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『その決断を、きっと幾度と無く後悔する事になるだろう
でも、俺には後悔する事しか、その時残されては
居なかったんじゃないだろうか。そんな気も、するのだ』
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「この
「どうやらネ?」
メネラオスへのランチに、モラシムが乗り込む。
アイシャとメイラムが入り口まで随伴する。
「地球に降りる事になるとは――ユーロに帰ったら、我々も動くぞ」
「デ、ショウネ」
「――例え味方でも、もう君らとは、出来れば会いたくないものだな」
「そう、ネガッてオリマスワ?」
「フン……」
鼻を鳴らして、モラシムはランチへ消えていった。
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メネラオスのシャトルへ向かうランチは、続々と出発を始めていた。
アスランは、先程からそのランチへ向かう列に中々並べずに居た。
「居たか! アスラン・ザラ!」
と、そこへ、バルトフェルドがやってきた。
「艦長……?」
「間に合ってよかった……少しいいか?」
バルトフェルドは、手招きした。
避難民の姿が見えないところまで来ると、バルトフェルドが切り出した。
「君には世話になったからな、一言、礼を言わせてくれ」
「あ……」
「ここまでありがとう。 軍人として、男として感謝する」
バルトフェルドが、深々と頭を下げた。
「俺は――」
「君の友人達の事は聞いたか……?」
と、バルトフェルドはアスランの顔をうかがう。
アスランは顔を下げた。 どうやら事情を聞いたらしい。
「そうか……だが、君だけは降りた方がいいと俺は思う」
「え……?」
「友達の思いを無駄にしないことだ――そして、君はこの戦争の根っこに関わりすぎている」
アスランには、バルトフェルドの言わんとしていることが、なんとなく分かった。
自分のように、出来る人間が居る――それが出来るから、やらされる。
出来るから、やらねばならない――コーディネイターとナチュラルの軋轢はそうして生まれてきたのだ。
アスランが戦うという事は、アークエンジェルという狭い戦争の中で、それが再現されたという事だ。
「ユウキ提督も、そう望まれている」
「あの人も……? 艦長、あの人は……!」
「君にだけは言っておいてもいいだろう……軍の上層部にも秘密だがね――君と、同じだよ」
「……!」
アスランは息を呑んだ。
だから、自分はこうも簡単に船を降りる事が出来るのだろう。
地球軍の兵器をあそこまで使っておきながら。
軍の上の人間に――コーディネイターがいたから。
「俺は――」
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ガモフのモビルスーツデッキに、補給用のパーツが続々と搬入された。
アズラエルのアルベルトから運ばれたものである。
その中には、複製されたブリッツ、バスター用の弾薬や、デュエル用に製造された新兵器もあった。
「……
「元々、破損したモビルスーツを補う為のパーツでしたからね」
アズラエルが、ガモフのメカニックにそのパーツを説明をしていた。
アサルトシュラウド。
元々は、ジンやシグーの装甲を補い、火力を強化する補助火器を追加する装備であった。
アズラエルは、それを破損したデュエルを改修するためのパーツに転用したのであった。
「後は、パイロット次第かな」
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トールが医務室に見舞いに訪れたときには、サイは既に半身をベッドから起こしていた。
「サイ……大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だって、傷はたいしたこと無いよ」
その顔には包帯が巻かれていたが、表情は明るかった。
「――彼女がくれたお守りが、守ってくれたよ」
ベッドの傍らには、粉々になった、オレンジのアイウェアがあった。
「ああ……」
アイウェアのお陰で、サイは眼球への致命傷を避けることができたのである。
片目のまぶたを少し掠めただけで、視力に影響は無い、とのことだった。
(私の想いが、貴方を守るから――)
サイは、婚約者の顔を思い浮かべた。
「――イージス、想像以上だ……足つき、絶対に地球には下ろさない」
「おい――大丈夫だって、俺やキラに任せておけよ」
そういうと、トールは医務室を出た。
「キラか――」
サイは、嘗ての日々を思い出していた。
良く、婚約者と、キラと三人で遊んだっけか。
その日々は、まだ無くしては居ない。
まだ、取り戻す事が出来るのだ。
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ガモフの艦長室では、アズラエルがホフマンに作戦の説明をしていた。
「ガモフに先陣を切れと仰るのか?」
「ええ、あの足つきを沈めるのなら、そうするべきです」
「うむ……」
アズラエルの作戦は理にかなってはいた。
地球軍の第八艦隊は、その火力こそ恐ろしいものの、モビルスーツ数機による強襲攻撃には無力に等しい。
地球軍から奪取したモビルスーツと、複数のジンによる波状攻撃、そしてガモフによる突貫攻撃があれば、
その包囲を崩し、艦隊を根こそぎ倒すことも可能である、というものである。
しかし――大気圏での戦闘となるのだ。
だからこそ、この作戦の意味はあるのだが、それは艦を自ら危険にさらす、ということでもあった。
「――その意志がないと言うのなら、 ボクのアルベルトで全て行います」
「そうは言っていない。 しかし、それでも足つきが落とせるか――」
言葉を濁す、ホフマン。
「では、ここで、あの船が地球に降りるのを見ていると?」
アズラエルは流し目でホフマンを見た。
「……わかりました。 それでは、ディノ国防委員長と、ロアノーク隊長には私から連絡をさせていただく」
艦とクルーの命を預かる責任から、即決は出来なかったが――こうも言われては、流石にホフマンも堪え切れなかった。
「どうも? ボクはあのモビルスーツの整備を監督しています」
「助かります」
「――ただし、30分以内に収めてください?」
しかし、アズラエルはそんなホフマンに余裕すら与えなかった。
はい、とホフマンが返答を返すと、アズラエルは艦長室から出て行った。
「クソッ! なんであんな木星帰りの男を委員長は……!」
ホフマンは机を叩いた。
なんとしても、あの男の鼻を明かしてやらねばならない、とホフマンは思った。
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アズラエルは、過去の日を思い出していた。
もう、自分にとってはとるにたらない出来事ではあったが、自分のその後の行く末を決める出来事ではあった。
夕暮れ、学校からの帰りだった。
一人の少年を、大勢で待ち伏せて――痛めつける筈が返り討ちに会った。
(やめてよ――勝てるわけ無いでしょ――)
少年の一言を思い出して、一気にアズラエルの時間は現在まで戻る。
「――時間です!」
アズラエルはシグーのコクピットから、アルベルトのブリッジに居るナタルに告げた。
そして、ナタルが改めて全軍に、指示をだす。
「モビルスーツ隊、発進準備! ストライクは、ランチャーストライカーを装備! ガモフの砲撃と同時に、全機出撃せよ!」
地球に降り始めたアークエンジェルを狙って、アズラエルの部隊が攻撃を開始する。
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「アークエンジェルは降下体勢に――何ッ?」
レイ・ユウキが指示を出そうとした刹那、レーダーに反応ありの声が聞こえた。
「ナスカ級1、ローラシア級2、グリーン18、距離500。射程距離まで予測、15分後です!!」
「このタイミングで攻撃だと!?」
「提督! いかがなさいますか!!」
「舐められたものだな……第八艦隊も。 バルトフェルドに回線繋げ!」
ユウキはアークエンジェルのバルトフェルドに向かって通信を繋いだ。
「アンドリュー、どうやらザフトがやる気のようだ」
『の、ようですな――いかがなさいますか』
「無論、降下だ。 アークエンジェルとイージス、アラスカに降ろして、一刻も早く量産せねばならん。限界点まではきっちり送ってやる! ジン1機も通さんぞ!」
『――了解しました!』
「避難民のシャトル、離脱準備急げよ! コレより本艦はアークエンジェル援護防衛戦に入る!」
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ガモフが主砲を発射すると同時に、各艦からモビルスーツが次々と出撃した。
第八艦隊は船を並列させる密集体型を取っていた。
正面からの攻撃なら、ビームの一斉射で如何なる敵をも殲滅できるだろう。
そう、正面からの攻撃なら。
「――モビルスーツ隊は右舷に回りこめ。 アルベルトは正面の艦隊を牽制する! 大型ミサイル! 撃てェッー!!」
アルベルトから、対艦用の大型ミサイルが放たれる。
無論、当てようと撃ったものでなく、敵軍への牽制の為のものである。
ミサイルは全てが撃墜、回避された。
しかし、その瞬間、敵の陣列に僅かな揺れが生じる。
モビルスーツ隊が入り込むのはその瞬間だった。
「フ……遅いですね」
先陣を切るのは、アズラエルのダークカラーのシグーだった。
アズラエルは、地球軍の弾幕を物ともせず、敵の陣営奥深く切り込んでいく。
そして、その周辺の艦を指揮していると思われる250メートルクラスのネルソン級に、突貫した。
「――悪く思わないでください?」
アズラエルはバズーカを構えると、艦橋、エンジン部、推進剤をピンポイントに撃ち抜いていった。
ドォオゥ!!
ネルソン級は被弾箇所に激しい爆発を起こし、動きを止める。
「セレウコス、被弾、戦闘不能!」
「何ッ! 戦闘開始3分だぞ! なんだ、あのシグーは!?」
「カスタムタイプの模様ですが、詳細不明! それから後続――Gタイプです!」
「クッ!」
メネラオスのユウキの元にその様子が届き、早くも苦戦の予感が、地球軍を包んだ。
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「どこ――」
キラは、じっとその気配を探っていた。
分かる気がするのだ、今の自分なら。
「どこ――アスラン!!」
ストライクのコクピットの中、キラは、アスランのイージスの姿を一心不乱に探していた。
ハァ……ハァ……。
キラは、自分の吐息が、段々大きくなるのを感じていた。
感覚が、鋭くなっていく。
そして、痛みが広がっていく――全身の感覚が開いていくように――。
(……地球軍、ナチュラル……アスラン……)
眼前に、地球軍の艦隊の姿が見える。
(……敵!)
ブォオウ!!
キラはストライクのバーニアを噴かし、一気に彼我の距離を詰めた。
「か、艦長!…上です!」
「何い!?」
キラのストライクは、連合の艦を回り込む様にロールする。
「敵軍に奪取されたストライクかッ……ガァ!?」
ズドゥオウ!
キラのストライクが、連合艦に向けて直上から、インパルス砲アグニを放った。
「ぬぁあああああああ!!」
アンチビーム爆雷も効かない至近距離である。
ビームは連合艦のブリッジ、そしてエンジンをも貫通した。
「……一つ!」
連合艦が爆発する。
「あの白い奴……ストライクとか言ったか?」
「敵に回るとは……やっかいな!」
その様子を見ていた、連合のモビルアーマーパイロットが驚嘆した。
「――おい! 一気に仕掛けるぞ、こいつは並みの敵ではない!」
今度はモビルアーマー・メビウス三機がストライクに攻撃を仕掛ける
「モビルアーマー……三機か!」
キラはその方向に向けて、態勢を整える。
「……貰った!」
メビウスは猛スピードでストライクに接近すると、すれ違いざまにミサイルを放った。
「……!」
しかし、ストライクの頭部のバルカン砲、イーゲルシュテルンはすぐさまそれに反応し、迎撃した。
「……な!?」
いとも簡単に、自分の攻撃を防いだストライクに、連合のパイロットは驚くも、距離をとって再度攻撃の態勢を整えようとした。
キラのストライクも、すれ違ったメビウスを追撃する。
しかし、単純な推力はモビルアーマーの方が上である。
その上、今のストライクは機動性のやや劣る、ランチャーストライカーを装備していることもあり、追いつけなかった。
メビウスの編隊はストライク一度を引きはなすと、フォーメーションを組んで攻撃を仕掛けてきた。
今度は、各機が連続して、砲撃を時間差で放った。
「……グッ!」
さすがのストライクも回避しきれず、肩に敵のレールガンをかすめた。
「着弾! 命中だぜッ!」
「モビルアーマー乗りを舐めるな!」
連合のパイロットが、ストライクに攻撃を当てたことで、勢いづいた。
だが……
「無傷!?」
「あれが……噂の装甲かよ!?」
着弾箇所に破損が見られないことに、メビウスのパイロットが驚く。
「頭を狙え! 直撃すればメインカメラくらいはやれる!」
メビウス編隊の隊長が部下に言った。
今度こそは、ともう一度攻撃を仕掛けるため、メビウス三機は旋回。
再々度、ストライクへと向かった。
しかし、今度のキラには、その動きが手に取るように分かっていた。
「……モビルアーマーなんかに!」
キラのストライクは、腰に付けられたアサルトナイフ、アーマーシュナイダーを装備した。
「やめてよね……邪魔しないで!」
イメージだけでなく、感触として感じていた。
高速で、メビウスが接近――もう一度、すれ違いざまに時間差で砲撃――
……ズバアアア!!!
「――え?」
しかし、メビウスがまた再び、ストライクとすれ違った瞬間――なぜか、メビウス編隊の内の一機が真っ二つになった。
ストライクが、手に持っていたナイフで、メビウスを切り裂いていたのだ。
「バカ……な」
僚機のメビウスパイロットは目を疑った。
いくら敵のパイロットがコーディネイターであろうと、高速で移動する自分達を、ナイフで斬れるものか――。
しかし、それは紛れも無く事実であった。
キラのストライクは、ナイフで、モビルアーマーを切り裂いていた。
「……!」
キラは、熱くなっていた。 同時に恐ろしいほどに冷静になっていた。周りの事全てが、情報としてしみこんでくるようだ、とキラは感じていた。
「そこ!」
「……あ!?」
またもう一機、メビウスが爆発した。
メビウスのパイロットは、乗機が被弾した瞬間も、爆発する瞬間も、気がつかないまま絶命した。
キラがロックオン無しで肩のミサイル……ガンランチャーを射出、命中させたからだ。
「なんだ――アイツは、化け物か!?」
「まるで悪魔だ――白い悪魔だ」
戦闘をモニターしていた、地球軍のほかのパイロット達にも動揺が走る。
「う、うわああ!! こちら敵軍に奪取されたストライクと交戦中! 応援求む!」
周囲のモビルアーマー群が、一斉にストライクへ攻撃をかける。
「……うわあああああああ!」
ソレに、キラは吼えた。
ズガガガガガガ!!
キラは向かってくるモビルアーマーの攻撃を巧みに避けながら、ガトリング銃の雨を降らせた。
ランチャーストライカーの肩に装備された120mmの大口径対艦バルカンだ。
装甲が引き剥がされ、十数機のメビウスが次々に爆発していく。
「次!」
キラは続けざまに艦へと突貫した。
「二つ!」
アグニで豪快に連合軍艦を貫く。
「三つ!」
ガンランチャーをブリッジに叩きこむ。
「四つ!」
イーゲルシュテルンで弾薬を誘爆させた。
「五つ……!」
弾薬が少なくなっている、そこでキラは無駄弾を撃つのをやめ、
艦に突っ込んだ。フェィズシフト装甲で敵の機銃をはじき、艦に取り付く。
「……うわああああああ!」
アーマーシュナイダーをブリッジにつきたて、そのまま艦橋を引き裂いた。
艦が爆発する。
まさに、鬼神の如き戦いぶりであった。
「……キラ? 凄い……!」
ミリアリアは驚愕していた。
戦闘開始六分にしてキラは五隻の戦艦……そして実に千人以上の生命を宇宙に散らせていた。
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連合艦の前に、突如としてブリッツが現われる。
ミラージュコロイドを解除したのだ。
「へ……死ぬぜ……俺の姿を見たら死んじまうぞ!」
トールのブリッツは、グレイプニールで連合軍艦の艦橋を握りつぶした。
「トール!一人で出すぎないで! ブリッツは乱戦に向いてはいないのよ!」
「心配すんなって……キラやアズラエル隊長においてかれちまう!」
「もう……無茶はしないでね!」
ブリッツとバスターは第八艦隊の隊列を、次々に突破していく。
「このおお!」
バスターは砲を合体させ、超高インパルス超射程狙撃ライフルを放った。
連合艦がビームに貫かれ、爆発する。
「どけどけ! 雷神さまのお通りだぜ!!」
ブリッツはその高い運動性を生かし、母艦をなくしたモビルアーマー達をなぎ払う様に次々と落としていった。
遠距離と近距離、バスターとブリッツ、二つの機体のコンビネーションは見事な物だった。
そして、大型のネルソン級へと、二機は向かう。
「ミリイ!援護たのむ!」
「オッケー!!」
バスターの両肩のミサイルをミリアリアが放った。
「回避しろ!」
対峙する連合の艦長が叫ぶ。
「だめです! 間に合いません!」
そのまま回避しきれず、いくつものミサイルが艦に命中し、艦は沈黙した。
「バスター……まさに暴風、破壊か……ああ!?」
目の前の光景に連合艦長は恐怖した。
なぜなら、ブリッツが宇宙の闇から亡霊のごとく浮かび上がったからだ。
「"アルテミスの亡霊"か!?」
「俺はザフトの黒い雷神、トール・ケーニだぜ!」
ランサーダートが艦に突き刺さり、装甲内部で爆発した。
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「カサンドロス、沈黙!」
「アンティゴノス、プトレマイオス、撃沈!」
「敵ローラシア級接近!」
「セレウコス、カサンドロスに突撃照準!」
「……ぬぅ!?」
悲鳴のような報告が次々メネラオスにブリッジで上がった。
Gタイプの戦闘力は想像以上だった。
レイ・ユウキの脳裏にも、最悪の事態が浮かぶ。
「……本当に降りられるのかね? この状況で!?」
「お、俺に言われたって……?」
モビルスーツ・デッキで待機していたクルーゼが、堪らず声を上げた。
ミゲルが困り果てたように、それに返す。
クルーゼはデッキに設置されている無線機でブリッジへ繋いだ。
「……艦長! 私を出せ! 予想以上だ! あの機体らが相手では艦隊が持たんぞ!」
「クルーゼ大尉……本艦への出撃指示はまだ無い。待つんだ」
「何を悠長な……イージスも出られんのだぞ」
クルーゼはイージスを見上げた。
パイロットが居ないのだ。
「だがしかし、――出来るのかね?」
「やってみるさ……」
クルーゼは微かに笑みを浮かべた。
「さすが、エンデュミオンの鷹……分かった! 降下シークエンスのフェイズ3までには戻ってこいよ」
「近づく敵を牽制するだけだ、問題ない。 そちらこそ……戻ってくるまで落ちるなよ!」
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アークエンジェルのパイロットルーム。
イザークがパイロットスーツに身を包んでいる。
「――よせよ」
「……アスラン!?」
アスラン・ザラが、そこに居た。
「貴様! 降りろと言ったろ! 何故だ!?」
「――自分の意思だ」
「バカを言うな! 貴様は連合の人間ではないだろうが! ディアッカもニコルも……何を考えている!!」
イザークが、アスランの胸倉を掴んだ。
「出来る力があるから――」
「――ふざけるな!」
「!」
部屋の壁に、アスランの体が叩きつけられる。
「――だったら力が無いものはどうすればいい! 俺には、出来る力が無いから、平和な場所でうずくまってろというのか!」
「……違うさ」
アスランは、イザークを見た。
「俺には、何かの為に戦う事なんて出来ない」
「……?」
『何故戦わん! アレックス!!』
父の言葉が、アスランをもう一度刺す。
「――だから、せめて、戦うお前らが――安全なところに付くのを見届けるまで、代わりに俺がイージスに乗る」
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カタパルトから、純白のメビウス・ゼロが発進した。
と、併せてアークエンジェルは、本格的な大気圏突入の準備に入った。
「ダコスタ、降下できそうか?」
「やったことないんだからわかりませんよ!」
ダコスタが一杯一杯といった風に答えた。
「おいおい……メイラム、ダコスタは頼りにならん、そっちが頼むぞ」
「了解、ダコスタ曹長よりは働いて見せますよ!」
「お、おい……!」
慌てるダコスタを見て、ブリッジのクルーは笑った。
「……大丈夫よ"アンディ"クルーの皆がついてるワ」
「心配してないさ……やるだけだよ? アイシャ"中尉"」
「ハイ……"大尉"」
アイシャとバルトフェルドは、二人だけにしか分からない目線を交わした。
「艦長! モビルスーツ……えっ、アスラン・ザラから通信です!」
「……そうか、繋いでくれ」
「え?」
「アスラン!?」
ディアッカとニコルも思わず声を上げる。
「アスラン・ザラ、本当にいいのか?」
「敵にストライクが出ているなら……仲間が無事に降りられる保証はありませんから!」
「……大気圏での戦闘になる。高度と時間をちゃんと見ていろよ!」
「はい」
イージスのコクピットの中、アスランは頷いた。
(良いのか……?)
しかし、それでもアスランは自問した。
確かに、このままオーブへ、地球に下りてもなんの解決にもならないだろう。
だからといって、軍にいて……キラと、敵同士になっていいのか?
(でも……父上が戦って、イザークも戦って……俺だけが、このまま地球に下りるなんて出来ない…!)
アスランはイージスの操縦桿を握り締めた。
「クルーゼ大尉が先行しているワ……援護を!」
「了解しました!」
カタパルトの外は巨大な地球のパノラマだった。
重力にひかれるのを、アスランは感じた。
「アスラン・ザラ、イージス出る!」
アスランはイージスを出撃させた。
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