人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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105話 怪我の功名

 ~アクセサリーショップ・Be Blue V~

 

「すみません」

「あっ葉隠君、さっきぶり~。何か忘れ物?」

「ちょっと占い道具を使わせてもらいたくて。オーナー、まだ奥にいらっしゃいますか?」

 

 三田村さんに確認をとってから奥に入る。

 

「あら葉隠君、帰ったんじゃなかったの?」

 

 どこからともなくオーナーが現れた。

 

「ちょっと野暮用ができてしまいまして。占い道具を使いたいんですが」

「それは構わないけど、そちらの子は? 」

「相談してきた……ボクシングばっかりやってる先輩です」

「真田と言います」

「あら」

「……何か?」

「いえ、葉隠君のお友達なのね。と思っただけ。そういうことなら応接室も使っていいわよ。あとお茶も持って持っていくわ」

 

 歓迎する姿勢のオーナーは止める暇もなく立ち去った。

 俺は道具を用意して真田を応接室へ案内する。

 

「さぁ座ってください。……どうしました?」

「葉隠、ここはいったい何なんだ? そしてさっきのは誰だ」

「アクセサリーショップで俺のバイト先ですが何か? ちなみにさっきのはこの店のオーナーです」

「どうみても魔女にしか見えなかったぞ!」

 

 ああ、撮影でおめかししたままだったからな。

 そうでなくてもあながち間違ってないけれど。

 

「ちなみに俺にここを紹介したのはオーナーの友人である、江戸川先生です」

「その一言で全て納得した。で? 何をするんだ?」

「ここでやってるのと同じ、占いですよ」

 

 明確なアドバイスができないから、まずは問題を見直すために占いをしようということだ。

 ここなら必要な道具が揃っていたし、ゲームセンターからも近かった。

 

「タロットカードは答えに到達するための“道標”、出てきたカードを軸に問題を見つめ直して解決の道を探っていきましょう」

 

 というわけで占いを始める。

 まず使うのはダイヤモンドクロス・スプレッド。

 これは上下左右に4枚のカードを並べる展開法で人間関係を占うことに適している。

 

 1つにまとめたカードの山から左、右、下、上の順番でカードを並べた。それぞれ質問者の気持ち、相手の気持ち、二人の現在、二人の未来をあらわしているカード。その結果は……

 

「まず一枚目の月は精神面の不調、あるいは迷いを示します。このあたりは自覚があるでしょう、そして二枚目。荒垣先輩ですが、深い思慮や反省を意味する隠者のカードが出ています。

 そして一枚目には未知なる脅威、二枚目には秘密という意味もあります。この二枚の関係を考えると……荒垣先輩は何か(・・)に深く反省し後悔している……その深い思慮のすべては、知っているつもりでも真田先輩にはまだ見えていない部分がある。そう解釈できます」

「……」

「さらに三枚目は剛毅。タロットによっては力と呼ばれたりもするカードなんですが、これは肉体よりも精神の力を意味します。正位置であればエネルギーに満ちたいい意味ですが、これは逆位置。

 心の力。自信の喪失、失敗……エネルギーは満ち溢れていてもその使い方を誤ってしまうこともあります。たとえば暴力で人を傷つけた(・・・・)とか」

「ッ!」

「真田先輩の強さ。これをボクシングに使えばスポーツ。そして道端で人を殴れば喧嘩。どちらも同じように人を殴りますが、良し悪しが分かれるのと同じです。精神、心が理性を失って、コントロールを失ったまま振るわれた無軌道な“力”。原因って、暴力事件ですか?」

「いや……どうしてそう思う?」

「カードの意味を考えて、ですね。それに荒垣先輩、さっきその辺を歩いてましたし、この前もレフェリーをやってくれました。休学や寮を出た原因が……例えば病気で入院、とかではないと思うんです。本人の意思で出たなら家庭の事情というのも……それより暴力がカードの意味とあわせてしっくりきます。

 荒垣先輩はいい人だと思ってますが、駅前広場はずれをうろついてたうちの後輩を助けたってことは、荒垣先輩もあのへんをうろついてるってことですし」

「確かに、あそこは喧嘩のネタには困らん。……そうか、それでそう解釈したのか」

「まぁ全部直感ですが、最後のカードはいいですよ。法王の正位置、宗教や規律、組織を意味するカードです。二人の未来でこれが出るということは、将来また一つに集まることになるでしょう」

「本当か!?」

「占いではそうなってますね。時期は分かりませんがこういう結果も出ているので、あまり焦らず、まず自分の気持ちを整理してから話をしてみたらいかがですか?」

「…………分かった。そういう事ならもう少し考えてからまた話すことにしよう」

 

 けっこうあっさり納得したな? 

 ちょっと意外に思って聞いてみると。

 

「占いがわりと当たっていたからな。少し急ぎすぎたかもしれん。そう思っただけだ。なんと言ってもあいつは昨日……いろいろあってな……」

「まぁ、話せないなら無理にとは言いませんが。今日のところは好物の牛丼でも食って帰るといいでしょう。そんでゆっくり考えてください」

「分かった。ところで占いの代金は」

「あー……今日は休業日なんでいいですよ。変わりに貸し一ということでひとつ」

「ははっ、何を要求されるかが怖いな」

「そこまで非常識なことは頼みません。ところで荒垣先輩が寮を出たのっていつなんですか?」

「? 去年の10月だが、それがどうした?」

「事が起こってからどれだけ時間が経っているのかと気になっただけです」

 

 原作で発生する天田の復讐は10月……事故を起こしてからすぐ出たのか。

 

「なら、俺は帰るとするか。突然つき合わせて悪かったな」

 

 帰っていく真田を店の表まで見送って後片付けに戻ると、そこにはオーナーがいた。

 

「葉隠君、あの子もう帰っちゃったの?」

「はい、どうかしましたか?」

「あの子、前に話してたペルソナ使いなんでしょ? せっかくだからお話したかったんだけど……」

 

 よく見ると、テーブルにはさきほどまでなかった紅茶やケーキが置いてある。

 しかもケーキの箱には“シャガール”と書かれていて、賞味期限のシールには買った日付が今日のついさっきであることが記されていた。

 

「わざわざ買いに行ったんですか?」

「だって、貴方以外のペルソナ使いなんて初めてだもの。個人的にも興味があったのよ。ところで何のお話だったの?」

 

 ケーキと紅茶をいただきながら、事情の説明。

 そして占いの結果も伝える。

 

「という風に、彼には(・・・)伝えました」

 

 今回、俺は真田に“事情を知らない一般人”として当たり障りの無い部分だけを伝えた。

 荒垣先輩ともお互いに秘密を守る約束をしている。

 だから嘘をつかずにギリギリまで話した。

 しかし真田にとっての未知、荒垣先輩の秘密、状況に出てきた無軌道な力。

 この三つを考えると……

 

 ぶっちゃけカストールの暴走と制御剤を何とかしないと無理そう。

 少なくとも問題の焦点は間違いなくそこだ。

 

 原作で荒垣先輩が特別課外活動部に戻るのは、天田が入部したから。

 事故とはいえ自分のやったことへの後悔。負い目があった天田のため。

 危険を冒してでも近くで守ろうとしたから、戻ったんだと思う。

 

 しかし、今はまだ天田は入部していない。戻らせるほどの理由がない。

 

「占いにも将来は戻ると出ています。それに俺も来年荒垣先輩が戻るのは知ってるんです。ただ、それより前にとなると」

「何も解決していないのに元通り、とはならないわよね」

「ペルソナの暴走。これがなんとかなれば可能性もあると思うんですが、正直そのあたりはよく分からなくて。何か分かりませんか?」

「そう言われても、私もペルソナなんて貴方と会って初めて知ったのだから……魔術の訓練を始めれば多少は改善するかもしれないわ。貴方もやっている瞑想とか、精神のコントロールを上達させれば暴走も抑えられるかもしれない。

 ただ、それをやるもやらないも本人しだい。本人にやる気が無ければどうしようもないわね」

 

 “使う練習”をなんとかしてやらせるのは難しいだろうな……

 真田はともかく、田中としての俺は親しくもない。

 

「それなら……これ、使ってみる?」

 

 オーナーが服の裏から一枚の紙を取り出した。

 バインドルーンが描かれているが、紙全体を埋め尽くしそうなほど大きい。

 組み合わせてある文字数が多い上に重複も多くみられるし、並び方もいびつ。

 内容がさっぱり分からない。

 

「私が趣味の品々の一部に貼っている“護符”よ。霊の力を抑えることができるわ」

「もしかしてトキコさんのような?」

「トキコさん……?」

「あ、すみませんバイオリンのことです。中に名前があったので」

「フフッ……そういうことね。確かにあのバイオリンにも貼っていたわ。限界はあるし、ペルソナへの効果は保障できないけど」

 

 やってみる価値はありそうだ。

 どうやって使うのかと聞くと、貼り付けるだけでいいとのこと。

 断りを入れて自分に貼り、ドッペルゲンガーを召喚。

 隣にもう一人の俺が現れる。

 

「……使えましたね」

「何か変化はないかしら?」

「特に……」

 

 護符をドッペルゲンガーに移してみるが、別に邪魔にはならなかった。

 

「やっぱり幽霊用じゃダメなのかしらね」

「幽霊用? そういう種類とかあるんですか?」

「この護符、バインドルーンにそういう文言が組み込まれているのよ。私の師匠に当たる方が作ったものをそのまま利用してるんだけど、対象を限定する代わりに効果を高める目的でね……そこをペルソナ用に書き換えればあるいは……でもそうなると最初からルーンを作り直した方が早いわね」

 

 オーナーに頼めば作ってもらえないだろうか?

 俺も日々訓練をしているとはいえ、知識も技術もまだオーナーには届かない。

 荒垣先輩も薬を飲む期間は短ければ短いほど良いはずだ。

 とりあえず聞いてみると、難しい顔をされた。

 

「ペルソナ用のルーンを作るのは難しいわね……ペルソナ用って一言書き足すだけじゃダメ、って言えば分かってもらえるかしら? それがどんなものか、どういう事をするのか、そういった事を細かく表すの。

 例えば私たちが“鳥を捕まえるためのルーン”を作りたいとするわ。そこで鳥を“飛べなくする”効果が欲しくて、考え付いた。でもここで鳥のことを“飛ぶもの”なんて定義したらどうなるかしら?」

「鳥以外でも飛んでいたら落ちる、とか?」

「そういうことね。もちろん実行できたらの話だけど……子供が手放した風船でも、ヘリコプターでも飛行機でも、飛んでいるものが落ちてしまうでしょうね。

 そういう事故を防ぐために、細かく書き表す必要があるの。だけどペルソナは私にとってまだほとんど未知なもの。可能性があるとしたら私よりもあなたがやった方がいいと思うわ」

 

 俺が自分でか……待てよ?

 

「オーナー、もしペルソナを抑える護符ができたら、同じ要領でシャドウを抑える護符も作れますか? 」

「シャドウについては本当に未知だけど、不可能ではないと思うわ。それがどうしたの?」

「この護符っていわゆる封印とかそういうやつですか? どこかに閉じ込めたり力を封じ込めたりとか?」

「力を封じ込めるほうね。閉じ込めるとかそういった事は別に……本当にどうしたの? 急に興奮して」

「そりゃそうですよ!」

 

 これは興奮せずにいられるか!

 そうだよ封印だ、なんで思いつかなかったんだ!

 

「ちょっと落ち着きなさいな、何がなんだかわからないわ」

 

 紅茶を飲んで落ち着こうとするが、なかなか落ち着かない。

 もしかしたら、俺が死なずに済む手がかりになるかもしれないのだから。

 

 できる限り冷静にオーナーへ説明する。

 

 そもそも俺はどうして死ぬのか。 

 ニュクスが復活するからだ。

 ニュクスが復活しなければ、死に繋がるその後もなくなる可能性が高い。

 命をかける必要がなくなるのだから。

 

 ではニュクスはどうして復活するのか? 

 十二体の大型シャドウが街に現れ、全て倒されることでひとつに集まり復活する。

 だったら大型シャドウを倒さなければいい。

 しかし俺が倒さなくても、倒すために集まり、行動する組織が出てきてしまう。

 それに倒さずにいれば、町で大きな被害を生むかもしれない。

 だが“封印”という形なら?

 成功すれば倒さずに自由を奪い、誰も襲わせない。

 

 そんなことができるのか?

 前例がある。

 どうやったかは知らないが、かつての事件が起こった日にアイギスが成したはず。

 今もどこかで、大型シャドウの欠片を身に宿した少年か少女は生きている。

 それを再現すればいい。

 

 俺にできるのか?

 わからない。やってみるしかない。

 ただドッペルゲンガー()は、補助系や敵の妨害の方を得意とする。

 攻撃魔法よりは期待が持てそうだ。

 

「来年現れる大型シャドウを全て封印……もしかしたら全部でなくてもいい。とにかく十二体全てが倒されなければ完成しないなら、一体でも封じてしまえば完全体にはなれない!」

 

 シャドウが大人しく封印されるとは思えないが、それはこれまで通り戦闘能力を高めることで対処すればいい。あるいは特別課外活動部と戦って、弱ったところをかっさらってもいい。最終的に、封印できればそれでいいんだ。

 

 まだ護符も作れない。

 封印なんて“ふ”の字も知らない。

 だけど今日、初めて未来に具体的な光が見えた。




影虎は真田を占った!
影虎は“封印”というヒントを得た!!
影虎に生き延びる道が見えた!!




ようやく影虎に助かる可能性が!
というところで今年は最後です。
皆様良いお年を!!

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