスラン・ザラが、そこに居た。

 

 「貴様! 降りろと言ったろ! 何故だ!?」

 「――自分の意思だ」

 「バカを言うな! 貴様は連合の人間ではないだろうが! ディアッカもニコルも……何を考えている!!」

 

 イザークが、アスランの胸倉を掴んだ。

 「出来る力があるから――」

 「――ふざけるな!」

 「!」

 部屋の壁に、アスランの体が叩きつけられる。

 

 「――だったら力が無いものはどうすればいい! 俺には、出来る力が無いから、平和な場所でうずくまってろというのか!」

 「……違うさ」

 アスランは、イザークを見た。

 

 「俺には、何かの為に戦う事なんて出来ない」

 「……?」

 

 『何故戦わん! アレックス!!』

 父の言葉が、アスランをもう一度刺す。 

 

 「――だから、せめて、戦うお前らが――安全なところに付くのを見届けるまで、代わりに俺がイージスに乗る」

 

 

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 カタパルトから、純白のメビウス・ゼロが発進した。

 と、併せてアークエンジェルは、本格的な大気圏突入の準備に入った。

 「ダコスタ、降下できそうか?」

 「やったことないんだからわかりませんよ!」

 ダコスタが一杯一杯といった風に答えた。

 「おいおい……メイラム、ダコスタは頼りにならん、そっちが頼むぞ」

 「了解、ダコスタ曹長よりは働いて見せますよ!」

 「お、おい……!」

 

 慌てるダコスタを見て、ブリッジのクルーは笑った。

 

 「……大丈夫よ"アンディ"クルーの皆がついてるワ」

 「心配してないさ……やるだけだよ? アイシャ"中尉"」

 「ハイ……"大尉"」

 

 アイシャとバルトフェルドは、二人だけにしか分からない目線を交わした。

 

 

 

 「艦長! モビルスーツ……えっ、アスラン・ザラから通信です!」

 

 「……そうか、繋いでくれ」

 「え?」

 「アスラン!?」

 ディアッカとニコルも思わず声を上げる。

 「アスラン・ザラ、本当にいいのか?」

 「敵にストライクが出ているなら……仲間が無事に降りられる保証はありませんから!」

 「……大気圏での戦闘になる。高度と時間をちゃんと見ていろよ!」

 「はい」

 イージスのコクピットの中、アスランは頷いた。

 

 (良いのか……?)

 しかし、それでもアスランは自問した。

 確かに、このままオーブへ、地球に下りてもなんの解決にもならないだろう。

 だからといって、軍にいて……キラと、敵同士になっていいのか?

 (でも……父上が戦って、イザークも戦って……俺だけが、このまま地球に下りるなんて出来ない…!)

 

 アスランはイージスの操縦桿を握り締めた。

 

 「クルーゼ大尉が先行しているワ……援護を!」

 「了解しました!」

 

 カタパルトの外は巨大な地球のパノラマだった。

 重力にひかれるのを、アスランは感じた。

 「アスラン・ザラ、イージス出る!」  

 

 アスランはイージスを出撃させた。

 

 

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