人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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最近妄想が爆発している……



22話 新たな出会い

 ~影時間・辰巳ポートアイランド駅前~

 

 買い物や事故、インチキ占いと濃密だった放課後も終わり、いまは影時間。

 象徴化して棺桶になった人々が立ち並ぶ駅前を悠々と歩く。

 軽く体を動かしたくなったのでこうして出歩いてみたが、今日も影時間の街は静かで不気味な月に見守られ、タルタロスもいつも通り天高くそびえ立っている。

 しかし今日の俺の視界はいつもと違って明るかった。

 

 これは別に気分がいいとかそういう問題ではなく、実際に明るく見える。

 なぜかといえば一昨日の刈り取る者や脳筋との連戦の後、ドッペルゲンガーが新しく“暗視”という暗いところでも視界が良くなるパッシブスキルを習得したからだ。ついでに意識を向けると遠くが良く見える“望遠”というアクティブスキルや“食いしばり”と言うスキルも同時に得ている。

 

 しかし本音を言うと全部微妙。暗視は便利だけどこれまでそれほど困っていたわけじゃないし、どうせなら刈り取る者と出会う前に欲しかった。望遠は双眼鏡があればいらない気がする。

 

 それから食いしばりはゲームだと力尽きた時に一度だけHP1で復活するスキルだったが、ここではダメージを受けたとき、心が折れていなければ一度だけギリギリ行動可能な力を残す。ダメージが致死量の場合だけ発動するのか? そうでないと本当に意味がないけど、まさか試してみるわけにもいかない。……ってか、これもうただの根性論じゃねぇの? “すごい根性”とでも改名してやろうか。

 

 ……まぁ、偏っている気がするが、成長を自覚できるのは嬉しくも思う。

 最近の影時間での戦いで力はつき始めたし、脳筋との戦いの中にも発見があった。

 だから今日もタルタロスに寄っていこうかと考えたが、今日は探索の用意はしていない。

 軽い誘惑をふりはらい、タルタロスが見えない路地裏に入る。

 普段は不良のたまり場らしいが、影時間なら気にする必要がない。

 いまここで動いているのは俺だけだから。

 

 

 

 ……と思ったら、他にも動く奴が居た。

 まだ周辺把握が届かない距離にチラリと見えた影を、暗視で明るい視界が捉える。

 目を凝らせば対象が拡大され、薄暗いはずの路地も明るく、タカヤとジンの姿がくっきりと映る。

 

 今日はチドリが居ないな。……せっかくだ、声をかけてみるか。

 

 堂々と近寄ると、声をかける前に二人がこちらをふり向いた。

 しかし声はかけてこない。

 

「奇遇だな」

「おや?」

「……なんや、アンタかいな」

 

 声をかけて、さらに近づいてからようやく二人は俺の姿を認識したようだ。

 路地裏は月の光もあまり入らない。肉眼の二人には見えていなかったのか。

 

「お久しぶりです。今日は滅びの搭には行かないのですか?」

「一昨日、少しばかり危ない目にあってな。怪我は無いが休みを取る事にした。戦い詰めだったしな。明日からはまた搭に入るつもりだ。俺は散歩だが、そっちは何故ここに?」

「ワイらは仕事や」

「仕事?」

 

 まわりに復讐代行の仕事が行われた様子は無い。あっても困るし、あったら近づかないと思うが……二人はここに居たよな? 影時間で犯行を行うには待ち伏せも出来ないだろう。チドリと待ち合わせでもしているのか?

 

 そう考えたその時

 

「!」

 

 俺が通ってきた道とは逆、タカヤとジンの向こう側に人影が見えた。

 通りを一つ挟んだ先にある路地……まだ距離はあるが、こちらに歩いてきているのは……荒垣真次郎!?

 

「どうしました?」

 

 タカヤには荒垣の姿が見えていないようで、一度視線を向けてなお俺に聞いてくる。

 落ち着け、俺が荒垣を知っていることを悟られてはならない。

 

「向こうに人が居る。動いているぞ」

「ああ、彼ですか」

「知っているのか? 確かに男だ」

「今日の私たちの仕事は彼との取引なので」

「……前に貰った薬か」

「察しがいいですね」

「この時間を動けるなら、そういう事だろう」

 

 やりとりの合間にも荒垣がこちらに近づいてくる。取引と聞くと人目につかない場所で行われるヤバイ薬を思い浮かべ……実際に間違ってはいないが、それならこの場に部外者が居るのはまずいのではないか? それを理由に立ち去るべきかと思ったが、時既に遅し。

 

「っ!?」

「くっ!?」

 

 近づいてきた荒垣が目を凝らし、俺を見た瞬間体を硬直させて戦闘態勢を取る。

 俺もそれに自分で驚くほど素早く反応し、身構えた。

 

「ちょっと待ちぃ!」

 

 だが、ここで二人が口をはさんだ。

 

「間違えんのも無理ないが、そいつはシャドウとちゃうで。こんなんでも一応人間や」

「それも、貴方と同じペルソナの自然覚醒者です。薬の存在も知っていますよ」

 

 その一言で荒垣は戸惑いながら俺を見ている。

 警戒はしているが、敵意はないようだ。

 少なくとも一昨日の脳筋よりは冷静だろう。なら

 

「驚かせてすまない。私はこのなりでもれっきとした人間だ。先日人に襲われたため過剰反応をしてしまったが、そちらが攻撃してこなければ、こちらが攻撃する理由はない。ここに居るのも散歩をしていて、たまたま知っている顔に声をかけただけだ、邪魔であれば立ち去ろう」

 

 構えを解き、敵意を否定する言葉に一部理由か牽制とも取れる言葉を混ぜる。それを聞いた荒垣はしばし逡巡していたが、ストレガに一度目線を送ると体から力を抜いた。

 

「………………………………そうか。いきなり悪かったな」

 

 驚いた事に謝罪まで、荒垣への好感度が少し上がった。

 これからは荒垣先輩と呼ぼう、心の中で。

 

「いや、自分の姿が紛らわしいのは理解している。しかし安全のためには必要なんだ」

「その口ぶりだとシャドウについては知ってるみてぇだな」

「知っているとも。実際に襲われたからね。ちなみにこの服がその時目覚めた私のペルソナだ」

「服がペルソナだぁ?」

「正しくは能力を利用して服の代わりをさせているのだが……これが中々に防護服としての性能に優れていてね。今では用心のために影時間中は常にこの姿ですごしている」

「常に? まさか影時間の間ずっと出しっぱなしなのか?」

「その通りだが、何かおかしいかね?」

「おかしくはねぇが……いや、おかしいっちゃおかしいか」

「……すまない、まだ私もペルソナに目覚めてそう長くない。何か変なら言っていただけるとありがたいのだが。いや、その前にそちらの用事を済ませるべきか?」

 

 そう言ってストレガの二人に目を向けると、なぜか彼らは話に加わらずに黙り込んでいて、話を振ってから動き始めた。

 

「それもそうですね。ジン」

「ほれ、今月の分や」

「すまねぇな、支払いはいつもの方法で払う」

「ええ、頼みますよ……ということで、続きを話しましょうか」

「早いな……」

「アホか。この手の取引にチンタラ時間かけるわけないやろ」

 

 ジンに言われてそれもそうかと思いなおす。

 

「なら……いや、その前にお前、名前は?」

「名前?」

「そういえば、私達も聞いていませんでしたね」

「アンタやお前で事足りたしなぁ……」

「そうだったな……田中。一応、本名だ」

 

 その前に“前世の”と付くが、いまの本名を教えるのはリスクが高い。

 

「そうか、俺は荒垣だ。……俺が言いたかったのは、ペルソナをよく出しつづけていられるなって話だ。ペルソナを使えば体力を消耗する、普段から出しっぱなしじゃ普通は体がもたねぇぞ」

「本当か? 私は出し続けるだけでは疲労を感じない。むしろ出し入れを頻繁に行うほうが疲れる。エアコンのオンオフを頻繁にやると普通よりも電気を食うのと同じだと思っていたが」

「ペルソナを家電と一緒にすんじゃねぇよ!?」

「ペルソナにはそれぞれ向き不向きや特徴がありますが、影時間中常に出し続けられるペルソナというのは初めて聞きました。持久型とでも言うべきか……貴方と会うのはこれが三回目ですが、毎回その姿なのは顔を隠すためにわざわざ呼び出しているのだと思っていましたよ」

「ただの無知と安全への配慮だ」

「チッ……お前ら、知り合いならこういう事くらい教えとけよ」

「ワイらはただ道端で見かけて、いくらか話しただけや。そこまでの関係やあらへんし、義理も無いわ」

「それに、使っていれば嫌でも分かると思っていたのですがね」

「……ペルソナの能力を使うと疲れはするが」

「当たり前だ、それすら無かったら化け物だぞ……それはそうと、田中」

 

 何だ?

 

「お前の聞きてぇ事に答えたんだ、一つこっちにも聞かせてくれ。お前、最初に“先日人に襲われた”って言ったよな? ありゃどういうこった」

「その事か」

 

 別に話せないことではないので、事情を説明することにした。

 

 

 

「……というわけだ」

「滅びの搭で人助けをして刈り取る者に出会うだけでも不運ですが、必死に生き延びた所を襲われるとは。報われませんね」

「五体満足で生きとっただけで儲けモンやと思うけどな、その状況」

 

 話を聞いたジンと荒垣先輩は呆れ、タカヤは一人面白がるように笑っている。

 

「ったく……田中、迷惑をかけたな」

「……あの二人は荒垣の仲間か?」

「仲間じゃねぇ」

 

 自分から関係を匂わせるような発言をしたので聞いてみたが、仲間という言葉を荒垣先輩は反射的に否定した。

 

「……だが顔見知りではある。お前に危害を加えないよう話を通すくらいならできるが」

「やめてくれ。私も男のほうに怪我を負わせたはずだ、いま言われても友好的な関係は築けないだろう。何より私が彼らを信用できない。」

「そうか…………なら、おれはもう行く。せいぜい気をつけな、それからここでの事は」

「分かっている、口外はしない」

 

 仲間と言ったのが悪かったのか、荒垣は居心地悪そうにした後、これ以上話すことは無いと言わんばかりの雰囲気で立ち去った。

 

「……悪い事を言ってしまったか」

「気にする事あらへん。あいつはいつも用が済んだらとっとと消えよる」

「彼も貴方の話に出てきたペルソナ使いと因縁があるようですが、そこは彼らの事情です」

「……君たちもそのペルソナ使いを知っているのか?」

「人目をはばからずにこの時間を歩いとる奴らや、見かける機会なんていくらでもあるわ。アイツと話のペルソナ使いが前は行動を共にしてたっちゅー事も知っとるし、こんなとこで取引しとるのもなるべく姿を見られたないからや」

「あなたもあのぺルソナ使いたちとのかかわり方には注意すべきですよ。我々も目に付いた時、密かに観察する以上のことはしません。先ほどの彼もあの二人と疎遠になり、薬が必要だと言うから取引をしているだけです」

「……注意すべき、そう言わせるだけの何かが彼らにはあるのか」

「そう受け取っていただいて結構です」

 

 タカヤは詳しいことを話す気は無いようだ……

 

「……忠告、痛み入る」

「こちらこそ。今日は貴方と彼の会話で彼が仲間と本当に……少なくとも敵と認識した相手の情報を速やかに共有していない、あるいはできない程度には疎遠になっていると知れました。彼の言葉に嘘はないと思っていましたが、いささか懸念もあったのでね」

 

 こいつ、しれっと情報収集してやがる……まぁ、当然か。

 それにしてもストレガは特別課外活動部を知っていながら放置しているとはね……

 彼らの考え方は過去も未来も考えず今を生きる。だったはずだけど、だからって加害者側と仲良くできるわけじゃないよな。知識として経緯を知っていただけの俺に彼らの気持ちは分からないが、少なくとも俺なら仲良くはできない。距離をおくくらいは当然だろう。

 

 特に言えることもない俺がそうかと相槌を打つと二人も荒垣先輩と同じようにもう用はないと立ち去る。その見送った俺はこれ以上散歩を続ける気をそがれ、自然と人の居ない路地から自分の寮へと足を向けていた。




影虎は荒垣真次郎と遭遇した!
影虎は田中という偽名(前世の本名)を使った!


ゲームでストレガが荒垣に特別課外活動部について聞くシーン。
あれってストレガが前から荒垣の経歴を知ってるって事じゃない?
目的は知らなかったとしても、特別課外活動部のペルソナ使いの存在は知ってるよね。
チドリって高性能の探査能力を持つペルソナ使いが味方に居る。
恋愛の巨大シャドウ討伐後の帰り方もめっちゃ普通……

この展開に行き着いた。

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