人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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予定外の仕事が立て込んだため、今回は1話で普段より短くなりました。
すみません。


299話 貴重な日常

 深夜

 

 ~不良グループのアジト~

 

「ハッ!」

「オラァ!」

「そこだ!」

「やっちまえ!」

「……」

 

 目の前では不良グループの連中が輪になり、その中心で2人ずつ順に試合をしている。

 リングすらない空き地のような中庭で殴りあう2人。

 それを囲んで、檄を飛ばす男達。

 まるで規模の小さい地下闘技場のようだ。

 

 ペルソナの恩恵を受けながら格闘技術の指導を続けて3週間。

 鬼瓦たちも予想以上に真面目に取り組んだため、彼らは急速に実力をつけている。

 しかし……

 

「何か不満そうだな?」

「ああ、鬼瓦か……不満ではないんだが、あいつらの戦い方が変わったな……と思って」

 

 なんと言えばいいのだろうか?

 彼らは最初、何かの格闘技を齧っていたりもしたが、ほとんど我流。

 基礎もガタガタで、喧嘩の経験だけで戦っていたようなものだった。

 そこに俺が基礎から詰め込み直してみた結果、荒かった部分が修正され確実に強くなった。

 しかしそのせいか、元々の喧嘩殺法的な戦い方が格闘家のようになっていると言うか……

 良くも悪くも“お行儀が良くなった”印象を受ける。

 

「一応実践を想定して指導してるし、あっちもいわゆる“卑怯な技”も使うし警戒してるみたいだから問題はないと思うが……」

「ああ……言いたいことはなんとなく分かる。確かにここしばらくでだいぶ雰囲気変わったからな。知ってるか? あいつらこうやって夜に練習するから、酒を控えたり量を減らしたりしてるんだ。あとは体作りで筋トレ代わりに昼間建設現場や引越し業者でバイト始めたり、タバコ吸ってた奴は禁煙し始めたり」

「……マジで?」

 

 知らないうちに不良グループが更生し始めていた件。

 

「何があった」

「金流会がいつ襲ってくるかわからねぇ、ってのもあるが……何かに打ち込むのも悪くないと思ったんだろ。学校の部活みたいなもんさ」

「言ってしまえば抗争の準備なんだが、それがそんなに楽しげなものになるのか?」

「……俺たちに限らずこの辺にいる奴らは、籍があってもまともに学校なんか行ってねぇ奴が多い。まぁ不良なんてそんなもんだし、自業自得だろうけど、行ったら行ったで周りに迷惑がられる。教師から見放されてる奴なんて珍しくもねぇ。

 そうなるまでの事情は人それぞれだが、なんだかんだでアンタはマジで俺らに教えてるからな……懐かしかったり、そもそもこういう経験がないって奴も多いんだろ。単に酒飲んでタバコ吸って、グダグダ駄弁るのは飽きただけかもしれないけどな」

「……そうか」

「ああ、あとはいい加減お前を一回ぶちのめしたいってのも理由の1つだとは思うが」

「残念ながらそれにはまだ実力が足りないな。まあ前よりは多少時間がかかると思うけど、せめてケ・セラ・セラの地下闘技場で連勝するくらいの実力を全員が持たないと」

「普通ならシメるところだが、アンタだからな……実際そのくらいは必要か」

 

 でももうこの中で強い方ならそれなりに勝ち抜けるんじゃないか?

 ……試しに強いほうから10人くらい選んで試合に出させてみようか?

 

「馬鹿言うな。前に教えただろ、あの地下闘技場は金流会の連中が運営してんだって。今の俺らにとっては敵地だぞ? どうしてか動きがないが、懐に入ってきた奴を自由にさせるとは思えねぇ」

「そうか……」

 

 でも動きがなくて警戒だけしてるのもいい加減面倒になってきたし、もうこっちから乗り込んで話をつけた方が早い気も……っと、思考が乱暴になっている。慎もう……

 

 

 その後しばらく鬼瓦やグループのメンバーと会話、そして指導。

 帰宅する前にはまた、僅かにコミュが深まる感覚を覚えた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 12月1日(月)

 

 早朝

 

 ~男子寮・食堂~

 

「……はよー……」

 

 朝食を食べていると、珍しく元気のない宮本がやってきた。

 

「おはよう。どうした?」

「アレ見えるか?」

 

 遠くの掲示板を示される。

 そこには“今日から12月!”と書かれた掲示物が貼ってあり、クリスマスや冬休み目前の楽しげなイベントの数々が羅列されているが……一際大きく書かれているのが“期末試験”。

 

 内容を見る限り、しっかり試験対策をして心置きなくイベントを楽しもう! という趣旨のようだが、暗い顔をして勉強机に向かうイラストや雪のように見えてテスト用紙が舞っているなど、見ていて非常に憂鬱になる……絶対に逆効果だろう。

 

「あれ、誰が書いたんだろうな?」

「気にはなるけどそこじゃないって、試験だよ試験! それに今日から試験前で部活できないんだぜ? だからせめて朝走ろうと思ってたら、今日雨だしさ……」

「相変わらずだな」

 

 宮本はやはり試験がヤバめで部活命のようだ。というかこれまでの感触からして、一度集中したらかなり力を発揮するタイプだし、部活に対する熱意を試験前だけでも勉強に向けられればそこそこの点は取れると思うが……勉強になると急に火がつきにくくなるんだよな……

 

「まぁ今回も試験対策は手伝うから、とりあえず元気だせ」

「おっ、本当か? 仕事は?」

「今月は学業中心。試験前なのもあるけど、年末の試合まで一ヶ月もないからな。仕事も可能な限り減らして、試合に向けた調整をしていくことになってる」

「そっか、試合が近いんだったな。あ! そういえば先週のアフタースクールコーチング見たけどさ! 対戦相手メチャクチャ――」

 

 宮本と一緒に食事をした!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 朝

 

 ~体育館~

 

 期末試験前で勉強に熱が入るかと思いきや、今日の1時限目は体育だ。しかも雨のために使う予定だったグラウンドが使えない。そのため元々体育館を使う予定だった女子にスペースを分けてもらい、バスケの試合を行う。

 

 必然的に“女子が見ている前で試合をする”ということで、勉強に時間を使いたいと体育自体を疎ましく思っているような男子以外は、より女子に良いところを見せるために力を入れていた。

 

「交代! 次はCチーム対Dチーム! 早く準備しろ!」

「おっしゃあ!」

「やったるぜぇ! って、おいCチーム葉隠が入ってるぞ!」

「げっ! マジかよ……」

「組み分けはくじだし仕方ないな……とりあえず、葉隠は俺がマークする。けどもう1人誰か貼りついてくれよ」

 

 ……最近は体育の授業で試合形式の場合、相手側にこういう対応をされる。

 前々から少しずつ増えていたけれど、ヘルスケア24時の放送後から急増。

 その後もテレビで活躍すればするほどに増え、いまや当たり前のように複数にマークされる。

 まさかシャドウのように吹き飛ばすわけにもいかず、それなりに困る。

 ただ、命の危険も無く、平和的なだけありがたい。


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