人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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52話 千客万来の勉強会 その一

 5月9日(金) 朝

 

 ~教室~

 

 俺も学生である以上、平日は学校に通わなくてはならない。よって今日も通学したが、普段とまわりの様子が違った。通学中に俺の顔を見た生徒は遠巻きに俺の様子をうかがい、教室に入るとクラスメイトが集まってくる。

 

「葉隠どうしたその傷!」

「ほっぺたのとこ、痣になってるよ」

「痛そう……」

 

 あまり頻繁に話すクラスメイトではないが、傷が気になるだけでなく心配もしてくれているようだ。

 

「喧嘩か?」

「うちの父さんとちょっとね」

「え、お父さんと?」

「昨日実家からこっちに来てたんだけど、元ヤンで“拳で語り合う”なんて漫画みたいなことを本気でやる人なんだよ」

「そりゃまたぶっ飛んだ親父さんだな……」

「大丈夫なの?」

「問題ない問題ない。痣があるだけで、触らなければ痛みも無いから」

「ハーイ皆席について」

 

 説明をしているとホームルームの時間になったようで、アフロの宮野先生がやってきた。

 俺と目が合うと、思い出したように声をかけてくる。

 

「あ、葉隠君ちょっといい?」

「はい、なんですか?」

「今朝、君のお母さんから連絡があってね。昨日お父さんと親子喧嘩をしたそうじゃないか。江戸川先生が怪我のことで呼んでいたから、君は今すぐ保健室に行きなさい」

「保健室ですか? 体調におかしな点はないと思いますが……」

「う~ん……念のためにって江戸川先生がね……何でも君、一度アスファルトの上に頭から落ちたそうじゃない?」

 

 ? ……ああ! 貫手の時に食らった投げ技か!

 

「それ聞いちゃうとボクも強くは言えなくてねぇ……」

「なるほど、分かりました。行ってきます」

 

 こうして俺は保健室に向かい、江戸川先生の診察を受けることから一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ~そして放課後~

 

「影虎行こうぜー」

「おー……」

「機嫌直せよ影虎ー、おまちかねの女子と一緒の勉強会なんだぜ?」

「ほらほら、もうちょっと愛想よくしとけって」

 

 宮本、順平、友近に言われて席を立つ。

 

 授業ごとに先生が変わるため、今日は毎回先生に顔の傷について聞かれて面倒くさかった。

 ……それだけならまだいいが、最後の授業は古文。その担当教師の江古田はもうグチグチと傷と親子喧嘩について煩く、口から垂れる内容も不愉快でもうね……

 

「あっ!?」

「ん? どうした順平?」

「悪い影虎、先行っといてくんねー? 俺たち後から行くから」

「え、俺も?」

「俺もか?」

「ともちー、宮本、俺らさ……呼び出しくらってるじゃん朝遅刻して」

「……あ~」

「……あったな」

「そういえば三人、遅刻してたっけ。どうした?」

「いや~俺たち昨日、一日早く勉強会したんだよ、男三人で」

「なーんかお前が余裕っぽいからさ、俺たちもちっとは勉強しとこうって話になってな」

「ただ慣れない事したらそのまま寝ちまってよ……」

「それで三人そろって寝坊、ってわけか」

「ははは……運悪く体育の青山に捕まっちまってさー。ま、あの感じだとちょっとした小言で済むから、すぐ行けるさ」

「さっすが順平! 中学時代の遅刻経験じゃ誰にも負けないな!」

「だーっ! それ言うなっつの!」

「ま、そういう事だから先行っといてくれ。すっぽかすと余計に面倒になるから行ってくるわ」

 

 そういえば青山先生は生活指導の担当だったか……生活指導の担当って体育教師が多い気がするのはなんでだろう?

 

 くだらないことを考えながら三人と別れ、一人で部室へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 ~部室前~

 

「おっ、天田!」

「あ、葉隠先輩。こんにちは」

 

 ジャージで準備運動をする天田と遭遇。そういえば今日の勉強会について話してなかった。

 

「天田、今日の練習なんだけど……」

「先輩たち、勉強会するんですよね」

「え、知ってるのか?」

 

 昨夜はその連絡を口実に様子を探ろうとして失敗したんだけど……何で知ってるんだろう?

 

「山岸先輩から聞いたんです」

「ああ、山岸さんから。よかった、電話が繋がらなかったからどうしようかと。練習は型とかランニングとかやって、質問があったら遠慮なく声かけてくれて構わないから」

「わかりました! ……ところで先輩、その顔」

「これは昨日父さんにぶん殴られてな」

「先輩のお父さんに? 親子喧嘩、ってやつですか」

「まぁな。悪い人じゃないんだけど、喧嘩っぱやくて困る」

「へぇ……お父さんと喧嘩ってどんな感じなんですか?」

 

 天田は興味津々と言った様子で聞いてくる。特に気に病んでいるようには見えない。

 

「? もしかして、家族の話は僕が気にするとか思いました?」

「……多少な、昨日電話が通じなかったから不安だった。うちの母さんに会ったと聞いた後だったし」

「平気ですって、学校で授業参観とか普通にありますから」

 

 そう言いながらも、天田の表情はさっきまでより少しだけ寂しそうだ。

 

「えっと……寂しくない、って言うと嘘になっちゃいますけど……なかなか忘れられなくて」

「それはそうだろ。普通は家族を失ってなんとも思わないわけがない」

 

 俺は前世も今も、幸いにして家族が先に亡くなり遺された経験が無い。むしろ俺の方が先に逝った親不孝者だ。遺された方の気持ちを軽々しく分かるとは言えないが、悲しんで、苦しんで、そうであって何が悪いのか。

 精神的にはいい年した俺だって、こっちで自我を持ってから数年は死ぬほど悲しんだ。

 それをまだ小学生の天田が、周りに理解者もいない環境で一人になってから一年も経っていないんだろ? 何もおかしくない……

 

 ……? 何か引っかかる……

 

「先輩?」

 

 いや、天田が悲しむことはおかしな事じゃない。

 

「俺も上手くは言えないけど、天田はただ悲しんでるだけじゃない。悲しんでも乗り越えようとしてる。化け物を倒すために今日だって体を鍛えてる。何もしてないわけじゃないだろ。

 というか、乗り越えるために忘れる(・・・)のは違うと思うぞ」

「え……どうしてですか?」

「……前にさ、俺の爺さんの話したの覚えてるか?」

「先輩が中学生になるまで空手を教えてくれた人ですよね」

「そうそう、その爺さんなんだけどさ、脳梗塞で一度倒れてるんだ。それをきっかけに爺さんは会社を伯父さんに譲ったんだけど、その後の通院で認知症の初期症状が出てるかもしれないって言われた。

 今は元気に生活をしているけれど、もしこのまま症状が進めば家族のことも分からなくなってしまうかもしれない。それで忘れられたとしたら……俺は悲しい」

 

 俺は家族や友達を遺して死んできた。彼らに悲しみ続けてほしくは無い。

 けれど忘れられて居なかった者にされてしまうとしたら、俺は悲しい。

 

「忘れるってことができたら、その先一生思い出されないかもしれない。だからもし俺が死んだ後に家族や友達、もちろん天田にも忘れられたらやっぱり悲しい。

 だから天田が乗り越えるために何をするのも自由だけど、母さんを居なかった事にするのはやめてあげないか? ……少なくとも、忘れるのが難しいと思ううちは」

 

 ……俺は何を言っているんだろうか?

 

「……………………………………そう、ですね。僕も母さんの事、できれば忘れたくはないです。でも、それだと僕はどうすればいいんでしょうか……?」

「そうだなぁ……時間をかけて、やるだけやって、納得するとか?」

「具体的には?」

「……分からない」

 

 そう言った途端、天田は呆れたように肩を落とす。

 

「今ので急に頼りなくなっちゃいましたよ、先輩」

「仕方ないだろ! 人の生き死にに関して偉そうに語れるほど悟ってないわ! 俺だって日々迷いながら何とか色々やってんだって」

「まぁ、僕もまた考えてみます。だから……何かあったら相談させて貰っていいですか?」

「! もちろんだ」

 

 少しは天田の力になれたようだ。

 

 それから俺は天田に親父の話をしたり、夏休みのアメリカ旅行の件を話しながら皆を待つ。




天田とのコミュが3に上がった? (出会いで1、博物館と入部で2、今回で3)
天田とまた少し親しくなった!

影虎はワイルド能力者ではないのでペルソナに影響はありません。




いつも長くなってしまうので、今回は試験的にまとめる事を意識して書いてみました。

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