人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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10話 たまにはのんびり

 4月13日(日)

 

 ~昼~

 

「結構集まったな」

 

 朝の内に宿題ややるべき事を済ませ、ふと外を見たら部屋に居るのがもったいない天気。散歩がてらポートアイランドから巌戸台までのんびりと既存の回復アイテム(飲み物)集めをする事にしたが、用意したボストンバッグが飲み物で一杯になってきた。

 

 この自販機で最後にするか。

 

「胡椒博士、マンタ、純粋ハチミツ。他に新しい物は……無いな」

 

 これまでに買えたのは今の三種類に加えて四谷さいだぁ、剛健美茶、モロナミンG、ミニマムコーヒー、255茶……大半はどこの自販機でも取り扱っている物だけど、たまにかわり種もあるのでよく見てみると結構面白い。

 

 ただ、財布が軽くなった。銀行に行けば貯金はおろせるけど、バイトでもやってみようか? 叔父さんの所とかで働ければ……そんな事を考えていたら、たこ焼きの良い香りが鼻をくすぐる。……ちょっと休憩して行こう。

 

「一パックお願いします。これお代」

「420円丁度ね、まいどあり!」

 

 たこ焼き屋オクトパシーの前にある座席に座り、買った“謎のたこ焼き”を一口。美味い! でも中身はタコじゃない。タコっぽいんだけど、舌触りに吸盤の存在がまったく感じられない。これ一体なんだろう?

 

 ……連日の吸血や江戸川先生の薬で変な度胸がついたのか、美味しければいいやと思えるようになってきたな……慣れって怖い。

 

 ボストンバッグから剛健美茶を一本取り出して、たこ焼きと一緒にのんびり味わう。

 

「はぁ……平和だな……」

 

 最近は色々あったし、こんなにゆっくりできる日は久しぶりな気がする。たまにはこうして癒される日もないと……ん?

 

「どこに落としたんだろう……」

 

 儚げで気弱そうな少女が、困った顔で地面を見ながら俺の前をうろうろし始めた。……うん、どう見ても山岸風花だ。日曜の学校外なのにまた原作キャラかよ! とも思うが、目の前でうろうろされると物凄く気になるな……今更原作キャラに関わるのを避けても遅い気がするし、ちょっと声かけてみるか。影時間に関わらなきゃいいんだ。

 

 最後のたこ焼きを口に入れて席を立ち、こっちに背を向けて商店街の路地を覗きこむ山岸さんに近づく。

 

「どうしました?」

「ひゃいっ!?」

「すみません。何か困ってたみたいだから声をかけたんですが……」

「あ……こっちこそすみません、驚いてしまって。ちょっと探し物をしていたんです。このへんでこのくらいの封筒を見ませんでしたか?」

 

 山岸さんが手で示した大きさだと、そんなに大きくなさそうだ。しかし

 

「見てません」

「そうですか……」

「大事な手紙か何かですか?」

「そういう訳じゃなくて……ええと……その……」

 

 ああ、なんかテンパり始めた。

 

「あの、とりあえず落ち着いて。一旦座りません?」

「あ、はい……」

 

 さっきまで座っていたオクトパシー前の席を指し示して歩き出すと、山岸さんはまだテンパって居るのか素直に俺についてきて座り、恥ずかしいのかうつむいている。ってか、これ他人から見たらナンパじゃないか? こころなしかオクトパシーの店員がニヤついた目で見ている気がする……

 

「……たこ焼きもう一パックお願いします」

「まいどっ! 二個おまけしとくよ」

 

 席代の代わりに買ってみたら案の定、おまけが付いて楊枝が二本。あれか、分けて一緒に食えと。どんどんナンパに近づいているが、細かい事には目をつぶって山岸さんの隣に座る。

 

「はい、これ食べて落ち着いて」

「えっ!? そんな悪いですよ!」

「いいからいいから。もう買っちゃったし、さっき一パック買って食べたから一人じゃ食べきれないから。あと飲み物何がいい? 缶ジュースだけど自販機で売ってる物は大体あるから好きなの選んで」

「あっ、本当にいっぱいある……何でこんなに?」

 

 気にするのそこかよ! いやまぁ、気になるか……変な警戒されるよりいいし、このまま押し切ろう。

 

 ボストンバッグの中から缶ジュースを一種類ずつ取り出して並べ、どれが良い? ともう一度聞くと

 

「じゃあ、これを頂きますね……」

 

 断りきれずに剛健美茶のペットボトルに手を伸ばした。さすが序盤は気弱設定の山岸風花。

 たこ焼きを一つとお茶を一口飲んでようやく落ち着いてきたらしい。

 

 ……関係ないし言わないけど、知らない人から貰った飲食物を口にするのは危ないぞ。たこ焼きは目の前で買ったばかりだから別としても、海外だと飲み物に薬を入れて行う犯罪の話もよく聞くんだから。

 

「それで、落し物の話ですけど」

「はい。えっと……落としたのは銀行の封筒なんです。引き出したばかりの生活費が入ってて」

「何処の銀行ですか? あと、差し支えなければどれだけ入っていたかも」

「桐条銀行で、封筒の中身は十、五万円……」

「それは、多いな……」

「私毎月を大体前半と後半に分けて、月二回くらいしか引き出さなくて。だから一回の額が多めで……でも普段はそこまで多くないんです、今月はちょっと買い換えたいパソコンの部品があったから多めにおろしたらこんな事に」

「別に責めてる訳じゃ……たこ焼きもう一つどうぞ」

「いただきます……」

 

 たこ焼きを俺が薦めるままに口にしてクールダウンする山岸さん。しかし十五万円か。昔の俺の初任給が十八万に届かなくて……大人にとってもデカイんだから、学生の身じゃ余計にデカイ額だよな。……よし。

 

「交番には行きました?」

「もちろんです、でも落とし物は届いてないって……だから今日通った場所をもう一度歩いて探してて」

「だったら、これ食べ終わったら探しましょう。手伝いますから」

「手分けして、って、そんな、悪いですよ! 私一人で探しますから!」

 

 さっきも聞いたなぁ、その言葉。

 

「そうは言っても心当たりが無さそうだし、探すの大変でしょう」

「それは……でも……」

「十五万なんて大金、ちゃんと探して早く見つけた方がいい。元々暇だったから遠慮はいらないよ。同じ学校のよしみで手伝わせて欲しい」

「えっ? 同じ学校の方なんですか?」

 

 あっ、そういや自己紹介もしてなかった。

 

 たこ焼きを一つ頬張り、何と言おうか、熱っ!?

 

「あっ、あつっ!?」

「大丈夫ですか!?」

「あふっ、うん。大、丈夫。……え~と、月光館学園高等部の一年だよね? 名前は知らないけど、何度か見かけた覚えがある。俺は一年A組の葉隠影虎です」

 

 とはいえ証明できる物が何もない……と思っていたら。

 

「貴方があの……私はD組の山岸風花です」

「あの、って。俺の事を知ってるの?」

「えっと、新しく部活を作ろうとしてる人ですよね? 顧問が江戸川先生ってことで、学校の掲示板で話題になってたから」

 

 たこ焼き片手に話を聞いたらどこかから漏れた昨日の話が掲示板に広がっているらしく、昨夜から陸上部の執拗な勧誘、それに追い詰められた生徒()、江戸川先生が顧問になる部活。このどれかの話題が常に賑わう“葉隠影虎君のご冥福を祈るスレ”が立てられていたそうだ。

 

「人を勝手に殺して祈るなと言いたい」

「すみません……」

 

 ふと呟いた言葉で山岸さんがばつが悪そうに謝りはじめたので、不審者じゃないと分かって貰えたならいい、と言ってこの話をやめる事にする。

 

 

 

 それからは最終的に折れてくれた山岸さんと巌戸台を歩き回った。

 まずお金を引き出した銀行から駅前のカフェに行き、商店街の本屋やパソコン関係のジャンクパーツ屋、文房具屋、小物屋など……結構歩き回ったのに封筒は見つからず、とうとう封筒がない事に気づいたという巌戸台駅に着いてしまう。

 

「もう一度……」

 

 銀行まで戻ってみようかと言おうとしたら、山岸は首を振る。

 

 もう日が落ちて薄暗いからここまででいい、か……まだ遠慮があるんだと思うけど、確かにもう街灯が点いている時間帯だ。山岸さんは夜遊び歩くタイプでもないし、暗い夜道は危ないか。この前みたいな不良がいても困る。

 

「残念だけど帰りますか……」

 

 後ろ髪を引かれるけれど、俺は山岸さんと一緒に電車に乗り、女子寮の近くで別れて男子寮へ帰ることにした。




山岸風花登場。ちょっと言動に伏見千尋が混ざった気がする。

バイト先の選択肢に”ラーメン屋はがくれ”が加わりました。

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