人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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41話 向き不向き

 影時間

 

 ~タルタロス・2F~

 

 結局5月8日に何があるのか分からないままタルタロスに来てしまった。

 気分を切り替えて探索に入ると、さっそく臆病のマーヤを発見。

 

 今日は練習のために足技とバッドステータス系魔法以外を極力使わないと決めたが、どうなるか……というか、思い返せば最近はこう純粋な格闘技で戦ってなかったな。ドッペルゲンガーが暴走した日の戦い方を真似て、ペルソナの力をより有効に使う戦い方を覚えてからは実験と検証を繰り返して戦ってきたし。

 

 ……それはそれでいいけれど、その反面格闘技は体で覚えた感覚、つまり慣れで戦っていた気がする。敵は倒せていたけれど、どこかに違和感があったのかもしれない。エントランスで軽く動いてみた限りでは、カポエイラは元々アクロバティックで動きも激しく、防御は受けよりも回避が中心。空手よりもドッペルゲンガーの戦い方に近いところがあるように思えた。

 

 考えながら、敵に気づかれないうちに走って接近。隠蔽を使って音も無く背後から忍び寄り、がら空きの背中にシャッセ(サバットの直線的な蹴り)を叩き込む。

 

「ギヒッ!?」

 

 不意を打たれてシャドウがこちらを振り向くが、それに合わせてアウー(カポエイラの側転)で背後を取り続け、着地の足を軸に勢いを殺さず。その場で体を素早くひねり、遠心力を加えたアルマーダ(内から外への回し蹴り)を加え、さらに逆の足で振り向かれる前にサバットのつま先蹴りを入れる。

 

「ギィィ……!」

 

 刃に変えたつま先が容赦なくシャドウの体を刺し貫き、連続攻撃で弱りながらも強引に振り向いたシャドウの眼前で手を叩く。

 

「キッ!?」

 

 ネコダマシに驚いたシャドウが動揺した隙に蹴りをもう一発。苦痛で反射的に振り回されたシャドウの腕が斜めになぎ払われるが、俺は直前で前に大きく踏み込んだ。後ろに手が付くほど上体を倒しながら後ろ回し蹴りを繰り出せば、シャドウの腕が頭上を通り抜け、吸い込まれるように俺の蹴りだけが相手に当たる。

 

「グキュゥ……」

 

 仮面に蹴りをクリーンヒットさせられたシャドウは動きを止め、か細い声を残してタルタロスの闇に消えていく。

 

「いけるな」

 

 といってもまだ二階で一匹倒しただけだが、足技とバステだけでも戦える。

 最後のメイアルーアコンパッソ(コンパスのような回し蹴り)もうまく決まった。

 それどころか、戦った感覚がやはり普段と違う。何と言うか、しっくりくる。

 

 爺さんも空手の真髄は型にある。空手に先手なし。とよく言っていたしな……

 とにかく今日はこのまま戦い続けて様子を見よう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~タルタロス・8F~

 

「せぁっ!」

「ギャッ!?」

「ヒッ!?」

「……ふぅ」

 

 敵は法衣を着た僧侶が二人、杖で縫いつけられたようなトランスツインズ。

 その足を払い転ばせた後に刃の付いた蹴りを突き刺し、吸血と吸魔。

 消えて行くのを見届けて一息入れる。

 

 調子良く登ってきたらもう8Fか。ここまで戦ってみたが、今日はいつもより自然に動けた感じだ。

 

 カポエイラの回転や側転を加えた軽快な動きがかみ合って、攻撃、回避、移動がよりスムーズになる。また基本動作であるジンガはリズミカルで、攻撃の合間にバステを使うタイミングが計りやすい。特にガードに出した腕を入れ替える時にはネコダマシがスムーズに入れられる。

 

 考えてみれば空手の試合で走り回ったり飛び跳ねる事はあまりないよな。そういう身軽さを活かした戦い方をするならば、向いていたのはカポエイラなのかもしれない。

 

「おっ!? あ~……こんな所に落とし穴が」

 

 飲み物を飲もうと取り出して開けたら、中身が思い切り噴出した。

 どうして俺は今日もってくる飲み物に四谷サイダー(炭酸飲料)を選んだのだろうか?

 ゲームでも飲み物はアイテムとして使えたが、あっちでもこういう事が起こったのかな……いや、それ以前にどうやって持ち込んだのかが分からない。

 

 俺のプレイだと最終決戦じゃ持ち込むアイテム量が凄い事になっていた。拾ったり買ったりした物を全部持っていたからだけど、画面上では武器以外丸腰にしか見えないんだよな。俺もドッペルゲンガーの中に動きの邪魔にならないよう埋め込んで固定しているから、はためからは丸腰に見えるけど。

 

「ん?」

 

 周辺把握に一瞬だけ反応があり、すぐに消えた。

 感知範囲に引っかかっただけだろうけど、なにか気になる。

 

 俺は中身の減ったサイダーを適当に飲み下し、曲がり角の先を覗き込んだ。

 そして望遠と暗視が捉えたものは

 

「カブトムシ?」

 

 違う……たしかあれは死甲蟲、テベルに生息する強敵シャドウだ。

 死甲蟲は巨体を支える足を動かしてT字路の先に消えていくが、強敵シャドウを見るのは初めてだ。

 

 一度戦ってみよう。それで今日は最後にしよう。

 

 こっそりと死甲蟲の後を追うと、やはり重そうな体で廊下をのっそりと歩いている。

 弱点は魔法で……雷だったか?

 俺は近づきながらジオを放つ。

 

「! ミスった!」

 

 雷光が瞬いて死甲蟲に当たった瞬間、自分の記憶違いを理解する。

 アナライズの結果は、雷が弱点ではなく耐性(・・)

 つまり効果はほとんどなく、こちらの存在を教えただけだった。

 

「っ!」

 

 死甲蟲が羽を広げ宙へ舞い上がる。

 攻撃ではないが、羽ばたきで生まれた風に体を押された。

 それを見越すように死甲蟲が翻り、俺の頭上を取るとピタリと羽ばたきを止めた。

 

「!」

 

 前方に跳び、地面についたてで跳ねてさらに距離を取る。

 少しでも遅れたら踏み潰される所だった……

 

「っ! また……」

 

 はばたきによる強風。

 死甲蟲が今度は軽く体を浮かせ、正面から突進してくる。

 横……下!

 

 死甲蟲は俺が横に避ける動きに合わせて軌道を変えた。

 風を切る音が近づく中、身を地面に倒れこむくらい低く沈め突進を回避。

 死甲蟲が通り抜けると、俺に抉られた廊下の壁の破片が降り注ぐ。

 破片による痛みはないが、あの突進の威力を物語っている。

 おまけにあの風が邪魔だ。下手に動くと体制が崩されてしまう。

 逃げ遅れて直撃を食らうのは勘弁だ。

 

 ……弱点が魔法で闇と光じゃないのは覚えている。ならあと三種類。早いところ弱点を見つけて、体力を削りきるしかないか……

 

「フゥー……」

 

 呼吸を整え、スキルで攻撃、防御、回避を全て上げ、空手の三戦立ちで体を安定させる。

 同時に死甲蟲の羽音と風を感じ、また突進が来た。二度も下を抜かせない気だろう。今度は廊下の端から加速をつけて、地面すれすれを飛んでいる。

 

 下は無理。横は追われる。であれば強引に道をこじ開けるしかない。

 

「フゥー……」

 

 落ち着いて敵の動きを把握し、廊下の中心で腕が届く距離まで引きつける。

 

 ……1、……2、……今!!!

 

 胸元に迫る死甲蟲の角。

 その先が当たる直前に、中段受けで右腕を横から当てた。

 同時に左手は右肘に添え、受け手を支えて力をかけ、両腕の力で攻撃を右へとそらして角先を避ける。

 角を避ければ今度は胴体が迫るが、すでに死甲蟲の体制は右へと傾いていた。

 左へ避けると軌道の修正が間に合わずに俺の横を通り抜け、無防備な背中を晒す。

 

「アギ!」

 

 その背中を爆炎で焼く。

 だが火は弱点ではなかった。

 

 他に手段が無いのだろう。

 愚直に突進してくる死甲蟲を今度は左に受け流して背中を取る。

 

「ブフ!」

 

 これも弱点ではない。

 しかし耐性も無く、ダメージは確実に与えられている。

 もう一度だ。

 

 衝撃による腕の痺れを堪えて構え、今一度受け流す。

 そして最後のガルで勝負は決まった。

 

「!?!!?」

 

 魔法の風が襲い掛かると、それまで何事も無く飛んでいた死甲蟲が風に煽られ角から墜落し、腹を上に向けた状態でもがいている。ダウンだ。

 

「シャア!!!」

 

 動けないうちに飛びかかり、死甲蟲が起き上がろうとする度にガルを使ってダウンさせる。

 他に敵はいない。ここからは残された体力と魔力の全てを吸い尽くすだけだ。

 

 そして一方的な攻撃を受け続け、やがて力を失った死甲蟲は再び立ち上がることなく、煙のように姿を消した。

 

「流石強敵シャドウの名の通り、普通のシャドウより強かった……」

 

 でも代わりに何か掴めた気がする。

 今日のことを忘れないよう今後は、攻めはカポエイラ、守りは空手と状況に合わせて使い分けていこう。

 

「……なんだこれ」

 

 戦いを振り返っていたら、消えた死甲蟲の居たあたりになにか落ちている。拾い上げてみると反り返ったサーフボードのような板で、大きさは俺の首辺りまで。その下には全体が黒く、細くて白い線の入った丸い石が落ちていた。

 

 板はあの死甲蟲の外殻か? ゲームでは持ってこいって依頼もあったけど、俺には残されても仕方ないのに…………いや、もしかしたら使えるかもしれない。

 

 頭の中に一つ使い道が思い浮かんだ。とりあえず持って帰ろう。

 

 それからこの石は宝石なのか? でもテベルで宝石を落とす敵なんて居なかったはず。ゲームとの差異か回復アイテムかな?

 

「今度オーナーに見てもらうか」

 

 宝石だといいな。換金は上手くやらないと怪しまれそうだが、ストレガとの取引に使ってもいい。宝石じゃないなら地返しの玉であって欲しい。

 

 俺は早くも落ちていた石の皮算用をしながら外殻を抱え、探し出した転移装置とトラフーリで寮へ帰った。




影虎は自分に合った戦い方を模索している!
影虎は死甲蟲を倒した!
外殻と黒い石を手に入れた!



ちなみにスキルは全部、叫ばなくても念じるだけで使えると考えています。
原作キャラはペルソナ! とか、ペルソナの名前を叫んで魔法を使っているので。
きっと気合の問題でしょう。
影虎、特に最初のほうは知らずに不意打ちの時にも叫んでましたが(笑)
今もネコダマシで手を叩いたりしますが、それはきっと気分的なものですね。
相手をヤケクソにするバリゾーゴンを使う時には罵声を浴びせかけるのか……やったら無駄に疲れそうです。

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