人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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93話 一夜が明けて

 6月15日(月)

 

 放課後

 

 ~会議室~

 

 校内にありながら、生徒は滅多に使わない部屋。

 しかし今日の俺には用がある。

 

「失礼します……」

「おっ、早いね葉隠君。まだ時間あるのに、そんなにテレビ出演の話が聞きたかった?」

 

 入るといきなり会長にからかわれた。

 

「……分かってて言ってるでしょう、会長……」

「あはは、“特攻隊長”も大変だ。そっちの席に座ってね」

 

 まったくこの人は……

 

「どうなってます? 昨日のこと」

 

 昨夜、予定通り掲示板にアップロードされた動画により、真田に勝ったという情報が拡散。

 大騒ぎになっていたため今朝からついさっきまで、とにかく声をかけられまくった。

 

「何か悪い話でも聞いた?」

「それはまったく。……罵倒してきたような連中まで手のひらを返して、さりげなーく混ざっていました」

「人気者の仲間入りだね、“特攻隊長”」

「やめてくださいよ……」

「このあだ名もう定着してるよ。動画を見た生徒を中心に」

 

 自然と肩が落ちる。

 

「まぁまぁ、悪い意味じゃないからいいじゃない。それで今回の件でだけど……まず、江古田先生が部の管理不行き届きで処分を受けることが確定したよ。具体的な処分内容はまだ分からないけど、ボクシング部員も現在調査中。今のところ集まってる情報でも、何人かは停学になりそう」

「これまでと比べて急に対応が変わりましたね。最後に真田……先輩本人から暴露したからですか? 対戦後のインタビューって形になってましたけど、あんな動画入れるなんて聞いてませんよ」

「ごめんごめん、こっちで相談して急遽入れてみたんだ。でも効果はあったよ。みんなどこかで“ボクシング部への協力”を“真田君の応援”と思ってたんだね。でも真田君はボクシング部に所属していただけ。現状の気持ちを素直に話してもらったら、これまで真田君のためと思って我慢してた不満が出るわ出るわ……すっごい細か~い事を積み重ねていたみたいでさ、今度は苦情が多すぎてこっちもパンクしそう……」

 

 会長も会長でお疲れ気味のようだ。

 

「大丈夫ですか?」

「武将と美鶴、あと他の人も手伝ってくれてるからまだなんとか。けどさー……来週はちょっとヤバイかも。なんか今回のことを受けて、部活動の実態調査のアンケートをやってくれって話があって……校長からで断れないし仕事が増えるんだよ……そうだ葉隠君、来週は手伝ってくれない?」

「俺に手伝える仕事なんですか?」

「生徒会長権限を使えば生徒会の一員として認められるから無問題(モウマンタイ)!仕事内容は基本的に雑用で、手が足りないところをちょこちょこ手伝ってもらえたら助かる。

 そっちのメリットとしては……真面目にやってれば君の立場も補強されるし、内申点もちょっと上がるよ。まぁ本人の同意がないと駄目なんだけど」

 

 もしやる気があったら手伝ってくれると嬉しい。

 そう会長が言ったところで、扉が開く。

 

 他の候補者が来た。

 

「失礼します」

「失礼します……おっ、葉隠!」

「黒岩先輩、それに宍戸先輩も」

「これでトップスリーがそろったね。葉隠君の隣に座って」

「先輩方も候補者だったんですね」

「お前もな、っつーか昨日はよくやったな!」

「傷は大丈夫なのかい?」

「平気ですよ、ほら」

 

 江戸川先生は目立たつような傷も残らないと言っていた。

 ただし頭を強く打っていたため、二週間は部活禁止。

 激しい運動は控えるようにと言われた。

 

 そんな話をしているとやがて時間になる。

 

 静かに開かれた扉から入ってきたのは三人。

 パルクール同好会の顧問である江戸川先生。

 陸上部の顧問である竹ノ塚先生。

 そしてスーツを着た小柄な男性。

 

 先生方に挟まれる形で立つ男性が、机を挟んで俺たちの前へ立つ。

 

「どうもどうも。本日はお忙しいなか、お時間をいただきありがとうございます。○○テレビの目高、と申します。このたびの“プロフェッショナルコーチング(番組)”のプロデューサーを務めています」

 

 紹介の後はせっかちな人なのか、早速撮影の流れとやるべきことについての説明に入った。

 

 内容はドッペルゲンガーにて完全に記録。

 “撮影機材に勝手に触らない”、“時間厳守”のような基本的な注意がほとんどだ。

 しかしこうして聞いていると、テレビ出演をすることに実感が出てちょっと緊張する。

 まぁコーチの指示をよく聞いて、全力で練習に取り組めばまず大丈夫だろう。

 

 一通り説明を終えると、目高プロデューサーは数枚の紙を配る。

 名前やスポーツ経験のアンケートで、番組中の紹介に使われるとか。

 質問に対して速やかに脳内でまとめた文章を記入し、提出。

 

「書けました。よろしくお願いします」

「では確認を……………………………………アルバイトをしているようですが、撮影日の都合はつけられますか?」

「すでにアルバイト先のオーナーに許可をいただいて、撮影の都合に合わせて休みをもらえることになっています」

「そうですか! なら大丈夫だ、他に問題になりそうなところはありませんね。ありがとうございました。ではこれに軽くでいいので目を通しておいてください」

 

 渡されたのは、放送禁止用語集と書かれた冊子。

 

「承知致しました」

「まずい言葉が出たらその場で取り直しか、あとで編集でカットもできます。あまり神経質にならずに、気楽にお願いします」

 

 こうして番組プロデューサーとの面会はあっさりと終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうするか……」

 

 部活禁止を言い渡されたため、今日はいつもの部活がない。

 変な空き時間ができてしまった……

 

 ……

 

 たまにはブラブラするか……

 

 

 

 

 ~アクセサリーショップ Be Blue V~

 

「こんにちはー、三田村さん」

「あれ? 葉隠君、今日シフト?」

「いえ、今日は部活が中止で暇だからブラブラしてたんです。けど目的もなくて……せっかくポロニアンモールにきたから顔を出そうかと」

「そうなんですか。あ、そうだちょっと待ってて」

 

 そう言って奥へ向かう三田村さん。

 何事かと思えば、オーナーを連れて戻ってきた。

 

「こんにちは、お邪魔してます」

「いらっしゃい、今日はお客様かしら?」

「予定がなくなって暇になっちゃったそうですよ」

「そういえば貴方、今週は部活禁止だったわね」

 

 ……何で知ってるんですか? そこまで言ってないのに。

 

「格闘技の試合をしたんですって? それも頭を強打して出血もあったとか。霊的な視点からも診ておいてほしいって、江戸川さんから連絡があったのよ。あさってのつもりだったけど……ちょうどいいわ、暇ならあがって行きなさいな」

 

 連絡網が回っていたようだ。

 

 せっかくなので診てもらうことにしよう。

 

「……どうですか?」

「特に問題はなさそうねぇ……エネルギーの流れは以前よりも格段に整っているし……治癒促進と日々の気功の成果かしらね?」

「だといいんですが。あ、それと以前話したテレビの撮影、今月末ごろに撮影するそうです。期間は一週間」

「だいぶ短くないかしら? スポーツ指導をする番組よね?」

「短期間、集中特訓がコンセプトみたいです」

 

 コーチも忙しいのかもしれない。

 用意された種目も多く、俺と同じような素人が一人につき一つを担当する。

 その一人分をいくつも集めて、一つの番組が作られる。

 

「あら、じゃあテレビにはそんなに映らないのかしらね」

「個人的にはそっちのが気楽ですけど……あれ? あの本」

 

 部屋の隅に紐で束ねられた本があった。

 たしかこの前の掃除で運び出したただの本だ。

 量は減ってるけど、間違いない。

 

「まだあったんですね、あの本」

「あれねぇ……この前捨て忘れちゃったのよ。回収日はまだ先だし、わざわざ業者を呼ぶほどでもないから置いてるけど、正直邪魔なのよね……」

 

 んー……本なら本の虫で買い取ってくれるかな?

 だめでも叔父さんのとこに怪我の報告して、ついでに飯でも食って帰れる。

 提案してみよう。

 

「古本屋に持ち込むのはどうですか? 巌戸台に一軒知ってますから、よければ俺が持って行きますよ。……あ、でも高校生だと買い取り不可でしょうか?」

「そうねぇ……こちらとしては引き取ってもらえればそれでいいから、お願いしていいかしら?」

「承りました」

「助かるわ。どうせ高値はつかないでしょうし、売れたらジュースでも飲んでね」

 

 

 

 

 

 

 ~巌戸台商店街~

 

 ということで、本を受け取ってきたはいいが……開いてるかな?

 

「すみませーん」

「はいはい、今行くよ……おや? 見覚えのある子じゃな…………おお! 虎ちゃん! 虎ちゃんじゃな!」

 

 文吉爺さんは俺をおぼえていてくれた。

 

「久しぶりじゃのう! 姿を見せてくれんから、忘れかけとったぞ! それにその制服!月光館学園の生徒さんだったんじゃな……今日はどうしたんじゃ?」

「お久しぶりです。いらない本があったので、引き取っていただけないかと」

「買い取りじゃな。任せなさい!」

 

 カウンターから手招きする文吉爺さんの前に本の束を置くと、査定に時間が欲しいと言われた。店内を見ながら待たせてもらうことにする。

 

「いろいろあるな……」

 

 料理本や恋愛小説といった分類はあるけれど、古い本から新しい本までさまざまだ。

 とにかく本の数が多い。

 

「……………………?」

 

 眺めていた棚の一角に目が止まる。

 

 “The 茶道”

 “The 神道”

 “The 柔道”

 “The 麺道”

 “The 外道”

 

 この本、ペルソナ4に出てくるやつじゃなかったっけ?

 

「そのしりぃず(シリーズ)が気になるのかい?」

「少し」

「そうかい、だったら持っていくかい?」

「えっ?」

「虎ちゃんが持ってきてくれた本。あれらと交換でどうかの? ちょうど値段も同じくらいじゃが」

 

 ……だったら現金よりはこっちの方が面白いかも。

 

「本でお願いします」

「よしよし、それじゃちょっと手伝ってもらえるかの!」

 

 文吉爺さんは本棚に手を伸ばし、そのあたりの本をごっそりと抜き出した。

 俺が見ていた五冊だけではなく、その横までずらりと並んでいたものまで。

 

 よく見てみると

 “The 合気道”

 “The 陰陽道”

 “The 華道”

 “The 弓道”

 “The 剣道”

 “The 香道”

 “The 衆道”

 “The 書道”

 “The 食道”

 “The 修験道”

 

 全部同じシリーズだ。

 

「これ全部ですか!?」

 

 全部で十五冊。

 持ってきた本の値段と釣り合うとは思えない。

 

「未来ある若者へのサービスじゃよ」

 

 そういいながら、店の袋に本をつめる文吉爺さん。

 あのシリーズは一冊が持ってきた本一冊より厚い。

 本を処分しに来たのに、いつのまにか増やして帰ることになっていた。




影虎の評判が上がった!
“特攻隊長”とあだ名がつけられた!
多くの生徒が好意的になった!
影虎は部活禁止を言い渡されていた!
プロデューサーと面会した!
大量の本を手に入れた!

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