機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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PHASE 14 「目覚める刃」

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「カガリはキラの元へ帰って行った。

 それにしてもイザークが、あの女を帰すのをすんなり許してくれたのには驚く。

 愚考するに、辛い事だが、イザークには俺と違って、肉親に対する決意があるのだろう」

 

 

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 「歯を食いしばれ、アスラン」

 「……ッ!」

 

 ビダーン!!

 

 「アゥ……!」

 バルトフェルドの張り手が、アスランの頬を思いっきり打った。

 耳がジンジンする。

 「――君の顔を痣だらけにするわけにはいかんからな」

 拳骨で無かったのは、バルトフェルドなりの配慮なのだろう。

 

 ――アスランが周りを見ると、他の少年達全員の頬にも、しっかりと赤い掌の跡が残されていた。

 「エヘヘ……」

 ニコルが痛みを堪えながら笑う。

 アスランも照れくさそうに笑った。

 イザークだけが、そっぽを向いていた――しかし、少しだけ笑みを浮かべながら。

 「――良く帰ってきたな」

 「え……?」

 「なんでもない!」

 

 

 

 

 「艦長に絞られたらしいな?」

 バルトフェルドに修正された後、イージスの整備に戻っていたアスランに、クルーゼが話かけた。

 「ええ……」

 「勝手な行動はするなということさ」

  懲罰が下るかと思っていたアスランであったが、ビンタ一発で済んだ事は意外であった。

 「……申し訳ありませんでした」

 アスランは、自分の行動をクルーゼに詫びた。

 あの時――敵が撤退してくれたものの、クルーゼの援護が無ければ落とされていたかもしれない。

 その自覚が、アスランを謝罪させていた。

 「ン……顔つきが違う。 あの敵のパイロットと何かあったのかね?」

 「え……?」

 クルーゼは、そういったアスランの変化を敏感に感じ取っていた。

 以前のアスランならば、感情が先に来て、謝罪の言葉を述べる余裕など無かったであろうから。

 「いえ、別に何も……」

 「そうかね?」

 アスランは言葉を濁した。

 クルーゼもそれ以上は聞かず、話を切り上げた。

 

 クルーゼは手に持っていたドリンクを飲み干した。

 そして、また何かの錠剤を一緒に飲んでいた。

 

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 「キラ、入りますよ?」

「あ……カガリ?」

 アルベルトのキラの船室に、カガリが訪れた。

  案内してきたオレンジ髪の兵は、ドレス姿のカガリに頬を赤らめていた。

 「気分が悪いそうなので、具合はどうかと思いまして……」

  先刻、アルベルトに帰投してから、キラは船室に篭っていた。

 「――ご案内ありがとう」

 「ハッ! 敬・礼! どういたしまして!」

 案内の兵が退室し、部屋のドアが閉まる。

 

 ――途端に、カガリの様子が変わる。

 「ああ~肩こった! 向こうだと飾らなくて楽だったんだけどな」

 「いや、敵軍相手だからって、猫をかぶらなくてイイってわけじゃないと思うけど……」

 「猫をかぶるって……そういう言い方をするな」

 「ご、ごめん……」

 いつもの変貌振りに、 キラは苦笑する。

 (敵軍に捕らわれていたっていうのに、楽だったって、さすがカガリだな)

 キラは、この義姉の、こういった奔放な振る舞いが好きだった。

 周囲に流されてしまいがちな自分には出来ない事だから。

 少し、危なっかしいところもあるが……。

 

 「本当に大丈夫?何かされなかった?」

 それでも、心配なので、キラは尋ねる。

 暴力を振われた形跡は無いものの、ひどいことを言われたり、監禁されたりはしなかったのだろうか。

 「――アスランは真面目だったからなぁ?」

 「……ハ?」

 もじもじとした様子でカガリが言った。

 「い、いや……お前の友達が良くしてくれたよ」

 カガリの肩に止まっていたトリィが、キラの肩に移る。

 「アイツ……イイやつだったぞ――それと、アイツの仲間もな?」

 「え?」

 カガリは、キラの目を見て言った。

 「ナチュラルにも、イイヤツ居るよな?」

 キラにも、カガリの言わんとしている事が分かった。

 

 キラだって、両親はナチュラルなのだ。

 「わかるよ。でも、僕はナチュラルを許せない……」  

 「――そうか」

 

 嘗て、ウズミにも、ザフトに入隊する前に同じような事をを言われたことがある。

 それでも、キラは死んだ人間を裏切ることなんか出来ないと思った。

 

 「でもオマエ、絶対諦めるなよ。……いつかまた一緒にいられる時が来るさ!」

 「カガリ……」

 

 キラの胸に、アスランとの別れの光景がよみがえった。

 それだけではない。 何故このような事になってしまったのだろうか?

 様々な思いが去来する。 

 

 ――どうしてだろうか? 

 あの時は、未来への不安がありつつも、父も母も居て、アスランと何時か再会できると信じていたのに。

 あんなに、一緒だったのに。

 

 「う……」

 

 「キラ?」

 カガリが、キラの顔をのぞきこむ。

 「ごめん……」

 キラが顔を背ける。

 目の筋に、うっすらと線が見えた。

 「――キラ」

 

 カガリは、キラの肩を抱きしめた。

 「カガリ!?」

 突然の抱擁に驚くキラ。

 「辛いよな――だから、我慢するな」

 そして、本当の姉が、弟にしてやるように、カガリはキラの髪をなでてやった。

 

 「――うぅ」

 キラは、泣いた。

 カガリの胸を借りて、ずっと堪えていた感情を開放させた。

 

 

 

 

 「うあ゛ぁああ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁっ! うあ゛ぁああ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ!!」

 

 

 

 ――よしよし。

 

 カガリは、キラの号泣を聞きながら、彼が泣き止むまで、そうしていた。

 

 

 

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 「もうすぐ、第八艦隊っていうのと合流できるみたいですね」

 ニコルが食堂で、シチューを啜りながら言った。

 「――らしいな、あのカガリって女のおかげかね?」

 ディアッカもピラフを頬張りながら言った。

 

 先刻、ザフトの船が退散したのは、カガリを引き渡した結果だというのは、予想できる事であった。

 

 「僕達、降りられるんでしょうか?」

 「ああ、多分、そうなるんじゃね?」

 

 イージスを見てしまい、アークエンジェルに乗り込む事になり――戦争に巻き込まれてしまうことになった。

 が、それも戦場という非常事態の中である。

 

 第八艦隊――援軍とアークエンジェルが合流できれば、ひとまず、その戦場という非常事態から開放される可能性が出てくるだろう。

 そうなれば、自分達の今後についても、当然決まってくるはずである。

 

 「でも……」

 「でも?」

 「アスランは――降りられるのかな」

 

 アスランはイージスに乗り、その性能を存分に発揮し、幾つも敵を倒し、敵国の要人を独断で解放してしまった。

 状況が整理されれば、そういった責任も逆に問われてしまう事になるのではないだろうか。

 ――そうなればアスランはどうなるのか?

 

 「それから、イザークは? それにボクも――」

 「ええ?」

 

 元の生活になんか、戻れるのかな。とニコルは呟いた。

 自分達は知ってしまった。

 プラントからの移住者であるアスラン、地球から来たイザーク。

 それと比べれば、ニコルは何も知らない。平和な中立国の平凡な少年に過ぎなかったのだ。

 

 でも、その自分ですら――。

 国境の外では、こんな事が日常的に行われているというのを、身をもって知ってしまった。

 

 「降りられるさ、お前は……」

 「ディアッカ?」

 「……チッ、なんなんだろうな!」

 

 ディアッカもニコルと同様に、胸の中に腑に落ちないものを感じているようだった。

 

 

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 「……アスラン! あの時は、ごめんなさい!」

 「いや……」

 「あの時は私、イザークが可愛そうで、貴方の事を考えず、酷いこと言っちゃった。 本当にごめんなさい」

 「君にとっても、イザークのお母さん……恩人だったんだろ?」

 アスランは、先刻の非礼を、フレイから詫びられていた。

 「うん、イザークと一緒に、ずっと私のことを助けてくれて、だから……」

 「……いいさ、俺より、イザークのことを頼むよ」 

 「……うん、ありがとう、アスラン」

 

 アスランはフレイを許した。

 寧ろ、詫びたいのは自分だった。

 イザークの母を死なせてしまった。

 母親を失う辛さは、アスランも知っていたのに――。 

 

 「戦争って嫌よね……早く終わればいいのに」

 フレイが、ポツリとつぶやいた。

 

 「……? そうだな……」

 アスランは同意したが、フレイの様子に、何か――少しだけ、只ならぬものを感じた。

 

 

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 「確かに、艦隊との合流前に追いつくことが出来るが……これでは、こちらが月艦隊の射程に入るまで10分しか時間が無いぞ?」

 ガモフのブリーフィングルームの中、ちょび髭の艦長、ホフマンが言った。

 「ですが、幸いにもこの艦には地球軍から奪取したモビルスーツが三機あります。

  バスターは言わずと知れた大火力の対艦戦を考慮した機体ですし、

  ブリッツは接近装備しか無いけれど、電撃戦法に優れた一撃離脱の攻撃力のある機体です。

  それを汎用性あるデュエルでサポートすれば、十分やれます」

 サイが作戦を承認させるために説明した。

 

 「モビルスーツ戦闘は、数や時間じゃない……そういうことっすよ」

 「でも、やっぱり無茶じゃないかしら?」

 「ミリィは心配しすぎ」

 「トールは無茶しすぎ」

 「……ゴホン」

 浮ついた二人のやりとりに、艦長が咳払いする。

 「――アズラエル隊長はノイマン隊長にカガリ嬢を引き渡した後にやってくる。

 それまでに、なんとしても足つきは僕らで沈める、いいね?」

 サイが、もう一度二人を見る。

 「よっしゃ! 任せとけ!」

 「そうね、作戦としてはベターかも。いいわ、オーケー。 前回の戦闘データもあるしね」

 二人は頷くと、早速作戦開始の準備に掛かった。

 

 「あのアズラエルという男、気には入らんが――」 

 「ご心配なく、ボクだって、ロアノーク隊長の方がいいです。 ロアノーク隊の力、見せてやりましょう」

 

 サイもまた、ホフマンに敬礼すると、モビルスーツデッキへ向かった。

 「まったく、若造どもめが……」

 ホフマン艦長は、そんな彼らを不本意ながら見送った。

 「あんな青臭い連中を……しかも評議員の息子まで……我々ザフトも思ったより、寒い軍隊かもしれんな……」

 

 

 それにつけても、アズラエルとかいう木星帰りの得体の知れない男には、ホフマンも反感を抱いていた。

 コーディネイター・プラント国家の実を反映した実力主義とはいえ、ザフトも軍隊なのである。

 この間まで木星に居た男に、軽々しく扱われるのには、歴戦の兵士であるホフマンには納得がいかなかった。

 若者達の作戦に乗っかる形ではあるが、彼もまた、ロアノーク隊のザフト兵である事を、示さねばならないのだ。

 

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 モビルスーツデッキへ向かう通路の中、サイはトレードマークのアイウェアーを磨いていた。

 ――カガリ嬢返還までの顛末は既に聞いている。

 

 ザフト側では、なぜ地球軍が、カガリを解放したのか計りかねていた。

 しかし、事情を知るサイにとっては、その一連の事件がどのような意味を持つか、おおよそ検討が付いていた。

 

 イージスのパイロットとストライクのパイロット――キラだけで交わされた会話の内容も。

 

 (……キラ、やっぱりオマエは友達を殺せるような奴じゃないよ )

 

 アイウェアーを磨き終えると、サイはまたそれを掛け直す。

 「だから、キラ。……悪いが、カズイの敵は、俺が討つ!」

 

 せめて、キラに、 嘗ての友を殺す業を背負わせない為にも――。

 「これで、必ずしとめるぞ……イージス!」

 

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 「レーダー波に干渉! Nジャマー反応増大!」

 「103、オレンジアルファに、ローラシア級! モビルスーツ、熱紋確認! ブリッツ、バスター、デュエルです!」

 

 ――第八艦隊との合流を目前にして、ザフト艦の接近を告げるアラートが鳴り響く。

 

 「あいつらっ! チィ!合流を目前にして! 総員、第一戦闘配備!」

 バルトフェルドがクルーに対して号令をかけた。

 

 

 その号令はすぐさまアスランの元へと届く事にもなった。

 「!」

 アスランは船室のベッドから飛び起きて、デッキへと向かった。

 もう、体が慣れてしまっている。

 

 アスランは苦笑した。 これではプラントにいた頃と同じだ。

 

 と……

 

 「イザーク!」

 「アスラン!」

 ブリッジに向かうイザークとすれ違う。

 

 「もう、これが最後だ」

 「え……!?」

 「艦隊と合流するまで、落とされるなよ!」

 「……ああ!」

  

 今度は、守ってみせる。

 アスランはそう決意した。

 

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 アークエンジェルが確認できる距離まで接近すると、三機のモビルスーツはフェイズシフト装甲を展開した。

 灰色だった機体が、一気に色づいていく。

 

 

 それを捉えたアークエンジェルからは、イージスが迎え撃たんと発進する。

 「APU起動! 進路オールクリーン! イージス、いけるぜ!」

 ディアッカがアスランに合図する。

 

 「このタイミングで仕掛けてくるとはやってくれるな――持ちこたえるだけで十分だぞ、アスラン!」

 クルーゼのゼロからも通信が入る。

 「ラウ・ル・クルーゼ! メビウス・ゼロ出るぞ!」

 一足先に純白の機体が宇宙へと飛びだした。

 

 「アスラン・ザラ――出る!」

 続いて、イージスが、発進した。

 そして、接近してくるGタイプと同じく、宇宙で鮮やかな赤に変色した。

 

 

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 先行したクルーゼの目に映ったのは背中合わせにぴったりとくっつき、固まって進行する3体のモビルスーツだった。

 「……?」

 その様子を訝しげに見るクルーゼだったが、

 「――ッ! 避けろ! アークエンジェル!」

 何かを”感じて”、クルーゼが叫んだ。

 

 と、三体のモビルスーツはパッと、お互いの機体の距離を離した。

 そして、その消えた影から、大口径のビームが光った。

 

 「――! 機体で射線を隠していた!? 味なマネを!」

 バルトフェルドが叫んだ、回避は間に合わない。

 

 ドゥウウ!

 

 アークエンジェルの後部のスタビライザーをガモフの主砲が掠める。

 ――ガモフの射線を、サイたちが機体の陰で隠していたのだ。

 

 大きく、アークエンジェルの艦橋が揺れた

 「くそっ! 体勢を整えろ! イーゲルシュテルン作動! アンチビーム爆雷用意! 艦尾ミサイル全門セット!」

 

 この砲撃の結果、アークエンジェルの迎撃の態勢が俄かに遅れ、サイたちが先手を取る事に成功した。

 

 

 「モビルスーツを引き離す! 二人は足つきを!」

 「了解!」

 バスターとブリッツがアークエンジェルに向かう。

 サイは、そのままイージスに仕掛けた。

 

 

 サイは前回の戦いから、想定以上にイージスのパイロットの技量が高いことを見抜いていた。

 (それはつまり――手を抜かずに、一気に決めるって事だろ!)

 サイのデュエルは、単機イージスへ直進した。

 

 「デュエル!?」

 「イージスがぁッ!」

 

 

 サイは、先回の戦闘から考えていた。

 ――敵機、イージスは、自分の操るデュエルよりも機動性には

 優れてはいるが、接近戦闘ならば、むしろ自分とデュエルに利がある。

 懐に潜り込めばいけるはず――と。

 サイはライフルで牽制すると、一気に加速してビームサーベルを引き抜いた。

 

 「チイィ!」

 ――今回の戦いは、合流まで持ちこたえればいい。

 そう聞いていたアスランは、リスクの多い接近戦を回避しようとする。

 イージスを変形させ、サイのデュエルから離れようとしたが、

 サイはライフル、バルカン、サーベルを使い分け、それを阻止していた。

 

 「そういうの、隙があるんだよ! テキパキ変形なんかぁーッ!」

  サイは、デュエルのライフルの先端にグレネードを装着すると、イージスに向けて放った。

 「クッ!?」

  至近距離で放たれたグレネードを、イージスがシールドで防ぐ。

 

 ズドォオオオオン!!

 

 と、凄まじい爆発が起きて、イージスのシールドが破損する。

 「盾がッ!?」

 

 イージスやデュエル、Gタイプの持つシールドは高い剛性と、

 アンチビームコーティング仕様を備えている。

 並みの攻撃ならびくともしない。

 

 しかし、デュエルの持つグレネードは、そういった特殊装甲の破壊を目的に作られたものであった。

 

 「――しまった!?」 

 「――うぉおおおお!!」

 

 このチャンスを逃さんとばかりに、爆風の中から、デュエルが現れる。

 「オマエは、俺がやらなくちゃならないんだ!」

 

 イージスは、遂に接近戦に持ちこまれる。  

 「クソォ!こんなところで!」

 やむを得ず、アスランはイージスのクロー・バイス・ビームサーベルを展開させ、デュエルに向けて振りかざす。

 しかし、サイはそれを難なくシールドで受け止めた。  

 「――甘いッ!」

 「ッ!?」 

 

 グァアアンッ!

 

 イージスのコクピットが衝撃を受けて大きく揺れる。

 デュエルに、わき腹にあたる部分を、蹴り飛ばされたのだ。

 

 「グワァ!?」

 吹き飛ばされたイージスは無防備な状態となる。

 「貰った!」

 サイはそのまま、続けて突きを繰り出してきた。

 

 「……なんの!」

 だが、アスランはイージス腰部のバーニアを上手く使い、機体を回転させた。

 イージスの特徴、変形機能の副産物である、可動式スラスターの利点である。

 アスランはイージスの体勢を一瞬で変えて、サイのデュエルのサーベルを上手くいなした。

 

 「!? ……そういう使い方の出来るパイロットなのか! ……ならぁッ!」

 再び、サイは、イージスに迫る。 今度小細工無しの、接近戦である。

 

 (来るのか……それなら!)

 ――アスランは、敢えてソレに乗った。

 

 そして、

 「――ヘァーッ!!」

 ――イージスの脚部サーベルがデュエルを襲った。

 

「……チッ!?」

 が、デュエルはそれをシールドで防いでいた。

「足のビームサーベルだと!? ……そんなものでっ!」

 衝撃でデュエルのシールドを跳ね飛ばすことは出来たものの、デュエル本体には攻撃は届いていない。

 

「……かわしたのか!?」

 

 確実に仕留めるつもりで放った奇襲が、敵に防がれた。 

 アスランは敵のパイロットの実力を、認めざる得なかった。

 

 

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 ――アークエンジェルに二機のモビルスーツが迫る。

 バスターとブリッツだ。

 

 以前の戦闘データを元に、ミリアリアは兵装を選択した。

 「……これなら!」

 ライフルを前に、ランチャーを後ろにして、二機の銃を連結させる。

 ――ライフルを合体させて作る、超高インパルス長射程狙撃ライフルだ。

 名前の通り、本来は遠距離の敵に強力なビーム砲を放つ兵器だが、

 至近距離で放てば、絶大な威力を持つ対艦砲になる。

 

 「いっけええええ!」

 

 ドシュウウウ!! 

 閃光が、アークエンジェルに向かう。

 

 「アンチビーム爆雷!撃てエエ!」

 

 アークエンジェルが、以前バスターと交戦したときと同じく、アンチビーム爆雷を放つ。

 ミラージュコロイドが宇宙空間にばら撒かれ、ビームを減衰させようとする。

 

 「この出力なら、止めきれないわ!」

 

 ミリアリアの読みどおりだった。

 ――バスターのビームは、ミラージュコロイドに威力を削られながらも、撹乱幕を貫いて、装甲に直撃した。

 

 ズバァアア!!

 アークエンジェルの翼のような箇所に、ビームが当たる。

 

 しかし……。

 

 「……ウソ!」

 命中はしたが、ダメージが少ない。

 着弾箇所が熱で融解したのか――赤く変色したようであったが、直ぐに元の純白の状態に戻った。

 「あれって、まさか、ラミネート装甲!? ……アンチビームの撹乱膜とあわせて……よく考えてあるわね」

 

 アークエンジェルの装甲は、敵軍がビーム兵器を実装してくる事を想定して作られていた。

 装甲を幾つかの層に重ねて作る、ラミネート構造にしており、ビームの直撃を受けても、その熱量や運動エネルギーを装甲全体に拡散させることで損傷を軽減する事が出来る。

 熱エネルギーを排熱し続けることが出来る限り、ビームを無効化出来る代物であった。

 

 「そういう装甲なら……実弾兵器で!」

 しかし、ミリアリアは、すぐさま次の手段を講じた。

 バスターにはもう一つ強力な砲がある、対装甲散弾砲だ。

 今度はランチャーを前面に、ライフルを後部に接続する方法を取る。

 ビームより威力は落ちるが、ラミネート装甲にはかえって効果的かもしれない。

 「今度は……これで!」

 ――そのときである。

  

 シュッ……!

 

 「え!?」

 ズドオオオン!

 ミリアリアのバスターが衝撃でゆれた。

 「モビルアーマー!?」

 白い機体がバスターに向かう。

 「エンディミオンの鷹……!? でも、私だって!」

 

 

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 ブリッツがアークエンジェルに攻撃を仕掛けた。

 「ブリッツならば接近されなければ問題ない、迎撃しろ!」

 アークエンジェルはその豊富な武装を生かして、ブリッツを迎撃する。

 「チィ、さすがだぜ……だけどな!」

 トールはブリッツのミラージュコロイドを展開した。

 陽炎状の靄に包まれて、ブリッツは宇宙の暗闇に溶ける。

 「き……消えた!?ブリッツ、ロストしました!!」

 「慌てるな! ミラージュコロイドのステルスだ! ……ひきつけてから、榴散弾頭を撃て!」

 「りょ、了解しました!」

 Gタイプに熟知しているバルトフェルドが、イザークに言った。

 「いいか……撃たせてからだ!」

 「来ました!」

 ――ブリッツがビームライフルを放った。アークエンジェルが被弾し、激しくゆれる。

 「撹乱幕が効いてる! これくらいは被害にもならん……発射角からブリッツの位置を推測……今だ、撃てェ!」

 「了解!榴散弾頭……発射!」  

 アークエンジェルが特殊な散弾ミサイルを発射した。

 「ミサイル? ――なにッ!?」

 ミサイルの先端部が外れ、中から細かい散弾が放たれる。

 「チィッ!」

 

 トールは急いでミラージュコロイドを解除する。

 ――フェイズシフト装甲と同時には使えないのだ。

 トリケロスを盾として構え、攻撃に耐える。  

 「いいか、間を与えるな、イーゲルシュテルンを自動照準で撃ちまくれ!」

 次いでバルトフェルドは、機銃で弾幕を張った。

 

 「くそ、さすがだな……まあ元々そっちのもんだしな!」

 ただ攻撃するだけではあの船落とせない。

 そう感じたトールは、別の方法をとることにした。

 

 

 

 

 「若造どもは良くやっているな! よし艦砲、撃て!!」

 ガモフのホフマン艦長が攻撃を指示する。

 ガモフの主砲がアークエンジェルを襲う。 今度は尾翼の部分をかすめた。

 

 「あたったか!? ……ダメージコントロール確認! ……ダコスタ!」

 「やってます! でも、まずいですよ、回避アルゴリズム、解析されてるかもしれません」

 「この人員ではどうしても動きがな……仕方ない、ランダム回避運動をとれ!」

 「……いえ、自分がなんとかやってみます!」

 「出来るのか?」

 「やって見せます!」

 

 再度、ガモフからビーム砲が放たれる。

 「ええい!」 

 今度は、ダコスタが回避運動をとる――見事に主砲を避けた。

 「やるじゃないかダコスタ……! よし、こちらも艦砲を使うぞ!」

 バルトフェルドが、ゴットフリートの砲門を展開しようとした。

 

 

 

 ――その時である。

 

 

 「よっしゃああああぁああああ!」

 

 

 ――敵機接近のアラートが、アークエンジェルのブリッジに鳴り響いた。

 

 「ポイントゼロ! 敵機の反応あり!」

 「ゼロ距離だと!? 敵機の反応!?」

 「ブリッツです!」

 「どこだ……直上!?」

 

 

 ――ブリッツは弾幕のため、アークエンジェルには近づけなかったが、ミラージュコロイドを展開し、気づかれないうちにアークエンジェル直上に移動していた。

 「でりゃああああ!」

 トールはブリッツのグレイプニールをアークエンジェルの甲板に放った。

 ガガッ!

 伸びた鉤爪が、アークエンジェルの装甲を掴んだ。

 

 「何をするつもりだ!?」

 「うおおおおお!」

 と、グレイプニールのワイヤーが巻き戻され、それは、ブリッツ自身を引き寄せる。

 猛スピードでワイヤーに引っ張られ、ブリッツはアークエンジェルに突貫してゆく。

 「迎撃!」

 「間に合いません!!」

 ブリッツはフェイズシフト装甲で強引に弾幕を潜り抜け、甲板に取り付いた。

 「不可能を可能にする男! ――黒い雷神、トール・ケーニヒってな!」

 「まずいぞ! あの武器は――!」

 ブリッツがランサーダートを乱射した。

 それを見てバルトフェルドが叫ぶ。

 戦艦に突き刺さり内部で爆発する槍型の炸裂弾である。

 直撃すればアークエンジェルの装甲もただではすまない。

 なんとか、小型のイーゲルシュテルンが、それが突き刺さる前に撃ち落としたが、

 それでも炸裂弾には引火・爆発し、アークエンジェルの装甲を巻き込んで焼いた。

 「――装甲が! いかんか!」

 「ダメージを受けた状態では、廃熱が追いつきません!」

 「クッ――!」 

 

 アークエンジェルの白い装甲に僅かに亀裂が入る。

 ――ブリッツのライフルの照準は、それを捉えていた。

 

 

 

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「バスターか……しかし、その火力、当たらなければどうという事は無い!」

 

 クルーゼは、バスターに向けてガンバレルを射出した。

 バスターにはフェイズシフト装甲がある為、多少の攻撃ではダメージにはならないかもしれないが、

 十分足止めにはなる。

 「……艦隊に合流すれば私達の勝ちだ……!」

 「流石ね……でも!」  

 ミリアリアがバスターの両肩に装備されたミサイルを全弾発射した。

 高速で動き回るモビルアーマーには有効な戦法である。

 「ム……!?」  

 メビウス・ゼロのガンバレルが一つ撃墜された。

 「ほう! だが、まだ落ちんよ!」

 しかしクルーゼは、モビルスーツに唯一勝る、直線の機動力を生かし、

 他のミサイルを避けきった。

 

 距離をとって反転、レールガンを放ち、バスターを牽制する。

 「アークエンジェルはやらせん!」

 「……強い!」

 クルーゼは、モビルスーツとモビルアーマーという宇宙空間に置ける絶対的な機動性の差を、

 経験と技術で見事に埋めていた。

 

 ミリアリアのバスターはといえば、クルーゼの巧みな動作と、ガンバレルによって動きを封じられている状態であった。

 だが……

 

 「クルーゼ大尉、アークエンジェルが!」

 「何……!?」

 クルーゼの元に、ディアッカから、ブリッツがアークエンジェルにとりついたとの連絡が入る。

 急いで戻ろうとするが、今度は逆に、バスターがクルーゼを足止めする。

 「させないわよ!」

 ミリィがバスターのランチャーをショットガンモードにして放つ。

 「チッ!」

  小口径ゆえ貫通力はないが、広範囲の面の攻撃が、メビウス・ゼロの装甲を粉砕した。

 「ええい……貴様にかまっている暇は無いというのに!」

 

 

 

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 「なめるなぁぁぁーーーっ!!」

 サイはイージスの攻撃に動じることなく、再度ビームサーベルを振りかざした。

 「コイツ、やる!? ……赤か!?」

 アスランがいつの間にか防戦に追い込まれていた。

 「ここで、仲間も守れずにやられるか!」

 「イージス……カズイの仇は、俺が取る!」

 

 イージスとデュエルは、お互いのパイロットの意志を反映するかのように激しく斬り合う。

 

 それぞれ、今守るべき仲間と、今は亡き仲間との為に。

 

 「ビーム・ベイオネット!」

 サイは、デュエルのビームライフルの、先程までグレネードが付いていた部分に、ビームサーベルを装着させた。

 デュエルのビームライフルの先端には、ウェポン・ラックが付いており、

 様々な装備が追加できるようになっていた。 

 

 「銃剣になった!?」

 サイのデュエルは、ライフルにサーベルを付けると、それを銃剣のように取り回した。

 

 ライフルを放ち、牽制しては、近づいて攻撃する。

 攻防一体の、間合いを重視した武装である。

 

 「くそ!」

 アスランは両腕のビームサーベルを展開してそれを防いだ。

 

 「イージスが二刀流だって!? やるけどっ!」

 2本のマニピュレーターを使用する二刀流は、勿論それだけ操作も困難になる。

 また、ビーム・サーベルは接触したものを容赦なくビームの粒子で切断する武器である。

 誤って自分の機体を傷つけてしまう心配もある以上、両手にビームサーベルを展開して使うのは熟練したパイロットでも中々出来ない。

 センスがなければコーディネイターとて、誰でも出来る技術ではなかった。

 

 「ヘァアアア!」

 「このおお!!」

 二つの腕を駆使して、サイのデュエルの追撃を引きなそうとするアスランだったが、それでも振り切れなかった。

 

 ――そこへ、アークエンジェルから通信が入る。

 「アスランッ! ブリッツに取り付かれた! 持たない! 戻ってくれ!」

 「――なに!?」

 アスランはディアッカからアークエンジェルの危機を知らされた。

 「……アークエンジェルが!?」

 

 急いで戻ろうとするイージスを、デュエルが阻む

 

 「艦に戻る!? ――行かせるかっ!」

 「……どけ、アークエンジェルが……!」

 

--------------------

 

 

 

  デュエルに行く手を阻まれながらも、アスランはアークエンジェルを見ていた。

 ――ブリッツの攻撃で、爆発を起こしたのが見えた。

 

 (やめろ……アークエンジェルには…俺の仲間が乗っているんだ)

 

 

 アスランの脳裏に、皆の顔が浮かぶ。

 

 俺のためにシェルターから出てきてくれた。

 一緒に戦うと言ってくれた。

 帰ってくると信じてくれた。

 

 

 (アークエンジェルを……やらせるか!)

 

 

 ――途端に、アスランは自分の体の奥で、何かが弾けるような感触を感じた。

 

 

 戦闘に高揚――アドレナリン。

 それに似た感じもしたが、もっと別の何かのようにも感じた。

 

 

 熱く、そして冷たく。

 感覚が研ぎ澄まされて――それでいて痺れる様な感覚。

 

 全ての感情がクリアになり、しかし、それでいて確かに感じる――恐怖、不安。

 それは生命が鳴いているかのような体感だった。

 

 

 ただ一つだけはっきりと分かること。

 

 それは――力だった。

 

 (アスラン、お前は、特別なのだ。 コーディネイターの中でも――)

 なぜか、途端に父の記憶がフラッシュバックした。

 

 「うるさいっ!!」

 それを振り払うようにアスランはレバーを思い切り倒した。

 

 すると、全身に痛みが広がった。

 カガリと共にデブリに突っ込んだときの傷の痛みと――もっと別の自分の体の奥底から、自分の体を突き刺すような痛み。 

 

 しかし、それは、心地よかった。

 

 

-----------------

 

 

 

「行かせるかッ、イージスッ!!」

 サイのデュエルが、そんなイージスの隙を突かんと、一太刀を繰り出した。

 だが…

 「……!」

 

 ビュウン!

 

 「なんとッ!?」

 イージスはサイが一瞬消えたかと思うほどのすばやい動きでデュエルの太刀を避けた。

 「デュエル……邪魔だ!!」

 イージスはそのままデュエルの後方に周り、デュエルを思いきり蹴り飛ばした。

 「うわぁッ!?」

 バランスを崩し、飛ばされて行くデュエル。

 「……アークエンジェルを!」

 アスランはデュエルに見向きもせず、モビルアーマー形態に変形するやいなや、

 すぐさまアークエンジェルへと戻った。

 

 

 「……アスラン!?」

 メビウス・ゼロの中、クルーゼは妙な熱を感じていた。

 (なんなのだ、この感覚は……まるで、命そのもののような輝き……?)  

 「これは……一体!?」

 

 

 

 激しい爆音と共に、アークエンジェルのブリッジがゆれる。

 ランサーダートの誘爆によって生じた傷に、ブリッツがビームライフルを放ったのだ。

 「ブリッツのパイロット! やってくれる……装甲は!」

 「もう排熱が追いつきません、このままでは!」

 「ク……!」

 バルトフェルドが狼狽する。

 「コイツで終わりだぜ、足つき!」

 

 トールが、とどめの一撃を放とうとした。

 その時、

 「……やめろおおおおお!!」

 

 モビルアーマー形態のイージスが、高速で接近してきた。

 

 「イージス!? いつのま……うわあああ!!」

 イージスはそのままブリッツに突っ込んだ。

 フェイズ・シフト装甲同士が激しくぶつかり、ブリッツが吹き飛ばされる。

 

 

 「トールがッ!? ……イージス!」

 体勢を整えたサイのデュエルは、ブリッツがやられたのを見ると

 イージスがモビルアーマーからモビルスーツへ変形をしている隙を突いて、背後から攻撃を仕掛けた。

 ――なりふりは構っていられない。

 

 「貰ったぁあああッ!」

 「……!」

 

 ――だが、アスランはデュエルの動きを全て察知していた。

 そして……

 

 「えっ……!」

 サイが、息をのんだ。

 

 (四……刀……流……!?)

 

 

 イージスが、手足合わせて4本のビームサーベルを展開したからだ。

 「う、うわああああああ!!」

 ――四本のマニピュレーターを同時に扱う。 人間業ではなかった。

 

 デュエルの右手に、右足に、左足に、腹部に、サーベルが深く食い込む。

 

  そのうち腹部が爆発し、ショートする。

 「サイ、サイ! 大丈夫か、サイ!」

 「トール! どうしたの!?」

 「ミリィ ……サイが!」

 

 あちこちを切り刻まれたデュエルはそのまま動きを止める。腹部の傷は内部まで達し、コクピットをも巻き込んでいた。

 「目が、目があぁ!」

 ショートし、爆発したコクピットの機器の破片が、サイのヘルメットのバイザーを粉々にしていた。

 サイの顔面からは、血が流れている。

 「あ……うぐああ……ぐああ……」

 「サイ……畜生っ!」

 「トール、これ以上深追いはダメよ……敵艦隊が来るわ!」

 「くそ……解った、引き上げる!」

 トールのブリッツはサイのデュエルを抱きかかえると、ガモフに帰艦した。

 

 (……惨め……惨めだ! キラ、カズイ……!)

 ――サイは、痛みではなく、自分の無力さに泣いていた。

 

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 アスランの耳に、荒い吐息の音が聞こえてきた。

 ――それが、自分のものだということに、気が付くまでしばらくかかった。

 

(……終わったのか? )

 

 無我夢中で、自分が何をやっていたのか良くわからない……。

 茫然自失としながらも、アスランは自分が敵を退けたことは理解した。

 

「アスラン? 大丈夫か?」

「クルーゼ大尉、 平気です」

「アスラン、君は……?」

「……?」

 

 無線機の向こうで、クルーゼが沈黙する。 

「いや、なんでもない、君の働きで艦が護れた……帰艦するぞ」

「わかりました……」

 

 

 二機がデッキに到着する前に、クルーゼの声が聞こえた。

 「――第八艦隊だ」

 

 

 アスランも、機体のレーダーに反応があったのに気づいた。

 その方向を眺めると、アークエンジェルの行く先には、煌びやかとも言える第八艦隊の姿があった。


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