人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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312話 異常?

「では、また後日」

「気をつけてな」

 

 帰っていく白鐘さんを見送り、完全にビルを出たことを確認し、ソファーに体を預ける。

 結論から言うと、俺個人は白鐘と協力関係を結ぶことになった。

 しかし近藤さんは現在休養中なので、そちらの返答はまた後日。

 夜も遅くなってしまうと理由をつけて、今日は帰ってもらった。

 

 今日はこの後、予定がある。

 面倒事の1つに決着をつけるという大事な予定が……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~アジトの中庭~

 

 ポートアイランドの路地裏に佇む廃ビルには、血気盛んな不良166名が、各々決戦の準備を整えて集まっている。

 

「ヒソカ、そろそろ時間だぜ。景気よく何か言ってやれ」

「分かった」

 

 鬼瓦に呼ばれて、俺は一段高い瓦礫の上に立つ。

 

「注目!!」

 

 それを見た1人が声を張り上げ、全体の目が俺へと集まった。

 ここはひとつ派手にやろう。

 そう考えた時、

 

「──諸君、私は戦争が好きだ──」

 

 有名な某少佐の演説をアレンジした言葉が自然に口から出てきた。

 最初は何を言い出すのかと呆気に取られていた奴等の瞳が釘付けになった。

 気分が高揚する。狂気が伝播する。口から溢れる言葉が止まらない。

 次第に演説を聴いていた連中の瞳には炎が宿る。

 恐怖や緊張を焼き尽くし、今にも闘争に身を躍らせそうな狂気の炎。

 それは目の輝きに留まらず、体から立ち上るオーラも燃え盛る炎の如く。

 

 彼らは──否、我々は(・・・)既に戦火の中に立っていた。

 

「──往くぞ、諸君」

『ウォオオオオオッツ!!!!』

 

 最後の一言と同時に瓦礫から飛び降りた俺は、狂ったような声を上げる男たちを引き連れて。

 最終決戦の場へと歩いていく。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~路地裏~

 

「ヒッ!?」

「や、やべぇ……!」

 

 目に付いた相手を無差別に襲いそうな連中を引き連れていると、通りかかる人全てが逃げていった。

 

 そして到着したのは、古びた看板を掲げた大きなボウリング場。

 窓は割れ放題。壁は落書きだらけ。

 建物はしっかりしているが、潰れてそれなりに長そうだ。

 だからこそ、こちらも相手も100人以上の喧嘩をするには都合が良いのか……どうでもいいか。

 

「往くよ」

 

 観音開きの扉を蹴破ると、電気は通っているらしく明るい。

 入って正面にはもう1つ同じ扉があり、先はボウリングの設備が並んで広々としている。

 扉の横に受付があり、本来はそこで料金を払ったりボウリング用の靴を借りるのだろう。

 

 しかし今は必要ない。

 無視して扉の奥へ進むと、そこには200人程度の男たちが待ち構えていた。

 

「ふーん……」

「きやがったな」

 

 もはや機能していないレーンの上で、睨みをきかせる男たち。

 その中心に、一際屈強な男たちに囲まれて派手なスーツを着た男が1人。

 どうやらこいつが金流会のリーダーらしい。

 背は高め。顔はいかつく、脂の乗って横に広い体……

 体がデカイという点で威圧感はあるだろうが、戦うための体ではないな。

 

「よくこんなに集められたね? 聞いた話じゃ、皆ボクと戦うのを避けてたみたいだけど」

「フン! こいつらは後始末担当だ。ケリのつけ方には同意しただろう」

「こっちとそっちの総力戦。ただし、その前にトップ同士のタイマン(1対1の勝負)だろう? つまりボクを1人で討ち取る自信があるわけだ。だから、少しは楽しみにして来たんだけど、ねぇ……」

 

 今回もハズレだ。

 

 そんな思いを察したのか、男は鼻で笑う。

 

「そんな口を叩けるのも今のうちだぜ?」

「せめて少しは楽しませてほしいよ。できるのならね。それより早く始めよう。今更話し合いで和解なんてないだろう? こっちの連中も早く暴れたがってるんだ」

「チッ、口のへらねぇ奴だ。……いいだろう。得物を持って前に出な!」

 

 彼は自分の勝利を疑っていないらしい。不敵に笑って、仲間を下がらせる。

 

 やっぱり目の前の男が相手なのか……

 本当に失望しつつ、鬼瓦から鉄の棒を受け取り、前へ出る。

 間合いが5メートル程度になった所で、奴は自分の得物を取り出した。

 

「なっ!?」

「拳銃だと!?」

「マジモンか!?」

 

 鬼瓦たちの間に動揺が走り、対する金流会側は余裕の表情。

 銃があるから勝てる、って言われて集められたのかね?

 少なくとも銃があることは知っていたらしい。

 

 ……まぁ、それはボク(・・)もなんだけど。

 

「へっ、喧嘩馬鹿のテメェも流石に拳銃には──」

「全員、左右の壁際に分かれて。後ろに立ってると流れ弾が来るかもよ」

「って、何平然としてんだテメェ! こいつはモデルガンじゃねぇぞ!」

「だったら早く撃ってきなよ。今更ゴチャゴチャ言わずにさ」

 

 念のためにヘイトイーターを発動。

 これで左右に分かれた鬼瓦たちが狙われる可能性は低くなる。

 

 銃の種類は形状からして“トカレフ”。

 たぶん中国製の密輸品で粗悪品。

 何より使用者の腕が悪い。

 

 銃を片手で持ってふんぞり返るような体勢。

 構え方がなっていないし、そもそも抜いて構えるまでが遅かった。

 銃を見せ付けるつもりではなく、明らかに扱いなれていない。

 何より余裕を見せてこの距離に近づくまで抜かなかったこと。

 接近を許せば銃の射程というメリットが潰れてしまう。

 

 銃を武器ではなく脅しの道具と考え、チラつかせれば降参するだろうと思っている。

 経験の賜物か、扱い方1つで意外と多くが分かるものだ。

 

「舐めやがって! 死んで後悔しな!」

 

 発砲の瞬間、軽く首を傾けて射線から逃れる。

 頭は急所だが、狙うには的が小さい。

 素人なら多少狙いをはずしても、体に当たる確率が高い心臓の方が無難なのに。

 おまけに一発で眉間を撃ち抜いたつもりか、追撃もこない。

 

「……は、ずした?」

「今、首をクイッって、まさか避けた?」

「んなアホな、威嚇射撃ってやつだろ」

「クソッ!」

 

 部下のざわめきを聞いて、ようやく次を撃つ男。

 馬鹿の一つ覚えのように頭へ2発。

 それから足を止めようとして3発。

 どれも発射直前に少し体をずらすだけで避けられる。

 わざと外しているわけでないことは、撃っている本人が一番よくわかるのだろう。

 トカレフの装弾数は8発。顔色悪く、焦った様子で残る2発は胴体へ。

 1発は半身で避けて、もう1発は鉄の棒を射線に置いて防ぐ。

 

 全ての弾を打ちつくし呆然とする男と、それを見てまた呆然とする部下たち。

 

 本当に、本当に……どうしてボク(・・)はこんな奴らに時間をかけていたんだろうね?

 

 1歩進むと、古い床板が不快な音を鳴らす。

 その音で我に返ったらしい。

 

「お、お前ら! 全員で撃て! 撃ち殺せ!」

 

 側近だろう、屈強な男達が、隠し持っていた銃を取り出そうとする……が、やはり遅い。

 

 銃を向けられるより早く、“絶望の波動”を放つ。

 

『!!』

 

 瞬間的に表情を失い、膝をつく男が4人。

 同時に4丁の銃が床に落ちる。

 

「おい、おい!? 何やってる!?」

「あ、はは……だめですよ、もう……」

「俺達は終わりだ……なにもかも」

 

 体を揺さぶられた2人は、本当に絶望しきった声で終わりだと口にする。

 

 そしてそれは事実である。

 

 古い床板を1歩1歩踏みしめて、状況の飲み込めない男に近づく。

 

「お前、お前は一体、本当に何なんだ、突然現れて、全部めちゃくちゃに」

「君たちは所詮、地元の一不良グループにすぎなかった。それを後ろ盾を得て増長したんだろう? 金を集め、部下を操って、だけど結局は暴力に頼る。だったら最初から、素直に、普通に喧嘩してればよかったのに」

 

 銃なんか持ち出さなければよかったのに。

 大体こうなる前に、いくらでも手を引くチャンスはあったはず。

 

「メンツを気にしてチャンスを全部捨てたのはそっちだろう」

 

 弾切れの銃をその手から奪い、他の4丁も拾い集める。

 彼らの持つ銃が全部で5丁なのは、周辺把握で分かっている。

 

「これでよし。あとは──」

「ヒブッ!?」

 

 既に立つこともできない男の顔面に一撃。

 それだけで男は気を失ったようで、鼻から盛大に血を吹いて床に倒れる。

 

 対して俺は血の滴る拳を突き上げ、ついてきた不良共に宣言する。

 

「さあ、前座は終わりだ! 銃も奪った!! あとやる事は分かってるな!?」

「あ、ああ! テメェら行くぞ!! 金流会の連中をブチ殺せェ!!!」

『ウ、ォオオオオオッツ!!!!』

 

 鬼瓦を筆頭に、一時的に治まっていた狂気が再燃。

 対してリーダーが負け、心の支えである銃を失った金流会の連中の士気はガタ落ち。

 

 そこから先は一方的な蹂躙が続き、新たなスキル“鮮血の先導者”を習得した……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 12月8日(月)

 

 朝

 

 ~自室~

 

 “疲労”が続いている……が、それ以上に、

 

「俺は何をしていたんだ……?」

 

 昨夜、金流会との最終決戦に挑み、勝った。

 その記憶はしっかりとある。

 しかし凄まじい違和感、というか、所々で自分がやったことなのか疑問な部分がある。

 だが昨日行われたことは間違いなく自分でやった事だ。

 

 金流会のボスにかけた言葉も、その後不良グループに戦わせたのも……

 あれは喧嘩というより、もはや集団リンチか? 負けた金流会は吸収合併。

 これまでの争いに決着をつけるため。後顧の憂いを払うためにも、徹底的にやらせた。

 当然とばかりに。

 

 後悔はしていないが、疑問が残る。

 ペルソナが暴走した、ということはないはずだ。

 そんな感覚は全く覚えがない。だけど何か違和感を覚えてしょうがない。

 

「っと、もうこんな時間か……」

 

 まだ時間はあるが、あまりのんびりしていると遅刻してしまう。

 とりあえず朝食だけでも食べなければ……

 

 そう考えて、とりあえず行動。

 

 身支度を整えて食堂へ行く。

 しかし、考えることは変わらない。

 朝食を受け取り、適当な席に着き、食べ進めるが、それだけ。

 

「おっ? 影虎じゃん」

「ん? あ、順平」

「影虎がこの時間ってなんか珍しくね? いつももっと早いだろう」

「まぁね、今日はちょっと、急ぎの用事もないし、やっぱりまだ疲れてたみたいで」

「あ~……ま、たまにはいいんじゃね? 休む時は休む! これ、オレッチ的に人生を楽しむコツよ!」

 

 そう言って胸を張り、隣に座ってくる純平。

 明るい彼を見ていると、少し気分が晴れた気もする。

 

「確かに。でも休みすぎ、遊びすぎで、後々後悔しないようにな」

「だはっ! 大丈夫だって! そうならないように今マジで頑張ってるんだからさ!」

「ははは、まぁ確かに勉強会もちゃんと出てるみたいだしな」

「そうそう! 今回はしっかり点取れそうな気もするし大丈夫だぜ! ってか、影虎、納豆嫌いだったっけ?」

「え?」

「いや、残してるからなんとなく気になって。前は普通に食べてなかったっけ?」

 

 視線を追うと、確かに今朝の朝食についていた納豆のパックがお膳の外に。

 いかにもこれは食べない、という感じで置いてある。

 

「嫌いじゃないけど、なんか忘れてた」

 

 考え事をしていたからかな……と思いつつ、パックを空ける。

 

「砂糖は……」

 

 と、探して気づく。なぜ砂糖?

 そういう地域もあるのは知識として知っている。

 でも俺は一度もそんな食べ方をしたことはない。

 

「菊池!」

「!」

「はー、やっぱ朝は味噌汁だよな~。? どうかしたか?」

 

 今、他人が呼ばれたのに自分が呼ばれたような気が……

 

 おかしい。

 心がざわつく。

 自分のことなのに、自分ではないような。

 

 この違和感は何なのだろうか……




影虎は白鐘と協力することにした!
影虎は金流会との最終決戦に臨んだ!
金流会のボスは拳銃を持ち出してきた!
しかし意味はなかった!

おや? 影虎の人格が……

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