人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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107話 時の流れ

 7月6日(月)

 

 朝

 

 一週間の撮影を終えて、なんとなく新鮮な気持ちで教室につくと

 

『……』

「これどう?」

「……ちょっと安くない?」

「俺これにしよっかなー」

 

 男子も女子も、皆そろって教科書かバイト情報誌をにらみつけている。

 どうしたんだろう? 岳羽さんや山岸さんまでいるし、俺がいない間に何が? 

 

「おはよー……何してんの?」

「あっ、葉隠、君?」

「なにその髪型。イメチェンしたの?」

「ん~? おっ、影虎じゃん。そっか、二人はこの影虎見るの初めてか。別クラスだもんな」

「なんか撮影の都合らしいぜー……」

 

 順平と友近も話に加わるが、友近はバイト情報誌から一切目を離さない。

 

「……なぁ、本当に何があったの? 教科書はともかく何でバイト情報誌?」

「えっと、アルバイトブーム、かな? 夏休みも近いし、アルバイトをしてお金を溜めようって書き込みが数日前から掲示板にあってね」

「男子はくだらないこと考えてんでしょ」

「ゆかりっちってばまたまた~。俺たちは純粋に夏を楽しみたいだけだってー。だいたいゆかりっちだってバイト探してるじゃんよ」

「うぐっ……もう高校生だし? バイトの一つくらいしていいっしょ。いつまでも親とかに頼りっぱなしってわけにもいかないし。てか、ほんとに頼りたくないし」

「本気でオシャレしようとすると、お金もけっこうかかるしねー」

 

 会話に割り込む島田さんの声。彼女もバイト情報誌を手にしている。

 

「島田さんもバイト探し?」

「そーなんだけど……あんまいいとこ見つかんないんだよねー。肉体労働とかはパスだし、お給料いいところは倍率高くて締め切られてたし。そういえば葉隠君って前、博物館でバイトしてなかった?」

 

 その一言で、クラス中からチラ見される。

 

「まぁ、やってたね。数日だけの契約だったけど」

「今は?」

「放課後はアクセサリーショップ、夜はネットで翻訳の仕事を少々」

「マジ!? そういうのって、どうやって探してるの?」

「葉隠君、私にも教えて~!」

「コツとかあるのか?」

「情報誌は何使ってる?」

 

 クラスメイトが集まってきて、バイト探しの先輩として相談を受けた。

 

 でも、博物館は桐条先輩。

 Be Blue Vは江戸川先生。

 ネットの翻訳は海土泊(あまどまり)会長。

 どれも運よく紹介してもらえたからできた仕事だ。

 アドバイスできることはあまりない。

 できてもせいぜい、死ぬ前に身につけた履歴書の書き方くらいだ。

 

「地道に探すしかないかな……あとは運とか、ツテとか」

「やっぱりかー」

「そうだよね……」

 

 上手い話はないと、皆は席へ戻っていく。

 ん~……ちょっと話を聞いてみようか。誰か頼りになりそうな……

 

 そう考えて、ハッとした。

 

 まず思いついたのは江戸川先生。次にオーナー。三番手にシャガールのマスター。続いて博物館の館長……この並びはさっきまでの話に関係しているのか? 考えてみたら全員魔術関係者か、変わり者のどちらかだ。

 

 俺の交友関係って……

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 

 放課後

 

 ~部室~

 

「パルクール同好会、緊急会議~!」

「「イエーイ!!」」

「……なんですか? そのテレビ番組のオープニングみたいなの」

「……すまん、まだちょっと撮影のノリが抜けてなかった」

「あはは、葉隠君は一週間もやってたんだもんね」

「それで? 何のための会議ですかねぇ?」

「ずばり、今後の活動についてです。まず今日が7月6日の月曜日」

 

 中間の勉強会でも使ったホワイトボードに日付を書き込む。

 

「そして今年の夏休み。高等部は……25日から、となっている。つまり」

 

 今週  7月6日(月)~12日(日)

 来週  7月13日(月)~19日(日)

 再来週 7月20日(月)~24日(金)

 

「もう夏休みまで三週間も無いということだ!」

 

 ついでに言うと来週から試験期間で、今週は部活禁止期間だったりする。

 

「正直、近頃いろいろあって忘れてた」

「兄貴、夏休みを忘れてたんすか……」

「試験はともかく、夏休みを忘れるとかスゲェ……」

「何が凄いか分からないが、とにかく今後の練習について話さないとマズイと思ったんだ」

「夏休みの練習計画ってこと?」

「それだけじゃなくて、試験後の一週間もだな」

 

 と言うのも、俺はまだしばらく忙しい。

 

「撮影のために休んだバイトのシフトをこの先で入れないといけないし、テレビ撮影もあと1回。練習風景とは別に、テレビ局で撮影しないといけないって話だ。こう、ひな壇にズラッと並ぶやつ。

 それに夏休みは夏休みで、俺と天田はアメリカに行く事になっている。当然その間俺たちはいない」

「そっか! そういう話もあったね……」

「僕も準備はほとんど済ませてます」

「和田と新井には話してなかったかもしれない。突然ですまない」

「それはいいっすけど」

「そうなるとさすがにどう練習していいか……これまでと同じっすかね?」

「……もう少し時間があれば、合宿として皆で行けたかもしれませんねぇ」

「そんなこともできたんですか?」

 

 江戸川先生から思わぬ提案。

 

「合宿をする権利はありますから。親御さんの了解や宿泊先の事など色々ありますから……今からでは難しいでしょうけど、調べてみましょうか。選択肢は多いほうがいいでしょうし」

 

 遅れたことが悔やまれる。

 しかし悔やんでばかりじゃ時間の無駄だ。

 今後どうするかを決めなければいけない。

 

「どうするかと言われても……」

「兄貴がいないなら、やっぱこれまでの練習を続けるしか」

「それしか思いつかないっすね」

「考えてみたら、指導は葉隠君に任せきりだもんね」

「何か葉隠君が居なくても大丈夫な仕組みを考える必要があるかもしれませんね……」

 

 俺がいなくても大丈夫な仕組み……

 

「そうだ、テキストとかどうすか? 中間の時みたいに、先輩が用意してくれたテキストやるとか」

「無理だろ。勉強ならそれでいいかもしれないけど、体の動かし方とか本読んだだけじゃわかんねーよ」

「だったら動画とかどうかな? 機材は写真部から借りられると思うし、それで空手だったら型の解説ビデオとか。そういうのならまだ分かりやすいと思うの。ネット……もし葉隠君に抵抗が無ければだけど、動画サイトに置けば携帯からでも見られるし、外でも使いやすいと思う」

「それ、いいですね! 僕もこれでいいのかな? って思うときありますし」

「まず一度撮ってみるか」

 

 “皆で合宿”か“参考動画”。会議はこの二つを軸に進んでいく……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 

 夜

 

 ~アクセサリーショップ Be Blue V~

 

「立て続けにありがとうございます。本当に」

「夏休みに空けるのは前から聞いてたし、その分今週と来週はみっちり働いてもらうから大丈夫よ。それに……言いたくないけど、最後の家族旅行になるかもしれないんでしょう?」

「はい……」

 

 ついこの間入学したと思っていたら、いつの間にか一学期の終わりが迫っている。

 希望が見えただけ良いのは確かだが、間に合うかどうかは分からない。

 

「悔いのないように、思いっきり羽を伸ばしてらっしゃい」

「重ね重ねありがとうございます。先輩方にもご迷惑をかけますが、よろしくお願いします」

「人には事情があるもの。それでどうこう言う子たちじゃないから安心なさいな。それに夏休みなら働き口を探してる高校生も増えるでしょう? どうしても手が足りなければ人を雇う手もあるから、どうとでもなるわよ」

「ああ、うちの学校でもバイト探しがブームになってました。おかげで倍率が高くなってるとかなんとか」

「あらそうなの? ……だったら良い子はいないかしら? 一人か二人、居てくれると安心は安心なんだけれど」

「能力、態度を問わずに紹介するだけなら、二十人はいけると思いますが……」

 

 ふと思いついて、山岸さんと岳羽さんを推薦してみる。

 

「山岸さんは知っているけど、岳羽さん? たしか将来のペルソナ使いに名前が挙がってたわね?」

「はい。まだ目覚めていませんが彼女はペルソナ使い。それも回復魔法に長けたペルソナを使い、チーム内ではヒーラー(回復役)として立ち回るはずです」

「あらまぁ、それは興味があるわね」

 

 能力的に、彼女がオーナーから学べることは多いだろう。

 ただ問題は……

 

「魔法とかオカルト系の話を信じていない事。それと幽霊が大嫌いなようで」

「それはそれは……ここに馴染めるかしら?」

「そこが不安要素ですね。山岸さんはゆっくりとこちら側に近づいてるみたいですが」

 

 江戸川先生から聞いた話では、律儀にダウジングの練習を続けているらしい。

 

「一度声はかけてもらえるかしら? アルバイトとしては、仕事をしてくれればいいから」

「……必ずしも何かを学びに来ないといけないわけじゃないですものね」

「ウフフ……そうね。貴方はめずらしい例だと思うわ。面接だけなら何人でも受けるから、彼女たち以外でも、希望者がいれば連れてきてちょうだい。それを夏休みの埋め合わせにしましょうかね」

「そんな事でいいのなら、明日にでも声をかけますよ」

「あらあら。……それならついでにもう一つお願いして良いかしら? 倉庫に移動させたいものがあるのだけど……」

 

 それくらいならと、二つ返事で承諾した。

 

 

 

 

 

 ~倉庫~

 

「これなんだけど」

 

 それはお札やテープでぐるぐる巻きにされた、業務用の棚。

 金属製でかなり重そうだ。

 

「私と弥生ちゃんだと重すぎて……できるかしら?」

「んー……見た目の割りに嫌な感じもしませんし……ただの棚ですよね? だったら魔術を使えばいけそうです」

 

 ただサイズが大きいので、一人で持つとなるとバランスが心配だ。

 

「弥生ちゃんを呼んできましょうか?」

「多分、ペルソナでなんとかなりますよ」

 

 ドッペルゲンガーを、俺の姿で(・・・・)召喚。

 棚の片側を任せ、もう片方に俺が立つ。

 

「せー……のっ!」

 

 タルカジャをかけてから動作を合わせると、やはり安定して持ち上げることができた。

 

「どちらに運びますか?」

「こっちの角に動かしてちょうだい」

 

 オーナーが指し示すのは、ぽっかり開いている倉庫の角。

 

「それからお札とかは全部はずしましょう」

 

 曰くつきの品ではないが、どうやら保管用に使うらしい。

 邪魔な物を外すと、オーナーが倉庫内のコレクションを詰めていく。

 俺とドッペルゲンガーも荷物運びを手伝い、だいぶ倉庫がスッキリした。

 

「お疲れ様。ペルソナってそんな風にも使えるのね」

「こういう使い方するのは俺だけみたいですけどね。前に俺の体が動かせなくて運ばれたとき、オーナーの前で自分を運んだからできると思って」

「そんなこともあったわね……もうだいぶ前の事みたい。それにしても似てるわね……」

「実態があるエネルギーの塊ですからね……この通り」

 

 オーナー、棚倉先輩、三田村先輩と、ドッペルゲンガーの姿を変化させる。

 

「あらまぁ、本当にそっくりだこと。今にも喋りそうじゃない」

「喋ったりは」

 

 できない。

 と言おうとして考え直す。

 本当にできないのだろうか?

 試したことがない。

 それに荒垣先輩のカストールは暴走した時に叫んでいた。

 発声器官はある?

 

「できないの?」

「……やったことがないです」

 

 試しに喋らせようとしてみると

 

『あー、あー、ただいまマイクのテスト中』

「ッ!?」

 

 喋らせようとした適当な言葉を喋り始めた。

 三田村先輩の姿なのに、男の声で……

 

「気持ち悪っ」

「これあなたの声じゃないの?」

 

 そう言われて聞き直してみると、確かにそんな気がするが……とりあえず姿は俺に戻そう。

 

 その後何度か実験をかさね、

 

 ドッペルゲンガーの声は、違和感はあるが自分の声。

 喋らせようと意識しなければ喋らない。

 意識すれば喋らせることは簡単。

 声を変えることも可能で、影時間用の声も出せる。

 

 以上、四つの事実が判明した。

 変声スキルを得て、何かが影響したのかもしれない。

 俺のペルソナ(ドッペルゲンガー)って本当に何なんだろう……

 謎が多すぎる……




影虎は夏休みが近い事に気がついた!
試験日も近い! 
影虎は岳羽と山岸にアルバイト先を紹介するようだ……
ドッペルゲンガーが喋った!!
影虎は一人でデュエットができるようになった!


合宿に皆で行けるかはサイコロをふって決めます。

1と2→全員で合宿。3と4→変更なし。5と6→一部追加

一回目で5か6が出た場合。

1、山岸を追加。
2、和田を追加。
3、新井を追加。
4、江戸川を追加。
5、和田と新井を追加。
6、山岸と江戸川を追加。

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