人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
前回の続きはニつ前からです。


163話 親の愛情

 ~廊下~

 

「ここよ」

 

 エレナに案内されて、別のVIP室の前へやってきた。

 意を決して中へ入る。

 

「!? 影虎君!」

「先輩!?」

 

 室内には先生と天田がいた。

 

「目が覚めたんですか!?」

「ああ、見ての通り。エレナにも言ったけど、自覚できる体調不良はないよ」

「ひとまず元気そうで良かったですねぇ。……しかし帰りが遅いと思っていたら、影虎君を連れてくるとは……ヒヒッ。予想していませんでした」

「買出しが終わったところでアンジェリーナが急に走りだしたのよ。それを追いかけたらタイガーの部屋で、目が覚めてたの」

「呼ばれた気がした」

「あ、それ俺が魔術使ったからですけど……あの、それよりも」

「……話は聞いたようですねぇ……」

「こっちです、先輩……」

 

 二人が左右に分かれ、空いた空間の先には……うちの両親がベッドで眠っていた。

 騒がしかったはずなのに。隣まで近づいても。二人が目を覚ます様子はない。

 

「やっぱり、ペルソナが原因ですよね」

「間違いないですよ……だって、二人がペルソナを召喚したとき、すごく苦しんでました」

「……何が“気合入れたらなんか出た”だよ」

 

 生気のない親父の顔に、目の前がにじむ。

 

「君のように自分の意思で出したのではありません。出て行った君に異変が起きたのを見て、騒いだ後に突然苦しみ始め、出てきたのです」

「異変?」

「木の上まで上って一度見失って、降りてきた時。煙はなかったけど、とっても嫌な感じがした」

 

 黄昏の羽根を回収したあたり……ルサンチマンと話し始めたのもそのタイミングだ。

 

「何て言うか、雰囲気? アンジェリーナだけじゃなくて、あそこにいた全員がそう感じてたのよ。私は双眼鏡が足りなくて直接見てなかったけど、それでも何かが体を這うような……よく分からないけど寒気がしたわ」

「龍斗さんが騒いで苦しみ始めたのは、それから本当にすぐでした」

「それからお父様はすぐに君のところへ飛び出してしまいましたが、お母様のペルソナは“マリア”という名前だったようです。そして君を捕まえたスキルの名は“母の愛”……そう、祈るように呟いておられました……」

 

 ……くっ……

 

「二人の状態は?」

「今は衰弱一歩手前ですが、命に別状はありません。ちゃんと休めば問題ないでしょう。明日からの予定は聞きましたか?」

「Mr.コールドマンのお宅にお世話になると」

「ええ、そこでしっかり養生させてもらいましょう」

「……薬は? 暴走の可能性はどうなんでしょうか?」

 

 今後、二人は制御剤を使うことになるんだろうか?

 先生を見ると、痛ましいと言うより困ったような表情をしている。

 

「おそらく、お二人に制御剤は必要ないでしょう」

「! 本当ですか!」

「本当ですが、これが良い事かなのかは……」

「先輩……」

 

 何だ? 何かあるのか?

 

「影虎君、よく聞いてください。私はご両親に制御剤は必要ないと考えています。なぜなら、彼らは既にペルソナ能力を失っている可能性が高いからです」

失っている(・・・・・)?」

「先輩。僕達、昨日病院に泊まったんです。付き添いとして」

 

 そして影時間が来ると、途端に二人は象徴化したと天田は話す。

 象徴化したということは、適性を失った、と言うことで良いのだろうか……

 

「何度か目を覚まされた時に確認しましたが、記憶の混乱も見られました。無理にペルソナを使ってしまった反動か……適性と影時間の記憶を失ってしまわれたのは間違いないかと」

「だからペルソナを暴走させることもできないと?」

「適性が足りず、中途半端に呼び出した結果が暴走だとして。適性をまったく持たない人間がどこまでできるか……暴走すらさせられないと私は願いますよ。こう言ってはなんですが……そうであればまだ救いがあると思います」

「……そうですね」

 

 確かに。記憶や適性がなくても、それは元に戻っただけだ。

 暴走したり、制御剤で体をボロボロにするよりよっぽどマシだ。

 これで良かった。色々巻き込んでおいて悪いが、二人は普通の生活に戻れるはず……

 

「んぁ……」

「あら……?」

「!」

 

 手を握ったせいで二人が気づいてしまった。

 

「虎ちゃん……?」

「影、虎……」

「大丈夫? 二人と「ウラァ!」もっ!?」

 

 寝返りをうつように親父の蹴りが飛んできた。

 

「寝起きで何してんだよ!?」

「虎ちゃん……」

「母さ、ん゛!?」

 

 今度は平手打ち! どちらも弱っていて痛くはないが……

 

「父さん、母さん……いきなり何すんの……」

 

 痛みよりも驚きが強い……

 

「何がじゃ、ねぇだろ、この馬鹿野郎!」

「虎ちゃん……本当に危ない、無茶をしたそうじゃない……」

「え……」

 

 先生たちへ目が向く。

 話したのか? 失った記憶のことを? 

 

「少々誤解があったようですねぇ……影虎君。私はお二人が適性と“影時間中の”記憶を失ったとは言いましたが、それ以外の記憶を失ったと言ったつもりはありませんよ?」

「ここ最近、僕たちずっとペルソナやシャドウの話ばかりしてましたからね。影時間とか関係なく」

「家を襲撃された時だって、昼間だけどペルソナ使って遠慮なく暴れてたじゃないの」

「全部なくなったわけじゃ、ない」

 

 ……

 

「…………記憶、残ってるの?」

「影時間の記憶は無いわ、頭にもやがかかったみたい……でも、ペルソナやシャドウについて、皆で話していたのはうっすら覚えているわ。信じがたいし、夢みたいな話だとも思うけど……」

「それを当たり前のように受け入れてた日中の記憶がある。……ただそんな話をした覚えもない、普通に旅行してた記憶もある……所々で途切れるわ、ぶつ切りになるわ。抜け落ち……滅茶苦茶だ。現実に夢が混ざったみてぇでわけがわからねぇ……」

「お二人は日中の記憶までは失わず、同時に改変された記憶も持っているようでして……二つの記憶の整合性のなさにお悩みです」

 

 混乱ってそういうことかよ!?

 

 記憶を失ったのが一部で済んだのは不幸中の幸いかもしれない。

 親の記憶喪失を願うわけないし、それは良かったと思う。

 けど、紛らわしいっ!

 

「影時間中の、と限定して正確に伝えたつもりだったんですがねぇ……」

「というか、そもそも影時間の記憶は適性を失ったら完全に消えるんじゃないのか……?」

「先日の事件の被害者には僅かに記憶を残している方も大勢いらっしゃいますからねぇ。黄昏の羽根と召喚魔術により何らかの影響を受けてしまったか、それとも個人の体質か、必ずしも記憶をすべて失うわけではないのか……そのあたりは分かりません。

 しかしこうしてご両親の記憶は一部残っているわけですし、事実は事実として認めましょう。そしてお二人の無事を喜びましょう」

「……そうですね」

 

 本当に無事でよかった……

 

「つーか影虎、テメェもっと近くにこい。もう一発ぶん殴るから」

「え? んな宣言されて誰が近づくか!」

「いいから来い! 体があんま動かねぇから、お前が近づかねぇと届かないだろうが!」

「おとなしく寝てろよ!? そんな状態なら……」

「虎ちゃん。そのままでいいけど……私もしっかりお話したいことがあるわ。覚えてない事を言うのもおかしいかもしれないけど……本当に危ない無茶をしたのよね……」

 

 ……弱弱しい声だけれど、母さんは体に真っ赤なオーラを立ち上らせている……

 

 この後、静かに滅茶苦茶怒られた。




両親は無理をしてペルソナを召喚していた……
二人は影時間の適性、ペルソナ、記憶の一部を失った……
さらに衰弱し、混乱している……
しかし命に別状はなかった!
影虎は滅茶苦茶怒られた!

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