機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

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 陣営入れ替えガンダムSEEDです。

 大昔に某巨大掲示板に書いておりましたものを編集しました。

 お見苦しいところが多いかと思いますが、よろしくお願いします。



PHASE 1 「ヘリオポリスのアスラン」


 ――「アスラン・ザラ」はヘリオポリスに住む、学生である。

 

 本名は、「アレックス・ディノ」と言った。 事情による偽名である

 

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1月25日

『戦争が始まってから11ヶ月が経過した……。  父と決別してから2年になるだろうか。

ヘリオポリスに来てからの日々は楽しいが、ただ父のことだけが気がかりだ。

 オーブ本国に近い、カオシュンが落ちたらしい、

 

父は、プラントは一体いつまで戦争を続けるつもりなのか……。

 ……そう言えばイザークがフレイに手紙をもらったらしい。

 珍しくイザークがからかわれていた。 』

 

 

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 人工陽のあたるキャンパスのベンチで、

アスラン・ザラはタブレットPCのキーを叩いていた。

中立国オーブのコロニーである、ここヘリオポリスに来てからというもの、日記を書くことは彼の習慣となっていた。

 

『15で成人を迎えるプラントと比較すれば、

 今でも学生をやっている事は不思議なものがある。

 だが、今でも父の元にいればザフトで人殺しをやっていたかもしれない……』

 

 アスランはふと手を止めて、

タブレットの画面に、テレビウィンドウを表示させた。

 画面にニュース番組が映し出され、

 キャスターがオーブ本土に近い、東アジア連邦領カオシュンでの戦闘の様子を伝えていた。

 

『一応は中立国ということにはなっているが、完全とはいえない。

オーブも結局のところ地球連合の各国と各種の条約を結んでいる。

勿論、プラントとも不戦条約を結んでいるのだが……いざとなればどうなるかはわからない……』

 

 アスランはニュースを見ながら、日記を追記した。

 そして、戦争の影を感じさせる重いニュースに、思わずため息をついた。

 

 そんな時、彼の脳裏に嫌でも浮かんでくるのは、自分の家族のことであった。

 

 『俺の母は…双方の和睦のために活動していた。 ……しかし、母はナチュラルに撃たれた。

 そのころから遺伝子至上主義者として知られていた父を凶弾からかばって…死んだのだった』

 

 

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 アスランの母は3年前に死んでいる。

 

 夫であるパトリックをテロリストの凶弾から守る為に死んだ。

 

 地球とプラントとの急速な関係悪化を招いた 「マンデルブロー号事件」の収拾の為に、

 彼らが地球に降りたときであった。

 

 アスランの母と父は、共にコーディネイターであった。

 優秀な学者であり、プラントを指導する議員の立場にもあった。

 

 アスランの母はその時、プラントと地球の間を取り持つ、穏健派の立場をとっていたが

 彼の夫、パトリック・ディノは、遺伝子の優劣こそが人間の価値を決めるという

 遺伝子至上主義者として広く知られ、

 事実上のプラント国軍であるザフトを創立をした一人でもあった。

 

 ゆえに狙われたのだ。

 

 

 その時は今のような本格的な戦争には至らなかった。

 しかし、レノアの死によって地球、プラント双方に決定的な楔が打たれたのは確かだった。

 それは、勿論、アスランの父、パトリックにも。

 

 事件以来、アスランの父は変わった。

 自警団の域を出なかったザフトを軍隊として再編し、

 プラントを守る――それどころか、地球に攻め入る軍隊へと変えた。

 

 その頃はまだ14歳の、幼さが残る少年であったアスランだが、

 コーディネイターにとっては兵士となれる歳であった。

 

 

 当然、彼も亡き母の仇を討つために父と共に戦うことを求められた。

――しかし、アスランは父に従いきることが出来なかった。

 戦うことが正しいことと信じられなかったのである。

 

 

 ――そして、『アスラン』は『アスラン』となった。

 母の旧姓、ザラを名乗り、本名である

 『アレックス・ディノ』を捨て――アスラン・ザラとなったのである。

 

 

 

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『ここ最近、プラントに居たころの友達を思い出す。キラ・ヤマトだ。アイツはオレが、戦争を嫌って国を出ただけと信じている。

 アイツにとってオレはアスランでしかない。キラ・ヤマト――今もプラントにいるのだろうか』

 

 

 アレックスがアスラン・ザラを名乗ったのは、プラントを出たときが初めてではない。

最初に名乗ったは、7歳のときだ。

 その頃から既に、プラント、地球圏で命を狙われる身になっていたパトリックは、家族の身を守る為に、

アレックスに「アスラン」という偽名を名乗らせ、母親と共に月に住まわせた。

 

 

 その頃から彼には、親友が居た。

 

 

 キラ・ヤマトは月の幼年学校で同じクラスになった少年だった。

 幼児の頃から、機械いじりが趣味であるアスランと、

 ヒマさえあればコンピュータをいじっているようなキラは、

 似たような趣味を持った良いコンビといえた。

 

 月から共にプラントに移り、そこでも良い友人としての関係を築いていた。

 プラントを出てからもいくらかメールのやり取りはしていたのだが、

 戦争が始まり、Nジャマーによる通信の妨害が入るようになって、

 いつからか連絡もつかなくなった。

 

 アスランはキラとの関係に面倒なモノが入るのを恐れて、キラに自分の正体を明かしていなかった。

 自分が本当はアスラン・ザラではなく、アレックス・ディノという名であることもキラは知らないのだ。

 

 父親に軍隊への参加を強いられたために、プラントを離れる事になったのも知らない。

 そう考えると、キラと会ったのはもう随分昔のことであるような気がしてきた。

 

 

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  アスランはキーを打つ手を止め、タブレットの電源をスリープ状態にすると、

 そのままベンチに寝そべった。

 人工の空を仰ぐと、あの日の事に思いを馳せた。

 

 

 

「行くんだね……アスラン。 いつか、戦争の心配がなくなったら、また会おう」

 

友との別れの日、アスランはキラにプレゼントをした。

 

 何時か地球に行って野生の生き物を見たいと言っていた彼の為に、ロボット鳥を作ったのだった。

 

「プラントに居たら、いつか戦争に巻き込まれるかもしれない。キラも家族と一緒に、此処を離れることを考えたほうがいい」

 

 そこには、此処ではない何処かで、また友として再会したいという思いが込められていた。

 できれば地球のような土地で、本物の鳥でも眺めながら……。

 

 ロボット鳥を受け取ったキラは、ありがとう、と礼を言うと共に、

「プラントと地球でほんとに戦争になるなんてことはないよ……僕の両親だって、ナチュラルだけどプラントに受け入れられているんだから」

そう言ってキラはアスランに握手を求めてきた。

 

 つながれた手と手に、ロボット鳥が乗った。

二人は、その様を見て、笑いあった。

 

 

 

 ――しかし、皮肉にも、その後地球圏の状況は混迷の一途を辿っていった。

 

地球連合がプラントに宣戦布告する原因となった爆破テロ、「コペニルクスの悲劇」が起き、さらには人類が今まで体験し得なかったあの未曾有の悲劇、『血のバレンタイン』が起こってしまう。

 

 それでもアスランはうっすらとした期待を捨てずに居た。

 

 

 

『いつか、平和になったら、キラともまた会える。 父とも…ひょっとすれば……』

 

 

 

 

それは期待や願いや信条というよりは、祈りに似ていたのかもしれない。

 

 

 

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「アスラン?」

 

アスランはキラの呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

「アスラン」

いや、それとも母だろうか? まさか父だろうか?

 

 

「アスラン?」

いや、それならこの名前で呼ぶはずが無い、誰だっけ――?

 

 

 

 

「アスラン!!」

 

「……え?」

 

 アスランが眼を開けると、眼前にはカレッジの同級生、ニコル・アマルフィの顔があった。

 

 そこでアスランは自分が眠っていたことに気づき、あわてて身形を整える。

 

「なんだか幸せそう、女の子の夢でも見てたんですか?」

 

ニコルは柔和そうな、女性と見違えるような顔で微笑んだ。

その後ろで同じく学友のディアッカ・エルスマンも笑っている。

「だらしねえなぁ……アスラン、教授が呼んでるぜ? 今日こそグループワーク終わらせねーと」

 

「ン……ああ、そうだったな」

 

 

 

アスランは現実に還り、タブレットをPCを抱えると、二人のあとに続いてキャンパスの道を歩いた。

 

 

 

 この二人とはカレッジの同じ研究室の仲間である。二人ともオーブ国籍のナチュラルであった。

 

 

 

 

 オーブは南太平洋ソロモン諸島に出来た新興国で、

 極東の「ニホン」という国が、CEへの改暦の際、島の先住民族らと建国した国家である。

「ありとあらゆる人種を拒まず、ありとあらゆる国家に介入しない」

それがオーブの建国の理念であった。

 ゆえに、アスランのようなコーディネイターでもすんなりと留学が出来た。

しかしながら、それでも国土はナチュラルが支配する地球にあるのだ。戦争の火種となりかねないコーディネイターをこうも簡単に受け入れるのは、やはり特殊な事といえた。

 

 

 そう考えると、アスランの目の前にいる二人も、あながちそうした事情と無関係では無い。

ニコルは地球の東ヨーロッパ系を思わせる白すぎる肌をしていたし、

ディアッカはアフリカ系の血を引くこと強く示す褐色の肌をしていた。

 

 人間が紆余曲折の果てに統一国家を持つようになり、宇宙に出るようになっても尚、人種や民族の問題は色濃く残っていた。

 人種や宗教が意味を成さない、遺伝子を調整されて生まれてくるコーディネイター達の間ですら、親や先祖の生まれた国でコミュニティが出来るほどなのである。

 だから、こうした人種の混在をなんら問題なく扱っているオーブという国の土壌は、アスランをとても安心させていた。

 

 

 

 

ディアッカとニコルは、同じ研究室の仲間、

イザーク・ジュールの恋の話で持ちきりになっていた。

 

 

「女の子と言えば、聞いたか? イザークのヤツ」

「フレイ・アルスターですっけ? 凄いですよね」

「アイツもフレイも地球から来た連合の人間だし、

 実は地球からの付き合いだったりすんのかね?なあ、アスラン?」

ディアッカがアスランに聞いてきた。

「どうだろうな」

アスランには検討もつかない話だった。

 

 イザーク・ジュールは、頭の固い朴念仁といった感じの男だった。

 地球連合からの留学生で、金持ちの息子と聞く。

 なかなかの美男子であるはずなのだが、プライドが高く、

 ツンとすました性格ゆえか、まるで女ッ気がない。

 

 対してフレイ・アルスターはお嬢様を絵に描いたようで、

 恋の噂も多く、キャンパスの中でも特に眼を引く女の子だった。

 

  (あの、イザークがフレイ・アルスターとか……)

 

 

 ありえなくはないし、面白い組み合わせだ、とアスランは興味のようなものをもったが、

 それ以上は取り立てて実感のわかない話だった。

 

 無理も無かった。そういった事に縁のない少年時代を送ってきたし、

数年前まではそれどころではなかったのだ。

アスランは、そんな自分が、この様なノンキな恋の話に加わっている事をを自覚すると、

 ひどく奇妙な感覚に陥った――それ以上に、不思議な幸福を感じるところでもあった。

 

「なにニヤニヤしてんの? お前、何か知ってんのか?」

「いや……なんでもないよ」

 それはアスランにとっては、平和の実感であった。

 無意識に、いつまでもこれが続いて欲しいという想いが、そこにはあった。

 

 

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 研究室に着くと、イザークが見知らぬ少女と話していた。

ピンクの髪でずいぶんと美しい、整った顔立ちをしていた。

自分達とそう変わらない年齢に見えた。

 

 少女はイザークに返礼すると、研究室の隅にある椅子に腰掛けた。

 

「おい、アレ誰だよ」

ディアッカがイザークに尋ねた。

教授の客だ、とイザークは言った。

「俺も来客があると聞いていたから、しばらくここで待って貰うことになった」

「何のお客さんなんですかね? 教授独身だし、うちの学生には見えないし――」

ニコルも見知らぬ客を訝しんでるようだった。

 

「ひょっとして、教授、あれでロリコンだったりして」

ディアッカがニヤつきながら、下品な詮索をした。

「ディアッカ!」

ディアッカの過ぎた冗談をイザークが咎める。

 

しかし、

「……そんなことよりイザーク……手紙のことを聞かせろよ!」

「な……手紙!?」

「とぼけるな! フレイ・アルスターへの手紙だよ」

今度はディアッカがイザークをからかい始めた。

見事な反撃だなとアスランは思った。

「知らんとい言ってるだろうが!」

「顔……真っ赤ですよ、イザーク」

ニコルまでそれに乗り始めた。

 

アスランは思わず笑った。 本当に此処は、彼らは、平和であるのだ。

 

「そ、そうだ、アスラン! 教授からだ! プラント製品だから手に入れるのに苦労したらしいぞ」

「おい、ごまかすなよ!」

「う、うるさいな!」

 捲くし立てるディアッカを手で払って、イザークはアスランに小型のバッテリーを渡した。

モビルスーツの部品にも利用されている高性能の電池ユニットだ。

「ありがとう。 コレならすぐにハロにも積める」

「あ、例のロボットですね!」

 

 アスランはショルダーバッグから、手のひらに載るサイズの、

 緑色のボールのようなモノを取り出した。

 自作した「ハロ」というロボットだ。

 

 

 原型は、昔、地球圏で流行したマスコットロボットである。

デザイン自体はアスランのモノではなかったが、

このサイズまで小型化したのはアスランが初だった。

アスランは研究室の机に部品を並べると、ハロに組み込み始めた。

 興味深そうにニコルが覗き込んでいる。

 

 アスランは夢中になって部品を遊んだ。

 

 

 

 アスランは幼い頃から機械いじりが好きだった。

コーディネイターであるが故か、一度分解した機械はどんな構造かすぐ理解できた。

ありとあらゆる機械についての本を読み漁っては、自分で作って試していた。

プチ・モビルスーツのユニットや、電動二輪車まで仲間と作ったことがあるほどだった。

 

 父親のパトリックはそんな子供のアスランを見て「どちらの遺伝なのか……」と頭を悩ませた。

コーディネイターといえど、子供の頃の情緒までは、やはり人間である。

アスランは好奇心に任せて、自分の私物まで分解してしまう子供だったのであった。

 

 母親のレノアは農学のエキスパートであったが、機械工学には疎いタイプであったし、

 パトリックもどちらかといえば、理学や工学よりは、人文科学を愛していた。

 遺伝至上主義の立場をとっていたパトリックは、

 個人の趣向や興味の矛先までも遺伝子が決めるわけではないのだと、幼い息子をみて思ったほどだった。

 

 

 

「出来た……」

とアスランが電源を入れると、ハロの目に当たる部分のランプが光った。

 

『アスラン! ハロ、ゲンキ』

 

途端に、ハロは動作を開始した。コロコロと机の上を転がると、

ぴょーんと、1mくらい飛び跳ねた。

 

「うわっ、このサイズなのに、すごい」

ニコルは驚いた。

『ニコル! ニコルモゲンキカ!』

「ははっ、可愛いな……」

 

 ボイス・データはニコルの声を使わせてもらっていた。

彼は男性であるのだが、透き通るような、優しい、心地よい声をしているのだ。

 

 機械的に合成された音声が出ているので、本人のそれとは少し印象が違っているのだが、

ニコルの声は、そのロボットの愛嬌をずっと良いものにしていた。

 自分の声が小さなロボットから出ているのをみて、ニコルは感動しているようだった。

 

「今度の課題用だけど、こういうのなら、ウケがいいかな?」

とアスランは言った。

 

 ウケがいい、と言ったのは、彼がコーディネイターであるが故だ。

 いくら、ナチュラル、コーディネイターという差別が無いオーブでも、

完全に偏見が無くなる事は無い。

 同級生の大半はナチュラルである。ただでさえ、人間は嫉妬する生き物であるのだ。

遺伝子調整を――正確には遺伝子調整を受けた両親からその形質を引き継いで生まれてきたアスランは、やっかみの矛先となることも多かった。

 と、なれば気を使う。下手に彼らの神経を逆なでしてしまうような難解なレポートや製作物でも出してしまえば、いらぬトラブルを招いてしまうこともあった。

 ハロみたいなモノであれば、ナチュラルの同級生達の気に障ることも無いだろう、と。

だが、

「気遣いのつもりか? それ」

 と、イザークだけは突っかかってくるのだった。

 

 

 

イザークだけは特別だった。いつもアスランに突っかかってくる。

 「別に……」

 アスランは、またか、と思いながら苦笑した。

 

 

 イザークこそ、偏見や差別でそのような態度を取る訳ではないのをアスランは見抜いていた。

 恐らくだが、アスランがコーディネイターであろうと無かろうと、イザークはこういう態度を取ってくるだろう。

 ナチュラルで在るが故の劣等感からではなく、ただ単にプライドが異様に高いのだ。

 コーディネイターであるアスランに真剣に勝とうとしてくるくらい。

アスランは怖い顔をしているイザークを見て噴出した。

「なんだ、なにがおかしい?」

 アスランはそれを不快には思わなかった。

むしろ、イザークがそういう実直さを貫いている男であるのを、好ましく思ってたくらいだった。

「この間イザークが作った太陽電池よりかは面白いと思うけどな」

「なっ……見てろ貴様! 今に……」

 だから、アスランもつい本気になってしまうのだ。

 

 

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ヘリオポリスの外壁まで到着した。

ロアノーク隊長の判断は正しかったようだ。

楽に進入できたことに調子に乗るトール。

そを諌めるミリアリア。

「ナチュラルは管理が甘いな」とサイ。

 

作戦開始時刻までもう少しだ、カズイ達がジンで陽動、その後足つきを爆破。

MSを奪う手筈になっている。

 

僕は許さない、両親と友人を殺したナチュラルを。

 

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ヘリオポリス近くの宇宙空間を、エンジンを使わない、ボートのようなものが泳いでいる。

ザフトの艦から発進された「ランチ」と呼ばれる小型艇である。

 

 本来は船からの乗り降りや、船から船への移動に使う乗り物である。

 

今は、一直線にヘリオポリスを目指した。

 

 この乗り物は発射時に少しだけ力を加え、慣性に従ってずっと移動するので、

移動に熱を使わない。 コレくらいの質量と体積であれば、コロニー側も隕石か何かと思って

警戒しないはずであった。

 

 

 コロニーの外壁につく瞬間、エアバッグを広げた。そのままぶつかる形で、コロニーの壁にとりつく。

本来はバーニアをふかして減速するが、熱を出せばレーダーに感知されてしまう。

 

 それは明らかな隠密行動であった。

 

 

 ランチに乗っていたのは、ザフトの特殊部隊。

 

――キラ・ヤマトの姿も、その中にあった。

 

 

 

 

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 ヘリオポリスのベイ・デッキに一隻の地球軍籍の船が停泊していた。

地球連合軍内で多く使われている、些か年式の入った輸送艦である。

 表向きは、ヘリオポリスに資源の受け取りのために寄航した、ということになっている。

 

 

その船のブリッジには二つの陰があった。

一人は、スーツを着たどれかと言えば政治家のような雰囲気をした男性。

 

  

  

 もう一人は、地球連合軍の白い制服に、サングラスを架けていた。

 

 エンデュミオンの鷹、と呼ばれる連合のエースパイロット、ラウ・ル・クルーゼである。

 

(中立国とはいえ、資源の輸出で連合・ザフト両方に商売が出来るのだ。

 今回の計画のような事がなくても、戦争に参加してないと誰が言えようか……)

 彼はヘリオポリスの宇宙港を見ながらそんなことを考えていた。

 

 

 

――ヘリオポリスは、元々は宇宙開発の為の資源を調達する、資源衛星であった。

 だから、地球連合の船でもそういった取引ということであれば怪しまれることはない。

 

 

 CE元年以後、地球圏の国家は、こぞって宇宙に入植地(コロニー)をもつようになった。

 

 

 その理由が、そもそも西暦から、新暦であるCE(コズミック・イラ)へと

 移行する原因となった国家再構築戦争(第三次世界大戦)である。

 

 地球上の人口が、とうとう国家の中で制御できなくなるほど膨れ上がると、

 食料・資源の深刻な枯渇が始まった。

 

 その奪い合いこそが、先に述べた 地球上の国境線をほぼ書き換えることになった大戦である。

 

 人類はその人口を大幅に減らすという、余りに大きな犠牲を経て、

 宇宙という未開拓地の資源に、危機解決の糸口を掴んだのだった。

 

 それ以来、宇宙は人類にとって希望の大地であった。

 

 

 その価値観は今日における、コーディネイターとナチュラルの戦争においても、深く根ざしていた。

 

 宇宙開発における権利の摩擦。それこそがこの戦争の原因の一つである。

 

 

 

 

――だから、こうして連合とザフトの戦時中にも関わらずうまく立ち回っているオーブに対して、クルーゼは嘲笑の一つでも浮かべたくなるのだ。

 

「……中立国とは聞いて呆れたものだな」

クルーゼは言った。

 

「だがそのおかげで計画もここまでこれたのだ。あとは双方の思惑が何処まで通るか、といったところさ」

クルーゼが言ったセリフにブリッジにいた、もう一人の男が返した。

黒いスーツを着込んだ男である。

 

 このコロニーで作られているのは、地球軍の秘密兵器であった。

 ザフトのモビルスーツの圧倒的な性能に、苦戦を強いられていた地球軍は、

 コーディネイターをも擁し、高い技術を持っているオーブに力を借りることで、

  起死回生の力を持つ、スーパー・マシンを生もうとしていた。

  

 ラウ・ル・クルーゼの任務は、それに乗り込むパイロットたちを地球からここまで護衛してくることであった。

 

「彼らの上陸は済みました……このまま万事上手くいけば良いのですが」

「”エンデュミオンの鷹”のカン、というヤツかね?」

スーツの男が、クルーゼのサングラスの奥を覗き込む。

 

「しかし、戦いとはいつも2手3手先を考えておこなうものだ。

 ……どう転ぼうと、オーブに技術を流した、という事は逆もまた可能ではないのかね?」

「なるほど」

 

その男の言葉に、ラウは腑に落ちた様子であった。

 

 が、そうは言ったものの、クルーゼにとって、各々の勢力の動向などは今はどうでも良かった。

彼は軍人としてここに来ているのだ。責務を果たすべく動くだけである。

 

「では、私はまだ済まさねばならないことがあってね。 後は頼むよ、ラウ」

 

スーツの男は親しげにラウの肩を叩くと、船を降りていった。

 

 

 

「相変わらずはしっこい男だな、ギルバート・デュランダル……」

 去った背中にそう言うと、ラウはブリッジの窓から見える、ベイ・デッキのエアロックに視線を向けた。

「……?」

ふと何かの気配を感じたような気がしたからだ。

 

サングラスの奥に隠された視線は、コロニーの壁の向こうにある、宇宙を見詰めているようだった。

 

 

 

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 ヘリオポリス側のレーダーからギリギリ発見されない距離に、

 ザフトの新鋭宇宙戦艦「ヴェサリウス」の姿はあった。

 

「そう難しい顔をするなってナタル、折角の美人が台無しだぞ?」

 そう言いながら無重力のブリッジに浮かぶのは、黒いザフトの軍服を着込んだ仮面の男。

ザフト特務隊隊長、ネオ・ロアノークであった。

 

「しかし、評議会からの返答を待ってからでも遅くはないのでは?」

 ネオに副官のナタル・バジルールが返した。

軍人らしく、髪を短く切り込み、精悍な印象が強い女性だが、ネオの言う通りのかなりの美人である。

 

 「前線で功を立ててこそ、自分がザフトである意義があるとは思わんか?」

 冗談めいてネオが言った。そのセリフは、彼の異様な風貌に反して、ひどく軟派な印象を感じさせた。

 「それは本心で?」

 訝しげにナタルが言った。ネオは口元だけをゆがめると、

「ま……アレは新たな戦いを産み落とす、戦乱の種と言う奴だ。見過ごすわけにはいかないさ」

 と言葉を続けた。

 

 ネオは、一枚の写真をナタルに投げた。

 それは無重力の中をくるくると回転しながら飛ぶ。

 

 ナタルがそれを手に取ると、そこには地球連合が開発したとされる、新型モビルスーツが写されていた。

 

 眼前に見える、中立国所有のコロニー。

 その中にあってはならぬ筈の敵軍の新型兵器。

 ネオは、本国からの命令を待たず、独断でその機体を奪取、もしくは破壊しようとしていた。 

 

 「言ったろ? 俺もザフトだ……地球軍の新型機動兵器、あそこから運び出される前に奪取する」

 

 そういうとネオはブリッジ・クルーに合図した。

 クルーは無線で、コロニーに先行している部隊の兵達に、作戦実行の意を告げた。

 時計は、回りだす。

 

 

 

 

 

 コロニー外壁から内部に通じるエア・ロックが開いた。

 内部に潜入した工作員が上手くやってくれたようだとキラ・ヤマトは思った。

「ナチュラルは管理が甘いな」

 部隊の仲間である、サイ・アーガイルが言った。

「楽勝!楽勝! サクッと新兵器とやらを頂いて帰ろうぜ!」

「トールは調子に乗らないの!」

 それに続いてトール・ケーニヒとミリアリア・ハウも言った。

 そんな彼らを見て、キラは微笑む。

作戦開始のプレッシャーが、仲間達のお陰で少し和らぐ。

「ヴェサリウスから、作戦は予定通り開始するとの連絡があった。 行こう」

 

 

 赤いノーマルスーツ――これはロボットであるモビルスーツに対して出来た言葉で、人が着る宇宙服のことを言う――を着込んだキラが、同様のスーツを着た少年達に合図をした。

 

 彼らは皆、ザフトの兵士。

 Zodiac Alliance of Freedom Treaty――ZAFT(ザフト)。 自由条約黄道同盟の頭文字をとった、プラントの為の義勇兵である。

 

 長引く戦争によって慢性的な人的枯渇に陥ったザフトは――いかに一人一人が、高い能力を持つコーディネイターであるとしても――年端もいかない少年たちまで最前線の兵士として徴用せねばならなかった。

 

 しかしながら、彼らの着ていたスーツは、ザフト正規の緑色とは異なる真紅――。

 特務隊に所属する、精鋭なのだ。

 

 

 

 

 

 

 キラ達が、コロニー内部に侵入したという報告は、すぐさまヴェサリウスにも届く事になった。

 

「よーし、ボウズどもは無事に進入できたな、行こう! ……慎ましくな」

「了解!抜錨!ヴェサリウス発進する!」

「……発進と同時に機関最大! さーて、ようやくちょっとは面白くなるぞ、諸君!」

 

 陽動の為、ヴェサリウスがコロニーに向けて動き出す――。

 


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