人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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180話 再会と情報収集

 ~応接室~

 

「はい、インスタントだけど」

「ありがとうございます」

 

 地下倉庫でオーナーや棚倉さんと顔を合わせる事ができた。

 けれど、あそこでは落ち着いて話ができないという事になり、オーナーと戻ってきた。

 また懐かしく感じるソファーに座り、コーヒー片手に話し合う。

 

「ある程度は江戸川さんから聞いていたけど、本当に凄まじい経験をしてきたのねぇ……でもそれだけ成長もしたみたいじゃない」

「死にかけもしましたが、実りのある一ヶ月でした」

「無事に帰って来れたことも含めて、よかったわね。ところで……霊感も成長していたようだけど、今後地下室のお手伝いはできそうかしら?」

「体調には変化なかったので、見えるものには慣れようと思います……はい」

 

 撃たれた後は病院で幽霊らしき存在を見たが、退院して以来見た覚えがなく油断していた。

 地下室での作業には今後、これまでとは別の意味で慣れる必要がある。

 慣れたらスキルで“グロ耐性”とか手に入るかもしれない……

 

「倉庫といえばあの中、最後に見た時と比べてだいぶ物が増えてませんでした?」

「そうね。お盆休みの後はそういった品が手に入りやすいから、毎年気づいたら増えちゃってるのよ。頼りにさせてもらうわね、葉隠君」

「わかりました」

「それで9月からのお仕事なんだけど……初回は地下倉庫の片づけでいいかしら? 商品の在庫整理も一緒にお願いしたいのと、今の状況で貴方に接客を任せると大変な事になりそうだから。……最近、貴方のことを聞きたいだけで、何も買う気のないお客様も増えてるの。だから申し訳ないけど、状況が落ち着くまでは倉庫の片付けとか、裏方でお仕事をしてもらいたいわ」

 

 それも分かる。クビでないなら十分ありがたい。

 

「ご迷惑をおかけしてすみません」

「いいのよ。でも気になるのなら……例の宝石を調達して欲しいわね」

「承知しました。近日中に探索を再開する予定ですから、しばらくお待ちください」

「楽しみにしているわ。あと銀の仮面があったじゃない? あれの良い使い道を見つけたの。前よりも高値で買い取らせてもらうから、そっちもお願いするわ」

 

 ヴィーナスイーグルの仮面なら宝石より簡単に調達できそうだ。

 しかし良い使い道とは?

 

「“貴金属粘土”って知ってるかしら? 銀や金の粉末に水と結合材を混ぜ合わせた、粘土のような質感を持つアクセサリーの材料なんだけど、知人がそれを作る会社を経営していてね。あの仮面を銀粘土にしてもらえることになったの」

 

 聞けばあの仮面、含まれているエネルギーは少ないものの、作業中に自らのエネルギーを込めるには使いやすくて優秀な材料だと判明したそうだ。銀粘土に加工してもその性質は変化することなく、効果とデザインの自由度が高まるそうだ。

 

「魔術の研鑽も積んできたみたいだし、今度は銀粘土を使ったアクセサリーの作り方を教えてあげるわね」

 

 シフトは以前と変わらず火・水・土の週三日。

 教えていただけるのは次回の9月2日になるだろう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~喫茶店・シャガール~

 

「本当に心配かけて、すみませんでした……」

 

 Be Blue Vから連絡を入れ、地下を経由しなるべく人目につかないように、スタッフ専用の裏口からシャガールへ来られたが……事前に連絡を入れていたため、そこにはマスターだけでなく山岸さんも待っていた。

 

 山岸さんは俺の無事を喜びつつも、心配したことを伝えてくる。

 襲われた事は不幸な事故だと思っているのだろう。

 俺を責める言動は基本的にない。

 思わず言ってしまった時には、申し訳なさそうに謝ってくる。

 どうやら自分が怒っているのかどうかすら分かっていない様子。

 涙目になりながら、とにかく心配したことを伝えてくる。

 

 ……感情任せに怒鳴られるより、こっちの方がよっぽど心が痛い……

 

「葉隠君も反省はしているようだよ。そのあたりで許してあげよう」

 

 マスターがどこからか用意したティーカップを渡す。

 

「そう、ですね……ごめんね。それから、お帰りなさい」

「ただいま」

 

 その中身を飲むと、彼女は少し落ち着いたようだ。

 

「葉隠君もどうぞ、リラックス効果のあるハーブティーだ」

「いただきます」

 

 とても良い香りがして、リラックスできる。

 精神系の状態異常に効きそう。

 複数のハーブをブレンドしているようだ。

 ……残念ながらその種類までは分からない。

 

「レモンバームとジャスミン……それにほんのちょっとだけハイビスカス?」

「山岸さん、分かるの?」

「夏休みの間、マスターからハーブティーの事を教えてもらってたの。だから少しだけ」

「そうなんだ」

 

 ……山岸さん、料理はアレだったけど改善したのだろうか?

 せっかく落ち着いたんだ。今聞くのは避けよう。

 変わりに明日の事を話す。

 

「マスター。明日のパーティーの件、急なお願いなのにありがとうございました」

「明日は定休日だからね。場所は開いているよ。ただ調理スタッフも休みだから、料理はそちらで用意してもらうことになるけど、本当に良いのかい? 江戸川君は問題ないと言っていたが」

「はい。場所を貸していただけるだけで十分です。料理は避難させてもらっていた方のお宅で、短期間ですが修業したので」

 

 この夏休みで身に着けた技術を披露する良い機会だ。

 

「それと山岸さんにはお願いがあるんだけど……」

 

 ネットに投稿する動画への協力を頼む。

 

「できる事はやっておかないと大変そうだし……私でよければ」

「助かる! あ、後もう一つお願いがあるんだ」

 

 コールドマン氏から学んだ注意点。

 マスコミ対応ではなく防犯のために、部室周辺に監視カメラを設置してもらいたい。

 部室の場所はテレビで報道されたし、好奇心で見に来る人もいるかもしれない。

 

「見るだけならともかく、何か変な事をされても困るしね。騒ぎが収まるまでの間だけでも」

「分かった。それも用意してから部室に行くね」

 

 無事に山岸さんの協力を取り付ける事ができた! 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~ポロニアンモール・裏路地~

 

 ホテルに帰る前に、もしかしたらと期待して裏路地へ入った。

 しかし“ベルベットルームへの入り口”は見えない。

 一度入れたからもしやと思ったが……

 でもベルベットルームの入り口はタルタロスにもあるはず。

 結論を出すにはまだ早い……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~ホテル~

 

「寝ないのか?」

「眠れませんよ。あんなの目の前にして」

 

 天田はカーテンの隙間からタルタロスを眺めている……

 

「気持ちは分かるが、休んでおかないと明日からが辛いぞ。フラフラじゃ探索にも連れて行けないしな」

「分かってますって、もう」

「外から誰かに見つからないよう、気をつけてくれよ」

 

 一応ドッペルゲンガーで部屋を包んで隠してるし、大丈夫だと思うけど念のために。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 朝

 

 ~部室~

 

「おはようございまーす」

 

 秘密裏に訪れた久しぶりの部室で、料理をしていたら山岸さんが来たようだ。

 

「おはよう」

「おはよう、葉隠君。この匂い……お料理してたの?」

「ちょっとね」

 

 朝一で買い込んだ材料で一品作ってみた。

 

「大丈夫だとは思うけど、パーティーで出す料理をもう一度練習しておきたくて」

 

 さすがに全種類は無理だけど、少しなら作れない事はない。

 ずっと日本で対応に追われていた先生方への慰労の意味も込めて、ティラミスを焼いてみた。

 

「後で挨拶に行くからね。特に鳥海先生のご機嫌をとるために使えないかと思って」

「あ、そっか」

「ちょうど焼きあがった所。皆で試食するから、山岸さんも食べてみる?」

「いいの?」

「夜にも出すけどね。食べながら打ち合わせをしよう」

 

 撮影用に部屋の準備をしている二人に声をかけ、四人で厨房へ移動。

 

 それから試食をしながらの打ち合わせは実にスムーズに行われた。

 だが俺たちは最後の最後で驚かされる。

 

「このお茶、山岸先輩がブレンドしたんですか!?」

「ヒヒヒッ! やはり山岸さんには才能があったんですねぇ……」

 

 彼女がお返しにと淹れてくれたハーブティー。

 あまり飲み慣れない味と香りだけどおいしい。

 そこで興味を持った天田がお店を聞くと、自作だと答えている。

 それ以上に、飲み進めると体に変化を感じる。

 悪い変化ではなく、良い変化だ。

 微弱だけど“コンセントレイト”を使用したときのように、集中力が高まる感覚がある。

 今ならきっと魔法の威力が上がっているはず。

 

「えっと、葉隠君はどうかな?」

「驚いた。おいしいし集中力が上がりそう、あとほんの少し疲れが取れそうかな」

「えっ? うん、確かに集中力を上げる効果のあるローズマリーを中心にして、ストレス解消と疲労回復効果、それに味に甘みも出るエゾウコギをブレンドしたけど……分かったの?」

「あー……入院してからどうも体の変調に敏感になってるみたいでさ、ちょっとした変化も感じるようになってる気がする」

「大きな病気や怪我をした後は、誰しも健康の大切さを感じてしまうものです。特に影虎君の場合は、あと一歩で二度と帰れなくなっていましたしねぇ……」

「そ、そうなんだ……本当に大変だったんだね」

 

 ……先生のフォローもあり、なんとかごまかせたようだ……

 しかし山岸さんが効果つきのお茶を入れられるようになっていたとは。

 確かにマスターから習っているとは聞いていたけど、これは予想外。

 

「マスターが薦めてくれたの。私にはこっちが向いてると思うって。それでやってみたら面白かったし美味しいものができて。……でもお料理は全然上手にならないんだよね……」

「へぇ……」

 

 ってことは料理の腕には変化なしか……

 

「でもお茶のブレンドがここまでできるんだから、これを極めたら料理のコツも掴めたりするんじゃないか? 分量の調整とか」

「そうだよね。頑張ればいつか上手くなるよね」

 

 山岸さんはやる気のようだ!

 

 ちなみにこの後の動画撮影はつつがなく終わった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~喫茶店・シャガール~

 

 料理の準備はほとんど終わり、後はパーティ開始の時間に合わせて仕上げるだけ。

 そんな時に、気の早いやつらがやってきたようだ。

「「天田先輩!」」

 

 この声、和田と新井か。

 そう思って客席を覗くと、想像通りの二人が天田に絡んでいた。

 

「おーい、あんまりはしゃいでお店の備品に傷つけるなよ」

「あっ、兄貴!! 無事でよかったッス!」

「お久しぶりです! お帰りなさい!」

「相変わらず騒がしいな。でも心配してくれてありがとう。それに迷惑かけたみたいで」

「そんなの全然かまわねぇッスよ」

「俺らはどっちかっつーと儲けの方が多かったですよ」

「兄貴には悪いっすけど、これまでの騒動で店に来る人が増えて店は繁盛してるッス」

「理由はどうでも、店にきたら何も食わずに帰る人は少ないみたいで」

「ああ、昼に叔父さんのところに顔を出したけど、叔父さんもそんな事を言ってたよ」

 

 ちなみに叔父さんは昔の父さんでこういう事には慣れていたらしく、“無事って連絡が来たなら無事なんだろ”と一番落ち着いていた。番組放送の翌日には“トロ肉しょうゆラーメン”に“話題の影虎も食べた一品!”なんてキャッチコピーをつけていたそうだ。なんとも商魂たくましい。

 

 でもそのおかげで“はがくれ”は着実に利益を上げているらしいので、名前を貸す代わりに“野菜の苗”の調査と手配を要求して簡単に認めさせることができた。本人は苗について知らないが、やはり“愛家”を通して探してくれるそうだ。

 

「むしろ儲かってるみたいでよかった」

 

 儲けにもならない迷惑よりは、少し心が軽くなる。

 

「それにしても、ちょっと来るのが早すぎだ。まだ用意も整ってないぞ」

「だったら俺らも手伝いますよ!」

「この夏休み中、店の手伝いが増えてばっちり鍛えられたッスからね!」

「それなら天田と一緒にテーブルの準備を頼む。具体的にどうするかは天田に伝えてあるから。頼めるよな? 天田」

「はい、大丈夫です!」

 

 懐かしい騒がしさを感じながら、ここは三人に任せて料理に戻る事にした。




影虎はオーナーと再会した!
影虎はシフトの確認をした!
影虎は山岸風花と再会した!
山岸はハープティーの知識と技術を身につけていた!
影虎は投稿用の動画を撮影した!
影虎はパーティーの準備を始めた!
影虎は和田、新井と再会した!

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