「んあ~、良く寝た~」
朝の光とどこからか聞こえてくる鶏の鳴き声
この世界に来てからずっと同じの目覚めのタイミング
「起きた、みたいだな、宿屋の女将さんが、朝飯の用意が出来たって、言ってたぜ」
布団から出て軽く伸びをしていると横からマム助の声が聞こえる
朝っぱらからフン!フン!と鼻息を荒くしながら教えてくれるがその原因は
「それにしても朝の鍛錬は良いよな」
とこれまたいつもの事であるマム助の鍛錬
器用に尻尾で丸っこい体を持ち上げて腕立て伏せのように体が上下していた
「なぁ、毎回思うんだがそれって効果あるのか?」
「何言ってるんだよ。この鍛錬方法はマムルの間では常識だと何回も言ってるだろ」
そう、この腕立て伏せもどきは有名なものらしく聞いた当初は唖然としていた
実際にこの鍛錬方法でマムルからどうくつマムルにまでレベルアップしたのがいたらしい
で、マム助もレベルアップを目指して頑張っているわけだ
しかしこの光景をみていると、あのふわふわでやわらかそうなマムルが実は筋肉質とか、どうくつマムルが強い理由が分かった気がする
「98、99、100回!よし終わった!」
無事100回終わったマム助は最後にぴょんと飛び上がりくるりと1回転した後に着地、うん10点満点だな
「さて、朝ごはん食べに行くぞ」
「そうだな」
これまた尻尾をばねの様にして飛び上がったマム助は綺麗に俺の頭に飛び乗った
感じ的には某黄色いネズミを乗っけたようなものだ
その後部屋を出た俺たちは女将さんに挨拶をして、他の宿泊客と一緒に朝食を頂く
「ほらあ~んしろ、あ~ん」
「あ~んむぐむぐ、美味い!」
頭に乗っていると食べ難いのでマム助には降りてもらって、朝食の焼き魚を解して食べさせる
野宿している時はマム助は焼き魚なんて頭からガブリと食べるのだが分別は弁えているみたいでお店では俺が食べさせるようにしている
なんか周りから微笑ましい視線を感じるがこれは毎回の事なのでスルー
俺も焼き魚口に放り込み、味噌汁を啜る
マム助に食べさせつつ俺も食べるので時間が掛かるが、まぁこれは仕方がないと割り切っている
「「ごちそうさまでした」」
綺麗に食べ終わり両手を合わせて(マム助は尻尾を顔の前にもってきて)合掌
食の神ブフーに感謝をして食事を終える
「朝ごはんも食べたし、そろそろ行くか」
「そうだな」
今度は肩に乗ったマム助と出発の相談をしながら部屋に戻る
敷かれていた布団は食事中に宿屋の人が片づけたので部屋にあるのは俺達の荷物
風来人というかシレンが着けている三度笠と縞合羽に冒険で必要な武器やその他もろもろ
まぁ武器とかのゲーム的にいうと持ち物に当たるそれらはそのまま置いてあるわけではなく革の肩掛け鞄に入っているんだけどね
この鞄は俺が風来人として旅立つときにある方から頂いた大事なもの
見た目と収納量が一致しない不思議な鞄でどこかのタンスを知ってこれを作ってみたらしい
「さて行くか」
鞄を肩に掛け、縞合羽を羽織り、三度笠を被って準備は完了
宿屋を出る時に女将さんから大きなおにぎりを貰い、鞄に仕舞いつつ歩いていると目的のダンジョンの入り口に着いた
「うわ~、いかにもダンジョンですって感じだな」
「そうだよな、正に不思議なダンジョンってか?それより今回はどこまで潜るんだ?」
とマム助が聞いてきたが、ふむどうするか
ゲームとかなら階層とかが表示されている場面だけど、ここは俺にとっての現実
当然そんなものはあるわけもなくて、しかも最近出来たばかりのダンジョンだからどこまで深いとか何があるとかの情報もない
しいて言えばこのダンジョンは持ち込みはOKぐらいだろうか
「う~ん、とりあえず行けるところまでってことで」
「おいおい、そこは最深部に行くぜ!って言うところだろ。もっと自信を持てよ」
いやいや初見ダンジョンで最深部は無理だろ
中には100階以上のダンジョンもあるんだから
「そんなことより早く入ろう。そのために来たんだからさ」
「おう!それじゃ新しい刺激を求めて突撃だ~」
なんかガンガン行こうぜ的な事言ってるけどお前俺の肩に乗ったままだから
* * * * * * * * * *
とりあえず進行具合はダイジェストでお伝えします
「やべ!デロデロの罠だ!」
「どうすんだよ!オイラお腹が空いて倒れそうだぞ」
「…よしこうなったら地雷で焼きおにぎりに…」
「馬鹿止めろ!お前体力僅かじゃねえか、遠くから矢で狙われたらどうすんだ!」
「しかし…あっ!あそこににぎりへんげが!待て逃げんな!」
「なぁこの草ってなんだろ?」
「とりあえず飲んでみれば?」
「そうだな。ゴクン…うげ~~、これ毒草だ。なんか体がしびれて動けないんだけど」
「まじかよ。毒消し草ないんだけど」
「よし、嵩張っていた杖を合成の壺で合成したぜ。後はこれを適当な壁にぶつけて」
「おい馬鹿止めろ!」
「て~い、…あれ?」
「その腕に付けてるのはなんだった?」
「あ!遠投じゃん。やっちまった…」
「やば…い、体力…が」
「早くいやし草飲めよ!」
「さっき、異種…合成して、無いんだけど…」
「うお~い!?万が一の為に残しておけよ!」
とまぁ色々とあったがやっと最深部に着いたわけで
「長かった、あそこでお店が無かったら確実に死んでた」
「確かに、大体は不注意が招いた事故だったけど」
え?色々ダンジョン攻略したはずなのに杜撰すぎる?
どれもこれもこんな感じでギリギリでしたよ?
多分マム助がいなかったら全部死んでた気がする
そうそう、この世界の死って結構軽いから
ダンジョン内限定だけどリーバ八獣神の加護なのかどれだけ死にかけても一命は取り留めて近くの村に放置されるんだよね、ゲームみたいにさ
「そんなことより多分ここが最深部なんだけど…」
必死にダンジョンを進み、階段を下りた先がここで、周りには出口も階段もない
唯一あるのは金色に輝く像、リーバ八獣神の一柱を象っていた
普通ならこの像が動き出して戦闘開始ってなる気がする
『ようやく来たか、異次元の旅人よ』
聞こえてきたのは厳かで威圧感も感じつつ、しかし聞いたことのある声
「おいおい、この声って」
どうやらマム助も気付いたみたいだ、誰の声なのかを
『久しいな、何年振りだったか」
「3年半振りじゃないか?季節が3回廻ったし」
『そうか、それにしてもまさかこれほどの風来人として成長するとはな』
「当たり前だよ、言っただろ?シレンの様になりたいってさ。それでどうしたの、わざわざ世間話をしに来たんじゃないんだろ"リーバ"?」
先程から声を発していたのは目の前の金色の像
しかし、ただの像のモンスターではなくリーバ八獣神の主神であるリーバの一部が宿る像
そして俺に風来人として道を示してくれた恩ジンでもある
『神にそこまでの口をきくのはあのイタチとお前ぐらいだ』
「いや、そんなことはどうでもいいからさ、要件は?」
滅多な事では姿どころか声すら発しないリーバが語りかけてきたのだ
何かあるに違いない
『そうだな、時間も僅かしかないので話させてもらおうか。簡単に言えば別の世界へ行ってほしい』
「は?ちょ、ちょっと待った!どういうことだよ!」
『何お前なら知っているだろ?二次小説だったか?それに良くある別世界に行くというものだ』
「いやいや、急に言われても、しかもなんで二次小説なんて言葉知ってるんだ」
『簡単な事だ、ギトーがお前の記憶を盗んでいた。ただそれだけだ』
え!?ギトーって確か泥棒神だよな?あれ、もしかして俺の記憶って八獣神みんな知ってるの!?
『驚くことではないだろ、なにせ異世界からの訪問者だ。用心するにはこしたことはないだろ?』
それで俺の記憶覗いたのかよ!
『ともかくだ、お前に頼みたいことがある』
頼み?神様が?
『この不思議なダンジョンは様々なところに繋がっているのは知っているな?』
それは知っている
黄泉の世界だったり、バナナな世界だったり、他にも色々と
『だがそれらは別の世界に感じるが実際はこの世界の一部だ。お前の感覚では風来のシレンというゲームという括りだな』
主神がいきなりメタ発言
いいのかこれで
『しかし、最近こことは違う、別の世界へと繋がる道が出来てしまった』
「別の世界?」
『そうだ、この世界の理と似ているようでまったく違う世界だ。その為こちらに影響がないかどうか調べて来て欲しいのだ』
「ふうん、それでその道ってどこにあるんだよ」
『ここだ』
突然大地が揺れ、近くの土壁が崩れ、そこにはぽっかりと大きな穴が開いていた
「おいおい、ここにその噂の道があるってことは、もしかしてダンジョンが出来たのって…」
『そうだ、この別世界へ繋がる道に一般人が入るのを防ぐためだ』
「なぁ、オイラ思ったんだけど、運命を操ることが出来るなら態々ダンジョン造らなくてもどうにか出来るじゃないか」
『ふむ、確かにそうなのだが、この辺りは別世界との境界が曖昧だからなのか上手く出来ないのだ』
「へぇ、神様でも無理な事があるんだな」
『そもそも我々は人間が存在を認識しなければ…いや、この話は関係ない事か。少々脱線したが調査をしてきてもらえるか?』
リーバには恩義があるから頼まれたら承諾しても良いけどさ
「一つ聞いても良いか?」
『なんだ?』
「どうして俺なんだ?」
これは俺の疑問
このような異常事態でも主人公であるシレンならどうにかしてくれるだろう
なのに白羽の矢が立ったのは俺
シレンを目標に風来人を続けているが実力は雲泥の差で俺が負ける
それをリーバが知らないはずがないのだ
『そうだな、お前ならどのような世界でも順応出来ると信じているからだな。実際にお前はこの世界で生きてきた。我々の加護があるにしても一歩間違えれば死ぬ世界でだ』
神様に信じられるとか凄い事なんだろうけど、それよりもなんか恥ずかしい
「おいおい、何照れているんだよ」
うるさいマム助
『さて、もう一度問おう。新しく繋がった世界へ調査に赴いてくれないか?』
「…分かった、行かせてもらうよ」
それにこのシレンの世界とはまた別の世界にも興味がある
出来ればリリカルな世界みたいに戦闘はあるけど比較的安全なものが良いな
『ありがとう』
「気にするなって、それに神様はもう少し威厳が無いとね」
占い師達が見たら腰を抜かすぞ、リーバが一風来人に感謝の言葉を述べるところを見たら
「そういえばオイラもその別世界に行けるのか?」
『問題ない、それにモンスターからの視点も欲しかったからな』
なるほど、となると俺達コンビはどんぴしゃだったんだな
「さて、行くとするか」
「おし、行こうぜ。オイラ達が居た世界とは別の世界…くぅ~堪んないな」
『まて、餞別だ受け取れ』
再度地面が揺れると天井から壺が降ってきた
その数なんと20近くだ
普通なら持てないが、そこで活躍するのがこのリーバ印の革鞄
うん、これリーバから貰ったんだけど以前述べたように、某山の守り神の化身が宿ったあれみたいに大量に収納できる
というか某青い猫のあれの方が収納量的に近いか
「おい見てみろよ、この壺の中武器が沢山だ…こっちは盾でこれは草が大量だ」
何個かの壺の中身を見て驚いているマム助につられて同じように近くの壺の中身を確認してみると
ゲームでしか見たことが無かった剣とか盾とか、巻物をこれでもかと入っていた
『こちらで見繕ったものだ、これならば万が一でも大丈夫だろう』
いやぁ、ありがたいね
現在の所持品は錆びついたカタナに腐敗して穴だらけの皮の盾
ひび割れて後一回衝撃を受けたら粉々になりそうなちからの腕輪
水に浸かって文字がにじんで読めない巻物と焼きおにぎりの5点のみ
どうにかこうにか逃げていたけどモンスターハウスが出てたら確実にアウトだった
『さすがに送った直後に死なれるのはこちらとしても困るのでな』
ですよね~
さっさと壺を鞄に仕舞い準備完了
「それじゃ行ってきます」
「行ってきま~す」
俺は手を、マム助は尻尾を振って別世界への入り口を通るのだった
『君達に我ら八獣神の加護がこの先の救いにならんことを』
次話からネギまの世界で冒険します。