人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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277話 影響

 ~部室・厨房~

 

 お茶を飲んで待っていると、山岸さんがやってきた。

 

「あっ、もう来てたんだ。早いね」

「仕事から直接来たからね。あと、和田と新井は今日休むかも」

 

 矢場さんから聞いた話を山岸さんに聞かせると、仕方ないねと苦笑い。

 

「あれ? 天田君は?」

「そういえば」

 

 学校が終わるのは小等部の方が早い。

 だからいつもはだいたい天田が先に来ているのだが……連絡も何もない。

 

「まぁ、待ってればそのうちくると思うけど……時間もったいないし、料理でもしてみようか。動画のことで相談もあったし」

 

 と言うことで、料理をしながら昼の打ち合わせについて説明。

 

「サバイバルゲームに清掃活動、最新家電の紹介と大食いチャレンジ……」

「あちら側の動画に出演する内容は完全に俺の趣味で決めちゃって申し訳ないけど」

「ううん、それは別にいいの。相手にもスケジュールの都合とか色々あるし、私は休めないから」

「一応その辺は向こうも配慮してくださってて、撮影は次の土日。動画を撮ってる山岸さんだけじゃなくて、他のお友達も興味があれば見学に来ていい、と言ってくださってる。担当の方もだいぶ感じのいい人だったよ」

「じゃあ、大事なのはこっちの企画だね」

 

 山岸さんは気合に満ちている!

 料理をしているけど、いつものように余計なことをする気配がない。

 作業は遅いがだいぶ慣れてきているのか、手を切るようなこともない。

 ごく普通に料理が進む……

 

 だから、俺は気が緩んでいたのだろう。

 

「そろそろいいかな……」

 

 完成直前の料理を味見してみると、

 

「!? ガハッ!? カッ!?」

 

 呼吸が! 喉が! 声が出ない……! ポズムディィィイッ!

 

「はっ!? な、何故……?」

 

 途中の味見では、ごく普通のスープだったのに……

 

 その思考を最後に、俺の意識は暗闇に飲まれた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~部室内保健室~

 

 目覚めたらベッドの上。

 どうやら倒れた俺を見た山岸さんが江戸川先生を呼んだようだ。

 

「お目覚めですか? 体調は?」

「はい……若干胃が重い気がします。あと喉が……いったい何が?」

「山岸さんから大体の話は伺っています。1番の原因はおそらくコレですね」

 

 江戸川先生がそっと取り出したビンには……“特濃デスソース”と書かれている。

 

「何でそんなものが……」

「最近は冷えますからね……辛いものは体が温まる、と思ったらしく」

 

 辛いにも限度がある……しかしそんな変な臭いはしなかったが?

 

「それはですね、臭いを消すのに効果があるハーブを数種調合して混ぜていたようです。彼女、ハーブの扱いが上手くなりましたね」

 

 確かにそうかもしれないが、無臭の劇薬とか危険度上がってないか?

 いや、ゲームオーバーの幻聴が無かった分は改善か?

 

「……ちなみに今あの料理は?」

「本人が片付けていますよ。だいぶ反省しているようです」

 

 ならこれ以上何も言わなくていいか……とりあえず体を治そう。

 

 呼吸器と消化器の調子を整えるツボを痛みをこらえて押し、さらに気功で内部からも癒す。

 

 また、その話を江戸川先生にしてみると、

 

「影虎君の想像は正しいと思います。気が健康や肉体に影響を与えるのはもはや説明する必要もないでしょう……もう知っての通り、気の流れと人間の内臓、重要な器官は密接に絡み合っています。破壊と創造は表裏一体。気の流れや体調を良くするツボがあれば、悪くするツボも存在するでしょう。それこそ命を奪うようなツボがあってもおかしくありません。

 急所と呼ばれる部位には……例えば肋骨には心臓や肺を守る役割があり、体の前面からの衝撃には強いのですが、横からの衝撃には弱い。首には頚動脈や気道、脊髄が通っている等々。そういった人体の構造上どうしても脆い部分も存在しますが、体の内側、目に見えない所にもそういった部分は存在すると思います。目に見えるものだけが現実の全てではありませんからね……ヒッヒッヒ……」

「なるほど……!」

「どうしました?」

 

 再び昼と同じ、スキルが変化した感覚を覚えた。

 

「……どうも今ので“治癒促進・小”が強化されて、“治癒促進・中”になったみたいです」

「ヒヒッ! 怪我の功名、ということでしょうか?」

 

 気の知識の増加、あと料理で傷ついた胃のダメージとその回復もきっかけだろう。

 先生は当然として、山岸さんにも感謝すべきなのだろうか?

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のアジト~

 

 シャドウの召喚と操作能力の強化に関係がある可能性があると知り、指導に熱が入る。

 しかし無理をさせて体を壊しては本末転倒。練習前の準備運動。練習後のマッサージ。怪我をした時の応急処置など、体のケアについて丁寧に説明した!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 今日部活に来なかった天田に、都合でも悪かったのかと聞いてみると、

 

「あれ? 江戸川先生から聞いてませんか? 前に話してた、先輩と一緒にテレビに出るって話の関係で、近藤さんと会ってたんですけど」

「聞いてない」

 

 江戸川先生は知っていたらしいが、俺が意識を失っていたのでそれどころじゃなかったのかもしれないな……

 

「逆になんで意識を失うような事に?」

 

 それから事情を説明すると、天田とコロマルに呆れられた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 帰宅後

 

 バイオリンを弾いた後も眠気を感じなかったので、動画サイトを開いてみた。

 コラボ予定の投稿者さんの動画を予習と暇つぶし半々くらいの気持ちで見ていく。

 1本1本は短くても数があればそれなりの時間になる。

 

 程よい眠気を感じた頃……最後に安藤家のチャンネルを開くと、

 

「登録者数伸びてるな……」

 

 あちらもだいぶ人気が出ているようだ。

 ロイドもちゃんとすれば見た目は悪くないし、アンジェリーナちゃんは歌も上手いしな……

 あちらにはもうコラボ企画を了承したこと、伝わっただろうか?

 

 確認するとメールはない。こちらから一言送り、寝ることにする……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 11月19日(水)

 

 朝

 

 ~都内某所~

 

 芸能界でよくオーディションに使われると有名らしい、大きな会場へとやってきた。

 検査入院中に誘われた、各アイドル事務所合同の学園ドラマの説明会と選考会が行われる。

 何でもメインのキャストとそのクラスメイトは男子がBunny's事務所、女子がIDOL23で決定。

 しかしストーリーの都合上、ドラマには先輩や後輩の他にそのクラスメイトも登場する。

 アイドルの年齢と外見上、同世代と言うには厳しい場合もある。

 2つの大手事務所以外に所属するアイドルはその穴埋め的に起用されるようだ。

 

 役柄は台詞もなくエキストラと大差ない役から、ストーリーに頻繁に関わる役まで様々。

 大手とその他の待遇差が垣間見えるが……チャンスには変わりないのだろう。

 周りを見れば各事務所のアイドル本人はもちろん、マネージャーやプロデューサーも来場。

 会場の収容人数は500人ほどか?

 

 大きなステージを正面に3列。

 右と左にはBunny's事務所とIDOL23の事務所が陣取っている。

 その間を仕切り、分けるような中央の列が、その他の中小事務所の席だ。

 

 ゲストの俺と近藤さんもそちらへ向かうと、気づいた周囲から視線が集まる。

 ヒソヒソと話題にもされているようだ。

 どうせなら話しかけてくればいいのに……

 

「せんぱーい!」

 

 そう、こんな風に。……ん?

 

「あ、久慈川さん。井上さんもおはようございます。お2人も来てたんですね」

「おはようございます! ってか、私もアイドルだから当然でしょ」

「おはよう。“久慈川りせ”を世間にもっと知ってもらうチャンスだからね。僕たちもこのチャンスを逃す気はないよ」

 

 久慈川さんと井上さん。

 それぞれの仕事は違うけれど、2人は熱意に満ちた同じ紫のオーラを纏っていた。

 

「……何かあったか?」

 

 やる気に満ちているのは良いとして、2人のオーラの色が溶け合っていると言ってもいいくらい同じ色になっている。まるで文化祭の時の、クラスの全体のオーラみたいに。

 

「一体感が違う、といえばいいのかな? 前はもっとバラバラだったと思うんだけど」

「……何も言ってないのに、先輩には分かっちゃうんだね」

「葉隠君、りせはこの前の君のステージを見て触発されたようでね。その後すぐに事務所に飛び込んできたんだ、練習がしたい! って」

 

 その時井上さんは仕事で事務所にいた。

 そして久慈川さんの突然の様子に驚き、詳しく話を聞いたらしい。

 

「私、あのステージを見てまた、先輩に負けたくないって思ったの。そのために練習がしたくて、その時思ってた事を全部井上さんにぶつけた」

「それが今は良いきっかけになったと思う。僕も彼女に色々と話したよ。僕から見た君のことも、重荷になるかと思って黙っていた、彼女への期待も全部ね」

「先輩、私……ずっとどこかで自分が“1人”だと思ってた。

 他所の事務所でも、同じ事務所でも、アイドルはニコニコしてても仕事を奪い合う敵。

 井上さんや事務所の大人は、私を“商品”として売っていくだけ、売れなくなったら捨てていく。

 練習生で夢を諦めた子たちは売れなかったから捨てられた……いくらでもある代用品の1つ。

 デビューしてから、学校のクラスの子たちの態度も変わった。

 これまであまり友達とかいなかったのに、話したこともない子が友達って言ってきた。

 比較的話す方だった子たちは勝手に遠慮して疎遠になったり、勝手にクラスで自慢してたり」

 

 愚痴にも聞こえる言葉が続くが、その目は澄んでいた。

 

「……周りの色んな事が変わっていくうちに、私は勝手に取り残された気になって。お仕事とか責任とか、気づかないうちに“結局は1人で頑張っていかなきゃ”って思ってた部分があったと思う。でも先輩のステージを見た後に井上さんと話して、気づいたの。ちゃんと見ていてくれる人はいた、って」

「……そこまで偉そうに言えるほどじゃないよ。恥ずかしながら、僕はそこまで気を張りつめている事に、彼女が話してくれるまで気づけなかった。過度な期待は重荷になると思っていたのが、逆に無関心に見えて孤独感を与えていたなんて思いもしなかった」

 

 久慈川さんはそっと首をふる。

 

「私が話したら、井上さんはちゃんと聞いてくれた。真剣にレッスンの相談にものってくれて、会社の人とも話をしてくれた。それに会社の人も私の意気込みを認めてくれて、今回はタクラプロから出すアイドルに私を選んでくれた。他のアイドルの子だって、先輩も後輩も皆それぞれ応援してくれた。

 ……同じ頑張れって言葉は何度も聞いていたはずなのに、これまでと全然違った。それで“ああ、これまで私、言葉を素直に受け止めてなかったんだ……”って気づいちゃった」

 

 “これまで応援してくれた人には申し訳ないけど、今気づけて本当に良かった”

 

 そう語る彼女の顔は清々しく、そして魅力的だった。

 彼女は俺の知らないところで勝手に何かの殻を破ったらしい。

 

「これは強敵ですね。葉隠様」

「まったくだ……」

「もっと早く気づいてたら良かったのに、って思うけど……私、今日まで時間の許す限り、事務所の人と力を合わせて頑張ったよ。今日はその成果を見せてあげる!」

「タクラプロも総力を挙げてりせをバックアップしました。今日のオーディション。必ず良い役を勝ち取ってくれると信じています」

 

 周囲には他のアイドルも大勢いる中で俺にそれを言うのか。

 そもそも勝ち負けの判断基準は何だ、とも思うが……

 

「俺もそう簡単に負ける気はないよ」

 

 選考会へのモチベーションが上がった!

 

 それはそれとして……4の原作は大丈夫かな……




影虎は山岸と料理をした!
劇物レベルの激辛料理になった!
スキル“治癒促進・小”が“治癒促進・中”に変化した!
影虎は学園ドラマ制作の説明会&選考会の会場を訪れた!
影虎は久慈川りせと井上の関係に影響を与えていた!

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