人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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これ書くためにペルソナ3(PSP)をまたやり始めたらまたハマりました(沙*・ω・)



6話 初めてのタルタロス

 帰宅後の宿題と食事の時間以外は体を休めることに専念し、今日も影時間を待って街へ行く。

 

 今日は普段と違う事がいくつかあり、その一つめは俺の服装。

 

 普段はロングコートと手袋に片眼鏡か仮面の形状をさせているドッペルゲンガーだが、今は全身を黒い袴や地下足袋といった和装に包み、仮面は翁と呼ばれる能面をモチーフにした物に変え、頭に藍染の頬被を被る忍者コスプレと言われそうな姿。

 

 先日俺が知っている限りでは初めて装備品らしい物が“時価ネットたなか”で売り出され、衝動買いした“藍染の頬被”。買ってみたはいいが普段の服装にそのまま被って鏡を見て思った。これは無い、と。

 

 俺はファッションをあまり気にしないけど、ロングコートに片眼鏡と頬被の組み合わせの珍妙さは表現しがたく、あえて言えば泥棒の和洋折衷。流石にあれで出歩くのはためらわれた。

 

 頬被がただの布切れなら被らずにいつも通りの格好でいいのに、どうしてかあの頬被を被っていると身が軽くなった気がする。だから服装を変更することでなるべく統一感のある格好にして解決した。これならあの和洋折衷スタイルよりは恥ずかしくない。

 

 二つめの違いは目的地。

 

 普段は街中を駆け回ってシャドウを探すけど、今日の俺はある場所を目指している。それは当然

 

 「遠目には何度も見てるけど、近くで見るとまたデカイ」

 

 目の前には月光館学園が変貌した姿。影時間にそびえ立つ、どうして崩れないのか不思議なくらい歪な塔。“タルタロス”

 

 「とうとう来ちゃったな……」

 

 シャドウの巣であるタルタロス。危険は大きいが間違いなくシャドウと戦える、と5日間一度も戦えなかった焦りが俺を突き動かした。

 

 焦りで行動するのは良くないと頭ではわかっているはず、なのに“タルタロスに行く”という考えが常に浮かんで、今日は体も動いていた。

 

 ここまで来てやめる気にもならず、周りの様子を確認しながら誘われるように中へ入る。

 

 

 

 

 

 ~タルタロス・1F エントランス~

 

 「おお……」

 

 豪華で不思議、俺の貧弱な語彙ではそうとしか言えない内装が広がっていた。見れば見るほど立派だが……なんか気に入らない。

 

 どことなく俺をこの世界に放り込んだ神の居た部屋に雰囲気が似てる気がするからか……特にあの階段を上った先の青く輝く扉が奥に続いてるみたいだけど、それがまた見下ろされている感じで……って、俺はなに建物に腹を立ててるんだ。

 

 気を取り直して左右を見渡す。

 

 「ベルベットルームの入口は無いし、シャドウも居ない……転送装置は動くのかな……!?」

 

 電源が見当たらず、何気なく装置に触れた瞬間、装置に光が灯る。どうやら触れただけで起動したらしい。咄嗟に“トラフーリ”をいつでも使えるように身構えたが、転送はされなかった。

 

 「びっ、くりした、そういやゲームでも最初は使えなかったっけ……使えるのは行き先の装置を起動させてからか」

 

 体の力を抜いて装置から離れると、次は階段に近い台の上に置かれた時計が目に付く。

 

 時計の機能を思い出して近づいてみると、時計の台座には金額のメーターとお金の投入口、そして“全回復”と書かれたボタンがあった。目をこすって何度見返してもそれは変わらない。

 

 「自販機か! しかも全快一回五千円とか高いのか安いのか分からねぇ! それに、入れた金はどうなるんだよ……」

 

 シャドウが回収に来るのか? ……なんか、シャドウがこっそりここからお金を回収して、得たお金を宝箱につめて、せっせとタルタロスに配置してる光景が脳内に浮かんできた。

 

 「……当然だろうけどセーブ機能は見当たらないし、これはほっとこう」

 

 階段を登り、タルタロスの奥へ進む。

 

 

 

 

 

 ~2F 世俗の庭・テペル~

 

 扉をくぐって少し進むと、血の痕がいたるところに付いた廊下に出た。ふと気になって後ろを振り向けば、入ってきた扉が消えて袋小路になっている。

 

 「出たければ転送装置か非常口を見つける必要があるわけね……トラフーリは緊急離脱用だな」

 

 ゲームでは戦闘から確実に逃げる効果を持つ魔法、トラフーリ。これは具体的にどういう効果で確実に逃げられるのかと思って試してみれば、効果は瞬間移動。タルタロス外での実験では遠出しても使えばあっという間に寮まで帰れる便利な魔法だったけど、一日一回という使用制限もあった。

 

 タルタロス内から外に出られるかはまだ確認してないし、まずは帰り道の確保と余裕があれば訓練、そして実験がてらトラフーリで帰る。状況次第だが、明日からはトラフーリを使ったらその日はタルタロスでの訓練は打ち切った方が無難かな。

 

 

 

 

 ここで思考を打ち切って、周辺把握を全開にして慎重に廊下を進む。すると道の先がT字路になっていて、右の道の先にシャドウを感知。それも三匹。ここ数日探し回ったのはなんだったんだ。

 

 脱出装置を見つけるまでは戦闘は避けたいので、左を選んだが……そう甘くはなかった。

 

 「シャドウの巣だけあるな……右行っときゃよかった」

 

 進んだ先には臆病のマーヤが三匹に仮面が赤いマーヤが2匹居て、右の道に戻ってみたら三匹が倍の六匹に増えていた。保護色と隠蔽で気づかれてないけど、不良のようにたむろって通路を塞いでいるから隙間が狭く、すり抜けるのは難しそうだ。

 

 ……五匹相手は初めてだけど、この階のシャドウなら素人でもそこそこ戦えるはずだよな? 原作が始まればサポート付きとは言え、いきなり順平や岳羽さんを含めた新人三人だけでここに放り込まれるんだし。……慎重にやってみよう。

 

 数の少ない左の道。輪になった五匹のマーヤへそっと近づき、こちらに一番近い所で背を向けた赤仮面のマーヤにスキルを使う。

 

 「澱んだ吐息」

 

 対象となったシャドウが震え、俺は後ろに飛びさがりながら

 

 「アギ!」

 

 奥に居た臆病のマーヤ二匹の間を狙って爆発を起こす。

 

 「ギヒィ!!?」

 「ゲキッ!?」

 

 一撃に複数を巻き込んだが、威力が下がったようでどちらも倒せていない。しかし、二匹は軽くもない傷を負ってひるんでいる。残り三匹がこちらに気づいて向かってくるが、ここで

 

 「マリンカリン!」

 

 俺の体から放たれたピンク色の何かが、さっき背を向けていた赤仮面を包む。

 

 「キ……キィイッ!」

 「ギッ!?」

 

 マリンカリンを食らった赤仮面が動きを止め、その直後に横を通り抜けようとしたもう一匹の赤仮面をぶん殴った。殴られた方は仲間に攻撃されるなんて思ってなかったようで、モロに食らってシャドウ同士で戦い始める。

 

 よし! マリンカリンは敵単体を“悩殺”の状態異常にする魔法。事前に状態異常になりやすくした甲斐があったか、上手く同士討ちしてくれた!

 

 状態異常系スキルは敵が居ないと効果を確かめられなかったから、ぶっちゃけちょっと不安だったんだけど……

 

 「ギッ!」

 「おっと、デビルタッチ!」

 

 まだ無傷の一匹が左手を伸ばしてきた。“恐怖”の状態異常にするデビルタッチを使った左手による回し受けでさばく。様子に変化が無かったので効かなかったのかと思いつつ、隙のできた横っ腹をタコ殴りにして倒す。

 

 残り四匹、っ!

 

 「冷たっ!?」

 

 何か光ったように見えてその場から飛び退いたら足が急に冷えた。よく見てみればさっきまで俺のいた床が一部こおりつき、その先では俺がアギをぶちかました臆病のマーヤがこっちを見ている。

 

 「ブフか!」

 

 ドッペルゲンガーの耐性のおかげか、冷たさを一瞬感じただけでダメージはない。けど、やってくれたな!

 

 「ア……」

 「ギィイ!! イッ!?」

 「えっ?」

 

 弱点の火を臆病のマーヤに打ち込もうとしたら、悩殺状態の赤仮面マーヤが先にアギを打って、それまで戦ってたもう一匹の攻撃を受けて消えた。

 

 思わぬ展開だが、これで残りは二種類のマーヤが一匹ずつ。さっきの一発で弱ってた臆病のマーヤをアギで倒して、残り一体にする。

 

 「アギ!」

 「キヒヒッ」

 

 一体一になり、真っ向から迫る赤仮面にも一発アギを打ち込むが、効いてるように見えない。と思ったら、視界に“残酷のマーヤ”の名前と“火耐性”の情報が出てきた。

 

 さっきまで同士討ちしてたのに今頃かよ。自分で攻撃した結果だけが更新されるのか。

 

 「火が効きにくいなら、ブフ!」

 「ギ、ギギ……」

 

 氷の破片に襲われたマーヤの動きが鈍る。そして

 

 「吸血」

 

 シャドウの仮面をぶん殴って吸血。迸る赤い線の中、最後の残酷のマーヤが倒れる。

 

 そして全てのシャドウが消えた時、俺は今までにない手応えを感じていた。

 

 

 

 

 

 「複数でもなんとかなるな」

 

 注意は必要だけどこれからはタルタロスを中心に訓練する事にしよう。そう決めて転送装置を探すために歩き出すと、今度は正面からこちらに向かってくるシャドウを感知する。

 

 ここは敵の強さよりもペース配分や持久力の方が問題か……一匹だけだし、保護色と隠蔽でやり過ごそう。

 

 「……え?」

 

 廊下の端で隠れていると、金色の手袋のようなシャドウが見えてきた。あれは分かる。レアシャドウの“宝物の手”だ。ゲーム通りなら倒すと金貨を落とす奴、だけど

 

 「…………」

 「…………」

 

 何で急に立ち止まって、こっちを見るんだよ。

 

 俺が視線を避けるように動くと

 

 「!」

 「あっ!?」

 

 宝物の手の視線が俺を追い、一目散に来た道を逃げてしまう。

 

 「えぇ~……バレてるじゃん、俺」

 

 いや、今までのシャドウには気づかれなかったし、あのレアシャドウが特別に鋭いか、強い奴だと隠れきれないのかもしれない。

 

 「こっちも要訓練か。まぁ、今のうちに分かってよかった」

 

 口ではそう言いつつも、俺は自分の一番の武器があっさり敗れた事に多少の落胆を覚える。いつか奇襲して捕まえてやろう。

 

 

 

 

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 今日は様子見のため、俺は脱出装置を見つけてすぐエントランスに戻ってきた。中に入って一時間も経っていないが

 

 「短時間で結構疲れたな……今日はこれくらいにしとくか。」

 

 脱出装置を見つけるまでに何度もシャドウを倒したし、見つけた脱出装置前でトラフーリの実験にも手間取ったしなぁ……

 

 トラフーリは寮の部屋とか、外のいろんな所に飛ぼうとして失敗を連発。何度目かでエントランスを選んでようやく成功した。トラフーリではエントランスに戻れるけど、直接タルタロス外には出られない。それが分かっただけでも十分だ。

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ……」

 

 走って一気に寮へ帰るつもりが、途中で息切れして脚を止めてしまう。タルタロス探索の負担は実際に体験すると結構辛い。この妙な疲れがよく効くトレーニングの代わりになれば、一般人が一年でバリバリ戦えるようになるのか、っ……!?

 

 息を整えていたら、急に体から力が抜けてふらついてしまう。

 

 「キャハハハ! なにそれ、マジウケるんですけどー」

 「!」

 

 ここで突然聞こえた声の方に振り向けば、街灯や信号の光に照らされた道をガラの悪い男女が歩いてくる。影時間が終わった……なら人がいるのはおかしくない、けど。

 

 「マジだって。俺が一発、あん? んだよ、あの変なの……」

 「どしたの?

 「あれあれ」

 「何ー? うわっ、ホントに何アレ、コスプレ?」

 

 2人が話しているのは俺のことだろう。なにせ、俺はどうしてか

 

 ドッペルゲンガーを身に纏ったままだった。

 

 ペルソナは影時間じゃなくても出せるのか? 出せてるけど、出せるものなのか? 疑問と事実確認が頭の中を堂々巡り。仮面や手袋に包まれた腕を触りまくっていると

 

 「おい、テメェ。なんだその格好」

 

 ガラの悪い男女が絡んできたけど、構ってる暇がない。精神的にも、肉体的にも。

 

 「なに息荒くしてんだよ」

 「夜中にそんなカッコで街歩いてんだし、見られて興奮でもしちゃったの? やだキモーイ!」

 

 こいつら、うるさいな……周りが静かな分余計にうるさく感じる。

 

 「ター君、そいつター君にブルってんじゃない?」

 「ビビリかよ。んじゃ丁度いいや。俺今金欠でよー、ちっと金貸してくんね?」

 

 男が右のポケットから小さなナイフを取り出してチラつかせる。いきなりナイフ出して躊躇なくカツアゲ、いや、もう強盗だろ。こいつら順平から聞いた不良か? 裏路地にも入ってないのに……面倒だし逃げよう。

 

 「逃がしゃしねぇよ」

 

 相当場数を踏んでるらしく、男は俺にナイフを突きつけようとするが、シャドウより遅い。

 

 「! あがっ!?」

 

 左手の手刀で男の右手首を打って、ナイフを払うと同時に右手であご先に一撃。さらにナイフを払った左手を引き戻し、鼻面に掌底を入れて今度こそ逃げる。

 

 「ター君!? キャッ!」

 「やりやがっ、テメェ逃げ、んな!?」

 

 驚く女の横を駆け抜けて角を曲がる。チラッと鼻血を流して倒れこんだまま怒鳴る男の姿が見えたけど、正当防衛だから気にしない。それより、早く帰……る前に適当な所でペルソナ消さないと。男子寮の監視カメラに撮られると困る。

 

 道の途中からは走る気力も失い、やけに休息を求める体を引きずりながらに帰る。無事に部屋に帰り着いた後は何も考えられず、倒れるようにベッドに入る。

 

 「タルタロスの本当のヤバさは、シャドウじゃないかも……時計使ってみれば良かったかなぁ……」

 

 呆然と呟いたこの言葉を最後に、何も見えなくなった……

 




影時間以外でペルソナが使えたのは独自設定。

どこかで(本かゲームか曖昧)チドリの暴走が影時間じゃない時間帯に起こっていた気がして、影時間以外に出せない事はないんじゃないかと前から思っていたので話に入れてみました。

今後の役に立つかは分かりません。

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