人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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305話 来客

 12月5日(金)

 

 夕方

 

 ~校舎裏~

 

「今日はもう1つ。新しい鍛錬法として“二指禅(にしぜん)”を教えよう。これはとても難しく、本来何年も修行を重ねた人がやる事だけれど……鉄頭功を早くも身につけた君ならできるだろう」

 

 壁に倒立した状態の体を2本の指だけで支える鍛錬法“二指禅”を学んだ!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~廃ビル~

 

 不良グループのアジトで影時間を迎えると、今日も珍しい客が来たようだ。

 影時間で俺以外は象徴化しているとはいえ、当たり前のようにビルに入ってきたな……

 

「こんばんは」

「やあ、今日はどうした? 例の件(・・・)か? タカヤ」

 

 ストレガのタカヤ……今日は1人のようだ。

 彼はうっすらと笑顔を浮かべてやってきた。

 

「ちょっとお話がしたかったもので、来てしまいました。金流会との決着は日曜の夜になったそうですね」

「耳が早いな」

 

 昨日、荒垣先輩の後にやってきた金流会のメンバーと話し合い、最終決戦の日時が決まった。

 

 果し合いかと思ったが、実際そんなものだ。

 

 鬼瓦曰く……ケリのつけ方。ケリがついた後の事。事前に話し合っとく方が後々楽なんだよ。どういう結果になったとしても、決まった事はお互いに末端までしっかり納得させて守らせねぇと泥沼になるからな……だそうだ。

 

「この辺りにいれば自然と耳に入ります。それより話はいくつかあるのですが……気になるようですし、まずは仕事の話を済ませましょう」

「先日の依頼、検討してもらえたか」

「ええ。あなたの依頼内容は“依頼を受けて貴方と葉隠影虎を狙わないこと”。報酬は前金で100万、依頼があった場合はその依頼額の倍額を支払う。よろしいですね?」

「間違いない。金流会の連中はどうとでもなるが、万が一でも君たちが雇われると困るのでね」

「ふふっ……我々としては労せず報酬だけいただけるようなものですし、好き好んでペルソナ使いと事を構えたくはありません。特に貴方は敵に回すと面倒な事になりそうだ、ということで意見が一致したのでね。引き受けましょう。

 しかし1つ疑問があります。あなた自身はともかく、なぜ葉隠影虎まで? 話によると金流会に襲撃されたようですが、襲撃は貴方が乱入して失敗。事情を知らぬ人々は貴方に彼が狙われていると思っていますが、依頼を考慮すれば助けに入ったと分かります」

 

 またこの話か……まぁ気になるだろうとは思っていたよ。

 

「仕事の都合だ」

「はて、貴方の仕事は探偵だったのでは?」

「仕事が増えたのさ……最近、テレビで話題になっているだろう? 彼の身体能力や超能力の真偽が」

「確かに。私も目にした覚えがありますし、ジンはネットで見飽きているようです。それが?」

「私の依頼主も注目しているらしくてね。本来の目的ではないが調査項目に加えられ、可能な範囲で身辺警護もしろとのお達しなんだよ。まったく……調査費用を盾に取られては断れもしない」

「世知辛い話ですね。……実を言うと、私は貴方と葉隠影虎が同一人物ではないかと考えていました」

「ほう?」

「貴方は始めて我々と出会った際に“自分の命がそう長くない”と言って制御剤を拒否している。そして葉隠影虎の噂の1つに“自分の死期を予知している”という話がありますね。何でも高校を卒業できない、長くともあと数年の命だとか……偶然ですね」

 

 唐突に話を変えて、カマをかけているのか?

 

「確かに、聊か共感する部分もある」

「それだけではありません。夏にも貴方と彼は時を同じくして同じ国、そして同じ街にいたようですし、可能性は高いと思いました。しかし先日の襲撃の時、貴方と葉隠影虎は同時に同じ場に、しかし別人として存在していた……当の襲撃犯の1人を探し出して聞いたので、間違いはない。ならばあなた方は別人という事になる……フフフ、面白いですね」

「1人で何を笑っているんだ」

 

 呆れたようにそう言ってやると、タカヤはさらに笑みを深める。

 

「貴方は不思議です。天然でペルソナに覚醒したペルソナ使いと聞いていますが、荒垣、そしてその古巣の方々とは何かが違う。我々人工ペルソナ使いとも違う。チドリも話していましたが、貴方の中には異質な何か(・・)がある。それは一体何なのか、貴方は何者なのか……とても興味深い」

「男に興味をもたれてもあまり嬉しくないんだがね……」

「無理に聞き出そうとは思いませんよ。謎は謎であるからこそ、思考し、理解し、また近づくのが面白いのですから」

「下手な手出しは危険、そう君自身が口にしていた気がするが」

「危険なものに心が惹かれる。危険だからこそ心を惹かれる。そういうこともあると思いませんか?」

 

 いつもながら、タカヤの相手はやりづらい。

 感情の揺らぎがないに近く、思考回路も良く分からない。

 目的を推測する事すら困難だが……

 

 “未来に執着せず、過去にも拘らず、ただ今だけを生きる”

 

 それがストレガの信条だったはず。

 ただ単純に不思議な存在()を観察して楽しんでいるだけかもしれない。

 ……理由を考えるのは無駄な気がしてきた。

 

 

「……好きにするといい。他に話は? 色々と言っていたが」

「次はちょっとしたお願いですね。貴方が金流会と決着をつけた後、貴方は自分の傘下に金流会を取り込むつもりだと聞きました」

「そこまで知っているのか。間違っていない」

 

 正直連中はあまり好かないが、先日の襲撃のような事もある。

 この際、傘下に収めるという形で手綱を握っておこうと考えている。

 

「貴方は今回の事で、この一帯で強い影響力を得るでしょう。その影響力をあなたがどう使うかも自由。ですがこの混沌とした町のあり方を壊すようなことは、なるべく控えていただきたいのです」

「確かに、君たちにとっては荒れていて警察の目の届かない方が都合がいいだろうな」

「それだけでなく、我々には“戸籍”がないのですよ。実験の被験体として集められた時に死亡として処理されてしまったのでね」

「!! ……なるほど」

 

 俺がまだゲームとしてペルソナ3をプレイしている時から一つ疑問があった。

 それは“なぜストレガが巌戸台やポートアイランド近辺で活動しているのか”。

 ゲーム的にはストーリー展開に必要なキャラクターなのだからいなければ困るだろう。

 しかし人間としては、自分が無理やり人体実験をされた土地に留まりたいと思うだろうか?

 少しでも遠くへ離れようと思わないのだろうか?

 いくらストレガが過去に拘らないと言っても、桐条の追っ手がかかる可能性は?

 

 そう思っていたが“戸籍がない”……日本人としてはまずありえない状況で、身を隠して生きるために都合のいい場所がここにあった。そう考えると辻褄が合う……か?

 

「偽の身分証などやり方はあるのですがリスクが高い。余計なお金と手間はかけたくないのでね」

 

 タカヤの言うとおり、裏社会に通じれば抜け道もあるのだろう。

 そして本人が言うのだから、負担の少ない方を考えてこちらを選んだのだろう。

 

 鬼瓦の話では、こんなに荒れ果てた不良の楽園を作り上げた原因はかつての桐条グループにあったらしい。桐条が実験をするために整備した影響で生まれた環境が、桐条の実験で戸籍を奪われた彼らにとって住みよい場所になる……なんとも皮肉なことだ。

 

 そういえば以前、年明けにアメリカでこの顔(ヒソカ)に戸籍を作る、と言う話をしたが……これは今考えなくていいな。

 

「分かった。気をつけておこう」

「頼みますよ。代わりと言ってはなんですが、1つ情報です。金流会も決戦に向けて準備を進めていますが……以前のアレがよほど怖かったようで、だれも貴方の相手をしたくないのでしょう。声をかけても参加者の集まりが相当に悪く、これまで決着を引き延ばしていたようですが……もうこれ以上は黙っていられないのでしょう。彼らは仕方なくある所(・・・)に連絡をとったようです」

「連中と付き合いのあるヤクザか?」

 

 そう言うと、タカヤは初めて驚いたような顔をした。

 

「ご存知でしたか」

「こんな事になったんでな。本腰を入れて調べてみたら、付き合いと金の流れがあることを突き止めた」

 

 襲撃されたあの日の影時間。

 俺は事前に金流会のアジトといわれている場所を鬼瓦から聞き出して侵入した。

 そこは丸々1棟の雑居ビルで、まるっきり暴力団の事務所。

 設置されていたPCのデータを以前もやった方法で抜き取れば、悪事の証拠がボロボロ。

 

 そして、前に利用していた地下闘技場や、そこで行われていた違法賭博。

 その他、様々な商売をして儲けた金の一部がとある指定暴力団のところへ流れていたのだ。

 

「金流会は悪事のノウハウとこの一帯の支配権を。ヤクザは儲けの一部を。どんな経緯があったのかまでは知らないが、そういう契約が結ばれているみたいだ」

「どうやら私が多くを語る必要はありませんね。彼らの買い物(・・・)にお気をつけ下さい。数は少ないですし、貴方にそれが通用する気はしませんが、同行者には脅威でしょうから」

「情報提供に感謝する」

 

 話したいことは全て話したようだ。

 感謝を伝えるとタカヤはまた分かりにくい笑顔を浮かべ、そのまま部屋を出て帰っていく。

 

 タカヤの語り口で買い物の内容はだいぶ限られるし、何より事前に知る事ができたのが大きい。

 

 それに……!!

 

 ……ストレガとのコミュが上がった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 12月6日(土)

 

 夕方

 

 ~校舎裏~

 

 今日も二指禅で鍛錬を行う。

 

 鉄頭功の応用で指に気を集中し、体重を支える。

 しかし、まだ壁を補助に使っての倒立だ。全体重はかけられていない。

 

 もっと体重を指にかけつつ、指を気で守る……

 

 站樁(たんとう)を……そしてこの前の新体操を思い出せ……

 

 落ち着いて気を指に集中……全身のバランスを取りながら……

 

 ゆっくり……少しずつ体重をのせていくと、やがて両足が壁から離れ……

 

 全体重が完全に両手の人差し指に乗った!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~テレビ局~

 

 今夜はとうとう、久慈川さんと一緒に参加する心霊番組の撮影日だ。

 これからIDOL23のアイドルが揃うのを待って、バスで移動する。

 今日のために俺たちはオーナーの下で勉強し、さらに霊媒体質の三田村さんおすすめの“お清めの塩”や“お清めの水”も用意した。

 

 しかし、

 

「えっと、久慈川さん?」

「……」

 

 待合室の中。

 何度話しかけても久慈川さんに無視されてしまう……

 体から湧き出るオーラを見る限り、何か怒っているようだ。

 

「葉隠君、ちょっと」

「?」

 

 流石にこの状態はよくないと思ったんだろう。

 マネージャーの井上さんが理由を教えてくれるようだ。

 

「申し訳ない……先日の襲撃予告のことがバレてしまったんだ。それで最初は心配していたんだけど、君が無事だと伝えたら本当のことを話してほしかったとへそを曲げてしまったんだよ」

 

 そういうことだったのか……

 彼女の安全のためとはいえ、確かに先日は襲撃の件を説明せず追い返してしている。

 襲撃そのものの危険度は低く、後の対処のため、ある意味自作自演の部分もあった。

 自分の安全も確保した上で実行したが、彼女の立場で、後から話を聞けばどう思うか。

 

 ……そこで当然のように心配してもらえるのは、本当にありがたいことだ。

 久慈川さんに対しての対応は、少々配慮が足りなかったかもしれない。

 

 ここは素直に謝ることにした。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「仕方ないなー、次からはちゃんと説明してよね! ホウ(報告)レン(連絡)ソウ(相談)。これ社会人の基本だから!」

「申し訳ありませんでした」

 

 久慈川さんに謝り続け、なんとか仕事前に機嫌を直してもらえた。




影虎は二指禅を学んだ!
アジトにタカヤが訪れた!
金流会との決戦日が“次の日曜日の深夜”に決まっていた!
タカヤは影虎とヒソカの関係を疑っている……
タカヤは楽しそうだ……
影虎はストレガのことを少しだけ知った!
タカヤから金流会の情報を得た!
金流会はヤクザと繋がりがあった!
金流会はヤクザから何かを購入したようだ……
久慈川りせに襲撃の件がバレた!
久慈川りせは怒っている!
影虎は謝り倒して許しを得た!

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