すみません。
~撮影現場~
久慈川さんや光明院君、Bunny'sの人たちも続々と集まり、準備が進む。
もうじき撮影が始まるだろう……その前に、役作りをしよう。
以前撮影を行った時にもしていたが、今ならさらに深くまで掘り下げられる。
性格は穏やかで成績優秀。生徒会長を勤めている。
文字にすればたったこれだけ。
だが、ここに経験や他の情報と合わせて役を、暁陽炎という人物の“人格”を作り上げていく。
記憶転移や別人格の副作用だろうか?
今なら“作れる”という確信があった。
……
「次のシーンに行きまーす! メインの4人はそのまま続きからね。で、葉隠君」
「はい」
呼ばれて立ち上がると、現場の空気が変わる。
きっとIDOL23の女子たちにエリザベータさんとの事を聞かれた際、誤解を解くために演技を習ったことを話したからだろう。
“大女優の弟子”という肩書きの重さを感じながら、それに恥じない演技をするために。
「用意……アクション!」
俺は自分の中に作り出した暁陽炎という人格を……
……
…………
………………
「チェックOK! 葉隠君、自然な感じが最高だよ! 次もその調子で!」
この日の撮影は驚くほどスムーズに進み、“演技とは思えないほど自然な演技だった”と監督からは絶賛された。
そして、
「さすがエリー・オールポートの弟子だね!」
「勝負はここからだよ!」
「コツをみつけて吸収してやるからな」
「フン……」
競演した4人の内、IDOL23の代表は堂々と褒めてくれた。
久慈川さんと光明院君はさらにやる気を出したようだ。
そしてもう一人、Bunny'sの佐竹は嫌悪感を隠そうともしない。
佐竹と会うのはずいぶん久しぶり。
それこそ忘れそうになるくらい時間が空いたと思う。
にもかかわらず、以前よりも嫌われている感じが……!!
なんと、ここで悪魔、つまり佐竹とのコミュが上がった!
以前よりも嫌われていると考えた瞬間、肯定されているみたいだ。
これも相手についての理解が深くなった、ということなのだろうか……?
……
…………
………………
深夜
~廃ビル~
「昨日の今日でよくこんなに集まったな」
鬼瓦に俺が設立させた会社で働きたいという奴を集めさせたら、たった1日で56人もの希望者が声を上げているそうだ。
「他にも今は別のバイトが入ってるけど、契約期間が終わったらそっちで働きたいって奴もいるな。特に元クレイジースタッブスの連中はほとんど希望してる」
「ああ……確かあいつらは意外と高学歴とか技術持ってる奴らだったっけ」
「俺は良くわからんが、簿記2級やらなんやら資格を持ってるとか、経理の仕事をした経験があるとか言ってたぜ」
「……事務要員にちょうどいいな。車の免許持ってる奴は?」
「基本バイクでペーパーの奴も含めると、40人が免許持ってる。軽トラでいいなら大半が運転できるぞ。あと中型免許持ってる奴も2人いるな」
免許の所持率高いな。
そんなに大きな会社にするつもりはなかったし、人手は十分。
むしろ仕事の割り振りを考えなければ……
「分かった。分担はざっくり分けてリサイクルショップ店員、事務員、 回収・運搬作業員だ。近いうちに作業ごとのマニュアルを用意するから、人材の振り分けは任せていいか?」
土地や建物の用意はもう少し時間がかかるらしいので、その間に基本的な教育はしておこう。
鬼瓦と計画を練った!
……
…………
………………
影時間
~街中~
各種実験や報告のため、アメリカチームと合流。
巌戸台からはかなり距離をとっているので、特別課外活動部やストレガに察知されることはまずないだろう。
そんな馴染みのない街で見つけた公園で実験準備をしながら話していると……なんと、ここでも鶴亀の記事が話題に上がった。
「熱愛とか婚約者についてはきっぱり否定したけど、世間はどうなってるんだ?」
「鶴亀の記事自体はもう世界中に拡散してるよ。記事の前面に出てるのはタイガーだけど、相手がエリー・オールポートだもの。ファンの数もアンチの数も桁違いなんだから、あっという間にその手のコミュニティーの情報網に流れちゃったみたいだね」
「おかげで此方から連絡する前にあの子の耳にも入ったらしい。SNSで関係を否定して正しい情報を流しているよ」
ロイドとMr.コールドマンが状況を説明してくれる。
周囲への対応は俺とさほど代わらない。
では肝心の鶴亀に対しては?
そう聞くと、2人の顔が困ったような、それでいて呆れたような顔をした。
「それがさ、まず抗議文が送られたんだよ。超人プロジェクトだけじゃなくて、エリー・オールポート本人からも」
「あの子は言いたい事をはっきり言うからね。しかし、抗議文を受けた鶴亀は何といったと思う?」
「? ……しらばっくれたか、誰かの独断とか言い訳したとか?」
Mr.コールドマンは静かに首を横に振り、笑いながら一言。
「取材の申し込みをしてきたのさ」
「……どういうことですか?」
「適当な記事を書くな! 訂正しろ! って抗議文を出したら、じゃあ訂正してやるからそのために取材に応じろ! 独占取材でな! って感じの答えが返ってきたのさ」
「それはそれは……一周回って感心するな。謝罪の一つもなくそこまで言えるって、どんな神経してるんだ」
「彼らは、自分達は何を言っても書いてもいいって感じのスタンスをとっているみたいね」
「まだネットや SNS が発達していない時代。情報の流れがマスコミに握られていた昔は、強引な取材を行うマスコミも多かったらしいが……」
「ぶっちゃけ時代遅れよね」
カレンさん、ジョージさん、そしてエレナも。
次々と呆れた声が出てくる。それも仕方ないとは思うけど……?
「アンジェリーナちゃん? どうかした?」
「つまらない」
どうやらお嬢様は鶴亀の話が退屈だったようだ。
大して面白い話でもないし、当然か。
「エイミーさん、機材の準備は」
「もうちょっと待って。観測機器の調子が悪いの」
「黄昏の羽根を使わずに影時間で動く機材を作れるってだけでも十分な成果だと思いますけど」
「なに言ってるの? これは観測機器なんだから正確にデータが取れない状態じゃ意味がないでしょ。問題点が見つかれば次で改良できるんだから」
それは確かにそうなんだけど、じゃあどうするか?
考えていると、
「タイガー、魔術見て」
どうやら独自開発した魔術を見てほしいようだ。
「どんな魔術?」
「Psychokinesis」
「サイコキネシスって、あの?」
「ん」
彼女は軽く頷くと、手に持っていたかわいらしいメモ帳に魔力をこめて、足元にあった小石を浮かび上がらせた。それも1つではなく2つ3つと同時に。
「おお! これ、複数の物体を一度に操れるの?」
「動き方をイメージできて、魔力が足りれば動かせる。そうなるように考えた。だから」
こんなことも、と口にした次の瞬間、彼女の体がふわりと浮き上がった。
これまで身長の関係で見下ろしていた視線が、地面と水平に変わる。
「やろうと思えば飛ぶこともできるのか……」
「タイガーもやってみる?」
地面に降りた彼女は満足そうに、ルーンを書いたメモを見せてくれた。
「あっ、アンジェリーナのそれはルーンと魔力で物理的なエネルギーを発生させてるらしいんだけど、コントロールがイメージというか感覚頼りでかなり難しいから気をつけて。自分を飛ばそうとしたら一気に魔力消費するし、自分を吹き飛ばしたりするし、私は諦めたわ」
エレナの注意を受けて、そっと魔力を込めてみる。
そして小石が浮き上がるイメージを持つと、難なく小石が持ち上がった。
軽いものは比較的簡単に操れる……けれど、重いものになるにつれて安定しなくなった。
自分を浮かそうとすると、力任せに押し上げられている感覚で、何度も転んでしまう。
アンジェリーナちゃんの指導を受けつつ練習してみたが、なかなか難しい。
さらに驚いたことに、彼女は最初からこの術を手足のように使えたらしい。
「これは、魔力が多くて才能もあるアンジェリーナちゃんにはピッタリの魔術かも」
そして影時間が終わる頃。
残念ながら魔術で飛行はできなかったけれど、練習中にペルソナの新たな魔法。
“サイ”を習得した!
サイコキネシスによって敵を攻撃する魔法で、“念動属性”という新たな属性の魔法だ。
今後、魔術を学んでいくことで、また新たな属性の魔法を習得することがあるかもしれない!
さらに今日はアンジェリーナちゃんとのコミュも上がった!
自分の中のエネルギー量が、僅かながら増大したのを感じる。