人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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189話 文化祭準備

 翌日

 

 9月3日(水)

 

 朝

 

 ~生徒会室~

 

「は~が~く~れ~く~ん?」

 

 登校して早々、海土泊会長からジト目を向けられた。

 

「これはどういうことかな?」

 

 生徒会の仕事に使っているノートPCをこちらに向けられた。

 その画面に写っているのは、インターネットの巨大掲示板。

 

『速報! “又旅”女史、妊娠と結婚を電撃発表!』

『2008年9月2日の夜10時頃、投稿された彼女の動画で衝撃の報告!』

『動画撮影中に妊娠が発覚し、撮影後にその足で確認のため産婦人科を受診。結果は自覚症状のない“妊娠超初期”と呼ばれる段階であったが、妊娠していると診断された。また直後にその事実を交際中の男性に報告すると、その場で結婚を申し込まれ、結婚を決意した事を動画内で報告した。

 これまで視聴者に交際の事実は一切伝えられていなかったことから、驚愕と祝福の声が上がっている。今後、出産までハードな撮影内容は妊婦であることを考慮し、所属事務所と相談の上一部スケジュールの変更と調整が行われるが、動画の撮影と投稿はこれまで通り継続していく方針。

 なお妊娠が発覚したきっかけは現在方々で話題になっている高校生、葉隠影虎君の占いによるものだと言うから驚きだ』

 

 昨日の又旅さんの動画が当日の夜に投稿され、話題になっているようだ……

 

「……もしやとは思ったが、本当に騒ぎを起こしてくるとは」

「騒ぎの中心は件の動画投稿者で、君はあくまできっかけ。そして悪い騒ぎでもないのが幸いだが、確実に注目は集めたぞ」

「ははは……」

 

 桐条先輩と副会長は呆れ顔。

 切り替えられたページには、また俺の話題が語られているスレッドが表示された。

 反応は様々だが概ね占いの結果について語られている。

 俺は愛想笑いを返すしかなかった。

 

「なんかもう何かやったら騒がれる感じになってますね……」

「まあこの件でこっちの仕事が増えたりはしてないから、私たちは別にいいけどね」

「身の回りには気をつけてくれよ」

 

 もう慣れたように注意はさらっと済まされて、話題は生徒会の仕事に。

 今年の文化祭は9月20日(土)で、もう一か月も時間がないのだ。

 文化祭準備に伴い必要となる仕事の説明を受けた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~月光館学園・小等部学生寮~

 

 暗い廊下を歩き、到着した部屋をノック……せずに鍵を開けて中に入る。

 そこにはボンズさんからもらった装備に身を包んだ天田が立っていた。

 

「準備はできてるか?」

「もちろんです。その包みは何ですか?」

「これは天田の武器だ。後で渡す。用意ができてるなら行こう、と言いたいところだが……悪いがその前にやらなきゃいけないことがある。昨日、様子見をした時にあったことは連絡したと思うが」

「わかってます。先生から伝言を聞きました。それにあの地下室のことも」

「秘密厳守で頼む。で、タルタロス探索のことなんだが……こいつの中に入ってもらう」

 

 このために用意したオリジナルシャドウを召喚。

 

「これって、象徴化した人みたいじゃないですか」

「棺桶型だが、以前作って見せた移動用シャドウとほとんど変わらない」

 

 嘆きのティアラをベースに、隠蔽と保護色を与えてある。

 外見は天田も言った通り象徴化した人と全く同じ形状と色合いに整えてある。

 この中に入ってもらい、棺桶型シャドウに与えた能力で天田の存在をペルソナの探知能力から隠す。

 

「少なくとも桐条先輩の能力ならごまかせるはずだ。実際に何度かやり過ごせてる。ストレガの方はわからんが、今日ここに来る前に周りを探った限り、見える範囲に監視の目はなかった」

 

 日中も警戒していたが、周辺把握の範囲には入ってきていない。

 能力でもっと遠くから監視してる可能性はあるが、そこまで考えると身動きが取れなくなる。

 

「出入りにも警戒してタルタロスを探索する。いいな?」

「わかりました」

「じゃあ入ってくれ。寝心地は調節したし、息苦しくもないないはずだ」

「あ、本当に布団みたい。呼吸も大丈夫そうです」

 

 棺桶型シャドウに入った天田を担ぎ、タルタロスへ直行。

 

 なお本日の天田の武器は“デッキブラシ”(税抜き3000円)。

 槍なんて一般の店では売っていないし、置いていたとしてもそう簡単に買えない。

 ということで、ゲーム中はネタ装備にあったデッキブラシを採用。

 適当な店で購入した後、一応特殊弾と同じ加工をしておいた。

 

 ゲームでは初期武器の十文字槍よりは強力な装備だったが、これはどうなるだろう?

 場合によっては駅のトイレの物とすり替えに行く必要があるかもしれない。

 

 ……

 

 その後、道中に邪魔が入ることもなく到着。

 

「これ、前ボンズさんが作ってくれたナイフの槍よりも効いてる気がするんですけど……」

「敵が弱いのもあると思うぞ……」

 

 天田はデッキブラシが武器として普通に使えたことに納得がいかないようだったが、アメリカでの戦闘経験があったため、初回(5Fまで)の探索は特に問題なく行われた。

 

 ちなみに今日もヴィーナスイーグルからは仮面を三枚回収。

 おまけにまたジェムとオニキスを一つずつ拾った。

 アメリカから帰ってまだ二回目だけど、急に運が良くなったような気がする……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 次の日

 

 9月4日(木)

 

 ~Be Blue V・地下倉庫~

 

 昼は学校で生徒会の仕事。

 放課後はバイトで裏方の仕事に精を出すが……

 

「それはそっち、あれはあっちにまとめて置いて」

 

 倉庫整理中は結構楽をしている。

 

「貴方、こんな事もできるようになったのねぇ……」

 

 現在俺のやっていることは、指示出しと在庫の確認だけ。

 実際に整理を行っているのは、俺が召喚した人型シャドウが三体。

 いつもは影時間だけ召喚していたが、俺自身は日中も問題なくペルソナを使える。

 なので召喚はどうかと試してみたら、日中に行動できるシャドウを作れてしまった。

 

「代わりに他の能力はありませんが」

「こんなところで戦う必要はないからいいじゃない。あったら困るわよ」

「ですね」

 

 ダンボールくらいなら問題なく運べるし、人目がなければかなり使えることが分かった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~自室~

 

 思ったより穏やかだったな……

 

 インタビュー後から今日までを振り返ると、そう思う。

 テレビやネットで話題にはなっているが、報道の後は実害がない。

 校内で多少視線を集めるようになったことくらいだ。

 これが嵐の前の静けさでないことを願う……

 

「!! びっくりした……」

 

 携帯が鳴った。

 ……誰からだろう? 知らない番号だ。

 

「……もしもし」

『まいどー。葉隠さん?』

「はい、そうですが……」

 

 この特徴的な声と挨拶、まさか。

 

『私、あなたの親戚の“中村あいか”。八十稲羽市に住んでます』

「ああ、叔父から聞いています。初めまして。家庭菜園用の苗のことをお願いしたとか」

『こちらこそ、初めましてー。その苗のことで連絡しました』

 

 いきなり彼女が電話をかけてきたことに驚いたが、何か進展があったのかと聞く。

 すると既に、目的の苗を販売している農家を見つけてくれたそうだ!

 

『プチソウルトマトとカエレルダイコン。全然有名じゃないのに知っててくれてるって、不思議そうだったけど嬉しそうだった』

「そうですか。それで手に入りそうでしょうか?」

『大丈夫。注文があれば翌日に発送できる。到着は……注文から二日後? お父さんとその農家の人は忙しいから、私が対応を任された。今度から私に直接連絡してもらえれば、すぐに連絡して送れる。

 今すぐ用意できる苗はプチソウルトマトとカエレルダイコンだけだけど、今後は別の種類も用意できるって』

 

 なんと彼女が窓口になってくれるようだ!

 早速プチソウルトマトとカエレルダイコンの苗を注文する!

 

『まいどー。着払いで送るから二日後、待っといてー』

「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」

『こちらこそー』

 

 ……色々と驚かされたが、苗が手に入ることになった!

 急いで準備を整えなくては! あ、あとコールドマン氏への連絡も。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月5日(金)

 

 午後

 

 文化祭の準備が始まった。

 授業を潰してクラスで何をやるかを話し合うが……

 何も決まらないまま、終わりの時間が刻々と近づいている。

 

「ねえみんな聞いて! 集中して決めないと時間ないよ!」

「て言われても……」

「ぶっちゃけ何すりゃいいか。そもそも2週間で何ができるの?」

「そんなに気合い入れたことする必要ないんじゃない?」

「準備期間短いしなー。学校もそもそもそんな力入れてないだろ」

 

 クラスの反応が悪い。

 実行委員の男女がこの話し合いをまとめているが、その実行委員も熱心なのは女子だけ。

 男子の実行委員はあまり乗り気ではないようだ。

 

「とりあえず案を出すことから始めよう!」

「案……そうだ! 占いの館は? 葉隠君ってすごい占い師らしいじゃん!」

「あ、いいねそれ」

「いいんじゃね?」

「じゃあそれで決て」

「待って! そんな適当に決めちゃだめでしょ!」

 

 やる気のない男子実行委員が勝手に決定しようとしたところ、やる気のある女子の実行委員が俺より先に止めに入った。

 

「葉隠君の意思だって聞いてないし、そもそもみんなでやるんだから一人だけに頼る出し物は駄目だよ」

「じゃあどうするのさ」

「だからそれを考えるんだって!」

「なら佐藤から意見を出したら? ただでさえ時間がないんだから」

「水島……実行委員なんだからもう少しやる気を出しなさいよ!」

 

 ……とうとう実行委員同士が険悪な雰囲気になってしまった……

 

 原因は温度差だろう。

 佐藤はこういうイベントが好きなタイプで、やる気もある。

 委員には自分から立候補していた。

 

 対する水島は普段から休み時間にも勉強をしているガリ勉タイプ。

 将来は有名大学に進学したいと聞いたことがある。

 どうやら普段の付き合いも良い方ではないらしい。

 こういう行事は勉強時間を削る邪魔だと思っていそうだ

 

 まさに水と油。リーダーとなる二人が全く噛み合っていない。

 これで文化祭に間に合うのだろうか?

 

 天井を仰ぐとオーラが見える。とても濃く、淀んだオーラが。

 しかもその発生源はクラス中の生徒だと見てすぐに分かった。

 やる気がある生徒。やる気のない生徒。

 そんな生徒一人一人から立ち上るオーラが混ざり合い、新しい色を作り上げている。

 

 こんな事もあるのか……これが“場の空気”なのかな……

 たぶん間違ってない気がする。クラス中の雰囲気がまさにこんな感じだ。

 

 まとまりがなく停滞しているこの状況。

 オーラが徐々に場の空気に染められていく生徒もチラホラ見える。

 これは、文化祭が始まる前から躓いている……

 

 俺としては高校生らしい行事に心引かれる部分もある。

 来年は影時間関係の事がさらに忙しくなるだろうし、何より来年は台風で中止になる。

 楽しめるとしたら今年が最後……なんとかこの状況を改善したい。




影虎は占い師として少し注目を集めた!
影虎は天田とタルタロスを探索した!
影虎は召喚シャドウを倉庫整理に使った!
影虎は中村あいかと電話をした!
苗が注文できるようになった!
文化祭の準備が始まった!

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