人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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皆様お久しぶりです。作者のうどん風スープパスタです。
前回、去年の年末の投稿から丸々1年放置してしまい申し訳ありません。
今年も年内最後くらいは更新したいと思い、番外編の続きを書いてみました。
いただいていた感想への返信も、後ほど行いたいと思います。

放置の理由や今後の活動については活動報告に詳しく書こうと思いますので、
知りたいと思う方はそちらでご確認ください。



番外編1-2・平行世界の特別課外活動部

 2008年12月23日 → 2009年9月10日 影時間

 

 ~タルタロス・19F~

 

 何の因果か俺は未来の、しかもパラレルワールドのタルタロスに迷い込んだっぽい。

 そしてこの世界の特別課外活動部と遭遇し、遭難者として同行することになったが、脱出に時間がかかっている。

 

 その原因は2つ。

 

「また来たよっ! 順平!」

「うっしゃあ!」

 

 まず1つは、出現するシャドウが多いこと。

 合流前から感じていたが、今日は倒しても倒しても次から次へと現れる。

 

 そしてもう1つは、特別課外活動部の実力。

 ここにいるのは女主人公、順平、天田、そして荒垣先輩の4人。

 彼らは遭難者を装った俺に気を配り、守りながら戦っている。

 そのために常に誰か1人は隣にいて、残り3人がシャドウの相手をすることになっていた。

 

 ただ、それだけで窮地に陥るほど彼らは弱くはない。

 彼らが言うには今は9月で、ストーリー通りなら中盤から後半あたり。

 そしてここは19F、階層で言えばまだ序盤と言える。

 ストーリー中盤から後半の戦闘能力があれば、序盤のシャドウは雑魚になる。

 そして実際、戦闘は全員、1匹につき一撃で倒す光景の連続。

 

 しかし、どうも全体的に“戦闘のレベルが低い”ように感じる。

 

 重ねて言うが、彼らは“弱くはない”。

 シャドウは相手にならないし、一般的な高校生と比べれば圧倒的だと思う。

 ただ、それはスピードやパワーといった身体能力、ステータス的な意味での話だ。

 

 順平を例にすると、重そうな大剣を軽々と振るうけれど、その振り方はまるで野球のバットを振るようなスタイル。一振りの威力は大きいだろうけど、はっきり言って隙だらけ。ド素人にしか見えない。

 

 他の3人の戦い方を見ても、身体能力やステータスに任せて武器を振っている感が強い。

 強いて言えば荒垣先輩が喧嘩や戦いに慣れているからか、だいぶマシだと感じる程度。

 

 最初は戸惑ったが、考えてみれば天田や順平は元々ただの学生だ。

 さらに、作中では部の活動として戦闘訓練をしている様子もなかった。

 真田はボクシング、桐条先輩はフェンシングで個人的に鍛えているけど、それだけだ。

 

 ゲームではただ武器を持って、タルタロスに特攻して、シャドウを倒すだけで強くなる。

 コマンド1つで武器で攻撃、またはペルソナの魔法をぶっ放すだけ。

 互いに守りあったりもするので、そこまで単純ではないけれど、それに近い。

 これがまさに“レベルを上げて物理で殴る”ということ……なんだろうか?

 

 それにしても、

 

「だぁあ! 全然減らねー! なー、いくら雑魚でもこんだけ次々来るとウゼーし、ペルソナで一気にやっちまわねー?」

「ダメだって順平。数が多いからこそ、無計画に使ってたらガス欠になるよ!」

「あ、そっか……」

 

 このままでは脱出まで、もっと長くかかりそうだ。

 おまけに動き全体に無駄が多いので、皆、段々と余計な疲労が溜まってきている。

 

「もしよければ、俺も手伝おうか?」

「えっ!? 急になんで?」

「いや、俺もさっきから来てる連中は倒したことあるし、なんか俺がいるせいで全力が出せないみたいだったから」

 

 露骨にチラ見しながらそんな話されれば、気づかない方がおかしいだろう。

 

「あー、いや、その、な?」

「心配しなくても、自分の身だけなら守る自身はある」

「でもほら! 体の調子がアレでしょ?」

「空腹だけど、体力はある程度温存してたから大丈夫だよ。俺が協力することで早く出られるなら、その方が早く食事にもありつけるだろ?」

「う~、それはそうだけど……」

「おい! 次が来るぞ!」

「僕がカバーします!」

 

 こうして話している間にも、荒垣先輩と天田は追加のシャドウに対処している。

 

「でも、あ、ちょっと待って! ……はい、えっ? あ、はい!」

 

 女主人公が待機組と連絡を取っている。

 かと思えば、

 

「葉隠君! 参加OK! 桐条先輩から許可出たよ!」

「マジで!?」

「うん。なんか、本人がいいって言ってるなら手伝ってもらえって」

「えぇ……さっきまでと違うじゃんよー」

 

 この時期と原作の先輩の性格を考えると、素性不明の適性持ちへの警戒が半分。

 新たなペルソナ使いの発見と戦力増強への期待が半分ってところかな。

 

「まぁ先輩の指示だし、でも戦うなら装備がいるよね? どうしようか? 防具なら真田さんの分の執事服が余ってるけど」

「執事服は遠慮しておく。誰かに用意したなら、ぜひご本人に渡してほしい。あと、武器は要らないよ」

 

 というか、こんな訳の分からない状況で、よく知らない相手に武器を渡そうとするなんて、いささか無用心では? と伝えたら、女主人公は大丈夫っしょ! と明るく笑っている。

 

 一体何が大丈夫なんだと思ったが、とりあえず戦闘許可は出た。

 ひとまず協力して早くここを出よう。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 ~桐条視点~

 

『次の角を右に曲がってください。そうしたら突き当たりに脱出装置があります。あと一息です、頑張って!』

 

 タルタロスのエントランスから、山岸が探索に出たメンバーをナビゲートしている。

 その言葉から向こうの状況を推察するに、もう少しでこちらに戻ってくるのだろう。

 

「明彦、岳羽、コロマル、それとアイギス。もうすぐ探索チームが戻ってくるようだ。いつ戦闘になっても対応できるよう、警戒しておけ」

「戦闘準備? ただ行方不明者を救助してくるだけですよね」

「……今回はイレギュラーな要素が多いからだ。

 これまで救助した人々は全て、意識を失った状態だった。しかし今回、葉隠と名乗った男子は意識があるだけでなく、会話や歩行も可能。さらに探索チームが話を聞いた限りではシャドウに襲われ、倒している」

「私達みたいに適性があるんじゃないですか?」

「初めて影時間を体験した人間は混乱するものだ。それは岳羽も経験があるだろう。だが、葉隠少年にはそれがなく、至って普通に会話ができている」

「それは……そういう人もいるんじゃないですか? 公子だって最初から混乱はしてなかったみたいだし。それにその人、タルタロスをさまよって結構長いみたいですし、その内落ち着いたんじゃ?」

「確かにその可能性もなくはない、が、そもそもそんなに長期間タルタロスにいたのかが怪しい。本人が言うにはタルタロスに迷い込んだのは“去年の年末”……今年に入ってから、我々が何度タルタロスを探索した? もし仮に去年からタルタロスにいたのなら、なぜこれまで存在が掴めなかった?」

「それは……」

 

 岳羽の表情が目に見えて曇る。

 納得はできないが、反論もできないというところだろう。

 

「そんな顔をするな。私も別に喧嘩を売る気はない。

 ただ、先日のストレガに我々の把握していない仲間がいないとも限らないし、ストレガの例がある以上、在野で密かに活動しているペルソナ使いの存在も否定できない。

 それに、彼が戦闘に参加して明らかに探索チームの移動速度が上がった。どうやら、なかなかの実力者のようだから念のために、いざという時には動けるようにしておけ、というだけだ。威嚇をする必要はない」

「……分かりました。そういうことなら」

「分かってくれてありがとう」

 

 岳羽の了解も得られた、と思った直後だった。

 

「おい、どうやら来るみたいだぞ」

「ワフッ!」

 

 明彦とコロマルの視線の先。

 転移装置がかすかな駆動音と共に、光を放ち始めている。

 そして瞬く間にその光が強まり、最高潮に達したと思えば、輝きは失われていく。

 その後に残るのは、5つの人影。

 

 探索チームと救助された男子、葉隠影虎がエントランスに現れた。

 

「お帰りなさい! 皆さんお疲れ様でした!」

「ただいまー!」

 

 山岸が帰還した探索チームに声をかけ、リーダーが笑顔で返事をする。

 それはいつもの光景だが、そこに1人、見慣れない顔が混ざっている。

 連絡を受けていた葉隠影虎で間違いないだろう。

 

 軽く聞いていた通り、一見普通の、高校生くらいの男子だ。

 彼は転移装置で瞬時に移動したことに驚いているのか、エントランスを見回している。

 しかし、やはり影時間を初めて体験する時特有の混乱、錯乱に近い状態ではないようだ。

 理解できない状況をなんとか把握しようとしているのが分かる。

 

「あっ! 桐条先輩! 彼が例の葉隠君です!」

 

 そんな彼の努力を無視した公子が腕を引き、私のところに連れてきた。

 

「あ、どうも。葉隠影虎と申します。ええと……桐条さん、ですね?」

「桐条美鶴だ。うちのリーダーの公子がすまない。明るく活発な性格は美徳だと思うが、やや強引なところがあってな」

「いえいえ、助けてくれようとしているのは分かりますから……それで、いきなり不躾かもしれませんが、ここは一体……」

「君が疑問に思うのは当然だ。本来なら体調を優先するのだが、見たところ元気そうだ。よければこのまま少し説明、それと君の話も聞かせてもらってもいいだろうか?」

「こちらとしても、その方が助かります」

 

 彼の同意も得られたので、簡単にこちらの自己紹介と説明を行う。

 不幸中の幸いと言うべきか、彼はタルタロス内をさまよう間にシャドウを。

 また、探索チームと脱出するまでに、公子達のペルソナを見ていたらしく、

 

 “嘘みたいな話だが、実際に見たので信じるしかない”

 

 という感じではあるが、信用されがたい話を速やかに理解してくれた。

 

「理解が早くて助かる」

「こちらも状況を説明するとなると、似たような一般常識では説明できない話になりそうですからね」

「だろうな。葉隠君の状況は我々からしてもイレギュラーな事態だ。何があってもおかしくはない。それを踏まえて、君の話を聞かせてもらいたい」

「分かりました、と言っても何から話すか……」

 

 彼は少し迷った様子を見せるが、すぐに語る内容を決めたようだ。

 

「推測になりますが、俺は自分がこのタルタロスという場所を経由して、いわゆる“平行世界”の“未来”に来てしまったのではないかと考えています」

 

 その言葉を聞いて、驚きを隠せない仲間達。

 私自身もまさかと思わないこともないが、否定できる根拠もない。

 なによりも彼自身に嘘をついている様子はなく、なんらかの確信があるようだ。

 

「なぜそう考えたか、聞かせてもらいたい」

「根拠は2つ。まず1つめは、時間経過の矛盾。

 既に聞いていると思いますが、俺の記憶にある限り、タルタロスに迷い込む前は、皆さんからすると去年“2008年の12月23日の夜”でした。そして皆さんは今を2009年の9月10日だと言っている……皆さんが嘘を言っていないのであれば、俺は半年以上もタルタロスをさまよっていた事になります。

 俺も長時間タルタロスをさまよった覚えはありますが、長くとも1日程度です。流石に半年もさまよっていたら今以上に消耗、というよりまず間違いなく飢え死にしていると思います。だから、何らかの原因で未来のタルタロスに迷い込んだということになるかと」

「なるほど、確かに推測の域を出ないが、時間については私から見て納得できる。

 我々も半年以上タルタロスを探索しているが、君の存在を知ったのは今日が初めてだ。探知能力に長けた山岸がいるにもかかわらずな。彼女の能力を考えると、偶然出会わなかったというのは考えにくい。影時間は日中とは時間の流れが異なるため、そういうことがないとも言い切れない。

 だが、平行世界と考えた根拠は?」

「それは、皆さんが俺のことを知らなかったようなので。自分で言うのはどうかと思いますが、元の世界ではテレビやイベントに出ていて、それなりに有名人なんです。それに12月の24日には、大事な試合があったので」

 

 そういえば、そんな話もしていたな。

 

「その試合は俺が出ていたテレビ番組に関係するもので、素人格闘家が色々な格闘技の特訓を受けたら、プロにどこまで通用するか? という実験企画の結果発表会でした。

 それまでの過程を紹介する番組が好評だったこともあり、かなり派手な広告を打たれていたので、外出時は変装が基本になるくらいだったんです。

 あと、俺が試合前日から今までタルタロスにいたのなら、その試合をすっぽかして半年以上行方不明になっていることになるので……」

「そっか! テレビの企画なら、遅くとも試合当日の時点で行方不明が明らかになるよね。大きなイベントがダメになったら大事だし、テレビ局も試合中止の理由を説明しないとだろうし……有名人が大事な企画の前に失踪、しかも半年以上。ニュースになる可能性も十分に考えられる。

 つまり、同じ世界ならもっと騒ぎになっているはずだし、私達も聞いたことがあるはず! でも私達は葉隠君の事を知らない、だから葉隠君は葉隠君が有名じゃない世界に来た!

 ……ってことでOK?」

「そういうことです」

 

 葉隠君の言葉を、途中で引き継いだ公子が確認を取り、彼が頷く。

 彼の経歴については現状、彼の言葉しか情報がないが、彼が戦えることは確認している。

 

「そういえばリーダーと君は共闘したんだったな。格闘技と言っていたが、シャドウ相手にも格闘技で?」

「基本的には空手で。ただ企画で学んだ中国拳法や総合格闘技を交えているので、もはや別物になりつつありますが」

「凄かったですよ! もしかしたら真田先輩より強いかも!」

 

 それほどか、いや待て! そんなことを言ったら、

 

「何? それは聞き捨てならんな。ちょっと勝負を──」

「明彦は黙っていろ」

「むっ……分かった」

 

 危なかった……いや、既に手遅れかもしれん。葉隠の表情が僅かにだが歪んだ。今ので明彦が好戦的なことは理解されただろう。これが不信の素にならなければ良いが……

 

「ん? 待ってくれ“基本的には空手で”ということは、他に手段があるのか?」

 

 ふと、直前の言い回しが気になったので聞いてみると、あっさりと答えが返ってきた。

 

「一度、シャドウに追い詰められた時に、皆さんがペルソナと呼んでいるものが出ました」

『!?』

「葉隠君、ペルソナが使えるの!?」

「でも、葉隠さんって、召喚器持ってませんよね?」

 

 山岸と天田が疑問を口にする。当然だろう、私も彼が適正を持っていることはほぼ確信していたが、既に使えるとは思っていなかった。

 

「そうか、召喚器は補助装置であって、必須というわけではない。私達も強く死を意識することができれば、理論上は召喚器が無くてもペルソナの召喚は可能だ。おそらく葉隠君は、シャドウに追い詰められたことで条件を満たしたのだろう」

 

 あくまでも理論上の話だが不可能とは言い切れない。私も召喚器の全てを知っているわけではないしな。しかし、召喚器に頼らず召喚可能なペルソナ使い、しかもここまでの様子を見る限り、ストレガのように敵対する気配はない。もしかすると彼は、私が考えていた以上の拾い物かもしれない。

 

「へー、そうだったんですね。……あれ? じゃあ葉隠君は、今はペルソナ使えないのかな?」

「それは、どうだろう?」

 

 こればかりは本人に聞くしかない。

 

「どうでしょう、ちょっとやってみますか?」

「頼む、一応確認はしておきたい。山岸もペルソナで様子を見ておいてくれるか?」

「分かりました」

 

 山岸がペルソナ“ルキア”を召喚し、準備ができたと合図を送る。

 すると葉隠君は少し距離をとり、一言こちらにやってみますと告げて、目を瞑る。

 成功か、失敗か。結果はどちらかになるだろう。

 

 ……そう考えていた私の前で、予想もしていない事態が発生する。

 

『えっ!? これ──』

シャドウ反応(・・・・・・)確認!」

「なにっ!?」

「一斉掃射!!」

 

 ゆらりと彼の周囲に、黒いもやのようなものが発生したと気づいた瞬間、山岸の声を遮って、アイギスが排除行動を開始。突然のことで止める間もなく、連続して鳴り響く銃声。アイギスに目を向けた私が再び彼のいた方へ目を向ける頃には、彼は弾幕によって生まれた煙幕に飲まれていた。

 

「ちょっ! アイちゃん!?」

「アイギス! あんたなにやってんの!?」

「シャドウ反応を確認したであります」

「だとしても何故いきなり撃った!」

 

 ペルソナとシャドウは表裏一体、そしてどちらも人の心から生まれるものだ。

 ペルソナを出そうとして、間違えてシャドウが出てくることもあるかもしれない。

 だが、いきなり発砲する許可など与えていない。命令違反もしないはずだ。

 それがどうしてという思いが口から出た。

 

「美鶴さんの命令に従ったであります」

「私の命令?」

「美鶴さんは“いつ戦闘になっても対応できるよう、警戒しておけ。威嚇をする必要はない”と言っていました。だから命令通り“威嚇射撃”ではなく“即時対応”を選択しました。私の存在意義はシャドウの排除、そして皆さんを可能な限り守ることであります」

「……そういう意味ではない! いや、今はそんな話をしている場合では──」

 

 ここで違和感を覚えた。

 対シャドウ兵装であるアイギスの弾丸を受けた葉隠はどうなったか?

 すぐにでも治療しなければ命が危ない。いや、あの連射なら即死の可能性の方が高い。

 どちらにせよ、すぐに救助に動かなければならない状況、にもかかわらず、

 

「何故、誰も動かない」

 

 目をそらしてしまった私、アイギスの行動を見ていた伊織と岳羽を除いた仲間達が、いまだ立ち上る煙を見据え、戦闘態勢を取ったまま動かない。

 

「山岸! 状況報告を!」

『は、はい! アイギスの攻撃が全弾命中! ですが、葉隠君の生体反応は健在。ダメージもほぼないみたいです!』

 

 報告と同時に、煙幕がはれる。そこには体を縮め、両腕を顔の前で揃え、頭を抱いてかばうような体勢の彼がいた。腕は長い手袋をはめたように黒く変色し、足元には打ち込まれたであろう弾丸が散らばっている。

 

「ああ、痛ってぇ。マシンガンなんて体で受けるもんじゃないな……」

「葉隠……無事なのか?」

 

 無事でよかったと思う反面、警戒が跳ね上がる。

 対シャドウ兵装の特殊弾を生身で受けて無傷なんてありえない。

 銃撃に耐性のあるペルソナ使いだとしても、直撃すれば怪我くらいはするはずだ。

 

「なんとか無事ですが、いきなり攻撃はちょっと酷くありません? 突然現れた俺が怪しいのは分かりますし、警戒するのは仕方ないと思います。だけど、こちらはできるだけ穏便に、協力的に話をしていたつもりです。ペルソナの召喚もそちらを刺激しないよう配慮していたつもりです。

 それなのに、銃で撃たれるのは不愉快といいますか……俺じゃなかったら普通に死んでますよ」

 

 当然といえば当然だが、言葉の節々に明らかな怒気と敵意を感じる。

 

「えっと、葉隠君? 和解の方向で話はできないかな?」

 

 基本的に気楽に物事を考える公子も、流石に今回はまずいと思っているのだろう。

 いつもの明るさがなりを潜めて、慎重に言葉をかける。

 

 しかし、

 

「どうやら手違いっぽいし、俺も特には怪我もしてないけど、銃弾ぶち込まれたら普通の人間は死ぬでしょう。救助してくれたことには感謝していますが、殺されかけたと言ってもいいわけですし、流石にごめんで済ませて水に流そうとは言えませんね。

 なにより……今ので無事だったせいで、逆にそっちは警戒してるでしょう。アイギスさんと真田さん? に至ってはもう戦う気満々って感じですし。撃たれて死んだら信用、無事なら警戒して敵対って、ここは魔女裁判か何かか」

 

 正論と皮肉が返ってきた。それによって明彦はさらに戦意を高め、アイギスは完全に戦闘モードになっている。

 

 ……こうなっては仕方がない。確実に印象は悪くなるが、もう一度警告をして引かなければ取り押さえよう。いくら彼がペルソナ使いでも、1人で我々9人と1匹を同時に相手はできまい。そして、落ち着いてから改めて話を聞いてもらおう。

 

「葉隠君、君に攻撃を加えてしまったことは申し訳なく思う。だが、ここは大人しく引いてくれないか。無駄な争いはしたくないが、君が争うつもりならば、我々は君を取り押さえるしかない」

「……それが貴女の答えですか、桐条さん」

 

 するとどうしてか、彼の表情にこれまでで一番の変化があった。

 それまでの怒気や敵意まで、一瞬にして消えたようにも感じた。

 だが、怒りが落ち着いたわけではないようだ。

 

 その表情に浮かぶ感情は……深い“失望”。

 まるでよく見知った親しい相手に裏切られたかのようだ。

 そんな選択はしないと思っていた、と責められているようにも感じる。

 

 どうして彼がそんな表情をするのか?

 敵対するつもりはなかったとはいえ、初対面の私をそこまで信用していたのか?

 それは分からないが、確実なことは1つ。

 

 この瞬間、お互いに矛を収めるという選択肢が消えたことだ。

 

「残念です。俺も争いたくはなかったけど、数で囲んで武器をチラつかせれば諾々と従うと思っているなら大間違いだよ」

 

 黒い煙が彼の体を包み、漆黒の忍者装束へと変わる。

 同時に大型シャドウにも匹敵する威圧感が、我々のいるエントランス全体に放たれた。

 

「来るぞッ!」

 

 挑むように飛び出す明彦の背中を見ながら、私はペルソナを召喚する。

 戦闘が始まった以上は戦うことに集中すべきだ。

 

 相手の能力は未知数。唐突に変化した服装はペルソナの力なのか、それともアイギスの言うようにシャドウなのかすらはっきりしない。加えてこの威圧感……もしかすると私は、思っていた以上に厄介な相手と敵対することを選んでしまったのかもしれない。




影虎は平行世界の特別課外活動部と合流した!
しかし敵対することになってしまった!

番外編の特別課外活動部は、
影虎がいなかったので原作に近く、仲間内でもギスギスしてます。
あとこの時点ではアイギスもまだ機械っぽさが強いです。

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