人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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84話 学校の闇

 6月9日(火)

 

 昼休み

 

 ~教室~

 

 説教、部活関係の呼び出し、先約等々。今日は皆忙しいようで、一人寂しく昼食を取ることになった。

 

 …………………………暇だな……そうだ。

 

 ドッペルゲンガーで先日作ったルーンの実験結果をまとめよう。

 

 

 ルーン魔術研究記録1

 

 実験日:6月7日、6月8日の影時間

 

 1.攻撃魔術

 敵へ向けて撃ち出す方法を模索するため、威力の低い“ラグ()”を使用。

 移動に関係のある“ラド(車輪)”や“エオー()”を組み合わせる。

 実験ではどちらも水を撃ち出す事に成功したが、“エオー”では狙いが定まらない。

 車輪と馬。二つのルーンには同じ移動でも受動的か能動的か、ニュアンスに違いがある。

 攻撃魔術には意思に従う、受動的な“ラド(車輪)”を使うのが良さそうだ。

 

 

 2.防御魔術

 ルーン魔術の応用力を活かし、シャドウの攻撃を防ぐ事はできないかと考える。

 とりあえず思いつくまま氷で障害物を作ろうとした。

 “エオロー(防御)”と“イス()”を使うと、石を持つ腕が(・・)肩まで凍りついた(・・・・・)

 ダメージは無し。氷でシャドウの攻撃は防げたが、一時的に腕が使えなくなる。

 氷結の状態異常? 改善の必要性あり。

 

 備考:氷結や感電の状態異常を敵に与えられれば、使えるかもしれない。

 

 

 3.ネックレスの身体能力向上系魔術

 エオーに回避力、エオローに防御力を向上させる効果を確認。

 ウルと同じくスクカジャ、ラクカジャより強力で効果も一瞬。

 オセルによる有効時間の延長に成功。

 ウル、エオロー、エオー。どれも効果は変わらず、有効時間は体感で三分程度。

 単体での使用よりもはるかに使いやすい。ネックレスも機能性は十分。

 ただし使用中は今の雑魚シャドウだと効果無双状態になりやすく、あまり訓練にならない。

 

 備考:時計の秒針を一分間記録すれば時間の計測に使えるかもしれない。

 

 ……これは今すぐ試せるな。

 

 教室の時計を見て、秒針の動きを記録。

 ……脳内再生で六十秒のカウントは可能。

 六十秒は一分。六十分は一時間。二十四時間で一日。

 脳内処理で繰り返せば時間はわかる。っ!!

 

 またあの感覚……こんなんで新しいスキル習得できるのかよ。

 しかも“体内時計”ってそのまんまじゃないか。

 

 …………

 

 筆箱から定規を取り出し、目盛りと長さを記録。

 ……あ、やっぱり。“距離感”を習得した。

 周辺把握から得られる情報の精度が上がったみたいだ。

 

 便利だろうけどさ……なんで俺の能力ってこんなショボく見えるんだろう。

 

 最後の一口を飲み込むと、ため息がこぼれた。

 

 食べ始めてから八分五十二秒。

 まだ昼休みは長いけど……そうだ、山岸さんの所へ行かないと。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ~一年D組~

 

「すみません」

「あっ、葉隠君! 山岸さんに用かな?」

「あ、はい」

「はいはいちょっと待ってね~、山岸さ~ん!」

 

 木村とかいったっけ、この女子……

 

 俺が教室に入った瞬間によってきて、答えたら答えたで即行山岸さんに声をかけた。

 というか、待っててと言いつつ俺の手を掴んで山岸さんの席に連れて行く。

 山岸さんは一人で食事中だったようで、驚いたように顔を上げる。

 おまけに声がでかくて、教室中から人目が集まってないか……?

 

「食事中にごめん」

「ううん、べつにいいよ。どうしたの?」

「昨日のことで、オーナーからお礼にって」

 

 俺は預かっていた物を取り出す。

 

「携帯ストラップ? 綺麗な石……でもこの形」

「それはタイガーアイって石で、形は……まぁ、想像通りだろうね」

 

 そのストラップは装飾のある鎖が長めで、先端についた石は縦に長いダイヤのような形状をしている。ダウジングにも使えるというか、ダウジング用の振り子をストラップにしたような一品だ。

 

「ちなみに俺も貰った」

 

 自分の携帯を取り出して見せると、なぜか山岸さんより先に背後から声が出た。

 

「アクセサリーのプレゼント? しかもおそろい! それにタイガーアイ……葉隠君の名前は影虎……!! これはタイガー(虎=自分)アイ()を受け取って……つまり告白ッ!?」

「んな訳あるかっ!」

 

 あんまりな想像の飛躍に言葉が口をついてでた。

 

「違うの?」

「何だその、えっ? 私間違ってる? みたいな顔。理事長のダジャレと同等かそれ以下に寒かったよ。告白だったら絶対フラれるわ」

「すっごい低評価されてる……」

 

 わざとらしく落ち込んだ様子を見せる木村。

 

「まー、たしかに本気であんなの言う奴いたらキショいよね。スベリまくりだって」

「他人をそんなレッテルを貼られるキャラにしようとしないでほしい……」

「ごめんね~、冗談だよちょっとスクープか!? って気になっただけ。ほら、私新聞部じゃない?」

 

 知らねーよ!?

 

「というか、この学校に新聞部ってあったんだ?」

「えー? 新聞部が無かったら、誰が毎週掲示板の校内新聞作ってると思ってるのよ」

 

 そもそも校内新聞自体をあまり注視してなかった、とは言わないでおこう。

 

「あはは、木村さんっていつも面白い話を探してるよね」

「二人の所ほどじゃないけど、うちも部としては弱小だからさ。話題探しは部員の義務、個人的にもいい記事を書きたいんだよね。誰にも見られない記事なんて、記者としては書いてて悲しいし。読者が読んで面白いか役に立たないと意味ないっしょ? でもそのためにはネタがねー……って事で二人とも、取材させてくれない? お願いします」

 

 彼女はいきなり両手を合わせ、頭を下げてきた。

 

「私も? 葉隠君だけじゃなくて?」

「メインは葉隠君で、できれば山岸さんにもマネージャーとして少しコメント貰いたい」

「……どうする? 葉隠君に任せるよ」

「お願いっ! 今が旬の葉隠君に取材したいの! それにほら、代表に選ばれたら取材とか受けなきゃいけないじゃない? その練習としてさ、ね?」

「まぁ昼休みが終わるまで、あと山岸さんは食べながらでよくて、変な質問でなければ」

「ほんとに!? ありがとう! あ、じゃあどっか座る? 適当にここらの」

「俺は立ったままでいいよ」

 

 この人、押しが強いな……

 でも山岸さんに教えて貰ったように、ネット掲示板では騒がれていた。

 主に大会と試験の結果で。旬ってのはそういうことだろう。

 

 そう考えているうちに、懐から手帳を取り出した木村さんが一言。

 

「じゃあまずは……二人はお付き合いしていますか」

「えふっ!?」

「しょっぱなから……」

「いやいや! こんなん基本っしょ!? 山岸さん反応しすぎ! 葉隠君は視線冷たすぎ!」

「とりあえずそういう事実はない。記事にするなら誤解を生む事の無いように頼みます」

「了解っ! ……でもさ、お互いを見ていいな~と思ったりしない? 山岸さんは小動物系だし、葉隠君は学年トップの成績で真田先輩と互角の運動能力でしょ? 葉隠君からどうぞ」

 

 もう断りたくなってきた……

 

「……部活動で測定したデータ管理。報告書作成。情報収集。活動を裏から支えてくれる頼りになるマネージャーです。山岸さんは可愛らしいと思うし、性格も良い。だけど恋愛感情を持てるほど俺に余裕が無い。以上」

「悪くは思っていない、と……」

「変なことを吹き込まずに、そっとしておいてほしい」

「なんのことかなー……山岸さんは!」

「わ、私も特には……もちろん嫌いじゃないよ! 体力も成績も凄いと思うし、部活ではすすんで後輩のお世話をしたり。優しいし立派だと思う。けど、異性として聞かれると……」

 

 空気が重苦しい……

 

「この雰囲気がなかったら、甘酸っぱい話にも聞こえそうなのに……」

「雰囲気を作った張本人が言うな」

「プレゼントとか渡してるし、気になるじゃない」

「これはただの預かり物」

「今朝の江戸川先生と同じ用だよ」

「……そうなんだ。強く生きてね……」

 

 山岸さんがそう言うと、木村は目をそらす。

 

「今朝、来たの?」

「ダウジングのやり方と、暇があったら落し物探しを頼みたいって……」

 

 制服のポケットから取り出されたのは、以前俺も気功についての知識を貰ったのと同じ紙だ。おまけに先生が用意していた依頼もいくつか書かれている。

 

「これ、どうしたらいいんだろう……」

「……やってみるといいんじゃないかな? 実際昨日は見つかったんだし、先生と円滑な関係を作っておくためにも理解する努力は必要かも」

 

 というのは建前で、本当は来年に備えてほしい。

 残念ながら山岸さんには、天田と違って俺が薦められる事はこれしか思いつかない。

 

「ダメ元でやってみて、役に立ったら儲けもの、くらいでいいんじゃない? 俺もこれ貰った以上はやるし」

「そっか……うん、わかった」

 

 消極的だが、少しはやる気を出してくれたようだ。

 ……今日の部活は実際に外に出てのフィールドワークにしようかな。

 

「そろそろ次の質問いい?」

「どうぞ」

「じゃあさ……真田先輩が葉隠君に興味を持ってたり、喧嘩が強いって噂を聞くんだけど、ずばり格闘技経験は? 喧嘩とかよくするの?」

「空手を爺さんに習ってたり、色々。喧嘩は……したくはないけど、襲われたら自衛しようとはするし……泣き寝入りをする性格でもないと思う」

「葉隠君が真田先輩を嫌ってるのはマジな話?」

「……真田先輩本人にも言ったけど、食事のしかたが気に入らないだけ。叔父さんの店のラーメンにプロテインぶち込んで食べるんだよ、あの人。木村さん、女子ならこう考えてみ? 自分が丹精込めて作った料理に、彼氏が辛いものが好きだとか言って大量の唐辛子か何かぶっ掛けて味滅茶苦茶にされたらどう思うよ? うちは店で金払ってもらってる立場だけどさ、ちょっとね。それ以上は何もないよ」

「あー、そう例えられるとキレるのも分かる気がする……てか地雷踏んだ? えーと、じゃあ」

「おい!」

 怒鳴り声と一緒に左肩を掴まれる。

 ほぼ同時に、肩を掴む誰かが拳を握りこんだ。

 振り向いて、肩を掴む腕を払う。

 

「キャッ!?」

「チッ!」

「……いきなり何? あと誰?」

 

 殴りかかってきた拳を受け止めた状態でようやく相手の顔が見えた。

 面識の無い男子生徒だ。横を刈り込んだトサカのような頭が目立つ。

 

「テメェ調子乗んなよ」

「青木!」

 

 静まりかえる教室で、我に返った木村が叫ぶ。

 

「知り合い?」

「クラスメイトなんだけど……ねぇ、邪魔なんだけど」

 

 木村の態度が目に見えて冷たい。でもそんな事は気に留めないようだ。

 

「さっきから黙って聴いてりゃさぁ、お前みたいなガリ勉野郎がなに真田先輩舐めてんの? 少しは運動できるみたいだけどさぁ、だから自分は強いとか思ってるわけ? 体力測定の結果が近かったからって、対等だとか考えてんじゃねぇよ」

「また青木かよ、うるせーな……」

「ガリ勉野郎って、どっちかって言うと自分の事だろ」

「だよねー」

「去年までスポーツなんて何一つやってなかったくせにな」

「彼、ボクシング部に入って変わったよね。よくない方に」

 

 ……生徒の声を聴く限り、こいつは高校デビューに失敗した奴みたいだ。

 ボクシング部に所属している一年らしいけど、好意的な声が一つも無い。

 

 そして本人の言葉を聞くと、明らかな脳筋(真田)信者である事が分かる。

 そういう生徒がいるのは聴いていたけど……

 脳筋(真田)は強い。脳筋(真田)はもっと圧倒的だ。脳筋(真田)は、脳筋(真田)は、脳筋(真田)は……実際に話してみると、ちょっと気持ちが悪い。

 

 しかも試験で学年一位だから俺は文化系。文化部より運動部所属の方が上。よって俺より自分(青木)の方が上。そんな偏見まみれの論理展開で下に見て、上からものを言ってくる。自分が上、俺は従うのが当然みたいに。

 

 “スクールカースト”か。

 

 周りの様子からして、こいつもそんなに上じゃなさそうだけど……

 

「おい、聴いてるのかっ!?」

 

 俺が脳筋(真田)に近い記録を残したのも、脳筋(真田)に対する否定的な意見を出しているのも、彼にとっては気に入らないんだろう。だけど

 

「このっ!」

「山岸さん弁当持って避難!」

 

 ジャブを払い落とす。

 払い落とされた事が気に入らないようで、さらに拳が飛んできた。

 避けて距離をとる。

 

「ちょっとさ、落ち着いて話を……」

「はっ! なんだよ? ビビってんの?」

「そうじゃなくてさ、喧嘩とかすると面倒なんだよ」

 

 良い悪い、ビビるビビらないの話じゃなくて、本当に都合が悪いんだよ。

 こんな教室で殴りあったらすぐ先生だって飛んでくるだろうし、評判も悪くなりそうだ。喧嘩なんて、おおっぴらにやって良い事はない。それはあっちも同じだと思うんだけど……

 

「練習に付き合ってくれてもいいだろ? 泣き寝入りはしないんじゃなかったのか? それともやっぱり口だけか? 来いよオラ!」

 

 ボクシング部って手の早い奴しかいないの? 

 どいつもこいつも、とても腹立たしい……

 

 それにこのクラスは誰も止めに入ってこない。山岸さんは弁当で両手を塞がれてオタオタしてるけど、他は興味が無いのか、面白がっているのか。それとも怖いからかかわり合いになりたくないのか、教室から出て行ったり遠巻きにこちらを見ている。

 

 イジメを黙認する環境と考えれば当然なのか?

 

 しかしこれだけの人前で、ここまで言われた以上、黙って引き下がるのも良くない。

 個人的にも、部としても、好き放題できる相手として見られるのは避けるべき。

 

練習(・・)、申し込んできたのはそっちだろ。このまま帰ってくれた方がいいけど」

「……ならこっちから行ってやるよ!」

 

 さっきと変わらない左ジャブ。

 右手をジャブに合流させて左へ逸らす、と同時に後ろへ引いた左の拳を突き出す。

 

 相手の突きを払う、あるいはそのまま掴んで腕を制し、逆の手で突く。

 空手の型、壱百零八手(スーパーリンペイ)に含まれる動き。

 

「うっ!?」

「ガードががら空き」

 

 腕が伸びきった状態で止められた相手の鼻先で、左の拳を止める。

 3.4cmの距離まで拳が迫った青木は、遅れて後ろへ飛びのいた。

 

 ……“周辺把握”により、自分と相手の腕の長さ(リーチ)は把握できている。関節の稼動領域、体勢による誤差も把握完了。でも“距離感”によって得られる情報が予想以上に明確になったのを感じる。

 

「このっ!」

 

 ジャブを打ちながら踏み込んだ位置はリーチぎりぎり。

 顔面への右ストレートは上体を反らすだけで13.8cm届かない。

 

 もう一度放たれたジャブに対し、もう一度同じ一撃。

 今度はさっきより近く、1cmジャストで止める。

 

「~! 何のつもりだよ!」

練習(・・)で当てるわけ無いだろ」

 

 幸いなことに、こいつは強くない。

 同じボクシング部でも真田やシャドウ以下なのはもちろん、駅前の不良よりもはるかに動きが悪い。

 ボクシング部に所属して多少打ち方を知っているだけ。ほぼ素人だ。

 

 さらに殴りかかってくる青木に対して、寸止めで相手を続ける。

 “殴ったら負け”と、世間ではよく言われる。だから、()()()()()()

 

 ……ストレートを打つ前は大振りになる癖があるな。

 大きく後ろに腕を引くから牽制のジャブから約二秒も遅れているし、わかりやすい。

 ストレートに“揚げ受け”を合わせ、拳を上へそらしたら開いた腹に手を軽く添える。

 

「強いパンチを打つ事に集中しすぎ。下への注意が足りないし、さっきも言ったけどガードがあまい」

「!」

 

 フックに対して手刀受けで止め、ガードさせずに手を(あご)へやる。

 崩れたフォームからの、がむしゃらな突きをさばいて横っ面に肘。

 動きの一つ一つを型の分解、用法を実践で確認するよう丁寧に。

 攻撃は絶対に当てず、それでいてより体への距離が近くなるように。

 防御は確実に、無駄な動きをそぎ落とし、最小限に。

 指摘は分かりやすく、丁寧に、簡潔に。可能な限り微に入り細を穿つ。

 

「攻撃が大振り。テンポが悪くてコンビネーションが雑。これじゃ単発と変わらない。それに今度はガードが極端に上がりすぎ、顔ばかりじゃ無駄に視界をふさぐし、手も出しにくくなる。それでいて下は相変わらず」

「く、ううっ……オラーーー!!」

 

 タックルかと思うほど前のめりで繰り出されるストレート。

 右手で受け流して左でわき腹、動きの中で引かれた右を目の前へリズム良く突き出す。

 

 一方的な寸止めを受け続けた青木は、ここで糸が切れたようにしりもちをついた。

 その息は荒い。

 

 ……開始から二分十五秒。ボクシングの一ラウンドも体力が続かないらしい。

 

「はぁっ! はぁ、っ……」

「頭に血が上りすぎ。それと何より体力不足」

「あーあ。だからやめときなって言ったじゃん。葉隠君はお疲れ様。悪いのそいつだけど、そろそろやめにしてやってくんない?」

 

 本人がやめるなら、もういいけど……

 

「ざけんな! 憶えてろよ……お前ら絶対に許さないからなぐっ!?」

 

 捨て台詞を吐いて教室の外に走り去ろうとする青木。

 その襟に、俺は指を引っ掛けた。

 

 ……いま、絶対に、聞き逃してはいけない一言があった気がする。

 やめる前にちょっとお話が必要かもしれない。

 

「ちょっと待て。今、お前()って言った?」

「離っ」

「お前()って言ったよな?」

「は、離せよ!」

「ちょっと落ち着けよ……なぁ? ア゛ン?」

「ヒッ!?」

 

 抵抗するので声を荒げたら、とても低く冷たい声が出ていた。

 親父のようで、ある意味しっくりくる。

 青木は目に見えて体をすくませ、表情を固めたまま動かなくなった。

 

「とりあえず、座ろうか。……座れ」

「ハイ……」

 

 青木の介助をして適当な椅子に座らせる。

 

「で……今、お前()って言ったよな」

「いや、それは言葉のあや」

「言ったよな?」

「……言いました」

「お前()()は誰の事?」

「それは……」

 

 言葉より先に、視線が山岸さんの方へ向く。

 

「俺のことが気に入らないなら、俺を狙え。まわりに手を出すなよ。いいな? ……返事は!」

「はっ、ハイ!」

「……もし山岸さんやうちの後輩に何かあれば……」

「何かあれば……」

「……幸いうちの親は、謹慎や退学処分に寛容なんだよ」

「……………………」

「……引き止めて悪かった。どこか行くなら、行っていいよ」

「はい……失礼しました……」

 

 鯉のように口を開け閉めしていた青木は、聞き取りにくい言葉を残して教室を出て行った。

 さらに後ろを振り向けば、お通夜のように黙り込む生徒の姿が見える。

 例外はまだオタオタしている山岸さんと、その隣の木村くらい。

 

 あいつの言葉を聴いた瞬間、実行させてはならないと直感した。

 けど正直やり方を間違えた、というほどでもない……急ぎすぎた? そんな感じだ。

 なんだか最近、俺は着実に親父と同じ道を歩んでいるような……

 

 ……根回しをしよう、落ち込むより先に。




影虎は実験結果をまとめた!
“体内時計”を習得した!
“距離感”を習得した!
上記のスキル習得により、アナライズの機能が拡張された!
+時計機能(視界にアナログ、デジタルの時間表示も可能)
+測量機能(対象の長さを正確に測れる)
月光館学園には、スクールカーストがあるようだ……




スクールカーストとは
ヒンドゥー教の身分制度(カースト)になぞらえた学校内の生徒の身分制度のこと。
本来は平等であるはずが恋愛経験や性行為の経験の有無。容姿の美醜。
部活動や趣味により上下が区別され、下に落ちないよう足の引っ張り合いを行う生徒も現れる。
中高生に多く、いじめを誘発しやすい。
月光館学園にもきっとある。

ちなみに“カースト”はヒンドゥー教の身分制度を指す英語(・・)
ヒンドゥー教の人はあまり使わないそうです。

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