人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

308 / 336
307話 即席救助隊・結成

 アイドル2人が消えて慌しくなる周囲。

 それに伴い、霊の声がけらけらとこちらを嘲り笑うようなものに変わる。

 

 ……そういうことか。

 どうやら俺たちはまんまと罠に嵌められていたようだ。

 

「大変だ、一体2人はど──!?」

 

 撮影続行を訴えていたスタッフが言い切るのを待たず、地面に倒して押さえつける。

 

「うっ!」

「富岡さん!?」

「近藤さんお札!」

 

 俺の突然の行為に、慌てたスタッフが注目。

 中には俺を咎めるような声も聞こえたが、そんな場合ではない。

 

 幸いにも俺の言葉を聴いた近藤さんがすばやく用意していた水と塩を取り出し、さらに俺を引き離そうと動きかけたスタッフを視線で制してくれた。

 

 察しが良く、さらに信用してもらえて本当に助かる。

 

「何をするんだ! 離せ! こんなことをしてる場合じゃないと分からないのか!? 早く居なくなった子たちを探さ「そうやって全員トンネルに引き込むつもりか」──!!」

 

 白々しい言葉に割って入ると、彼の顔はまず驚き。次に感情が抜け落ちたかのような真顔へと変わり、口元を嫌らしく歪めて不気味に笑い始める。

 

「ヒ、ヒィッヒヒヒヒヤァハッハハハハハ……」

 

 この声を聞いて他のスタッフもようやくこの人の異常に気づいたようだ。

 様子を見ていた人の輪が一歩広がる。

 

 近藤さんに予備の札を押し付けてもらうと苦しむ様子を見せ、体から半透明の手が出る。

 次に塩を振り掛けてもらうと、その手は焼け爛れて溶けるように消えた。

 

 後に残るのは意識を失い、ぐったりとした男性一人。

 

「……富岡は大丈夫なのか?」

 

 カメラマンの男性がそっと声をかけてきた。

 

「彼に憑いていた霊は祓えたと思います。呼吸も安定はしています。ただ意識がないので、皆さんは彼を連れて車まで戻ってもらえますか?」

 

 まさかこの期に及んで撮影を続行するというスタッフはいないだろう。

 そういう意味も込めてスタッフさんたちを見回すと、撮影中止に反対はないようだ。

 ただし1人だけ、

 

「待って! うちの佐久間と桜井を探してください!」

 

 IDOL23のマネージャーは当然といえば当然か?

 担当アイドルがいなくなったのだから探したい、人手が必要だと訴える。

 その気持ちは分かるが、この場は本当に危険だ。

 言い方が悪くなるが、足手まといになる人を連れてはいけない。

 

「心配するなというのは無理だと思います。ですがここは本当に危険なんです。居なくなったお二人の居場所には見当がつきますし、僕に任せていただけませんか?」

「どこ!? どこなんですか!? 2人はどこに!」

 

 ダメだ。錯乱しているのか話を聞いてもらえない。まずパトラで正気に戻そうか──

 

「……トンネルの奥……」

「ッ!?」

 

 その声は呟くようでありながら、鮮明に耳に届く。

 声の主は、思えばここまでの騒ぎのなかで一言も発していなかった久慈川さん。

 隣には不安そうに、だが何かあれば支えようとしているらしい井上マネージャーもいた。

 

「久慈川さん。分かるのか?」

「うん……ここに来てからすごく危ないのが分かったの……それで注意しよう、って思ってたら、どんどん頭に情報が、っ!? ダメ! 2人のそばに何かいる!! 早く助けないと手遅れになる!」

「!!」

 

 両手を組んで目を閉じ、祈るような体勢で叫ぶ彼女。

 その様子はまるでペルソナで探知をしているように見える。

 ペルソナそのものは見えないけれど、まさかこの状況下で能力が覚醒し始めている?

 

「佐久間さん! 桜井さん!」

「しまっ……ったく!」

「先輩ダメ!!」

「!!」

 

 推測に気をとられた一瞬に、マネージャーがトンネルへ駆け出す。

 追おうとするが、それを阻むように金網から伸びる半透明の手が多すぎた。

 

「……要救助者一人追加」

 

 なってしまったものは仕方ない。

 もしかしたらあの人はもう憑かれていたのかもしれない。

 ミスはリカバーすればいい。

 まずすべきは無事な人の避難と救出の準備だ。

 

「彼女の事もこちらでなんとかします。スタッフの皆さんは早く戻ってください。近藤さん、予備の護符を配ってください」

 

 スタッフさんたちと一度トンネルから距離をとる。

 

「先輩」

「久慈川さん、と井上さん」

 

 早く車へ戻るように言おうとしたが、久慈川さんのまっすぐな視線で遮られた。

 

「先輩、アスカちゃんたちを助けに行くつもりだよね? 私にも手伝わせて」

 

 恐怖のオーラも見えるが、それを押さえ込むほどの思いを感じる。

 

「……危険なのは分かってるな?」

「分からなきゃ良かったってくらい分かってる。でも、それだけ分かってて、そんなところに先輩1人で行かせるなんてできるわけない。それにアスカちゃんたちとはまだ知り合って短いし、芸暦的には先輩だけど友達だもん。私だって力になりたい!」

 

 ……そういえば彼女は4の原作でもそうだった。

 自分が助けられた直後にもかかわらず、出てきたクマの影と相対する。

 原作主人公たちのサポートを、その場で自分のできることを探して、それができる。

 そういう芯の強さを持った人だった。

 もう既に。それともやはりと言うべきか、彼女は“久慈川りせ”なのだ。

 

「こう言ってますが、井上さんはいいんですか?」

「立場的に良くはないんだけどね……でも下手に動くより君の近くにいる方が安全じゃないかとは思う。りせちゃんが避難しないなら僕も手伝うよ。今僕が一番避けるべきなのは彼女を一人にすることだからね」

 

 ……さっきの人みたく暴走して一人で勝手に突っ込まれるより、連れていく方がマシか。

 久慈川さんの手伝いがあると正直助かるし……

 

「ていうか出発前に話したばっかだし。また一人で危険に突っ込む気なら本気で怒るけど」

「釘を刺さなくてもいいっての……」

「葉隠様。護符の配布が終わり、スタッフの方々は既に避難を始めました。お2人は」

「ありがとうございます。近藤さん。救助に協力してくれるそうです。近藤さんは」

「私にできる事があればなんなりと」

 

 こちらも言外に危険に飛び込む覚悟もあると伝えられた。

 一刻を争う事態だし、これ以上は何も言うまい。

 ありがたく全員人手に加わってもらう。

 

「久慈川さん。トンネル内の様子は分かる?」

「ちょっと待って。……皆まだ大丈夫みたい……アイドル2人はトンネルの奥の方で動いてないけど、ちゃんと生きてる。さっきのマネージャーさんは……フラフラして様子がおかしいけど、2人のところに向かって全力で走ってる?」

 

 さすがは探知系のペルソナ使いだ。

 

「久慈川さんにはその能力で情報支援、ナビゲートをお願いしたい」

 

 今思えば、駐車場で一瞬だけ警戒が反応した気がした時にもっと怪しむべきだった。

 

 屋外でロケをするなら事前にロケハン(ロケーションハンティング)が行われるはず。

 つまりはここに一度、誰かが下調べに来ているはず。

 そして一度ここに来てトンネルまで足を踏み入れていれば、無事に帰れるとは思えない。

 

「ん……先輩の予想、当たってるかも。トンネルの中に1つ、すごく強いナニカがアスカちゃんたちの傍にいるけど、それ以外にも小さいのが動き回ってる……違うのに同じ感じ……」

「小さな気配はこの強烈な気配に紛れてしまって、俺にはよくわからなくなってる。同じ条件で内部の様子をはっきり探れる久慈川さんの探知能力は、既に俺よりもはるかに高い。自信を持ってサポートをしてほしい」

「分かった。ナビは私に任せて!」

「近藤さんと井上さんは用意した道具を使って久慈川さんのフォローをお願いします。先ほどの件で札と塩が効くのは確認できたので、ある程度抵抗はできるはずです。久慈川さんと協力して身を守ってください。

 最後に目的はアイドルとマネージャー合わせて“3人の救出”。なので、必ずしも霊を祓う必要はありません。見逃してくれるとは思えませんが、チャンスがあれば3人を連れて逃げる事を優先しましょう」

「かしこまりました」

「全力を尽くすよ」

「私も注意しておくね」

「よし、それじゃ装備を分けてすぐ使えるように準備しよう」

 

 即席ではあるが、救助隊の結成だ。

 準備を万全にしてトンネルへ向かおう。




久慈川りせと井上マネージャーが仲間になった!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。