人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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番外編1-3・影虎 VS 特別課外活動部

「俺が相手だッ!」

 

 真っ先に飛び込んできたのは、やはり真田。

 その動きは決して遅いわけではないが、分かりやすい。

 来ると分かっているジャブを捌き、逆の手で突く。

 俺にとっては、何度もやった試合の再現だ。

 

「! グッ!?」

「ペンテシレア!!」

「おっと」

 

 拳が真田のガードを貫く直前、真田の後を追うように距離を詰めていた荒垣先輩が、真田の背後から襟を掴んで引き倒した。それによって、当たるはずだった拳は空振る。さらに桐条先輩の放ったブフによって追撃も阻まれた。3年生トリオの連携は流石と言うべきか。

 

 回避した先には既に順平が大剣を構えているが、残念なことに隙が大きすぎる。

 

「オラ、あっ!?」

 

 空間把握で察知していた順平の手元に、バックステップからそのまま移行した後ろ蹴りを当てて武器を弾き、体勢を崩す。

 

「順平さん!」

 

 すぐさま天田がカバーに入り、突きを放ってきた。

 

 後ろ蹴りの勢いで体をひねり、天田に正対しながら軸足を屈伸。全身を下げると同時に、突き込まれる槍を手で上へそらすことで穂先から逃れつつ、入れ替えた軸足で天田の膝よりも低い位置から蹴りを放つ。

 

 限界まで片足屈伸をした状態から蹴られるとは思わなかったのだろう。地功拳独特の技に天田は全く反応できず、もちろん防御することもなく、俺の前蹴りを綺麗に腹に受けて後退する。

 

「天田さん!」

「チッ」

 

 天田の状態を確認する間もなく、アイギスの銃撃が襲ってくる。

 地面を転がり、勢いを利用して立ち上がり、時に片足立ちで、時に体をそらして。

 銃弾の雨をかいくぐり、避けられないものは気を集中した腕で叩き落とす。

 

 その間に攻め込んできていた真田達は元の位置まで後退。

 天田も順平に引っ張っていかれたが、今は自分の足で立っていた。

 

 戦況としては、ほとんど五分の状態で仕切り直し。

 しかし、向こうの精神的にはそうではないようだ。

 

「ゲホッ、何をするシンジ!」

「一人で突っ込むんじゃねぇよ馬鹿アキ。今の完全に見切られてたじゃねぇか、俺が引かなきゃ顔面に食らってたぞ」

「真田先輩! 影虎君は19階のシャドウを一撃でふっ飛ばしてました! 少なくとも私以上、もしかしたら荒垣先輩と同じくらいの攻撃力があります!」

「む、そうか、シンジと公子はさっき……シンジと同等のパワーとなると、ガードの上からでも少しキツイか」

「いやいやいやいやいや!? 真田さんも荒垣さんも、公子ももっと言うことあるだろ! 何だよあの動き!? 酔拳!?」

「順平さんの指摘は正しいであります。機械制御された私の照準の命中精度は、決して低くありません。機動力に優れるシャドウならばともかく、人間の運動能力で回避することは難しいであります」

「弾丸を避けるってどんな反射神経してんのよ。ってか天田君大丈夫?」

「平気です、このくらい。シャドウからもっと強力な攻撃を受けたこともありますし。でも、ぜんぜん反応できなかった……」

「ワンワンッ!!」

「コロマルさんが"気持ちを切り替えろ”と言っているであります」

「コロマルの言う通りだ天田、皆も、気を引き締めろ」

 

 どうやら彼らにとっては、俺が思っていた以上に衝撃的な動きをしたらしい。……まぁ、確かに普通の人間が銃弾避けるとか難しいよな。しかも機械制御されたアイギスのとなると、岳羽さんの感想が常識的か。

 

 そう思った矢先に、山岸さんの声が響く。

 

『お待たせしました! 葉隠君のペルソナは、煙のように特定の姿形を持ちません! だからこそ葉隠君の意思で自由自在にその形を変えられるみたいです! あっ、あと機動力と防御力が飛び抜けて高いです!

 そのほかの能力の詳細は、ごめんなさい、読み取るのが難しくて……たぶんストレガのような、私の探知を妨害する能力も持ってるんだと思います』

「大丈夫! 時間は私達が稼ぐから、風花は解析を続けて!」

 

 女主人公は俺から目を離さず、弱気になっていた山岸さんを励ます。

 おかげで山岸さんは気を取り直し、再度探知に集中し始めた。

 

「ナビゲーターとは聞いていたけど、情報収集能力に特化しているのか……厄介だな。潰しておくか」

 

 山岸さんの能力は敵に回すと本当に厄介なので、言葉で圧をかけると同時に、既にバレた変形能力で槍を作り出す。少しでも集中を乱せればと思ったが、

 

「風花の邪魔はさせない!」

 

 反応したのは岳羽さんだった。素早く弓に矢を番えてこちらに放つ、その直前、

 

「“クーフーリン”ッ!」

「!!」

 

 女主人公がペルソナを召喚。瞬時に向こうの全員が魔力に包まれた。

 “マハタルカジャ”の影響を受けて、岳羽さんの矢が鋭く風を切り飛来する。

 

 しかし、いくら強力でも単発の攻撃など怖くない。

 ドッペルゲンガーを変形させた槍で払い落とし、そのまま距離を詰める。

 急接近する俺を前にして、岳羽さんは次の矢を番えようとするが、間に合わない。

 

「ゆかりさん!」

「させるかよ!!」

 

 そんな本人に代わり、アイギスが間に割り込み、順平が召喚器を構える。

 だが、遅い(・・)

 

『魔──えっ!?』

「ペルソナァ!」

 

 順平の掛け声と共に、タルカジャで強化された爆炎が全身を包んだ。

 その勢いは激しく、一瞬視界の全てを赤く染め上げるほどだった。

 

 しかし、効果はない。

 

 足を止めることなく炎を突きぬけると、アイギスが両手の銃口を向けて狙いを定めている。

 

「ロック!」

『避けて皆!』

「ッ!? きゃあぁっ!?」

 

 エントランス全体に雷撃が降り注ぐ。

 

 特別課外活動部の面々は、山岸さんの声に反応して素早く回避行動を取った。

 しかし、硬直していた岳羽さん、そして彼女を守るために足を止めていたアイギスは一瞬遅れてしまったようだ。

 

『ああっ! ゆかりちゃんとアイギスがダウン!』

「これでまず一人」

 

 無防備になったアイギスに二連牙を叩き込む。

 確実に戦闘不能にすべく、重要箇所を狙う。

 

「させないよ!」

「ペンテシレア!」

「グルルッ!!」

 

 しかし、今度は女主人公が差し込んだ薙刀に穂先を弾かれてしまい、さらに桐条先輩やコロマルの邪魔も入った。動きのよさからして、互いに補助魔法をかけ合ってきたようだ。ダウンした二人にも、真田と天田の回復魔法がかけられている。この分だとすぐ戦線に復帰するだろう。

 

 またしても仕切り直し。

 

「流石に1対10だと面倒くさいな」

 

 山岸さんは戦闘に加わらないから抜いたとしても、9人。

 それだけ数がいると、誰かに隙を作ってもすぐにフォローが入ってしまう。

 各個人の技量的には正直それほどでもないけど、それを補うステータスもある。

 

 さて、どうしたものか……ん?

 

『皆、魔法に気をつけて。なにか変です!』

「風花、変ってどういうこと?」

『私にもよくわからないけど、魔法が二種類あるの。皆やシャドウが使う魔法と、同じようで違う感じがする魔法。その二種類を、葉隠君は同時に使えるみたい』

 

 それを聞いて、警戒の視線がさらに強くなった。

 

 本当に、山岸さんは敵に回すと厄介だ……

 

 試合に備えて、自分を見つめなおす過程で気付いたことだが、ルーン魔術とペルソナの魔法は同時に使用できる。

 

 ルーン魔術は事前に用意したルーンに魔力を通すことで発動し、ペルソナの魔法は使うと決めればペルソナが発動する。感覚的には、どちらも“スイッチを入れる”くらいだ。

 

 使った分だけ魔力を消耗するけれど、攻撃と防御を同時に行ったり、タイミングをずらして隙のない連続攻撃をしたりと、戦術への応用が利く。

 

『さっきは攻撃にマハジオ、防御に何かブフ系の魔法を使ったみたい』

「順平の魔法が聞かなかったんじゃなくて、氷の魔法で防がれちゃってたんだね」

 

 このまま時間をかけていれば、どんどん情報が抜かれていくだろう。

 しかし、今までの交戦で分かったこともある。

 

 そうだ、新技の実験も兼ねてやってみるか。

 

『! 気をつけて! 何かするつもりみたい!』

 

 槍の穂先にドッペルゲンガーを全て集めると、それを察知した山岸さんが警鐘を鳴らした。

 

 俺は構わず、どちらかといえば筆のようになった槍を振り回し、先端から液状にしたドッペルゲンガーを周囲に撒く。すると、撒かれた液体を毒か何かと思ったのか、特別課外活動部の面々は包囲の輪を広げた。

 

「気をつけろ! 何をしてくるか分からねぇぞ!」

 

 荒垣先輩が声を張り上げる。

 俺を警戒して、結果的にだろうけど、離れてくれたのは助かった。

 おかげで準備がしやすい。

 

 以前、コロマルの飼い主さんを助けた時のように。

 撒き散らされたドッペルゲンガーを操り、自分自身の周囲に魔法円を描いていく。

 

「うわっ! 気持ち悪っ!?」

「動いていますが、直接的な攻撃ではなさそうであります。風花さん」

『詳細はわかりません。現状では何の効果もない、ただの模様にしか……』

 

 あらかじめ円を描くようにドッペルゲンガーを撒いたのも功を奏し、魔法陣は数秒とかからずに完成した。せっかくなので、少し教えてやろう。

 

「そんなに警戒しなくてもいい。これは、格闘技のリングみたいなものだ」

「リングだと? ふざけているのか」

「分かりやすく例えるなら、という話だよ。尤も、ここでの試合はハンデマッチになるけどね」

 

 言うが早いか、ポイズマを発動。同時に、魔法円に仕込んだ魔術も発動。

 すると魔法円から、いかにも毒らしい緑がかった煙が発生。数秒とかからずエントランスに充満した。

 

『毒です! 皆、対処を!』

「こんな小細工くらい──!?」

「イオ! うそ、なんで!? 毒が消えない!?」

 

 特別課外活動部の面々は、各々回復アイテムや回復魔法で解毒を試みたが、その効果がないことに驚いている。しかし、その認識は正しくない。

 

 この魔法円の効果は“ペルソナの状態異常魔法の全体化”と、その効果をしばらく“継続”させること。だからアイテムや魔法の効果はちゃんと出ているが、回復したそばからまた状態異常にかかってしまい、効果が出ていないように感じるだけだ。

 

「うぷっ、げ、原因は明らかにこれだろ!」

「魔法陣をなんとかすれば……」

「ワウッ!」

「やらせるわけがないだろ」

 

 魔法円の外周を駆け、遠心力を加えた回転蹴りを繋げ、魔法陣に向かって武器を構える順平と天田、穴を掘るように引っ掻こうとしたコロマルを横合いから蹴り飛ばす。

 

「うぉおおお! ぐ、がっ!?」

 

 気合を振り絞り、真田が向かってくるが、その動きは明らかに精彩を欠いている。

 振りぬかれる拳を見切るのはたやすく、回転による受け流しから裏拳、肘の二連撃で返す。

 真田の背後でアイギスが射線を通すべく動いたので、撃たれる前に懐へ飛び込み、崩拳を叩き込んだ。

 

「っと」

「皆、大丈夫!?」

『順平君、真田先輩、アイギスがダウン! 天田君とコロちゃんのダメージも深刻です!

 』

 

 追撃を考えたところで、岳羽さんの矢が飛んできた。

 回避の隙に女主人公から全体回復魔法が放たれ、桐条先輩と荒垣先輩がダウンした3人のフォローに入る。

 

「くっそ、なんだよ今の」

『今のは電光石火で──え? うそ、これって、こんなの』

「風花? 風花!」

『は、はい!』

「大丈夫。落ち着いて、何が分かったの?」

『はい……まずこの毒は、そこにある“有毒の魔法陣”が破壊されるか、一定時間が経過するまで消えません。状態異常にかかりやすくするスキルも持っているみたいで、確率で防ぐことも難しく、アイテムや魔法で回復しても、また毒にかかってしまいます。

 それだけでなく、あの陣が効果を発揮している間は葉隠君の体力が回復しています。魔力も体力ほどではないですが、徐々に……これだと消耗の少ないスキルは、実質的にノーコストで使い放題だと思います。

 その上で、攻撃の威力を高めたり、弱点を突きやすくなるスキルの複数所持を確認。スキル使用による消耗量の割に大きなダメージが出ていますし、攻撃を受けると高確率でダウンさせられる可能性があります。

 あっ! でも今はペルソナを全て魔法陣に使っているので、本人は生身です! 武器や防具も作れないみたいです!』

「それは朗報かもだけど、スキルの組み合わせが鬼だね」

「んだよ、それ……そんなん卑怯だろ!」

「まぁ、そう言いたくなる気持ちは分かる。でも、そっちは10人がかりだろ? このくらいしてようやくイーブンじゃないか?」

 

 そう言うと、順平は反論できなかったのだろう。黙り込んでしまった。

 あちらは既に苦しそうな状態だが、残念ながらこれで終わりではない。

 ここでスクカジャを発動。

 

『!! 葉隠君の機動力が上がりました! 気をつけて!』

「強化魔法は君達の専売特許じゃないからね」

 

 と言いつつ、今度はラクカジャを発動。

 

『今度は防御力が向上!』

「くっ、公子! このままではこちらがどんどん不利になるぞ!」

「確かに時間を与えるとまずそう……皆! 短期決戦で行くよ! “コウモクテン”!」

 

 女主人公が鬼神の姿をしたペルソナを呼び出すと、かけていた強化魔法が消失した。

 強化なしの時点で押し負けていたのだから、強化を嫌がるのは当然だろう。

 

 強化の解けた隙を狙い、真田・アイギス・コロマルが突っ込んできたので返り討ちにする。

 基本は電光石火、遠距離なら範囲魔法で、なるべく全体を攻撃。

 向こうの攻撃は可能な限り出足を潰し、ダメージよりもダウンをとることを優先。

 余裕があれば、積極的に後方で支援をしている女主人公や岳羽さんも狙っていく。

 

『今度はコロちゃんがダウン! 真田先輩も体力に気をつけてください』

「イオ! ディアラマ!」

「マハラクカジャッ!」

 

 必死に傷ついた仲間を回復し、バフをかけ直す特別課外活動部メンバー。

 その隙に俺は再び自分を強化。すると再び女主人公は、俺の強化を打ち消す。

 

 それからは概ね同じやりとりが続いた。

 そして回を重ねるごとに、彼らは急速に消耗していく。

 

 しばらく戦って気付いた、この世界の特別課外活動部の弱点。

 それは、“女主人公に負担が集中している”ことだ。

 

 彼らの戦い方を見ていると、基本的にそれぞれの得手不得手に合わせて、役割が決まっている。そしてアイコンタクトや簡単なハンドサインで、女主人公からの指示を受けて動き、手の足りない所にワイルドで万能な女主人公が常にカバーに入っている。

 

 それだけなら一見、上手く連携が取れているように見えるが、彼らのオーラが見えると少し話が変わってくる。というのも、この世界の特別課外活動部は原作通りの流れをたどってきたようで、実は相互の信頼関係がいまいちらしい。

 

 もちろん、これまでの活動である程度の信頼関係はあるし、連携も一応はできている。しかし、お互いを完全に信じきれているとまではいかない。特に三年組と二年組には深い溝があるようだ。

 

 そんな中で、ワイルドやコミュのこともあるのか、唯一女主人公には全員が高い信頼を寄せていることが見て取れる。でも、その結果として全員が無意識に、他のメンバーよりも女主人公を第一に頼ってしまっているようだ。

 

 これは極端な言い方をすれば、女主人公という一本の柱に、全員がよりかかって立っている状態。戦術的にも精神的にも、彼女が支柱となって支え、まとめているから機能している。そんなギリギリのバランスで、このチームは成り立っているように俺には見えた。

 

 だから全体攻撃や状態異常、ダウンや強化で全体の負担を増やしてやれば、おのずと彼女に負担が集中し、苦しくなっていく。

 

 現に彼女は全体の指揮を取りながら、仲間のカバーをするためにペルソナチェンジと魔法やスキルを使い続け、時に物理攻撃で挑んできている。そのため他の三倍は動いているし、休む暇もない。

 

 このまま状況を打開できずに、彼女がその負担を抱えきれなくなれば、戦線は一気に瓦解するだろう。俺は守りを固めて、その時を待てばいい。

 

「あああーっ!?」

『そんな……ゆかりちゃんが!!』

「“リカーム”! “メディアラハン”!」

「あ、ありがとう……」

「ドンマイ! ゆかりは回復に集中して!」

「はぁ……はぁ……うっ」

『桐条先輩!』

「大丈夫だ! しかし、この流れはまずいな。葉隠を倒そうにも、まともに攻撃が当たらん。よしんば捉えることができても、体術で捌かれるか防がれる。多少のダメージを与えられたところで、すぐに回復してしまうのでは焼け石に水だ」

「そうは言っても、どうにかして彼を止めなきゃ魔法陣も止められないし、こっちの体力が削られていく一方じゃないですか」

 

 状況が悪いと口にした桐条先輩に対する岳羽さんの言葉には、僅かに棘がある。

 だんだんと余裕がなくなり、メンバー同士の不和が顕在化しかけているようだ。

 

「おっと」

「ぐっ!」

「荒垣さん!」

 

 殴りかかってきた荒垣先輩の腕を擒拿で固め、アイギスの射線を遮る壁にする。

 

「シンジを離せ!」

「いいよ」

「なんだっ!?」

 

 向きを変え、体当たりで先輩を吹き飛ばす。

 

「シンジ、おいシンジどうした!」

「うっ……」

『真田先輩、回復を。荒垣先輩は一度捕まった時に、体力と魔力を奪われたみたいです。それに伴い、葉隠君の体力と魔力がさらに回復しました』

 

 その言葉で、さらに絶望的な空気が広がっていく。

 

 一つ一つの回復量はそこまで高くないけれど、治癒促進に気功、魔法円に吸魂(吸血+吸魔)と回復効果を重複させることで俺は全くと言っていいほど消耗しないまま、相手にだけ消耗を強いる。

 

 特別課外活動部からすれば、地獄のような状況だろう。

 そんなことを考えていると、とうとう女主人公に限界がきたようだ。

 

「皆! 諦めちゃダメだよ! きっと糸口を──っ」

『リーダー!!』

 

 仲間を鼓舞すべく声を張り上げた女主人公が、全てを言い切る前にふらりと倒れかける。獲物の薙刀を杖代わりにして、かろうじて立ってはいるが、すでに疲労困憊なのは誰の目にも明らかだった。

 

 そして、リーダーの異常に気づいた特別課外活動部の面々はというと……心配と不安がないまぜになった、縋るような視線をリーダーに向けてしまう。まだ戦闘中にもかかわらず、注意も散漫になっている。

 

 そのあまりに稚拙な行動に、俺は思わず追撃の手を止めてしまった。

 

「脆い、脆すぎる……」

 

 女主人公が倒れたら戦線が瓦解するとは思っていたけど、これほどまでに素人同然とは思わなかった。

 

 もしかしてだけど、こいつらこれまでろくに苦戦を経験していなかった?

 

 ……よく考えたら特別課外活動部って、影時間以外は自由行動だよな?

 

 影時間じゃないとペルソナは使えないとしても、武器の扱いや戦闘について指導を受けている様子もなかったし、訓練はやる気のある奴は個人で自由にやっていたっぽい。

 

 ということは、ほぼ全員、タルタロスでの実戦のみで鍛えたわけで……仮にだけど、レベルを階層の適正レベルより上げて、安全マージンを取って攻略していたとしたら……あ、たぶんこれ当たってる気がする。

 

 勝手に混乱し、右往左往している特別課外活動部を見て、そんなことを考えていると、

 

「全リミッター、解放します!」

 

 “オルギアモード”を発動したようだ。

 湧き上がる過剰な力の奔流と共に、アイギスが叫んだ。

 

「皆さん、ここは私が時間を稼ぎます! そのうちに撤退を!」

「だめ、だよ、アイギス」

「……私の存在意義はシャドウの掃討。そのためには、ここで皆さんを失うわけにはいかないであります」

「だめ、絶対に。私はまだ戦えるから」

 

 懇願に近い声を上げる女主人公に代わり、桐条先輩が指示を出した。

 

「……総員、撤退だ! 互いを助け合って迅速に撤退せよ!」

「先輩ッ!」

「文句は受け付けない! 行くぞ!」

 

 桐条先輩は“すまない”と呟きながら、自ら女主人公に肩を貸して強引に連れて行く。女主人公はアイギスに向かって手を伸ばし、抵抗の意思を示しているが、抗うほどの力はないようだ。

 

 他のメンバーも撤退を始め、たとえ戻ってきても、もう魔法陣は必要ないだろう。

 そう思い、ドッペルゲンガーをいつもの服に戻すと、アイギスが声をかけてきた。

 

「どうして、追撃をしなかったんですか?」

「いや、どうでもよくなったというか、興醒めというか……なんかもう、弱いものいじめみたいになってたからなぁ……

 撃たれたことや、力づくで押さえつけようって態度にムカつきはしたけど、別に殺すつもりはないし、わざわざ逃げるのを追ってまで何かする気もないし……第一、その状態はそう長く続かないだろ」

「……分かりますか」

「俺も似たような力は使えるからな。一時的に能力は上がるが、その後は行動不能になるんだろ。そっちが向かってこないなら、勝手に行動不能になるのを待てばいい」

「私は貴方が動けば対処するつもりでしたが、撤退の邪魔をしないので下手に刺激をすべきでないと判断したであります」

 

 そこでアイギスは黙り込み、二人きりになったエントランスに沈黙が流れる。

 だが、それは僅かな時間。

 

 アイギスはゆっくりと銃口を構えた。

 

「やる気か」

「このままでは貴方の言う通り、私は行動不能になります。その後に貴方が皆さんを追わないという保障はありません。私を含め、特別課外活動部全員を相手にして、あの結果……貴方はシャドウではないようですが、危険であります。故に、私の全力で排除を試みます」

「そうか……まぁ、そっちがその気なら受けて立つ。故障くらいは覚悟しろよ?」

 

 次の瞬間、一発の銃声が戦闘の再開を告げた。




影虎は特別課外活動部と戦った!
凶悪なスキルの組み合わせを使用した!
特別課外活動部を圧倒した!

なお、次回は撤退した特別課外活動部の視点になります。
アイギス戦の詳細はその後に。


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